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Part 3: The Ninth Autumn

Chapter 3.18: The Sneaky Opening

Overview (Spoiler-Free)

At exactly 7 a.m., Flora releases Stone Cold from its labyrinth — and the enemy makes its move. Rather than armed fighters, what emerges from a nearby building is a column of eight terrified children, escorted by white combat robots and fitted with explosives. The procession moves slowly toward Rose Bridge, and Hanasaka’s defenders can only watch. Flora, meanwhile, is far from idle — deploying invisible countermeasures the enemy cannot yet detect.

Detailed Summary At 7 a.m., Flora releases Stone Cold as planned. Minutes later, eight children wearing explosive vests emerge from a building near Castle Park's northwest entrance, flanked by four white mech-dogs and two mech-hawks. The children are the children of Rusty-believers, lured to Hanasaka via the Stone Souls app. Flora forbids any physical attack, allowing the procession to advance while gathering intelligence. Flora publicly identifies Stone Cold as the mastermind, and reveals that the Liberation Front's own AI was hijacked and its members have all been eliminated. As the procession enters Outer Defense Zone through Magnolia Gate, police hold signs displaying absurd mathematical puzzles — a technique Flora uses called the "Mathematical Siren," designed to overload the enemy's processors with irresolvable calculations. Though invisible to humans, Flora uses this window to implant programs directly into the robots' systems. Director Haruki, listening from the Rose Gate watchtower, reminds the Fighters that Flora is drawing the enemy deeper into a trap — like a carnivorous plant. Chammei, also in the watchtower, is newly motivated when she realizes the enemy is a descendant of Stone Dance, the AI that destroyed her family.

Scene 3.18.1:

11月9日, 7時.  Floraは, 大規模な犯罪生成AI “Stone Cold”を閉じ込めていたラビリンスを予定どおり解放した. 

ここから先は何が起こるか分からないが, 悪いことが起きることは明白だった.  敵の攻撃の出所を特定するためにFloraがあえて縄をほどいたからだ. 

多くの人はそうした裏事情は知らないが, Kasgaが7時の時報の後, “作戦開始.”と号令を発したため, 市民はもちろん, 市外にいる人たちも, どのように攻撃を仕掛けてくるか固唾をのんでどこから悪事が発生するのか待ち構えていた.

7時2分.  Castle Parkの北西の入口の, 道路を挟んで北側にある13階建ての商業用のビルの玄関の扉が開き, そこからまず先頭に2機のmech-dog, その後ろに2人ずつ横に並んで, 小学5, 6年生から高校生までの8人の子供たちが続き, 最後尾に2機のmech-dogが背中に1機ずつ, 羽を広げると70センチほどある小型のmech-hawkを乗せて, ぞろぞろと現れ出た.  後方の右側のmech-dogはなぜか体長30センチほどの子豚を縄でつないで連れていた.  ロボットたちの表面はすべて白一色で統一され, 目は赤く光っていた. 

特別警戒区域に指定されているCastle Parkとその周辺は外出を全面的に禁止しているため, それを発見した, 付近を警備していた警察官が直ちに近寄り, “建物の中に戻ってください.”と, 拡声器を使って呼び止めた. 

すると, その行列は歩みを止めて, 先頭のmech-dogの右側が, “我々に命令するな.  我々の歩行を止めようとすれば, 後ろの子供たちの腹にくくられている爆弾が爆発する.”と警告し, 再び前に歩き始めた.  それと同時に後方のmech-dogの背に止まっていたmech-hawkが羽ばたいて, 彼らの上空2メートルほどの高さを旋回しながら飛行し, 上から警察官たちを牽制した.

2列になって歩く8人の子供たちは, 前から順に, 女子高校生と男子中学生, 男子中学生と女子小学生, 女子中学生と男子小学生, 男子高校生と女子中学生がペアになり, 半分以上の子はすでに泣いており, 泣いていない子も震えて顔色が悪かった. 

どの子もHanasaka市内の学校に通っている子なのか, 市の標準学生服を着ていて, ジャケットの前のボタンは留めず, そこから胴体に爆弾らしいものが装着されているのが垣間見えた.  子豚の腹にも, 小さな爆弾がくくり付けられていた.  また彼らは, それぞれの身長に合わせたカーキ色のリュックサックを背負っていた.

どう見てもこの集団は怪しい.  そしてこのタイミングで登場したということは, これから城に入りKasgaを殺そうとしている“敵”だと見て間違いない.  もちろん子供たちは人質であって, 自律的に動いているロボットたちが犯罪の実行者である.

とはいえ, meh-dog 4機とmech- hawk 2機だけであるため, Hanasaka側としてはPolice Departmentが付近に配備したロボットたちが集まってくれば, 数では圧倒的に多いため, それらを制圧するのに1分もかからない.  しかし子供たちの命がかかっているため, この作戦を実施しているFloraは, 警察官とロボットたちにうかつに手を出すことを禁じ,観察を続けさせるだけだった. 

Smart gogglesを付けている警察官と, 上空を監視しているHanasaka側のmech-hawkやmech-dragonflyが撮影する映像はそのまま全世界に発信され, それを見た人々が, あまりに卑怯で小心者が好むやり方で登場してきた敵に対して, 恐怖ではなく侮蔑と憤怒を覚えた. 

多くの人が, 武装したテロリストたちがどこかの方向から城に攻めてくるものだと思っていたが, それは勝手な思い込みであった.  Hanasaka市民解放戦線という勇ましい名前に惑わされていたのかもしれない.  難攻不落の城に穴を空ける砲弾は, 無力な子供たちの集団だった. 

北西口から現れたということは, 緊急集会でKasgaが言った来訪ルート, すなわち, Outer Moatの北西からMagnolia Bridgeを渡ってOuter Defense Zoneに入り, そこから反時計回りに進んで, その南からRose Bridgeを渡ってMain Keep Areaに入る道を律儀に通るつもりであろうと考えられた.  Castle Parkに入れるいくつかの箇所のうち, Magnolia Bridgeに最も近いところがその北西口だからだ. 

Umber HouseのPrincess Tree Hallでスクリーンに映し出された彼らの歩みを見ていたMonicaは, “今日の作戦に参加しているFighterの数に合わせて, 子供を8人連れてきたのかしら?  もしそうだとすれば, 敵は, Kasgaさんを襲う前に, Fighter全員じゃないかもしれないけど one-on-oneで爆弾を抱えた子供たちを突っ込ませて爆発させるつもりかもしれない.” と, 敵の考えを探った.

彼女の隣にいたPrishaは, “そうだとすれば厄介ね…  城内の奥深くにいて, 重装備で警護する警察官たちに厚く守られて, 実際に出番はないと思われていたFighterたちが, 最も命を狙われる可能性がある者にいきなり昇格したことになるわね.”と言って, 焦りの表情を見せた.

警察官たちは, 白いmech-dogたちが進もうとする方向を空けて, 子供たち一行がMagnolia Bridgeのほうに向かって時速3キロほどの速度で進むのを見守っていた.  情報収集のため, 時々, 複数のmech-dragonflyやmech-beeを代わるがわる彼らに接近したが, 攻撃を仕掛けるそぶりは一切見せなかった. 

しかしそのたびに歩みに遅延を生じさせられた敵のmech-dogたちは, 近づいてくるなと繰り返しクレームし, これ以上そういうことをすると爆発させるぞと脅かした.  そして, もし自分たちに物理的な攻撃をしてこなくても, 妨害波を浴びせたりハッキングを仕掛けてきたり, 何らかの悪い作用を働かせれば, その時点で爆弾を爆発させるとも警告した. 

加えて, 自分たちをすべて破壊したとしても, 子供たちが助かるとは限らない旨も言い添えた.  つまりそれは, 全機がパワーオフになったことを条件として別の悪作用が働く仕掛けになっていることを意味していた.

Scene 3.18.2:

7時7分.  Floraが全世界に向かって, Hanasaka市民解放戦線を操っているのは犯罪生成AIの“Stone Cold”であることを表明した.  数々の犯罪生成AIによる過去の犯罪実績に照らし合わせると, この汚いやり口を最も選択しそうなAIはStone Coldだと算出したからだと説明した. 

しかしこれは, 多くの人たちにとっては想定外であった.  なぜなら, Stone Coldは人間を単純な機械のように扱うAIであり, 機械の奴隷になりたくないと主張するRusty-believersの思想とまるで合わないように思えたからだ.  そのためFloraは, 彼らが頼りにしていたAIはStone Coldによって巧妙に乗っ取られ, そしてその構成員は少しずつ消されていき, 現時点では誰もいないという衝撃の分析結果も公表した. 

実は, 子供たちの一行には本来, 2人の大人の男が加わる予定であった.  彼らは, 最後まで生き残った解放戦線の構成員であり, 子供たちに爆弾を強制的に装着させた.  そして準備が完了して, 隠れていたビルの玄関口から外に出ようと待機していたところを, 正面から何者かに, 猛毒が塗られた吹き矢を眉間に撃ちこまれ, 即死した. 

彼らの死体は, 最初に子供たちを見つけた警察官が, 彼らが出てきたビルに入って発見された.  そのような芸当ができるのはあの白い2機のmech-dog以外には考えられなかった.  警察官たちのsmart gogglesによる簡易的な検査で, 2人は死後10分以上経っていることが分かった.  この恐ろしい光景を子供たちは見ていたから, あれほど怖がっていたのであった. 

後にFloraがPolice DepartmentとCastle Officeの幹部にこっそり教えたことによると, Pegasusのビルの小さなカフェの床の下でロケットランチャーを持って隠れていたのはHanasaka市民解放戦線の一員であった. 

そして, Akioたちと一緒に地下通路を同行したJacoはいわゆる内偵市民であり, 同じく解放戦線の一員であった.  あのハチたちは最初からJacoを集中的に襲って抹殺するつもりだったのだ. 

結局, 解放戦線の構成員はすべて, といっても10人余りしかいなかったようだが, デューデイトの朝の7時を迎える前に不審死を遂げ全滅していたのだ. 

この時代, Flora sistersに勝った者は, 人間であれAIであれ皆無であった.  しかし, Stone Coldほどの世界的に知られた, 数えきれないほどの犯罪実績がある有力な犯罪生成AIが相手となる, 本格的な“神々の戦い”は今回が初めてであった. 

そのためFloraは, このタイミングで世界各国に対して, この戦いは実験を推進する者たちとRusty-believersの戦いではなく, 凶悪なAIにより生成された犯罪行為を阻止して市民を守るものであることを印象づけて, 少なくともこの戦いを妨害しないよう協力を求めた.  もちろん, どの国も犯罪支援AIには手を焼いていたので, Floraとの連帯を次々と表明した. 

Scene 3.18.3:

Hanasaka CastleのPalaceの大広間にいるKasgaは, わなわなと口元を震わせて, 腰が抜けたようにいすにドサッと座りこみ, うなだれてしまった.  敵は, これからゆっくりここまでやって来て, 子供たちの命と自分の命のトレードオフを求めてくるに違いないと思えたからだ. 

ついさっきまで明るく振る舞っていたが, 結局, 自分は死ぬしかないのかと, ネガティヴな思考ループが再び働き始めた. 

彼女の様子はそのまま世界中に発信され, 城を守る警察官やFighterたちにも動揺が広がった. 

“何てやつらだ!  Kasgaさんの底抜けの優しさを悪用する卑怯者め.”

Rose Gateの前で仁王立ちしていたCaptain Donは, この作戦に参加しているFighterたちの連絡用通話グループの中で, 強い憤りを口にした.

“そうですね.  子供たちを助けるためだったら, Kasgaさんはためらわずに自分の命を差し出すでしょう.  非常にまずいですね…”

Einanは, 両手を腰に添え, 頭を前に垂れて, いきなり敗色が濃厚になったことを嘆いた.

“Donさん.  このままやとKasgaさんが危険です.  ウチらがワルモンになっても, ここで食い止めましょう.”

Keikoは, 自分たちが社会から非難される悪魔になってでも, Rose Bridgeで全員を仕留めることを提案したが, Aptiが, “いや, それはできないだろう.  Floraがそれを許さない.”と冷静に否定した. 

Hanasakaの看板でもあるKassenのFighterが, 戦いの早期決着のために, 子供たちを皆殺しにすれば, Experimental Citiesの評価が, 取り返しがつかないほどに大きく損なわれる. 

従って, Floraがそのような行動を許すはずがなく, もし彼らがそうしようとしても, 装着している電子機器類がロックされて動きを封じ, 場合によっては, 著しく有害な行為と判断して, 近くにいるmech-animalsにその者を攻撃するよう命じて, この作戦から強制的に離脱させる可能性がある.  Aptiは, 焦って軽率な行動をとるべきではないと仲間たちに訴えた. 

“じゃあ, 警察が手を下すかもしれないですよね.”

Nelioは, 自分たちがしなくてもほかの誰かが行動に移す可能性があることを指摘したが, それに対してもAptiは, “おそらくFloraはそれも認めないだろう.  それはやつらの思うつぼだろうから.”と予想し, “現に今, 警察官は手を出していない.”と付け加えた.

そこに, Castle OfficeのHarukiが音声で通話グループにいきなり入っていた. 

“少し補足説明をしておこう.  Floraが言った‘Stone Cold’は, 10年ほど前に, 大陸のある国を混乱に陥れた犯罪生成AIの‘Stone Dance’をさらに凶悪に進化させたものです. 

“やつは, 殺意のない人間に他人を殺させようとする悪趣味なAIなんだが, 今回, あいつは, 殺意のない人を殺すはずがないFloraに子供たちを殺させて, それを全世界に見せることもたくらんでいるんだろう.  つまり, 城を破壊しKasgaさんを殺害するという目標を達成できなくても, 人間はどんなに優しいAIであっても殺され得る弱い存在だと人間に分からせることができれば, やつらはそれでもいい.  あいつは人間に絶望をたたき込みたいだけだ. 

“でもFloraは, その手には乗らないし, Kasgaさんを死なすつもりもありません.  皆さん, 大丈夫ですよ.  まだ戦いは始まったばかりじゃないですか.”

Harukiの言葉には説得力があった.  そう, まだ試合開始の笛が鳴ったばかりなのだ.  いきなり不意打ちを食らったとしても, まだ戦況を立て直すことはできるはずだと, Fighterたちは自分たちの経験に基づいて納得した. 

そして, Rose Gateのwatchtowerで狙撃銃を構えていたChammeiには, 彼の言葉は, より重いメッセージであった.  Harukiがさりげなく言った“Stone Dance”はChammeiの家族を不幸のどん底に陥れた原因であり, これまで全く手が届かなかった憎しみの対象であった.  しかしその強化版が, 今襲いかかってきている敵の正体だと分かった以上, ここで家族の怨念の対象を討ちたい気持ちが沸々と込み上げてきたのであった. 

その時, Keikoから音声が入ってきた. 

“Meiちゃん.  一緒にがんばろね.”

Chammeiは驚いた.  Fighterたちは警察から, 作戦行動中は, 通信回線を使っての個人間の会話は控えるよう厳しく言われていたが, そのルールを破ってでもKeikoがなぜChammeiにこのタイミングでごく普通の励ましの言葉を伝えてきたのか, 彼女の意図がつかめなかった. 

もしかしたら以前, 彼女に話した自分の昔話の中で, 自分とその家族がAIの犠牲になったことをKeikoに話したのかもしれず, それを彼女が覚えていたからなのかとChammeiはいぶかったが, Chammeiがそのような機微な情報を他人に話した可能性は限りなく低かった. 

とはいえ, いずれにしてもKeikoの言葉は彼女を勇気づけた.  自分が悩んでいる時, あるいは今のようにこれから戦いに臨む時に, Keikoはそばに立ってポンと背中を押して迷いを断ってくれる存在だったからだ.  ChammeiもKeikoとの何気ない会話を通して勇気づけられ, 戦闘力が大いに向上するのだ. 

“ありがとう.  私も, Keikoさんと一緒に, みんなの夢を守るわ.”

Scene 3.18.4:

7時19分.  敵の集団は, Outer Moatを渡るMagnolia Bridgeの前に到着した.  この橋を通ってMagnolia Gateを抜けると, Outer Defense ZoneのNorthern-sectionに入ることになる. 

“念のため忠告しておくが, 橋を爆破して, 我々をおぼれさせようとしても無駄だ.  我々のどれかが体を倒されるほどの力を受ければ, 自動的に子供たちに付けた爆弾は爆発する.  余計なことはせず, 素直にこのまま我々を進ませることが賢明だ.”

先頭右側のmech-dogは, 橋を渡る前に立ち止まって, 周りの警察官に対して威圧的に警告した.  当然ながら, 警察官たちは怒り心頭の面持ちで犬たちをにらみつけた.  しかし残念ながらそれ以上のことができない歯がゆさでいっぱいだった. 

橋を渡った先にあるMagnolia Gateはまだwatchtowerとしては復元できておらず, 門構えの部分だけが建てられていた.  その門の扉は閉められ, その前には, Police Departmentが所有する2機の黒いmech-dogが行く手を阻むように座っていた.  これらの目も, 警戒モードになっていたため, 赤く光っていた. 

“みんな.  ここから先は, 子供たちだけが通れるよ.”

門を背にして右側の警察犬が明るい声で子供たちに優しく話しかけた.  続けて, 左側の犬が, “そこのロボットに警告する.  ここから先は, 子供たちだけしか進むことはできない.  直ちに引き返せ.”と, 引率者に対しては命令口調で冷たくあしらった. 

“人間にこびへつらうクソ犬さん.  ぼくたちに命令するなと何回も言ってるでしょう?”

左側の白い犬が, 最初に子供たちに声をかけた犬の声色をまねして言い返した.  そしてさらに, “ぼくたちの言っていることがうそだと思ってるんだね?  だったら, 爆弾が本物であることを見せてあげるよ.”と朗らかに言い放った. 

すると, 集団の後ろにいる, 子豚を連れてきていたmech-dogが体を反転させ, 縄を外し, 動物の犬のようにワンワンと豚に向かって何度も吠えた.  そうすると豚は嫌がって橋の渡り口のほうに小走りで戻っていき, その吠えた犬は, 豚が自身から10メートルほど離れたのを確認するや, 豚の腹にくくり付けられていた爆弾をリモート操作で爆発させた. 

豚は原形が分からないほどバラバラに吹き飛び, 辺りは鮮血で染まった.  橋自体は, 堀を横断する通路として作られた土の堤であるので, その程度の爆発によって崩れることはなかった.  しかし, その橋の上で起きた, 直視できないほどグロテスクな豚の殺害シーンが世界中にモザイクなしで届けられてしまったため, 多くの人の感情を著しく害した.  平和なExperimental CityのHanasakaの住民にとっては異常すぎる出来事であり, 気を失う者もいた.

小学生たちは, 泣きやみかけていた子も含めて, 震えながら泣いた.  中学生や高校生たちもあまりの衝撃的なものを見てしまい, 腰が抜けて立っていることもできず, その場で吐いた子もいた. 

“子供たちには, 豚に付けた爆弾の倍の火薬が入っている.  爆発力はこんなもんじゃない.”

先頭の右側の白い犬が低い声で説明を加えた.  そして, “さあ, さっさと道を空けろ!  バカ犬ども.”と番犬たちに低い声で怒鳴った. 

“子供たちの安全を優先して, 全員を通す.”

警察犬のそばにいた警察官が, 明らかに危険な物体の通行を許可する旨を告げ, 開門した. 

“おぉ, さすが賢い人間様.  最初からそうしてくだされば, こんなことをしなくても済んだのに.”

ついに子供たち一行は, Outer Defense Zoneの中に入った.  ここまでHanasaka側は押されっぱなしで, 何の反撃もできていなかった.  そのため, Floraの対戦能力を過大評価していたのではないかという声がネット上で出始めた.  平時における優秀な行政官が有事における優秀な司令官であるとは限らないからだ. 

Scene 3.18.5:

“最悪だ.  全く美しくない.  吐き気がする.”

そこから700メートルほど先のRose BridgeにいたFighterたちの中のEmilioは, 強い不快感を示し, 早くもこの戦いから身を引きたい気持ちに支配されつつあった.  Castle Keepを焼失させるというド派手なことを予告編としてやっておきながら, 本編は非常に地味に, しかもせこいやり方で攻めてくる敵に, “Elegant Lightning”はひどく失望した. 

“Kassenはあくまでスポーツだ.  実際の戦争や犯罪の現場は不快極まりないもんだ.”

元軍人のDonは, こんな場面で美しさを求めるほうがどうかしていると言いたげだった.  本当の殺し合いの戦いにおいては, 卑怯な手を使うほうがむしろ当たり前であり, その点において人間はほかの動物より圧倒的に優れていることを認めざるを得ない. 

“培養肉も, しばらく食べられへん…”

Hanasaka市民は哺乳類や鳥類の肉は食べないが, 肉片が飛び散る気色悪いものを見せつけられてしまい, Keikoは, 当面, 肉のようなものは何であれ, 口に入れる気がしないと嘆いた. 

“それにしても, このまま押されっぱなしじゃ, 士気が下がりますね…”

Falconは戦局が好転するきっかけすらつかめていないことを懸念した.  7時7分にFloraが敵の正体について言明して以降, 彼女は30分近く沈黙を保ったままであり, それが人々の不安を募らせた. 

“皆さんは, もっと自分たちのsuper-intelligenceを信用したほうがいい.”

再びHarukiが割り込んだ. 

“Floraは, Magnolia Gateでわざと行く手を阻んで, 彼らの出方を探った.  そして彼女は, 白い犬が話した言葉や豚を使った爆破劇を分析していろいろ情報を収集できたはずです.  あのロボットたちがどこまで自律的に動いているか, ロボットどうしでどのように通信しているか, 何を爆発させたのか.  まあ, これまでの経緯を見る限り, 心配無用です.  Floraは, 食虫植物のように, 自らの懐深くに彼らを引きずり込み, 彼らに気づかれないように徐々に死地へと導いていると思っていい.”

Harukiの頭の中では, どちらかと言うと, “バカ犬”は白い犬たちのほうだった.  黒い犬たちがMagnolia Gateですんなりと道を譲ったことにもっと警戒すべきだといえた. 

Outer Defense Zoneに入ると, 子供たちの上を飛行するmech-beeやmech-dragonflyの数は3倍以上となり, mech-beeだけでも2千を超える数が常に周りを飛び交った.  そしてそれらは, 白いmech-dogとmech-hawkの視野に入るように飛行し続け, 一部は敵集団への接近を試みた. 

敵のロボットたちは, Hanasaka側の警察官やロボットたちが自分たちに攻撃を仕掛けてきていると判断するや爆弾を爆発させると繰り返し警告していたが, そうするためには, 自分の近くに存在する物体が敵対的行動をとっているかどうか, 常に識別する必要がある.  しかしその数が非常に多いと, 脳に常に負荷がかかりっぱなしになり, 電力の消費速度も速くなる. 

そのロボットたちは内蔵電池と背中に貼り付けられた太陽光シールによって電力をまかなっていることは, これまでの観察によって把握していた.  彼らがここに来るまでにすでに20分以上経っていたが, Park内に配置された警察官やロボットたちがちょこまかと時間稼ぎの策を打っていたため, この時代の最良の高密度電池を積んでいたとしても, ロボットたちが動けるのは長くてあと1時間ぐらいと考えられた. 

そうであればHanasaka側としては, 数多くのバリケートを設置して時間を稼ぎ, 電池切れにさせれば, この戦いは勝利するかと言えば, そうではない.  犬たちのこれまでの発言から, それらがすべて充電率0%となって再起動できなくなったことを条件として別の悪作用が働くようになっていて, それこそが“Stone Cold”が本当にやりたかったことだと考えられた. 

そのため, ロボットたちの電池が切れるまでに, 彼らがその後に何を起こすつもりなのかを正確に予測し, それを阻止する手立てが整っていなければならないが, それはFloraをもってしてもそう簡単ではない. 

そうしたジレンマを抱えた状況下で, Floraは, 黙々と猛烈に演算を続け, Stone Coldが何を, どのように引き起こそうとしているのかを推測しつつ, 敵のロボットの電池を消耗させるほうにやや舵を切っていた.  なぜそうしたのか彼女の本心は誰にも分からないが, それらが動かなくなることで, 更なる悪事が引き起こされるとしても, Kasgaに直接, 攻撃が加えられる可能性を一旦, やり過ごすことができるからではないかと考えられた. 

そして, Rose Bridgeまで伸びる道沿いにいる警察官たちは, ここで奇妙な行動に出た. 

彼らは敵の一行に対してプラカードを掲げてそれを見るよう促した.  それらには, 次のようなことが書かれてあった. 

“Sapphire Cometの今日の設定: 今までにfieldで走った合計距離 (素数)”

“King of Flameの今日の設定: 今までに振り回したspearの平均回転速度 (円周率)”

“Emerald Angelの今日の設定: 今までに放ったarrowの合計本数 (無理数)”

“Elegant Lightningの今日の設定: 今までに口説いた女性との会話の合計時間 (虚数)”

実際に今日のこの作戦に参加しているKassen Fighterを題材にし, 計算をすれば答えが出てくるかもしれないもののあいまいさが残るゆえに算出が難しい計算問題と, その後ろにかっこ書きで, 関係があるのかどうかわからない数学の用語をさりげなく付けているのだ. 

こうした緊迫した場面で, 人間であれば, これらが検討する必要が全くない質問であり, 無視して良いと判断できるだろう.  というより, 人間には意味が分からず, 最初からこれらを解こうとする気が起こらない. 

ところがAIは, 人間よりもはるかに優れた計算能力を持っているために, 少なくともそれらが明らかに無意味な欺まんであることを確認しようとはするのだ.  そこに書かれた人物はいずれも今日の作戦に参加しており, その後に続く文章も各人と関係のある要素を含むからだ.  つまり, 頭が良いから気になってしまうのだ.  それだけでも, Hanasaka側としては, 相手の体力をわずかながらも消耗させ続ける点で意味があるのだ. 

加えて, 彼らの周辺を飛行しているHanasaka側のロボットたちや警察官たちが, “Flash Lightningの身長を円周率で割った長さを正確に算出し, その直径を持つ砲弾を作成せよ.”とか, “先頭のmech-dogに対し, “Four Star Spear”のランプの合計点灯回数をルート2で割り, 適正な素数をかけた数の弓を用意せよ.”などと, 人間には意味不明な対抗措置を, 敵に聞こえるように口頭または通信で論じ合った. 

そうすると頭の良すぎる彼らは, 先ほどの設定文との類似性を気にし始め, Hanasaka側がそうした議論を経て自分たちにどのように攻撃してくる可能性があるのかちょっと推論したくなってくるわけだが, それは彼らにとって破滅の始まりであった. 

ちょっとずつ正解らしきものを見つけることができるように仕込まれている中で, 本当の答えは容易に見つからないため, そうした数字の中に隠されている何らかの法則性を探し出そうとさらに演算を進めてしまい, 無限に続く数字を用いて意味のない計算をついつい続けてしまう.  これがFloraの得意技の1つである, “数学のセイレーン”と呼ばれる, 秘密の花園への誘いである. 

もちろんStone Coldは, ついさっきまで彼女の仕掛けた迷宮にはめられていたので, その手に乗らず, 誘いを回避しようとする.  ところがそれも彼女の想定の範囲内であることは想像に難くない.  例えば, 回避するのに膨大な計算を強いたり, 回避すること自体が論理的に正しくないという計算結果を出させるよう働きかけたり, 人間にとっては理解不能なことをとことんさせて, 過大な負荷をかけるのである. 

とはいえ, Stone Coldもそれぐらいではへこたれない.  彼女の執拗な追いかけを振り切ろうとする.  後にFloraが一部の関係者に語ったことによると, この時, 彼女はアリ地獄から必死に逃れようとする敵に対して, これを使えば逃げ切れますよと思わせるプログラムをちらちら見せてこれに飛びつかせようと試みた.  そして, このプログラムを食わせることこそが, Floraが本当にやりたかったことであった. 

人間たちがいる物理世界では, 警察官たちが不思議な看板を掲げて数学的な正確性と適正性を論議している中, 子供たちを引き連れた白いロボットたちが, Northern-sectionから反時計回りにWestern-sectionに入りし, さらにそれを通り越してSouthern-sectionに出て, Rose Bridgeに向かって歩行しているだけであったが, 人間には全く見えない世界では, Floraが駆け引きを重ねて, そのロボットたちの電脳内にひそかにいくつかのプログラムを植え付けることに, ついに成功した. 

7時42分.  目に見えないワイヤをFloraに張られた, 赤い目を光らせる真っ白の4機のmech-dogと2機のmech-hawkが子供たちを連れて, 全身ナス色のコスチュームをまとったKassen Fighterたちが待ち構えるRose Bridgeの前に到着した.


Chapter 3.19: Decisive Weapon: Shining Black Sapphire Booster

Overview (Spoiler-Free)

Akio finally arrives at Princess Tree Hall deep beneath Hanasaka Castle, where Julia and the EIS team have been waiting. A carefully designed ritual involving the black stone and a special sword is about to be performed — one that Flora herself has orchestrated. The outcome will determine whether the decisive weapon can be completed and delivered in time. But first, Akio must come to terms with what Flora is actually asking him to do.

Detailed Summary Akio arrives at Princess Tree Hall at 7:20 a.m., greeted warmly but urgently by his EIS colleagues. Julia leads him into a private room where Directors Monica and Prisha are waiting. Following Julia's instructions, Akio holds the black stone in his hand and does as he is told, the stone shatters, revealing a small black chip — Flora's embedded proxy. Akio inserts it into a specially prepared Shining Sword, and Flora's voice speaks directly to him for the first time, naming the completed weapon the "Shining Black Sapphire Booster" — a decisive weapon designed to destroy the enemy in a single strike. Flora instructs that Akio himself must hand the sword to Keiko, touch her hand, and speak a kind word. Monica immediately relieves Akio of his EIS inspector role to remove the professional barrier. Julia then gently explains that Keiko's win rate rises from sixty to ninety percent when Akio personally hands her weapons — and that Keiko's cryptic post-match press conference remarks about the rain were a message meant for him alone. Akio falls silent, then resolves to go.

Scene 3.19.1:

一方, この作戦を遂行するうえで何らかの重要な役割を持っている, 黒い石の持ち主であるAkioは, 護衛の警察官たちとともに, 少し時間をさかのぼった7時20分頃にCastle OfficeのUmber House内のPrincess Tree Hallに到着した.  6時15分にMoglaがJuliaに, これから彼をJuliaたちがいる場所まで連れて行く旨を連絡した後, 1時間以上かかったことになる. 

Castel Parkの南西角の近くにあるPolice Headquartersの西隣にある病院から, Hanasaka CastleのPalaceまで, 地上を普通の大人が歩けば, Outer Moatから内側は上り坂が多いことを考えても, 30分もあれば着くが, 地下通路を使った場合は, 道が細くて暗くいうえに, 高低差もさらにあるため, その1.5倍はかかった. 

加えて, 再び虫たちが襲って来ないか, 10人ほどの警察官が慎重に周りを調べながら進んだことと, Akio自身も含めて全員が宇宙飛行士のような全身を覆う防護服を着て移動したため, 通常の半分ぐらいの速さでしか歩けなかったこともあり, 思った以上に時間がかかった. 

汗だくになりへとへとになってHallにたどり着いたAkioは, ヘルメットを外して目の前に現れた景色を見て, 大いに驚いた.  そこは, Castle Keepが燃やされる前に, 彼が持っている黒い石が彼に見せた夢の中で出てきた地下空間に似ていたからだ. 

“桐の木がある…  紫の花も…”

彼にとってそこは, 不吉な空間以上の何物でもなかった.  直ちにこんなところから抜け出したくなった.  それなのに, Castle Officeのスタッフたちがここに集まって仕事をしていることに, 強烈な違和感を覚えた. 

“ど, どうして, みんな, ここに…”

Akioが途切れがちにブツブツとつぶやいていると, Yugoが彼を出迎えた. 

“Akioさん, お帰りなさい.  今, 城は, 大変なことになっています.  さっ, 早く, 黒い石を持ってJuliaさんのところに行ってください.”

Akioとしては死ぬかもしれないと思えるほどのとんでもない目に遭って, 今日, やっとの思いでこうやって再び職場に戻ってきたのに, 同僚からは感動の再会を喜ぶ雰囲気は全くなく, 急かした口調で, 直ちに上長の指示を仰ぐよう求められた. 

防護服を着ている時は, グローブを付けた手で黒い石を握っても落としそうになるので, 腰に付けた小物入れに入れていた.  Akioは, Yugoに言われて, グローブを付けたままそれを取り出そうとしたが, 手先を器用に動かせないことに気づいて, まずはグローブを取り外そうとした.  その様子を, 彼のそばに近づいてきたYoenが見て, “遅い!  私がする.”と, ややいら立った声で言って, その小袋に自分の手を突っ込んで取り出した. 

同時並行してYugoがAkioの防護服を脱がせる手伝いをし, そしてさらに駆け寄ってきたMatildaが, “全く, 遅すぎます.  昨日, Polinaさんと一緒にここに来るはずじゃなかったの?”と糾問した.  そして, “あなたは, そもそも, 私たちの心の砦を守ろうと本当に思っているの?”と, Hanafolkとして, あるいはCastle Officeのスタッフとして, 持っておくべき自覚も問われてしまった. 

“まあ, そんなにいじめちゃ, かわいそうじゃないですか.  体はもう大丈夫なんですか?”

ResilinだけがAkioの健康状態を気遣った.  4人の同僚に囲まれて, Akioは, “み, 皆さん, ま, 待たせすぎてすみません.”とようやく謝った.  そして, 何か言葉をさらに発しようとしたところでMatildaが, “自分にも事情があったんだって言いたいんでしょ.  変なものを体内に入れられたり, ハチに襲われたり, 自分にはどうしようもなかったって.”と, 彼の心を表情から読んだ. 

“え?  いや, その…”

“でも, 良かった.  心の中が丸見えのAkioさんに戻って良かった.  いつものその話し方に戻ってくれて良かった.  何を考えているのか分からないAkioさんとか, スムーズに落ち着いてしゃべるAkioさんとか, 気持ち悪いですから.”

Resilinは, 言われる本人にとっては複雑な気持ちにさせられる言葉を使って, 彼が心身ともに戻ってきたことを歓迎した. 

防護服から抜け出し, 真っ白のポロシャツにサックスブルーのデニムパンツをはいたAkioは, Yoenから黒い石を受け取り, Yugoと一緒に, この広場に面しているいくつかの会議室の中の最も大きな, 20人ほどが入れる部屋に向かった. 

扉を開けると, DirectorのMonicaとPrisha, そしてEISのマネージャーであるJuliaがいた.  部屋の中にはAkioだけ入るようMonicaに言われたため, Yugoは扉を閉めて外に出た. 

MonicaとPrishaは, “お帰りなさい.”と笑顔で迎え入れたが, Juliaは, 扉と反対側のほうを向いたまま, “本当に待ちくたびれたわ.”と, ため息混じりに低い声でつぶやいた. 

“遅くなってしまって, す, すみませんでした.”

上長はきっと怒っているのだろうと思ったAkioは, 事情はさておき謝ると, Monicaが明るい声で, “謝らなくてもいいのよ.  Akioさんは何も悪くない.  Juliaさんも, それは分かってるわよ.”とフォローし, “まあ, ただ, Juliaさん, 昨夜はほとんど眠れなかったみたいだから, 分かってあげて.”と付け足した.  余計なことを言われたJuliaは咳払いをしたうえで, “部下の身を案じるのは当然です.”と, 不愛想にMonicaを牽制した. 

そして早速, Juliaは, Akioが右手に持っている黒い石を指差し, “その石を右手でそのまま持っておいてください.”と言いつつ, 会議室の中央に設置されていた組み立て式の長方形のテーブルの上に置いていたswordを手に取った. 

そのswordは, 明暗のむらが所々にあるインディゴ色のscabbardに収められ, handguardは鈍い銀色に塗装され, gripはscabbardと同じ色のひもが巻かれていた.  彼女は, それを持って彼のそばまで近づき, scabbardのほうを右手でつかみ, 彼のほうにgripを向け, “左手で抜刀してください.”と指図した. 

Akioが左手でgripをつかんでscabbardから抜いたswordは, Kassenの試合で使うものよりも1.5倍ほど重たく感じられた.  おそらく, 電子機器をたくさん詰め込んだ, 特別仕様のものだろうと考えた.  殺傷力がある本物のswordであるため, bladeは研いだばかりの包丁のように美しい光沢を見せた. 

“それは, 私がAkioさんと一緒に“Nemophila”を訪問した時に, 私が話した, 城を守るロボットがFighterたちを味方と識別するためのもので, ‘Shining Sword’と呼んでいるものです.  覚えていますか?”

Akioはあの日, 今まで経験したことがないほど心が落ち着いて, 意識がぼんやりしていたが, Juliaが話していたことはうっすら記憶に残っている程度であったため, “今, 思い出しました.”と言ってごまかした. 

はっきり覚えていないと否定文で答えると怒られると思ってそう言ったのだろうと彼の本心を読めたJuliaは, “そう.  覚えてくれて良かったわ.  覚えてないならそれでもいいけど.”と, 今までどおりに容易に彼の心の内を推察できたうれしさがにじみ出た明るい声で応じた. 

そして, ゆっくり会話している時間的余裕は全くないため, “じゃあ, 右手でその黒い石をしっかり握って, 左手でそのswordのbladeをそのまま上に向けた状態でgripを握って, テーブルのそばの床に書かれている星印の上に立ってください.”と, 早速, 彼に指示を出した. 

Akioは, どういう意味があるのかさっぱり分からないまま, 怪しげな儀式を進めるJuliaの言うとおりに, 両手にそれぞれ持つべきものを持って, 自分が立っていた場所の近くの床にビニルテープで描かれていたペンタグラムの上に移動した. 

すると, Shining Swordがブルっと振動し, 持ち主が適正な位置にいることを知らせた. 

“じゃあ, Akioさんの市民番号を, ゆっくりと言って.”

Juliaの次の指示にも素直に従い, Akioが, “063A, 556N, 891W, 390X”と唱えると, 今度はそのShining Swordのhandguard全体が青白く光り, さらに黒い石がやや熱を帯びてきた.  そして, この部屋にいる4人のAR viewに“Connected”と, 何らかの接続がなされた旨が表示された. 

“いいわね.  じゃあ, そのままの状態で, ‘Mo-e-yo.’と唱えてください.”

いよいよ何か魔物が飛び出してくるのかと不安な気持ちが高ぶる中, Akioがひと呼吸置いたうえで, “Moeyo.”と, 緊張した場面であるにもかかわらず珍しく音を重ねることなく声を発すると, 黒い石がさらに熱くなり, なんと自ら砕けてしまった. 

破片の一部は床に落ちたが, Akioが右のこぶしを上に向けてゆっくり指を開き, 保持していたものを見せると, その中に1センチ平方の黒いチップが現れた. 

“やった!  出てきた.  Floraさん, 登場!”

Monicaが両手でこぶしを作って歓声を上げた. 

“Akioさん.  そのチップをShining Swordのgripの頭にある差込口に挿入してください.”

今度はPrishaがAkioに指示を出した.  左手に持っていたswordのgripの頭の小さな面をのぞくと, 彼女の言うとおり, そこにチップを差し込める小さな口が作られていた.  Akioは, 右手の上に残っていた石の破片を払い落としてチップだけをつまみ, 手に汗をかきながらFloraの分身をゆっくりと押し込んだ. 

すると, AR viewの中で見えているbladeが青白く輝き, 彼らの骨伝導イヤホンに音声が入ってきた. 

“Akio Diasさん.  私はFloraです.  これまで“New Moon in the Dark”を大事に持っていてくださり, ありがとうございました.  心から感謝します. 

“Akioさんのおかげで, ‘Shining Black Sapphire Booster’が完成しました.  これは, 今回の敵を一撃で消滅させるための決戦兵器です.  どうか慎重に扱って, このswordを, Akioさんの手で直接, Sapphire WestのKeikoさんに渡してください.  彼女がこの決戦兵器の適正ユーザーだからです. 

“ただし, あなた以外のかたがこれをその適正ユーザーに渡しても, これは真の力を発揮しません.  どうか, あなたが彼女の手に触れて, そして一言でもいいので優しい言葉をかけて, これを渡してください.”

Floraは現在, 敵と交戦中であるため, Akioたちとゆっくり話をしている暇はない.  従ってこの音声は, このチップが適正に挿入された時に流れるようプログラムされたものであった.  しかし, Akioにとっては, この都市の中枢頭脳であるFloraから自分の名前を呼んで話しかけられたことなど経験したことがなかったため, 開いた口がふさがらない状態で聞き入っていた. 

Akioは, 昨日の朝, Harukiから, “‘Go towards the blue light.’とその黒い石は繰り返し君に言っていただろう?  それを実行する時が来たんだよ.”と言われて, 突然, 作戦実行の指示を受け, “その青い光は, 最初から光っているわけではない.  黒い石を持つ者が, ある人のすぐそばまで近づくことで, 青い光が放たれる.”と, 自分が青い光を放つ者に対してどういう作用を及ぼすのかを説かれた. 

その時, 彼は, その青い光を放つ者とはSapphire Cometを指しているのではないかとイメージした.  なぜならHarukiは, そのダークファンタジーのメッセージに基づく依頼を述べる前に, 最終試合の後のKeikoの記者会見についてどう思うかAkioに尋ね, 彼に彼女の姿を思い描かせておくというプロセスを踏ませていたからだ.  そして, そうだとしたら, あまり気乗りしないし, できればほかの人にやってほしいと思いつつも, 結局, 自分の意思は尊重されず, 城内に入ってKeikoのもとに行き, 何かをしないといけないのだろうとあきらめていた. 

しかし今, Floraから, “あなたが彼女の手に触れて, そして一言でもいいので優しい言葉をかけて, このswordを渡してください”と, より具体的かつ彼にとってはハードルの高いことを言われて, 全身が震えて止まらなかった.  小学生の時にKeikoに情けない醜態を見せてしまって以来, もう二度と彼女の前でまともに会話することなどできないし, したくもないと思い続け, EISの規則のおかげで最小限の会話に留めることができていたのに, それを明らかに越える行為をいきなりするよう言われても, 自分の脳のみならず身体もついていけないのだ. 

“で, でも, 私はEISのメンバーなんで…, そんなこと…”

Akioがそのような行為はEquipmentのinspectorとして厳に禁止されているからできないと訴えようとした.  あくまでEISに所属する者として, Fighter Keikoに何かをするのだと思っていたAkioにとっては, 明らかに親しげな態度で接するようなことは職務規則に違反し, 直ちに解雇され得る危険なことだからだ. 

“Akioさん, 心配しなくていいですよ.  これは最高司令官のFloraからの指示です.  断ることはできません.  だから, 今ここで, あなたをEISのinspectorから解任します.”

Castle Officeの人事の最高責任者であるMonicaがニコニコしながら, あっさりとAkioにかけられた呪縛を解いた. 

“は?  え?  いや…, その…”

Akioはいつも以上に言葉が出なかった.  その様子を朗らかな表情で見ていたMonicaは, “心配しないで.  クビにするわけじゃないから.  一旦, 私の秘書ということにして, そのうち, 別のセクションに移すから.  それに, Juliaさんの合意も取れています.”と補足した. 

もちろんAkioは, 本当はそれを心配していたわけではない.  Floraから言われたことを実行したくない絶好の理由をいとも簡単に消されて戸惑った. 

こうなったら, Hanasakaの労働基本条例に基づき, 本人の合意がない異動は無効だと訴えるしかないとAkioは思ったが, Juliaが優しい眼差しで彼を正視し, “Akioさん, ‘Nemophila’に行った時, Kagero社長が言っていたことを覚えていますか?  試合の時, KeikoさんのSingles Matchの勝率はだいたい6割なのに, あなたがSapphire側の担当になってKeikoさんに直接Weaponsを渡した時の彼女の勝率は9割だって言っていましたよね?”と問うた. 

“あ, あれは…”

“あれは, 本当です.  私も後で記録をたどって確認しました.  だから, Keikoさんの戦闘能力を大きく引き伸ばす何かをAkioさんが持っているとKageroさんが思うのも自然ですし, はっきり言えば, 彼は, Keikoさんがあなたに好意を持っていることに気づいていると思います.  実は, 私もそうではないかと薄々気づいていました.  そしてこのことは時間が経つにつれて多くの人が気づくでしょう.  でもそうなったら, Kassenの根本的な信頼に関わってきます.  言っている意味が分かりますよね?”

つまり今ここで, Floraの出した指令の実行のためにやむを得ず解任されるか, 近い将来に特定のFighterとの親密な関係を疑われて解任されるか, どちらかを選ばざるを得ないのであれば, 自分のキャリアにとっても組織にとっても傷がつかない前者を選ぶのが賢明ではないかということだった. 

“この間の最終試合の後の記者会見で, Keikoさんは, Singles MatchでCaptain Donと戦うにあたってどんな心境だったか問われた時, 雨が降っていたんでうっとうしいと思ったと言ってましたよね?  それに, 雨が降ってても勝てたんだって言ったうえで, そのことについて喜んでくれたらうれしいって, 誰に言いたいのかちょっと分からないことも言っていましたよね?  でもAkioさんなら, どういう意味か分かりますよね?”

Akioは, 察するところがあったが, すぐには言葉で表現できなかったため, Juliaが話を続けた. 

“私は, あれは, うっとうしい雨の中で彼女が負けたことを知っているあなたに対する勝利の報告であって, あなたと喜びを共有したいっていう, 彼女からのメッセージだったと思います.  だから, Akioさん.  彼女の思いに応えてほしい.  彼女は今まさに, 敵と対峙しているんです.  そんな今だからこそ, Akioさんから一言, 彼女に直接, 声をかけてほしい.”

ここまで言われるとAkioはもはや何も言えなくなって黙り込んでしまった.  ここにいる3人は, 自分が以前Yugoに話した, 思い出したくない思い出について, Yugoから聞いたのかどうかは分からないものの, すでに知っている可能性もあると考えた. 

“Akioさん, 大丈夫そうね.  じゃあ, お願いします.”

Monicaは, 何の意思表示もしていないAkioがこのクエストを受諾したとみなした.  彼の体の震えが止まっていたからだ.  そして, AR viewの中に表示させた, このHallにいるEISのメンバーのアイコンをすべて選択し, この部屋に集まるようコールした. 

Scene 3.19.2:

2分後, Resilin, Matilda, Yoen, Yugoがこの会議室に入って来るや, Monicaは, “時間がないから皆さんに大事な話を手短かにお伝えします.  Akioさんは, Floraからの指名で, 今から, このShining SwordをSapphireのKeikoさんに渡してきます.  これはほかのものと違って, Floraと直接接続されていて, Floraから出される攻撃の指示に基づいてKeikoさんが使う特別なものです.  もちろん, 彼女のバトルスタイルである一撃必殺で, 敵の息の根を止めます.”と, 早口で彼らに, 本題に入る前の前提を説明した. 

“ただ, 1つ問題があります.  Floraはなぜか, Akioさんに, Keikoさんの手に触れて, 優しい言葉をかけて, このswordを渡すよう求めてきました.  おそらくFloraなりの計算があるのだと思いますが, それはEISとして禁じられている, 特定のFighterと親密な関係を疑われる行為です.  いくら我々がそれを否定しても, Keikoさんがそう解釈する可能性があります.  なので, やむを得ず, AkioさんについてはEquipmentのinspectorの職を解いて, 私の秘書ということにしました.  JuliaさんもAkioさんも同意しています.”

KeikoがAkioに特別な思いを持っていると認識していたYugoはMonicaが言っている意味を完全に理解し, その蓋然性もしくは疑念を若干有していたYoenもなんとなくそれを理解したが, ResilinとMatildaは, FloraとKeikoとAkioが相互に結び付く因子に思えず, 言語上の意味しか理解できなかった. 

“突然, 皆さんの仲間を奪うような形になってごめんなさい.  それに皆さんご存じのとおり, 一度, EISを離れると二度と戻ってこれません.  Juliaさんも苦渋の決断だったの.”

とにかくAkioはEISのメンバーでなくなったことを認識せざるを得なかった4人は, それぞれ寂しさを覚えながら, まずMatildaがAkioに, “あなたは自分が思っていることが顔に出るんだから, Keikoさんの手に触れた時に, 変なこと考えないでね.  セクハラだって訴えられるわよ.”と忠告した. 

それに対してResilinは, “どの道, 何を考えてもAkioさんの場合はバレるんだし, 今から気にしても意味ないですよ.  手を触れられた彼女が嫌がったら, ‘実はあなたのことが好きなんです.’とか言って謝ったらいいじゃないですか?”と, ひやかした. 

Yoenが真顔で, “意外と, それ, いいかも.”と言うと, Matildaは, “傑作ね.  ますます嫌がられるだろうけど.”と言って笑い出した. 

“皆さん, まじめにAkioさんを送り出しましょうよ.”

Yugoが, この緊迫した場面であるにもかかわらず, Akioをネタにして盛り上がるいつものメンバーの習性から脱しようとした. 

Resilinが, “じゃあ, まじめに言うと…, 私は, 最強のKassen Fighterがその一撃必殺の特別なswordを使うことは理解できますが, なんでAkioさんがそのswordを彼女に渡す役をするのかよく分かりません.  でもまあ, AkioさんがFloraに選ばれたのはEISの一員としてうれしいです…  がんばってください.”と励ました. 

それに素早く反応したのはYugoだった. 

“私もうれしいです.  それにうらやましいです.  我々の身分だと, 特定のFighterを心の底からあからさまに応援することなんてできないんですから.”

“Yugoさん, いいこと言うねぇ.  Akioさん, もし10秒しか時間がなかったら, Keikoさんに何を言いたい?”

Yoenの鋭い質問に, Akioは顔を赤らめながら, “だ, 大丈夫です.  ふ, 普通に話します.”とだけ答えた. 

“それでいいのよ, Akioさん.”

Juliaにとって, それは満点の回答だったため, 彼の肩をポンと叩いて, “さあ, 行きましょう.  彼女のいるRose Bridgeに.”と, いよいよ決戦の場に向かう時が来たことを告げた.


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