Part 3: The Ninth Autumn
Chapter 3.1: Mayor’s Assassination
Overview (Spoiler-Free)
It is early October, and tensions are rising in Hanasaka City. Castle Office staff members Akio and Yugo finally meet with Mogla, a detective from the Police Department’s Cyber Patrol Section, after waiting over two months. During a drive and walk through the city’s Green Field Zone, Mogla reveals unsettling information about a mysterious stone Akio has been carrying, and the conversation turns to Hanasaka’s growing security threats, the role of AI governance, and what the city may be facing in the weeks ahead.
Detailed Summary
It is October 4th, ten days before the Autumn Games opening ceremony. After a two-month wait, Castle Office staff Akio and Yugo finally meet Mogla, a detective from the Police Department's Cyber Patrol Section. Mogla reveals that the stone Akio found — dubbed "New Moon in the Dark" in the Stone Souls app — contains a hidden communication device covertly syncing with Akio's Nexus Unit. Mogla installs monitoring and deception programs on Akio's Nexus and asks him to keep the stone as bait. Mogla's colleague Lemolain suspects the criminal AI Stone Cold of operating behind the scenes, using innocent citizens as unwitting instruments of crime. During a drive to the Green Field Zone, Mogla recaps recent events: Mayor Goblino was publicly exposed for plotting against Kasga, then assassinated by an elite sniper before police could arrest him, effectively destroying the Pro-Mayor Faction. The trio discusses the broader geopolitical situation, Flora's role as Hanasaka's supreme protector, and why no citizen — not even an eager Fighter — can participate in foreign wars as long as Flora governs the city. Privately, Lemolain makes a stunning discovery: the device inside Akio's mysterious stone appears to be directly linked to Flora herself.Scene 3.1.1:
Part 2では, Hanasakaの歴史の教科書では必ず触れられる, Establishment Eraの9年目 (9 E.E.) の6月30日に起きた“The Great Keep Arson”を取り上げた. このHanasaka CastleのKeepを炎上された事件は, Hanasaka市民のみならず, 世界に衝撃を与え, さらにその後, “Hanasaka市民解放戦線”と名乗る組織が犯行を表明し, 憎悪の対象をKasgaに集中させ, 更なる城の破壊と彼女の殺害を予告した.
それによってKasgaは精神が崩壊しかけたが, 親友のKeikoの一喝によって奇跡的に復活し, 歴史に残る演説をおこない, 人々を大いに励まし, KasgaやCastle Officeの影響力を削ごうとしていた, Goblino市長とその同調者からなる, いわゆる“Pro-Mayor Faction”をおおよそ無力化した.
また, HanasakaをつかさどるFloraの力の源泉は市民たちのストーリーのある幸せであるというJuliaの仮説は的外れではなく, Kasgaの演説による人々の幸福度の上昇によってFloraの戦闘力は大幅に向上した. そして, Hanasaka市民解放戦線を背後で操っていると思われる犯罪生成AIに対しFloraがラビリンス・プログラムで封印をかけ, 少なくとも11月の初めまでは手出しができないようにした.
Kasgaの演説はさらにFighterたちの意識を変化させ, 限定的な武装で犯罪者たちを迎撃できる1級警備員の資格を取り, 自分たちの真のリーダーと認識したKasgaに襲いかかろうとするテロリストに対し, 自らも戦う決意をする者も出てきた.
しかしそれはエンターテイメントであるべきKassenの本質を変えてしまうと憂うる声もあり, Fighterたちの手で守られようとしていたKasga自身も, 彼らが人殺しをしてでも自分を守ろうとすることに強い抵抗感を持っていた.
同様の懸念を持っていたCastle OfficeのAkioは, 元同僚のJascaとの会話の中で, “Stone Souls”という石集めのアプリ上でAkioが“New Moon in the Dark”と名づけた石が不思議なメッセージをつぶやくことを話したところ, Jascaは, その中の“You who hold the black stone, Go towards the blue light.”というフレイズが, Floraが敵を粉砕する一撃を発動させる条件を暗示しているのではないかという仮説を示した.
Part 3では, KassenのAutumn Gamesの活劇を見ながら, 同じくHanasakaの歴史の教科書で必ず言及される, 9 E.E.の11月9日に向けて, Hanasakaの人たちがどのように敵を迎え撃とうとしたのかを語る. そしていよいよ, 人類の英知の結晶であるsuper-intelligence Floraが本気を出す.
Scene 3.1.2:
Autumn Gamesの開会式まであと10日に迫った10月4日, AkioとYugoは, ようやくPolice DepartmentのCyber Patrol SectionのMoglaと会えることになった. 彼に会いたいとマネージャーのJuliaに頼んでから2か月余りも待たされたことになる.
この2か月間, Castle Officeとしては, 8月7日に毎年定例の, Kassenのスポンサーとの交流会を開催したこと以外に特にトピックスはなく, あとはAutumn Games, 特にGrand Prixの開催に向けて諸々の準備を急ピッチで進めていた.
もっともCastle Officeも, “Hanasaka市民解放戦線”が再び襲ってくることを警戒して, 当初は, Autumn GamesやGrand Prixの実施を危ぶんでいたが, FloraやPolice Departmentからの情報提供を受け, 当面, 敵は動かないだろうとの見立てを信頼し, 早々に開催をあきらめるかのようなメッセージを出すようなことはせず, Fighterや市民に対しては, 変更はしないという強気の姿勢を維持し, ギリギリまで状況を見極めつつ, 試合を開催する前提でできる限りの備えをおこなうことにした.
Castle Office以外に視野を広げると, 8月11日に警備員に関する市の条例が制定され, 1級警備員は, exoskeletonを装着し, 武装して襲いかかる者に対して, 条例で定義づけられている“限定武装” (槍, 刀, 弓矢を含む刀剣類と致死性の低い銃器を指し, 催涙ガスの使用は認められていない.) で対処できるようになった.
人を殺傷し得る武器の所持を禁止するExperimental Citiesにはふさわしくないように思える条例だが, 特別な許可を得た者以外がそうした武器を使用することは禁止されていることに違いはなく, “Charter of the Experimental Cities”には抵触しない. 実際にいくつかのExperimental Citiesでは同様の条例はすでにあり, Hanasaka Cityでも, “The Great Keep Arson”の後, 治安維持に対する市民の意識が高まり, トントン拍子に成立した.
そしてこの条例は, スポーツ・プレイヤーであるFighterたちに, 犯罪組織との戦いへの門戸を開き, Fighterたちの生き方を大きく変えることになるのではないかと懸念された.
しかしHanasakaでは, 従業員の副業を禁止することは職業選択の自由を侵害するとして認められていなかったため, 各clubはFighterたちに1級警備員と掛け持ちすることを禁止せず, 決起集会以後のFighterたちの高揚感に押されて, 自重を求めることもしなかった. 実際, Fighterたちの中には, 警察や他国の軍隊から自組織の宣伝のためにその所属員である身分を残しながらclubに入団する者もいて, 彼らも有事の際には出身組織の所属員の身分で戦うことになるわけだから, 彼らと同じではないかと考えられていたのだ.
もっとも, Jascaが看破したように, AkioのようなCastle Officeのスタッフとしては, 変容していくFighterたちの意識に強い不安を感じていた. Kassenはあくまでスポーツ・イベントにすぎず, Fighterたちはそのイベントを盛り上げるためのエンターテイナーにすぎないはずなのに, “Fighter”という言葉がその本来の意味を持ち始めると, 自分たちがKassenは暴力を肯定したり助長したりするものではないとさんざん言ってきたことが説得力を失ってしまう.
それにCastle Officeやclubのスタッフのみならず, Equipmentの製造などにたずさわる事業者たちや, 当のFighterたちですら, Hanasakaを明るく楽しく盛り上げるために働いているのに, そこに悲壮感がこもった正義を振りかざした信念のような異質なものが持ち込まれるのは, 甚だ筋違いであり迷惑と考える者も少なからずいた.
そのため, 炎上事件後の興奮が収まるにつれて, また解放戦線と名乗る者から何の音沙汰もない状態が続いていることもあって, いたずらに騒ぎ立ててFighterやKassenの定義を変えてしまうべきではないという世論が8月中旬以降, 徐々に支配的になってきた.
ところが, 9月30日に世の中を驚愕させることをPolice Departmentが発表し, 脅威は現に存在し, 悪夢が本当に忍び寄っていたことが明らかになり, 人々は再び強い不安に支配されることとなった.
そして翌日さらに衝撃的な事件が起こり, Hanasakaは一気に緊迫した雰囲気に包まれた. 人心は動揺し, 物騒なことが起き続けるのに嫌気がさした市民が市外に脱出しようとする動きもみられ, こうなってくると, やはりあの人に鎮めていただく必要が出てきた. そうした状況下においての, Moglaとの面会となったのである.
この日は, Moglaが車に乗りながら話をしようと誘ってくれたため, AkioとYugoは15時に, 指定された待ち合わせ場所である, Hanasaka Cityで最大の鉄道ターミナルである“Fortuna Station”の近くの, “Tigris”という名のショッピングモールの正面口付近に立っていた.
10月初めのHanasakaは, 日差しの下だとまだ暑さを感じるが, 夏の高温多湿の空気は抜けているため不快さを感じることはなかった.
この辺りは市内でも最も人通りが多く, 車の通行は制限され対向1車線しかなく, 所々に歩道をえぐり取って作られた停車スペースでしか車の乗降はできない. Moglaは, 指定した待ち合わせ場所から10メートルほど離れた, “D”の標識を掲げるスペースに車を停めたうえで, そこに来るよう2人にチャットで連絡した.
ほどなく彼らはMoglaが乗っているという紺色の車を見つけてそばまでやって来ると, 後部のドアが開き, 運転席に座っている彼から中に入るよう指示され, 彼の車に乗り込んだ.
“やあ, Akioさん, Yugoさん, お久しぶりです. いやぁ, 長らく待たせてしまって本当に申し訳ない.”
Moglaは, 両手を広げて朗らかに笑いながら, 2か月以上つれない態度でデイトに応じられなかったことをまず詫びた.
“いえ, お, お忙しいのに, わがままなお願いに, つ, 付き合っていただき, ありがとうございます.”
Akioは, 身長190センチ, 体重100キロを超える大きな体であるのに威圧感を覚えないMoglaに対してはなぜか警察官に対する嫌悪を感じず, また会えたことを素直に喜んだ.
“それに, 先日の射殺事件でお忙しいでしょうから, 当面, お会いできないものと思っていました. 本当にありがとうございます.”
Akioに続けてYugoがいきなり本題を絡めながら礼を述べたが, Moglaは, “あぁ, その件は後でお話ししましょう.”と言って, すぐさま濃厚な話に入ることは避けた.
“今日はレンタカーで来ています. 警察車両じゃないんで, 一般車両と同じくゆっくり動きます.”
Hanasakaでは人間が自動車を手動で運転することは原則禁止されており, 車の走行制御権を交通管制システム“Vulcan”に奪われている. それは警察や消防の車両であっても同じで, 出せるスピードや信号無視ができるかどうかが違うだけである. Hanafolkの感覚では, 人間は機械よりも不器用であり, 人間の運転など信用できないからだ. 特に人通りの多いエリアでは, システムダウンが起こって人間が動かさざるを得ない緊急事態でもない限り, 人間が運転することは犯罪行為だと考えられていた.
“目的地はどこなんですか? 当てもなくドライヴするなんてこと, できないですよね?”
“Yugoさん, ご心配なく. 一応, Green Field Zoneに設定していますよ.”
Hanasaka Cityには人体に有害なガスを出す車は存在していないが, それでも車の走行はエネルギーを消費することに違いはないため, 目的もなく車を走らせることはエネルギーの無駄遣いであり, 条例で禁止されていた. もっとも, 目的地を設定して, おおよそ最短ルートから外れずに運転していれば問題ないため, 実際にはそれほど厳格には取り締まられていなかった.
“いいですね… 所々に池があって, ホ, ホタルで有名ですよね.”
Akioは, サイバー空間の中で長い時間を過ごさざるを得ないMoglaとしては, たまにはフィジカルな自然を求めたいのだろうと考えて, 賛成した.
“そうです. 人間の立ち入りは制限されていますから, 展望スペースまでしか行きませんけどね.”
Hanasaka CityのEastは, 陸続きで隣国“Moto”と東側を接しているが, Hanasaka Cityはその設立以来ずっと, 市の境の辺りに住んでいる住民を立ち退かせて緑地か農地に転用し続けていた.
Hanasaka Cityでは土地を私的に所有していると非常に高額な税金を課せられるが, その土地を自らの居住や事業のために現に使っている場合は, その土地の所有権を市に無償で譲渡したうえで, 市からその譲渡した土地を無償で借り受けることができる. しかも市が要請したときは, 22日以内にその借りた土地を明け渡し別の場所に転居するかその事業を終了することを約束すれば, UBIとして支給されるExperi-Coinsが1年間, 通常の倍額となり, 転居時にはその費用の8割を市が補償してくれる.
さらに市の境に近いエリアでは, 15日以内に引っ越すことを条件に, 無償譲渡後に付与されるExperi-Coinsの増額期間を5年間に延ばすことで, 政策的に市の中心部に居住するよう誘導し, 空いた土地は自然豊かな緩衝地帯にしている. Hanasaka Cityの東の境界線は, 南北に走る高速道路に沿って引かれているが, そこから市の内側に向かって200メートル余りの幅で, 穀物, 野菜, 果物類を栽培しており, 所々に樹木やため池がある, のどかな田園風景が見られるゾーンが作られていた.
“さて, いろいろお話をする前に, 最初に, Akioさん, お願いしていたものは持っていただけましたか?”
Moglaは, 今日のデイトの本当の目的を最初に果たすことにした. Akioは, 要請に応じて, ショルダーバッグから, 片手で握れるほどのおおよそ球体に近い黒っぽい塊をMoglaに渡した.
“これって, Akioさんのお気に入りの‘New Moon in the Dark’ですか? これが現物なんですね.”
目を輝かせてその石に手を伸ばして触れようとしたYugoにAkioは, “触るなよ. 余計なことも, 言うなよ.”と, 何かを隠したがっている顔をして警戒した.
“言いませんよ. その正体が余命36日のRusty-believerだってことも.”
“い, 言ってるじゃないか.”
“いいじゃないですか. 気味の悪い未来を予知する石なんて, 怪しいですよ. この際, プロのMoglaさんに診断してもらったほうがいいですよ.”
Yugoとしては, 先日Akioから, その石には余命が設定され, しかもそれが, 敵が設定した襲撃の期限日に消えることになっているという不思議な偶然を聞いてからは, その石自体が何らかの意図を持ったマルウェアではないかと疑っていた.
“まあ, Akioさんからすれば余計なことですが, 実はその黒い石についてしばらく調べていました.”
Moglaは, Akioの仮想空間での友達が捜査の対象になっていたことを明かして, 助手席に置いていた金属製の小箱を手に取り, そこにAkioから受け取った小石を入れて, ふたをした.
“これは外の電波を完全に遮断する箱です. Akioさん, アプリを立ち上げて, ‘New Moon in the Dark’を見てもらえますか?”
Moglaの言うとおりに, Akioのコレクションの中のその石をAR viewに出してみたが, 出てくるつぶやきが, “私の石はどこ?”という, 今まで見たことがないものを表示した.
“こ, これは… 今朝, 見た時と違う.”
“今朝見た時はなんて言ってたんですか?”
AR viewに出した画像情報をシェアすることによってAkioが見ているアプリの画面を確認したYugoが何気なくAkioに尋ねると, Akioは顔を赤らめ視点が定まらない状態で, “い, いや, べ, 別に…, 何だったかな…”とごまかした.
“はは~ん, その焦り方からすると, ‘君と過ごせる時間もあと36日だ’とかそんなことじゃないですか? Akioさんがその石に愛着を持たせるよう仕向けているのかもしれませんけど.”
Yugoの推理は図星だった. 一言も言っていないのになぜか他人にしばしばズバリ当てられてしまうことに, Akioは自分がとことん嫌になった. 隠し事がまるでできないのはつらい.
“ハハッ. 逆に言えば, 少なくとも36日後のその日までは, その石には何らかの存在理由があるとも解せますよね.”
Moglaはそう言って, 小箱の中から例の小石を取り出して, もう一度そのアプリ上でその石が出すつぶやきを見るようAkioに求めた. すると, “君と過ごせる時間もあと36日だ”と, Yugoが言ったとおりのフレイズに書き換えられた. この石が男性なのか女性なのか分からないが, やはりこの言葉は他人がいる前に出されると恥ずかしい.
Moglaはそれを確認すると再びその石を急いで小箱に入れた.
“簡単な実験ですが, これで分かったでしょう. この石の中には電波を受発信する小さなデバイスが組み込まれていて, AkioさんのNexusとひそかに通信しているのです. おそらく誰かがこの石を人工的に作って, Akioさんでも誰でもいいのですが, この珍しい形をした石を拾わせて, その拾い主がStone Soulsに投稿するのを狙っていたと, 我々は考えています.”
知らぬ間に何者かの策略にはめられていたことが分かったAkioは, 大量の汗が一気に全身の外皮から出てきた.
“こ, この石…, ぐ, Green Houseの前で, ひ, 拾ったんですが…”
元々スムーズに言葉が出てこないAkioは, 受け入れがたい衝撃を受けたことでさらにその言語的な処理速度を落とさざるを得なかった.
“もしかしてRusty-believersがCastle OfficeのスタッフであるAkioさんにこの石を拾わせて, いろいろ偵察していたんじゃないですか? 偵察プログラムがその石の中にあるデバイスに入っていて, それをAkioさんが撮影した瞬間, Akioさんの‘Nexus’に取り込まれて, ‘Glasses’を通じて入ってくる視覚や聴覚の情報をひそかに盗み取って, 重要そうな情報を何者かに送信していたんじゃないですか?”
Yugoの素早い分析結果に対しMoglaは, “Yugoさんは頭の回転が速いですね. そうかもしれません. ただ, Rusty-believersの仕業だとはまだ断定できないでしょう.”と答えたうえで, “予定をちょっと変更して, 先にHeadquartersに立ち寄りたいのですが, よろしいですか?”と, 2人に了解を求めた.
そして, この石をしばらく借り受けて, 電磁シールド室の中で解析をしたいとAkioに申し出た. Akioとしても警察の役に立つのであれば異存はなく, MoglaがAkioのAR viewに差し込んできた“一時貸与書”という電子書面に指でサインした.
“ありがとうございます. それからもう1つご協力をお願いしたいことがあります. Akioさんの‘Nexus’にミラーリング・プログラムをインストールさせていただきたいのです. Nexus内のすべてをのぞき見るようなことは決してしません. あくまで, Stone Soulsの動きを我々が見えるようにしたいのです.
それから, Akioさんの情報が引き続き引き抜かれるとしても, 流れ出す情報をフェイク化するディセプション・プログラムも入れさせていただきたいです. そうすれば, 今日, 我々も安心して話ができます.”
こうした状況下では, 嫌ですとも言えず, Akioはそれも了承し, MoglaがAR viewに出してきた“プログラム防疫処置承諾書”という電子書面にもサインして, 仮想上で手渡した.
そしてMoglaは, 自分が携帯しているNexus Unitを左手に, Akioが差し出したNexus Unitを右手にとって, 近距離で無線通信をし, その2つのプログラムをAkioのそれに注射した.
“ありがとうございます. これでAkioさんのNexusは安全です. 石はすぐにお返しします. 同僚に調べてもらっている間…, そうですね, 2時間ほど外出して, いろいろお話ししましょう.”
Scene 3.1.2:
Green Field Zoneに向かうルートから外れて, Castle Parkの南西にある, 20階建てのPolice DepartmentのHeadquarters (略して“Police Headquarters”ともいう) の建物の地下にある駐車場に車を停め, 3人ともその建物の中に入ると, 1階のロビーにMoglaの同僚であるLemolainが待っていた.
“これが例の物です.”
Moglaは金属製の小箱ごとLemolainに渡したうえで, AkioとYugoに自分の相棒を紹介した.
“はじめまして, Lemolainと言います. Akioさん, ご協力ありがとうございます. 中を調べるために割ったり傷つけたりはしませんので, ご安心ください.”
Lemolainは, 外面上は柔らかい声で丁寧に対応していたが, 内心は, 一刻も早くこのまがまがしいものにメスを入れたい気持ちでいっぱいだった.
“フフッ. この石から, 黒幕のAIをあぶり出してやる…”
Lemolainは, ダミーのアカウントを作ってStone Soulsのユーザーの1人になり, 数万もの石が人間の目では識別困難な形で出しているデータの中身と頻度と量を調べているうちに, まったりした気分で様々な石を鑑賞できるStone SoulsがユーザーのNexus Unitとmicro-chipsに記録された生体情報からある種のデータを集めていることが分かった.
それは, ユーザーが日常生活において無意識にしてしまうちょっとしたしぐさ, 例えば, 1日で口癖の“えっと”を何回言ったか, 靴下をはく時にどちらの足からはいたか, くしゃみをする時に10度以上頭が前に倒れたかといったデータである.
Stone Soulsの個人情報の利用方針には, ユーザーのNexus Unitとmicro-chipsに記録された生体情報の一部をアプリの健全な利用のために使う可能性があることが書かれてあったが, 具体的にどのような情報を利用するかまでは明示していなかった. そしてPolice Departmentが調べてみた限り, アプリの健全な利用とどう関係しているのかさっぱり見当がつかないデータまで収集されていた.
となると, 何か別の目的に利用するためではないかと疑いたくなり, こうしたデータを集めるのが好きな, あるAIを想起させた. それは, 大規模犯罪生成AIである“Stone Cold”であった.
Stone Coldは, 家屋の火災, 電柱の倒壊, 排水管の破損, 自動車の暴走といった局地的な問題の発生のみならず, 都市の停電, ダムの崩壊, 航空機の墜落, 銀行のシステムダウンなどを引き起こし, さらには犯罪組織の壊滅や独裁者の事故死もやって見せた, 正体不明のAIであった.
それは, 人間の手を離れた独立した知能であり, こうした悪事を人間の依頼を受けてやることもあれば, 自ら計画して勝手にやることも多く, ネットワークを介してハッキングをし, または必要に応じて人間に命令してナイフや銃を握らせて物理的に有害なことをさせていた.
AIにとっては, その被害の対象は誰でも良かったし, 行為の実行もいつでも良かった. 犯罪の成否もどうでも良く, 未遂に終わったり被害者がゼロで済んだりする場合も多かったが, 動機もなく見境もなく繰り返し犯罪行為がおこなわれるというのは, 人々を恐怖に陥れるのには十分で, 世界各国の警察機関が自らのAIたちをその壊滅のために戦わせていた.
その犯罪生成の特徴は, 人間をスイッチやコンベヤのように単なる道具として扱うことだった. 人間を意思のある知能体とは扱わないのだ.
例えば, 犯罪に全く無関係の市民Aがあくびを1日に5回したことを検知すれば, AのNexus UnitからコマンドXが, マルウェアを仕込まれた市民Bのそれに発信される. 次に, コマンドXを受信したBのマルウェアがそのBを, あらかじめ放しておいたmech-roachがいる場所に, B自身が日頃から採りたがる行動パターンで誘導する. そしてBが電波の届く距離に来たらそのmech-roachがマルウェアの指示を受けて付近の建物に侵入して電線を切って火事を起こす.
このように, いつの間にか無垢の一般市民が刑事責任を問われない形で犯罪に関与してしまうのである.
Stone Coldがこの手法にこだわりを持っていることから, このAIは人間を機械のように扱うこと自体が目的であり, 人間がいくら高邁なことを言っていても実際は昆虫とさほど変わらないことを人間に思い知らせて, 人間たちを機械の前にひざまずかせようとする, 過激な“Machino-supremacy”に基づいて作られたAIだと考えられていた.
実際, Stone Coldは, “Humano-supremacy”を唱える者に対してや, そうした思想を強く持つ地域で, 犯罪が実行されることが多いことも分かってきた. そのため, 極めて温和であるものの, 同じくMachino-supremacyに立脚する人が多く住むExperimental CitiesでStone Coldによる犯罪が起きたことは今までほとんどなく, Stone Soulsが人々の無意識のしぐさに関するデータを収集していることだけをもって, それがHanasakaへの挑戦を意味すると考えるのは早計であった. Stone Soulsのユーザーは全世界にいるからだ.
しかしLemolainはなぜか裏でStone Coldがうごめいているような気がしてならなかった. そして, そのなぜかを, 目の前の黒い石が何かを教えてくれるのではないかと, 彼女の直感がささやいた.
“悪いけど, 解析はLemolainさんに任せていいですか? 私は, その間に, 若者2人と出かけようと思っているのだが.”
“もちろんです. お任せください. 2時間ほどお時間いただきますが, 終わったら連絡します.”
Lemolainは鼻息荒く快諾した.
Scene 3.1.3:
Lemolainと別れてから3人はまた車に戻り, 改めてGreen Field Zoneへ向かった.
車は自動運転モードであるため, 前の運転席に座っているMoglaは, 前方を見ずに後部座席に座っている2人のほうに少し体を向けて, “Akioさん, あまり心配なさらなくていいですよ. 仮にあの石がとんでもなく悪いことをしているとしても, Akioさん自身に罪はないですから.”と彼を気遣った. さっきからずっと顔面が硬直しているからだ.
“あの石, あ, 後で返すとおっしゃっていましたけど…, わ, 私が, 持っていて, いいんですか?”
何らかの犯罪に使われている可能性がある物品を持ち続けること自体, 一般市民にとっては恐ろしいし, 自分の行動をずっと偵察されてるのであれば当然気味が悪いからだ.
“お気持ちは分かるのですが, 警察としては, 引き続き持っておいてほしいとお願いしたいです. 異変に気づいて敵が計画を変更してしまうとそれはそれで困ります. 今, Lemolainがあの石に手術をしているところですが, 同じようにミラーリング・プログラムを仕込んで, あの石の動きをすべて我々が見えるようにします. それに, ディセプション・プログラムも入れて, 石を経由して流れ出す情報もこちらの都合の良いものにします.”
要するに, 敵の動きを探るために, あの石もアプリも持ち続けて捜査に協力してくれということだった.
“分かりました…”
Akioはなおも何か言いたそうであったが, Moglaは, “ご協力いただき誠にありがとうございます.”と言って頭を下げ, “まあ, その差し当たってのお礼として, YugoさんとAkioさんのご質問に, 答えられる範囲でお答えします. これもCastle Officeと警察の交流の一環ですし.”と, 質問タイムに移ることを宣言した.
“ありがとうございます. 私たちの無邪気な質問にもう一度対応いただけるなんて信じられないぐらいです.”
Yugoが礼を述べると, Moglaは, “いえいえ, 本当はもう少し早くお会いしようと思っていたのですが, この2か月間いろいろあって, 特にPro-Mayor Factionとそれを支援しているRusty-believersとの関係を切るための工作に忙しくてね… まあ, Akioさんも知っているかと思いますが, その一環として, Yugoさんのお兄さんも逮捕させてもらいました.”と言って, まずはLui Cefiroの逮捕劇から話を始めた.
“そのことについては驚きましたけど…, Moglaさんは, その…, Yugoも, い, 言いにくいですが…”
Akioが何を言いたいかは分かったため, Moglaは, 彼の言葉を最後まで待たずに, “いえいえ, とんでもない. 兄弟だからというだけで疑うことなんてしませんよ. Yugoさんが‘Anti- Mayor Faction’の考えを持っていることは, 以前お話をしたときに分かっていますから.”と答えた.
“おふたりともありがとうございます. 兄が捜査上の秘密を漏洩したと聞いていますが, ご迷惑をおかけしました.”
迷惑をかけたとは言っているが, 申し訳ないと謝るつもりはこれっぽっちもないんだろうなとMoglaは, Yugoの心情を推察した.
“まあ, 大変でした. 正直, Luiについてはいくつか小さな漏洩の証拠はつかんでいたのですが, 決定的な大きな漏洩の証拠がなかったんで泳がせていたんですが…, 先月の27日にCastle OfficeのあるDirectorからクレームが入ったのがきっかけです. その前日に, Kasgaさんがある人とお会いしたのですが, その人はLuiと以前から知り合いで, Luiから, 敵がどの程度武装して襲撃しようとしているのかについて我々がひそかにつかんでいた情報を聞いたそうで, それをさらにKasgaさんに話したそうです.
“実は, 我々はKasgaさんやCastle Officeに対しては, 敵は小規模な集団であることが分かっていたので大した装備は持っていないはずだと説明していました. その当時は我々もそう思っていたのでだますつもりはありませんでした.
“その後, 彼らに伝えるべき情報をアップデイトせずにいたところ, Luiが話した情報はそうではなかったので, ショックを受けた彼女が, あるDirectorに, 隠し事はしないでほしいと悲しい顔をしておっしゃったそうです. それでそのDirectorは大激怒ですよ. 我々が最新の情報を伝えていなかったことに対してではなく, 市民を不安に陥れる情報を無責任に漏らす警察官がいることに対しての怒りです. そうした情報が彼女の耳に入ることでまた精神的にダウンされたら取り返しのつかないことになりますから, うちのDirectorに強い口調で苦情をおっしゃってきました.
“いずれにしてもこの状況下でKasgaさんが悲しんでいるとなれば, 我々にとっては何もしないわけにはいきません. それで, Luiをこれ以上泳がせるのはまずいと考えて, まあ実際, 漏洩の事実もいくつかつかめていましたし, 逮捕したわけです.”
今, Moglaが語った情報自体は秘密に当たらないのかAkioが不安に思って, “今のお話は…”と言いかけると, Moglaは, “あぁ, 大丈夫ですよ. 今日, おふたりに会うにあたって, ある程度の情報を開示する権限を私は持っていますので.”と言って安心させた.
“そうなんですね. それじゃあ, その…, 敵の武装ってどの程度か…, 聞いてもいいですか?”
Akioがさらに質問するとMoglaは, “当然の質問ですね. まあ, それについて今, 私がお話しすることもできますが, 明日, Kasgaさんから皆さんに緊急でお話がありますよね. そこで彼女からお話しされると思います.”と, あえて回答を保留した.
昨日, つまり10月3日, Castle Officeは, Kasgaの名で, 10月5日の15時にHanasaka Arenaで緊急集会をおこなうから参加するよう, Hanasakaのclubの代表者には命令書が, Alliance clubの代表者には依頼書が出された. 集会の目的は, 予想される敵襲に対する具体的な対抗策について話をしたいとのことだった. そして前の決起集会と違い, 厳重警備の必要性を理由に, 各clubから1人だけに絞って参加するよう求めた.
“ということは, 警察は, Kasgaさんを含めてCastle Officeと改めて情報を共有して, 対策を話し合って何らかの対抗策について合意をしたということですか?”
“鋭いですね, Yugoさん. そのとおりです.”
緊急集会がおこなわれることになったのはHanasakaに対する脅威のレベルが更新されたからである.
少しさかのぼって, 9月30日の22時にHanasakaのPolice Departmentは, Goblino市長がKasga Wisteriaという名の市民を殺害する計画に関わっていた証拠が見つかったことを公表し, 全世界を驚かせた.
そして, 翌日の早朝, Themisから捜索令状が取れ次第すぐに市長の自宅に捜査員を突入させようとしたが, その直前に彼は何者かに射殺された. そして自分の死を予見していたのか, 彼の自宅の書斎には, 自分が死んでも計画は実行されると書かれた紙片が残されていた.
“亡くなった市長からのメッセージを踏まえて, Castle OfficeやKasgaがどう動くか, 世間の関心がそこに集まっています. だから明日, 集会がおこなわれるのです.”
車は, Hanasaka City内の地下に張り巡らされている自動運転高速道路に入り, 前面のウィンド・シールドを含めすべての窓には, 地下道の暗い景色ではなく, 明るく輝く天の川銀河の映像が映し出された.
“Kasgaさん, ほんとに大丈夫なんでしょうか?”
Akioが, 窓の外に浮かぶ銀河の中心をぼんやり見ながらつぶやいた.
運転席にいるMoglaはいすを180度回転させて後ろに向きAkioの表情を確認したうえで, “分かります. この状況で彼女が精神的に無理をしていてもおかしくはないですから.”とAkioに同調しつつも, “でも, 明日分かります. 昨日, 捜査状況の報告のためにCastle Officeに出向いて, そこでKasgaさんを見かけましたが, なんとなく, 覚悟を決めたという様子でした. もちろん自信があるわけではないと思います. 不安な気持ちはあるでしょう. うちのDirectorなんか単純ですから, 彼女が悲しんでいると聞いてすぐに駆けつけた時に, あの美貌と美声で, ‘Hanasakaをどうかお守りください’って直に頼まれたもんだから, もう自分のボスが制度上は市長であることなんか忘れて, Kasgaさんに敬礼までして, 忠誠を誓ってる感じでした. ほんと, 上の人たちは単純. まあ, 来年からAIに置き換わるんですけどね.”と言って, 声を立てて笑った.
機械化が着実に進み, 人間は機械より劣っていると考える人たちが多いHanasakaでは, 上級の役職者ほど人間である必要はなく, さらに言えば人間であるべきではなく, AIに置き換わりつつあった. 文明社会の発展とともに, 多種多様な要素を検討し迅速かつ柔軟に物事を判断する必要性が増す中, 無生物による大量かつ迅速な情報処理に依存する度合いが高まり, もはや生物の一種である人間では, そもそも能力的にそうしたことが不可能になってきたからだ.
9 E.E.の現時点で, Hanasakaでは, 3割の民間企業の長や, 6割の教育機関の長はAIであり, それらはHanasakaの情報システム群と連結され, 名誉や権力に対する欲望など一切なく, ハラスメントや恣意的な人事権の行使もなく, 無給で不眠不休で働いていた.
他方で, 人間は, 馬や牛や犬ほどの力もなく, 地球の自転のように24時間365日休まずに動くわけでもないものの, それ1体でも, 様々なタスクをまあまあの精度と速度で処理できる, 汎用タイプのロボットとしてはそこそこ優秀とも言えるので, 複数のタスクをちょこまかとこなすのは人間に任せたほうが良いと考えられていた. 従って, 実際に手足を使って物理的な作用を施す人間は引き続き社会を支える貴重な労働力と考えられ, そうした職は, 仕事をして収入を得たい人間たちに解放されていた.
“そうなるとKasgaさんがいれば…, し, 市長なんて, 要らないですよね.”
“ほぉ, さすがAkioさん. その点は今日のお話の根幹でもあります.”
“ちょっと待ってください, Moglaさん. もしかしてAnti-Mayor Factionの誰かが不要になったGoblino市長を殺したということですか?”
Yugoが先読みして質問すると, Moglaは, “その点はまだ分かりません. 仲間割れして殺された可能性も十分あります. 実際, 彼は殺害計画に関与していたことを我々が発表した後に殺されたわけですから, 口封じのために殺されたと見るのが普通でしょうね.”と答えた.
“でも, 警察はどうして家宅捜索をする前に, 殺害計画に関わっている容疑が市長にかかっていることを公表したのですか? そんなことをすれば, 口封じのために殺される可能性があることは分かりそうなものですが.”
Yugoのトゲのある直球をMoglaは受け止めて, “まあ, そのとおりです. Kasgaさんにかっこいいところを一刻でも早く見せたかったDirectorが公表してしまったんです.”と白状した.
そして, “とはいえ, 我々はすでに市長の自宅を取り囲んでいましたから, 自宅の外から誰かが襲おうとしても我々が止められると考えていました. でも実際, 彼は, 窓の近くに姿を現した時に, どうやら数百メートル離れたところから撃たれたようで, 窓ガラスを貫いて額に弾丸を撃ち込まれて即死したんです. これは全く予想外でした. 銃声は聞こえず, 窓ガラスに穴が開いた時の音で周りの者が狙撃に気づいたのです. あの辺りは狙撃に適した高い建物は周りにありませんし, 窓の外には木が植えられていて, 決して見通しの良い空間で狙撃されたわけじゃないんです. 超一流のスナイパーじゃないとあんな仕事はできません.”と弁解した.
市長がどのようにして殺されたかについては今すぐ解けない謎が多く残っていたため, Yugoは, 彼が殺された結果について着目し, “いずれにしても, 今のこの状態で得をしているのはAnti- Mayor Factionじゃないでしょうか? 一般市民であるKasgaさんを殺そうとしていた市長がこの都市にいたという事実を見せつけられれば, 今なお市長寄りの考えを持った人たちもさすがにあきれて離反するでしょうし, 彼らとつるんでいたかもしれないRusty-believersも, 口封じで彼を殺したんじゃないかと人々に疑いをかけられて身動きがとりにくくなりますから.”とMoglaに質問した.
Yugoを含めCastle Officeの人たちは, 当初, 自分たちに敵対し悪事を起こしてくるRusty-believersとPro-Mayor Factionとが個別に行動しているのか共闘しているのか分からなかったが, 次のように考えるに至っていた.
すなわち, Pro-Mayor Factionの人たちは, 民主的に選ばれた市長に勝る権威を持つ者が市内に存在し, 市長がないがしろにされることに反対しており, その市長を超えるパワーを持つKasgaの影響力をそごうとしていた. そのため, Experimental Citiesが進める人類を退化させる実験をやめさせるために, 実験の“Philosophy”に忠実なKasgaを排除したいRusty-believersとは, 理由は異なっていても, 利害が一致していた.
そこで, 市外の勢力であるRusty-believersは市内のPro-Mayor Factionをひそかに支援し, 彼らのほうも, 少なくともRusty-believersのそうした思惑に乗じて支援を受けていたのではないかと考えていた.
ところが, 肝心の市長が, Anti-Mayor FactionかRusty-believersのどちらによって殺されたのか分からない事件が起こったことで, Kasgaの演説により多くの離反者をすでに出していたPro-Mayor Factionはとどめの一撃を食らって事実上ほぼ消滅した. そしてRusty-believersとしても, 市長に近い人たちからも疑心の目で見られ, Hanasaka側が“Anti-Rusty-believers”で一枚岩になって団結してしまったと考え, 次の手を慎重に打たざるを得ない状態に陥った.
“Yugoさんは頭の回転が速いですね. おっしゃるとおりでしょう. もしかしたらそのスナイパーを雇ったのは彼らなのかもしれません. ただ, Rusty-believersの過激なやつらはあきらめてはいません. Hanasaka市民解放戦線と名乗る連中は, 我々の手によって動きを封じられていますが, それでもやはり襲撃してくると我々は考えています. だから明日, Castle Officeのスタッフの皆さんにとっても, Fighterたちにとっても, 重要な伝達事項をKasgaさんがおっしゃることになります.”
Scene 3.1.4:
20分後, Moglaたち3人は, Hanasaka Cityの南東の縁にあるGreen Field Zoneの展望施設に着いた.
市の東の境にもなっている高速道路沿いに, その手前側およそ200から300メートルの幅で緑地帯が南北に長く敷かれている. 人間が憩う公園ではなく, 農作業に従事する人間とロボット以外は厳しく立ち入りが制限されており, 上空にはmech-hawkが作物を食い荒らそうとする鳥や虫や人間を含む獣が入ってこないように監視している.
そのためMoglaたちは, その緑地帯の西の端に築かれた小高い土手の上に立ち, 草の匂いがする風をふんわりと受けながら, 胸の高さほどのフェンスの向こうに広がる草原地帯を眺めていた.
“Akioさん, Yugoさん. 私たちが今立っているこの土手の前は急な斜面になっていますが, そこから先は平面になっていて, 一番向こうの東の境の辺りは所々に小さな池や樹木がありますよね. そして南北に伸びるこの土手沿いには200から300メートルほどの間隔で屋根付きの展望台が建てられていますが, これを見て何か思いませんか?”
Moglaの質問に対して, さっきから自分のAR viewでズームのインとアウトを繰り返していたYugoが, “このグリーンゾーンは, 農作と動植物の保護と水害対策を兼ねたものと言われていますが, 見晴らしのいい防衛ゾーンにも見えますね.”と答えた.
“そのとおりです. 外からの侵入者を迎え撃つためのゾーンです. 残念ながら市の境にそうしたものを設けざるを得ないのが現実です. 以前は, この辺りは一面, 住宅地が広がっていましたから, 市の境はほとんど意識せずにみんな暮らしていました. ところが, Experi-Cityができて, 実験が及ぶ範囲の内と外とを明確化する必要が生じました.”
元々, Hanasakaでは, League of Experimental Citiesが求める緑地占有率を達成するために, 市の中心地から遠いエリアは緑地化を進め, 木をたくさん植えて森にするつもりだった. しかしながら, 最近, Experi-Cityの1つの‘Nadiapolis’が, Rusty-believerの大統領が率いる隣国から攻め込まれるおそれが高まっていることから, どの都市も市の境の防御をさらに固めるようLeagueから要請され, Hanasakaでは, この辺りは見通しの良い状態のままにすることにしていた.
“Nadiapolisって, 1万人が亡くなった, 激戦の地に, た, 建てられたExperi-Cityですよね… き, 奇跡の復興を遂げた, Experi-Cityの見本のようなところなのに…, ま, また戦争なんですか?”
Akioが嘆くとYugoが, “残念な話ですよね. Experi-Cityの‘機械制民主主義’は, 独裁者や利権集団も過大には扱いませんし, 場合によってはその要求が合理的でないと機械的に判断して弾き出しますから, 専制国家の連中としては我慢できないんだと思います.”と熱を込めて語った.
そして, “HanasakaもNadiapolisもこの8年余りは比較的平和でしたが, これからは‘Anti-Machino-supremacy’を掲げる過激派や専制国家と, Experi-Citiesとの戦いに突入することになるかもしれません. だから今, Hanasakaも変わろうとしているんじゃないかと思います.”と, 今自分たちがいるポイントを歴史年表の上に置いてみた.
Yugoの言う“機械制民主主義”とは, 統治機構が保有する情報システム複合体が市民の多様な意見を収集し分析して自動的に政策プログラムを作り, 衆人監視の下でそれを実行することを基本方針と捉える考え方であり, Experimental Citiesはこの統治方法を採用していると言われていた.
“そこまで分かっていらっしゃるなら話が早いです. おっしゃるとおり, ちょっときな臭い時代になろうとしています. しかしそれを抜けると, 地球上に千年の平和が訪れると言う人もいます.
そうした状況なので, 来年早々にLeague全体で安全保障協定が結ばれる予定です. これは, あるExperi-Cityが武力攻撃を受けたときに, 他のすべての都市がその攻撃された都市に対して武力支援をすることを約束するものですが, ここでの武力支援は軍隊によるものではありません. Experi-Cityは常設の軍隊を持つことを禁じられているからです. ということは, 自分たちが持っている戦闘ロボットが主力となって戦うことになるでしょう.”
“ぎ, 義勇兵みたいな市民も, 参加しませんか?”
Moglaの意見に対しAkioは, ロボットはまだ数が限られており, 武装した多数の一般市民のほうが主力となるのではないかとさらに付け加えた.
“Akioさんは, KassenのFighterたちも, Nadiapolisで始まるかもしれない戦争に参加することになるんじゃないかと心配しているわけですね?”
Yugoも, Hanasakaの市民が世界中のExperimental Citiesの防衛のための戦いに投入されることにならないか気にしていた.
“AkioさんやYugoさんの心配は分かりますが, 私は, そうはならないと思っています. というか, ロジカルに考えて, そうなるはずはないです.”
Moglaがそこまできっぱり断定したことに2人が驚きの顔を見せたため, Moglaは, そばにあった木製の丸テーブルを指差し, それを囲う形で配置されていた木製のストゥールに座って話を続けないかと提案した.
“AkioさんはなぜHanasaka市民も外国の戦場に駆り出され得ると考えたのですか?”
それぞれ自分のバッグから水筒を取り出して, それぞれが飲みたいものを一口飲んだ後, MoglaがAkioに逆に質問してみた.
彼は, 今回の襲撃において, exoskeletonなどの“Enhancers”を随所に付けた装備が可能な1級警備員の資格を持つFighterが, Fighterとしてではなく1級警備員として迎撃に参加し, 実際に撃退できた場合, 自信を持ったFighterたちが, 安全保障協定に基づきNadiapolisから要請があれば, 今度は義勇兵として戦争に参加する可能性があり, そうなってくるとCastle OfficeやKassen clubは義勇兵の養成機関のような機能を持ち, Kassenの定義も変わってしまうことを懸念していると説明した.
“なるほど, お考えは分かりました. でも, Kasgaさんは, そのようなことを認めないと強く反対されると思いますが, いかがですか?”
“私もそう思います.”
Yugoはそう言って割り込み, “そもそもKasgaさんは, 今回, Fighterたちが1級警備員として城の防衛に参加することからして嫌がっていると思います. もし敵の襲撃によって犠牲者が出たりしたら, Kasgaさんは自責の念で立ち直れないぐらいに打ちひしがれると思います. そうなってしまったらKassenは終わりです. Castle Officeとしても認めたくないはずだと思います.”と, 彼女が強くブレーキを踏むはずだと主張した.
“そ, そうだとしても…, Kasgaさんが殺されるかもしれないから, 自分が絶対守るって, 言い張るFighterも…, いると思う.”
Akioがある特定のFighterを想定して心配していることは, Yugoには分かっていた. 確かに彼女なら, 何が何でも参加しようとするだろう.
“Akioさんの言うとおりかもしれません. Yugoさん, Kasgaさんは, 今回だけは数人のFighterの参加は認めざるを得ないと考えていると思います. なぜなら, 今回は自分たちの住むところに敵が襲いかかってくるわけですから, 自衛のために戦おうとするのは一般市民でも当然です. それを否定しようとするのは彼女でも無理です. もちろん我々としても, Fighterの皆さんは城内の安全な場所で待機いただくようにします. 前面に出るのはあくまで警察です.
“でもわざわざ人間が外国に行って戦うなんてExperi-Cityでは考えられないです. たとえHanasaka市民全員が好戦的になってNadiapolisでの戦争に馳せ参じようとしたとしても, Kasgaさんのほかに, 強力なブレーキをかけるものがあります. それは何か分かりますか?”
Moglaの出した問いかけに2人がすぐに解答できないでいると, Moglaは, “Kasgaさんのお姉さんです.”と, 正解を早々と示した. そして, “つまり, Harunaさんを含む世界中のAIの設計者によって作られた‘Flora’です. 我々の’Philosophy’や’Smart Community Architecture’に基づいてHarunaさんが命を削って作り上げたsuper-intelligenceです…“と言い換えた.
“Harunaさんは生前おっしゃっていました. Experi-Citiesは, 機械が人間から, 自分の都合で圧政や戦争や環境破壊をおこなう権利を奪い, 人間にはできないほどの慈愛や調和の精神を持つ機械によって人間が保護されるようになるための実験をおこなうところだと… だから我々は, Hanasaka市民である限り, 自分が住む都市の自衛のための戦いは別にして, 一時的な感情や妙な理屈をつけて戦争に挑むことはできないのです.
“人間が情報システムを操っていた時代はとっくに終わっています. 特にこの都市を統治するFloraは人間の能力や知恵をはるかに越えています. もはや誰ひとり操れません. つまり, Hanasaka市民をやめない限り, 誰ひとり, この都市を守るため以外に戦闘行為に参加することなどできないのです. たとえ全市民がそれを望んだとしても.”
喜ばしいことなのか悲しいことなのか微妙な気持ちを抱かざるを得ないMoglaの弁舌に, AkioもYugoも何ら反論できなかった.
民主主義政治, 独裁政治, 部族政治, 祭政一致政治, いずれの社会にいる人にとっても, 人間はもはや人間を統治するには不適格で, 機械の庇護のもとで満ち足りた生活を送っていれば良いという思想は, 特に権力を持っている側の人やリスクテイクに慎重な人には安易に受け入れられなかった.
こうした人間が編み出した従前の統治システムが不完全で不細工であることはもちろん当の人間も分かってはいたが, ホモ・サピエンスという動物よりはるかに優秀な知能がリアルに出現したことで, いつまで従来のシステムを使い続けるのか, いよいよ決断すべき時が来ていることは, AkioやYugoを含め, この時代の人たちは意識していた. その激しい拒絶反応を示す者がRusty-believersだといえた.
“じゃあ, そのsuper-intelligenceは, 襲撃を, み, 未然に防ぐことは, できないんですか?”
戦争の抑止ができるのであれば犯罪の抑止だって当然できるだろうとAkioは考えた.
“もちろん防ごうとはしていますよ. というか水面下ではずっと攻防中です. 犯罪の世界でも機械は人間の能力を越えています. 今時, 突発的な犯罪はさておいて, AIの支援を受けずに犯罪を立案し実行している人なんていません. さらに言えば, その犯罪の立案や実行もAIが自動でやります. つまり戦争も犯罪も, 人間と人間が戦っているように見えますが, 実際はプログラムとプログラムの戦いなんです. 人間はそのプログラムにその気にさせられて動いているだけにすぎません.
“Castle Keepの炎上も市長の暗殺も防げていない警察の私が偉そうなことは言えませんが, 我々は, 敵のプログラムと化かし合いをしながら, なんとか自分たちの想定の範囲内に収めようとはしています.”
“Moglaさんのおっしゃることは分かりますが, そのプログラムとプログラムが戦うことで, 人がそれに巻き込まれて, 世界は相変わらず物騒なわけですけど, 人間の能力をはるかに越えたプログラムどうしが戦えば, いったいどんな世界になるのか不安に思う人も多いと思います.”
犯罪がプログラムによって自動で立案され, 人間を介さなくても実行されてしまう時代において, それに対して効果的な対処方法を持ち合わせていない弱小国家は, そうしたプログラムによって国家統治機構を麻痺させられ, それに付け込んだ周辺国の軍事介入を招くこともあり, Yugoの言うとおり, 世界は相変わらず物騒で混とんとしていた.
“まあ, 不安に思う人は多いですが, だからこそ国際社会はExperi-CitiesとFlora sistersを誕生させたわけですよね. 人類が安全な社会で安心して生活できるように, 世界中の優秀で平和的な人たちが人間を保護するためのsuper-intelligenceを生み出して, さらに独裁者や犯罪者に悪用されないように, そのsuper-intelligence自体が民意を汲みながら統治をするExperi-Cityを世界に23か所, 設置しました.
“そしてその統治者は, 人間以上に人間のことが分かっていますし, 保護すべき人間に強烈なダメージを与える戦争や犯罪は, 起きてはならないものだと考えます. もちろん, 自分たちさえ平和で安全であればいいという利己主義じゃないですよ. 彼女らは, 敵対勢力下にある人でさえできるだけ犠牲が生じないよう配慮しながら敵対勢力の力をそいで, これ以上攻撃しようとする気を起こさないようにします. 安全保障協定がない今でも, 姉妹仲良く連携して, 人間たちよりもはるかにスマートに戦いますよ.”
人間ごときが心配しなくても機械がすべて丸く収めると言われると, 人間は機械たちの戦いを傍観するぐらいにして, あとは任せておいたほうが良いのかもしれない.
Yugoがしばらくあごに手を添えて考え込んでから, “仮に敵襲自体は避けられないとしても, 私としては, できれば, 人間に戦う気力を失わせるほど強いHanasakaの最終兵器みたいなものが出てきてほしいですね. 警察やFighterの出る幕もなく, あっけなく敵を倒してくれるといいんですが.”と, Yugoには珍しく, 幼稚に思えるほどの楽観論を述べた.
“何それ? ど, どんな弾もはね返すロボットや, か, 怪獣が出てくると, 思ってんの?”
Akioのからかいに, “違いますよ. まあ, そのほうがコミックとしてはおもしろいですけど. ただ, Experi-Cityは戦いそのものも実験の1つにしているはずだと思うんです. Experi-Cityが独立を守るために, 今までの戦争のやり方を前提にして旧体制側と対峙しても, 数々の戦争をしてきた彼らのほうが最初から有利じゃないですか. だからゲーム・チェンジャーとなる何かを持っているんじゃないかと思ったんです.”と, 今度は論理的に説明したが, それでもAkioには楽観的すぎると思えて仕方ない. なぜなら, このHanasakaが毎年巨額の軍事費を使って何かを作っているというような話は聞いたことがないからである.
“Yugoさんの仮説が正しいとすると, Experi-Cityの最終兵器はどんな戦い方をすると思いますか?”
MoglaがYugoに尋ねると, “Experi-Cityはdigital dystopiaとののしられているわけですから, その名前にふさわしいように, 人間の指示など待たずに機械が自分で判断して戦うと思います. Moglaさんのおっしゃるとおり, スマートに成果を上げるなら, 人間は, 戦いに関与することはほとんど許されず, せいぜい機械たちの下っ端として雑務を手伝うぐらいじゃないでしょうか?”と, “Machino-supremacy”に基づいて答えた.
AkioはYugoの言っているような対抗力を本当にHanasakaが持っているのか怪しいとは思っていたが, その理屈には賛成したい気持ちになった. 機械に任せておけば負けはしないという算段が立っているからこそ, 警察やCastle Officeは, Fighterたちを安全な場所に配置して警備をすることを認めて, 彼らの要望に応えようと考えているのであろう, と考えたかった.
Scene 3.1.5:
辺りが徐々に暗くなり街灯がそれに応じてつき始める中, 人々が家路につく18時少し前, Police Headquartersの1階のロビーに, MoglaとAkioとYugoが戻ってきた. そしてAkioは, Lemolainから, 現物の“New Moon in the Dark”が入った金属製の小箱を受け取った.
“ありがとうございます. 有益な情報を得ることができました. Akioさん, この黒い石は, 電子デバイスが入れられた不思議なものですが, 特に悪いことはしていないみたいですので, 問題はなさそうです. ご自由にお使いください. 引き続きNew Moonさんとも仲良くしてくださいね.”
Lemolainとしても, Akioにこの石を持たせて泳がせて, 敵の動きや考え方を探りたいため, Akioに今までどおりに使用し続けてほしかった.
“え? あ, でも, この石, 怪しいんですよね? ほ, 本当に大丈夫ですか?”
この石を分析した警察官から, 使い続けても良いという答えを得るとは予想していなかったAkioは, 戸惑いを覚えた. このアプリと石が犯罪活動に使われている可能性があると分かった以上, それを使い続けること自体がその活動を間接的に手伝っているように思え, 不安と罪悪感を持たざるを得なかった.
“このアプリ自体からは, 今のところ犯罪組織とつながっている要素は見つかっていません. 石集めを楽しむごく普通の地味なアプリだと思います. 全世界で今も使われているってことは, 世界中の警察機関が問題視していないということです.”
Lemolainは, 石について問われたのに, アプリについて答えた.
“現物の石のほうも大丈夫なんですか?”
Akioのその質問に対してLemolainはしばし答えをためらった.
“はい…”
聡明なLemolainにしては, 時間をかけてどう答えるかを考えている珍しい態度を傍から見たMoglaは, 彼女が何かとんでもないものを見つけたに違いないと考えた.
“正直, この黒い石は調べてみてもよく分かりませんでした. 通信デバイスが入っているなんて, 明らかに不自然ですし, 不気味に思うのも分かります. 私も最初はこの石が何か良からぬことをしてきたんじゃないかと疑っていました. でも, 中に仕込まれているデバイスが何か悪いことをしている形跡を見つけることはできませんでした.
“Akioさん, この石がこれまでにあなたに何か悪いことをしましたか? 実は, 失礼ながら, この石が今までにAkioさんに発したメッセージを見ることができました. その中には未来を予知するものもありましたよね. 多少はあなたの役に立ったんじゃないでしょうか… 非科学的な言い方ですが, この石はあなたを助けるためにあなたに拾われたのかもしれません. これも何かの縁だと思って, 常に自分の手元に置いて大事に持っておくことをお勧めします. きっと, あなたを守ろうとするでしょう.”
そう言われてもあまり安心した気持ちになれないAkioは, すぐさま別の不安が頭に浮かび上がってきた.
“でも, この石…, 思想に問題があって…”
“もしかしてRusty-believerなの?”
Lemolainにあっさり正解を当てられて, Akioは, この人にも心を読まれてしまうのかと, 思わずため息が出そうになったのを止めて, “そ, そうみたいです.”と認めたうえで, このアプリの石たちが, Hanasakaが自ら厄災を起こして, それをRusty-believersのせいだと言って, 彼らへの敵対心をあおって, 市民たちにExperi-Cityへの忠誠心を高めようとしているのだと述べていることを伝えた.
“へえ, 驚きました. New Moonさんってそんなことまで語るのですね.”
Lemolainは笑いを押し殺しながら感心した.
“それでAkioさんは, New Moonさんは自分をRusty-believerに洗脳するために敵が送り込んできたものだと思っているのですか?”
“違うのですか?”
Akioよりも先にYugoのほうが問いただした. Yugoもそう考えるのが自然だと思ったからだ.
“敵がStone Soulsというアプリを使って, そのユーザーたちに対して, ひそかにRusty-believersの思想を刷り込んで, そのユーザーたちがHanasakaの中で反旗を翻すようにするというのは, 小説やドラマとしてはおもしろいですね. でもまあ, 実際は違います. 人間の脳ほど曖昧でいい加減なものはありません. そんなものに頼るようなことは, 機械はしません. だいたいどこまで洗脳されたら, 目標を達成したと測定できますか? それに仮に洗脳に成功したとしても, 人間なんてその時の環境次第で行動を変えてしまうじゃないですか? どうがんばっても作戦の成功率は高くないでしょうね.
“私が犯罪者側のプログラマーなら…, いや, やめておきましょう. Akioさんをかえって不安にさせるだけですから. いずれにしても, その程度のつぶやきぐらいでしたら問題はないと思います. たぶんそれはアプリ開発者の余興ですね.”
そう言ってLemolainは笑顔で解説し, AkioやYugoを安心させた.
しかし彼女の内心は, 全く晴々しいものではなかった.
“まさか, この現物の黒い石がFloraと直結しているデバイスを格納しているとは思ってもいなかった. いったい, 彼は何者なの? 彼女は, いったい何を考えているの?”
Lemolainはとんでもない謎を抱えてしまっていた.