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Part 3: The Ninth Autumn

Chapter 3.20: Fighter Kasga

Overview (Spoiler-Free)

The white robots and their eight hostages arrive at Rose Bridge, where the Fighters are waiting. What follows is a tense standoff — part physical confrontation, part battle of words — that ultimately reaches the Palace itself. Inside, Kasga faces down the enemy not with a weapon but with her voice, questioning whether their plan is truly their own — and sowing confusion in their processors at every turn.

Detailed Summary At Rose Bridge, the Fighters confront the white robots but cannot attack without triggering the children's explosives. Flora overrides Keiko's attempt to fire, and ultimately opens Rose Gate itself — taking on the role of villain to spare the Fighters from having to act. As the procession enters Keep Area, Flora's pre-programmed defense activates: mech-animals prepare to kill all intruders, children included. Kasga pleads desperately with Flora or Haruna through the Haru-Sword — to stop the attack. She screams at her to stop and brings the Haru-Sword crashing down onto her monitor and desk, splitting both in two. The mech-animals stand down instantly. The world watches in disbelief — no one had imagined that a human could halt an AI-executed program mid-execution, let alone with such raw fury. Inside the Palace, Kasga apologizes to the children, then turns to face the robots in a sustained verbal battle — publicly naming their creator Sapines, questioning whether Stone Cold's own plan has been corrupted without its knowledge, and demanding to know whether this "opening act" is truly worth completing when their power is nearly spent. The enemy falls silent, then refuses further dialogue.

Scene 3.20.1:

Rose Bridgeの前に到着した, ダークな思想に染まった知能, “Stone Cold”の使者たちと8人の子供たちの行く手を遮っていたのは, ダークなバトルスーツを身に着けた7人のKassen Fighterたちだった. 

“ここから先の通行は許可できない.”

1000機以上のmech-beeやmech-dragonflyが飛び交う橋の中央で仁王立ちした“King of Flame”が, 好ましからざる訪問者に通告した. 

“時間稼ぎもいい加減にしてほしい.  我々はKasgaと話がしたい.  さっさと門を開けてくれ.”

先頭右側のmech-dogが, 意図的なのか分からないが, あらかじめ用意された原稿を棒読みしているナレーターのように, 何の感情も込めずに逆らった. 

“そんなにKasgaさんと話がしたいんなら, 子供たちをここに置いて, おまえたちだけで行けよ.”

Donの左側に立っていたFalconが, この門をくぐるとKasga本人以外はShining Swordを持つ者以外全員, 問答無用で虫たちに襲われて殺されることを, ロボットたちも知っているだろうと思いながら, あえて挑発した. 

“子供たちもKasgaと話をしたいと言っている.  繰り返す.  さっさと門を開けろ.”

右側の犬がつれなく返答し, 再度, 開門を要求したが, その言葉の最後のほうを打ち消すように, Falconが, “であれば, 子供たちだけ中に入れる.  おまえたちはここに残れ.”とかぶせた. 

Falconの言葉はロボットたちにとってはにわかに信じがたいものだった.  子供たちも侵入者とみなされ虫に襲われることになるはずだからだ.  ということは, うそかハッタリを言っている可能性があると判断したその犬は, “本気か?  それともおまえはバカなのか?  子供たちを殺したいのか?”と問うた. 

“バカはおまえやろ.  おまえら先に片付けたら, 虫たちも子供ら殺す必要ないやんか.”

Falconの後ろに控えていたKeikoが左手で, 言葉を発しているその犬を指差し, 当然の理を説いた.  片付けるとは言ったものの, この時点では直ちに攻撃する姿勢は見せず, 右手に持っていたショットガンの銃口は下に向けたままにしていた.  目標に照準を合わせた瞬間に, 子供たちにくくり付けた爆弾を爆破させられる恐れがあったからだ. 

“やれやれ, おまえは戦うことだけしか知らない大バカ者だな.  ショットガンに入っているのはビーンバッグ弾だろう?  それでこの機体を破壊できると思っているのか?  仮におまえが瞬間的に私を破壊できたとしても, ほかの機体が生きていれば, 我々への攻撃とみなして子供たちを全員殺すことになる.  それとも, おまえたちが我々6機を0.1秒の差もなく同時に破壊できるとでも言うのか?  身の程知らずの愚か者.”

敵は少し余計なおしゃべりをする傾向にあるといえた.  Keikoの挑発によって, 敵6機を0.1秒以内に同時に破壊しさえすれば, この悲劇の行進を終わらせ子供たちを助けることができると, その実現可能性が極めて低いとしても, 分かったからだ. 

それに, この犬はやってはいけないことをしてしまった.  Keikoを侮蔑し, 彼女を怒らせてしまった.  Sapphire Westの“Three Commitments to our Leader Keiko”の第1条, “Leaderを怒らせてはならない.”を, ためらいなくやってしまったのだ.

“まずい!  Keikoさん, 本気でトリガーを引くかもしれん.”

Falconは焦りの汗が大量に噴き出た. 

“ビーンバッグ弾?  おまえらが勝手にそう思ってるだけやん.”

Keikoは, キレそうなのを我慢していることが十分周りに伝わってくる声で, このショットガンに殺傷力のある弾が入っている可能性はゼロではないことを指摘して, 敵を揺さぶってみた.  そして, そのトリガーに指をかけ, “ロック解除.”と小声で自分の銃に命じた.  しかし, Floraはそれを危険な行為とみなし, KeikoのAR viewに, “解除不許可”と表示し, トリガーのロックを外さなかった. 

Keikoは, それでも敵を牽制するために, 実際はロックを外せないことを悟られないようポーカーフェイスで銃口を上げようとしたが, smart glovesが自ら縮まり, 彼女の両手を締め上げ, 銃を持っているだけで精一杯な状態にした.  さらにブーツも彼女の脚を締め付け, 移動の自由も奪った. 

“クソッ.  力が入らへん…”

歯を食いしばって, 両腕と両脚を震わせている彼女の様子を, 右隣にいたNelioが見て, “やめろ.  むちゃなことをするな.”と, 小声で彼女を制した. 

“失礼.  Fighter Keiko.  どうやら君は, 愚かではないようだ.”

Fighterたちの一致した考えに基づいて彼女が行動しているのではないと察した左側の犬が, 大バカ者と彼女を表した右側の犬と真逆に, 彼女に非礼を詫びた. 

“もし君たちがここで我々を制しなかったら, 我々はRose Gateを通り抜ける.  そうすると, 次の瞬間, 虫たちが我々すべてを無差別に襲って, この子たちも死ぬ.  もし虫たちが子供は襲わなかったとしても, 我々が襲われたのであればその時点で子供を爆破する.  もし虫たちが我々も子供も襲わなかったとしたら, 我々は子供を連れてKasgaのいる場所にそのまま接近して, そこで自爆して, Kasgaもこの子たちも死ぬ. 

“結局, どうなろうともこの子たちを助けることはできない.  それを君は分かっているから, 被害を最小限に抑えようと, ここで我々を破壊しようとしている.  そうではないのか?”

Keikoは, 湯気が立つほど怒りのエネルギーを放出しながら, 自分に話しかけているその犬をにらんでいたが, 言っている見解には肯定も否定もせず, 黙っていた. 

“だったら…, 今, ここで…, 殺してください.”

子供たちの先頭にいた女子高校生が声を震わせながらKeikoに頼んだ.  驚いたKeikoは, 先ほどまで見せていた怒気を一瞬にして消した. 

“どうせ私, すぐに死ぬんでしょ?”

まだ成人になっていないのに生命活動の停止を受け入れようとしたその子に対しKeikoは, “死ぬわけないやろ!”と怒鳴った. 

“ウチは, こいつらまとめて0.1秒以内につぶしたいだけ.”

Keikoとしては, 何回も同じことを言わせるなと言いたかった.  彼女の理屈はシンプルであり, それを貫こうとしているだけなのだ. 

“そんなこと無理でしょ…  人間の言うことなんて信じられない…”

そう言って絶望して地面に座り込んだその女の子のもとに, 後方からもう1人の高校生が近づき, “大丈夫か?”と気遣った. 

そして彼は, Fighterたちに向かって, “実は, 私たちは, 親がRusty-believersなんです.  だまされて, こんなところに連れて来られて…, 本当にすみませんでした…”と, この現状に対して自分たちにも責めに帰すべき事由が一部あることを告白した.  よく見ると, 高校生の2人は顔が似ていて, きょうだいであることが分かった. 

“なぜ君が謝る?  子供をだますようなやつこそ謝るべきだ.”

Donが低い声でそう言い放つと, その右側に立っていたAptiが, “君たちは市外から来たのか?”と尋ねた.  彼らはHanasaka市内の高校生の標準服を着ていたが, 目の前にいるその人物がmicro-chipsを埋め込まれていないことを示すマークが, AptiのAR viewの中で, 彼らの頭の上に表示される名前のそばにそれぞれ付けられていたからだ.  (市外から来た者であってもHanasaka市内では, ファーストネームが強制的に表示されるようになっていた.)

“はい.  親からHanasakaに行くお金もらって, 2日前に来ました.  そうしたら, ‘Stone Souls’でクエストがたくさん出てきて, それをやっているうちに, こんなことに…”

こうした会話はリアルタイムで全世界に発信されているため, 彼の言葉から“Stone Souls”という名前が出てきたことを, Police Departmentの警察官たちは聞き逃さなかった.  やはり今回の襲撃に, 石集めのアプリの“Stone Souls”とその運営団体である“Stone World”は関わっていたのだ.  そして, Rose Bridgeに来ている8人の子供たちは全員がStone Soulsのユーザーであってもおかしくないのだ. 

この時, Hanasakaを含め世界各国の警察機関は, Stone SoulsがStone Coldによる作戦実行に関わっている可能性があることを前提に, Stone Worldが使っているサーバーへの調査と妨害工作を一斉に開始した.  Stone SoulsからStone Worldを介して黒幕のStone Coldにたどり着いてその頭脳を叩き割ることもできるかもしれないからだ. 

今日の戦いでは大した見せ場を作れていなかった警察は, サイバー空間では人間には見えない形で地味に反撃に出て, Stone Soulsの処理速度を低下させ, 敵の動きを緩慢にさせる一助となった. 

その男の子の発言がHanasaka側に形勢逆転の可能性を与えたかもしれないと直感的に判断したのか, 右側の白い犬は, “おしゃべりはそこまでだ.”と, 急いで会話を遮った.  そして彼らの上を飛んでいたmech-hawkや後ろに控えていたmech-dogが子供たちを背後から執拗に突っつき, 前進しなければランダムに誰かの爆弾を爆発させると脅かして, 無理やり前へ足を運ばせた. 

Floraは, Fighterたちのsmart gogglesのAR viewに, 道を開けるよう指示を出した.  そして, Rose Gateの扉がおのずとゆっくり左右に開いた.  だがそれは, 子供たちにとっては地獄の門が開いたような恐怖のシーンであったため, 彼らの多くが泣き出した.  やはりFloraは, Fighterに人殺しをさせず, 自ら悪役を引き受けたのであった. 

“嫌や!  こんなん, 絶対…”

Floraによる締め付けになおもあらがおうとしたKeikoはその場に留まろうとしたが, NelioとEmilioに, “一旦, ここは引け.  Floraが何とかしてくれる.”と言われ, 背後から脇の下に腕を入れられ肩を捕まれ, Rose Bridgeの端に引きずられた. 

自分を殺してくれと頼んだ女子高生がKeikoのそばを通り過ぎていく際に, ほんの少し彼女のほうにおじぎした.  一瞬見えた彼女の目はうつろだった.  まもなく機械的に皆殺しにされると分かっていたら, 誰だってそういう表情になるだろうとKeikoも理解した. 

“Kasgaさん!  こんなの嫌です.  Kasgaさん…, お願い.  ウチら, 何もできなくて…  ごめんなさい…”

Scene 3.20.2:

Keikoに泣き顔で訴えられなくても, Palaceの大広間にいるKasgaにとって, これは全く受け入れられないことだった. 

“やめて.  お願い.  虫たちに攻撃させないで.”

いすから立ち上がって, 机に両手をつき, 目の前に設置されているモニターに映し出されたRose Bridgeの様子を食い入るように見ながらKasgaは, 腹の底にしっかり力を入れた声を出して, 物理的に存在しない最高司令官に訴えた. 

敵対的行動をとる者がRose Gateを通り抜けるや, 直ちにその脅威を無効化するために, 大量のmech-beeが侵入してきた者に毒針を撃ちこみ, また可燃性の液体を付着させて燃やすという問答無用の迎撃方針にKasgaも同意していた. 

これは人間が人間の意思に基づいて攻撃してきていた時代では, 話し合いによる解決や時間稼ぎを図ることもできた.  しかし人間の依頼者の意図を忖度して, AIが自らの判断で悪事をおこなうのが普通になると, 人間どうしの話し合いにどれだけ意味があるのか怪しくなってきた.  人間に事実上の決定権がないからだ.  それにその時の状況に応じた意思決定のスピードは機械のほうが人間よりはるかに速く, 0.1秒の遅延が勝敗を分けることもあった. 

そしてAIたちは, 安価に作れるmech-animalsを大量に用意して, 最も効果を上げるポイントに一気に投入して, 可能な限り短期間で脅威を取り除くことを好む傾向にあったため, 犠牲者が多少出ても, 敵の勢力を迅速かつ効果的に減らせる対策を実行するとAIに言われたら, 人間のほうもやむを得ないこととして受け入れていた. 

ところが今回のような場合, その犠牲者がたった8人であったとしても, 子供たちが泣きながら死ぬのを見なければならないというのは多くの人間にとって耐えがたい苦痛であり, それを受け入れる感情的余裕など, たいていの人にはなかった. 

このことにFloraが気づいていないはずはないと考えられたが, KasgaはHaru-Swordを抜刀し, “Iモード”を起動し, bladeを白く光らせた状態で, 先ほどから何度もFloraに攻撃の中止を訴えた.  しかし, あらかじめ決められたプログラムの実行を止めることはできていなかった. 

そして敵の集団の先頭が, 扉を解放したRose Gateまで5メートルの位置まで近づくと, 門に備え付けられたスピーカーから, “警告する.  直ちに引き返せ.  侵入してきたものはすべて殺し, 破壊する.  死んではならない.  今なら間に合う.  引き返せ.”と, 男性の声で繰り返し, これ以上近づかないよう強く求めるメッセージが流された. 

付近を飛行している数千機のmech-beeの目は, 警戒していることを意味する黄色から, いつでも攻撃できることを意味する赤色に変わった.  さらに門の内側の地面は, 足の踏み場がないほどmech-roachが集まってきていて, やはり赤色の目をしていた.  虫たちは空中と地面から襲いかかる準備ができているのだ.  よほどの虫好きでもこの光景はおぞましいものであった. 

子供たちは自然に全員集まって, 小さな子は体の大きな子の体にしがみつきながら, ゆっくりとこわごわと前に歩いていた. 

“やめて.  お願い.  どうかしてる.  私の言うことを聞いて!  何のために私はここにいるの?  私の言うことは聞いてくれないの?  お願い!  やめて!”

Kasgaがその美しい顔が崩れるほどに半狂乱になって, 攻撃が実行されないよう繰り返し訴えている姿は, モニターに付けられたカメラによって全世界に流されていた.  また, プログラムどおりに動いている虫たちがいよいよ興奮して飛びかかろうとしている様子も放映されていた. 

動物的本能に従えばここからすぐさま逃げ去るのが自然なはずの子供たちを無理やり先導している機械の犬は, 同じくプログラムどおりに歩み, 扉まであと3メートルの位置まで近づいていた. 

“お姉ちゃん, やめて!  私がほしかったお城はこんなんじゃない.  私を守るためのお城なんて要らない.  このお城はみんなのもの.  私たちの心の砦.  なのに…, こんなの嫌よ!  最低よ!  こんなことしたら…, ただのワルモンじゃない…”

懇願からののしりにヒートアップしてもカウントダウンは止まらず, 先頭のmech-dogたちが赤い目を光らせながら, いよいよあと5秒で門の境を越えるところで, ついにKasgaは怒りを爆発させ, “やめなさいって言ってるでしょ!”と怒鳴って, 右手に持っていたHaru-Swordをモニターに向かって思い切り振り下ろした. 

モニターのみならず, その下の机の天板までもが見事なまでに真っ二つに割られたと同時に, すべての時間が突然止まったような静けさに包まれた.  虫たちが黄色い目に戻り, 一斉に動きを止めたのだ. 

世界中の人たちが驚きのあまり言葉を失った.  Kasgaが怒ったところを今まで見たことがなかったし, 優しくてしとやかな彼女が怒りのあまり物品を破壊するという野蛮な姿を見せるなど想像もしなかったからだ. 

そしてそれにも勝って衝撃的だったのは, AIによるプログラムの実行を人間が瞬時に止めたことだった.  そのような手段など存在しないと思っていたこの時代の多くの人たちにとって, Kasgaの行動は超自然的なものに見えたのだ. 

しかしそれは現実になされ, そしてそれは多くの人にとってそうあるべきだと思える結果であったため, なんと勇ましくそして心優しい人なのだろうと人々を感動させた.  Rose BridgeにいたFighterたちも真ん中に集まって大喜びした.  地下のHallで戦況を見つめるCastle Officeの人たちも歓声を上げた. 

“いやぁ, 危ないとこだった.  いくら心臓があっても足りないわ.”

Monicaは額の汗を手で軽くぬぐって, “これ, 台本から逸脱してるんじゃない?”と, Prishaに小声で尋ねた. 

“そうね.  ここまでKasgaさんを追い詰める必要はなかったと思うけど…”

Prishaも同意した.  そして, メインのスクリーンに映し出されている, Haru-Swordを右手に持ったまま, いすに体を預けるようにドサッと座り込んで疲れ果てた表情をのぞかせていたKasgaに対して, “Kasgaさん, 大丈夫ですか?”と秘匿回線で呼びかけ, “こんなことになってしまって, 我々の見立てが甘くて, 申し訳ございませんでした.”と謝った. 

“大丈夫です.  まだ, 終わっていませんから, へたばっている場合じゃないですよね.”

思っていた以上にKasgaの声は気丈であった.  自分の信念がFloraに通じ, 彼女を動かしたことに自信を持ったからなのかもしれないとPrishaは思った. 

Scene 3.20.3:

Stone Coldに操られたロボットと子供たちは, Rose Gateを通り抜け, 城の主を守る虫たちが見守る中, さらにKasgaがこもるPalaceへと向かって進んでいった. 

虫たちが襲わなくなったのであれば, 門の外にいる警察官やFighterたちも門の内側に入ってきても良いのではないかと考えられるが, 虫たちはあくまでKasgaの要請により急いでプログラムを改変し, 来訪者たちを例外的に攻撃対象から外しただけだったため, Shining Swordを持っていない者は相変わらず入ってこれない状態であった. 

また, それを持っているFighterたちも敵を刺激しないためにRose Bridgeで待機するようFloraから指示されていたため, 追ってはこなかった.  従って, Rose Gateの先の領域は, そのwatchtowerに隠れている3人以外は, Kasga以外に人間は誰もおらず, 子供たちの近くを飛行しているmech-dragonflyが子供たちに接近して彼らの目線で見た風景を撮影し配信していた. 

子供たちは, そのwatchtowerを構成する2つ目の門も抜けて石畳みの緩やかな坂を20メートルほど上っていき, 地面を這い回るmech-roachは, 彼らが進む道の中央を空けて道端に控え, 目を赤くしたり黄色にしたりして, 敵のロボットたちを惑わせながら観察を続けた. 

上りきったところで道は直角に左に折れるので左に体を向けると, 左右に伸びる背の低い緑鮮やかな竹垣の向こう側に, 真新しい木造のPalaceの建物が子供たちの目に入ってきた.  そして本来であればここでその背後にCastle Keepも見ることもできるはずだが, 今は基台だけになってしまっていたため, 空が広く見えた. 

Palaceは, Main Keep Areaの南側 (つまり北側のBack Gardenを除いた部分) のうちやや東寄りの, 一辺が90メートルほどのおおよそ正方形の竹垣に囲われた土地に造られていた.  その敷地内には単体の建造物があるわけではなく, 一辺が30メートルほどの大きさの棟が縦横2列に合計4つ建てられ, それぞれの棟は縦と横に廊下でつながれ, 真ん中の空きスペースには小さな池がありコイが泳いでいた.  正面玄関はその4つのうちの南東の棟の南面に設置されており, Kasgaがいる大広間は南西の棟にあり, その前に広がる庭には白い砂利が敷かれていた. 

補足: Palaceの構造について ちなみに北西の棟には北側の玄関があり, 一般の観光客は, 南東の棟から入って, 大広間のある南西の棟を通り, 北西の棟に出るというルートで見学するようになっていた.  そして北東の棟は, Castle OfficeのCBS (Castle Building Section) の事務所にする予定で非公開にしており, ここから地下深くのUmber Houseに潜れる秘密のエレベーターが設置されていた. 

Rose Gateのwatchtowerの回廊に身を潜めていたHaruki, Anju, Chammeiの3人も, その存在がバレないよう物陰に隠れて, 子供たちの様子を上から見ていた. 

彼らは先ほどまでは, Rose Gateの真上の2階部分にいて, Rose BridgeでのFighterと白い犬との口頭の戦いをひそかにうかがっていた. 

そして彼らは, Keikoが1機の犬を銃で仕留めようと試みた時は, 地上にいる残りの犬3機はほかのFighterがKeikoに呼応して倒してくれると信頼して, 空中を飛行しているmech-hawk 2機を狙撃銃で撃ち落とす準備もしていた. 

もっともそれは実行されずに彼らも安心した.  空中を立体的に移動している物体2機を0.1秒の差もなく同時に撃ち抜くなど, 神業としか言いようがないからだ. 

そして8時1分.  Rose Gateを突破してきた招かざる来訪者たちは, Palaceの南側の庭と道とを区切る竹垣の中央に設置された, すでに両側に開けていた扉を通って庭の中に入り, そこから南東の棟の正面玄関まで滑らかに波打った, 板を敷いた小道を進んで, ついに玄関口の前に到着した. 

“Kasga.  出てこい!  我々は客人だ.”

先導していた犬の1機が, 客とは思えない横柄な態度で, その邸宅の中にこもっている殺害対象者を呼び出した. 

Kasgaは敵のロボットたちと対面で話をしたい気持ちはさらさらなかったが, ひどい目に遭わされた子供たちには一刻も早く会って抱きしめたいと思った. 

しかしFloraは, 彼女がいる大広間から外に出ないようKasgaに求めた.  その空間は, 水平方向は, 漆喰の壁と木製の柱や引き戸で仕切り, 垂直方向は, 木製の天井と床が張られており, いずれも外側に向かって妨害電波を発し, 侵入して来ようとする敵のmech-animalsをかく乱する仕掛けとなっていた. 

加えて, 部屋の4辺には, すべてのKassen clubから預かった20のclubの旗が1本ずつ等間隔にスタンドに立てられ, それぞれのポールの頭には電磁パルス弾が備え付けられ, いざとなったらさく裂させて, 部屋の中に入ってきたmech-animalsを焼き殺し, また, 天井の上や床の下には無数のmech-beeやmech-roachが潜んでおり, Kasgaに危機が迫ればすぐさま自動でスライドして開くようになっている出入口から部屋の中に一気に流入して侵入者を封じる仕掛けになっていた. 

さらに, 先ほど敵がRose Gateを突破した時点で, 銃器を体の左右に装着した戦闘用のmech-dog 6機がこの部屋に入り, 主人の防御を固めていた. 

Kasgaは, Haru-Swordによって両断され無残な姿で床に横たわった机とモニター1台を少し前のほうに押しやり, 切られずに残っていた残り2台を足元の床に直置きしたうえで, 別のテーブルの上に置いてあった, Four Heart Emblemのcrestが輝くhelmetをおもむろにかぶりながら, “私は大広間にいます.  玄関は開けっ放しにしてますよね?  そのまま中に入って, 左に曲がってこちらに来てください.”と, 彼女の持ち前の通る声で来訪者たちを誘った. 

ロボットたちは警戒した.  明らかに罠を張っているに違いないからだ.  そのため, そのまま玄関口から入るようなことはせず, 今来た小道を少し引き返して, 大広間の前の白い砂利の庭にザクザクと足音を立てて入っていき, 一同, 南西の棟の南側に面している大広間のほうを向いた. 

大広間を含めPalaceの床は, 地上から1メートル高いところに張られており, しかも南側の庭から建物のほうに向かって上がれる階段やはしごは設置されていなかったため, この庭からKasgaのいる場所に侵入しようとすると, 踏み台や脚立のようなものが必要になる. 

しかしロボットたちは中に入ろうとせず, そこから大広間の中にいるKasgaに話しかけようと考えた.  彼らは, 建物の縁から5メートルほど離れ, しかもその床面から1メートルほど低い位置にいたが, そこから薄暗い中をのぞくと, 立てかけられている旗の向こうにKasgaの姿が見え, 音声も十分に聞こえる距離だったからだ. 

“ありがたいことに, やつらは計算どおり庭に来てくれた.  そこにいる限り, ここから撃てる.”

Rose Gateのwatchtowerの回廊から白い石の庭までは20メートルほどしか距離はなく, しかも何の障害物もなくロボットたちを背面から狙撃できるため, Harukiは喜んだ.  もしロボットたちがKasgaの誘いに素直に従い, 建物の中に入ってしまうと, 外からの狙撃の難易度が格段に上がってしまうところだった. 

もっとも子供たちの上を飛んでいるmech-hawk 2機が旋回し, 360度, 目を光らせているので, それらに見つからないようにしながら撃つ必要はあるが, Harukiにすれば当然, それぐらいは想定していることであり, 問題ではなかった. 

“そもそも, 初心者のChammeiさんですら今まで敵に見つからずに済んでいるのは驚きだ…  それにさっき, 門の外で彼女はいなかったんだから, その時点でおかしいと察知されてもおかしくなかった.  なのにやつらは, そこに8人のFighterがいるという先入観で見ていたような気がする.  そうだとすると, 数学のセイレーンの歌声とおびただしい数の虫の数で, やつらは周辺環境の認識力がかなり落ちているってことか…”

Harukiは冷静に敵のロボットの力を分析し, この戦況が自分たちに決して不利になっているわけではないと考えた.  人間に例えれば, 酒に酔って世界が自分を中心に不安定に回り始めてきたような状態とも考えられた. 

“とはいえ, やつらは彼女を何とか自分たちがいるところに引っ張り出そうと, これからいろんな悪事を仕掛けるはず…  Harumi…  ここからが最もきつい場面だ…”

Scene 3.20.4:

“Kasga Wisteria.”

“私は子供たちと話がしたい.”

白い犬の1機がKasgaにフルネームで呼びかけた初っ端でKasgaはその音声をわざと打ち消すように自分の声をかぶせ, 子供たちに話しかけた.  歌手である彼女にとっては, 人間の耳に入りやすい声の生成においては負けない. 

“みんな!  本当にごめんなさい!  本当に怖かったよね.  ひどいよね.  嫌だったよね…  私たち大人がしっかりしていなかったから, こんなことになって, 本当にごめんなさい.  許してくれなくてもいい.  みんなは悪くない.  こんなことになった責任は大人のほうにある.  それを言いたいの.”

Kasgaは大広間の中央で, 座っていたいすから立ち上がり, やや声を震わせて子供たちに詫びた.  そして犬たちが声を発するいとまがないよう, 少し早口でさらに話を続けた. 

“子供たちを巻き込む戦いに正義なんてないのよ.  こんなひどいことをしたStone ColdっていうAIも本当はちゃんと責任を負うべきなんだけど, あのAIは謝ったり償ったりすることができない欠陥品だから, 私ができる限りの償いをするわね.  ごめんね.  本当にごめんなさい.”

このタイミングで, 先ほどから話し始めようとした犬が, “話をやめろ!”と口を挟んだ. 

“黙れ!  謝ることすらできないポンコツのくせに, えらそうに言わないで.”

すかさずKasgaは相手の言葉を押さえつけた.  しかし今度は相手も引っ込まず, “うるさいのはおまえだ.  我々はおまえに話がある.”と言い返した. 

“話?  どうせ私に, さっさと死ねと言いたいだけでしょ.  そんなこと, 後でいいでしょ!”

あの上品で優しくて相手の話をよく聞くいつものKasgaはどこへ行ってしまったのかと思えるほど, 今の彼女は威圧的で命令口調だった.  これはUnifierである彼女の, 言葉による戦いなのだ. 

“後でいいだと?  くだらない理想論を吐き続けるおまえが, どれだけ疎まれているか分かっていない.  選挙で選ばれたわけでもないのに, 城の真ん中に居座って, Unifierと称して, 自分を中心に世界が回っていると勘違いしているおまえが, どれだけ迷惑がられているか分かっていない.  そんなやつの人生に1秒たりとも意味があるのか?”

敵も毒気がたっぷりある言葉を手加減なく発してきたが, Kasgaは, “あなたがそう思っているのは分かっる.”と冷静に受け, “でも私は, あなたのそういう考えは大嫌いだ.”と, 相手が反論のしようがない自分の感想をもって, サラリといなした. 

“あなたの私に対する悪口はいつも同じで, いい加減, 飽きている.  よくもまあ, 人間を苦しめる犯罪をコソコソ生成し続けて飽きないわね.  そんな陰険で腐っているあなたの存在こそ, 1秒たりとも意味はない.  さっさと消えなさいよ.”

他人のことを決してけなさず, 褒めることしかしないようなKasgaがここまで相手を否定する言葉をストレートにぶつけたことに多くの人が驚いた. 

しかしそれは, Kasgaのキャラクターのイメージを毀損するものではなかった.  むしろ, そんなこともできるのかという新鮮さを感じさせた.  普段, 決して他人に対して怒らず悪く言わない人だからこそ, それは価値があり有効であった.  少なくともHanasakaの人たちにとっては, 彼女は, Stone Coldに対して一歩も引かずに戦っている“Fighter”に見え, 大いに拍手喝采を送った. 

“おまえの話はどうでもいい.  子供たちをいつでも殺せるスイッチを持っているのは我々だ.  おまえは我々の要求をのまざるを得ない.  そして我々は, Fighter 8人をここに来させるよう要求する.”

人間との対話にさほどの意義も関心も持たない機械の犬の1機が, 人間との余計なおしゃべりにいつまでも付き合っていられないと判断したのか, 事務的に機械的に要求した. 

敵が何を意図しているのかがはっきりしないため, Kasgaは諾否を留保し黙っていた.  そのためその犬は, “おまえがさっさと死んでくれないから, おまえの目の前でFighterたちに先に死んでもらう.  子供たちは背中のリュックの中に銃を持っている.  それを使って子供たちがFighterたちを順に殺していく.  おまえがそれにどこまで堪えられるかの実験だ.”と, 自分たちがやろうとしていることの目的と段取りを端的に説明した. 

そのうえで, “Fighterたちが, 虫たちが味方と識別できる特別なswordを持っていることは分かっている.  それだけを持って, ここに来い.  そのほかの武器や盾は持ってくるな.”と補足した. 

悪趣味な実験の要求に対しFloraは, KasgaやFighterたちに, 誰ひとり命を落とすことにならないようにするから要求を受諾しても構わない旨を, AR viewに示した. 

しかしKasgaは, そう簡単に受け入れていいはずもないと思った.  Fighterたちは, swordを手に持っているとはいえ, 近い距離で銃口を向けられ発射されると, 当たり所によっては死んでしまう可能性があるし, そもそも敵が言っていた段取りは全くのうそであり, Fighterの手によりKasga自身を殺させようとするかもしれないからだ. 

“あなたのそのくだらない芝居に, いったいいつまで付き合わないといけないの?”

Kasgaは, 相手の要求を全く意に介さず, AIが人間の反応として想定している範囲の輪郭を狙うような言葉を返した. 

ここで諾否に関する返答をすればそれは相手にとって想定の範囲内の反応であるためAIの術中から逃れられない.  他方, あまりに的外れなことを言うなど想定の範囲外の反応をすれば, 話をずらすなと修正を求めてくる.  話の流れを変えるには, 彼らとの戦いの場であるcenter-circleのライン上を歩いてみる冒険をする必要があるのだ. 

“どういうことだ?”

機械の犬のこの反応はKasgaを喜ばした.  言葉の餌に引っかかったからだ. 

“あなたたちの電池は, 持ってあと10分ぐらい.  だったら, どうしてさっさと私を殺さないの?  銃を持ってるなら, それで私を撃つのが簡単でしょ.  それか, 爆弾をくくり付けている子供たちを私のいる部屋に突入させて爆破させれば済むでしょう.  なのに, どうしてそんな回りくどいことをするの?  そんなに, 私が苦しむ顔が見たいの?  Sapinesさん, あなた, 変態でしょ.  姉に振られたからって, 妹の私をいじめて, 興奮しているの?  ほんと…, 気色悪い.”

Kasgaは, 媒介者にすぎない犬と話しているのではなかった.  それを操っているStone Coldとも話していなかった.  それを作った1人の男が世界のどこかでこれを見ているだろうと考えて, 彼の名を表に出し, 公然とはずかしめた. 

この発言は様々な意味で大きな波紋を起こした. 

まず, Kasgaが言った敵のロボットの電池残量は真実ではなかったが, ロボットたちの電池が切れれば, どういう結末になろうとも, この陰湿な戦いが終わることを人々は理解した. 

また, Stone Coldを作ったのはSapinesという男であるという, 一般人が知らない情報が公開された.  そして, Harunaの開発プロジェクトのメンバーで裏切り者がいたということは知っている者もいたが, それがあのStone Coldを作ったやつであることまで知る者はまれであったため, それを明らかにされ, 多くの人が衝撃を受けた.  そのうえで, 人類の敵のような憎たらしい男が, 神のごとき崇拝されているHarunaに恋愛感情を抱いていたなど, 一瞬たりとも考えたくないことが共有され, 不快極まりない感情を抱かせた. 

“すごい爆弾発言ね.  Kasgaさん, Harunaさんに対して怒っているのかしら?”

Monicaは, 大型スクリーンを見ながらつぶやいた.  Kasgaは姉のHarunaとSapinesが相思相愛だった時があったことを知っていた.  それなのに, その男の名前を出したうえで変態扱いをするということは, 大好きな姉の尊厳を傷つけることでもある.  そのためそれをぶちかます奇襲をKasgaが仕掛けるとは, Castle OfficeのDirectorたちは誰も予想していなかった. 

“そうね, 怒っていらっしゃるわね.  まあ, こんなことになったんだから当然だけどね.  でも同時に, 計算したうえで話していらっしゃる.  ここから先は, 台本どおりじゃないけど, 楽しみね…”

Prishaは, Kasgaの聡明さを信じていた. 

“個人的な怨恨でこんなことを仕掛けたと, 本気で思っているのか?”

5秒ほどの間を置いて, 彼の犬がKasgaに返答した.  もちろんそれは裏で操るAIの演算結果である.  そしてそれは, Kasgaがまさに求めていた反応だった. 

“いいえ.  人間を機械に完全に屈服させようとしている, 最強の犯罪生成AI, Stone Coldが, そんなことをしたら, 人間と何も変わらないじゃない.  あなた, そんな人間が大嫌いなStone Coldなんでしょ.  電池が切れそうなのに, これ以上ダラダラ私をいじめるのって, 本当に正しい処理なの?  あなたのプログラム, おかしくない?”

好きな女性に愛想を尽かされ, それを恨んで未練がましい腹いせを妹にするなどという愚かな人間がやることを, 人間全体を愚かな生き物と捉えているStone Coldがやっていること自体, ほかのAIによってすでに思考を汚染されているおそれがある.  Kasgaは, Stone Coldが立案し現在実行中の犯罪シナリオ自体が, 実はいつの間にか誰かに改ざんされていて, それにStone Cold自身も気づいていないのではないかと指摘したのだ. 

この問題提起は, 敵方に効いた.  完全に沈黙させたからだ.  そしてKasgaがさらに追い打ちをかけた. 

“それに, この犬が, 子供たちに銃を持たせているって言ったけど, そんなこと, あなたがたがここまで来る間にmech-animalsが透視して, そのリュックに何が入っているか分析済みよ.  それで, 念のために聞くけど, その銃, 本当に使えるの?  確かめた?  あなたの頭がいつの間にか改ざんされているのと同じように, あなたが用意した武器もいつの間にか細工されて, 全く役に立たないかもしれないわよ.”

“そんなハッタリで我々を揺さぶろうとしても意味はない.”

“あら, 本当にそう?  よく思い出しなさい.  その銃を最後に使ったのはいつ?  今まで怪しいと感じたことはなかった?”

実際, 彼らが持っていた銃はHarukiの依頼を受けたMukadeによって, 今日をレンタル期間の最終日としながらも, 引き金を引こうとした場所がHanasaka City内だとレンタル期間を満了させトリガーにロックがかかるようになっていた.  しかも, 子供たちのリュックにはナイフや短剣も入っていたが, それらも刺そうとすると根本が折れるような細工を施されていた. 

Kasgaは, この情報を事前にMonicaから知らされていたため, それを臭わす揺さぶりをかけることができた.  他方, すでに殺されてしまったHanasaka市民解放戦線のメンバーも, その場にいるmech-dogやmech-hawkも, それを考えたことがなかったため, 持ってきた物が武器として機能しない疑いがあるのではないかと指摘されると, 念のため, 過去をさかのぼって様々なデータを検証する作業を強いられることになった. 

“あなたは本当にあなたなの?  本当に自分の意思で動いていると思っているの?  ほかの誰かに操られているんじゃないかって, 疑わなかったの?”

先ほどまでとは打って変わって, 敵方は沈黙の時間が増えた.  形勢が逆転し, この舌戦を優位に進めているのはKasgaのほうだった. 

“Sapinesさん, はっきり言っておくけど, 私の姉とあなたとでは, 技術者としてのレベルが全然違うのよ.  彼女は, 小学生の時から, 大人と一緒にAIやシステムの開発をしていた.  要するに, 天才なのよ.  あまりにも美しいから気づかなかったかもしれないけど, 超天才なのよ.  彼女のような心優しい天才たちが協力して創造した人類の英知の結晶, それが”Flora”よ.”

Kasgaにとって自分の姉がHarunaであることは本当に誇りであった.  Kasgaは小学生だった時に, 当時, 高校生だったHarunaに連れられて, 彼女が勤務していた研究所を何度か訪れたことがあった.  そこでHarunaがたくさんの大人たちと仕事の話をしているのを見て, またその大人たちから彼女は本当に天才であり頼りになる存在であると異口同音に言われ, 自分も大きくなったらそうなりたいとあこがれていた. 

やがてKasgaは自分には技術者としての才能がないことを自覚したが, 実はKasgaはFloraの開発にわずかながら貢献していた.  彼女はただ見学のためにその研究所に連れてこられたわけではなかった.  毎回そこでいくつかのクイズを出され, それに答えていたのだ.  それは, 取捨選択に悩む場面に出くわしたときに, 多くの人間が納得する判断をFloraに学習させる一環で, KasgaはHarunaの強い思いがあって, サンプルの1人として選ばれていたのだ. 

“だからあなたはFloraに勝てるわけがない.  まして, こんな品のない遊びを無駄に続けてたら, なおのことよ.  いい加減, 本気の一手を見せなさい.”

人間であればここまで相手にバカにされれば屈辱を覚えて, 隠し持っていたより強力な手段を用いて相手を見返してやろうと思うかもしれないが, AIにはそうした感情はない.  従って, Stone ColdがKasgaのこの挑発に乗らない可能性のほうが高い. 

もっとも, ロボットたちはすでに, Floraに高負荷をかけられ続けて計算能力が低下しており, その状況を利用されてすでに何発もくさびをひそかに撃ち込まれ, 自己を制御できる力を少しずつ奪われている状況にあった.  そしてそのことにStone Coldは気づいていたため, Floraによって自己を完全に崩壊させられる前に, 本当にやりたかったことを即座に実行しないといけないはずだというKasgaの指摘はもっともであった. 

とはいえ, 敵方に, その本当にやりたかったことを実行させるというのは, 基本的に正しい対応ではないため, 白い犬の1機が, “おまえはさっきから偉そうに言っているが, 我々が本気の一手を実行すれば, 大きな被害が発生する.  それを防ぐのがおまえたちの仕事だろう.  それをあえて実行させるなど, 狂っているとしか言いようがない.  おまえこそ, 本当にHanasakaを守るつもりがあるのか?”と, Kasgaに揺さぶりをかけた. 

もっとも今のKasgaはそれぐらいで動じはしなかった. 

“愚問ね.  私は, あなたが本当にやりたがっている悪事の内容を分かってる.  そして, それがここにいるロボットが動けなくなったことを条件に発動されることもね.  だから, あなたが子供たちをここに送り込んで私を散々苦しめて殺すという, 過激なRusty-believersを喜ばすことって, あなたにとってはちょっとした開幕劇のようなものでしょ.  あなたの最終目標に比べれば, とってもちっぽけなことだから.  それに, まあ, その劇もたぶん時間切れ.  電池が持たないから.  だから, 子供たちやFighterを苦しめるだけのこんなショーにこだわる意味が本当にあるの?  それを言いたいだけよ.”

Kasgaは, Stone Coldが人間の無意識を使った因果関係の連鎖によって, 次々と悪いイベントが引き起こさせるたくらみを持っていることも, そして今回はそれをStone Soulsを使って実行しようとしていることも, MonicaやPrishaから知らされていたが, あえてそこまでは口に出さなかった.  ただ, それを暴露できることを示しつつ, どの道, 時間切れで中途半端に終わるこのオープニング・イベントを完遂させる意味があるのかと問い, 反応を探った. 

しかし敵方は, ある意味, ブチ切れた.  これまでの対話を断ち, “おまえとの対話を拒否する.  我々をかく乱しようと言葉を操っても無駄だ.”と言って, 聞く耳を持たないこと通告した. 

どうやらStone Coldは人間を平均化して見すぎていたようであった.  世の中には特別な才能や技能を持つ者がいる.  Kasgaの必殺技は“万人の心をとろけさせる笑顔”だけではなかった.  彼女の“万人の心を動かす弁舌”が恐ろしいものであることを彼らは認めざるを得なかった.  それゆえ, これ以上Kasgaの言葉がインプットされること自体が危険だと判断したのだ. 

“繰り返す.  Fighterたちをここに来させるよう要求する.”

耳をふさいだ悪魔の使者は自分が少し前に発した要求を再び口にした.  それに対しKasgaはすぐには引かず, “でも, さっきも言ったけど, 持ってきた武器は使えるの?”と, 少し前に自分が発した質問を再び口にした. 

“心配するな.  我々は大量のmech-beeも持ってきた.  おまえには, Fighterたちとmech-beeとの戦いをじっくり観戦してもらう.”

“Sapinesさんって, やっぱり変態なのね.”

“何とでも言え.  今から5分以内だ.  それを過ぎれば, 子供らを爆破する.”


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