Part 3: The Ninth Autumn
Chapter 3.2: Operation Shark Teeth
Overview (Spoiler-Free)
On October 5th, Kasga holds an emergency gathering at Hanasaka Arena, bringing together Club Managers from all Kassen clubs. Speaking calmly before an audience of Fighters’ representatives, City Office staff, and Castle Office officials — under heavy police guard — she addresses the looming threat from the Hanasaka Citizens’ Liberation Front. She outlines a bold and controversial plan for how Hanasaka will face the enemy when their self-declared deadline arrives on November 9th.
Detailed Summary
On October 5th, Kasga holds a heavily secured emergency gathering at Hanasaka Arena, broadcast live worldwide. Present are Club Managers from Hanasaka and Alliance Kassen clubs, Castle Office Directors Monica and Prisha, and City Office representatives including acting mayor Nora and former mayoral aide Zansi. Kasga speaks with characteristic warmth, expressing hope they will be alive to celebrate Kassen's 10th anniversary next year. She confirms that the enemy's self-declared deadline is November 9th — the Grand Prix opening day — and announces she will spend the 35 preceding days in hiding. However, she shocks the room by revealing that on the deadline itself, she will position herself alone inside the Castle's Palace Keep. This is the core of "Operation Shark Teeth": Kasga will open a deliberate path through the castle's outer gates, inviting the Liberation Front to approach unarmed for dialogue, while police establish a triple defensive perimeter. If they come armed, Hanasaka will fight. Though Kasga is personally reluctant to involve Fighters in combat, she yields to strong requests from the Club Managers and agrees that each Hanasaka-based club may contribute two Fighters to participate in Operation Shark Teeth.Scene 3.2.1:
10月5日, あと数分で15時になろうとしていた頃, Hanasaka Cityはもちろんその外までもが異様に静けさに覆われて皆がその時を待っていた.
Hanasaka Arenaを包む4枚の白いPetalは, 雨天でもないのに中天まで押し上げられ完全に花を閉じていた. そして, その閉ざされた内側の空間では, 東と南と北のスタンド (観戦席), スタンドがなくfieldと同様に人工の芝が敷かれている西のオープンエリア, そしてbattle areaの中とその周辺, さらにArena全体の随所に, ライフル銃を構えた警察官が多数配置され警戒に当たっていた.
そのbattle areaのcenter-circleの中心には, 武装した姿ではなく, いつもの黒のビジネスウェアを着て, ジャケットの胸ポケットにはFour Heart Emblemの金バッジを付けているKasgaが立っていた. 決起集会のときにdaggerで切った黒髪も肩まで伸びていた.
彼女の後方, すなわちnear-sideのほうのcenter-line沿いには, いつもの護衛担当の警察官4人が拳銃を腰のベルトにたずさえて, バラバラの方角を向いてKasgaの背後を守っていた.
他方, 彼女の前方, far-sideのほうに5メートルほど間をとって, HanasakaのKassen clubの4人のClub Managerたちがclubの旗を手にして横一列に立ち並び, その後ろにはAlliance clubの16人のClub Managerたちもしくはその代理人たちが同じくそれぞれのclubの旗を持って1メートルほど間隔を空けて立ち, 合計20人が神妙な態度でKasgaが話し始めるのを待っていた. 彼女と同じく, 試合時のOutfitsは装着せず, それぞれビジネスウェアを着ていた.
さらにその後ろには, City Officeから派遣された3人と, Castle OfficeのDirectorのMonicaとPrishaが並んで, Club Managerたちと同様に, Kasgaのほうを向いていた.
そしてその周辺には何台ものカメラが設置され, 今日の集会の様子をリアルタイムで世界中に配信することにし, すでに撮影は開始されていた.
“皆さん, あんまり緊張しないでください. まあ, 厳重警備の中だから緊張しないほうがおかしいですが, 今日は, 決起集会のときみたいに偉そうな話し方しませんので, リラックスして聞いてほしいです.”
Kasgaは, 自分の話を始める前に, 参加してくれたClub Managerたちに, いつものように笑顔で優しい口調で場を和ませようとした.
15時の時報が鳴るやKasgaは, “Club Managerの皆さん, こんにちは. 今日は急な呼びかけにもかかわらず, 緊急集会に全員参加いただき本当にありがとうございます.”と, まずは元気よくあいさつをした. マイクスタンドが彼女の前に立てられて音声を拾って増幅しているが, 彼女の声は通るため, その場にいる者は生の声が十分な音量で耳に入ってきた.
“こんな感じで皆さんとお話しするの初めてですよね. 皆さんどうしでは時々, 会議をしていたでしょうけど, 私がそこに参加することはなかったですし, Club Unionのイベントにお誘いを受けて参加することはありましたけど, この少人数で皆さんと, しかもフィジカルに集まって話をすることはなかったと思います. でも, せっかくの機会なのに, 今日は残念ながら重たい話をしないといけないのですが, 来年はKassen 10周年ですし, Kassen communityを盛り上げるために, 皆さんと明るい話をこんな形でまたできたらいいなと思います.”
つまり, これが今生の最後のスピーチにはしたくない, やつらに殺されずに来年も生きていたいという当然の生存欲求を明るく優しく語りかけるKasgaに, 一同, 初っ端なから涙腺を刺激されてしまった. ただ, 襲撃の期限日まであと35日しかないのに彼女のこの落ち着きようを見ていると, 自分たちはもしかしたら敵の襲撃を無事に撃退できるのではないかと思え, 悲壮感を強める方向にはいかなかった.
“初めて? でも, そこじゃないだろ.”
City Officeから派遣された元市長秘書のZansiは, Club Managerたちの後ろでKasgaの話を聞きながら違和感を覚えていた.
“初めてであることに意味があるのは, 彼女の前に, 彼女のほうを向いて話を聞く側として, 市内外のKassenのClub Manager, City Office, そしてCastle Officeの関係者が横並びで立っている, この構図だ. Club Managerたちと話をしたければ, 我々をわざわざ呼んでここに立たせる必要はない. これは, 彼らに話をしているかのように装いながら, 市長が亡くなった後, このHanasakaを導くのは自分であるかのような印象を世界中の人に持たせようとしているからに違いない.”
Zansiの心中の声を聞いていたわけではないが, Kasgaはまずゲストについて触れた.
“今日は, 大事な話をするため, City Officeのかたにもこの集会に立ち会っていただくことになりました. お忙しい中, 本当にありがとうございます. 私を殺そうとしている計画にGoblino前市長が関わっていたかもしれないというのは信じがたいことですが, その市長が殺されるというのはHanasaka Cityにとってとても残念なことですし, Goblino前市長のご冥福をお祈りしますとともに, ご遺族にはお見舞い申し上げます. それからCity Officeの皆さんも, 市長が亡くなられた後, いろいろ大変だと思いますが, どうか前向きな気持ちでHanasakaを引っ張っていただけるとうれしいです.”
“うれしい? あぁ, 確かにそうだろう. 市長の側近だった私をここに立たせて, もはやこいつは自分の軍門に下ったのだと世間に見せびらかしているんだから.”
いら立ちを抑えてなんとか無表情を装うZansiの隣で, 一見温和そうな表情をして立っていたのは, City OfficeのFinance DepartmentのDirector Noraだった. 彼女は, Zansiが外見上の平静さとは逆に, 心の中では怒りの炎を燃やしているだろうと想像しながら, うっすら冷たい笑みを浮かべながらKasgaの話を聞いていた.
NoraはGoblino市長が時々見せる粗野な態度が気に入らず, 最初から市長とは距離を置いていたが, かといって市長に逆らうようなこともせず, 中立的に振る舞っていた.
そして市長亡き後, 副市長も空席であるため, 各DepartmentのDirectorが週替わりで市長の臨時代行を務めているが, 今週はNoraの番であった. その彼女がCastle Officeからこの集会への参加の誘いを受けた時に, 元市長秘書のZansiに, 自分と一緒に参加するように指示したのであった.
“Castle Officeの人たちのほうがやはり巧妙ね. テロリストたちがいつまた襲ってくるかもしれないという状況を利用して, 今や彼らがほぼ完全にHanasakaを掌握したと言えるでしょう.
“Zansiさんも今頃後悔しても遅いけど, 実験自体を否定しようとする, 本来, Hanafolkが組んではいけないRusty-believersの支援を受けたのが間違いだったのよ. Pro-Mayor Factionと言われる人たちは, Kasgaさんという民主的プロセスを得ていない有名人が実質的にHanasakaのリーダーになっていることが, 市の統治上危険だと強く警戒する人たちのグループにすぎなかったはずなのに. 敵の敵は味方でない場合もあることを分かっていなかった…
“いや, 待てよ… 市内のPro-Mayor Factionと市外のRusty-believersを接近させたのも何者かによる計略だったのか?”
一方, Noraから残念な人と思われているZansiは, 落ち着いた表情でKasgaの話を聞いているNoraに対して, 結局はこの人もAnti-Mayor Factionに属していたのではないかといぶかった.
“どいつもこいつも, 市長に近かったやつらの大半は, Kasgaのあの演説の後, 熱狂する人たちを目の当たりにして形勢不利と見るや見事に裏切った. いったい彼女は何者なんだ? あの人間離れしたカリスマ性は何なんだ? もしかしたら, ‘Philosophy’に忠実に則って行動する非常に精密なアンドロイドなのか? それとも異星人か? 万人の心をとろけさせるために, 何か特殊な電波でも出しているのか?”
Kasgaの前市長に対する弔意はたったそれだけの簡素なものだった. 今日の集会の本題ではないため彼についての言及はさっさと終わらせ, “それから, 特に警察の皆さんのご活躍にはとても頼もしく思っています. 今まで私が殺されずにいるのも, 私の後ろに控えている4人の身辺警護の警察官や, そのほか大勢の皆さんのおかげです. 本当にありがとうございます.”と, 彼らに感謝の意を表した.
“そして私やCastle Officeは, 最新の情報をPolice Departmentからいただきながら, 敵襲に備えて城の防衛のあり方を一緒に検討してきました. いろいろなプランが考えられましたが, 今日これからお話しするものが私は一番良いと思いました.”
Kasgaの話がいよいよ本題に入り, 皆が息をのんだ.
“Hanasaka市民解放戦線と名乗る犯行グループがセットした襲撃の‘デューデイト’が11月9日です. ちょうど, この秋から始めようとしているGrand Prixの予定日です. 彼らが約束したわけですから, 101日目以降に襲撃するなんてみっともないことはまさかしないでしょう. 納期は守ってもらう必要があります.”
殺害予告を受けていながら皮肉交じりに余裕のセリフを言ってのけるKasgaに, その場にいる参加者たちは驚くとともに笑い声も発した.
彼女としては虚勢でそう言ったわけではなかった. 11月10日以降になるとHanasakaのFloraが, 地理的に最も近いExperimental Cityの“Kochipina”の支援を受けて敵を壊滅できることを, この時すでに, Castle OfficeのPrishaからひそかに知らされていたからだ.
“タイマーがスタートしてから今まで城も私も変わりなくいられたのは, Hanasakaの防犯システムが健全に機能している証拠です. システムにたずさわる皆さんと, 警察の皆さんががんばっていただいているおかげです.
敵は, 城と私を同時に攻撃することにこだわって, 私が城の中にいる時に城を燃やし, その中で私も殺し, Hanasakaから城と私を同時に消し去ることを妄想しています. でも私は, あれから城には近づかず, 今, このArenaにいるのが最も接近しているといえます. だから厳重に警備をしてもらっています.”
そう言ってKasgaは右手を上げて体の向きを左右に動かし, 警戒に当たっている多数の警察官の存在を改めて認識させた.
もっとも, 城もKasgaも変わりなくいられた本当のからくりについて, Kasgaはこの時点ではすでに知っていた. Floraがどのようなアルゴリズムを組んでいるかは全く分からないものの, Hanasakaを防衛しまた敵対勢力を封じ込める力を増強させる素材もしくは燃料は, Kassen communityの人たちの, “ストーリーに裏打ちされた幸福”であるという仮説と, 7月のKasgaの演説は非常に良い影響をFloraにもたらし, Floraが敵のAIを11月の頭まで動きを封じることに成功したことも, KasgaはMonicaとPrishaからひそかに教えられ, 自分とFloraとHanasakaが関係し合っていることを認識していた.
それは極秘事項であったが, 今後, Kasgaが自らの役割に基づき適切な行動をとるうえできちんと理解しておくべきことだとMonicaとPrishaが判断し, 彼女とはその情報を共有したのであった. しかしそれを全世界に知らせるわけにはいかないため, 彼女は人間たちのがんばりだとねぎらった.
“それに彼らも見栄を張りましたが, 城の建物の一部を燃やすことはできるとしても, この城に大打撃を加えることは, 正規の軍隊でもない彼らにはほぼ不可能です. 昔も今もHanasaka Castleは難攻不落の要塞です. だからきっと, 私を殺すこと, あるいは私ははずかめることに専念していると思います. Police Departmentも同じ考えです.”
ここでKasgaは一息入れたが, 周りは静まり返り, 誰も何も言い出せなかった. Kasgaの目が険しく, 決起集会のときに見せたあの雰囲気に近くなってきているからだ.
“もちろん私は殺されるつもりも, 恥辱を受けるつもりもありません. でも, 迎え撃つ私たちも, 残り35日間ずっと, 今日皆さんがご覧になっているような厳重警備を続けるのは, 経費の無駄遣いと言えるでしょうし, 何よりも警察の皆さんの負担が重すぎます. だから私は, 11月8日までは安全なところに身を隠して, 極力外に出ません. そして‘デューデイト’の11月9日に, 私は城のPalaceにいます.”
参加者一同, 耳を疑った. 最後の一言だけ, とっさには理解できなかった. 普通に考えれば, 最終日もそのまま身を潜めていればいいはずだからだ. それをわざわざ敵が最も喜ぶ場所に自らを置こうとするとは, いったい何を考えているのかと思った.
“皆さん, Kasgaはついにおかしくなったのかと思ったかもしれません. なぜ, 最終日に彼らにとって最も効率的で効果的な攻撃ができる状態を作り出すのか, 意味が分からないかもしれません… でも私は…, できれば解放戦線の人たちと直接話し合いたいのです. 当日, 私はKeep Areaの中に独りでいます. そしてそこに通じる道を, 彼らのために1本だけ用意します.”
Kasgaは, 11月9日に来訪する解放戦線の人たちのために, Outer Defense Zoneの北西にあるMagnolia Gateと, Main Keep Areaの南にあるRose Gateだけをわざと解放することを告げた. つまり, 城の外の北西からMagnolia BridgeでOuter Moatを渡ってOuter Defense Zoneに入り, そこから右回りか左回りでRose Bridgeまで来て, Inner Moatを渡ってMain Keep Areaに入ってくれば良いと道案内をした.
“もちろん当日は, 警察の皆さんが重装備で迎え撃つ厳戒態勢を敷きます. 城の上空にはたくさんのmech-hawkも飛ばして, 上空からの攻撃にも備えます. だから, 武装せずに, 11月9日の朝7時までにMagnolia Gateの前に集合してほしいです. 武装していないことを確認できれば, 警察官たちがそのまま私がいるPalaceまで案内してくれるようにします. そこでじっくりお話し合いをしたいです. 集団で来ていただいても結構ですが, 話し合いはone-on-oneを希望します. 話し合いの結果, 私の考えが間違っていると分かれば, 要求を飲むことを約束します.”
人間が犯罪の主役であった時代は, 襲われる側がこういう体制で待っているのでお越しくださいと表明するのはバカげたことであったかもしれないが, AIが犯罪を実行すると分かっている場合は, こうした前提条件を提案することは, 敵方の行動範囲を狭めるうえで, ある程度, 効果があると考えられていた.
AIたちにとって犯罪は, 所詮, ゲームの一種にすぎず, ゲームとして成立するためには, それに参加するプレイヤーが共通して認識している前提条件がある程度必要であり, そうした条件があまりに少ないと, たとえ敵方からの提案であってもその条件を受け入れることがあるからだ.
“私を殺したいのであれば, やはり11月9日の朝7時までにMagnolia Gateの前に集合してください. そして私のいるところまで登ってきてください. こういうことは本当に嫌ですが, 戦って決着をつけましょう.”
Kasgaがそう思うのは勝手だが, 一般市民を餌にして, 寄ってきた敵を迎撃するなどという作戦を, 市民の命を守るべきPolice Departmentは了解しているのだろうとかと誰もが思うことを見越して, Kasgaは, “警察の皆さんも最初は強く難色を示されましたが, 最終的には私の考えに同意くださいました. Castle Parkの周辺と, Outer Moatと, Inner Moatとで三重の防衛ラインを作れば, まず破られることはないからです. 私たちはこの作戦を‘Shark Teeth作戦’と名付けました.”と補足した.
“でも, 話し合いのために丸腰で城の中心まで来いと言われても, のこのこ行くなど自殺行為に等しいと彼らは思うでしょう. やはり武装して襲ってくるのが現実だろうと思います. だから, 前提条件を提案したり, 重装備で待っていると言ったりしているのです. それで被害を少しでも抑えられるかもしれないし, もしかしたら襲う気力がなくなるかもしれないと, わずかな希望をもって… もし…, 本当に襲ってきたら, 死傷者が全く出ないってことはないでしょうし, それは本当につらくて…”
Kasgaは前髪で顔が見えないぐらいに首を垂れた.
“本当にごめんなさい. こんな事態になってしまって, 皆さんにご迷惑をかけて, ごめんなさい. Hanasakaのため, Kassenのため, 良かれと思ってやってきたことでも, その結果, 価値観の対立を強めて, Castle Keepを燃やされて, そのうえさらに襲撃を予告されて, 私って…, いないほうがいい疫病神じゃないかと…”
たまらずGarnet EastのClub ManagerのRudraが, “異議あり!”と, 声を張り上げ, “Kasgaさんは断じて疫病神ではありません! 自分に厳しく, 他人に優しいから, そう思われるだけです.”と口を挟んだ. すると後方に控えていた, Police Departmentから派遣された副DirectorのRonが, “私からも一言! このShark Teeth作戦は我々が責任を持って実施するものです. たとえ警察側に犠牲が出ても, Kasgaさんが責任を感じる必要はありません!”とフォローした.
“おふたりともありがとうございます. すみません, 私, 自分が悪いんだって考えてしまう性格で, どうしても割り切れなくて… だから私は, この数か月間…, 本当につらくて, 何度, 死のうと思ったか分かりません… でも, それはできませんでした… そんなことをすれば, あまりに罪深い… そう思ったのです…”
“こんなことをさらっとみんなに言ってしまうところが, Kasgaさんのすごいところね. 強いメッセージを言ったかと思いきや, 自分の苦悩もさらけ出す. 案の定, Club Managerたちもすでに何人かは感極まって泣いているようだわ.”
Kasgaの後ろで護衛に当たっている警察官Melonaは, Kasgaと同様, 彼らを正面に見ながら, Kasgaの弁舌のうまさに改めて感心した.
“こんなことになってしまった以上, 結局, 生きても罪. 死んでも罪. そうであれば…, そうでしかないなら…, Fighterの頭領として一言, 言いたい… 正体不明のコソコソした卑怯者たちよ, 私は負けない. 私たちは負けない. 負けるのはおまえたちだ!”
自然とClub Managerたちは持っていた旗を掲げて, “オー!”と叫んで, 彼女の意気に同調した.
“ありがとうございます. なんだか決起集会みたいになっちゃいましたね. 今日はそんなつもりじゃなかったので, battle cryはしませんけど…”
Kasgaがそういって場を和ませると, Club Managerたちが笑って応えた.
Scene 3.2.2:
その時, Emerald NorthのClub ManagerのAlcesが旗を持っていないほうの手を上げて, “Kasgaさん, 1つ質問があります. 11月9日に敵が来るのを待つとしたら, Grand Prixは開催しますか?”と問うた.
“そうですね, それをお伝えしないといけませんでした. Monicaさん, ご説明いただけますか?”
Director Monicaが小走りでKasgaの隣にやってきて, 彼らのほうに体を向けた.
“はい, ではCastle Officeからご説明いたします. Grand Prixは残念ながら延期させていただこうと思います. それに敵襲による城や人の被害次第では, 中止とさせていただくかもしれません. いつものArena gamesは予定どおりおこないます. 両round通算の勝利数でchampionを決めます. Apex Fighterは, 従来どおりFighter戦績評価システムによってArena gamesの全試合を通して全Fighterの動きを分析して判定します.
それから, 先ほどKasgaさんからご説明がありましたとおり, Kasgaさんはしばらく安全な場所に身を置きます. そのため, 開会式は, フィジカルには参加せず, 立体映像で登場していただきます. 先代のHarunaさんが体調不良で開会式をVRで参加されたことが1回ありましたが, それ以来となります. 今回は危険な状況ですのでご了承ください.”
Monicaの説明が終わると, Topaz SouthのClub ManagerのCristaが手を上げ, “1つだけ納得できていないことがあります. Fighterたちは, 11月9日は, Castle Parkの外でKasgaさんと警察官たちが戦っているのを傍観するだけなんですか?”と, 不満の気持ちを込めてKasgaの考えを尋ねた.
Kasgaは厳しい表情を見せ, “お気持ちは理解しているつもりです. でも, あくまでFighterは, Kassenというスポーツのプレイヤーです. 治安維持のために実力行使をする人たちではありません. 私のプライベート・アーミーでもありません. 敵は‘Enhancers’で全身を強化してやって来ると考えています. 銃も持っています. 武器対等の原則も通じません. だから, この日だけはどうか見守っていただきたいのです.”と, Fighterの参加には反対する意思を表明した.
すると今度は, Sapphire WestのClub ManagerのAilaが, “では, Fighterとしてではなく, 1級警備員として参加することは構いませんね? 1級警備員でしたらexoskeletonを付けて, レス・リーサルですが銃も持って, 現場で警察官の支援をできると思いますが, いかがでしょうか?”と, 今後のFighterのあり方を実質的に決定的に変えてしまいかねない, 核心を突く質問をした.
Kasgaは迷いの表情を見せながら, “お気持ちはとても分かりますが…, 副DirectorのRonさん, いかがでしょうか?”と, Police Departmentに振って判断をゆだねた.
この流れを想定していたRonは, “我々としては, 敵襲に対抗できる十分な力がありますので, 警備員の皆さんの支援は必要ありませんが, そう言ってしまうと, KasgaさんがFighterの皆さんから突き上げられるのでしたら, 敵がたどり着くのはほぼ不可能なRose Gate付近でしたら構いません. ただ, 多すぎるのも問題ですので, 10人以下に絞りたいですが, Kasgaさんが, Fighterの皆さんが警備員として参加することも認めないとおっしゃるのでしたら, 私たちはそれでも構いません.”と, Fighterたちの要望に配慮した案を示した.
KasgaはRonが示したその案にすぐには飛びつかずに, 5秒ほど沈黙が続いた.
“分かりました. ではAilaさん, 今回だけに限りますが, 8人までということでいかがでしょう? 各club 2人まで. ただ, しつこいですが, 今回だけです.”
Kasgaは, できれば避けたかった決断をして, Ailaを真剣なまなざしでまじまじと凝視した.
“あぁ, その突き刺すような視線で私を見るお顔も, なんとも美しい.”
Ailaは顔がほてってくるのを感じながら, “お心を痛める勝手なお願いにもかかわらず, 最大限のご配慮をいただき誠にありがとうございます.”と言って, 左胸に右手を当てて頭を下げた.
“おいおい, 何なんだ, この流れは? この構図の中で, 彼女が考えた作戦を, PDが自分の責任で実施しますと宣言して, それに異論が出るや, 彼女がPDの幹部に意見を求めて, その意見に基づいて自分が判断をしてみせたら, まるで市長か, それ以上じゃないか. それにこの作戦自体, まさに物理的に彼女が中心点にいて, それを取り巻く者たちが, 彼女に刃向かう者を成敗する形じゃないか… これが…, Castle OfficeがたくらむHanasakaの‘新体制’なのか?”
Zansiは, この集会は, 市長亡き後の, 市の統治機構の再構成に向けての仕組まれた演劇だと考えた. だが, 彼がそう疑っているのを見透かしたかのように, いきなりKasgaが, “市長代行のNoraさん, 何かご意見やご助言をいただけますと幸いです.”と, NoraとZansiのほうに手を差し伸べて尋ねた.
“私からは特に異論ございません. Hanasaka Cityは, 人類にとって有益で有効な実験をするために様々な人が集まったコミュニティーです. そのコミュニティーを守ろうと貢献される, 模範的な市民であるKasgaさんのお考えも当然尊重いたします. ただ, どうか命を落とすような危険なことはなさらないよう, 心からお願い申し上げます.”
NoraがCity Officeを代表して, この集会における満点の模範解答をきっぱりと言い放った.
“今この状況下で求められている答えを完璧に言えるところは, お見事だな…”
Zansiが心の中で客観的に批評していると, “そのお隣のかたはどうですか?”と, Kasgaがさらに突っ込んできた. 市長代行が見解を述べればそれで済むと思っていたため, Zansiは慌てた. 全く答えを用意できていないからだ. おまけにKasgaが視線をそらさずじっと自分のほうを見ている.
“あ, いや, 特に…, Director Noraが申し上げたこと以上のことは, ございません.”
それで精いっぱいだった. 彼女の強力な眼力に息が詰まってそれ以上のことは何も言えなかった.
“ありがとうございます. ご理解いただき感謝いたします.”
Kasgaはさわやかな笑顔をZansiに報酬として与えた.
“まさに公開処刑… 絶対, わざと振ってきた…”
歯を食いしばる音が聞こえてきそうなZansiの様子を横目で見ていたNoraは, 自分の同僚がここで変な抵抗をしなかったことにほっとした.
“Zansiさん, あなたは分かっていない. 今, 目の前で私たちに話かけている女性は, 腹黒い教祖やペテン師なんかではない. あなたも私もいつも職場で使っている情報システム群やその中枢頭脳であるFloraの創生にたずさわった超天才のAI System ArchitectのHaruna Laligurasの遺志を継いだ妹なのよ. City Officeの情報システム群がKasgaさんをモデルにして振る舞っているかのように思えるのも, それは陰謀でも偶然でも錯覚でもない. 姉妹であれば顔が似ていてもおかしくないのと同じことなのよ.”
Noraは, 自らの仕事や日常生活に不可欠なものに対して悪態をついていることに気づいていない彼の愚かさを嘆いた.
“ただ私も…, どうも茶番じみた感じはする. 何かシナリオがあるのは間違いない. おそらく, 何か秘密のプログラムをひそかに走らせているんでしょう. あの2人は確かHarunaさんの愛弟子だった人たちだから, きっと何か考えているはず…”
KasgaとCity Officeが意見を同じにし, これで話が済みそうな雰囲気だったが, 彼女が言った“各club”はあくまでHanasakaの4つのclubであるため, Alliance clubの中のHimeji EgretsのClub ManagerのNakagawaが, “すみません, 差し出がましいですが, 我々, Allianceのメンバーからも参加できませんでしょうか?”と, 思い切ってKasgaに問うてみた.
“そうですね… それも考えたのですが, ごめんなさい. Nakagawaさんのお気持ちはとてもありがたいのですが, 警察から10人までに絞りたいと言われていますから, 各club, 平等に1人ずつ参加するとしても, それだけで上限を超えてしまいます. だから今回は, どうか…, ‘Hanasaka, がんばれ’, ‘Kasga, 死ぬなよ’ってみんなで応援していただけるとうれしいです.”
そう言われると彼も反論しがたく渋々同意せざるを得なかったが, すぐさまKasgaから, “その代わり, 私から1つお願いがあります.”と, やや小さな声で提案がなされた.
“皆さんには, 今日, それぞれclubの旗を持ってきていただきましたが, それを私に預けていただけないでしょうか? 当日, 城のPalaceで独りでこもるときに, 私だけだと寂しいので, 20の旗を自分の周りに立てたいのです. そうすれば, 皆さんに囲まれているように思えて, 心強いのです. 物理的には離れていても, 私は皆さんと一緒にいたいのです. どうかこの頼りない私をお助けください. それだけでもうれしいのです. 皆さんの力添えをどうかお願いします.”
Kasgaはそう言って頭を下げた. もはやClub Managerの全員が, ある意味, 総崩れだった. 戦いの集団のボスたちは皆, 涙を流しながら彼女のもとに集まり, 彼女に対し深い敬愛の念を表明し, 一致団結を固く誓った.
その様子を見ていたPrishaは, 自分の横の位置に戻っていたMonicaに, “Kasgaさん, 実にお見事ね. 完璧. 本当にすばらしい.”とささやいた.
“ええ, これがKasgaさんの特性よね. たくさんの人が自然とKasgaさんの周りに集まってきて, 彼女を守ろうとする. さすが, Hanasakaの座標の中心点.”
“それに, Kasgaさんには申し訳ないけど, 少しうそをおっしゃっていただいた.”
“そうね… さあ, Prisha. ここからが仕上げよ. 11月9日, やつらは来たくなくても来ざるを得ない. 逃げられないのはやつらのほうだから…”
“彼女の‘CCP’は今, 615. Autumn GamesでFighterたちがいい試合をしてくれたらもう少し加算されて, 当日を迎えられるでしょう. そこであの‘Black Booster’を使うことができれば, 我々の勝ちよ.”
Chapter 3.3: The Honored Eight
Overview (Spoiler-Free)
With the Autumn Games underway and the clock ticking toward the enemy’s November 9th deadline, Fighters across Hanasaka are quietly competing for a place among the eight warriors chosen to defend Kasga at Hanasaka Castle. Chammei, Bow Fighter and Squad Leader of Emerald North, reflects on her past and her desire to prove herself alongside her battle friend Keiko. But her performance in the first round of the Autumn Games does not go as planned.
Detailed Summary
With Operation Shark Teeth looming, all Club Managers know that eight Fighters will be selected to stand with Kasga at the castle on November 9th. Chammei, Squad Leader of Emerald North's Bow Fighter squad, is determined to be among them. In a private conversation with Keiko, she opens up about her troubled past: her father, a regional official in her home country, was scapegoated after a political purge manipulated by an early version of the criminal AI Stone Cold. Keiko responds with characteristic directness and warmth, telling Chammei her past does not matter and that she has no intention of leaving her side. During the Autumn Games, however, Chammei suffers a series of crushing defeats. A quick-footed rookie Fighter named Fei unsettles her in a duel, and the psychological blow lingers across multiple matches. Emerald North finishes the first round with zero wins. Deeply shaken, Chammei is consoled by Vice-Captain Apti, who argues logically that she and Keiko are already the most natural pairing for the honored eight — not because of raw strength, but because of mutual trust, complementary skills, and unwavering loyalty.Scene 3.3.1:
“Kasgaさんと城を命がけで守る, 栄誉ある8人のFighter. いったい誰が選ばれるのか?”
Chammeiは, NorthのAndromedaにある射撃練習場の中の休憩室で, 持参した水筒に入れたレモンティーを飲みながら, ぼんやりと思いを巡らせていた. 彼女は第1級警備員の資格を取るや, ほぼ毎日ここに通い, 本物の銃を使った射撃スキルの向上のためのプログラムに参加して, 1時間ほど汗を流していた. Facial Disguiseを付けて素顔が分からないようにしているため, あのEmerald Angelがそこにいるとは, この日も誰も気づいていなかった.
Bow Fighterである彼女が銃を使った射撃に熱をあげていることに関して, 周りの人たちからは, 彼女がbowから銃に転向したのではないかとささやく声が聞こえたが, それはナンセンスであった.
まず, Kassenでは鉄砲は使わないし, Castle Officeは, 基本的に飛び道具は危ないと考えているため, 今後も鉄砲がKassenに導入される可能性は低い. 従って転向ではなく, 銃も使えるようになりたいだけである. もちろんそれは警備員の仕事の中で使うことを想定しているので, 彼女が実際に使うとすれば致死性の低い銃器に限られるが, 学習意欲の高い彼女は, スポーツとしてリーサルな銃器も特別に使うことができるこの施設で, それを使ってスキルの鍛錬を積んでいた.
“Keikoさんも1級警備員の資格を持って, Castle Guardiansの警備員として登録されたって言っていたから‘栄誉ある8人’を目指すでしょうし, その一員になるのは間違いない. Kasgaさんを命がけで守るのは自分だと思っているKeikoさんとしては, それは絶対あきらめられない目標だから.”
Chammeiは, KeikoがKasgaにゾッコンほれていてそのすべてを受け入れているのは分かっていたが, 単に感情だけで慕っているのか, あるいは何か理屈の上でも共感できるからなのかを知りたいと思い, 以前, “Philosophyの伝導者”の側面を持つKasgaをどう思っているのかをKeikoに聞いてみたことがあった.
“そうやなぁ, ウチは難しいことは分からへんけど, Kasgaさんが, ‘Hanasakaのみんなの夢を守るのがKeiちゃんと私のお仕事なのよ’って言ってくれて, ‘でもそう簡単じゃないから, すぐにあきらめてはいけないの’って言われたから, ウチも, 根性入れてその仕事, 一緒にやるねん.”
Keikoの答えに, なるほど, シンプルで明確な理屈だとChammeiは思った. また, 相手の理解度に応じて, 伝えるべき核心を外さずに話すKasgaの話術にも感心せざるを得なかった.
そうすると次に, Keikoはみんなの夢を守るために具体的に何をするのか?という疑問が出てくるが, それについては本人に聞かなくても, 彼女の場合は, みんなの夢を壊す悪者を退治することに尽きる.
ただ, 夢の壊し方は一様ではない. 夢の破壊者は必ずしも悪者の顔をしていない. 善良な市民に思える人であっても, 多かれ少なかれ他人の気持ちを傷つけたことはあるだろうし, さらに言えば, 他人の悪に対して傍観するだけだった人はもっと多いと言え, そういう人たちもひっくるめて根こそぎ退治するつもりなのかが気になった.
“世の中には積極的な悪者と消極的な悪者がいることを, どう言えばKeikoさんに通じるかな?”
正直なところ, 深い思想を持っているとは思えないKeikoにそのようなことを問うても, まともな答えが返ってくる可能性は低く, 気にする価値はないことに思えるが, Chammeiはそのようなことでも気になってしまう性格なのである.
“どうしたん? Meiちゃん. 元気ないの?”
先のKeikoの回答に対してChammeiの沈黙時間が長すぎたため, Keikoが心配して聞いてきた. そこでChammeiは, Keikoに対しては, こちらの真意を隠しながら装飾した言葉で語っても通じないと考え, 正直に自分の思いを伝えてみた.
“Keikoさん. 私は, Keikoさんと違って, みんなの夢を守れる自信がないです… たぶん, 逃げたくなるから…”
Chammeiのおぼろげな不安に対しKeikoは, “そんなん, ウチも自信ないよ.”と, 自信たっぷりに答えた.
“その…, 私の場合…, あまり詳しくは言えないけど…”
Chammeiは, ためらいがちにKeikoに昔話をし始めた.
“私の父は母国の地方都市で要職についていたんだけど, ある施策を中央から言われてやったことで, たくさんの人を怒らせて, 死傷者も出て, それで, その…, いろいろあって…, 私も父のおかげで何不自由ない暮らしをしていたから, ずいぶん, ひどいことを言われた.
確かに父のやった施策はひどかったし, 中央に認めてもらいたくて無理して強行したのも全く賛成できないし, 本当に申し訳ないと思う. 全財産をはたいて被害を補償しろと言われたら, そうすべきかもしれない.”
Chammeiの出身国では, 10年前に政権の中核の一部が軍の一部と結託してクーデターを起こそうとした. 結局それは失敗に終わったが, その国の威信は傷ついた. 激怒した指導者は, その後, 国家転覆を図った反逆者たちとその関係者に対し, 様々な嫌疑をかけて粛清を始めた.
Chammeiの父は, 中央政府からの指示により, 首謀者の1人の地盤である都市に赴いた. 彼女が言った“ある施策”とは, 端的に言えば, 首謀者の親族や何らかの協働関係があったとされる者からあらゆるものを没収することであった.
ところがChammeiの父は, 想像以上の反抗に遭った. 後になって分かったのが, その都市の抵抗者たちは, 犯罪生成AIの“Stone Cold”の前身の“Stone Dance”の支援を受けていたのだ.
彼らとそのAIは, その国の指導者の忠臣がクーデターを起こそうとしているという偽の情報をまき散らし, 中央政府側は再び大混乱に陥った. このままでは本当に政権を転覆されかねないと考えた彼らはChammeiの父にすべての罪をかぶせて更迭することで, 抵抗者たちと和解したのであった.
ただ, こうした一連の出来事は, 一般には報じられていないし, もちろんKeikoも知らない. それはChammeiの胸の内に留めておくべきことであった.
“でも…, 思い出すとつらいから言えないけど…, その後, 家族はバラバラになって, 私は, この国で生きていくのはつらいと思って…, 結局私は, 被害を受けた人のために何ひとつ償うこともせず, 自分の家族のためにも何ひとつ役立つこともせず, 人生のやり直しができるExperi-CityのHanasakaに逃げてきたの. 私は単にそれだけの人間なの…”
ChammeiはKeikoと視線を合わせるのが怖くてうつむいていた. しかしKeikoはChammeiを正視していた.
“そっか…, Meiちゃん, いろいろつらいことがあったんやね. ウチを信用してくれてありがとう.”
出自不問の原則が徹底されているHanasakaにおいては, 他人には隠しておきたい過去の経緯を告白されたときには, まずは礼を伝えることが求められていたため, Keikoもそれに倣った.
“でも, いろいろ大変やったと思うけど, MeiちゃんがHanasakaに来てくれてへんかったら, 友達になれへんかったやろうし, ウチはMeiちゃんがHanasakaに来てくれて良かったと思ってる. 頭の悪いウチにいろいろ教えてくれるから尊敬してるし, ウチから見たら, KasgaさんもMeiちゃんもあこがれの存在やから…, せやから, 自分のことを‘それだけの人間’とか言わんといて. ウチはどこまでもついていくつもりやから.”
悪い言い方をすれば, あなたの過去などどうでも良く, 自分さえ良ければそれで良いと言っているかのように聞こえるが, 不思議と不快感は全く生じなかった. それにあくまで個人の感想を述べただけであるため, 否定するわけにもいかなかった.
そして, Keikoの理屈によると, ChammeiはKeikoに慕われどこまでもついてこられるわけだから, 自分がみんなを守る自信がないと言って逃げても, 逃げられない. 要するに, つべこべ言わずに, みんなを守る仕事を一緒にしようと言われているに等しい. 実際にKeikoがそこまで計算して発言しているとは思えないが, 言葉は受け取る側の解釈によって意味を持つ.
“Keikoさん, ありがとう. でも私…”
“Meiちゃんが自分のこと, 悪く言うのはやめて.”
Keikoは, またChammeiがネガティヴなことを言い出そうとしてると察して, いつもより強い口調で機先を制した.
“ごめんなさい…”
Keikoがこんな頼りない自分でも評価してくれていることを確認できたのは, 素直にうれしいことだったが, それに対してどう応えたらいいのだろうと思い, “私はどうしたらいいのかな…?”と, 助言を求めた.
それに対しKeikoは笑いながら, “どうしたらって言われても, battle friendsやねんから, 一緒にいてくれたらそれでええのに.”と快活に答えた.
“Keikoさん. あなたの気持ちはとてもうれしい. もちろん私もあなたと一緒にいたい. でも, 真のbattle friendsになるには, 戦いの場でもあなたに頼りにされる存在にならなければならない. だから私も, ‘栄誉ある8人のFighter’の一員になることは絶対あきらめない.
“そもそも, 私からKeikoさんにbattle friendsになりたいって言い出したのも, 強い自分になりたかったからなんだけど…, でも…, そんな偉そうなことを言っておきながら, この前のSpring Gamesでは, 思い切り叩きのめされたから, どう考えたって私はKeikoさんにとって戦場で頼りになる存在ではない… 特に近接戦闘は, Fighterとして中ぐらいの実力しかない. それが悔しい… でも残念だけど, 私が得意なbowは21世紀の実戦ではあまり使われない.
“だから, 同じ遠隔攻撃手段である銃をうまく使えるようになって, 実際に城を守る時に役立って, Keikoさんに認められたい.”
“Meiさん, そろそろ練習に戻りましょうか? もう少し休まれたいのでしたら, それでも構いませんが.”
Chammeiが射撃場になかなか戻ってこないので, 彼女の担当トレーナーが様子を見に来たのであった. そのトレーナーには, 守秘義務を負ってもらったうえで自分の正体を告げているが, 自分の名前を“Mei”と呼んでもらっていた.
“ごめんなさい. ぼんやりしていました. 大丈夫です.”
Chammeiが水筒を急いで手提げバッグに入れて立ち上がると, トレーナーが彼女の耳元で, “内緒の話ですが, アンダーカバーの警察官がMeiさんの射撃を先ほどからひそかに見学されています. もちろん我々は何の情報も開示していませんが, どこかでMeiさんがここに通われていることを知ったんでしょう. でも, 彼らもMeiさんの腕前には驚いたでしょうね. いやぁ, 私も, 短期間でここまで上達した人はMeiさん以外には見たことがありませんから.”と小声で告げた.
“いえ, Nobiさんの教え方が上手だからです.”
Chammeiは自分の実力ではなく, トレーナーの実力によるものだと謙遜した.
“いえいえ, Meiさんは素質があります. まるで乾いた大地に垂らした水滴のように即座に吸収されます.”
弓と銃は同じ“発射する”行為をしていても, 的に当てたい物体を送り出す方法は全く異なる. しかし, 弓で狙いをつける間, 押し手と引き手の力のバランスをキープしながら微妙な力加減をかけ続けることをしょっちゅうやっているため, 左右の腕や肩には必要な筋力がついており, 多少重たいライフル銃でもしっかり構えて狙撃することができた.
ただ, 発射の瞬間の利き手の指がスッと放すのかカチッと引くのかで動作に大きな違いがあり, その点は弓に慣れていることがかえって災いし, 慣れるのに少し時間を要した. しかし基本的にChammeiは不器用ではないため, 飲み込みは早く, トレーナーも驚くほどの上達ぶりで, 手振れが少ないライフル銃であれば素人とは思えないレベルに達していた.
“警察にとっては, 私が実戦で使える存在に映るのかもしれないけど…, でも, 選ぶのはあくまでClub Managerたちだから, このAutumn Gamesで実際に世間が納得する戦績を残せないと, たとえスターFighterでも選ばれないはず… ‘栄誉ある8人’になりたいFighterにとっては, みんな必死. 今回のArena games自体がGrand Prixみたいなものね.”
Scene 3.3.2:
10月14日, “Autumn Kassen Games, 9 E.E.”が始まった. 通算18回目となる今回のseason gamesは, 警察官やCastle Guardiansの警備員が, ArenaのみならずCastle Park全体の随所に配置され警戒に当たった.
観客たちは, Arenaに入る時には, IDの確認はもちろんだが, 身体と荷物の検査も念入りにおこなわれ, Facial Disguiseを着用して顔を変装している者の入場は禁じられた. またseason gamesの期間中, 業務上必要のある者以外は, 城のOuter Moatより内側, すなわちMain Keep AreaとOuter Defense Zoneへの立ち入りも禁止された.
Castle Parkの上空には, 羽を広げると2メートルほどあるmech-hawkが10機ほど悠々と飛行し, さらに40機ほどのmech-dragonflyがArenaやその周辺をジグザグに移動しながら, 地上を監視していた.
補足: 飛行監視ロボットについて Mech-hawkやmech-dragonflyなどの飛行監視ロボットは, 本来の監視や追跡の役割のみならず, 無線の中継局となってほかのロボットたちとの通信を助けたり, 逆に妨害波を出して通信を混乱させたり, 敵対者に対する物理的に攻撃することもできる.
こうした厳戒態勢を敷きながらも, Arenaやスクリーン観戦会場では陽気な音楽や人々の談笑などが聞こえ, いつもどおり盛り上がっていた. Kassenを見にここまで来るのは, テロリストが来るかもしれませんと警告されたところで全く動じない種類の人たちだからである.
そして開会式では, 緊急集会でMonicaが説明したとおり, Kasgaは安全上の理由から, 武装した姿で演壇上に立体映像として現れた. 録画したものではなく, どこかにいる本人がリアルタイムで動作していた. その時におこなわれる“出陣の儀式”も, Four Heart Flagの掲揚も, “Hometown”の斉唱も, もちろんKasgaによる開会の宣言とあいさつも, 実際にその場に本人がいるかのようなリアリティを見せて, 彼女の不在感の払しょくに努めた.
出陣の儀式をおこなうにあたりKasgaがhelmetを脱いだ時は, 決起集会の演説時に切って短くなった黒髪がやや長くなって現れ, 彼女の持っている清楚さと快活さが, 非物理的な映像であっても改めて感じ取ることができ, Fighterや観客たちから思わずのどの奥からうなり声を漏れさせていた.
Kasgaは, “デューデイト”まで残り26日に迫っていたが, 決起集会とは全く違い, 終始, リラックスした表情で, Fighterや観客たちににこやかに笑顔を見せ, 手を振っていた. こういうときこそUnifierの役割を持つ者は平静を保つ必要があることを彼女自身がよく心得ていた.
開会式は特に何事もなく終わり, 最初の試合が始まった.
初戦は, 前回のSpring GamesでchampionになったEmerald Northが登場した. 相手はGarnet East. いきなりの前回のfinal gameと同じ組み合わせでの戦いである.
Emerald NorthのFighterたちが入場してくると, 観客席から大きな声援が沸き起こった. その中でやはりきわ立って注目を集めたのは, Emerald AngelのLeader Chammei.
先のSpring Gamesで, Sapphire WestのKeikoにはやられてしまったが, 常にいろいろ作戦を人一倍考え, 自分でやって見せて, 失敗をしてもいら立ったり他人のせいにしたりせず, 冷静な態度でteamの優勝に貢献し, Squad Leaderとして合格だと誰もが考えていた.
SapphireのKeiko-squadのFighterたちもChammeiを高く評価していた. 怒らないし, イライラしないし, ふてくされないし, 落ち着いて冷静だし, 一転, 勝負をかける時は猛者になるその急変ぶりがすてきで, 彼女と一緒にいるEmeraldのFighterがうらやましいと, 自らのLeaderに申し上げたところ, “何が言いたいんやー!”と, spearを持って追いかけられた. もし, “それにやっぱり, かわいいし…”などと, 余計なことまで言っていると, そのFighterは命を失う危険性があったであろう.
一皮むけて成長したChammeiは, 整形をしたわけでもないのに自然に顔が引き締まり眼光が鋭くなり, まさに彼女が望んでいたように, その容姿はかわいさだけでなく力強さを感じさせた. そしてそのオーラを振りまきながら彼女は, battle areaを縦横無尽に駆け, 射て, 切り, そして倒した.
Emerald Northは, Chammeiらの“Bow Fighter squad”が相手方の陣に入り込み, CaptainやVice-CaptainなどのFlagのそばでそれを守る者に襲いかかるという戦法をSpring Gamesで採用し大きな成果を得たが, このAutumn Gamesでは, すべてのteamがBow Fighterを中心にした, 攻撃に特化したsquadを作った.
これは, Emeraldのスタイルをまねしたからというより, Kassenの規則がBow Fighterをより重視する方向に変更されたからであった. すなわち, まず, 両roundを通して, “Captainは1人. そのCaptainを含むRanked Fighterの数は15人. Mech-horseに乗れるのはSquad Leader以上の者とBow Fighterのみ. Mech-horseは最大11機まで.”という縛りは維持したうえで, 各teamが自由にsquadを編成できるようになった.
それに加え, 相手方の陣の最も奥にある, 三脚ポール台に突き刺してある相手方のFlagをBow Fighterがarrowで倒すと, 一旦試合の流れを止めたうえで, これまでとは違い, どちらかのsideのBlockを前方に10メートル押して試合を再開できるようにした. これを“Flag Triggered Advance”または略して“FTA”という. (Blockの移動後の再開時には, それぞれのsideのBlockのある位置より前方にいたFighterは, 自陣側に戻っておかなければならない.)
これによりBow Fighterたちは, もはやdefenderではなく, Blockを一気に10メートル前進させるFlag Triggered Advanceを得ることができ, かつ, 時にはSpear Fighterと同様, 手で取り上げて, Blockを2つとも初期設定のcenter-lineまで戻す“Flag Triggered Reset”をすることもできる, Spear Fighterにはない選択しを持つ者となった. そうなると, Bow Fighterたちをいかにしてまとめて相手方のFlag付近に運ぶことができるかが非常に重要となり, 各teamは今までのsquadのあり方を根本的に見直した.
従来は, Flagを背に, 左方, 中央, 右方と3つの縦の領域ごとにsquadを置き, それぞれのsquadには, Blockを押す“pusher”と, そのpusherを含め味方を相手の攻撃から守る“defender”, そして相手陣地に攻め込む“attacker”がいて, 人数配分は違っていても, これら3つの役割を持つFighterから構成されるマルチ機能集団だった. Bow Fighterもdefenderの中の一員と位置づけられていた.
しかしこのAutumn Gamesからは, Bow Fighter全員を取り込み, 相手方の陣のFlagに攻め込む, 一般的には“FAS”と呼ばれる, Flag-attacker squadと, 自陣のFlag付近で相手方のFASから防衛する, “FDS”と呼ばれる, Flag-defender squadと, nearとfarの各sideのBlockを相手に負けずに押し込む, “BPS”と呼ばれる, Block-pusher squadと, 合計4つのsquadを作るのが定石となった.
ChammeiらのBow Fighter squadは, 今回, 5人のBow Fighterに7人のSpear Fighterを加えてFlag-attacker squadとなり, ChammeiはそのLeaderとなった.
そして, 先のSpring Gamesで他のteamより一足先に相手方の陣深くのFlag付近でBow Fighterが戦う経験をしている分, 手慣れていたため, このGarnet Eastとの好カードは, Emerald Northが前回championとしての矜持を見せて堂々と戦うことができ, first-halfは4対0でEmeraldがリードして折り返した. 自信を深めたChammeiは, second-halfもこのまま押し切れるだろうと考えていた.
ところがsecond-halfの最初のTeam Match (T3) で彼女は思わぬ苦杯を喫することになった. Garnet Eastの新人FighterであるFeiが彼女の前に立ちはだかった.
GarnetはEmeraldのFASの実力を謙虚に恐れていたため, Blockのプッシュをあえてほどほどにして, 自陣全体をあまり前に張り出さず, BPSのすぐ後ろに控えていたFighterたちがいつでも自陣のFlagのあるほうに戻ってこれるよう用心していた.
その上で, Chammeiを倒すことがキーになると考え, BPSの中で守備を務めながら機を見て彼女だけを倒すための刺客を何人か控え置いた. Feiは普通のFighterの身分ゆえmech-horseには乗れなかったが, 足が速く動きが機敏であるため, この特別な刺客グループの1人に選ばれていた.
Garnetは, FDSが隙を見せずに守りを固めていたため, ChammeiたちEmeraldのFASは動きを縛られ攻めあぐねていた. そしてChammeiだけが仲間たちより後ろにはみ出る形で後退せざるを得なくなった状況をFeiは見逃さなかった. 彼は素早く彼女のmech-horseに後方から駆け寄り, spearでその背の上に乗った彼女を突いた.
“馬を下りろ.”
Spearで背中を突かれて振り返ったChammeiに, Feiが大きな声で彼女の母国語と同じ言語で呼びかけた. 普通のFighterがmech-horseに乗っているRanked Fighterに下馬を求めるのは失礼だと考えられており, 仮に求められたとしても応じる必要はなかった.
しかしChammeiは, 彼女と同じ国の出身と思える者から偉そうに呼ばれたため, ムカッとしてむしろこれに応じてしまった. Feiはにんまり笑みを浮かべた. Chammeiがswordを抜くと, 武器対等の原則により, Feiもspearからswordに持ち替え, duelとなった.
結果は, FeiがChammeiから一気に10点も奪って勝った. Keikoほどではないものの彼の動きの早さに彼女は翻弄され, “Front Torso”に連続で2回, 突きを入れられた. そしてFeiは, さらに攻撃の手を緩めずに追い込むこともできたはずだが, あえてそれはせずにストップの合図をして, “私の名前はFeiです. お見知り置きを.”と, 全くくせのない, Hanasakaに多くいる“Moto natives”の言葉で自己紹介し, その場を去っていった.
このduelがこの日の勝敗を決めた. すっかり意気消沈したChammeiは, その後は動きに機敏さが見られず, このT3では途中にHPをゼロにされて退場してしまった. 次のTeam Match (T4) でも再びHPをすべて失ってしまい, 試合の流れもGarnet側に完全に移り, 4対6で逆転負けしてしまった.
Chammeiの弱点は, 相手とのone-one-oneでの対戦で大きく負けてしまうと一気にプレイに積極性を失うことであった. Spring GamesでのSapphire Westとの試合でも, Keikoにmech-horseに飛び乗ってこられて一気に16点も失った時は, その後, 慎重な動きに終始してしまい, teamの勢いを減じてしまった.
ただその時は, Kassenの天才であるKeikoに恐怖心を覚えることはあったが, 腹が立つということはなかった. しかし今回は無性に怒りの感情が込み上げてきた. 相手は新人のFighterである. それなのに瞬間的に10点も取られ, Squad Leaderとして面目なく恥ずかしさも感じた.
それに, 母国語が同じ者に対して, 自分のほうがHanasakaの多数の者が用いる言語を流暢に話せることをわざわざ披露してきたいやらしさに, 彼女の神経は大いに逆なでされた.
試合の後, Chammeiは珍しく気が荒れて, 彼女のロッカーは何度も蹴られ, 水筒は床に叩きつけられ, くつは踏みにじられた.
このヒステリックな心の動揺は思った以上に長く引きずってしまい, 次のTopaz Southとの試合でも彼女はすっかり慎重になり, つまり悪く言えば消極的な受け身的な姿勢で戦いに臨んだ. そしてteamとしては善戦したがTopazに惜敗した.
さらにその次のSapphire Westとの試合では, Chammeiとしてはおおよそいつもの精神状態に戻ってきていたが, 最も自分を認めてほしいKeikoに対して, 自分の良いところを全く見せることができず, また直接の対戦もしてもらえずに終わり, teamとしてもSapphireの気迫に押されて負けた. つまりfirst roundは0勝3敗という, 前回championになったteamとは思えない見事な負けっぷりを披露してしまったのだ.
Emerald Angel, Squad Leader Chammeiのプライドは砕け散った.
Hanasakaに来て以来, 最も激しく彼女は泣いた.
Scene 3.3.3:
そのfirst roundが終わった日の翌日, Emerald NorthのClub Managerも, Captainも, 同僚のFighterたちも, Chammeiには容易に近づけない雰囲気が漂っていたが, この後のsecond roundが始まる前にteamの立て直しを図るうえで, Emerald Angelの折れた翼を修復することが急務であった.
このような状況下で採り得る選択肢は事実上限られ, Emerald Northで最も頼りになる男, Vice-Captain Aptiに, 彼女の復活を託された.
Aptiは, Chammeiと話をする前に, 世間の批評を一応チェックした. 自らを弱き者の味方というものの敗者には冷たいメディアの人たちや冷笑的な批判者は, “ChammeiはアイドルFighterで終わるのか”と厳しい意見が目立ったが, Kassenについて精通している者であればあるほど, 新人のFighterにやられてしばらくその精神的ショックを引きずったとしても, それで終わるようなFighterであれば, そもそもここまで勝ち上がっては来ていないと反論していた.
AptiとChammeiは, 21時頃に, Nexus Unitを使って音声のみで通話 (つまりは電話) をし始めた. この時間帯だと彼女も自宅にいてくつろいでいることが多いこともあるが, 親しい間柄でなければ基本的には顔を出さずに話をするのがエチケットと言える時間帯であるほうが良いだろうと判断し, その時をあえて選んだ. 彼女自身の精神状況からすると, 職場の同僚であるAptiと顔を見せて話をするのはしんどいだろうと考えたからだ.
“こんな時間にすみませんね. Chammeiさんはがんばり屋さんだから, 大学の勉強をしている時間かもしれないと思って, ためらったのですが…”
“いえ, 大学のほうはしばらくお休みを取りましたので, 勉強はあまりしていません.”
Chammeiは落ち着いた声で答えた.
“そうですか. それなら良かった. Kassen, 射撃, 勉強と3つもやらないといけないことがあると, 体が持たないと思いました.”
“ご心配ありがとうございます.”
ChammeiはAptiが何のために電話をかけてきたのかは感づいているので, “Second roundはいつもの状態に戻してがんばります. 嫌な感情は次の試合までには必ず消しておきます.”と, Aptiがほしかった言葉を早々に提供した.
Aptiは, この電話の目的をすでに見透かされていることを認識させられ, 軽く笑ったうえで, “ありがとう. でも焦ることはないですよ. それはChammeiさんらしくないから.”と, 力みすぎないよう求めた. そして, “心配しなくても, KeikoさんはChammeiさんを見限ったりはしないですよ.”と, 唐突にKeikoの名前を出した.
“わ, 私は, Keikoさんを…, もちろん尊敬はしています. いつまでも友達でいてほしいと思っています. でも, それだけです.”
“それに加えて今回は, ‘栄誉ある8人’にKeikoさんと一緒に選ばれたいんでしょう?”
図星を指されてChammeiは, “え, まあ…”と言葉を詰まらせた.
“きっと選ばれますよ. 慰めのつもりでそう言っているのではなくて, 論理的にそう考えられるからです. Chammeiさんは, 今回のAutumn Gamesで思ったような戦績を上げられていないから, このままではそもそも選ばれないか, 選ばれたとしてもKeikoさんと対等のポジションでコンビを組んで戦えないのではないかと恐れているのかもしれませんが, それは誤解です.”
Aptiはひと呼吸入れて, その理由を述べた.
“Kassenでは, 各teamのFighterが戦い合いますが, 敵襲のときは, Grand Prixと同様に, 協力プレイになります. つまり, team mateの関係になります. そうすると, もしKeikoさんと一緒に戦うのであれば, 彼女が最も信頼を置いているFighterは誰なのかという観点で考える必要があります. 強いかどうかじゃないですよ. 信頼できるかどうかです.
“信頼できるというのは, 3つ意味があります. 1つ目は, お互いに考えていることが読めるということです. どう考えて, どう行動に出るか, それは普段から十分にコミュニケーションをしていないと分からないです. 彼女にとっては, ほかのclubから選ばれるであろうFighterの中では, やっぱりChammeiさんとの付き合いが一番深いですよね.
“2つ目は, お互いに足りない部分を補う関係にあるということです. 他人と組む以上, 単に人数が増えることによる安心感を得たいわけじゃなくて, 自分が得意ではないことについてカバーしてほしいと考えるのが普通です. Keikoさんだってそうです. 彼女は, 近接戦闘は得意ですが, 遠隔戦闘はChammeiさんのほうが得意ですよね. それにKeikoさんは, 自分が大好きな人を守りたいという思いが非常に強いです. つまり, 大好きな人がそばにいれば, 彼女の戦闘力は何倍にも増強されるのです.
“3つ目は, 自分を最後まで信じてくれるだろうと思える人であること, つまり, どのような状況でも裏切ったり途中で見捨てて逃げたりしないだろうと思えることです. 自分のteam以外で, そう思えるFighterはそう多くはないはずです.
“Club ManagerたちがFighterを選抜するときは, 当然, ほかのマネージャーと話し合いながら決めます. 命がけの戦いになりますから, お互いに信頼関係が薄い8人を選ぶことは絶対ありません. その意味で, ChammeiさんとKeikoさんのペアは最初から当選確実と思います. つまり, 極端な話, Chammeiさんがsecond roundをすべて休んでも大丈夫です. 一番大事なのはけがをしないことです.”
Aptiが一方的に話している間, Chammeiはじっと聞いていた.
“Aptiさんの言うことは理解しました. でも, 仮にそうだとしても, Keikoさんは, この間での試合で何となく私を避けていましたから, 私のことを本当にそう思っているかは分かりません…”
まだ彼女の不安を完全に取り除けていないと思ったAptiは, “その点も心配ありませんよ.”と言ってさわやかに笑った.
“なぜかと言うと, Keikoさんも調子が悪いからです.”
Chammeiはにわかには信じられず, “でも, あまりの強さに, ‘Sapphire Beast’という名前のほうが定着してきているじゃないですか?”と問うた.
Keikoは筋トレを強化し, 対戦相手をにらみつけたうえで, spearが折れるのではないかと思えるぐらいに叩きつけ思い切り相手をねじ伏せる戦い方を見せるようになり, “Sapphire Comet”というより“Sapphire Beast”と改名したほうがより正確なのではないかと言われるようになっていたのだ.
“それこそ, 本調子でない証拠ですよ. Keikoさんの長所は機敏さですよね. 力強さではない. 相手の動きを常に見て先読みして, また時には相手を挑発し, 相手が攻め込んできた瞬間に思いっきり叩く. 一撃必殺で仕留める. 彼女のバトルを見ていると, すごくいい動きをしているときは, クラッシック音楽に合わせて動いているようにも感じます. ところが今回は全く感じませんでした.”
そう言われてみるとChammeiも, Keikoのバトルには音楽の種類はさておき, メロディーとリズムがあるように思えたが, “それは, 機敏さに力強さを加えて, より強くなったということじゃないのですか?”と, 最もあり得る可能性を示した.
“残念ながら, そうなっていません. 無理に力押しして機敏さを失っています. でも彼女より力が強いFighterはいくらでもいますから, まともに力で勝負すれば, そのうちけがをするでしょう. Keikoさんなら余裕で選出されるでしょうから, そんなに力まなくていいはずなんですが, 何か理由があるんでしょうね… 彼女なりに大きなプレッシャーがあるんだと思います.”
“じゃあ, Keikoさんが私を避けていたのはなぜですか? 私に対するプレッシャーはないと思いますが.”
“これは私の憶測ですが, Keikoさんも本能的には自分がいつもより調子が良くないと感じているのでしょう. だから, 決戦の日に一緒に戦いたいChammeiさんには悟られたくなかったんだと思います. 頭のいいChammeiさんには鋭く気づかれてしまうおそれがあるから, 近寄ることすらしなかったんだと思います. 彼女も悩んでいるのですよ.”
ChammeiはAptiが話してくれたことを理解した. そしてそれは合理的で正しいであろうと思えた.
“ありがとうございます. Aptiさんはお話が上手ですね. 私の気持ちも楽になりました…”
“それなら良かった.”
“もし, 命がけの戦いに出るために, 私が自分のteamのFighterで1人選ぶとすれば…, 私が苦しんでいる時にいつも助けてくれるAptiさんを選びます.”
“ハハッ. そう言ってくれるとうれしいよ. なぜなら私も, その8人に選ばれたいと思っていましたから.”