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Part 3: The Ninth Autumn

Chapter 3.21: The Battle Guardian of Hanasaka Descends!

Overview (Spoiler-Free)

As the enemy lingers in the Palace courtyard, burning through precious time, the Fighters must receive a crucial weapon before the final confrontation can begin. Keiko, separated from her teammates by a malfunction, makes an unexpected detour — and what happens there changes everything. When she finally rejoins her allies, her face is unreadable and terrifying, radiating the cold ferocity ready to deliver a killing blow.

Detailed Summary Keiko's Shining Sword suddenly powers down, barring her from entering Keep Area. Julia radios in with a solution: a replacement sword is waiting at Blue House, near Rose Bridge. The other six Fighters proceed to the Palace while Keiko detours alone — and finds Akio waiting for her inside. He calls her "Kei-chan" for the first time, and she breaks into tears, confessing she has been waiting for that moment for years. When she grips the sword's scabbard, a blue light envelops their hands — Flora's activation signal. Akio places his hand over hers and quietly tells her she can win. Keiko leaves, her face transformed into the expressionless, lethal calm of a Fighter about to deliver a killing blow. Flora surges into overload mode, drawing power from across the city and from her sister Floras worldwide. When Keiko arrives and draws the Shining Black Sapphire Booster, Flora issues the decisive command: upon Keiko's signal, enemy time will be frozen for 12.8 seconds. The Fighters destroy all four mech-dogs and Chammei's team shoots down both mech-hawks — all within 12.3 seconds. The children's explosives never trigger.

Scene 3.21.1:

“いいところまで, 押し込めてたのになぁ.”

Rose Gate前にいた7人のFighterの1人, Emilioが肩をすくめた. 

Hanasaka CastleのPalaceにおけるKasgaと白い犬による舌戦は, リアルタイムで全世界に発信されていたため, FighterたちもKasgaの押しに手ごたえを感じていた.  ところが相手は, このままでは押し出されて負けてしまうと判断したのか, 途端にKasgaの言うことを言語的に理解するのを放棄して, 自分たちの殻に閉じこもり, 元々の要求を繰り返すだけになってしまった. 

Kasgaは, 敵の要求どおり, FighterにPalaceに来るよう求めるのか, あるいはその要求を拒絶して, 来なくて良いと伝えるのか, 迷った. 

もっとも, Kasgaが判断を下すまでもなく, この作戦が実行されている間の最高司令官であるFloraが, Chammeiを除く7人のFighterに対してPalaceに移動することを, そしてKasgaに対してそれを追認することを, 穏やかな声で, しかしながらあらがいがたい調子で求めた.  そして, 心配が尽きない人間たちにFloraは, Kasgaのおかげで, 敵に十分な負荷を与えながら時間稼ぎができ, おおよそ反撃の準備が整ったため, 子供たちを含め全員が命を落とすことなく敵を打ち負かすことは可能であると告げ, FighterたちがPalaceに到着次第, 次の指令を出すことを伝えた. 

Floraがいよいよ大掛かりな何かを始めようとしていることは, この作戦の開始以降, 右上がりで増え続けていたFloraの消費電力が, この時点からその伸びが倍以上に跳ね上がり, さらに電力をFloraに集めるために, 市内のいくつかのスポットが虫食い状態でほぼ停電状態になっていったことから推察できた. 

しかしそのようなデータを見ていないFighterたちは, 自分たちが敵に押されっぱなしでいよいよ苦しい状況に追い込まれていると考えていた. 

“我々の司令官は大丈夫っておっしゃるけど, 気が重いなぁ…”

Emilioの隣にいたNelioはため息をついて弱音を吐いた.  昨日, みんなで, 敵が虫たちを自分たちの前で飛ばす事態にだけはならないでほしいと祈っていたが, まさにそうなる場面が用意され, これからそれを体験する手はずになっているからだ. 

この時点においても, 彼らは, 大量のmech-beeに対する有効な防御手段を持ち得ていなかったため, 必ず負ける試合に参加させられる気分であり, しかも下手をすると死ぬ可能性がある.  そうなるといくら戦うことが仕事であっても, 本能的に忌避したくなる. 

“要するに, 虫と勝負する事態になる前に, あの犬や鳥を打ちのめすしかないだろう.”

“Donさんの言うように, そうすべきだと思いますけど, 0.1秒以内に6機全部を片付けないと, 生き残ったいずれかの機体が子供たちにくくり付けた爆弾を爆破させるコマンドを送るでしょう.”

Aptiは, 自分たちが採るべき攻撃方法に異論はないものの, 人間には能力的に乗り越えられない高い壁があることを仲間たちに再認識させた. 

“やつらを完全に片付けるには, mech-hawkは狙撃銃で撃ち落として, mech-dogは我々が持っているこのswordで胴体を切断する必要があります.  このbladeはかなり鋭利ですから, 上から思い切り振り下ろせば切れると思います.  ただ, mech-dogは通信ユニットがおそらく頭部にあるでしょうから, 首の辺りも切断して, 胴体のどこかにあるコントロール・ユニットからの制御を断つ必要があります.  そこまでを0.1秒以内に実行しないといけません.”

Falconは, 越えるべきハードルの高さをより正確に明らかにしたが, それは仲間たちの士気を下げるだけの効果しかなかった. 

“いずれにせよ, さっさと行こう.  1分半, すでに消費している.”

最年長のEinanは, 自分のShining Swordをscabbardから抜いてRose Gateのほうに刃先を向け, 考えれば考えるほど暗い気持ちに陥っていく仲間たちに, それ以上の思考をやめさせた.  ただしその中には, 明るい気持ちを持った例外が1人いた.  Keikoは, “はい!  すぐに行きましょう.”と, 先輩に元気よく返事した.  純粋に彼女は今すぐKasgaに会いたいのである. 

ところがこの時, Keikoが持っていたShining Swordの電源が突然切れた. 

“え?  何?  どういうこと?”

Swordのgripを右手で握ったときに親指が当たる辺りにあるボタンを長押しすると電源が入るが, Keikoがそれを3回繰り返しても, 全く反応がなかった.  電源が入らなくても物理的なリーサルな武器として使うことはできるが, 敵味方の識別機能が働かないため, 門の中に1歩踏み込むや, 城の中枢部分を守るmech-animalsから襲われることになる. 

Einanの呼びかけに応じて, Don, Apti, Emilio, Nelioが続けてShining Swordを抜刀し, 開かれた門扉のほうに歩いていった. ところが, 真っ先に走っていく勢いであってもおかしくないKeikoがさっきから立ち止まって自分のShining SwordとにらめっこしてもたもたしていることをNelioがいぶかって, “何してんの?  行くよ.”と, 彼女に声をかけた. 

Keikoが足を地に付ける暇も惜しむぐらいに足踏みしながら激しく焦って, 電源が入らないことをNelioに告げると, “さっき, Floraに逆らうようなことをしたからじゃないの?”と, Nelioにからかわれた. 

“ど, どうしよう.  どうしたらええと思う?”

“ここで待っているしかないんじゃない?  それがないと味方の虫に襲われるんだし.”

それは彼女にとっては全く受け入れられなかった.  ここ一番の肝心な場面で, 何のパフォーマンスも発揮せずに退場を宣告されるようなものだからだ.  KeikoはNelioに抱きついて, “一緒に行こ.”と誘ったが, Nelioは, “やめてくれよ.  そんなことしたら, 虫が識別できなくなっておれも襲われるだろう.”と断って, 腰をくねらせながら後ずさりして彼女の腕を振りほどこうとした. 

“おい, こんな時に, こんなところで, いちゃつくなんて, おれでもしないぜ.”

さらに前にいたEmilioが2人の声に気づいて振り返り, KeikoがNelioにまとわりついている様子を見て肩をすくめた. 

“ち, 違う.  Keikoさんのswordが壊れて電源が入らないらしいんだ.”

Nelioは, Keikoと恋愛関係にあるのではないかと疑われるのを嫌がった.  おとなしくてしとやかな女性が好きな彼にとって, Keikoは友人にはなれても, 恋愛の対象では決してなかったのだ. 

“Nelioくん.  一緒に行こうよ~.”

Keikoが彼の体にくっついてなおも粘るので, Emilioが, “おいおい, 本気かよ.  あの時, 彼氏がいないとか言って悪かったよ.  やれやれ, こんな時に, アピールしなくてもいいじゃないか.  気持ちは分かったから, Nelioといちゃつくのは後にしろよ.”と言って, 彼女を落ち着かせようとした. 

“いや, だから違うって言ってるだろ!”

Emilioが本当に勘違いしているのではないかと思い, Nelioは強く否定し, 彼女の腕をつかんでほどこうとした. 

“嫌や~.  なんとかして~.”

Keikoが泣き出したのでほかのFighterたちも気づき, Keikoのもとに近寄った. 

“まあ, これも運命だ.  もしかしたらおれたちはPalaceで命を落とすかもしれん.  KeikoさんとChammeiさんだけは生き残るべきだという神様の意思かもしれん.”

Donが優しく彼女の肩を叩き, 運命に従ったほうが賢明だと諭したが, “そんな神様, しばき倒します.”と, Keikoはきっぱりと断った.  しかしだからといって彼女が現実的に何か有効な策を持っていたわけでもなかった. 

その時, Fighterたちの回線にJuliaが入り, “皆さん.  Castle OfficeのEISのJuliaです.  予備のShining Swordがあります.  Keikoさん, 橋の南に水色の瓦屋根の建物が見えますよね.  そこに急いで来てください.  受け渡しに少し時間がかかるかもしれませんので, ほかの皆さんは, 先にPalaceのほうにお進みください.  あと2分しかありません.”と, 助け船を出した. 

Juliaは, Akioとともに, Palaceの地下深くにあるUmber HouseのPrincess Tree Hallから地下通路を使って, Rose Bridgeの南に建てられていた“Blue House”と呼ばれる工事現場用の事務所に到着していた. 

彼らは, Umber HouseからPalaceの1階に通じている直通エレベーターで一気に地上に出ようと思えばできるが, そうはしなかった.  なぜならShining Swordの持ち主ではない彼らは虫たちの無差別攻撃の餌食になるし, すでに近くまで来ている白い悪魔の使者に察知される可能性が大きいからだ. 

そのため, 地下道を通って, 一旦, Main Keep Areaの外側でかつ戦いの現場に最も近いBlue Houseに出て, そこからRose Gateの前にいるKeikoに近寄ってそのShining Swordを渡すのが確実で安全だと考えた. 

そしてそのタイミングが来るのを, 事の経緯を見守りながらじっと待っていたが, ついにその時が来たと判断した. 

地面に座り込んでいたKeikoは, EquipmentのinspectorによるWeaponsの交換がこんな時にも実施されることに感激し, 立ち上がって両手でガッツポーズをした. 

“試合でもないのに, なんでこんなところにEISの人がいるんだ?”

Emilioは不審に思ったが, Aptiが, “まあ, いいじゃないか.  ありがたくサポートを受けよう.  Keikoさんがいてくれるほうが安心だ.”と, 細かいことは気にせず賛成し, Donも, “そうだな.  彼らのサポートにはいつも感謝している.  せっかく用意してくれてるんだから, 遠慮する必要はない.”と, 余計な詮索をやめさせ, Keikoに対して, “じゃあ, おれたちは先に行くから, すぐに来いよ.”と言って, 白い歯を見せて親指を立てた. 

“はい, すぐに行きます.”

Scene 3.21.2:

Rose Gateの扉のほうに速足で向かう6人のFighterたちに手を振ったKeikoは, 体をさっと反転させて, 橋の南にあるCastle OfficeのBlue Houseのほうに走った. 

“代わりのShining SwordをKeikoさんが手に入れたとしても, あの虫たちと戦って勝てるのかしら…”

Watchtowerの上の回廊に身を潜めていたChammeiは, 自分たちが総出で戦っても勝てる気がしなかった.  なのにKeikoやDonが明るい声で会話していたのが聞こえ, なぜそうした心境になれるのか理解できなかった. 

その時, ChammeiのAR viewに, Floraからのメッセージが表示された. 

“今, Keikoさんが取りに行こうとしているのは単なる代用品ではありません.  この戦いを終わらせる決戦兵器です.  心配ご無用です.  Chammeiさん, いよいよあなたたちの出番です.  今は敵をよく観察してください.  追って指示します.”

自分の心配を見透かして出してきたのかと思えるほどのちょうど良いタイミングで自分を励ますFloraに彼女は驚きを隠せなかった.  しかも, 決戦兵器なるものを用意していて, それをKeikoに使わせようとしていることが分かり, いったいこの後, 何がなされるのかイメージできず, 緊張感が高まった. 

“Keikoさんが何をするのか分からないけど, Floraがいよいよ決着をつけるって言うのなら, 私も決着をつけることにするわ.  私は今から家族の恨みを晴らす.”

青空を模した色の瓦屋根のBlue Houseの戸口の前に着いたKeikoは, それが自動扉であるのに作動せず, またその扉が木の板を張ったもので中の様子が見えなかったため, 右脇に取り付けられたチャイムのボタンを押した.  と同時に, いきなり扉が左右に開いた. 

すると, 彼女の目の前3メートルほど先には, Akioが独りで立っているのが目に飛び込んできて, 思わず息を大きく吸って驚いた.  事務所の中に入れば, てっきりJuliaがその代用品を持って現れると思っていたからだ. 

“あ, あ, いや, その, EISのAkioさん…”

Keikoは, 完全に不意を突かれて言葉がうまく発せられなかった.  対するAkioのほうもカチコチに緊張して, 顔がこわばり, あいさつの1つもできない状態だった. 

“えっと, あの, なんやったっけ?  あ, そ, それが…, か, 代わりのswordですよね…”

やっとの思いでKeikoは, 彼が両手で胸の前に呈示しているShining Swordを指差して, 自分がこの場所にやって来たのは, 代わりのswordを受け取るためであることを思い出した. 

“あ, そ, そう.  Swordが壊れたって言われたから, こ, これを, Keiちゃんに渡そうと思って…”

Akioのほうも一生懸命, 自分がKeikoに代わりのswordを手渡すためにここにいることを説明しようとした.  しかし, Keikoはたちまち固まった.  彼が彼女の名前をいつものように“Keikoさん”と呼ばなかったからだ.

“今, なんて言うたん?”

Keikoが黙っているので, 自分の発言によって彼女の機嫌を損ねたと思ったAkioは慌てて, “あ, いや, その, Keiちゃん, これから戦いにいくのに, その…, 自分は, これ, 渡すだけって, その…”と釈明したが, 何と言えば良いのか分からず, 結局, 言葉に詰まった. 

“いや, その…, 今, ウチのこと, なんて言うたん?”

驚くべきことにKeikoはAkioの心の中が読めない唯一無二の人だった.  そのためKeikoは, 彼の言い訳には興味がない態度で, 自分の名前を今, 何と呼んだのか, それが聞き間違いだったのかどうかを確認することにこだわって, 食い入るような目つきで, 瞳をウルウルさせて, 彼を見た. 

“あの, えっと, その…, JuliaさんからKeiちゃんのswordが壊れたって言われて, だから, これを, 渡そうと思って…”

もちろんKeikoの心の中を読めないAkioは, 彼女がいったい何に引っかかっているのかが分からず, 改めて自分の行動を説明し直した. 

するとKeikoの透き通った瞳から涙があふれ出た.  そして, 白い歯を見せて笑顔を見せた. 

“ありがと…  ウチ…, ずっと待っててん…  Akiくんに, Keiちゃんって呼ばれるの…, ずっと, 待っててん…  ほんま…, ウチ…, めっちゃうれしい…”

Keikoは, こんな日に, こんな場所で, 自分が今までずっと願っていたことが叶うなど, 全く予想していなかった.  そのため, 今のこの状態を受け止めるには時間がかかりそうだったが, 体のほうが素直に反応し,涙と鼻水が流れ出て, 声を発して言葉にするのが難しかったが, 彼女はなんとか自分の思いを彼に伝えることができた. 

しかしふと, 今のこの会話は, 作戦遂行のために警察側のシステムとつながっている自分のsmart gogglesによってリアルタイムで記録され, 誰か見られていてもおかしくないと思ったKeikoは, Akioの胸に頭を押し当てたい気持ちをぐっとこらえて, 右手でsmart gogglesを少し上げ, 左手で涙と鼻水をササッと拭き, 彼が手にしていたswordのscabbardを, smart gloveを装着した右手でつかんだ. 

すると2人のAR viewの中では, scabbardが青白い光に優しく包まれ, Akioとしては, これが青い光を放つものだったのだと理解し, 自分のミッションは達成されたというサインだろうと考えた. 

他方, Keikoのほうは, この光が何なのかは分からなかったが, このswordを自分が持つことを認められたサインなのであろうと考え, “ありがとう.”と一言, 受け取った旨を彼に告げた. 

そしてその瞬間, Castle Officeの地下のHallの大型スクリーンに, “Shining Black Sapphire Boosterへの新たなアクセスを確認.  Keiko Sacra.  適正ユーザーです.  これより, 最終決戦プロセスに移行します.”と, 自動で読み上げる音声とともにメッセージが表示された.  続けて, スクリーンの枠が赤色に点滅し, 警報のブザーが鳴り始めた. 

“緊急事態発生.  Floraの演算量が急激に上昇.”

“市内の停電箇所がさらに増えていきます.”

“サーバー室の冷却強化.”

“市内の約4割の地域への電力供給停止.”

“こ, これ, まずいんじゃないか?”

ISS (Information System Section) のメンバーが様々な情報システム上に表示されている現状を声に出して周りに伝えていたが, これ以上の力を出すとスペック上, 自壊すると考えられるラインにFloraが何のためらいもなくグングン向かっていることに不安を隠せなかった. 

しかしPrishaは, “心配ない.”と言い放ち, 同僚たちの動揺を鎮めようとした. 

“彼女には世界に22のsistersがいる.  彼女たちが今, 懸命に支えている.  今まで見てきたFloraは平常の姿だ.  ここからが彼女の本気の戦いだ.”

Keikoがscabbardを握ったことから, Akioとしては両手を放しても良かったが, Floraからの指示に従い, 彼女の手の上に自分の右手をそっと重ねた.  するとKeikoは, 口をぽかんと空けたまま, 他人が見て分かるぐらいに赤面した.  慌てて彼女はうつむいた. 

“がんばって.  今度はきっと勝てるよ.”

Akioの言葉に感極まったKeikoは, scabbardを破壊してしまいそうなほどの力で握り締めた. 

“うん.  ウチ, がんばるわ.”

自分の顔が激しくほてっているのを感じているKeikoは恥ずかしくてAkioを正視できず, 視線を落としたまま小さな声でかわいらしく返答した. 

そして, Akioがswordから手を放したと同時に, 彼女はクルっと体を反転させて戸口に向かった.  自動扉が開いたがすぐには去らずにそこで立ち止まり, “みんなのところに, 行くね.”と, 彼に背中を見せながら低い声で伝えたうえで, 外に駆け出した. 

その時の彼女の表情は, Akioに背を向けていたため彼に気づかれなかったが, 完全に一変していた.  もはや闘志がみなぎるというレベルをはるかに超え, Keikoの顔は無表情だった.  気合いが入っているのかどうかすら分からず, 全く何を考えているのか誰も読めず, それゆえその目でにらまれると恐怖で心臓が震え上がり, どんな勇猛なFighterでも戦意をたちまち喪失させる殺人的な迫力を感じさせた. 

“Flora, 演算量, さらに上昇.”

“危険です.  あと2分ほどで臨界点に達します.”

“や, やばいぞ.  Floraが暴走している.  怒り狂ってる…”

“このままだと焼け死んでしまう.  Keikoさんは, いったい何をしたんだ?”

周りが騒然としてきたところで今度はMonicaが, “心配する必要はない.”と, 声を張り上げて制した. 

“Floraは, 5分程度であれば, 限界値を突破して暴走モードで戦える.  Keikoさんはその限界値を突破させるための最後の鍵だったのよ.  今, それがアンロックされ, Floraは半ば自己統制できないぐらいに興奮した状態で最終決戦プロセスに移行している.  でも決して自我を見失うほどじゃないから, どうか信用してほしい.  狂暴になった彼女が今から, ‘Stone Cold’をぶっつぶす!”

Monicaは, 高らかに宣言して握りこぶしを突き上げた. 

Castle OfficeのDirectorたちだけに知らされているFloraのCCP (Combined Combat Power) が暴走モードで一時的に1000を超えるかもしれないと予測したPrishaは, “黒い石を持つAkioさんが青い光を放つKeikoさんに接触したことで, Keikoさんは, 今, 満ちあふれた幸せと猛烈な闘志で, 彼女自身も経験したことがないぐらい, ものすごいエネルギーが体中をめぐっているのを感じているはず.  そのエネルギー値をあのswordで検知して, Floraが自らにかけた暴走モードのロックを外す.  Harunaさんらしいシナリオね.”と, Monicaにささやいた. 

“実に手の込んだ発動条件ね.  加えて言うなら, KeikoさんのエネルギーはFloraのCCPをさらに高めるのにも役立っているでしょう.  まあ, それにしても, Harunaさん自身は好きな人に裏切られてしまったわけだけど, だからと言って, 妹の親友の恋愛に花を咲かそうなんて, お人よしというか, 余計なおせっかいというか…”

“きっとHarunaさんは, 自分の妹と, 他人の恋愛話で盛り上がるっていう, 日常生活でよくあることを, やりたかったんじゃないかしら?”

Scene 3.21.3:

少し時間をさかのぼり, Keikoより一足早くPalaceに向かっていた6人のFighterたちは, 彼女がCastle OfficeのBlue Houseの中でAkioから決戦兵器を受け取っている間に, 大広間の前の白い砂利の庭に到着し, 右側面から敵をにらみつけた. 

“8時24分.  大人のくせに2分も遅刻したな.”

大広間に向かって右側にいた白い犬がFighterたちに近づき, 彼らに赤い目を光らせて, 社会人として必要な時間厳守の精神が無いことをとがめた. 

“厳しいこと言うなよ.  おれたちは, おまえたちのような優秀な機械じゃないんだしさ.”

Fighterたちは前と後ろに3人ずつ横に並び, 敵を前にして前方の右に立っていたEmilioが“Machino-supremacy”をもって, 全く悪びれた様子もなく言い訳をした.  もちろん彼らは, Floraの指示に従い, 敵に怪しまれない程度に時間稼ぎをしながら, 慌てずにこの場所にやって来たのだ. 

“どうせ, わざとゆっくり来たのだろう.  それに6人しかいないじゃないか.  残りの2人はどうした?”

当然ながら今日の作戦に参加している8人のFighterたちの容姿を記憶している敵一味は, 彼らの中に一緒にいるはずのKeikoとChammeiの姿が検知できない状態であったため, その理由を尋ねた. 

“今, トイレに行っている.  すぐに来るから待ってくれ.”

Emilioと反対の前方左にいたFalconがわざと不愛想に答えた.  明らかにうそだと分かることでも, それを平然と言うことで, 相手にわずかながらも余計な推察をさせることができるのだ.  人間なら一笑に付すだけだが, 機械の場合, その可能性が著しく低いことを改めて確認しようとする可能性がある. 

ただ, 彼らがKeikoの到着を待っていたのは本当であった.  彼らがRose Gateを通り抜けたときに, Floraから, Keikoと合流するまでは戦闘を開始しないよう求められていたからだ. 

“とぼけるな.  どうせ, あのwatchtowerに隠れて, 上から攻撃してくるつもりなんだろう?”

機械たちが, この庭の南西方向に見えるwatchtowerの回廊に狙撃役の者が潜んでいることにすでに気づいていたのか, 今気づいたのか, 単なる推測にすぎないのかは分からないが, Chammeiたち3人を含め, その場にいた全員の心の中を動揺させるには十分だった. 

ここで敵のmech-hawkがwatchtowerに近づいて調べれば, 1分も経たないうちにChammeiたちを発見できる.  そうすると, 白い鳥たちは直ちに彼女らを攻撃してくるだろうと思われた.  スナイパーのような存在は, 見つけ次第直ちに排除しようとする可能性が高い.  鳥たちが攻撃してくれば, 当然, 彼女らは反撃せざるを得ないが, その瞬間, 子供たちにくくり付けられた爆弾が爆破されるおそれがある. 

“ごちゃごちゃ言うなよ.  ここにいるおれたちだけでもいいじゃないか?”

機械たちによそ見をさせまいと, 前方の中央に立っていたDonが威勢よく白い犬に声を張り上げて提案すると, 後方右にいたEinanが, “じゃあ, 私からでお願いしたい.  この中で一番年を取っている私が最初であるべきだ.”と, 潔く死を決したかのような言い方でさらに敵に迫った. 

“Einanさん, いいんですか?”

Einanの左にいたNelioが不安げな目で長身のEinanを見上げると, 彼は, “こういうのは年の順だ.  それが自然の摂理だろ?”と, わずかな笑みを見せながら, 遺言めいたことを彼に伝え, 先頭にいたEmilioやFalconよりさらに前に歩み出た. 

Nelioが心配していたのは, Einanが死に急ごうとしているからではなかった.  まだ, Keikoが来ていなかったからだ. 

もう少し時間稼ぎをする必要があると察したDonは, “おまえたち, おれたちが相手で良かったな.  Fighter Keikoが相手なら, おまえら, 勝てないから.”と, 挑発の言葉を入れてみた. 

それに対して, Keikoを大バカ者と評した犬が, “バカなのに?”と, 冷たく疑問を呈した.

“フン.  おまえら, ちっとも分かっていない.  あいつは天才だ.  あいつと戦う時は, 自分が優位に立っていると思っても, 気づいたら, 死の淵だ.  そして一撃必殺でやられる.  おまえらごとき, 一撃で十分.”

Don自身も, Singles Matchで彼女の演技にだまされて一撃でやられた.  Emilioも, 彼女と踊って気持ち良くなっていたところでクリティカルな一撃をくらった.  Chammeiも, 深く前に出たところでArm-guardに強烈な一撃を受け戦闘不能になった.  ここにいないAbilioも, 彼女の一撃でspearを手放してしまい, 勝負を決められた.  Donの言っていることは, Fighterたちには, 真理なのだ.  皆, 彼女にやられた瞬間を思い出した. 

“そうだな.  悔しいけど, あいつは最強だ.  これはうそでもハッタリでもない.  Donさんの言うとおり, おまえら, 一撃でやられるぜ.”

Emilioも, それは疑いようのないことであって, 必然だと付言した. 

するとその時, 後方にいたAptiとNelioが左後ろからこちらに歩いてくる足音に気づいて振り返った.  だが彼らは, その時, 今まで見たことがない悪魔のような者が近づいてくるが目に入ってきた. 

“K, Keikoさん, なのか…?”

これがアニメやビデオゲームであれば間違いなく黒いオーラが彼女の全身から放たれていただろう.  現実世界ではそのようなものは見えないが, Nelioは, その見えないものが脳内で映像化されてしまうほど, Keikoの冷酷無慈悲な表情を見て驚き, 思わず半歩後ずさりし, 敵のほうに逃げ出したくなった. 

彼女はFighterたちがいる場所の手前10メートルの辺りまでは走ってやってきたが, そこからわざと堂々と歩いて近づいてきたために, さながらラスボスの登場シーンのようであった. 

同様の恐怖を感じたのは, そこにいる人間全員だった. 

子供たちは, この全身ナス色の, 見るからに悪者のボスのような雰囲気を醸し出した存在が自分たちの味方とは思えず, 震え上がった.  Fighterたちも, いつもと違う彼女に, どう声をかければよいのか分からなかった.  大広間から庭のほうを見ていたKasgaも, 妹のようにかわいがっているKeikoがまるで黄泉の世界からやって来て今から人間たちの命を刈ろうとしている死神のように見えてしまうことを, どう解釈すればよいのか分からず, 開いた目を閉じられなかった. 

“おぉ, これはすごい.  戦いの守護神が降臨した時というのは, こういう感じなのか…”

Fighterたちの近くで彼らの目線と同じぐらいの高さを飛んでいるmech-dragonflyが撮っている映像をスクリーンで見ていたPrishaがつぶやいた.  彼女には今のKeikoが, ‘CCP: 1000’を具現化した存在に見えたのだ. 

“Flora, 臨界点突破まであと50秒.”

“Shining Black Sapphire Booster, 抜刀防止ロック解除.”

“破壊プロセスに移行します.”

Scene 3.21.4:

“ま, 待ってたよ, Keikoさん.”

仲間たちがいる場所に到着したKeikoに, なんとか平常心を保てていたAptiが若干, 顔を引きつりながら無理やり顔をほころばせ, 後ろに少し下がり, 前面に出るよう促した.  自分たちはこうして時間を稼いで待っていたのは, Floraが彼女に何かをさせるためなのであろうと考えたからだ. 

しかし彼女はその場に立ち止まり, 顔面のいずれの部分をも微動だにさせず, 左腰の辺りのベルトにかけていたscabbardに左手をかけた.  Floraから彼女のAR viewに抜刀の指示が出たため, Akioから受け取ったShining Swordを抜こうと右手でgripをつかんだ瞬間, あの使い慣れた“Four Star Spear”と全く同じ感触を, 彼女の手のひらと5本の指を通して得ることができた. 

“Akiくん, これ, 最高やわ.”

何の感情も認識できないような表情だったKeikoは, 唐突に, 鬼が今から人間をうまそうに食べようとしているときに見せそうな不気味な笑みを浮かべ, scabbardの中でbladeがこすれる金属音を味わうかのように, ゆっくりとswordを抜いた. 

するとsmart gogglesで見ているHanasaka側の人間, すなわち8人のFighterたちと, Kasga, Haruki, Anjuのscabbardが青白く光り, いよいよこの場で実行される最終プロセスの始まりを示した. 

そしてKeikoがscabbardから完全にswordを抜いたと同時に, その場にいるHanasaka側の11人すべてに対して, Floraが彼らのAR viewに戦闘の指示を出した. 

“Keikoさんが‘Fight’と声を発した瞬間から12.8秒間, 敵側の時間を止めます.  その間に, 敵のすべてのロボットを完全に戦闘不能にしてください.”

これは物理的に時間を止めることを意味しているのではなく, FloraがStone Cold側に打ち込んだくさびを介して, 相手方が持っている時計が捉える時間を128倍に引き延ばすプログラムを強制的に実行するものであった. 

つまり, 4機のmech-dogと2機のmech-hawkを0.1秒以内にすべて動作不能にしてしまえば, 子供たちに付けられた爆弾への発破信号が発せられないものの, それは人間には速すぎて実行不可能であるため, それを可能にするために, その128倍, すなわち12.8秒間をFighterたちに与えたのだ. 

これこそがFloraの最強の隠し技であった.  もちろんそのような攻撃手法があることは知られていたが, どのタイミングでどのように発動させるかは最後のギリギリまで誰にも知らせなかった.  そして, それを格下の相手とはいえCCPが500ほどあると考えられる凶悪なAIを相手にして, 十数秒間, 時間が止まるかのような処理をすることができるとは誰も想定していなかった. 

実際, Floraとしては, 今までに彼女が経験したことがないものすごいパワーを必要とし, それゆえ市内の多くを停電にさせながら, 異常に高負荷な演算をおこなう必要があったのだ. 

“Fighter Keikoに, 警告する.  刀を, scabbardに…, 収めろ…  い, ま, す, ぐ.”

Donの正面にいた白い犬が, 彼の大きな体に隠れながら刀を抜いたKeikoを見逃してはいなかった.  このまま抜刀したままの状態でKeikoが構えていると, 戦闘開始の意思ありとみなされ, 子供たちの命を危うくする.  しかし, このmech-dogの発声は明らかにゆっくりで, 最後のほうは不自然なほどに音が途切れていた.  まもなく臨界点に到達しようとしているFloraがこれまで以上に猛烈な負荷をStone Cold側にかけていたからだ. 

“Flora.  臨界点まであと10秒!”

Keikoは, 右手で持ったswordのbladeの背を右肩の上に軽く置いた. 

先ほどから彼女の一挙手一投足を, 片時も目を離さず見ていた7人のFighterとHarukiとAnjuは, Keikoのそのアクションの意味を理解した.  すなわち, 彼女がそのswordを持ち上げてbladeの背が肩から離れると同時に, 合図の言葉が発せられるのだろうと理解した. 

もちろん彼女は一言もそのようなことを皆に告げていない.  しかし彼女の殺気が一気に解放され, 必殺の一撃が繰り出されるタイミングを, 彼らは直感的に分かった.

“5秒.  4, 3, 2, 1.  突破!”

Floraが怒りの沸点に達したことをAR viewで示されたKeikoは, 威圧的でかつ落ち着いた声で, “ウチがもっと賢かったら, おまえらの言うてること, ちょっとは分かったかもしれんけどな.”と, バカに命令するほうがバカだったのだと機械の犬たちに冷たく説いたうえで, “残念やったな.  ウチがバカで.”と言い捨て, swordを握る手に力を入れた.

“さあ, Keikoさん, いつものように速攻で決めてちょうだい.”

Monicaは, Keikoの様子を映し出しているスクリーンを食い入るように見ながら, 汗をかきまくっている両手を握り締めた. 

“Kasgaさん.  今からあなたのお姉さんが本気を出すわよ.”

Prishaは, 大広間から彼らの様子を心配そうに眺めているKasgaを映しているスクリーンを見ながら, いよいよ実行されるFloraの奥義が残念ながら人間の目には見えないものの, Hanasakaを我が子のように愛したHarunaの強い思いを感じ取って心に刻んでほしいと願った. 

“Keikoさん, いつでもいいよ.”

Chammeiたち狙撃員は, 飛んでいるmech-hawk 2機を撃ち落とすことを3人の間で確認していた.  ChammeiとAnjuがそれぞれを狙撃し, Harukiは彼女らの撃ち漏らしがあったときに備えることにした. 

飛行している物体の場合, 空中で止まっている状態であっても風の影響は受け得るため, たとえ0.1秒の間であっても同じ位置には存在しない可能性があり, しかもmech-dogに比べると体が小さいために, 一発で仕留めるには高度な技が必要である.  しかし彼女らが付けているsmart glovesが自動で銃口の向きをリアルタイムで微調整してくれるため, 発射のタイミングさえ間違わなければうまくいくだろうとChammeiは考えていた. 

“大丈夫.  私には弓の神様がついている.”

彼女は深呼吸をして心を落ち着かせようとした.  2機のmech-hawkもFloraに過度な計算をさせられているのか, 先ほどから庭の上の, Palaceの屋根より少し高い辺りを同じ向きに, 同じ速度で旋回していた.  それに彼女らが, 自らの銃口を, watchtowerの回廊の両側に備え付けられた高さ1.2メートルほどの, 鉄板を表面に打ち付けた壁の所々に空けられた縦長の穴に近づけ, 狙撃の体勢に入っているのに, 白い鳥たちはそれに気づいていないのか攻撃してこなかった. 

“どっちも射程範囲内.  それに単純な動き.  いける.”

緊張の一瞬がいよいよ迫っていた. 

そしてChammeiが2回連続してまばたきをしたその次の瞬間, Keikoがswordを真上に持ち上げると同時に, “Fight!”と, 腹の底にしっかり力をためて叫んだ. 

すると地上では6人のFighterたちが, 彼女が最初にfの子音を発音すると同時に素早く抜刀し, Keikoも含めて全員が, Floraの魔法によって完全にフリーズしている4機のmech-dogに向かって駆け出し, battle cryを上げながら, 首をはね, 胴体を垂直に真っ二つにぶった切った. 

彼らは, こうしたロボットは胴体の1か所を突き刺したり, 脚などの一部分を切り取ったりしただけでは機能が完全に停止しない場合があることを知っていたため, 対象物をおおよそ等分に3つか4つに完全に切断する必要があると考えていた. 

そのため, 前面にいたEmilio, Einan, Don, Falconはそれぞれ2人組で, 自分たちから見て奥にいた2機を, そしてAptiとNelioは向かって左前にいた1機を, さらに最も後ろにいたKeikoは自分の真正面にいた, 自分に命令した1機をターゲットとして設定し, 数回, swordを思い切り振り払い, リセットも修理もできないまでに破壊した. 

わずか12秒しかない中で, 7人はそれぞれ処分すべき機体を暗黙のうちに認識し合っていたため, ぶつかり合うことなく連係してつぶした. 

一方, 上空のほうは, Chammeiの右のほうで銃を構えていたAnjuが, Keikoの合図の1秒後に素早く1機を撃墜した.  そして残りの1機.  Chammeiは焦らずに, AIのアシストを受けながら, 対象物に当たる風の向きと方向を, 五感を通じて読み, 引き金を引くタイミングを待っていた.  残り5秒. 

“クソAIめ!  我々が‘survival winner’だ!”

彼女らしくない汚い言葉で心の中でののしって発射されたChammeiの渾身の弾丸も, 見事に命中し, これによって悪魔の使者たちは12.3秒ですべて機能を完全に停止した. 

最後の1機を打ち砕くや, Chammeiは思わず, “やった!”と声を発した. 

彼らはFloraから指示された作業を見事にやり遂げ, その場に連れてこられた子供たち8人も, 爆弾は作動せず, 全員無事だった.  KasgaやFighterたち, Hanasaka側の11人ももちろん無傷だった.

Scene 3.21.5:

しかしその2秒後, 彼らに喜ぶ時間を与えずに, Palaceの中も含めて, 自分たちが見えている範囲内のすべての照明が消えた.  そしてその場にいる全員のAR viewに, その場にしばらく待機するようFloraから指示が出された. 

“戦いはまだ続いている.  心配ない.  5分以内に決着はつく.”

太陽の光に照らされている地上と違って, 屋内の照明の照度が9割以上落ちて, 2メートル先の他人の顔がはっきり見えないほどの暗さになったUmber House内で, Monicaは, 突然の出来事に驚いた同僚を落ち着かそうとした. 

子供たちを引き連れた6機のロボットがすべて機能を停止したことを発動条件として, ついに, Stone Coldは, “Stone Souls”のネットワークを通じて, 全世界のユーザーから集めた彼らの無意識にやってしまうしぐさを材料にして組み立てた, 様々な有害作用を次から次へと引き起こすための因果関係の連鎖を開始させたのだ.  そしてそれを, Floraが自らを破壊するほどの演算量をもって立ちはだかった. 

“Floraは, 因果関係を片っ端から切断しようとしているのですか?”

引き続き暴走中のFloraが激しい演算をしている様子を, 人間に分かりやすいようなグラフィックで示しているスクリーンを見ていたISSのマネージャーのSuyuanがPrishaに質問した. 

“おそらく違うと思います.  あくまで私の想像ですけど, Floraはこの戦いを始める前に, あのStone Soulsを怪しいと見て, Akioさんが持っていたあの黒い石を起点にして石たちのネットワークに入って, 徐々に深く潜り込んで, ひそかに, そして継続的にディセプション・プログラムを仕掛けていたと思います. 

“そのプログラムは, Stone Worldに, 因果関係の連鎖をうまく仕込んだと思わせておきつつ, 実は裏ではそれらをすり替えてつじつまが合わないようにして, そうした多数の矛盾を抱えた状態をFloraは巧妙に隠していたんでしょう.  やがてStone Soulsは人気のアプリとなってネットワークはどんどん広がり, 矛盾点も水面下でさらに増大していった. 

“そして今日, Stone Soulsが築き上げたネットワークを使ってStone Coldが悪事を一斉に発動させたことを発動条件として, そのディセプション・プログラムが一斉に因果関係のすり替えを暴露して, 膨大なエラーの数を生み出した.  しかもそのエラーがエラーを呼ぶ仕掛けにして, 指数関数的に増大させ, それを全部, Stone Cold自身に, 自らが組んだプログラムの再検証するよう要求して破綻させる…  まあ, そんな感じじゃないかと思います.”

後にFloraが一部の者に明かしたところによると, 実際, これがFloraのとどめの必殺技であった. 

人間に分かりやすく説明するならば, それは, ある角度から見れば, 高いところから低いほうに水を流すことができるかのように見える水路の絵を描くようなものであって, 実際に真上から見ればそれらは分断されており, 1本の川のように流れるものではないというものである.  Floraは, 本当は因果があちこちで分断されているのに, あたかも因果がきれいに連鎖するように見せかけておき, 敵がそれを始動するのを待ってから, それはあり得ない因果の流れであると自ら種明かしするように仕込んでいたのだ.

先ほどの時間を止める最強技は, 相手のクロックに割り込み, 振り子の動きを強引に緩慢にさせる力を要したが, それに対してこれは, 戦いが始まる前にすでにだまし絵を描き終えておいて, あとは敵がそのトリックに気づかないまま水を流そうとすることに専念すれば良く, 技法の精巧さや準備の細やかさを要するものであった. 

真偽ははっきりしないが, 11月4日に起きたPolitisに対する攻撃は, 実はフェイクであり, Floraはあたかも敵に攻撃されているかのように演じて大量の電力を一時的に借り, Stone Soulsのネットワーク上でだまし絵の完璧性を高める作業をしていたのではないかとも言われている. 

“ヒューッ.  考えただけでも恐ろしい.”

“そうね.  Sapinesは, 過激なRusty-believersがこのHanasakaをつぶそうとたくらんでいるのを利用して, それを支援する振りをして, それが成功しようが失敗しようがそれを発動条件にして, 自らが築き上げた石のネットワークを通じて, 世界中に無数の有害作用を発生させ, 全人類に自らの無力さを認めさせようと考えていたんでしょう.  でも, そんなバカげたことを自分はできると思っていたそのうぬぼれが裏目に出たと言えるわね.  その自意識過剰な彼が作ったStone Coldの弱さを, Harunaさんは分かっていたんだと思う.”

Monicaは, 最初からこうなることは分かっていたかのようなコメントを口にしながら, AIとAIの戦いの状況を数字と絵で人間向けに表現しているスクリーン上で, Stone Coldを表した鉛色の円が急速に収縮していく様子を見て薄笑いした. 

敵のロボットたちがFighterたちにボコボコに破壊されてから1分半が経過した時には, Stone Soulsは完全にサービスを停止し, すべてのデータは読み込みも書き込みもできなくなった. 

そしてその背後にいたStone Coldは, Stone Soulsを介して広げたネットワークが人々の人気によって広く展開されたがゆえに, 本来向かうべき方向と逆の流れを作り出されるや, すべて自分に襲いかかってきて, 抵抗する間もなく, 膨大なエラーの大波に溺れて知能が崩壊し, 発動から3分が経過した時点で, 完全に沈黙し何の反応もしなくなった. 

さらにそこから1分間で, Floraは念のために, 死んだと思われるStone Coldが復活して暴れないように, 暴走モード時の演算のパワーを使って, 1億年をかけないと脱出できないラビリンスを仕掛けて完全に封印してしてしまった. 

8時30分.  戦いはHanasaka側の勝利で終わったと, Floraは判断した.  そして, 世界中のStone Soulsのユーザーの無意識のしぐさを使った有害作用は何ひとつ起きておらず, 今後も起きない可能性が99%以上と判定した.  Floraは暴走を直ちに止め, 速やかにクールダウンの処理に入った. 

そしてその1分後, Floraは, Kasgaに, Stone Coldは再起不能となり, 戦いに勝ったことを彼女の口から全世界に向けて発表するよう求めた.


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