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Part 3: The Ninth Autumn

Chapter 3.16: Insect Ambush

Scene 3.16.1:

“Storeroom”と書かれた札が掲げられた引き戸の向こう側は, 確かに医療に必要な物資が保管されている, 一辺が5メートルほどの小さな部屋だった. 

そしてそこには, EISのAltanとCastle Guardians Associationに所属する2人の男が, 1級警備員として使用が許されているビーンバッグ弾を装填したショットガンを持ち, 腰には刃渡り30センチほどの刀を差して立っていた.  頭には, Polinaと違って, 黒いヘルメットをかぶっていた.  3人の男たちは, Akioたちが戸口から入ってくるや, ヘルメットに装着したライトで部屋を照らした. 

“やあ, お帰り.”

いつも無口で無表情なAltanが珍しく笑みを作ってAkioを迎えた.

“Altanさんも来てくれたんですね?”

Akioは, Altanと仲が良いわけでも悪いわけでもなかったが, 同じセクションの同僚に会えて素直に喜んだ. 

そして彼はアンダーカバーの警察官でもあったためリーサルな武器も使えるが, それはAkioに知られたくなかったため, またLemolainたちを含め多くの警察官にも知られずに行動していたため, 1級警備員の資格を持っていることだけをここで示した. 

Castle Guardiansの2人は, 背の高いほうがIka, 低いほうがJacoと名乗った. 

Polinaは, Akioと警察官3人に対し, AltanとIkaとJacoに持たせていた白いヘルメットと厚みのある手袋を装着するよう求めた.  これから地下道を通っていくにあたって, 万が一の落石や切創に備えるためで, 彼らは素直に従った.  加えてAkioに対しては, Altanが防弾ヴェストを着させ, 敵襲への備えも施した. 

Ikaがその奥に設置されたドアを開けると, 薄暗い地下道に下りていくコンクリートの階段がまっすぐに伸びていた.  10メートルほど下って階段が尽きたところからは, 地面がややぬかるんだ, 幅が約2メートル, 高さが約2.5メートルの通路が続いていた. 

“Hanasaka Castleを中心にこうした地下道が迷路のように張り巡らされています.  これは枝道ですので細くて窮屈に思えるでしょうけど, もう少し行くと, 広くて高さのある道に着きます.  Juliaさんたちがいる場所まで歩いて30分ぐらいかかると思います.  私からはぐれると二度と地上に出れませんから, ついて来てくださいね.”

Polinaは, Akioと警察官3人に, この地下通路で自分から離れて余計な詮索をしないよう軽く脅した. 

1列になって進むしかない道では, IkaとJacoを先頭に, Polina, Akio, 3人の警察官, そして最後尾にAltanがついた. 

この秘密の通路を利用できるPolinaたちが通るルートに限っては, 5メートル間隔で坑道の左上部に付けられた小さな照明から昼白色の光が照らされて, 道案内をしてくれていた.  また, 一番後ろのAltanが通り過ぎて15秒ほど経つとそこの照明は自動で消えていった. 

病院を発ってから10分余り歩き, ほかの道と3度合流し, 彼らが歩いている道の幅が5メートルほどまで広がったため, 一行は2列になりAkioはPolinaと並んで歩いていた. 

“少し暑いですね.”

しばらく歩いて体が温まってきたうえに, 地下の湿気が加わり, 不快指数がやや上昇してきた. 

“そうですね…  もう少し先に休憩できる部屋がありますので, そこまで行きましょう.”

Polinaは, 退院したばかりのAkioがまだ完全に復調していないはずであることを考慮し, 地下道の所々で横に掘られた空間を利用して, ひと休みすることにした. 

彼女の言うとおり100メートルほど歩くと, 右のほうの壁に半径2メートルほどの半円形の横道が掘られていた.  両開きの鉄製の扉が設置されていたが解放されており, 5メートルほど入ると, 一辺が10メートルほどの正六面体の空間が広がり, その床にはベンチやテーブルが置かれ, 天井には空調のダクトも備え付けられていた. 

“ここはもうCastle Parkの下です.  有事の際に市民が避難してしばらく生活できるように, 地下にこうした空間をいくつか作っているのです.  まだ, 穴を掘って空間を作った程度ですから, すぐにここで生活ができるわけじゃないですけどね.  それにHanasakaの全人口は入らないです.  せいぜい100分の1ぐらいです.”

Akioは, Polinaが所属するCBS (Castle Building Section) の人たちが, 表に見える建造物のみならず, ひそかにこうした地下空間での建設工事もいろいろ手掛けていたことに驚いた.

“ん?  何か光った.”

Altanは, 地下通路からシェルターのほうに入ろうとした瞬間に, 自分たちが来た方向の通路の先で何かが光ったのを見逃さなかった. 

“おれは通路で見張っておくよ.”

AltanはPolinaにそう言って, IkaとJacoにもそうするよう求めて, 通路に留まった.  そしてその選択は正しかった.  その直後, その3人のAR viewに, 複数のmech-beeが自分たちに向かって急接近している旨の警告が表示された. 

“こんなところで待ち伏せしていたのか…”

こういう状況で遭遇するmech-beeは, 針に刺されると死亡する可能性がある毒を仕込んでいる殺人用のものと考えて間違いなかった.  そしてそれらは30機ほどの群れをなして襲ってきた. 

Altanは急いで, シェルターのほうに入る半円形の通路の扉を両手で閉め, 中にいる者に対して, “ドアを開けるな!”と叫んだ.  と同時に, IkaとJacoは背負っていたリュックの上部のファスナーを開けて, その中に入れていたmech-beeを放出し, 迎撃態勢をとった.  武器対等の原則を意識しているわけではないが, 虫に対しては虫で応じるのが得策だった.

“Altanさん!  ダメ!”

そうは言ってもPolinaも, この状況下でドアを開けると, シェルターの中にいる自分たちにも命の危険が及ぶ事態に陥ることは分かっていた.  3人の警察官たちは, 自分たちこそ市民を守るためにドアの外に出てmech-beeと戦うべきだったと考え, ドアの中に入ってしまったことを悔やんだ. 

小型昆虫ロボットはひとつひとつの性能差はそれほどないため, 数が多いほうが基本的に勝つ.  そしてmech-beeは小さくてすばしっこく飛び回るため, 人間のような動きがとろい陸上動物は防御の隙が生じやすく, 非常に不利である.  肌の露出が少ない衣服を着ていれば刺される可能性はやや低くなるが, 衣服の中に忍び込んで刺すことはいくらでもある. 

この時, IkaとJacoが出したmech-beeは合計30機であった.  つまり互角であり, ここで制圧しきれなかった場合, Akioたちはシェルターの扉をずっと開けることができないことになる.  Polinaと3人の警察官は急いでそれぞれの自分の職場に秘匿回線を使って救援を求めた. 

その間, 通路では, IkaとJacoが放ったmech-beeが相手の個体数を減らそうと自らの体をぶつけて撃墜しようとするものの, 敵方のmech-beeはそれをかいくぐって, 3人の人間に毒物を注入しようと試みた.  人間たちもそうはさせまいと, 1人はその場にとどまり, もう2人はそれぞれ別の方向に走って, 襲ってくるハチの個数を分散しつつ, 刀を振り回しながら逃げた. 

しかし人間は頭がいいだけで身体的には, 犬のように速く走れるわけでもなく, 鳥のように飛び回ることもできず, ゴキブリのように狭いところに隠れることもできないため, Altanたち3人はこの小さな悪魔に次第に追い詰められていった. 

どうがんばっても刺されることを回避することはできず, その回数が徐々に積み上がっていった.  1回刺された瞬間に即死するほどの毒ではないことは分かったが, 毒が体内に回るとともに, 何度も刺されると全身が麻痺して意識も薄れ, 気絶するか死亡するのは時間の問題だった. 

また, シェルター空間の中にいたAkioたちにも脅威が迫っていた.  そこにも殺人用のmech-beeが20機ほど隠れていて, それらが彼らの前に姿を現したのである.  Polinaは慌てて, 自分たちが入ってきた方向の反対側にある扉を遠隔操作で開けて, そこから脱出しようと試みた.  しかし, 開けた瞬間, その外から新たに10機ほどmech-beeが入ってきて, 行く手を遮ったのだ. 

ここにいる5人は, 対抗できる小型昆虫ロボットを携帯していなかった.  MelonaとBananとLemolainは小銃を構えたが, それで撃ち落とせる確率は千分の1未満といえた.  つまり, 合わせて30機のmech-beeたちを相手に抵抗するのは無駄であり, 人間たちは, とにかく殺人用のハチに刺されないようにひたすらこの空間内でバラバラに逃げ回るしかなかった. 

しかし, 頭部のほとんどを露出しているし, 腕や脚の部分は繊維の衣服をまとっている程度では, 毒針に刺されるのを避けるのは不可能であり, 刺されると激しい痛みを覚えた.  4人とも死を悟った.  このままでは, だんだん毒が回って足腰に力が入らなくなり, 同僚たちが救援に到着するより先に自分の命が尽きるだろうと思った. 

だが, ここで救世主が登場した.  Akioが手に握っていた, Floraの分身である, 現物の“New Moon in the Dark”は, Akioの位置をリアルタイムで正確に把握し, Altanよりも早く異変を察するや, Castle Park内に配備されているmech-beeの一部を呼び寄せていたのだ.  その数, 1000機. 

“Flower garden’s god”が飼うハチの大群は, 保護対象の人間7体の表面に隙間がないほど群がって覆い, これ以上, 敵方のハチに刺されないよう防御するとともに, 襲ってくるハチに体当たりをして落としていった.  戦いは圧勝であり, 1分ほどで敵のmech-beeは全滅した. 

5分後に, 救援に駆けつけた警察官や救急隊員, それに医療支援用のmech-dogたちがその場で8人の応急手当てをし, 全員, Akioが先ほどまでいた病院に運ばれた. 

敵のmech-beeとの応戦時間が長かったAltan, Ika, Jacoは重傷で, Jacoは1時間後に息を引き取った. 

Akio, Polina, Melona, Banan, Lemolainは意識をしっかり持ち, 命に別状はなかったが, nano-machinesを注入された可能性も否定できないため, いずれも精密検査を受けることになり, 少なくとも24時間は病院内で看護を要する状況に陥った. 

Scene 3.16.2:

“あぁ, なんてこと…”

Akioが来るのを待っていたJuliaは, 途中で敵襲に遭って彼もその同行者も病院に戻った旨を, Polinaから苦しそうな声で連絡を受け, 肩を落とした.  PolinaはJuliaに何度も謝ったが, 彼女に何の落ち度もないことをJuliaはPolinaに何度も伝えた. 

“やつらは, Floraのラビリンスに完全に封じられているわけではないってことか?  それとも別の敵勢力の仕業か?  いずれにしても, 黒い石を持つ者がそこを通ることを事前につかんでいたとしたら, これって, かなりまずいんじゃないか…”

Juliaは, Hanasaka側の情報統制能力が期待していたほどではなく, また敵の情報収集能力が思った以上に高いことに気づかされた. 

“それに, 城の地下までどうやって虫たちを侵入させたのか?”

秘密であるはずの城の地下空間に関する情報に基づいて, 敵が適所に必要な機器を配備していたことを考えると, 今, Juliaたちがいる場所にも, 敵がいつ襲ってくるか分からないと不安になった. 

JuliaとEISの仲間たちは, AkioとAltanを除いて, 城のPalaceの真下に作られた“Umber House”と呼ばれるCastle Officeの秘密基地の中にいた. 

Umber Houseは, “house”のイメージとはかけ離れた広大な地下の施設群であり, JuliaがFloraと直接対話した施設のほかにも, 先ほどPolinaたちが休憩を取ろうとした市民の避難施設など, 様々な空間が作られ, それらが多数の通路でつながっていた. 

そうした中で, 床面がPalaceの地表から100メートルほどの深さにあり, 高さが25メートル, 床の半径が50メートルのドーム状の大きな地下空間があり, そこにJuliaたちはいた.  ここは地下に避難した市民の憩いの広場として使うことを想定して作られ, 中央には高さが20メートルまで成長した大きな桐の木が植えられていた. 

この時点では一般市民はもちろんCastle Officeのスタッフでも限られた者しか知らされていなかったその地下広場, “Princess Tree Hall”または単に“Hall”と呼ばれていた場所が, Castle OfficeのShark Teeth作戦の本拠地になっていた. 

警察と連携してこの作戦の実行の一部をになうことになったCastle Officeは, 城郭の外にある彼らのGreen Houseでそのための作業をするのはセキュリティ上, 危険であるため, その作戦に深く関わることになる4人のDirectorと, EIS (Equipment Inspection Section), CBS (Castle Building Section), ISS (Information System Section)のメンバーを, Autumn Gamesが終わった翌日にこの秘密基地に職場を一時的に移したのであった.  もちろん, そのGreen Houseとこの地下空間とも秘密の通路でつながっているので, それを使って必要な機材を持ち運んだ. 

そして引っ越ししてきた人間たちは, 11月5日以来, この桐の木が目印のHallで昼間は働き, 夜はそのそばに作られていた個室の居住空間で寝泊まりし, 地上に一切出ない生活を続けていた.  この作戦の遂行にエッセンシャルな者を地下深くに隠して敵から守る意味もあったが, それ以上に, デューデイトの11月9日までに完了しておくべき作業が山のようにあり, 自宅と職場を往復する時間がもったいなかったからである. 

Castle Officeが所有するHanasaka Castleを舞台にしたShark Teeth作戦を実行するうえで, CBSは, 特にOuter Moatより内側の城内にある様々な建築物や施設, さらには秘密の地下空間に異常や問題点がないかを確認し, 要すれば急いで補修や改造をおこなっていた. 

ISSは, そうした施設や地下空間で使う情報システムや通信網に異常や問題点がないかを確認し, 要すれば急いで補修やバグフィックス等をおこなった. 

そして当日ここは, 作戦の遂行状況を監視するCastle Officeとしての本拠地であったため, 城内の随所に備えたすべての機器類が得たデータはここに入ってくるようになっていた.  ただ, 作戦を実行するのはあくまでFloraであり, 人間たちはただその実行を眺めているだけであり, そのデータに基づき何か指揮命令ができるわけではなかった. 

Scene 3.16.3:

では, EISとしては何をやるのか.  Kassenの試合日でもないし, KassenのEquipmentが使われるわけでもないのに, なぜEISのメンバーまでもが駆り出されるのか.  彼らに数日間, こうもりのように日光を浴びずに働いてもらうために, マネージャーのJuliaは, Akio以外の者に対して11月5日にGreen Houseに集まってもらって説明をした. 

“皆さんもご存じのとおり, 4日後には, KassenのFighter 8人がCastle Guardiansに所属する1級警備員として作戦に参加します.  我々の仕事は, 彼らが使うために我々がひそかに作った特別のswordを彼らに渡すことです.”

Autumn Gamesが終わった翌日の11月5日の朝9時に, Castle Officeは, “栄誉ある8人”を発表した. 

最初から4人のスターFighterは確定で, それぞれ誰が相棒として選ばれるかが巷で様々議論されたが, 結局, Garnet EastからはCaptain DonとVice-Captain Einan, Topaz SouthからはVice-Captain EmilioとLeader Nelio, Sapphire WestからはLeader KeikoとVice-Leader Falcon, Emerald NorthからはLeader ChammeiとVice-Captain Aptiが選任された. 

もちろんいずれの者もHanasaka Cityにおける1級警備員の資格を保有し, Kassen Fighterの職を持ちながらも, Castle Officeの作った警備会社であるCastle Guardians Associationの従業員にすでになっており, 作戦にはその身分で参加することになった. 

従って, あらかじめJuliaから事情を聞いていたAltanを除くほかのメンバーとしては, Juliaのセリフの前半は理解できたが, 後半はさっぱり分からなかった. 

“8人のFighterたちは, 緊急集会でPDが言っていたRose Gate付近を警備する予定です.  正確に言うと, Rose Gateは閉めたうえで, その外側つまりRose Bridgeを守ることになります.  Gateの内側, つまりKeep Areaは, Kasgaさんがおっしゃっていたとおり, KasgaさんだけがPalaceにいらっしゃいます.  そしてそこには大量の戦闘ロボットが放たれて, 敵味方を問わず, Kasgaさん以外の人間はすべて排除します. 

“ただ, 万が一, 敵がそこに侵入してロボットの攻撃を潜り抜けてKasgaさんを襲おうとする場合もあるかもしれませんので, その場合はGateのそばにいる8人のFighterたちが真っ先に救援に向かうことになります.  といっても, そこにいるロボットたちは味方も殺しにかかるでしょうから, その時に必要になるのが先ほど言った特別なswordです. 

“これは敵を切るものというより, ロボットたちにKasgaさんと同じく守るべき対象であることを識別させるものなんです.  これをFighterたちに携帯してもらい, Kasgaさんが危険なときにそこに入れるようにするのです.”

Juliaがここで一息入れると早速, Resilinが手を上げて, “すみません, 質問があります.  Fighterたちにそうした識別装置を持たせる必要性は理解できましたが, そうしたものを作るのも, それを彼らに渡すのも警察の仕事ではないのですか?”と質問した. 

“質問ありがとうございます.  当然, そう考えますよね.  まあ, 警察は, そもそもそのような事態にはならないと考えていて, そのような準備も要らないと思っているようです.  もちろんそのほうがいいんですが, 我々は, FighterたちがKeep Areaの中に入らざるを得ない場合も想定して, そうしたものを作っておいて彼らに渡しておきたいのです.”

“つまり, 警察の言うことを頼りにしすぎるなってことですね?  ありがとうございます, Juliaさん.”

好奇心が強く, 公権力に対する依存性が低いResilinはニンマリ笑って, Juliaの提案に乗った.  Altanも一言, “問題ない.”と言って受け入れた.  Matildaは, “私も別に構いません.”と柔軟な姿勢を見せつつ, “で, そのswordはどこにあるのですか?  さっさと彼らに渡してしまいましょう.”と, 仕事を早々に片づけたがった. 

“まだ, 渡せる状態ではありません.  正常に識別するか最終試験を当日の直前までにやる必要があるからです.  それを皆さんに手伝ってほしいのです.  これからその試験をする場所に行こうと思っています.  そこで皆さんにそれを携帯してもらって, いろいろ動いてもらおうと思います.  皆さんがどのように立ち振る舞おうと, ロボットたちが攻撃してこないようなら, 合格品としてFighterたちに渡します.”

MatildaはEquipment のinspectorのマンネリな仕事には飽きが来ていたため, やったことがないことをやれる機会は歓迎だった.  しかし, マニュアルどおりに動くことが好きなYoenは, “でも, それってEISの仕事ですか?”と, 冷静に尋ねた. 

“そう思うよね.  なので今回の仕事は, EISの一員としてやるというより, Harukiさんから特命を受けて実施するものとします.  私はすでに受諾しました.  皆さん6人分のHarukiさんからの特別指示書を, 今, 皆さんにシェアしました.”

そう言ってJuliaは, 各人のAR viewにヴァーチャルな紙の指示書を見せ, “受諾するかどうかは皆さんにお任せします.”と, これが強制ではないことを示した.  もちろんJuliaは, 一般的なHanafolkの感覚では, 受諾するだろうと考えていた. 

彼らは, 仕事をしなくても衣食住には困らないため, 仕事は苦役でも罰でもなく, 自分の人生において何らかの意味があると思ってやっている.  そのため, 市外の人たちが思っているほど, Hanafolkは仕事に対して消極的ではなかった. 

“Juliaさん, これはHanasakaが勝つために必要な仕事なんですよね?”

“そうよ.  私たちのhometownを守るための仕事よ.”

“負けたら, Hanasakaはつぶされますか?”

“かもね.”

“じゃあ, 私もやります.  貧しかったあの頃にはもう戻りたくないです.”

Yoenの言葉はほかのメンバーにそれぞれ抱える過去の苦い記憶を思い出させ, 裕福な者や強者の理論で生きている人たちには理解できない, 自分たちの夢の楽園を彼らに奪い取られてなるものかという強い意思を惹起させた. 

そして残るYugoも, “こうすることが, 我々を守ってくれるFloraの意思なんだと思いますから, 私もお受けします.”と, 宗教上の帰結であるかのようなことを言って賛同した.  そして, “Akioさんが帰ってきたら, この仕事, 一緒にやるんですよね?”と, Juliaに確認した. 

“もちろん, そう期待しているわよ.  EISの仲間なんだから.”

その後, メンバーはJuliaに連れられ, 城の地下にあるUmber Houseに引っ越しし, “Shining Sword”と呼ばれる殺傷力のある本物の刀を手に取り, スペアを含めて16あるものをユーザーとして使ってみた. 

具体的には, Princess Tree Hallの近くに作られた, 一辺が20メートルほどある正方形の部屋で, 自分や他人を傷つけないよう細心の注意を払いながら, 50機ほどのmech-beeやmech-flyが飛び回る中でそのswordを携行して様々な動きを取ってみたり, 力強くそれを投げつけたり落としたり踏みつけたり, 暗い夜や雨降りを再現した中で振り回したり, 1200以上ある試験項目をひたすらまじめにつぶしていった. 

しかしその試験項目をすべてパスすれば終わりではなかった.  Juliaは, メンバーには伏せていたが, 黒い石を持つAkioが帰ってきてたらでないと実施できない特別な試験項目がさらに100ほどあることに強い焦りを覚えていた.  こんなタイミングでAkioが病院に戻ってしまったことは想定外であった. 

“明日の朝までに間に合うかどうか…”

Scene 3.16.4:

焦っていた集団はほかにもあった.  それは, 明日の作戦に参加するFighterたちだった. 

彼らは, 緊急事態予備宣言が出された朝7時よりも30分前に, Castle Park内のHanasaka Arenaに, 1泊分の携帯品を持って集められ, 各自に, 身の丈と体型に合わせた上下のバトルスーツ, 防弾のヘルメットとヴェスト, ブーツ, smart gloves (手先を正確に動かすのを支援する機能がある), smart goggles, そして秘匿通話が可能な特別仕様のNexus Unitが支給された.  色は, ナスのようなほとんど黒に近い紫色で統一されていた.

彼らにも, 明日の7時から敵との戦闘が始まることはすでに告げられており, 今日は終日このArenaで警察から派遣された者から戦い方の手ほどきを受け, ひたすら体を動かし, 夜はArenaの施設内に臨時で設営された宿泊スペースで睡眠をとり, 明日の早朝, Arenaから直接, 城内の配置場所, すなわちRose Bridgeに向かうことになっていた. 

戦闘の事前訓練においてFighterたちは, ナイフ等の凶器を振り回して襲いかかってくる人間の犯罪者に槍を使って対処することについては, さほど問題はなかった.  普段やっていることを十分に応用できるからである. 

ビーンバッグ弾を使ったショットガンでの応戦についても, 慣れるまでにそれほどの時間を要しなかった.  目標に正確に弾を当てることに関しては, 特にarcherである, Emerald NorthのChammeiとGarnet EastのEinanは難なくこなし, そのほかの者も, 目標から20メートル以内の近い距離まで近づけば, 相手と間合いを取りながら正確に撃つことに大きな苦労はなかった.  Smart gogglesで照準を定め, それと連動するsmart glovesが手元を微調整するからだ. 

手こずったのが, 飛び回る小型昆虫ロボットが多数で襲ってきたときの対処であった.  Fighterたちは, Akioたちがmech-beeに襲われたことについては, Floraが巧妙に情報を統制している状況下にあるため, 知らされていなかった.  しかし襲撃の様態の1つとしては考えられるため, 訓練のメニューには含まれていた. 

ところがこの時代, これに対する有効な反撃方法が確立されていなかった.  まずはmech-beeに刺されないように丈夫なOutfitsを着用する必要があった.  しかしそうしたもので全身を覆うとしてもOutfitsの隙間から侵入してくることもあり, またmech-beeやmech-flyは体当たりした瞬間に, 空気に触れるとたちまち燃焼する液体を付着させて, 対象物を火だるまにさせるタイプのものもあり, そうしたことを防ごうとすると宇宙服のような身動きがとりにくいものを装着する必要があった. 

そのうえ小さいがゆえに武器を振り回してもなかなか当たらず, 銃弾も当たらず, 大きな網のようなもので捕えようとしても数が多いときりがなく, まともに戦うのは得策ではなかった. 

もっとも, 電磁パルス弾をさく裂させて, 一網打尽にそれらを無効化することはできるだろうと考えられていた.  ただ, それは最後の手と言えた.  なぜなら, 自分が装着している電子機器類も破壊され, 自分の肉体は問題ないとしても体内に埋め込まれているmicro-chipsも損傷するとたちまち日常生活に困ることになるからだ. 

そうなると, 自身を完全に包むように, 膨大な小型昆虫ロボットを自身の周りに飛行させて, 防護膜のようなものを作るのが有効な策といえ, 要するに量が重要であった.  いかにして大量のロボットを安価に生産し配備できるかが敵対国や犯罪者との戦いに勝つ重要なポイントであり, 今回, Hanasaka側も, ひそかに作り続けていた虫たちを惜しみなく投入しようとしていた. 

とはいえ, そうしたロボットたちの大群が, 自分たちが敵のロボットたちに襲われている時にちょうど助けに来てくれるとは限らないため, 8人のFighterたちは自分たちだけでこれとどう対抗するか, あるいはどうやって逃げ回るかを, field上で無害化したmech-beeを飛ばしてシミュレートしていた. 

“逃げるだけでもきつい.”

Topaz SouthのNelioは, 息を切らせて両手と両ひざを地面に付けた.  彼らは, Castle Guardiansから支給されたexoskeletonを付けて足腰や腕を強化し, 生身の人間にはあり得ないスピーディな動きができるようになっていたが, それでも虫たちを振り切ることは難しかった.  どの方向にも自由に走れるfieldでさえそうならば, 当日, 自分たちが配置される橋の上だと, さらに不利なのは明白だった. 

2人1組になって背中を合わせるように動きつつ, 支給された本物のリーサルなswordを振り回して虫たちを近づけさせない練習もした.  目が細かい網を発射するネットランチャーも使ってみた.  しかし多勢に無勢で, 20機以上の数になると, それらの攻撃をかわすことは全くできなかった. 

“警察でも無理なものを, 我々が戦っても勝てるわけないぜ.”

Nelioの隣に腰を下ろした, 彼の兄のEmilioは, 虫たちにはあらがえないことを認めて, これ以上, この無意味な練習を続けるべきではないと言いたげだった. 

“じゃあ, あきらめるんですか?”

Emilioの手が届かない距離をとったところに座ったChammeiの問いに, “仕方ない.  時間の無駄だ.”と彼が答えると, 彼女は, 虫たちに刺されたり火をつけられたりすること自体を防ぐことはできないとしても, その回数を減らすことはできるはずだと主張した.  そして, “水の中に飛び込んで, 味方の虫たちが助けに来るのを待つのはどうですか?”と, 対策案を示した. 

“Rose Bridgeの辺りはInner Moatの水が抜かれているから, それは無理だ.”

Einanの言うとおり, Hanasaka CastleのInner Moatは, 水を浸した部分と, 水をわざと入れていない部分とがある.  水を入れずに地面が深くえぐれているほうが敵が侵入しにくくなる場合もあるからだ. 

“じゃあ, Castle Officeに水を入れてもらいましょう.”

Emerald NorthのAptiはそれぐらい造作ないことだろうと考えた.  問題は, 橋の上から水面まで5メートル以上はあるうえ, 水深が浅ければ, 下手に飛び込むと大けがをする恐れがあることと, 水面から顔を出した瞬間, 虫たちがそこを襲ってくるだろうから, どのようにして防御するかだった. 

“シュノーケルでも持っておきますかね.”

Sapphire WestのFalconは, 頭を含め体の全部を水面下に潜らせて, シュノーケルで水面上の空気を吸うことを提案したが, 虫たちがその通気口からいくらでも侵入してくるだろうし, 水中でも突っ込んで刺すことができる虫もいるため, 安全とは言い切れなかった. 

“我々のうち何人かだけでも助かるように, 体がでかいやつが小さい者に覆いかぶさってやり過ごすしかない.”

GarnetのDonは, 助ける命の選別が必要になるという残酷な可能性を示した.  しかしそれは頭では理解できるものの, 感情的には受け入れがたいことだった.  そのため, “あるいは, 最後の手段である電磁パルス弾を最初に使うかだ.”と付け加えた. 

“でも, それは支給されていません.  高価ですし, 1級警備員が携帯できるものではありませんので, 当日, 支給されることはないでしょう.”

Chammeiは, 残念ながらそれは最初の手段ですらないことを告げた. 

“Keikoさんはどう思う?”

まだ一言も発していないKeikoにNelioが意見を求めた. 

“そんなこと言われも, ウチ, バカやねんから分からへんやん.”

質問するほうがバカだと言っているかのような口調であったため, 冗談が言い合える間柄であるNelioは, “おぅ, そうだった.  忘れてた.”と応じた.  それに対しKeikoは人差し指を立てた両手を頭に掲げるという, “Moto natives”しか分からない怒りを示すジェスチャーを彼に見せた. 

“明日の朝までにいい妙案が浮かばない限り, 私たちは, Donさんの言うとおりにせざるを得ないかもしれません.  敵が虫たちを我々の前で飛ばす事態にならないことを祈るしかないんですかね…”

この世界の中で最も未来的な都市にいながら, 祈るという最も原始的な方法しかとれないことをAptiは嘆いた. 

Scene 3.16.5:

彼らが1時間の昼休みを過ごして, 再びfieldに集まってきた時, center-lineとfar-sideのside-lineの交点の辺りに, Castle OfficeのDirector Prishaが立っていて, 彼女のもとに集まるよう声をかけられた. 

Prishaのかたわらには4輪の縦長のキャリーカートがあり, そこにはscabbardに収められたsword 8本が立てられていた.  彼女はそのうちの1本を両手に取り, “今日は皆さんにお渡ししておきたいものがあって, 持ってきました.”と, 訪問販売員のようにその商品の説明をし始めた. 

“これは, 殺傷力のあるswordですが, 他人を殺すよう皆さんに勧めたいわけじゃありません.  皆さんは, Rose Bridgeを守備することになりますが, 警察は, 敵がそこまでたどり着けるとは思ってなくて, 皆さんの出番はないだろうと考えています.  もちろん, そのほうがいいのですが, Castle Officeとしては, 万が一の場合も想定しておきたいと思っています.  つまり, KasgaさんがいらっしゃるKeep Areaに敵が侵入した場合, 最も近くにいる皆さんが救援に向かってほしいのです.”

“もちろん, そうします.”

Keikoが即座に反応した.  そうでないと自分たちの存在意義がないからだ. 

“ありがとうございます.  そのときにこのswordが必要なのです.  明日, 作戦を遂行するうえで, 実は, 城のKeep AreaはCastle Officeが管轄するのですが, Kasgaさんを守るために, 大量の小型戦闘ロボットを放ちます.  それらはとてもどう猛で, Kasgaさん以外は見つけ次第, 襲いかかって殺します.  心優しいKasgaさんを守るためには, 敵が何を言おうとも, 一切, 耳を貸さずに即座に排除することが大事だと考えているからです.”

その理屈は, 8人のFighterたちも賛成だった.  憎たらしい敵にさえ心を開くであろう慈悲深いKasgaを悪用するであろうやつらに情け容赦は不要だと考えていたからだ.  また, ロボットのオペレーションを考えても, ある特定の空間内に保護対象の人物は1人しかおらず, それ以外はすべて違法な侵入者とみなして撃退するようプログラムしたほうが, 確実かつ迅速に事を成し遂げられると考えられたからだ. 

“そのため, 皆さんがKasgaさんを助けにKeep Areaに入るや, そのままでは皆さんも襲われます.  しかしこのswordを持っていると, ロボットたちは味方と識別して襲ってきません.  つまりこれは識別するための旗のようなものです.  必ず身に着けておいてください.  もちろん, 抜刀して戦っても構いませんが, 自分の体から1メートル以上離れるとロボットたちは識別できなくなります.”

Prishaの説明を受けてNelioが, “1つ質問させてほしいのですが, もし我々がRose Bridgeで虫たちに襲われたら, そこに逃げ込むことは可能ですか?”と質問した.  これは, 敵をKasgaのいる場所のほうに引き込む危険性を伴うため, 彼女を守るうえでは好ましくないが, 自分の命を守るために緊急避難が可能かどうかは確認しておきたいことだった.  Prishaは, “もちろん可能です.”と, 何のためらいもなく答えた. 

“そのときはRose Gateを開けますので, 中に入ってきてください.  そうすれば, Keep Areaを守る大量の虫たちが皆さんを守ります.  数で負けることはないと思っています.”

それを聞いて一同は, 先ほどから悩んでいた課題に光明が見えて安堵した. 

“ただ, 警察官たちは入ってこれません.  その識別の旗を持っていないからです.  例外として, Rose Gateの上に狙撃担当の警察官を2, 3人配置する予定で, 彼らは自分たちが使う銃に, 皆さんと同じ識別機能が組み込まれています.  合計10人ぐらいでギリギリです.  それ以上, 例外処理をしないといけない対象がいると, 虫たちの動きが鈍くなります.  0.1秒でも遅れると命取りです.  単純であるからこそ強さを発揮できるのです.”

この時代, 単純ではあるが群れとして行動できる小型のロボットを大量に安価に作れるようになり, 物理世界ではそれらが戦いの主役になりつつあった.  それらは, 単純であるゆえに素早く, 大量であるゆえに執拗であり, 動きが遅く, デリケートで, 耐久力もない人間たちはそれらにまともにあらがえず, 戦いに参加するには不向きな生き物であることを悟り始めていた.  そのためFighterたちにとっても, Prishaの言うことは真理に聞こえたが, 複雑な気持ちにならざるを得なかった.


Chapter 3.17: The Eve of the Raid

Scene 3.17.1:

11月9日, 朝6時.  日の出まであともう少しだが, 辺りは, 照明がなくても戦闘に支障がないぐらいに明るくなってきていた.  ひんやり冷え込んだ空気は, いよいよ迎えた決戦の日の人々の高揚を抑えつつ, 緊張感を助長させていた. 

昨夜22時に緊急事態宣言が予定どおり発令されると, Police Departmentは, 警察官と戦闘ロボットたちを市内各地に本格的に配備し始め, 特にCastle Parkとその周辺は特別警戒区域として, 外出を全面的に禁止し, 車両や人の出入りを厳しく制限した. 

また市内全域で, 教育機関や市民食堂を含め, 物理的な施設や店舗のほとんどが閉じられ, 電車やバスなどの公共交通機関もこの日は8割ほど本数を減らし, 異常に静まり返った非日常の雰囲気に満たされていた. 

また, 緊急事態宣言から7時間経った, 朝5時に, 緊急電力調整介入措置も発動されたため, Castle Parkの中や重要な社会インフラ施設以外は, 電力の供給が大幅にカットされ, 市内の街灯は半分以下の照度しかなかった.  しかしながら, 地平線の下にまだ隠れている太陽の光が空を照らすのを妨げる雲がほとんどなかったことは, 不幸中の幸いであった. 

Hanasakaの情報システム群が様々な行政サービスを休止することで生まれたリソースは“Stone Cold”との対戦のほうに振り向けられるが, それでも足りなくなることを想定し, 昨日のうちに, 最も近いExperimental Cityの“Kochipina”の情報システム群との相互接続の度合いを段階的に上げていき, 平時モードのKochipina側が余剰リソースを使って, 有事モードのHanasakaでの一部の行政サービスを代行した. 

これは相互扶助の考え方に基づく処置というよりも, 世界に23あるExperimental Citiesは個々独立に運営しているわけではなく, それらをつかさどるFlora sistersが全体で統合された知能であるため, 当然そうなるのである. 

6時1分.  普段は表に出てこないFloraから直接, Hanasaka市民に対して, つまり全世界に対して, 今から59分後の7時から戦闘が開始される可能性が99%であることが通知された.  実際のところ, 戦闘が開始されるというより, Floraが自らの意思で7時に敵を解放して戦闘を開始するのであるが, ここでは客観的に分析した結果であるかのように人々に伝えた. 

一般市民としては, Kasgaの緊急集会の演説によって, 11月9日に敵が襲ってくるのだろうという認識は持っていたが, 具体的に何時ぐらいなのかまでは知らされていなかったため, いよいよ緊張感が高まった.  とはいえ, 目の前にその脅威が迫っているのが見えているわけではないため, そもそも本当にそんなことが起きるのか大半の人はどうしても半信半疑であったし, これまでにも小規模な不可解な事件は散発的に起きており, すでに継続的に襲撃されている状況に入っているのではないかと考える人もいた. 

もちろん今日のShark Teeth作戦に参加する者には7時に開始されることは事前に知らされていたが, Floraは, そうはならない可能性も排除していないことを敵に臭わすために, 自分の見立てを一般市民にはこれまで公表してこなかったのだ. 

この作戦を実施する過程で物理的に見える動きを隠すことはできない.  そのためCity Officeは, Floraの指導の下, 全世界の報道機関に対して, この戦いの状況をライヴで放映することを認めた.  とはいえ, どこでも立ち入りを認めたわけではなく, 特にCastle Park内では, 数か所の場所からだけ撮影を許可した.  これは報道機関の者の安全を守るためと, 作戦遂行上の秘密を知られたくないためである. 

6時10分.  Arenaのfieldに集合していた8人のKassen Fighterたちが, 昨日の夕方にCastle Officeから支給された“Shining Sword”を腰に差し, 見送りに来ていたClub ManagerやCaptainたちから激励を受けながら, Castle Officeが用意したmech-horseに乗って, Rose Bridgeに向けて出発した. 

Kassenの試合では, mech-horseは, 秒速4メートル (時速約14.4キロメートル)までしかスピードが出ないよう制限されているが, 試合の外であるため, 本来の実力である時速40キロメートルの上限値まで出して目的地に駆けていった.  SapphireのVice-LeaderのFalconは試合でmech-horseには乗れないが, この数日間, 練習を重ねて, 難なく操作できるようになっていた. 

Scene 3.17.2:

6時15分.  Police Headquartersの隣にある病院にいるMoglaから, 城の地下にあるUmber HouseにいるJuliaに対して, 何とか歩けるぐらいまで復調したAkioをこれからもう一度, あの秘密の通路を使ってJuliaのいる場所に移動させる旨の連絡がなされた. 

昨日, Akio一行は, 道程の半分ぐらいのところで, 殺人用のmech-beeの群れに襲われ, 全員, 動けないほど負傷し, 病院に運ばれた.  Akioは顔に1か所, 鼻の頭を刺されていた.  こうしたハチたちは, 相手の動きを封じるために, 頭部を重点的に狙うよう設計されていたからだ. 

1か所だけで済んだのは非常に幸運だったといえた.  彼が右手に握っていた黒い石から, ハチたちの動作を混乱させる何らかのコマンドを出し続けていたのかもしれないが, 真実はよく分からなかった. 

とはいえ, 麻酔剤のようなものが体内に注入され, 彼は12時間以上, 意識がもうろうとしていた.  しかし体内に入れられたものがそれだけなのか, つまりまたnano-machinesを入れられた可能性がないかを調べるのには時間を要した. 

病院としては, 本来であれば, 精密に全身を調べたうえで退院させるべきだが, 彼が今日の作戦遂行上, 重要な役割をになっていることを理由に一刻も早く一時的に外出を許可してほしいとCastle Officeから強く求められたため, 異例ながら, 簡易的な検査をした程度で, Castle Office側に彼を一時的に引き渡すことを決めた. 

病室を訪れたMoglaから, 昨日行こうとしていた目的地に, 同じルートで今から直ちに出発する旨を告げられたAkioは, 当然ながら震えていた.  敵に感づかれずに, かつできるだけ早く移動するには, 病院の地下から城の地下につながっている通路を使うことがやはり最良であると彼から説明を受けたが, 昨日, 自分の身に起きた恐怖の体験をそう簡単に忘れることはできない.  実際, それで1人が亡くなっているのだ. 

“私も行きますから…, お願いします.”

開けっぱなしだった病室のドアから, 1人の警察官に肩をかつがれながら中に入ってきたPolinaがAkioと一緒に同僚たちのいる職場に戻りたい旨を告げた. 

と言っても, Polinaは右ほおのほかに手首や足首など合計5か所を刺され, 単純計算でAkioの5倍の毒を注入されていた.  そのため, 頭が少しぼぉっとするものの立って歩くことができたAkioと違ってPolinaは, 介添えがないと歩ける状態ではなく, まだベッドに横になって療養が必要であった.  ヘルメットもかぶっていなかった. 

“無理しないでください.  危険です…  私はともかく, Polinaさんが, こ, こんなことに, く, 首を突っ込む必要なんて…, ないですよ.”

Akioは, 警察官でも警備員でもなく, またKasgaのように犯罪者のターゲットにされる素質も全くないのに, 訳の分からない石を拾うよう差し向けられ, 石集めのアプリがヤバいものだと気づいたにもかかわらずその使用を続けるよう求められ, nano-machinesが入った液体を飲まされ, 殺人用のmech-beeに刺され, 本当はまだ療養すべき状態なのにたたき起こされて, HanasakaとKasgaを守るためだと言われている作戦に関わらないといけない自分に, 心底うんざりした.  換言すると, 終始誰かに自分の命を握られ操られている自分が嫌になった. 

もちろん恐怖心もあった.  次は本当に命を落とすかもしれないと思った.  しかしそれ以上に, こんな自分のために他人を巻き添えにしたくなかった. 

“ありがとう, Akioさん.  私は建築屋です.  自分が手がけた建物には人一倍, 愛情を感じています.  だから私は行動しているのです.  それらを守るために.  Akioさんも守りたくて行動しているんでしょ?  KassenのFighterたちが活躍する場を守るために.  だから…, 同じです.”

自分だけ不幸な主人公を気どりをする必要はないとPolinaに優しく諭されたAkioは, すみませんと謝ったうえで, “私は, 大丈夫です.  怖いですけど…, もう, 引き返せないと思っています.”と, 昨日示した決意が揺るいでいないことを明らかにした. 

Scene 3.17.3:

6時20分.  Rose Gateの前に到着したナス色のバトルスーツをまとった8人のFighterたちが, 電子ロックがかけられた, 3メートルほどの高さがある黒い鉄製の大きな門扉を眺めていた. 

“このOutfitsの色, どっちかとゆうと, ワルモンっぽくない?  黒とか紫とか, たいてい, ワルモンやんか.”

Keikoは, 子供の時に見たアニメに出てくる悪者のイメージを想起させるこのOutfitsについて, 右隣にいたChammeiに, 彼女の評価を尋ねた. 

“私は, 高貴な感じで, 美しい色だと思いますけど.  逆に, 正義の味方は何色なの?”

そう言われると正義の味方側には統一したイメージがないことにKeikoは気づいて, 返答に困った.  その様子を見たChammeiは, “じゃあ, 我々は何色でもいいんじゃない?  きっと, どのclubの色ともかぶらないように, 黒っぽい色にしたんじゃないかな?”と, 即興で考えた説を述べた. 

“そうか!  さすが, Meiちゃん.  きっとそうやわ!  そうと分かったら, がんばれるわ.”

これから起きるであろう襲撃に比べれば実に些末な問題に思えることがKeikoにとっては意外と重要であったため, その疑問を解消できた彼女は, 自分の両手を前で握って, 尊敬の眼差しでChammeiを見つめた.  自分が来ているOutfitsの色は, 4 clubから選抜された自分たちにふさわしいものであるという認識で, ワルモンのイメージを上書きし, 闘志が湧いてきたのだ.

“すみません, Chammeiさん.  ちょっといいですか?”

不意に背後から, 彼女たちのたわいない会話を遮る者がいた.  Chammeiがおもむろに振り返ると, “あの…, 私は, Castle OfficeのHarukiと言います.  突然, こんなところで話しかけて申し訳ないですが, ちょっと, 急ぎのお願いがあります.”と, ビジネスウェアを着た, がたいのいいその男は自分が何者なのかを明らかにして, 笑みを含みながらも困った顔を見せた. 

“なんとなく, Kasgaさんに雰囲気, 似てるなぁ…”

Keikoは, その男の態度が, Kasgaと同様に, 威圧したり脅えさせたりする要素が全くないにもかかわらず, どのようにもあらがえないオーラを感じさせ, なおかつ気持ちが自然と落ち着く不思議さを持っていることに気づいた.  Chammeiもそう感じたのか, 初対面の人による突然の求めに対し, “私に何かできることであれば…”と, 拒否しない姿勢を示した. 

“ありがとうございます.  助かります.  実は, 警察から2人借りてきて, 私と一緒にこのRose Gateのwatchtowerにひそかに入って, そこから敵を狙撃してもらおうと思っていたんですが, 1人が急病で来れなくなったとのことで, それで, その…, Chammeiさんが射撃のトレーニングをされていると聞いて, 代わりをお願いできないかと.”

Hanasaka Castleにあるいくつかの門のうち復元されたものはいずれも2階建ての回廊を持つwatchtowerになっており, 門扉の上は屋根付きの監視用のステージが備わっていた. 

一番初めに復元されたRose Gateの場合, Inner Moatに面している門扉を通り抜けて中に入ると, 四角いスペースが現れ, 正面と左側は傾斜角度が90度に近い石垣が築かれており, 右側には, その1階部分に2つ目の門が設置されている.  そのため, Main Keep Areaの中に進むには, Rose Bridgeを渡り切ったところにある最初の扉を開けて中に入り, すぐに右に直角に曲がり, その2つ目の扉も開けて通り抜ける必要がある. 

そして, 最初の門と右側の2つ目の門の上と, 正面と左側の石垣の上をつなげる形で四角い回廊が作られ, この閉塞的なスペースに侵入してきた敵を高い位置から銃や弓で攻撃できるようになっていた. 

この回廊に身を潜めて, 敵を狙撃してくれというHarukiの依頼にChammeiは驚いた.  なぜならそれは違法だからだ. 

彼女はあくまで1級警備員としての資格を持っているだけであるため, リーサルな銃器を使うことはできない.  それをHarukiは分かっていないかもしれないと思って, “あ, あの, 私は警察官の資格は持っていないので…”とChammeiが言いかけると, Harukiは, “今はそうですよね.”と言って右に少しずれた. そして彼の後ろに控えていた者を彼女たちの前に見せると, Keikoが, “Anjuさん!”と元気よく声を発し, 乗馬施設で会ったときに息が合いそうだと思った人と再会できたことを喜んだ. 

“Keikoさん, またお会いできてうれしいです.  初めまして, Chammeiさん.  私は, Kasgaさんの護衛を担当していたAnjuです.  私もHarukiさんに誘われて, ここで悪者退治をするつもりです.”

Anjuは彼女らに手を軽く振った.  そして, すぐさま本題に入るために, Chammeiに向かって右手の人差し指を弾くジェスチャーをして, 彼女のAR viewに臨時雇用依頼書を渡した. 

“Chammeiさん.  あなたの射撃の腕を見込んで, 一時的に警察官として雇いたいと思います.  もちろん, リーサルな銃器を使える者として.  同意いただけますか?”

警察の都合で何の試験も受けずにいきなり警察官にさせられて, 銃を人に向けるなどにわかに受け入れられることではないと考えたChammeiが断る返事を口から発しようとしたところ, Harukiがそれを察して, “Chammeiさん.  Castle Officeとしても警察としても, あなたに人殺しをお願いしたいわけではありません.  狙ってほしいのはmech-animalsです.”と, 依頼の趣旨を急いで補足した. 

Chammeiは, それならば受け入れられると考えつつも, Harukiのかたわらでこちらを見ていたAptiを一瞥した.  彼は少し肩をすくめて, “任せるよ.”と優しく助言した. 

そのため彼女は, Harukiに同意の返事をしようとしたところ, 今度はKeikoから, “私はMeiちゃんと離れたくないです.  一緒に戦いたいです.”と口を挟まれた.  Keikoにとって, 初めての舞台で戦うにあたって, 信用できる頭の良い親友がそばにいてくれないと不安なのである. 

Chammeiにとっても, 戦うことにおいては天才的な最強のFighterと一緒にいたい気持ちはあったが, Harukiの申し出を冷静に考えると自分の能力をより発揮できるチャンスがそこにあると考え, “Anjuさん, Harukiさん.  分かりました.  私は近接戦闘よりも, 銃や弓を使った遠隔戦闘のほうが得意ですので, そのほうがお役に立てそうです.”と言って, 彼らの依頼を受け入れ, AR viewに示された同意のボタンを押した. 

途端にKeikoが悲しい目をしてChammeiを見つめたため, 彼女は, “大丈夫ですよ.  これは共同作戦です.  Keikoさんが地上で追い込んだ敵を, 私が上から撃ちます.”と提案した.  根が素直なKeikoは, 何の疑いも入れずにChammeiの言葉を信じ, “そういうことね.  分かったわ, Meiちゃん.  助け合うことが大事やもんね.  ウチもがんばるわ!”と, 目を見開いて意気込んだ. 

Fighterたちがそれぞれ得意とする技能を持ち込んで互いに補完し合いながら戦うことの重要性は, もちろんKeikoも理解している.  従ってChammeiの言っていることは当たり前のことではあるが, Keikoにとって大事なのは, 信頼しているChammeiとのこうした何気ない会話によって, 自分の採るべき方向性を確認でき, しっかり足場を固められることなのである. 

“良し!  話がまとまって良かった.”

Harukiはそう言って軽き手を叩くと, 彼のそばにいたTopaz SouthのNelioが不意に, “Harukiさんは, Castle Officeの, 確か…, Directorですよね?  なんで, そんな幹部のかたがこんなところにいるんですか?”と, 素朴な質問を彼に投げかけた. 

“いい質問ですね.  まあ, 実は私も趣味で, 多少, 射撃ができるんで, 臨時特別警察官として雇われましてね.  でも, 一番の目的は, 皆さんに的確な情報をお伝えして, サポートするためです.  Castle OfficeにとってはFighterの皆さんの安全は何よりも大事です.  各clubから頼まれて, 現場で皆さんを守るお手伝いをするために来ています.”

Fighterたちは, 彼が本当のことを言っているんだろうなと思いつつも, やはり, 場違いな感じを払しょくできないでいると, Harukiは, “まあ, 正直言うと, Palaceに独りでいる娘が心配で, ここにいるんです.  あ, でも内緒にしておいてください.  こっそり見守りたいんです.”と言ってニッコリした.  心が和らぐその笑顔は, 彼がKasgaの父親であることを見事に証明していた.  そしてそれが最も的確な理由だと思えた. 

Scene 3.17.4:

6時36分.  城の地下のPrincess Tree HallにいたJuliaは, workshop “Nemophila”から一昨日に納品された1本のShining Swordを手に取り見つめていたところ, Director Lerhiから, “ぶっつけ本番ですかな?”と声をかけられた. 

“はい.  黒い石の中にあるFloraの分身を装着したうえでの試験を, 本当は昨日中にやっておきたかったのですが, もう時間がありません.  装着でき次第, 急いでRose Gateまで持っていく必要があります.”

8人のFighterたちがMain Keep Areaの中を飛び交う虫たちに襲われないようにするための特別な装置であるShining Sword 8本は, 昨日, 彼らに渡してしまっているが, 予備品としてさらに8本あり, その中の特にKeikoが使うものは, 彼女が手にしていた.  そしてこれこそが本当の意味での唯一無二の特別な装置であった. 

“Lerhiさん.  どうしてFloraは, このswordとAkioさんとKeikoさんにこだわるのでしょうか?  敵から見ればソフト・ターゲットのAkioさんに自分の分身を持たせたのはなぜなんでしょうか? それに彼に, それをこの特別な装置に装填させて, Keikoさんに渡すという, 一連のプロセスを踏ませることで, Floraが何かを発動させると聞いていますが, そんな儀式めいたことをあえて人間にさせる意味が分かりません. 

“そんなことをしなくてもFloraが外界の条件に左右されずに, 自分が最適と思う時にそれを発動させればいいのに, どうしてそんなことをするんでしょう?  現に昨日のように, 何者かの妨害によってこのプロセスが今, 途中で中断してしまったら, 終わりじゃないですか?”

実際, 敵はこのプロセスの存在を発見し, 途中で止めてみせたにもかかわらず, そのプロセスを引き続き実行しようとするFloraの真意がJuliaにはさっぱり理解できなかった. 

“Juliaさん.  私も分かりませんわ.  彼女は人間やないですから, 我々の想像がつかんことを考えているだけですよ.”

そう言われてしまうと, 人類は思考停止状態でsuper-intelligenceに従うしかないように思えてしまい, Juliaは納得できない表情を示した. 

“あくまで私の想像ですけど, 本来, 隠しておくべき発動条件がバレてしまったのに, それを維持しているように見せられると, 相手としては気持ち悪いですよね.  疑心暗鬼に陥ります.  それが彼女の狙いやと思います.  まあ実際, 彼女はさらに裏をかくかもしれませんが.”

AIとAIとの戦いにおいては, 確かに, 人間が考える合理性は必ずしも必要ないかもしれないとJuliaは考え直した. 

“そうすると, もう1つ, 人間の私には不可解に思えるのが, Floraが, ‘Stone Cold’とつながっている疑いのある‘Stone Souls’を世界中の人たちが使っている状態を放置しているのも, わざとなんですかね?  警察はいら立っているようですが.”

Juliaは, 黒い石を持つAkioが青い光を放つ者に接近する儀式をするにあたって, Stone ColdやStone SoulsについてHarukiからある程度のことは教えられていた. 

“おそらく, そうでしょうね.”

Lerhiはそう言ってうなずき, “きっと, そのほうが自分たちに有利に働くと考えているんでしょう.  いずれにしても, 先が読めずにドキドキですわ.”と述べた. 

そして, ほんの少し笑みを見せるも, すぐに真顔に戻り, “これは口外しないでほしいですが, Floraの現在の‘CCP’は623です.  Autumn GamesでFighterたちがいい試合をしてくれたおかげで, 今シーズンは8も稼ぎました.  対するStone ColdのCCPは, 各国の警察機関の分析から考えても, まあ高く見積もっても, 500程度です.  普通に矛と盾をぶつけ合っていれば, 多少の犠牲は出ますが, 数時間内に敵は力を尽くして倒れるはずです.  Floraは, 少なくとも負けることはありません.”と, 機密の情報をJuliaにそっと教えた. 

“そうすると, この儀式もStone Soulsを放置しているのも, 単なる遊びですか?  余裕で勝てると分かっているから, 場を盛り上げようと演出しているのですか?”

“いえいえ.  そこまで余裕はないと思います.  Stone Soulsを放置しているのは, 彼らに, 自らが作った基盤を維持するリソースをかけさせるためです.  Floraに対する攻撃にすべてのリソースを集中させんように, あえて身軽にさせてないだけです.  ただ, その基盤を生かし続けるのは危険ですから, Floraは, それを一気にぶっ壊したい.  それを発動させる条件として, あの儀式があるんだと, 私は理解しています.”

Juliaは, Lerhiの説明によって頭の中に漂っていた霞が少しずつ消えつつあったが, まだ払しょくしきれずぼやけている箇所があった. 

“Lerhiさん.  最後に1つだけ質問させてください.  そうであれば, 敵もFloraに勝てないことが分からないほどバカではないと思うのですが, それでも攻撃してくるのはなぜなんでしょう?  自分が敗北することを発動条件として, 彼らが本当にやりたかった何かが引き起こされるということでしょうか?”

“さすがですね.  おっしゃるとおりやと思います.”

LerhiはJuliaの洞察力に改めて感心した. 

“それが何なのか, 私も完全には分かっていません.  Floraは分かってるかもしれませんが, いずれにしろ, 彼女は自分が勝った後, このHanasakaや周りの世界がどうなるのかを考えながら, 最適な勝ち方を探っていると思います.”

一応, 合点がいったJuliaは, “なるほど, 恐れ入りました.  私たちのsuper-intelligenceがFloraで本当に良かったです.”と言ってフフッと笑い, “でも, 少なくともこの儀式はやっぱり演出が入っている気がします.  もしかしてHarunaさんは, 人を楽しましたり驚かしたりするのが好きだったんでしょうかね?”と, やや話の流れから飛び越えることを, 彼女のおじに当たるLerhiに尋ねた. 

“そうですねぇ.  年上の子や大人たちをびっくりさせるのが好きな子でした.  子供の時は結構おてんばでしたから.”

Scene 3.17.5:

6時47分.  Princess Tree Hallは, Castle Officeの作戦監視の拠点になっているため, Castle Park内に合計120箇所, 設置したカメラで撮られた映像を, 31枚のスクリーンに映し出していたが, そのうちの最も大きなスクリーンの不具合がようやく解消されて, そこにKasgaの姿がパッと現れた. 

Kasgaは, Main Keep Areaの中のPalaceの南西側にある大広間の中に独りでいた. 

Palaceといっても石造りの豪華な建造物ではなく, 木造の1階建てで, その上部は, その辺りの島々の伝統的な歴史的建造物に倣った, ヒノキの樹皮を重ねた屋根で覆われていた.  床も木製で, 地面から1メートル余りの高さに張られ, 部屋を仕切る壁は少なく開放的で, 昼間は障子や木の雨戸を開けて日光と風を取り込み, 寒い夜や風雨が強い日はその雨戸を閉めるようになっていた. 

一応, Palaceの中にはエアコンも設置されてはいるが, なるべく使わずに済むように, 建物自体を, 気温と湿度が高いHanasakaの夏の蒸し暑さを和らげる伝統的な造りにしていたのだ. 

Palaceは, Rose Gateから行く場合の通路は1本しかなく, 最初の門扉を開けて中に入ると, 道はすぐに右に直角に曲がり, 2つ目の門扉を開けて20メートルほどなだらかな坂を上ることになる. 

その坂を上りきったところで道は直角に左に曲がり, そこで正面を見ると, 質素な木造1階建てのPalaceの南東の棟と南西の棟が, 手前にある高さ1メートルほどの背の低い緑の竹垣の向こうに見え, さらにそのPalaceの背後の左のほうに, 本来であればCastle Keepが堂々とそびえ立っている写真を撮ることができる. 

道はそこから左に伸び, しばらく歩けばKeepの下に着くが, そちらに行かずに正面にある竹垣の中央に設置されている, 日中は施錠されていない両開きの竹の扉を開けて中に入ることができる.  そこからは, 正面玄関がある南東の棟のほうに向かって, 緩やかなカーブをつけた小道が伸びている. 

そしてKasgaがいる大広間は, 南西の棟の中にあり, またその棟のほとんどを占めており, 賓客を迎えたり儀式をおこなったりする場であったが, この時点では, きらびやかな装飾や美しい絵画で彩られているわけではなく, 白い砂利を敷き詰めた南側の庭に面して作られた, 約15メートル四方のがらんとした空間にすぎなかった. 

しかし, 使われているヒノキなどの木材から発せられる香りを存分に楽しめ, また体を南に向けて外に目をやると, 白い砂の海が広がる中, 高さが3メートルほどの1本の松の木が右手のほうにたたずみ, 清らかで落ち着いた心持ちになれた. 

この広間の四方には木製の引き戸があり, この日は, 南の面だけ解放し, 日の光が部屋の中に斜めに差し込んでいた.  そしてその中央に, 一時的に設置された机やいすがあり, 机の上には3台の据え置き型のモニターが置かれ, そのうちの中央の1台にカメラが取り付けられていて, それがKasgaの姿を撮影していた. 

彼女の周り, すなわち部屋の4辺には, 20のKassen clubの旗が1本ずつスタンドに立てかけられずらりと並べられていた. 

そしてこの日, Kasgaは, Kassen communityのUnifierとしての正装でこの戦いに臨んでいた.  すなわち, Hanasaka Cityを象徴するFour Heart Emblemの銀箔が押されたhip protectorとshoulder protectorを付け, 赤紫, 金, 萌黄, 紺の色の鮮やかなひもを組み通した黒のOutfitsを身にまとっていた. 

金色のFour Heart Emblemのcrestを付けた黒のhelmetは頭にかぶっていなかったが, 敵が攻めてきたらすぐにかぶれるように, 彼女が座るいすの横に置かれた小さな丸い木製のテーブルの上に乗せていた.  また, 近接戦闘になることも想定し, 顔面にはsmart glassesではなくsmart gogglesを装着していた. 

“皆さん, おはようございます.  私のほうも準備が整っています.”

彼女は両手を振って明るく朝の挨拶をした.  この日の戦いは, リアルタイムで全世界に発信されるようになっており, 気の早い報道機関は午前0時から生配信を続けていた.  ただし, 各国の報道機関が自由に撮影できるのは, 安全確保のため, Hanasaka City Officeが認めた場所だけであり, それ以外の映像は, Castle Park内においては, 警察やCastle Officeが設置したカメラで捕らえた映像をそのまま報道機関も使えるようにした. 

とはいえ, 城のMain Keep Areaに限っては, 民間団体であるCastle Officeの管理下にあるため, 彼らにとって都合の悪い情報は外には出さないようになっていた. 

彼女の挨拶のシーンはもちろん同時に全世界に発信され, それを見ていたこの星の多くの人が, 彼女が生きていることを確認し歓声を上げた. 

そしてKasgaは, 開戦前に短いスピーチをおこなった. 

“Hanasaka City, そしてこの城を守っている皆さん, おはようございます.  私は今日, Police Departmentからの委託を受けて, これから実施される迎撃作戦の開始と終了の宣言をします.  皆さん, 私たちの城を燃やした敵対勢力から, このhometownと私たちの未来を守るために, 一緒に戦いましょう.  武器を持つ者はそれを持って, 言葉を使える者はそれを発して, 勇気がある者は自らを奮い立たせ, 愛がある者は仲間を助けてください.”

この時もKasgaは, これまでの演説と同様, 腹の底からしっかり声を出しているため, 聞いている者の耳にその言葉が伝わるのみならず, その思いもきちんと届いた. 

“もちろん多少の犠牲者が出ることは分かっています.  場合によっては多くの人がつらい目に遭うかもしれません.  だから…, 私の精神力が…, 持たない可能性も否定できません.  すみません…  弱くてすみません…  でも…, 皆さんはきっと強い.  それに, 全世界23のFlora sistersが連係して戦いに臨みます.  だから, 私たちは負けない.  私たちはこの試練を乗り越えられるでしょう.  戦い終わって, 皆さんと笑顔でお話しできることを心から祈っています.”

そして最後にいつもの言葉で締めくくった. 

“May blessings be upon you all and Hanasaka!”

すると城内のあちこちから同時多発的に, “オーッ!”と力強い声が上がった.  Kasgaの言葉を聞いた多くの人たちは, 彼女が悲しみ嘆くような姿を絶対見たくない, すなわちこの戦いはできる限り少ない犠牲で勝たなければならないという確固たる意志を持つことができた. 

“Kasgaさんは, 本当に戦いの天才ね.”

城の地下深くのPrincess Tree HallにいたMonicaは, 高さが3メートルほどある鉄製のフレームを格子状に組み合わせた簡易な壁に取り付けられた, 横幅が2メートルを超えるスクリーンを見上げながらつぶやいた. 

すると彼女のそばにいたPrishaがその言葉を拾って, “そうね.  不安な気持ちでいっぱいなのを隠そうとせず, そして笑顔を絶やすまいと努めている.  しかも演じている感じが全くない.  媚びているふうでも泣きすがるふうでもない.  本当に最強ね.”と応じた.  そして, ISSのメンバーに, Kasgaとその周辺の現状について口頭での読み上げを求めた.

“チャネル807, 異常なし.  秘匿通信可能.”

“Haru-Sword, 充電率, 100%.  スタンバイ状態で, Floraと接続完了.  通信状況, 異常なし.”

“生体情報.  視覚, 聴覚, 問題なし.  心拍数, 130を超えていますが許容値内です.”

“Castle Park, 天候, 晴れ.  気温, 10.2度.  南の風, 風力2.  1時間以内の降水確率, 0%.”

“Keep Area内のmech-roach, 作動中の数4096.  Mech-bee, 9600.  Mech-dog, 64.  Mech-dragonfly, 72.  Mech-hawk, 12.  Mech-roachとmech-beeは, 半分が充電スポットでスタンバイ状態です.”

“風力発電装置, 128, 問題なし.  太陽光発電装置, 256, 日の出とともに発電量, 急速に上昇中.  Mech-animalsへの無線給電, 問題なし.”

“Keep Area内のすべてのカメラ, 侵入検知センサー, 異常なし.”

報告を聞き終えたMonicaは, 全世界にそのまま発信されない秘匿回線で, “Kasgaさん.”と呼びかけた. 

“はい, Monicaさん.”

Monicaの姿が目の前に設置されているモニターではなく, KasgaのAR viewに現れ, 音声も入ってきたので, Kasgaはすぐさま返答した. 

“緊張していますか?”

“はい, とっても.”

明るく素直な彼女の返事に, Monicaは, “そうでしょうね.  まあ, 誰だってそうです.  でも大丈夫.  想定の範囲内です.  この戦いは, すべてFloraの自動制御でおこないます.  そのFloraが実行するプログラムの基礎を組んだのは, 私たちの恩師であり, Kasgaさんのお姉さんであるHarunaさんです.  だから, どうかご安心ください.”と言って, Monicaは親指を立てて見せた. 

そして隣にいたPrishaが, “Kasgaさん.  あなたがあの丘の上で見て話した, ‘情報としてのHarunaさん’は, 説明がちょっと難しいのですが, Floraと密接につながっています.  だから, この作戦実行中, Kasgaさんは, Haru-Swordを通じてFloraと直接つながっていますが, それはつまり, お姉さんともつながっていると言えます.  もし何か思うことがあったら, 何でも声に発してくださいね.”と補足した. 

それを聞いたKasgaは目を輝かせて喜び, “ありがとうございます.  じゃあ, 今, 一言だけ…”と言って, 胸の前で手を合わせた. 

“お姉ちゃん.  今でも甘えていいなら, どうか私を守って.  私は死にたくない.”

それを聞いたMonicaが目にうっすら涙を浮かべ, おのずと口が開いた. 

“あぁ, そんなことを言ったら, Harunaさん, 完全に本気出すわよ.”

そして, 7時の時報が鳴った.

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