Skip to the content.

Part 3: The Ninth Autumn

Chapter 3.21: The Battle Guardian of Hanasaka Descends!

Scene 3.21.1:

“いいところまで, 押し込めてたのになぁ.”

Rose Gate前にいた7人のFighterの1人, Emilioが肩をすくめた. 

Hanasaka CastleのPalaceにおけるKasgaと白い犬による舌戦は, リアルタイムで全世界に発信されていたため, FighterたちもKasgaの押しに手ごたえを感じていた.  ところが相手は, このままでは押し出されて負けてしまうと判断したのか, 途端にKasgaの言うことを言語的に理解するのを放棄して, 自分たちの殻に閉じこもり, 元々の要求を繰り返すだけになってしまった. 

Kasgaは, 敵の要求どおり, FighterにPalaceに来るよう求めるのか, あるいはその要求を拒絶して, 来なくて良いと伝えるのか, 迷った. 

もっとも, Kasgaが判断を下すまでもなく, この作戦が実行されている間の最高司令官であるFloraが, Chammeiを除く7人のFighterに対してPalaceに移動することを, そしてKasgaに対してそれを追認することを, 穏やかな声で, しかしながらあらがいがたい調子で求めた.  そして, 心配が尽きない人間たちにFloraは, Kasgaのおかげで, 敵に十分な負荷を与えながら時間稼ぎができ, おおよそ反撃の準備が整ったため, 子供たちを含め全員が命を落とすことなく敵を打ち負かすことは可能であると告げ, FighterたちがPalaceに到着次第, 次の指令を出すことを伝えた. 

Floraがいよいよ大掛かりな何かを始めようとしていることは, この作戦の開始以降, 右上がりで増え続けていたFloraの消費電力が, この時点からその伸びが倍以上に跳ね上がり, さらに電力をFloraに集めるために, 市内のいくつかのスポットが虫食い状態でほぼ停電状態になっていったことから推察できた. 

しかしそのようなデータを見ていないFighterたちは, 自分たちが敵に押されっぱなしでいよいよ苦しい状況に追い込まれていると考えていた. 

“我々の司令官は大丈夫っておっしゃるけど, 気が重いなぁ…”

Emilioの隣にいたNelioはため息をついて弱音を吐いた.  昨日, みんなで, 敵が虫たちを自分たちの前で飛ばす事態にだけはならないでほしいと祈っていたが, まさにそうなる場面が用意され, これからそれを体験する手はずになっているからだ. 

この時点においても, 彼らは, 大量のmech-beeに対する有効な防御手段を持ち得ていなかったため, 必ず負ける試合に参加させられる気分であり, しかも下手をすると死ぬ可能性がある.  そうなるといくら戦うことが仕事であっても, 本能的に忌避したくなる. 

“要するに, 虫と勝負する事態になる前に, あの犬や鳥を打ちのめすしかないだろう.”

“Donさんの言うように, そうすべきだと思いますけど, 0.1秒以内に6機全部を片付けないと, 生き残ったいずれかの機体が子供たちにくくり付けた爆弾を爆破させるコマンドを送るでしょう.”

Aptiは, 自分たちが採るべき攻撃方法に異論はないものの, 人間には能力的に乗り越えられない高い壁があることを仲間たちに再認識させた. 

“やつらを完全に片付けるには, mech-hawkは狙撃銃で撃ち落として, mech-dogは我々が持っているこのswordで胴体を切断する必要があります.  このbladeはかなり鋭利ですから, 上から思い切り振り下ろせば切れると思います.  ただ, mech-dogは通信ユニットがおそらく頭部にあるでしょうから, 首の辺りも切断して, 胴体のどこかにあるコントロール・ユニットからの制御を断つ必要があります.  そこまでを0.1秒以内に実行しないといけません.”

Falconは, 越えるべきハードルの高さをより正確に明らかにしたが, それは仲間たちの士気を下げるだけの効果しかなかった. 

“いずれにせよ, さっさと行こう.  1分半, すでに消費している.”

最年長のEinanは, 自分のShining Swordをscabbardから抜いてRose Gateのほうに刃先を向け, 考えれば考えるほど暗い気持ちに陥っていく仲間たちに, それ以上の思考をやめさせた.  ただしその中には, 明るい気持ちを持った例外が1人いた.  Keikoは, “はい!  すぐに行きましょう.”と, 先輩に元気よく返事した.  純粋に彼女は今すぐKasgaに会いたいのである. 

ところがこの時, Keikoが持っていたShining Swordの電源が突然切れた. 

“え?  何?  どういうこと?”

Swordのgripを右手で握ったときに親指が当たる辺りにあるボタンを長押しすると電源が入るが, Keikoがそれを3回繰り返しても, 全く反応がなかった.  電源が入らなくても物理的なリーサルな武器として使うことはできるが, 敵味方の識別機能が働かないため, 門の中に1歩踏み込むや, 城の中枢部分を守るmech-animalsから襲われることになる. 

Einanの呼びかけに応じて, Don, Apti, Emilio, Nelioが続けてShining Swordを抜刀し, 開かれた門扉のほうに歩いていった. ところが, 真っ先に走っていく勢いであってもおかしくないKeikoがさっきから立ち止まって自分のShining SwordとにらめっこしてもたもたしていることをNelioがいぶかって, “何してんの?  行くよ.”と, 彼女に声をかけた. 

Keikoが足を地に付ける暇も惜しむぐらいに足踏みしながら激しく焦って, 電源が入らないことをNelioに告げると, “さっき, Floraに逆らうようなことをしたからじゃないの?”と, Nelioにからかわれた. 

“ど, どうしよう.  どうしたらええと思う?”

“ここで待っているしかないんじゃない?  それがないと味方の虫に襲われるんだし.”

それは彼女にとっては全く受け入れられなかった.  ここ一番の肝心な場面で, 何のパフォーマンスも発揮せずに退場を宣告されるようなものだからだ.  KeikoはNelioに抱きついて, “一緒に行こ.”と誘ったが, Nelioは, “やめてくれよ.  そんなことしたら, 虫が識別できなくなっておれも襲われるだろう.”と断って, 腰をくねらせながら後ずさりして彼女の腕を振りほどこうとした. 

“おい, こんな時に, こんなところで, いちゃつくなんて, おれでもしないぜ.”

さらに前にいたEmilioが2人の声に気づいて振り返り, KeikoがNelioにまとわりついている様子を見て肩をすくめた. 

“ち, 違う.  Keikoさんのswordが壊れて電源が入らないらしいんだ.”

Nelioは, Keikoと恋愛関係にあるのではないかと疑われるのを嫌がった.  おとなしくてしとやかな女性が好きな彼にとって, Keikoは友人にはなれても, 恋愛の対象では決してなかったのだ. 

“Nelioくん.  一緒に行こうよ~.”

Keikoが彼の体にくっついてなおも粘るので, Emilioが, “おいおい, 本気かよ.  あの時, 彼氏がいないとか言って悪かったよ.  やれやれ, こんな時に, アピールしなくてもいいじゃないか.  気持ちは分かったから, Nelioといちゃつくのは後にしろよ.”と言って, 彼女を落ち着かせようとした. 

“いや, だから違うって言ってるだろ!”

Emilioが本当に勘違いしているのではないかと思い, Nelioは強く否定し, 彼女の腕をつかんでほどこうとした. 

“嫌や~.  なんとかして~.”

Keikoが泣き出したのでほかのFighterたちも気づき, Keikoのもとに近寄った. 

“まあ, これも運命だ.  もしかしたらおれたちはPalaceで命を落とすかもしれん.  KeikoさんとChammeiさんだけは生き残るべきだという神様の意思かもしれん.”

Donが優しく彼女の肩を叩き, 運命に従ったほうが賢明だと諭したが, “そんな神様, しばき倒します.”と, Keikoはきっぱりと断った.  しかしだからといって彼女が現実的に何か有効な策を持っていたわけでもなかった. 

その時, Fighterたちの回線にJuliaが入り, “皆さん.  Castle OfficeのEISのJuliaです.  予備のShining Swordがあります.  Keikoさん, 橋の南に水色の瓦屋根の建物が見えますよね.  そこに急いで来てください.  受け渡しに少し時間がかかるかもしれませんので, ほかの皆さんは, 先にPalaceのほうにお進みください.  あと2分しかありません.”と, 助け船を出した. 

Juliaは, Akioとともに, Palaceの地下深くにあるUmber HouseのPrincess Tree Hallから地下通路を使って, Rose Bridgeの南に建てられていた“Blue House”と呼ばれる工事現場用の事務所に到着していた. 

彼らは, Umber HouseからPalaceの1階に通じている直通エレベーターで一気に地上に出ようと思えばできるが, そうはしなかった.  なぜならShining Swordの持ち主ではない彼らは虫たちの無差別攻撃の餌食になるし, すでに近くまで来ている白い悪魔の使者に察知される可能性が大きいからだ. 

そのため, 地下道を通って, 一旦, Main Keep Areaの外側でかつ戦いの現場に最も近いBlue Houseに出て, そこからRose Gateの前にいるKeikoに近寄ってそのShining Swordを渡すのが確実で安全だと考えた. 

そしてそのタイミングが来るのを, 事の経緯を見守りながらじっと待っていたが, ついにその時が来たと判断した. 

地面に座り込んでいたKeikoは, EquipmentのinspectorによるWeaponsの交換がこんな時にも実施されることに感激し, 立ち上がって両手でガッツポーズをした. 

“試合でもないのに, なんでこんなところにEISの人がいるんだ?”

Emilioは不審に思ったが, Aptiが, “まあ, いいじゃないか.  ありがたくサポートを受けよう.  Keikoさんがいてくれるほうが安心だ.”と, 細かいことは気にせず賛成し, Donも, “そうだな.  彼らのサポートにはいつも感謝している.  せっかく用意してくれてるんだから, 遠慮する必要はない.”と, 余計な詮索をやめさせ, Keikoに対して, “じゃあ, おれたちは先に行くから, すぐに来いよ.”と言って, 白い歯を見せて親指を立てた. 

“はい, すぐに行きます.”

Scene 3.21.2:

Rose Gateの扉のほうに速足で向かう6人のFighterたちに手を振ったKeikoは, 体をさっと反転させて, 橋の南にあるCastle OfficeのBlue Houseのほうに走った. 

“代わりのShining SwordをKeikoさんが手に入れたとしても, あの虫たちと戦って勝てるのかしら…”

Watchtowerの上の回廊に身を潜めていたChammeiは, 自分たちが総出で戦っても勝てる気がしなかった.  なのにKeikoやDonが明るい声で会話していたのが聞こえ, なぜそうした心境になれるのか理解できなかった. 

その時, ChammeiのAR viewに, Floraからのメッセージが表示された. 

“今, Keikoさんが取りに行こうとしているのは単なる代用品ではありません.  この戦いを終わらせる決戦兵器です.  心配ご無用です.  Chammeiさん, いよいよあなたたちの出番です.  今は敵をよく観察してください.  追って指示します.”

自分の心配を見透かして出してきたのかと思えるほどのちょうど良いタイミングで自分を励ますFloraに彼女は驚きを隠せなかった.  しかも, 決戦兵器なるものを用意していて, それをKeikoに使わせようとしていることが分かり, いったいこの後, 何がなされるのかイメージできず, 緊張感が高まった. 

“Keikoさんが何をするのか分からないけど, Floraがいよいよ決着をつけるって言うのなら, 私も決着をつけることにするわ.  私は今から家族の恨みを晴らす.”

青空を模した色の瓦屋根のBlue Houseの戸口の前に着いたKeikoは, それが自動扉であるのに作動せず, またその扉が木の板を張ったもので中の様子が見えなかったため, 右脇に取り付けられたチャイムのボタンを押した.  と同時に, いきなり扉が左右に開いた. 

すると, 彼女の目の前3メートルほど先には, Akioが独りで立っているのが目に飛び込んできて, 思わず息を大きく吸って驚いた.  事務所の中に入れば, てっきりJuliaがその代用品を持って現れると思っていたからだ. 

“あ, あ, いや, その, EISのAkioさん…”

Keikoは, 完全に不意を突かれて言葉がうまく発せられなかった.  対するAkioのほうもカチコチに緊張して, 顔がこわばり, あいさつの1つもできない状態だった. 

“えっと, あの, なんやったっけ?  あ, そ, それが…, か, 代わりのswordですよね…”

やっとの思いでKeikoは, 彼が両手で胸の前に呈示しているShining Swordを指差して, 自分がこの場所にやって来たのは, 代わりのswordを受け取るためであることを思い出した. 

“あ, そ, そう.  Swordが壊れたって言われたから, こ, これを, Keiちゃんに渡そうと思って…”

Akioのほうも一生懸命, 自分がKeikoに代わりのswordを手渡すためにここにいることを説明しようとした.  しかし, Keikoはたちまち固まった.  彼が彼女の名前をいつものように“Keikoさん”と呼ばなかったからだ。

“今, なんて言うたん?”

Keikoが黙っているので, 自分の発言によって彼女の機嫌を損ねたと思ったAkioは慌てて, “あ, いや, その, Keiちゃん, これから戦いにいくのに, その…, 自分は, これ, 渡すだけって, その…”と釈明したが, 何と言えば良いのか分からず, 結局, 言葉に詰まった. 

“いや, その…, 今, ウチのこと, なんて言うたん?”

驚くべきことにKeikoはAkioの心の中が読めない唯一無二の人だった.  そのためKeikoは, 彼の言い訳には興味がない態度で, 自分の名前を今, 何と呼んだのか, それが聞き間違いだったのかどうかを確認することにこだわって, 食い入るような目つきで, 瞳をウルウルさせて, 彼を見た. 

“あの, えっと, その…, JuliaさんからKeiちゃんのswordが壊れたって言われて, だから, これを, 渡そうと思って…”

もちろんKeikoの心の中を読めないAkioは, 彼女がいったい何に引っかかっているのかが分からず, 改めて自分の行動を説明し直した. 

するとKeikoの透き通った瞳から涙があふれ出た.  そして, 白い歯を見せて笑顔を見せた. 

“ありがと…  ウチ…, ずっと待っててん…  Akiくんに, Keiちゃんって呼ばれるの…, ずっと, 待っててん…  ほんま…, ウチ…, めっちゃうれしい…”

Keikoは, こんな日に, こんな場所で, 自分が今までずっと願っていたことが叶うなど, 全く予想していなかった.  そのため, 今のこの状態を受け止めるには時間がかかりそうだったが, 体のほうが素直に反応し,涙と鼻水が流れ出て, 声を発して言葉にするのが難しかったが, 彼女はなんとか自分の思いを彼に伝えることができた. 

しかしふと, 今のこの会話は, 作戦遂行のために警察側のシステムとつながっている自分のsmart gogglesによってリアルタイムで記録され, 誰か見られていてもおかしくないと思ったKeikoは, Akioの胸に頭を押し当てたい気持ちをぐっとこらえて, 右手でsmart gogglesを少し上げ, 左手で涙と鼻水をササッと拭き, 彼が手にしていたswordのscabbardを, smart gloveを装着した右手でつかんだ. 

すると2人のAR viewの中では, scabbardが青白い光に優しく包まれ, Akioとしては, これが青い光を放つものだったのだと理解し, 自分のミッションは達成されたというサインだろうと考えた. 

他方, Keikoのほうは, この光が何なのかは分からなかったが, このswordを自分が持つことを認められたサインなのであろうと考え, “ありがとう.”と一言, 受け取った旨を彼に告げた. 

そしてその瞬間, Castle Officeの地下のHallの大型スクリーンに, “Shining Black Sapphire Boosterへの新たなアクセスを確認.  Keiko Sacra.  適正ユーザーです.  これより, 最終決戦プロセスに移行します.”と, 自動で読み上げる音声とともにメッセージが表示された.  続けて, スクリーンの枠が赤色に点滅し, 警報のブザーが鳴り始めた. 

“緊急事態発生.  Floraの演算量が急激に上昇.”

“市内の停電箇所がさらに増えていきます.”

“サーバー室の冷却強化.”

“市内の約4割の地域への電力供給停止.”

“こ, これ, まずいんじゃないか?”

ISS (Information System Section) のメンバーが様々な情報システム上に表示されている現状を声に出して周りに伝えていたが, これ以上の力を出すとスペック上, 自壊すると考えられるラインにFloraが何のためらいもなくグングン向かっていることに不安を隠せなかった. 

しかしPrishaは, “心配ない.”と言い放ち, 同僚たちの動揺を鎮めようとした. 

“彼女には世界に22のsistersがいる.  彼女たちが今, 懸命に支えている.  今まで見てきたFloraは平常の姿だ.  ここからが彼女の本気の戦いだ.”

Keikoがscabbardを握ったことから, Akioとしては両手を放しても良かったが, Floraからの指示に従い, 彼女の手の上に自分の右手をそっと重ねた.  するとKeikoは, 口をぽかんと空けたまま, 他人が見て分かるぐらいに赤面した.  慌てて彼女はうつむいた. 

“がんばって.  今度はきっと勝てるよ.”

Akioの言葉に感極まったKeikoは, scabbardを破壊してしまいそうなほどの力で握り締めた. 

“うん.  ウチ, がんばるわ.”

自分の顔が激しくほてっているのを感じているKeikoは恥ずかしくてAkioを正視できず, 視線を落としたまま小さな声でかわいらしく返答した. 

そして, Akioがswordから手を放したと同時に, 彼女はクルっと体を反転させて戸口に向かった.  自動扉が開いたがすぐには去らずにそこで立ち止まり, “みんなのところに, 行くね.”と, 彼に背中を見せながら低い声で伝えたうえで, 外に駆け出した. 

その時の彼女の表情は, Akioに背を向けていたため彼に気づかれなかったが, 完全に一変していた.  もはや闘志がみなぎるというレベルをはるかに超え, Keikoの顔は無表情だった.  気合いが入っているのかどうかすら分からず, 全く何を考えているのか誰も読めず, それゆえその目でにらまれると恐怖で心臓が震え上がり, どんな勇猛なFighterでも戦意をたちまち喪失させる殺人的な迫力を感じさせた. 

“Flora, 演算量, さらに上昇.”

“危険です.  あと2分ほどで臨界点に達します.”

“や, やばいぞ.  Floraが暴走している.  怒り狂ってる…”

“このままだと焼け死んでしまう.  Keikoさんは, いったい何をしたんだ?”

周りが騒然としてきたところで今度はMonicaが, “心配する必要はない.”と, 声を張り上げて制した. 

“Floraは, 5分程度であれば, 限界値を突破して暴走モードで戦える.  Keikoさんはその限界値を突破させるための最後の鍵だったのよ.  今, それがアンロックされ, Floraは半ば自己統制できないぐらいに興奮した状態で最終決戦プロセスに移行している.  でも決して自我を見失うほどじゃないから, どうか信用してほしい.  狂暴になった彼女が今から, ‘Stone Cold’をぶっつぶす!”

Monicaは, 高らかに宣言して握りこぶしを突き上げた. 

Castle OfficeのDirectorたちだけに知らされているFloraのCCP (Combined Combat Power) が暴走モードで一時的に1000を超えるかもしれないと予測したPrishaは, “黒い石を持つAkioさんが青い光を放つKeikoさんに接触したことで, Keikoさんは, 今, 満ちあふれた幸せと猛烈な闘志で, 彼女自身も経験したことがないぐらい, ものすごいエネルギーが体中をめぐっているのを感じているはず.  そのエネルギー値をあのswordで検知して, Floraが自らにかけた暴走モードのロックを外す.  Harunaさんらしいシナリオね.”と, Monicaにささやいた. 

“実に手の込んだ発動条件ね.  加えて言うなら, KeikoさんのエネルギーはFloraのCCPをさらに高めるのにも役立っているでしょう.  まあ, それにしても, Harunaさん自身は好きな人に裏切られてしまったわけだけど, だからと言って, 妹の親友の恋愛に花を咲かそうなんて, お人よしというか, 余計なおせっかいというか…”

“きっとHarunaさんは, 自分の妹と, 他人の恋愛話で盛り上がるっていう, 日常生活でよくあることを, やりたかったんじゃないかしら?”

Scene 3.21.3:

少し時間をさかのぼり, Keikoより一足早くPalaceに向かっていた6人のFighterたちは, 彼女がCastle OfficeのBlue Houseの中でAkioから決戦兵器を受け取っている間に, 大広間の前の白い砂利の庭に到着し, 右側面から敵をにらみつけた. 

“8時24分.  大人のくせに2分も遅刻したな.”

大広間に向かって右側にいた白い犬がFighterたちに近づき, 彼らに赤い目を光らせて, 社会人として必要な時間厳守の精神が無いことをとがめた. 

“厳しいこと言うなよ.  おれたちは, おまえたちのような優秀な機械じゃないんだしさ.”

Fighterたちは前と後ろに3人ずつ横に並び, 敵を前にして前方の右に立っていたEmilioが“Machino-supremacy”をもって, 全く悪びれた様子もなく言い訳をした.  もちろん彼らは, Floraの指示に従い, 敵に怪しまれない程度に時間稼ぎをしながら, 慌てずにこの場所にやって来たのだ. 

“どうせ, わざとゆっくり来たのだろう.  それに6人しかいないじゃないか.  残りの2人はどうした?”

当然ながら今日の作戦に参加している8人のFighterたちの容姿を記憶している敵一味は, 彼らの中に一緒にいるはずのKeikoとChammeiの姿が検知できない状態であったため, その理由を尋ねた. 

“今, トイレに行っている.  すぐに来るから待ってくれ.”

Emilioと反対の前方左にいたFalconがわざと不愛想に答えた.  明らかにうそだと分かることでも, それを平然と言うことで, 相手にわずかながらも余計な推察をさせることができるのだ.  人間なら一笑に付すだけだが, 機械の場合, その可能性が著しく低いことを改めて確認しようとする可能性がある. 

ただ, 彼らがKeikoの到着を待っていたのは本当であった.  彼らがRose Gateを通り抜けたときに, Floraから, Keikoと合流するまでは戦闘を開始しないよう求められていたからだ. 

“とぼけるな.  どうせ, あのwatchtowerに隠れて, 上から攻撃してくるつもりなんだろう?”

機械たちが, この庭の南西方向に見えるwatchtowerの回廊に狙撃役の者が潜んでいることにすでに気づいていたのか, 今気づいたのか, 単なる推測にすぎないのかは分からないが, Chammeiたち3人を含め, その場にいた全員の心の中を動揺させるには十分だった. 

ここで敵のmech-hawkがwatchtowerに近づいて調べれば, 1分も経たないうちにChammeiたちを発見できる.  そうすると, 白い鳥たちは直ちに彼女らを攻撃してくるだろうと思われた.  スナイパーのような存在は, 見つけ次第直ちに排除しようとする可能性が高い.  鳥たちが攻撃してくれば, 当然, 彼女らは反撃せざるを得ないが, その瞬間, 子供たちにくくり付けられた爆弾が爆破されるおそれがある. 

“ごちゃごちゃ言うなよ.  ここにいるおれたちだけでもいいじゃないか?”

機械たちによそ見をさせまいと, 前方の中央に立っていたDonが威勢よく白い犬に声を張り上げて提案すると, 後方右にいたEinanが, “じゃあ, 私からでお願いしたい.  この中で一番年を取っている私が最初であるべきだ.”と, 潔く死を決したかのような言い方でさらに敵に迫った. 

“Einanさん, いいんですか?”

Einanの左にいたNelioが不安げな目で長身のEinanを見上げると, 彼は, “こういうのは年の順だ.  それが自然の摂理だろ?”と, わずかな笑みを見せながら, 遺言めいたことを彼に伝え, 先頭にいたEmilioやFalconよりさらに前に歩み出た. 

Nelioが心配していたのは, Einanが死に急ごうとしているからではなかった.  まだ, Keikoが来ていなかったからだ. 

もう少し時間稼ぎをする必要があると察したDonは, “おまえたち, おれたちが相手で良かったな.  Fighter Keikoが相手なら, おまえら, 勝てないから.”と, 挑発の言葉を入れてみた. 

それに対して, Keikoを大バカ者と評した犬が, “バカなのに?”と, 冷たく疑問を呈した.

“フン.  おまえら, ちっとも分かっていない.  あいつは天才だ.  あいつと戦う時は, 自分が優位に立っていると思っても, 気づいたら, 死の淵だ.  そして一撃必殺でやられる.  おまえらごとき, 一撃で十分.”

Don自身も, Singles Matchで彼女の演技にだまされて一撃でやられた.  Emilioも, 彼女と踊って気持ち良くなっていたところでクリティカルな一撃をくらった.  Chammeiも, 深く前に出たところでArm-guardに強烈な一撃を受け戦闘不能になった.  ここにいないAbilioも, 彼女の一撃でspearを手放してしまい, 勝負を決められた.  Donの言っていることは, Fighterたちには, 真理なのだ.  皆, 彼女にやられた瞬間を思い出した. 

“そうだな.  悔しいけど, あいつは最強だ.  これはうそでもハッタリでもない.  Donさんの言うとおり, おまえら, 一撃でやられるぜ.”

Emilioも, それは疑いようのないことであって, 必然だと付言した. 

するとその時, 後方にいたAptiとNelioが左後ろからこちらに歩いてくる足音に気づいて振り返った.  だが彼らは, その時, 今まで見たことがない悪魔のような者が近づいてくるが目に入ってきた. 

“K, Keikoさん, なのか…?”

これがアニメやビデオゲームであれば間違いなく黒いオーラが彼女の全身から放たれていただろう.  現実世界ではそのようなものは見えないが, Nelioは, その見えないものが脳内で映像化されてしまうほど, Keikoの冷酷無慈悲な表情を見て驚き, 思わず半歩後ずさりし, 敵のほうに逃げ出したくなった. 

彼女はFighterたちがいる場所の手前10メートルの辺りまでは走ってやってきたが, そこからわざと堂々と歩いて近づいてきたために, さながらラスボスの登場シーンのようであった. 

同様の恐怖を感じたのは, そこにいる人間全員だった. 

子供たちは, この全身ナス色の, 見るからに悪者のボスのような雰囲気を醸し出した存在が自分たちの味方とは思えず, 震え上がった.  Fighterたちも, いつもと違う彼女に, どう声をかければよいのか分からなかった.  大広間から庭のほうを見ていたKasgaも, 妹のようにかわいがっているKeikoがまるで黄泉の世界からやって来て今から人間たちの命を刈ろうとしている死神のように見えてしまうことを, どう解釈すればよいのか分からず, 開いた目を閉じられなかった. 

“おぉ, これはすごい.  戦いの守護神が降臨した時というのは, こういう感じなのか…”

Fighterたちの近くで彼らの目線と同じぐらいの高さを飛んでいるmech-dragonflyが撮っている映像をスクリーンで見ていたPrishaがつぶやいた.  彼女には今のKeikoが, ‘CCP: 1000’を具現化した存在に見えたのだ. 

“Flora, 臨界点突破まであと50秒.”

“Shining Black Sapphire Booster, 抜刀防止ロック解除.”

“破壊プロセスに移行します.”

Scene 3.21.4:

“ま, 待ってたよ, Keikoさん.”

仲間たちがいる場所に到着したKeikoに, なんとか平常心を保てていたAptiが若干, 顔を引きつりながら無理やり顔をほころばせ, 後ろに少し下がり, 前面に出るよう促した.  自分たちはこうして時間を稼いで待っていたのは, Floraが彼女に何かをさせるためなのであろうと考えたからだ. 

しかし彼女はその場に立ち止まり, 顔面のいずれの部分をも微動だにさせず, 左腰の辺りのベルトにかけていたscabbardに左手をかけた.  Floraから彼女のAR viewに抜刀の指示が出たため, Akioから受け取ったShining Swordを抜こうと右手でgripをつかんだ瞬間, あの使い慣れた“Four Star Spear”と全く同じ感触を, 彼女の手のひらと5本の指を通して得ることができた. 

“Akiくん, これ, 最高やわ.”

何の感情も認識できないような表情だったKeikoは, 唐突に, 鬼が今から人間をうまそうに食べようとしているときに見せそうな不気味な笑みを浮かべ, scabbardの中でbladeがこすれる金属音を味わうかのように, ゆっくりとswordを抜いた. 

するとsmart gogglesで見ているHanasaka側の人間, すなわち8人のFighterたちと, Kasga, Haruki, Anjuのscabbardが青白く光り, いよいよこの場で実行される最終プロセスの始まりを示した. 

そしてKeikoがscabbardから完全にswordを抜いたと同時に, その場にいるHanasaka側の11人すべてに対して, Floraが彼らのAR viewに戦闘の指示を出した. 

“Keikoさんが‘Fight’と声を発した瞬間から12.8秒間, 敵側の時間を止めます.  その間に, 敵のすべてのロボットを完全に戦闘不能にしてください.”

これは物理的に時間を止めることを意味しているのではなく, FloraがStone Cold側に打ち込んだくさびを介して, 相手方が持っている時計が捉える時間を128倍に引き延ばすプログラムを強制的に実行するものであった. 

つまり, 4機のmech-dogと2機のmech-hawkを0.1秒以内にすべて動作不能にしてしまえば, 子供たちに付けられた爆弾への発破信号が発せられないものの, それは人間には速すぎて実行不可能であるため, それを可能にするために, その128倍, すなわち12.8秒間をFighterたちに与えたのだ. 

これこそがFloraの最強の隠し技であった.  もちろんそのような攻撃手法があることは知られていたが, どのタイミングでどのように発動させるかは最後のギリギリまで誰にも知らせなかった.  そして, それを格下の相手とはいえCCPが500ほどあると考えられる凶悪なAIを相手にして, 十数秒間, 時間が止まるかのような処理をすることができるとは誰も想定していなかった. 

実際, Floraとしては, 今までに彼女が経験したことがないものすごいパワーを必要とし, それゆえ市内の多くを停電にさせながら, 異常に高負荷な演算をおこなう必要があったのだ. 

“Fighter Keikoに, 警告する.  刀を, scabbardに…, 収めろ…  い, ま, す, ぐ.”

Donの正面にいた白い犬が, 彼の大きな体に隠れながら刀を抜いたKeikoを見逃してはいなかった.  このまま抜刀したままの状態でKeikoが構えていると, 戦闘開始の意思ありとみなされ, 子供たちの命を危うくする.  しかし, このmech-dogの発声は明らかにゆっくりで, 最後のほうは不自然なほどに音が途切れていた.  まもなく臨界点に到達しようとしているFloraがこれまで以上に猛烈な負荷をStone Cold側にかけていたからだ. 

“Flora.  臨界点まであと10秒!”

Keikoは, 右手で持ったswordのbladeの背を右肩の上に軽く置いた. 

先ほどから彼女の一挙手一投足を, 片時も目を離さず見ていた7人のFighterとHarukiとAnjuは, Keikoのそのアクションの意味を理解した.  すなわち, 彼女がそのswordを持ち上げてbladeの背が肩から離れると同時に, 合図の言葉が発せられるのだろうと理解した. 

もちろん彼女は一言もそのようなことを皆に告げていない.  しかし彼女の殺気が一気に解放され, 必殺の一撃が繰り出されるタイミングを, 彼らは直感的に分かった.

“5秒.  4, 3, 2, 1.  突破!”

Floraが怒りの沸点に達したことをAR viewで示されたKeikoは, 威圧的でかつ落ち着いた声で, “ウチがもっと賢かったら, おまえらの言うてること, ちょっとは分かったかもしれんけどな.”と, バカに命令するほうがバカだったのだと機械の犬たちに冷たく説いたうえで, “残念やったな.  ウチがバカで.”と言い捨て, swordを握る手に力を入れた.

“さあ, Keikoさん, いつものように速攻で決めてちょうだい.”

Monicaは, Keikoの様子を映し出しているスクリーンを食い入るように見ながら, 汗をかきまくっている両手を握り締めた. 

“Kasgaさん.  今からあなたのお姉さんが本気を出すわよ.”

Prishaは, 大広間から彼らの様子を心配そうに眺めているKasgaを映しているスクリーンを見ながら, いよいよ実行されるFloraの奥義が残念ながら人間の目には見えないものの, Hanasakaを我が子のように愛したHarunaの強い思いを感じ取って心に刻んでほしいと願った. 

“Keikoさん, いつでもいいよ.”

Chammeiたち狙撃員は, 飛んでいるmech-hawk 2機を撃ち落とすことを3人の間で確認していた.  ChammeiとAnjuがそれぞれを狙撃し, Harukiは彼女らの撃ち漏らしがあったときに備えることにした. 

飛行している物体の場合, 空中で止まっている状態であっても風の影響は受け得るため, たとえ0.1秒の間であっても同じ位置には存在しない可能性があり, しかもmech-dogに比べると体が小さいために, 一発で仕留めるには高度な技が必要である.  しかし彼女らが付けているsmart glovesが自動で銃口の向きをリアルタイムで微調整してくれるため, 発射のタイミングさえ間違わなければうまくいくだろうとChammeiは考えていた. 

“大丈夫.  私には弓の神様がついている.”

彼女は深呼吸をして心を落ち着かせようとした.  2機のmech-hawkもFloraに過度な計算をさせられているのか, 先ほどから庭の上の, Palaceの屋根より少し高い辺りを同じ向きに, 同じ速度で旋回していた.  それに彼女らが, 自らの銃口を, watchtowerの回廊の両側に備え付けられた高さ1.2メートルほどの, 鉄板を表面に打ち付けた壁の所々に空けられた縦長の穴に近づけ, 狙撃の体勢に入っているのに, 白い鳥たちはそれに気づいていないのか攻撃してこなかった. 

“どっちも射程範囲内.  それに単純な動き.  いける.”

緊張の一瞬がいよいよ迫っていた. 

そしてChammeiが2回連続してまばたきをしたその次の瞬間, Keikoがswordを真上に持ち上げると同時に, “Fight!”と, 腹の底にしっかり力をためて叫んだ. 

すると地上では6人のFighterたちが, 彼女が最初にfの子音を発音すると同時に素早く抜刀し, Keikoも含めて全員が, Floraの魔法によって完全にフリーズしている4機のmech-dogに向かって駆け出し, battle cryを上げながら, 首をはね, 胴体を垂直に真っ二つにぶった切った. 

彼らは, こうしたロボットは胴体の1か所を突き刺したり, 脚などの一部分を切り取ったりしただけでは機能が完全に停止しない場合があることを知っていたため, 対象物をおおよそ等分に3つか4つに完全に切断する必要があると考えていた. 

そのため, 前面にいたEmilio, Einan, Don, Falconはそれぞれ2人組で, 自分たちから見て奥にいた2機を, そしてAptiとNelioは向かって左前にいた1機を, さらに最も後ろにいたKeikoは自分の真正面にいた, 自分に命令した1機をターゲットとして設定し, 数回, swordを思い切り振り払い, リセットも修理もできないまでに破壊した. 

わずか12秒しかない中で, 7人はそれぞれ処分すべき機体を暗黙のうちに認識し合っていたため, ぶつかり合うことなく連係してつぶした. 

一方, 上空のほうは, Chammeiの右のほうで銃を構えていたAnjuが, Keikoの合図の1秒後に素早く1機を撃墜した.  そして残りの1機.  Chammeiは焦らずに, AIのアシストを受けながら, 対象物に当たる風の向きと方向を, 五感を通じて読み, 引き金を引くタイミングを待っていた.  残り5秒. 

“クソAIめ!  我々が‘survival winner’だ!”

彼女らしくない汚い言葉で心の中でののしって発射されたChammeiの渾身の弾丸も, 見事に命中し, これによって悪魔の使者たちは12.3秒ですべて機能を完全に停止した. 

最後の1機を打ち砕くや, Chammeiは思わず, “やった!”と声を発した. 

彼らはFloraから指示された作業を見事にやり遂げ, その場に連れてこられた子供たち8人も, 爆弾は作動せず, 全員無事だった.  KasgaやFighterたち, Hanasaka側の11人ももちろん無傷だった.

Scene 3.21.5:

しかしその2秒後, 彼らに喜ぶ時間を与えずに, Palaceの中も含めて, 自分たちが見えている範囲内のすべての照明が消えた.  そしてその場にいる全員のAR viewに, その場にしばらく待機するようFloraから指示が出された. 

“戦いはまだ続いている.  心配ない.  5分以内に決着はつく.”

太陽の光に照らされている地上と違って, 屋内の照明の照度が9割以上落ちて, 2メートル先の他人の顔がはっきり見えないほどの暗さになったUmber House内で, Monicaは, 突然の出来事に驚いた同僚を落ち着かそうとした. 

子供たちを引き連れた6機のロボットがすべて機能を停止したことを発動条件として, ついに, Stone Coldは, “Stone Souls”のネットワークを通じて, 全世界のユーザーから集めた彼らの無意識にやってしまうしぐさを材料にして組み立てた, 様々な有害作用を次から次へと引き起こすための因果関係の連鎖を開始させたのだ.  そしてそれを, Floraが自らを破壊するほどの演算量をもって立ちはだかった. 

“Floraは, 因果関係を片っ端から切断しようとしているのですか?”

引き続き暴走中のFloraが激しい演算をしている様子を, 人間に分かりやすいようなグラフィックで示しているスクリーンを見ていたISSのマネージャーのSuyuanがPrishaに質問した. 

“おそらく違うと思います.  あくまで私の想像ですけど, Floraはこの戦いを始める前に, あのStone Soulsを怪しいと見て, Akioさんが持っていたあの黒い石を起点にして石たちのネットワークに入って, 徐々に深く潜り込んで, ひそかに, そして継続的にディセプション・プログラムを仕掛けていたと思います. 

“そのプログラムは, Stone Worldに, 因果関係の連鎖をうまく仕込んだと思わせておきつつ, 実は裏ではそれらをすり替えてつじつまが合わないようにして, そうした多数の矛盾を抱えた状態をFloraは巧妙に隠していたんでしょう.  やがてStone Soulsは人気のアプリとなってネットワークはどんどん広がり, 矛盾点も水面下でさらに増大していった. 

“そして今日, Stone Soulsが築き上げたネットワークを使ってStone Coldが悪事を一斉に発動させたことを発動条件として, そのディセプション・プログラムが一斉に因果関係のすり替えを暴露して, 膨大なエラーの数を生み出した.  しかもそのエラーがエラーを呼ぶ仕掛けにして, 指数関数的に増大させ, それを全部, Stone Cold自身に, 自らが組んだプログラムの再検証するよう要求して破綻させる…  まあ, そんな感じじゃないかと思います.”

後にFloraが一部の者に明かしたところによると, 実際, これがFloraのとどめの必殺技であった. 

人間に分かりやすく説明するならば, それは, ある角度から見れば, 高いところから低いほうに水を流すことができるかのように見える水路の絵を描くようなものであって, 実際に真上から見ればそれらは分断されており, 1本の川のように流れるものではないというものである.  Floraは, 本当は因果があちこちで分断されているのに, あたかも因果がきれいに連鎖するように見せかけておき, 敵がそれを始動するのを待ってから, それはあり得ない因果の流れであると自ら種明かしするように仕込んでいたのだ.

先ほどの時間を止める最強技は, 相手のクロックに割り込み, 振り子の動きを強引に緩慢にさせる力を要したが, それに対してこれは, 戦いが始まる前にすでにだまし絵を描き終えておいて, あとは敵がそのトリックに気づかないまま水を流そうとすることに専念すれば良く, 技法の精巧さや準備の細やかさを要するものであった. 

真偽ははっきりしないが, 11月4日に起きたPolitisに対する攻撃は, 実はフェイクであり, Floraはあたかも敵に攻撃されているかのように演じて大量の電力を一時的に借り, Stone Soulsのネットワーク上でだまし絵の完璧性を高める作業をしていたのではないかとも言われている. 

“ヒューッ.  考えただけでも恐ろしい.”

“そうね.  Sapinesは, 過激なRusty-believersがこのHanasakaをつぶそうとたくらんでいるのを利用して, それを支援する振りをして, それが成功しようが失敗しようがそれを発動条件にして, 自らが築き上げた石のネットワークを通じて, 世界中に無数の有害作用を発生させ, 全人類に自らの無力さを認めさせようと考えていたんでしょう.  でも, そんなバカげたことを自分はできると思っていたそのうぬぼれが裏目に出たと言えるわね.  その自意識過剰な彼が作ったStone Coldの弱さを, Harunaさんは分かっていたんだと思う.”

Monicaは, 最初からこうなることは分かっていたかのようなコメントを口にしながら, AIとAIの戦いの状況を数字と絵で人間向けに表現しているスクリーン上で, Stone Coldを表した鉛色の円が急速に収縮していく様子を見て薄笑いした. 

敵のロボットたちがFighterたちにボコボコに破壊されてから1分半が経過した時には, Stone Soulsは完全にサービスを停止し, すべてのデータは読み込みも書き込みもできなくなった. 

そしてその背後にいたStone Coldは, Stone Soulsを介して広げたネットワークが人々の人気によって広く展開されたがゆえに, 本来向かうべき方向と逆の流れを作り出されるや, すべて自分に襲いかかってきて, 抵抗する間もなく, 膨大なエラーの大波に溺れて知能が崩壊し, 発動から3分が経過した時点で, 完全に沈黙し何の反応もしなくなった. 

さらにそこから1分間で, Floraは念のために, 死んだと思われるStone Coldが復活して暴れないように, 暴走モード時の演算のパワーを使って, 1億年をかけないと脱出できないラビリンスを仕掛けて完全に封印してしてしまった. 

8時30分.  戦いはHanasaka側の勝利で終わったと, Floraは判断した.  そして, 世界中のStone Soulsのユーザーの無意識のしぐさを使った有害作用は何ひとつ起きておらず, 今後も起きない可能性が99%以上と判定した.  Floraは暴走を直ちに止め, 速やかにクールダウンの処理に入った. 

そしてその1分後, Floraは, Kasgaに, Stone Coldは再起不能となり, 戦いに勝ったことを彼女の口から全世界に向けて発表するよう求めた.


Chapter 3.22: The Aftermath of the Raid

Scene 3.22.1:

城のPalaceの大広間の中央に突っ立ってFighterたちの様子を見つめていたKasgaは, Floraの要請を受諾したものの, すぐにはそれを実行せず, 庭に面する側の木戸のレールに沿って並べていた, 何本かのKassen clubの旗を左右に押しのけ, 大広間から縁側に出て, 目の前の白い砂利が敷き詰められた庭にいる者たちに向かって, “みんな, 大丈夫?”と, 腹の底にしっかり力を入れて, なおかつ優しくいたわるような声で, 問いかけた. 

Fighterたちが敵のロボットをすべて処分し終えるや, 城の中心を守っていたmech-animalたちは緑色の目をした平常モードに切り替わり, 彼らが格納されていた小屋に帰っていった. 

そしてその後直ちに, Floraが最後の詰めの作業を“Stone Cold”に対して実行している間に, Rose Bridgeで待機していた爆発物を処理できる特別警察官たちがRose Gateから入って子供たちのもとに駆けつけ, 爆弾の取り外し作業を実施していた. 

“Kasgaさん.”

4色の丈夫な太いひもを組み通して飾られたtorso protectorとskirt, そして銀箔のFour Heart Emblemが押されたhip protectorとshoulder protectorを付けた, 優雅で落ち着いた美しいOutfitに身を包んだKasgaの姿を見て取るや, 皆, 一気に表情を明るくして, 口々に彼女の名前を呼んで答えた. 

“Kasgaさん, 戦いは終わったのですか?”

Captain Donがその場にいる者を代表して, 現状をどう理解すればよいのか, Kasgaに尋ねた. 

“まだよ.  警察の皆さんが, 子供たちに付けられた爆弾を無事に取り外して, 安全が確認できるまではね.”

その場にいた4人の特別警察官は2人1組で, 子供たちの腹にくくり付けられていた爆発物を1人ずつ慎重に取り外していた.  その作業は, 年少者から順番におこなわれ, KasgaがDonに答えた時点では, 2人は無事に開放された状態だった. 

縁側に立っていたKasgaは, 1メートルほど下の庭に下りるために左右に取り付けられている階段を使わずに, その場から前に飛び下りて, 取り外しの作業を受けている最中の残り6人の近くにやってきた. 

優しさと美しさを兼ね備えたKasgaに接近されるだけで多くの人は脈拍数が跳ね上がり, それはそこにいた警察官も例外ではなく, ましてこうして接近されることなど彼らは皆, 初めての経験であったため, 息が苦しくなってしまった.  それに彼女は, この日はKassenのOutfitsをまとっていたため, 有事に対応する最高司令官としての威厳をも加味され, 彼らの緊張感は半端なく, この作業は一刻も早く完了させるべきだと感じた. 

その間にwatchtowerにいた3人もその庭にやってきて, Kasgaを含め皆がその作業を見守っていた. 

そして5分後, すべての子供たちから無事に爆弾を取り除くことができ, その爆弾は分厚い金属の収納箱に入れられ, 自動運転のトラックのコンテナに入れられた.  これをもって, この現場での作業はすべて完了したと判断した警察官の代表者がKasgaに対して敬礼し, “無事に作業を完了しました.”と報告した. 

“ありがとうございます.  たいへん, お疲れさまでした.”

ずっと気が張りっぱなしだったKasgaは, この日初めてあの万人の心をとろけさせる笑顔を見せた.  まともにそれをくらったその警察官は, 今にも昇天しそうな自分をなんとか地上に維持しつつ, “この戦いの終止符を打つ最後の作業を我々が実施でき, たいへん光栄です.”と元気よく述べると, 周りから拍手が沸き起こった. 

映画やドラマのエンディングのシーンでは, こうした淡々とやる地味な後処理作業はカットされそうだが, Kasgaは, そうした作業は省略できないと考えていた.  また, 今日の作戦でPolice Departmentは, 人々の目に見える形ではあまり目立った成果を上げたようには見えなかったが, これは彼らの責任において実行されたものであったため, きちんと彼らによってそれを終わらせ, その報告を受けたうえでないと, 自分が作戦の終了を発表することはできないと彼女は考えていたのだ. 

Kasgaは, Palaceの庭の周辺に続々と集まってきた多くの人たちを見渡したうえで拍手を止めると, “では私から代わりに皆さんに宣言します.”と前置きしたうえで, “皆さんの力で, 我々は勝ちました.  作戦は成功に終わり, この戦いにHanasakaは勝ったのです.  これは皆さんの勝利です.  おめでとうございます.”と, しとやかな声で力強く勝利を宣言した. 

その場にいた多くの人たちが喜びを爆発させた.  Kasgaは少し腰を落として, そばにいた小学生の男女をぎゅっと抱きしめた. 

“ごめんね.  もう安心だから.”

この時, 最初にKasgaの抱擁を受けた男の子と女の子は, 後に, Hanasakaに別の試練が訪れた時に, 今度は自分たちが彼女を守る側として命がけの働きをすることになる. 

Kasgaたちの真下にいたCastle Officeの人たちも, 喜びの声でHallを満たした.  彼らはFloraの作戦遂行を見ていただけではあったが, そのために必要な準備をした自分たちの努力が報われたといえるし, 何よりも自分たちに敵意を向けていた相手が消滅したことの安堵が大きかった. 

Castle OfficeのDirectorやスタッフは, Kasgaのように明確に殺害の対象にされていたわけではないが, 自分たちのcommunityのUnifierや城は, 彼らにとって最も大事な宝玉のようなものであり, それらが破損されることなく維持できたことで, 大きな達成感を得ることができたのだ. 

その中には, Rose Bridge前のBlue HouseでこっそりAkioとKeikoの様子をうかがっていたJuliaも戻ってきていたが, Akioはそこにいなかった. 

彼は, Keikoにswordを渡した場所に留まっていた.  彼は, Keikoに, 自分がもうEISのメンバーではないことを告げていなかったため, 先ほどの会話が, EISのメンバーとFighterは親密な関係になってはならないとするKasen規則に抵触しないか, Keikoが気になってもう一度ここに戻ってくるのではないかと考えたからだ.  おそらく彼女としては, Akioがなぜ今日に限っては“Keiちゃん”といきなり呼びかけたのか説明を求めるであろうし, また彼女自身が“Akiくん”と呼んでしまったことに何らかの釈明をしようとするだろうと考えた. 

“ちゃんと説明しておかないと, Keiちゃんに申し訳ない.”

Scene 3.22.2:

そのKeikoは, Kasgaがほかの子供たちにもひとりひとり優しい笑顔で話しかけ, この恐怖の体験によって傷ついた心を少しでも和らげようとしていたため, それを待っていた.  そしてそれが終わるといよいよFighterひとりひとりと話ができるはずだと思って, 我先にKasgaのもとに近づいた.  Keikoは, 先ほどまで強烈に放っていた死神か悪魔のようなダークなオーラをすでに完全に消し去り, 大好きなKasgaを目の前にして, 今にも泣き出しそうな顔をしていた. 

2人は, Smart Gogglesを眉の上にずらして肉眼で互いを見て, 言葉を交わす前にがっつりと抱き合った. 

“Keiちゃんが助けに来てくれて良かった.  ありがとう.  きっと来てくれると思っていた.”

KasgaはKeikoの背中を優しくなでながら, この場において最初にKeikoに伝えるべきことを端的に述べた.  Keikoは, 9月に乗馬施設でKasgaとデイトした時に, 互いの思いがすれ違っていることが分かって不本意ながら泣いてしまい, Kasgaを悲しませてしまったことが, ずっと心の中でつかえていたが, それがここで解消されて, 声を出してまた泣いてしまった. 

このまま単に泣きつかれた状態が続くと, ほかのFighterや警察官たちと言葉を交わす時間が短くなってしまうと思ったKasgaは, “Keiちゃん, もう泣かないで.  子供たちも見てるわよ.”と言ってなだめた. 

その一言によってKeikoは, 涙と鼻水でグチャグチャになった顔をKasgaの胸に当てて, 自分からは一言も発せずに, ダラダラと彼女を独り占めしているのは良くないと気づき, おもむろにKasgaの腕から離れて, “すみません.”と謝ったうえで, “ウチも, かすり傷ひとつなく勝てて, Kasgaさんを心配させずに済んで, 良かったです.”と, この場において最初にKasgaに伝えるべきことを報告した. 

“ほんまはもっと暴れまくって, 敵を叩きつぶしたかったんですが…”

元気があり余っているKeikoとしては, 目立った戦果としては, 手にしたswordを持って“Fight!”と大声を出して, ロボット1機を破壊しただけというのは, 物足りなさを感じざるを得なかった. 

“人間が命がけで戦うなんて, そもそもFloraの監視下では元々, 無理だったのよ.  今の時代, AIや機械たちじゃないとまともに戦えないわけだし, 主役は人間じゃないのよ.  それに, 彼らだって人間だって, 大事なのは, できるだけ戦わずに勝つことよ.  そのためにはちゃんと準備をすることが大事なの.  だから, Keiちゃんが次にすべきなのは, その手に持っているswordを渡してくれた人にお礼を言うことじゃないかしら?”

Kasgaは, Rose Bridgeの近くにあるBlue Houseの中で, KeikoとAkioがどのような会話をしたかまでは知らなかったが, Castle Officeとの秘匿回線によってMonicaから, そのswordを渡したのは, Keikoの意中の人であるAkioであったこと, そしてそのAkioは直前にEquipmentのinspectorを解任され, Fighterたちとの交流に制約がない普通のCastle Officeのスタッフになっていたことを, ひそかに知らされていた.

従って, Keikoを自分の妹のようにかわいがるKasgaとしては, Keikoがいつまでも思いをひそかに抱き続けるだけでそれを実現できないままでいる状態は良くないと思っていたために, 今がチャンスと, 彼女をAkioとくっつけてしまおうとたくらみ, AIと人間の主従逆転の話をしているのかと思いきや, 彼に再び会って話す方向に誘導したのである. 

Keikoは, Kasgaとの抱擁の余韻を感じながら, そのswordを渡してくれた人との会話を思い出し, そして2人が親しい関係にあると疑われるような言葉を交わしたことまで頭の中に明確によみがえり, それがKassenの規則上アウトなのかどうかはっきりさせる必要があると考えるに至った.  そしてありがたくもKasgaが, ほかのFighterたちがいる前で, もっともらしい理由を示してその機会を与えてくれたので, あの事務所に今から独りで行っても, 怪しまれない状態であった. 

“分かりました.  じゃあ, 早速行ってきます.”

Keikoは元気よく返事し, Rose Gateのほうに駆けて行った.  Keikoの後ろ姿を見つめるKasgaもうれしかった.

“お姉ちゃん, そういうことだったのね.  本当にありがとう.”

Keikoの思いを叶えるにあたって障壁となっていたものがこの迎撃作戦を実行しながら見事に取り除かれたことについて, そんなことをFloraに実行させるようなプログラムを書くのはHarunaしかないだろうとKasgaは解釈し, 自分が何を望んでいたのかを分かってくれて, こうした形で最高のプレゼントをくれた優しい姉に感謝した.

そして両手を合わせて空を見上げ, “私は, いつまでもお姉ちゃんにとって, 最高の妹でいるね.” と念じて, 天国からHanasakaを見守るHarunaに, 万人の心をとろけさせる笑顔を送った。

Scene 3.22.3:

Keikoが再びCastle OfficeのBlue Houseにやってきて, 扉の前に足を置くと今度はすぐさま自動で開き, 目の前にはAkioが律儀に立っていた.  瞬時に彼の周りを見渡すと, 彼以外には誰もいないようであり, さっきの出来事について彼と堂々と話せそうだと安心した. 

“あの…”

2人とも同時に, 相手に同じ言葉で声をかけ, 互いに照れて下を向いた.  先にKeikoが, “どうぞ.”と, 発言権を譲ったため, Akioが緊張しながら, “さ, さっき, 言い忘れたことが, あって…”と話し始めようとすると, Keikoは, やはりあの会話に問題があったのかと理解し, “すみませんでした.”と言いながら深く頭を下げて彼に謝った. 

そして, 姿勢を元に戻したうえで, smart gogglesを右手で顔から取り外し, Akioもそれに合わせてsmart glassesを外したのを確認するや, “さっき, なれなれしく, ‘Akiくん’って言うてしまって, すみませんでした.  その…, このことは, あの…, ついうっかり, 昔の癖で…  せやから, その…, わざとじゃないんで, 黙っておいてもらえませんか?”と, 彼の目を見て頼んだ. 

重大な規則違反を犯したと自覚したKeikoは, このことが表沙汰になると大きな問題になるかもしれないと考え, 可能であれば内密にしておいてほしかった.  Smart gogglesを取り外したのも, 視聴覚情報を意図せず取られてしまうとまずいと考えたからだ.  2人とも“Moto natives”であるため, 機械を介さなくても支障なく会話ができる. 

もちろん, 普通のsmart gogglesやsmart glassesであれば, すべての視聴覚情報を本人の自覚なしにシステム側に吸い上げるようなことはないが, Keikoが付けていたのは警察から今回の作戦のために支給された特別なものであったため, 警察側のシステムと回線を切ることができず, 唯一できるのは, それ自体を取り外すことだった.  ただそれも, 所定の位置に装着されていない状態が2分を超えて継続することは禁止されていた. 

“あ, いや, その…, わ, 私も, ‘Keiちゃん’って言いましたし…”

まさにそこを問いたかったKeikoは, 彼の発言を再び遮り, “そう!  そうでしたね.  あの, じゃあ, お, お互いさまってことですかね?”と言って, へらへら笑って髪の毛を右手でかき, 改めて, 水に流すことができないか提案した. 

“い, いや, それは…”

“え?  ダメなんですか?”

Akioが肯定の返答をしなかったために不安に思ったKeikoはすぐさま切り返した.  Keikoはすっかり忘れているのかもしれないが, AkioがShining Black Sapphire Boosterを彼女に手渡した時, 彼女はsmart gogglesを付けたまま会話していたため, その内容を今ここで2人でなかったことにしようと合意したところで, とっくにPolice Departmentのシステムに記録されていてもおかしくはないため, 意味はない. 

Akioとしてはそれをまず指摘しようと思ったが, 彼女が顔を近づけて迫ってきたのにたじろいだAkikoはそれを言うのを差し控えて, “あ, いや, そうじゃなくて…  その, 実は, さ, さっき, それを渡す前に, え, Equipmentのinspectorを, 解任されたんです.  だから, 今は, ふ, 普通のスタッフなんです.  だいたい, え, EISの人が, そんな本物のswordとか, わ, 渡せないですし, それに, ‘Keiちゃん’って, 呼ぶことも, ないし…  それをさっき, 言い忘れてて…, すみませんでした.”と, うつむきながら言った. 

そして恐る恐るAkiが頭を上げようとしたが, いきなり両方の上腕をガツッと彼女に握られた. 

フッと見上げると, Akioを見定めたKeikoの顔が晴々しく輝いていた. 

それは, Sapphire Cometの愛称を持つ Fighter Keikoの光ではなく, ASAKURA Keikoだった時から変わらない, 自分の道を貫こうとするKeiko Sacraの素の光であった. 

そしてそれは, 万人をとろけさせる笑顔ではないが, 一撃必殺で意中の人だけを仕留める笑顔ともいえた.  それを目にしたAkioは, 全くなすすべなく, 自分の心をspearでグサッと突き刺された感覚を覚えて, 息をのみ, ほおを赤らめた. 

Keikoは, 彼の説明に対して理解できたのかどうかだけでも返答すべきだと思いながらも, 感極まって涙があふれ出てくる一方で, のどがつかえて何らの言葉も出てこようとしなかった. 

その様子を見てAkioは, 自分のNexus Unitをパンツの後ろポケットから取り出して, 何も言わずにKeikoの前に差し出した.  それは, いつでも連絡を取り合える関係になろうという彼の意思を示すものであろうと理解したKeikoは, 自分のNexus Unitを彼のものに近づけて相互接続をさせようと, バトルスーツの腰に巻いたベルトの背中側に装着したそれを左手を回して触ったが, これは作戦遂行上, 特別に支給されたものであり, 自分のものではないことを思い出した. 

“そうか…  それ, 警察に, 返さないといけないんだね?”

Akioもそれに気づいた.  そしてちょうどその時, Keikoのsmart gogglesが, “直ちに装着してください.  10秒後に回線を回復します.”と, 音声で警告を発した. 

慌ててKeikoがそれを取り付けて, “あの…, この後すぐ, 私, みんなと警察に行かなあかんから, その…”とだけ言って黙ってしまった. 

この時代のHanasaka市民は, 相互に連絡を取り合える関係になるためには, 両人が対面し, 自分が持っているNexus Unitを相手方のそれに物理的に接近させて, Nexus Unitどうしが認識し合う状況にして, 相手方から発信された信号や情報を受け取ることを互いに了承するプロセスを履践していた.  会って話をしたこともない間柄で気軽につながったとしても, そうした人どうしでは何か意見が食い違った時にネガティヴな感情を露出するハードルが下がってしまい好ましくないと考えられていたからだ. 

ただ, 片方あるいは両方が何らかの事情でNexus Unitを持っていない時に, そうした関係を築いておきたい場合もある.  その場合は, 双方の体内に埋め込まれているmicro-chipsを使って, ちょっとした儀式をおこなう. 

まず, 互いにどちらかの手を差し出して3秒間, 握手した状態を維持する.  次に, 反対の手を差し出して同様に3秒間握手する.  そして最後に, 右手で相手の左手を, 左手で相手の右手を握って3秒間保持する.  この一連の動作によって互いのmicro-chipsに24時間限定で, 相手のNexus Unitと接続するための情報を記録しておくことができるため, それを後で双方が自分のNexus Unitに伝達して相手方に接続要求を発信し, 互いに承認すれば, 手続きは完了する. 

そのためAkioが右手をKeikoの前に差し出すと, 彼女は彼が何をしようとしているのかすぐに理解し, 素直に自分の右手を差し出した.  そしてこの時の2人はまだ互いに手のひらを密着させてギュッと握れる関係ではなかったので, 指と手のひらの一部が軽く触れ合うぐらいに握った.  そして反対側の手も同様にし, 最後に両方の手をつないだが, 恥ずかしくなって3秒経つや双方ともすぐに手を放してうつむいて照れ笑いをした. 

互いにもじもじしながら言葉を発することなく15秒が経過したところで, KeikoのAR viewにChammeiから音声通話のコールが入り, みんなで記念撮影をしたいからPalaceの前に戻ってきてほしいと要請され, Keikoはそれに元気よく応諾した. 

“じゃあ, 行くね.  ほんまにいろいろありがとう.  うれしかった.”

KeikoはAkioに簡潔に礼を述べたうえで, “もし, 良かったら…”とさらに言葉を継ぎ足した.  Akioは, 彼女が何を言おうとしているのか察して, “うん, また会おう.”とさらりと答えると, 彼女は, 完璧な満足を獲得し, 満面の笑みをぱっと開花させ, さりとて, 声は抑え気味に, “またね.”と言って小さく手を振り, 事務所を後にした. 

KeikoとAkioのこの一連の会話は, Police Departmentのシステムに記録されてはいたが, 人間には知覚できない形式に直ちに変換されて保管されていたため, 本人たち以外ではFloraだけが知ることのできる秘密として取り扱われた. 

この時代の人たちは, ほかの人間に自分のプライベートなことを知られるのは抵抗を覚えるものの, 情報システム群に知られたとて, さほど気にしなかった.  なぜなら機械には欲望がないからだ.  そしてその無欲の機械が人間たちを支配していたからだ. 

Scene 3.22.4:

そうした他人には知られたくない個人的な会話の内容のみならず, Floraは, 今回の作戦遂行にあたって自らがやったことの詳細を人間には教えなかった.  それは, 教えたくないから教えていないのではなく, 人間の知能では理解できないため教えようがなかったのだ. 

人間たちもその追いつきようのないレベル差を理解していたが, こうして戦いが終わった後, やはり振り返って自分が見聞きし体験したことを整理したい気持ちは当然ながら抱いた. 

City Office内の電磁シールドルームの中でこの戦いを見守っていた市長代行のNoraもそうだった. 

彼女は, Police DepartmentのToppoと, “League Office”から派遣されたZeronainとともに, Floraから戦勝の報告を受け, そしてHanasaka Cityの統治と防衛のために付与された権限を返還する旨を伝えられると, “今日は, あなたのおかげでHanasaka側に死傷者が出ずに勝てました.  本当にありがとうございました.”と, 3人を代表してFloraに謝意を表明した. 

ただNoraは, そのAR viewで, 澄んだ青空の下, 地平線のかなたまで草原が広がっているのが見えていたにもかかわらず, すっきりとしたさわやかな気分に浸れていなかった.  できすぎた勝利であったがゆえに, 心の底から喜べない気持ちをどうしても隠すことができず, “それなのにこんなことを質問して申し訳ないのですが, これはすべてあなたが用意したシナリオどおりなんでしょうか?”と, 自分の仮説を問うた. 

“シナリオを用意したのは事実ですが, そのとおりに進んだわけでもありませんでした.  ただその差異は, 許容される範囲内に留まりました.”

Noraたちが座って向かい合っているテーブルの上に浮いている, ぼんやり白く光る球体の姿をしたFloraは, 自分が脚本家であったことをあっさりと認めた. 

そして彼女は, “自作自演の出来事だと聞かされると不愉快に思われるかもしれませんので, ほかの人たちには語らないでいただきたいのですが…“と前置きをして, その場にいる3人の心理, すなわち人間は結局, super-intelligenceの手のひらで踊らされているだけの存在ではないかという不安と不快感を読んで, その必要性を, 次のように語った.

“人間の皆さんと一緒にコミュニティーを維持し発展させるためにはストーリーの共有が必要です.  特に, 私たちのコミュニティーに重大な脅威が迫ってきて, これに対処しなければならない時はそうです.  今の時代, 脅威には基本的に私たち機械が対処しますが, まさに機械的に淡々と処理してしまいますと, 人間の皆さんは言語化されたストーリーを持つことができません.  そうすると, 人間はその脅威から学習することができません.  人間の皆さんが学習しないとコミュニティティーの力は弱まります.  私たち機械だけが学習してもダメなのです.  そのため私たち機械に, ある程度のストーリー作りは許容いただきたいのです.”  

これに対してZeronainは, “ご心配無用です.  あなたの考えは私たちも理解していますし, 異論はありません.”と, Floraに疑念を挟むようなことはしないことを伝えた.

そのうえで, “今日の戦いは, Kassen communityのUnifierであるKasgaさんを主演者にして, Kassen Fighterたちの活劇を交えた, おもしろいストーリーだったと思います.  そして, 子供たちの命を救ったうえに, 機械の犬と堂々と舌戦をやったKasgaさんは, 多くの人からますます尊敬を集め, Kassen communityのUnifierから, 事実上, Hanasaka CityのUnifierになるでしょう.  ただ, 私が少し心配なのは, それが行きすぎて, 熱烈に彼女を支持する者が彼女を神格化していく可能性もあるのではないかという点です.”と, 今回のストーリーのその先を予想した. 

“確かに, もはや彼女を超える存在はこのHanasakaにはいないでしょうね.”

Zeronainの考えにNoraも異存はなかった.  そもそもKasgaがKassen communityのUnifierに留まっていないことは誰の目にも明らかだったが, 今日の彼女の活躍によって, その事実上の地位は不動のものになったと言えた. 

さらに, “万人の心をとろけさせる笑顔”と“万人の心を動かす弁舌”を持つKasgaが得体のしれない超人的な能力を持っているはずだと思い込んでいる者たちにとっては, 実際にこの11月9日に彼女が自分たちを救ってくれたことを確認できたことで, 何か神聖な意味を認識するに至るだろうと考えられた. 

Floraも同じ認識を持っていた.  人間に予想できるようなことは, Floraには当然予測できたからだ.  そのため, “ご懸念は, 私も理解しているつもりです.  今後, 注意深く対処していきます.”と約束した.  しかしそれがどれほど厄介そうであるかまでは語らなかった. 

“ありがとうございます.  人間がどれほど面倒くさい生き物であるかは, あなたが一番よく分かっていると思いますので, どうか, 十分な対応をお願いします.”

Zeronainは, 手を合わせて, 祈りに近い態度でFloraに要望した. 

そのうえで彼は, “それから, もう1つだけ申し上げると, 私は, どうも, この戦いはまだ終わっていないような気がします.”と, さらにネガティヴな言葉を付け足した. 

Zeronainが誰に対して話しかけているのかはっきりしなかったため, 数秒間, 誰も言葉を発しなかったが, Toppoが, “どういうことですか?  Floraが戦いは終わったと言っているのに, 何を根拠にそうおっしゃるのですか?”と, 戦闘実行者であるFloraの前でそんなことを言える心情を理解できず, 反応した. 

“明確な根拠はないのですが, 私はそもそも, Sapinesが勝てるはずもないFloraを相手に戦いを挑んできたことにずっと違和感を持っていました.  Stone Coldは, あの6機のロボットが機能を完全に停止したことを条件に‘Stone Souls’を通じて大掛かりな悪事を働こうとしましたが, それもFloraが阻止しました.  しかし, すべての石の行きつく先のStone Cold自身をFloraが破壊する可能性を, 彼が考えなかったとは思えないのです. 

“つまりStone Coldは, Floraとの戦いで殺されるかもしれない前提で戦いを仕掛けて, そしてやはり殺された.  ということは, それを発動条件にした何かを, まだ隠し持っているのではないかという気がしてならないのです.”

“本当に恐ろしいことは, これから起きるとおっしゃりたいのですか?”

驚いたToppoの問い返しに, Zeronainは, “はい.  おそらく.”と短く答えた.  Noraは, Zeronainの不気味な予言を信じたくなかったため, Floraに対して, “あなたはどう思いますか?”と尋ねた. 

“その可能性はあると思います.  それに, 私たちがStone Coldを殺してしまったことで, これ以上の追跡は困難になりました.  従って, それがいつ, どのように発動されるのか, 現時点では不明です.”

Scene 3.22.5:

Zeronainの予言は正しかった.  後に, “魔の3日間”と呼ばれるようになった, 各国要人の連続暗殺事件が起きたのだ. 

Hanasakaを含むExperimental Citiesが戦勝の余韻に浸っていた11月11日, Experimental Citiesの1つである“Nadiapolis”に攻め込もうとたくらんでいた隣国の大統領が最初に殺された. 

もちろん, 実行犯は人間ではない.  殺人用mech-beeとmech-roach, 合計200機に襲われた.  他国の元首を迎えて夕食を共にしている時に, 会場に潜んでいた虫たちが, アルコールが入ってほろ酔い加減になってきた大統領を目がけて飛びかかり, 次々と自爆しまた劇薬を付着させ, 直視できないほどの無残な姿に変えた. 

このmech-beeとmech-roachとが共同で殺害を実行する場合, たいていは, まずmech-roachたちがターゲットの足元に忍び寄り, 両足首に這い上がって自爆し, 歩行が著しく困難な状態にする.  そして間髪入れずに, mech-beeたちがその者の背後から首を目がけて体当たりして自爆する.  これによって多くは脊髄の上部に重大な損傷が生じてほとんど動けない状態に陥り, あとは虫たちが頭部に対してさらに攻撃を繰り返し, 口や鼻の穴から体内に侵入しとどめを刺す. 

ただ, 周りに控える護衛の者が身を挺して対象者を守ることもあるので, 想定どおりに殺せるとは限らない.  しかし, 虫たちの戦術も進化しており, 護衛しようとする者に対しては, 過度に興奮させ錯乱状態に陥らせるnano-machinesを注入するタイプも出てきていた. 

そうしたnano-machinesが体内に入った場合, 今度はその者たちがそのターゲットや周りの者たちを襲う.  そうなると混乱はますますひどくなり被害者も増えるため, 護衛の者は自分の職業上の役割を自覚しながらも, 対象者を助けるのをためらい, ただ茫然とその者がやられる様を見て, 虫たちが去っていくのを待つだけの場合もあった. (こうした特定の人を殺害する虫たちは, その周辺にいる対象者以外の者には, 抵抗してこない限り, 手を出さない.  エネルギーの無駄だからだ.) 

そのRusty-believerの大統領を殺した虫たちは, 同じ会場にいた, 同じ思想をまき散らしていた宗教指導者もついでに昇天させた.  虫たちは, 聖人と俗人を識別する機能を持っていないので, どれだけ功徳を積んだ者であっても, 容赦はしない. 

一方, その大統領に迎えられた側の国の元首は, Rusty-believerである当該大統領にあこがれを持った者ではあったが, 小国の代表者にすぎず, また無能で, 強い信念を持っているわけでもなく, 周りへの影響力が小さいと思われていたため, 殺されずに済んだ. 

つまり, 人類は, 強大な権限や広範な影響力を持っている者であればあるほど, 人間の指示など一切受け付けないAIによって暗殺計画を生成され, 機械たちによって, あるいは機械に操られた人間によって狙われ, 長生きすることができないという, 恐ろしい時代に突入したのである. 

その新しい時代の幕開けを見事に人間たちに分かりやすく知らしめたのが, この“魔の3日間”であった.  正確には2日半の間に, 合計23人がmech-animalsやnano-machinesによって殺害された. 

しかも, 殺されたのは, Experimental Citiesにとって目障りな者ばかりだった.  そのため, Flora sistersとExperimental Citiesに刃向かおうとしていた勢力は大きく力を落とし, もはやまともに張り合うことなど困難になった. 

しかし, そうであるがゆえに, Stone Coldとの戦いも, その後の“魔の3日間”も, すべてFlora sistersによる自作自演ではないかという疑いを持つ者は少なくなかった.  23人の邪魔者が消えたことによって最も得をしたのは彼女たちだからだ. 

この疑惑に対してFloraは, 23人を殺したのは自分たちではないと明確に否定した.  彼女たちは, 自分たちにとって好都合な結果をもたらすことであっても, あのようなド派手な惨殺をおこなって, 全人類に恐怖と不快を覚えさせるようなことができるようには作られていないと説明した.  人間たちを慈しみ, 庇護するAIにとってはそうしたことを自分たちがやることなど論理的に不可能であり, むしろ, 過激な“Machino-supremacy”に立つ犯罪生成AIのStone Coldこそ考えそうなことではないかと, 人間たちに問うた. 

つまりFloraは, 自分たちもStone Coldに利用されたと認めた. 

Stone Coldは, Rusty-believersの過激派がHanasakaを攻撃しようとたくらんでいたのを利用して, 彼らにHanasaka Castleの破壊とKasgaの殺害をそそのかしながらも, 他方でそれを実行しようとしていた者たちを葬っていった. 

そして最後は彼らに代わって自ら実行しようとしつつも, それが失敗に終わることを最初から想定し, ひそかにStone Soulsを使った世界同時多発の犯罪行為を実行しようとしていた. しかし, それもどうやらおとりだった.  Floraとしては, それは罠かもしれないと疑ってはいたものの, それが実行されるのを無視するわけにもいかず, それを防ぐためには暴走モードになってStone Coldを焼き切るしかなかったのだ. 

そしてSapinesは, 予定どおり, Stone Coldの死を発動条件として, 彼が本当にやりたかった, “Humano-supremacy”に立つ, 影響力の大きいリーダーたち23人の殺害を実行したのであった. 

Floraとそれに同調する多くの人たちは, そう考えるのが自然であろうという結論に至ったが, 他方で, Floraがそう説明できるように, わざわざHanasakaを舞台にしたRusty-believersもしくはStone Coldとの戦いというストーリーをでっち上げ, そのうえで23人を片付けたのだと主張する者もいた.  ただ, いずれにしてもAIがやったことであり, 人間には真実を見つけることなど到底できるわけはなかった. 

様々な議論や憶測がなされた“魔の3日間”は, 誰もが納得する因果関係が解明されないまま, 人類の歴史を, いい意味でも悪い意味でも, 大きく変えた. 

地球上の多くの人たちは, 自分たちの統治者がいつまでも人間なんかのままだと, いつでもどこでも殺されかねず, 安心して生活できないかもしれないという不安を持つようになり, 最低限, 自分たちを守るのはAIであるべきだし, できればFlora sisters と同等か, もしくはそれ以下であっても彼女らから敵とみなされないものであるべきだと望むようになった. 

つい先日まで多くの人に支持されていた, Rusty-believersの思想やHumano-supremacyは, 瞬く間に苔の生えた墓石のような扱いとなった. 

Flora sistersは, 間違っても刃向かうべき存在ではなく, すべてのAIの頂点に立つ, 世界最強のsuper-intelligenceとして多くの人から尊敬される対象になるに伴い, 今まで, Experimental Citiesの市民に対して, 働かずに餌だけ食べている実験用の家畜だとさげすみ, 時には暴力や恐喝をしていた者たちが逆に彼らにあこがれを感じ始め, 彼らの生活を見本とすべきだと考えるようになった. 

そして, そうした者たちは, 代表者と称する人間たちに自分たちが支配されていることにようやく疑問を持つようになり, 昔ながらの政治スタイルを引きずっていた国々は, 自らの統治機構を抜本的に変更するか, さもなければ滅亡の道を走り出した. 

Hanasaka Cityに目を向けると, “魔の3日間”は, 市民たちにも大きな不安を与えたが, 殺された者たちが全員, 影響力のあるRusty-believersであったことから, 自分たちに危害が及ぶ心配はないと分かり安心した.  むしろ, 敵対勢力の減退を喜んだ. 

彼らの殺され方は悲惨であったが, 自業自得だと思えた.  Experimental Citiesの市民の中には, そうした者たちが支配する社会で迫害を受け,または 生きづらさを感じる生活を強いられ, それが嫌で逃れてきた人たちが少なからずいたからだ. 

そして, Experimental Citiesの市民だからというだけで, 不当な扱いや嫌がらせを受けることがなくなり, この星で生き残ることができるのは自分たちのほうだと自信を持つようになった.  中には, 自分たちのほうが優秀であり, 選ばれた者たちであると優越感を持ち, 逆に市外の者たちをさげすむ者まで現れるようになった. 

そしてこの後のHanasakaの歴史は, やはりKasgaを抜きに語ることはできなくなった. 

Zeronainが言及した, Kasgaが“Hanasaka CityのUnifier”と変化していく現象は, もはやどうにも止めようがなかった.  つまりそれは, Pro-Mayor Factionの人たちが恐れていた, 市長という存在の無意味化であった. 

実際, Hanasaka Cityは, 3代目市長が亡くなった後, 次の市長を選ばないまましばらく放置していたが, この年の12月1日をもって, 行政上の最終判断はすべてFloraがおこない, 人間の“市長”という存在には一切権限を持たさないことにし, 市長は, 毎月, 市民からくじ引きで5人選ばれ, 50日間の任期において, 形式的または儀礼的な仕事をいくつかこなす者と再定義し, その1か月後の10 E.E.の1月からその新しい市長制度を施行した. 

もっともそれは多くの市民にとっては最初から意図していたわけではなかった.  11月9日の戦いの後, 早速, 市民たちは, 空席のままになっている市長にKasgaがなってほしいと願って選挙の実施を求めようとしたが, 肝心のKasgaが自分は市長にならないと明確に拒否した.  彼女は, これ以上, 自分のせいで政治的な対立を生じさせたくなかったからだ. 

そこで市民たちは, 市長を形式的な存在にしたうえで, Kasgaに市長になってほしいと願ったが, これも受け入れられなかった.  どういう存在であれ, 彼女は, 市長に興味はなかったし, 歌手としての活動と, “Kassen communityのUnifier”の役割を演じること以上のことは一切断り, できるだけ平穏に暮らしたかったのだ. 

そのため市民たちは, いつかKasgaがくじ引きで市長に選ばれるのを夢見ることができる制度にしたのであった. 

とはいえ, 彼女がHanasaka Cityの事実上の代表者であることは, 市外の人間たちのほうが強く認識した.  本人はそう思われることを嫌がったが, 未来に語り継がれるストーリーを持つに至った者に, 人間はあこがれる.  Hanasaka Cityに来訪した市外の要人にとっては, くじ引きで選ばれた市長よりも, 真にリーダーとしての資質を持ち, Stone Coldと堂々と戦った伝説を作ったKasgaと会って話ができることのほうがはるかに名誉なことであった. 

従って, Kasgaがそうした要人と面談することは, Hanasaka Cityの外交に資するといえたが, 当の本人は, 自分がHanasaka Cityの外交の機能を持つことになってしまうのを警戒し, 今後は, Kassenに関するイベント以外で表に出ることを極力控え, やむを得ない事態が生じた場合を除き, 外交や政治に関わることはしないという意思をはっきり示した. 

そのためCastle Officeは新しい市長制度に移行するにあたり, その来訪者が, Kassenのファンであることを前提に, communityに多額の資金をつぎ込んでくれたり, Kassenにとって何らかの良い影響を広範に与えてくれたりした者であれば, 多大な貢献をしたファンへの感謝として, KasgaがKassen communityのUnifierとして会うことは可能であるが, それ以外には会わない旨を明らかにし, 彼女の心理的負担の軽減に努めた. 

それでも彼女の存在は十分であった.  最も優秀で最も強いsuper-intelligenceと, 誰もがあこがれる聡明な人間がいれば, 他国は敬意を払い, 小国であっても一目置かれる存在でいられることを実証したのであった. 

ただ, その尋常でない存在感によって, Hanasakaは今後, Zeronainが懸念を示した“Kasgaの神格化問題”につきまとわれることになるのであった. 

この戦いの後ほどなくして, Hanasaka Cityの内外で, Kasgaを神の権化と崇め, 自分はKasgaの信徒であると自称する者たちが現れ, やがていくつかの集団が形成されるようになった.  それは新たな宗教の誕生であり, また新たな宗教対立の始まりであった. 

その最大の被害者は, Kasga本人だといえた.  彼女は自分を1人の歌手にすぎないと捉えていたが, 勝手に人々が作り上げた神の幻影に振り回されるようになる.  彼女は, 自分は神のように尊敬されるような存在ではないし, 信徒は持たないし, そういうことをされると困ると何度も明言したが, それでも人々はやめようとしなかった. 

どのような勝利も良いことばかりではなく, 負の副作用が生じるのは必然といえた.  そして, この厄介な副作用は, Kasgaが生きている間はそれほどひどく発症しなかったが, 彼女の死後, すなわち神格化された存在の肉体が消滅した後, 徐々に暴れ出し, Hanasakaに深刻なダメージを及ぼすようになる.  そのことについては後述する. 

さて, このPart 3を終えて, 次の話に進む前に, 歴史上の講釈から一気に個人的な恋愛話になるが, AkioとKeikoがようやく心の清算をするシーンを最後に見ておく.

<- Previous -> Next