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Part 2: The Ninth Summer

Chapter 2.12: Kassen: Transformed

Scene 2.12.1:

7月8日のHanasaka Arenaでの決起集会の状況は, 様々なメディアを通してリアルタイムで, Kasgaの演説も各言語に翻訳されて, 全世界に発信された. 

この集会は, あくまでKassenというスポーツ・イベントで最高位の代表者のような役を演じているKasga WisteriaがそのイベントのプレイヤーであるFighterたちにメッセージを伝えるためにおこなったものにすぎない. 

しかしながら, 一般の人たちを会場やCastle Park内に大勢集め, さらに全世界にライブで放映する中で, 彼女はその演説に“皆”という言葉を巧みに混ぜ, しかもExperimental Citiesが掲げる理念を脅かそうとする者に立ち向かう姿勢を, 今までに見せたことがない力強い調子で随所に表すことによって, Kassen communityのUnifierにすぎないKasgaがHanasakaという名のExperimental Cityの最高司令官であるかのような印象を全世界に強く持たせることになった. 

隣国“Moto”の政府も決起集会の後におこなわれた官房長官による定例の記者会見で, Kasgaの演説は多くの人に勇気を与え実に感動的だったとMatsudaira首相が言っていたことを意図的に紹介し, 今後も政府としてはHanasakaとの良好な協力関係を維持していくと伝えた.  首相が要望していたメッセージをちゃんと入れ込んでKasga自らが発信したわけだから, 彼らとしては満足であった. 

また, City Officeを含め, Hanasaka City全体を見渡しても, 圧倒的多数の者がKasgaの演説に強く共感した. 

現状を大きく変え得る実験をこれ以上おこなうべきではないと考える慎重派の人たちも, Kassen communityを武装が大好きな人たちの危険な集団ではないかと疑い, Kassenは暴力を助長するから廃止すべきだと言っていた人たちも, Castle Keepを破壊したRusty-believersの仲間もしくは協賛者だと思われたくないため, 大半の者は宗旨替えするか考え方を軟化させ, 残った筋金入りの抵抗者たちも表面上はおとなしく鳴りをひそめ, KassenやCastle Officeに対しても批判的な声はぱったり聞こえなくなった. 

Kasgaの演説の破壊力はすさまじく, Goblino市長に同調する, いわゆる“Pro-Mayor Faction”は, 一気にほぼ壊滅に近い状態に陥ったのであった. 

そして特にFighterたちには, この日を境に, Kasga WisteriaはもはやKassenの宣伝のためのマスコット的な存在では全くなくなった.  いつも穏やかな表情で優しく語りかけて自分たちをねぎらったり励ましたりしてくれるKasgaが, この日はまさに戦う者たちのリーダーとして, Fighterたちの闘志を呼び起こして火をつけ, 皆の魂が燃え上がって熱くなり大勢で共有できたことで, 彼女は, 法律上はCastle Officeから業務委託を受けているにすぎない歌手であったとしても, 自分たちの真の最高司令官となったのであった. 

各地方のAlliance clubのFighterたちにとっても大きな効果がもたらされた. 

KassenがHanasakaで始まってから8年が経って初めて, 市外のAlliance clubのFighterたちは自らのOutfitsを着て, このHanasaka Arenaに参陣することができたのである.  これまでもAlliance clubの中で戦績が優秀なFighterは, 同盟関係にあるHanasakaのclubに出向して, そのclubのFighterとしてこのArenaで試合に参加することはよくあった.  しかし自らのclubの旗を掲げて, 自らのclubの名で参加できたことは, このArenaがHanasakaのclubのためだけのものではなく, Alliance clubも含めてKassen community全体のものであると認識できた. 

加えてそのcommunityのUnifierという存在も今までよりぐっと近づき, 同盟を結んでいるHanasakaのclubを介さず, 直接, 自分たちのリーダーであることを実感できたのであった.  実際, 各Alliance clubは, 決起集会の後直ちに, 先を争うかのように, Kasgaに対して, 集会に招いてくれたことへの熱い謝意と, 感動的なスピーチに対する手放しの賛辞と, ご指示を承り全力で実行するという固い誓約を伝えた. 

また実際にHanasakaに馳せ参じたAlliance clubのFighterたちは, Arenaでbattle cryを上げ, KasgaやスターFighterたちと記念写真を撮っただけだとしても, 地元に戻ってくると歓声をもって迎えられた. 

皆, 決起集会での雰囲気を裾分けしてもらいたいかのようであった.  そして彼らは, あの演説を生で聞いて涙が出たとか, あの一体感は忘れることができないとか, Kasgaと一瞬, 目が合ってドキドキしたとか, Keikoの“Four Star Spear”を見てかっこよかったとか, Chammeiと握手してもらって失神しそうになったとか, Arenaがギリシア神殿のように美しかったとか, Hanasaka Castleはやっぱりデカくてすごかったとか, Hanasakaの人工培養肉は意外にも結構うまかったとか, タバコは市外に出るまで一切吸えずにつらかったとか, Hanasakaで見たこと, 聞いたこと, 感じたことを地元の人たちに熱く語った. 

Scene 2.12.2:

そして, “Kasgaによる力強い演説”という, 今まで隠していた最強の切り札を行使して, 一気に形成を逆転させる作戦のお膳立てをしてきたCastle Officeは, このイケイケの熱気が残存しているうちに, Kassenそのものにも大きな変更を加えることにした. 

9年目に入ったCastle OfficeのKassenは, 近年は多少飽きられている状況であり, exoskeletonによって腕力や脚力などの身体能力を強化したFighterたちによるもっと刺激的なKassenをライバルのKassen Liberty Leagueがやっているのと比較すると, 何となく生ぬるく感じ, 真の実力で勝負するなら自由リーグのほうだと思われていた. 

Castle OfficeのKassenも, 常に自らを改善し続けなければならず, 伝統芸能のようになってはいけないと自覚しているため, Kassenのルールは毎年少しずつ変わっている. 

Season gamesでfirst roundとsecond roundとあるうち, firstのほうは“trial round”とも呼ばれ, ファンから提案されたルールの改定案でCastle Officeとしても実施可能と思えたものを取り込んで実際にやってみる.  それでファンやFighterからも高評価であればKassenのルールを正式に書き換え, 次のseason gamesからそのルールでsecond roundも実施する.  一方, first roundのほうはまた次の提案を採り入れるため, firstとsecondは常にルールが違うのである. 

例えば, Blockを押して点数を取るというルールも当初はなく, Kassenが生まれた年の次の年 (2 E.E.) の秋にトライアルをして翌春から正式に導入された. 

また, 相手のFlagを取り上げると高得点が取れるというトライアルがその翌年 (3 E.E.) の秋におこなわれたが, Fighterたちができるだけ互いにぶつかり合わないように逃げて, ひたすら前に進むことばかり考える試合運びになって, 見ていてつまらないということで正式には採用されなかった. 

昨年 (8 E.E.) の秋のトライアルでは, Fighterたちがはいている, つま先が親指とそれ以外で割れているくつ下のような形状のシューズを基に, 跳躍力を強化した“Foot Enhancers”を使うことを許可した.  これによりFighterたちのダイナミック・レンジが広がり, 見ている者としては高評価だったが, 使っているFighterたちからは, 従来以上に飛び跳ねると着地のときにひざや腰に来る衝撃も大きくなることから, それに合わせた筋力づくりが必要となるという意見が多く出て, いずれは足, ひざ, 腰の3点セットで強化するEnhancersの導入も検討すべきだという意見もあった. 

そのため今年 (9 E.E.) の春は, first roundではFoot Enhancersの利用を認めるも, second roundでは従来の規格に適合したシューズをはいて試合をすることにした.  ちなみにこの春のsecond roundでKeikoは超人的な脚力を見せた戦いをしたが, first roundを欠場した彼女が間違ってFoot Enhancersを使っていたのではないかと疑う声もあった. 

しかしこうした取り組みは改善とはいえても改革というほどではなく, Castle Officeとしては観客を飽きさせないためにやはりKassenというスポーツ・イベントそのものの大胆なアップグレイドを求められていた.  そこで彼らは, Castle Keepが燃やされてHanasakaに人々の目が向いている今がチャンスと, Autumn GamesからKassenのあり方を大きく変更することを, 7月30日に発表した. 

初めての大きなアップグレイドにあたり, Castle Officeは, Kassen Liberty Leagueにはまねができないこと, 圧倒的に自分たちに有利なことは何かを考え, それは“Kasga Wisteria”と“Hanasaka Castle”の存在だという結論に至り, これらを使った新しい“Kassenコンテンツ”を作った. 

まず, Fighterたちの意識の変化, すなわち自分たちはUnifierのKasgaや城を守るために存在しているという自認識を汲み取り, Hanasakaにおけるseason gamesは, Hanasaka Castleの“Defense Area”を決めるための戦いと意味づけた. 

つまり, firstとsecondの両roundの計12試合を通して, まずOuter Moatの外縁の8区画, すなわち, Outer Moatの北東にかかる“Lily Bridge”, 南東にかかる“Iris Bridge”, 南西にかかる“Cosmos Bridge”, 北西にかかる“Magnolia Bridge”の, 4つの橋とその周辺を含む計4つのエリアと, それぞれの橋の間の計4つのエリアを, 1勝するごとに1か所ずつ取っていき, 次にその内側のOuter Defense Zoneを構成する, “Eastern-section”, “Southern-section”, “Western-section”, “Northern-section”の4区画を, 同じように1勝ごとに1か所ずつ取ることとした. 

補足: Defense Areaの呼び方について Outer Moatの外縁の4つの橋とその周辺の区画を, 橋の名前の頭文字を取ってそれぞれ, Area-L, Area-I, Area-C, Area-Mと呼ぶ.  そしてそれぞれの橋の間については, 北を上に見たときに, 時計の針で, 3時, 6時, 9時, 12時の方向にあることから, Arae-3, Area-6, Area-9, Area-12と呼ぶ.  従ってArea-12から時計回りに, Area-L, Area-3, Area-I, Area-6, Area-C, Area-9, Area-Mの, 8つのDefense Areaがある.

もちろん実際にseason gamesの後, その取得したDefense Areaを次のseason gamesが始まるまでの間, そのclubのFighterたちが警護をになうことにする.  ただ実務上は, Castle Guardiansの人間の警備員や, 犬に似た陸上の中型の多目的ロボット“mech-dog”や監視用の飛行ロボット“mech-dragonfly”などが警備業務をおこなうため, Fighterたちは時々, そこに現れて観光客相手のパフォーマンスとして警護をしているっぽいことをするぐらいと考えられていた. 

そしてその2つのroundを通して最も勝ち数が多いteamがchampionとなり, そのclubは, さらにMain Keep Areaの警護を, Hanasaka Castleの城主でもあることにしたKasgaから, 閉会式で直接命じられるという名誉を得ることとした. 

加えて, second roundの後に, Apex Fighterを決めるために, Hanasakaの4つのclubから選抜されたFighter 40人が参加する“Grand Prix”を1日だけ開催することにした. 

このGrand Prixは, 戦いの場をArenaから初めて屋外に移し, Hanasaka CastleのOuter Defense Zoneでおこなうことにした.  そして, 人と人とが戦うのではなく, Kassen用に開発されたロボットと人が戦うものに変えた.  すなわち, Outer Defense Zoneの4つの各sectionで, それぞれ異なるタイプの俊敏な動きをするロボット1機もしくは数機と, 当日発表されるその時だけの5人からなるグループが協力して難易度の高い対戦をすることにした. 

40人のFighterのうち, Spear Fighterは32人でBow Fighterは8人と決められ、各teamはSpear Fighterを8人, Bow Fighterを2人選抜することになる.  8つのグループはそれぞれ, 各teamから1人ずつ選ばれたSpear Fighter 4人といずれかのteamから1人選ばれたBow Fighter 1人の組み合わせとなる.

他方, ロボットはmech-dogやmech-horseを改造したものを使うことにし, 胴体の左右に腕を付けてspearのようなものを持たせる.  またその胴体にはtorso protectorのようなものを巻き付け, WeaponsをOutfitsの特定部位に接触させてHPを減らしていくという戦い方は同じにした. 

そのため, ロボットたちから最も多くのHPを奪った者がApex Fighterということになりそうだが, あくまでグループが協力してロボットたちに勝つことが重要と考え, 彼らのバトルの現場で監視するmech-giraffeやmech-dragonflyが撮影した映像を基に機械がリアルタイムでそのバトルの様子を分析して, ロボットからHPを取った者をアシストした者も評価点を加えることとした. 

そうした分析を経て最も多くの得点を積み上げた“Apex Fighter”には, Kasgaからその名誉ある称号と“Diamond Sword”という名のリーサルな特別なswordを授与されるとともに, 城のPalaceの中にある大広間で, 今後, Kasgaが賓客と会う時にそのswordを持って彼女のそばで警護するよう直接命じられることとした. 

このアップグレイドの知らせを聞いて多くのFighterたちは喜んだ.  KassenのFighterは, 実際に戦場に出て戦うわけではなく, あくまでKassenというスポーツ・イベントのプレイヤーにすぎない以上, 市民を楽しませるエンターテイナーという当初からの役割で満足しているFighterもいるものの, “Fighter”というからには何か守るべき対象があって, そのために戦う存在でありたいと願い続けていた者もいて, そうした者にとっては満足できる再定義をようやく手に入れたのだ. 

そしてもちろん, Keikoも両手を上げてガッツポーズをし, 腹の底からウォーッと大声を出して歓喜と興奮を表した.  新しいKassenは, Hanasaka Castleの主であるKasgaを最も間近で守ることができるclubとFighterを決めるための選考会という意味を持たせたからだ. 

もちろんそれはフィクションであり, 仮にApex Fighterになったとしても実際にKasgaがずっと城のPalaceにいるわけではなく, 彼女のそばで毎日デレデレできるわけでもないものの, Keikoの妄想は止まらなかった.  理屈はともかく, そういうシナリオはよだれが出るほどたまらないのだ. 

今までは, Fighter戦績評価システムによって“Apex Fighter”に選ばれたとしても, 賞金や賞品がもらえるわけでもなく, 表彰状すら渡されず, 単に, Castle Officeからその称号を使うことを許されるだけだった. 

しかしこのAutumn Gamesからは, まだ完成はしていないPalaceの大広間でKasgaがHanasaka Castleを公式に訪れた要人と会う際に彼女に侍ることができるという分かりやすい特権をCastle Officeが全Fighterの中で1人だけに与えるというのは, Keikoのみならず, 多くのFighterたちの名誉欲を段違いに増大させた. 

そして, “Diamond Sword”は, Kasgaから秘密にしておくように言われていた賞品であるのは間違いなく, これを手に入れればKeikoは彼女から頭をナデナデしてもらえるのだ.  のみならず, Keikoは, 殺害予告を受けているKasgaの命が危険な状況に陥った時は, Apex Fighterの証でありかつリーサルな武器であるそれを携帯して駆けつけるという, たまらなくかっこいいシーンをしっかりイメージすることができたのであった. 

Scene 2.12.3:

一方, このアップグレイドに非常に困惑している人たちもいた.  それは, Kassenの最も基本的なところに関わっているEquipment Inspection Section (EIS) のメンバーだった. 

“現場の意見を聞かずに, 上の人たちがノリで決めるのって, ほんと, やめてほしい.  元々このGrand Prixの話って来年の春からやる予定だったのに, いきなり前倒しにされても間に合わないですよ.”

Castle Officeからの重大発表の翌日, 音声のみのオンラインでのセクション内の会議で, Yoenは不満をあらわにした. 

EISとしては, first roundとsecond roundの試合 (合わせて“Arena games”という.  Gran PrixというArenaの外でおこなう試合ができたことで, そう呼ばれるようになった.) を通してDefense Areaを決めていくこと自体は特に問題視していなかった.  あくまでそれはフィクションであって, Fighterたちの戦い方に変更はないからだ.  ところがGrand Prixのほうは課題山積であった. 

“以前にもお話ししましたが, まず, Arenaの外で戦うことになれば, Equipmentに対する不正な変更への監視が行き届かなくなるのが心配です.  我々は, 試合が始まる直前30分の間にEquipmentをFighterに返却して, その後もArena内に多数設置されている監視カメラで見ることで, あくまで可能性の問題ですが, 不正を抑止しています.  でも, Arenaの外は監視カメラがあっても密度が薄いですし, そもそもFighterたちにEquipmentを直前に返却しようとすると, 我々がすべてのEquipmentを彼らがいるところまで運び出す必要があります.”

Yugoが1つ目の課題を挙げると, Matildaが, “Resilinさんは持ち運びが大変なのでは?”と, 右脚のひざから下の部分がないResilinを気遣った. 

“ありがとう.  私は大丈夫ですよ.  電動一輪車に乗ってその後ろに荷車を付けて, 自転車ぐらいのスピードで走れますから若い皆さんには負けません.  むしろ, 2本の足を使う皆さんはどうしますか?  城内は自動車の乗り入れは原則禁止なので, 自転車か馬で運びますか?”

EISのメンバーの中で最も年長で50歳台のResilinは, “Enhancers”を積極的に取り入れ, 右脚側に“Leg Enhancer”を付けて歩いたり, 長距離の移動時はハンドル付きの電動一輪車に乗っていたりしていた.  この電動一輪車は, 足を置く踏み板が, 足がなくても, 使用者の脚の長さや形に合わせて高さや形を調整できるように作られているため, 使用者にくっついて合体するような感じになる.

2本の脚を持っていないがゆえに自分の移動方法をいかようにも変更できることを自慢げに話すResilinの様子を見て, マネージャーのJuliaは、彼がEnhancersによる自身の補強に関心を持つに至った理由について語ったことを思い出した. 

彼は5年前までアフリカ大陸に住んでいたが, そこで自分が運転していた自動車に, スピードを出しすぎていた自動車が横から衝突し, 同乗していた最愛の息子を亡くし, 自分の右脚も一部を失った. 

自分の子に先立たれるというのは, どの親も同様, 本当につらいことであった. 不幸に押しつぶされそうだった彼は, 人間が自分の意思で自動車を運転することを認めている国では事故のシーンを思い出してしまって心穏やかに住めないと考え, 人間から自動車を運転する自由を奪っているExperimental Citiesの1つであるHanasakaに, 縁があってやってきた. 

そして彼は, 同じような過去を持つ人たちと知り合い, 彼らと会話を重ねるにつれて少しずつ前向きに物事を考えられるようになった. やがて彼は, 脚が1本になっても堂々と生きていくことが, 亡くなった息子に対する責任であると考えるようになり, それゆえに自分の体を機械でしっかりと補強するようになったのであった. 

また彼は, 何度倒れてもくじけずに立ち上がることができる精神を持ち続けたいと考えて, “Resilin”と名乗るようになったのである.

そのResilinの質問に対してMatildaは, “そうね.  行ったり来たりが面倒だけど, そうするかな.”と, 半分あきらめかけているかのような返事をしたのに対し, 20歳の若者には珍しく, 決められたルールどおりに動くことを大事にするYoenが, “マニュアルを大幅に変えないといけないじゃないですか.  うんざりですよ.”と, なおも頑なな態度をとった. 

Yoenがルールやマニュアルにこだわることにも理由があることをJuliaは知っていた. Juliaは, Yoenがそうした姿勢をとるようになった経緯について, 以前, 彼女がJuliaに語ったことを思い出しながら, 彼女の言い分を聞いていた. 

彼女は, Hanasakaに隣接する“Moto”で生まれ, 非常に貧しい家庭で, 常に空腹に悩まされながら生きていた.  両親とも子育てに関心がなく, 彼らから疎まれ, さげすまれ, 絶望したYoenは15歳の時についに家出を決意した.

彼女は, 未成年であれば市外から来た困窮者を無条件で保護してくれると言われていた, 子供たちにとっては夢の国であるHanasakaに向かった. 

しかし持っていたお金はわずかであり, 彼女の住んでいたところからだと途中までしか電車で行けず, 電車を降りてから120キロメートル以上の距離を数日かけて, 時々休みながらほとんど飲まず食わずで歩いた.  そしてHanasaka Cityの境を越えたところでついに倒れてしまい動けなくなったところを, 駆け寄ってきた救急用のmech-dogやmech-horseに助けられた. 

彼女は, 身勝手で無関心な人間たちと違って, 弱り切った人間の子供にしっぽを振って, “わーい, 人間の子供だ.”と言って水とビタミン剤を提供し優しく介助してくれたロボットたちに, ほとんど忘れかけていた笑顔を見せ, 涙を流して感謝した.  そしてその時に彼女が持っていた所持金の額が彼女の国の貨幣でたったの4円 (そこの言語で“yoen”と発音する.) だったことから, 彼女は, 無価値だと思っていた自分の命を救ってくれたHanasakaへの恩を忘れないように, “Yoen”と名乗ることにしたのであった.

それ以来Yoenは, 人間たちも規則に従って, ロボットのようにちゃんと動くべきであると強く思うようになり, それゆえ人間たちを動かすプログラムをしっかり書くことに注力するようになったのであった.  実際, 彼女が作ったマニュアルは非常に完成度が高く, ほかのメンバーたちも助かっていた.  ただ, 大きな改定はいつも嫌がった.

人間なのに人間の決めたことに文句が多いYoenの意見をひと通り聞いた後, Yugoは, “それに, Arenaのfieldは屋外といっても, 直射日光や風を抑えていて外環境をコントロールしていますが, Angular Ringに設置するバトルスポットは, むき出しの屋外ですから, Equipmentの不調が発生する確率も増えると思いますし, 仮に故障してもArena内の倉庫からすぐにスペアを取り出してFighterに渡すことができないです.”と, 2つ目の課題を挙げた.

それに対しJuliaは, “その点は大丈夫ですよ.  今までのようなWeaponsとOutfitsを実際に接触させるようなことはせずに, Fighterたちがsmart gogglesを付けてAR (拡張現実) の中でWeaponsとOutfitsが一定の至近距離に近づければ接触したとみなすことにする予定です.  つまり, ARのソフトがリアルタイムに視覚情報を基に処理しますから, 物理的なEquipmentは, そうね…, Torsoに付いているビーコンと赤色灯が生きていれば個々のFighterの特定と戦闘継続性は識別できるからそれで十分. あとの機能は殺してしまってもいいんです.”と無感情に説明した. 

この発言はEISのメンバーにとっては衝撃的だった.  HPの減らし合いがすべてソフトウェアで処理され, しかもJuliaが言う, Fighterたちの特定と戦闘継続性もほかの手段で確認できるのであれば, Equipmentが電気的に壊れても, 磁気が異常であっても, 試合の進行には影響はなく, Equipmentは古来からの使い方で使うだけで, EISの仕事はなくなる.  もちろんそのソフトウェアが正確に処理するよう改良を重ねていく必要はあるが, それはプログラマーたちの仕事であって, EISの人たちができることではない. 

“Juliaさん, いきなりの死刑宣言はやめてくださいよ.”

Resilinが嘆くと, Yoenが, “そうですよ.  EISが用済みになるだけじゃなくて, これってKassenが仮想現実のゲームになって, Kassenの雰囲気を変えることになるじゃないですか.  小説とかだったら, 途中でいきなり世界観が変わって, 何この話って思われて本を閉じられるパターンですよ.  レビュー欄にも酷評されますよ.”と言って大いに失望した. 

“みんな, 心配しないで.  あくまで新しく導入されるGrand Prixだけ, そういう新しい方法でやってみるだけです.  Arena gamesは従来どおりですから.”

Juliaがメンバーを落ち着かせようとすると, Yugoが, “でも今回はさらに初めてロボット相手の戦いになりますよね?  Grand Prixだけだとしても, ちょっと新しすぎて, Yoenさんが言うように, 中世風から近未来風にいきなり世界観が変わりすぎてませんか?  それに, そもそもいつの間に戦闘用のロボットができ上がっていたのですか?”とJuliaに質問した. 

Yugoは, 協力プレイ用に戦闘ロボットをCastle OfficeがHanasaka Robotechと共同で開発していたのは知っていたが, 実戦に導入できるまで完成度を上げていたとは知らなかった. 

“正直, まだ不具合もあるらしいから, Autumn Gamesに間に合うか怪しいですけどね.”

“どうしてそんなに急ぐんでしょう?”

“急ぐ理由があるからでは…”

Yugoの問いにAkioが答えると, Matildaが, “おっと, やっとしゃべった.  ぜひ, あの夜, あの場所にいたAkioさんにその理由を聞きたいです.  きっと何かを知っていると思います.”と, ちょっと意地悪な態度で質問した. 

あの日, AkioはMatildaとCastle Park North Stationまで一緒に帰ったはずなのに, 独りで職場に引き返し, 深夜にPolinaと語らい合っていたという不可解な行動をとったため, Matildaから後日, 事の経緯を根掘り葉掘り聞かれたのだが, 完全には誤解が解けず, いろんな意味で怪しい人というレッテルを貼られてしまったのだ. 

“いや, その…, わ, 私は何も知らないです.  ただ…, こ, 今回追加するGrand Prixは…, 実践的というか, Fighterをスポーツ選手から, 何て言うか…, 本物の戦闘員みたいなのに変えていくための, トライアルのような気がして…”

Akioのたどたどしい説明を補ったのはResilinであった. 

“さすがAkioさん.  私も同じような疑問を持っていました.  人間が武器を持って, 人間だけで戦う時代は終わりました.  戦争であれ, 警察と犯罪組織の戦いであれ, ギャングどうしの争いであれ, まずは‘Enhancers’で自分を強化するのは当たり前で, しかも‘mech-animals’を引き連れて, 人間とmech-animalsがパーティーを組んで戦うのも当たり前になってきました.  だから, Fighterの皆さんが, 本気でKasgaさんや城を守りたいと考えているのなら, そういう戦い方ができることが必須です.”

補足: Mech-animalsについて “Mech-animals”とは, mech-horse, mech-dog, mech-hawk, mech-dragonfly等, 鳥や昆虫を含めた動物たちを模して造られたロボットの総称である.

“ちょっと待って, Resilinさん.  現代の戦い方がそうなのは分かりますけど, それは警察の仕事でしょ?  なぜ民間人のFighterたちが本気でそんなことをしないといけないのですか?  彼らは, 確かに自分たちが彼女と城を守ると言っていますが, それは単にそういう振る舞いをするだけのことじゃないのですか?”

Matildaの素朴な疑問に対してJuliaが, “そうでもないですね.  今, 警備員の資格をとってCastle Guardiansの警備員を兼業するFighterが増えています.  Hanasakaでは, 警備員として働くには市独自の資格を取る必要がありますが, 1級の資格を取れれば, 警察官ほどじゃないけど, 致死性の低い銃器を扱えることになります.  あくまで現に攻めてくる者を撃退する場合に限られるけど, 襲撃者の動きを一時的に封じるぐらいはできるようになります.”と平坦なトーンで説明した. 

“ちょっと待ってください…  今…, ‘Politis’を見てみます.”

Yoenは自分のタブレット端末から, “Politis”と呼ばれるHanasaka Cityの政策立案システムにアクセスした. 

Hanasaka Cityには議会がなく, 市民から寄せられる膨大な要望や意見を, Politisが分析し優先順位をつけ, 市の情報システム群の上で動くプログラムを自動生成する. 

条例はそのプログラムのコードを基に人間が読んで理解できるように抄訳したものであり, 市民によるPolitis上での投票で所定の定足数を満たしたうえで過半数の賛成が得られれば発効する. 

ただし, 市民の精神的な自由や経済的な利益に重大な影響を及ぼし得ることについては, 市長が拒否権を行使することができるが, これも所定の期間内に行使されなければ, その条例は発効する. 

Hanasaka市民は, 人間以上に人間を知り尽くしているFloraの判断とそれと連動している情報システム群による運営を全面的に信用している. そして, たびたび有権者を失望させる人間の議員やたびたび人々を恐怖に陥れる独裁者によって制定される法律や指令など, うさん臭くて従えないというのが彼らの一般的な感覚なのである. 

補足: FloraとPolitisなどの情報システムの関係 PolitisなどHanasaka Cityの情報システムで処理される作業のうち, 非定型的な課題が発生したときのその課題に対する判断は, 中枢頭脳であるFloraによっておこなわれる.  Floraは, 市の様々な課題を俯瞰し, システム間で矛盾した意思表示がなされないよう調整している. 

ちなみに, Hanasaka Cityには人間の裁判官が裁く裁判所も存在しない.  “Themis”という裁判システムが対立する両者の意見を踏まえて判決を言い渡す. 

一般的な国家は, 市民は, 不服があれば管轄高等裁判所に控訴し, さらには最高裁判所に上告する権利を持つとされているが, Hanasaka市民の99パーセントはそのようなシステムに何の意義も見出さない. 

そもそも自分たちと同じ人間が自分の人生を左右するような大きな決断を下してそれを強制するなど, 全く受け入れがたいし, 判断する人間を替えたところで所詮は人間であり, 同じようなことを何回繰り返しても無駄に思えるからだ.  そのためHanasaka市民にとってはThemisによって下される判断が確定判決であり, 唯一受け入れられるものであった. 

“確かに…, Juliaさんが言う, 警備員に関する条例案がありました.  現在, 条例の内容を固める前のパブリック・コメントを求めている段階のようですが, こんな条例, Goblino市長が警戒するのは間違いないでしょうから, 拒否権を行使できる事項だと無理やり言って成立を阻止するのは目に見えているじゃないですか?”

Yoenがなおも慎重な姿勢を維持すると, Juliaは, “そうかもしれないけど, 今回はどうかしら.  Kasgaさんの演説の後ですからね.  市長が拒否しても, 市民権を持つ市民の有効投票数の過半数の賛成がPolitisで再び得られれば成立しますから.”と, Kasgaの影響力は侮れないだろうという見解を示した. 

“あの…, ちなみに, Grand Prix, いつおこなう予定でしたか?”

Akioは, メンバーたちの話題がGrand PrixそのものよりHanasaka Cityの新条例に移っていたにもかかわらず, 文脈を無視して質問した. 

“11月9日です.  Juliaさんから連絡が来ていたでしょ.”

話の流れに合っていないばかりか, Castle Officeのスタッフとして当然知っておくべきことについての質問であったため, Matildaから, ぼうっとしてるんじゃないわよ, という口調で冷たく伝達した.  すでに新鮮味を失っている情報を受領したAkioは, “す, すみません.”と謝ったが, ふとその情報から別の情報が喚起され, 急に胸騒ぎがした. 

“11月9日…  単なる偶然なのか…”

半月あまり前の7月13日に, Akioがプレイしている“Stone Souls”で, あのテロ事件の前日から行方不明になっていた“New Moon in the Dark”が突然復活した.  これに対しては, このアプリの提供元であり運営団体である“Stone World”から連絡があり, サーバーの不調により一部のユーザーの一部の石のデータがしばらく読み出せなくなっていたことと, その不具合が修復されたことが知らされた. 

そしてそのお詫びとして, 24日と今日, すなわち31日の朝に, Stone Soulsのロゴ入りの缶に入った500ミリリットルのミネラル・ウォーター6本が自宅に送られてきた. 

Stone Worldはミネラル・ウォーターも販売しており, その水がとてもおいしいことは一般に知られていたため, Stone Soulsの運営側からお詫びとしてこれが送られてくる自体に不自然さは感じなかった.  リワードとしても手に入れられるこの水がほしくてStone Soulsをやっている人も少なくなかったし, ユーザーが離れないようにつなぎとめるアイテムとして有用であった. 

思わぬギフトを手に入れたことと, Castle Keepの炎上の前日に突然その石が消えた理由が分かったことは良いのだが, 新たな奇妙さが加わった. 

以前は, “見渡す限り全部をがれきにしたい”という信条を持ち, 毒舌家のキャラだったこの石が, 一変して自らの信条を“私は消されたくない”に変更し, 復活後は, 世をはかなむ発言が多く, ギフトが最初に届いた日には, “あと108日の命”とつぶやき, その後も時々, 余命が着実に減っていっていることを嘆き, 今までの攻撃的もしくは積極的な態度と真逆になった. 

Akioは, この激変ぶりに戸惑ったが, 不思議とこの石が自分のコレクションに戻ってきたことをうれしく思った. 

黒いと一言で言っても, 長い年月により風化した表面はくすんだ黒であり, 他方で外部からの衝撃によって割れて生じた断面は鮮やかな黒で, その対比が鮮やかだった.  また, 丸いと言っても, 宇宙空間に漂う微小惑星のような, いびつさと不安定さを備えた不完全な球体であった.  存在しなさそうで存在するものを表す“New Moon in the Dark”という名前も気に入っていたし, 他のユーザーからの評価も高かった. 

そしてそれがほかの石とは違い, 寿命を持っていることに驚いたAkioは, “あと108日の命”とつぶやいた日にその108日目を計算したところ, その石の予告どおりなら11月9日に寿命が尽きて消えることになると分かり, カレンダーに印を付けた. 

そして, その石に一層の愛着を感じるようになり, なんとか延命させることができないのか, その日以来, ずっと気にかかっていたのであった. 

だが, ふと, 別の解釈が頭に浮かんだ. 

“そもそも石は死なない.  死ぬのは人間…?”

その11月9日がGrand Prixの開催日であることを認識したAkioは, 余命がわずかだと言っているのは, 実はこの石ではなく, Grand Prixの主人公ではないかと考えた. 

その主人公は誰か?  考えられるのは2人.  まず, Grand Prixによって選ばれたApex Fighter.  そして, そのApex Fighterにその証として“Diamond Sword”を授ける, 城の主でもあるKasga.

だがその2人のうち, すでに殺害予告を受けているKasgaがこの日に殺されることを予言していると考えたほうが自然のように思えた. 

Moglaの言っていた解釈に従うと, 城が燃えて崩れ落ちたその次に, “spring sun”が沈む, すなわちKasgaの命が敵に消される日が11月9日であることをこの石は予言しているのではないかと思い至ったAkioは, “Juliaさん, あの…, も, もう一度, Moglaさんとお話をしたいのですが, よろしいでしょうか…  なんだか…, その…, 危ない方向に, 向かってる気がして…”と, 願い出てみた.

Akioは, 石集めのアプリのお告げに基づけばKasgaが11月9日に殺害されることになるとはさすがにバカバカしすぎて言えなかったため, 争いのない平和な都市のはずのHanasakaが, いきなりきな臭い展開にずるずると引きずり込まれて, 結果どうなろうとしているのか知りたい旨を, たどたどしくも懸命に伝えた. 

彼の申し出にJuliaは3秒ほど沈黙したが, “分かりました.  じゃあ, 私からMoglaさんに問い合わせてみるけど, あのかたも忙しいから, 今回はすぐにアポイントメントがとれないと思います.  それでも良ければ, お願いはしてみるわ.  Yugoさんと一緒でもいいわよ.”


Chapter 2.13: A Gift for Keiko

Scene 2.13.1:

Castle OfficeのJuliaから, AkioとYugoがまた話を聞きたいと言っているので都合の良いときに会ってもらえないかという旨のメッセージを受け取ったPolice DepartmentのCyber Patrol SectionのMoglaは, AR viewでそれを見ながら車の中でにんまりした.

“何かいいことがあったのですか?”

同乗していた相棒のLemolainに, にやけ顔を見られたMoglaは, “あぁ, Castle Officeの優秀で興味深い若者が私に会いたいと言っているらしい.  この年になると, 若い人から会って話がしたいと言われるというのは, それだけでうれしいことですよ.”と柔和な目で答えた. 

“Castle Officeは, 優秀で個性的な人が多いと聞いています.”

“Equipment Inspection SectionのマネージャーのJuliaさんを知っていますか?  彼女の同僚ですよ.”

“そうですか.  彼女の名前は知っていますよ.  某国からは裏切り者とののしられているでしょうが, 愛想を尽かされたあの国の独裁者と官僚たちがバカなだけです.  穏やかな人柄で, Director Harukiからの信頼も厚い, 切れ者といううわさですが, ずいぶんと地味な部署にいらっしゃるのはMoglaさんの取り計らいなんですよね.”

“さすが, Lemolainさん.  ひと通り調査済みのようですね.”

彼の言葉の最後の音を発声すると同時に, Moglaは人差し指を口に当てた.  MoglaとLemolainはある人物をマークしていた.  その人物がこの夜に訪れるはずのレストランから少し離れたところに車を停めて, その人物が来るのを待っていた. 

Hanasakaではプライベートで自動車を保有することは基本的にできないため, そもそも車の数が少なく, こうやって車を停めているとかえって目立つ可能性があるが, ここはHanasakaのWestの市の境から西に1キロほど外に出たところで, その島国のティピカルな街の風景に溶け込んでいた. 

その人物が乗っていると思われる黒い車が後方から接近してきて, 2人が駐車している位置より10メートルほど後ろで左折し, “Bizen-ya”という名のレストランの裏にある駐車場のほうに入っていった. 

それと同時に, Moglaが車のドアを少し開けて, ゴキブリに似た形をした小型で薄型の探索傍受ロボット “mech-roach”を5機放した.  それらは本物のゴキブリと同様, カサコソと素早い動きで店内に忍び込んでいった. 

音声傍受をするのであれば, 店内のテーブルやコンセントなどにあらかじめマイクを仕込んでおくこともできるが, 用心深い人ならば部屋に入ったときにNexus Unitでまずスキャンをするので見つかってしまう.  そのため, その人がスキャンをして問題がないと判断して警戒を解いた後に, mech-roachをその部屋に接近させて傍受するのである. 

“Moglaさん, よく素手でつかめますね.  私は見た目からしてダメです.”

“ゴキブリは抗菌作用のある物質でコーティングされているから清潔ですよ.  それにmech-roachはロボットじゃないですか.  色も焦げ茶色で塗られていますから本物とは違うでしょう.  これを作ったうちのエンジニアたちは, 昆虫はデザインが実にすばらしいと言います.  特にゴキブリは最高だと言います.  Mech-roachは, 聖なるものを模倣して作ったわけであって, エンジニアの愛が詰まっています.”

Hanasakaで作られる昆虫型のロボットとしては, 人間の頭より5メートルほど上の空中を静かに飛行して監視をするmech-dragonflyや, 狭いところにも入っていって偵察などをするmech-roachのほかに, 制止させたい人や動物に向かって飛行し麻酔剤や毒薬などを撃ちこむ, 攻撃用ロボットのmech-beeや, これら3つの昆虫ほどの性能はないもののそれらが持つ機能を組み合わせて実行できる, 多目的型ロボットのmech-flyなどがあった. 

こうした人工昆虫類は, 見本となった生き物の昆虫と大きさや形は似ているが, 体の外殻と6本の脚や羽は軽い植物繊維でできており, 頭部の中にはHanasaka市民に埋め込まれているものよりも100分の1の大きさと重さの小型のmicro-chipが入っており, その表面には目の形をしたカメラや触覚の形をしたアンテナが付いている.  また胸部には小型の電池, そして腹部にはそれぞれのミッションに必要な液体などが搭載されており, 全体の重さはmech-flyで約0.1グラムである. 

こうした小さなロボットは, この時代には世界中の工場で大量生産されるようになり, mech-flyでは1機当たりの原価は1 XCぐらいで作れるようになっていた. 

“どう言われようと, ゴキブリは人類の敵です.”

“ゴキブリは人類を滅ぼしたりしません.  人類を滅ぼすのは人類ですよ.”

そう言い切った直後にMoglaは再び人差し指を口に当てた.  マークしている人物の今夜の話し相手がやってきた. 

“大物登場です.  でも彼女は, 電車とバスと徒歩でここまで来たようですね.  さすが生粋のHanafolk.”

“彼女の電車好きは有名ですが, 市外のお店なのでタクシーで来るかと思っていました.  まあ, 大きめのマウスマスクをしていますから, あのスターFighterだとは一見分からないですが, 市外でも一般人がたくさんいるところを堂々と歩くというのはさすがというか, 無防備というか…”

電柱を這い上ったmech-roachが高所から撮影し伝送されてきた映像を見ると, もう1人の人物も, 一般客が入る正面の入り口ではなく, 裏の駐車場のほうに回った.  そして 警備員のチェックを受けて裏口から店内に入った.  このレストランは, VIP用の個室があり, 一般客に会わずに利用できるようになっていたのである. 

2年前にTokyoの警察機関からHanasakaのPolice Departmentに派遣され, Experimental Citiesにおける警察機構のあり方を研究しているLui Cefiroは, この日, あるFighterと会うためにこの市外にあるレストランにやって来た. 

ここは隣の国のOkayamaという地域で採れる食材を使った料理を提供するレストランで, 値段は高めだが人気のあるお店だった.  今夜, 会食を共にする相手は, 相応の配慮が必要なため, ほかの人にじろじろ見られないよう個室を用意してもらっていた. 

そのFighterは, 予定どおり19時ちょうどに部屋に入ってきた.  白と青のボーダー柄のTシャツの上から薄い黄緑色のカーディガンを羽織って肌の露出を抑え, ゆったり目のブルー・ジーンズをはいて, 特段着飾った感じでもなく, “Facial Disguise”で顔を変装するようなこともせず, 素顔で登場した. 

“こんばんは, Luiさん.  お久しぶりです.”

“やぁ, Keikoさん, こちらこそご無沙汰しています.  今日はお忙しい中ありがとうございます.”

Sapphire WestのFighter, Keikoが席につき店員が注文を伺いにテーブルに来ると, Luiは, お酒は飲むのか彼女に尋ねた.  彼女は, 明日も仕事があるから今夜は飲めないと答えて遠慮した. 

Keikoは, 酒は飲もうと思えば飲めるほうだが, 多くのHanasakaの人たちは, 翌日の体調を気にする傾向にあり, 仕事がある場合は飲まないか, 飲んでも少量に限る.  まして試合が予定されている場合は, 薬物検査で引っかかりたくないため, 前日の午後からはアルコールはもちろん, 飲食全般に気を配っていた. 

“そうですか, それは残念ですね.  ここはOkayamaのぶどうで作ったワインやいろんな果実酒が飲めるのですが.  でも, 果物たっぷりのデザートがいろいろありますから.”

甘党のKeikoとしては想像するだけで幸せな気分になって, よだれが出てきた. 

“真夏は試合がありませんし, 練習といってもこう暑いと長時間はできないでしょうから, この季節はどういうことをされているのですか?”

飲酒を断られたLuiは, Kassenの試合が全くない真夏と真冬にFighterがどのような仕事をしているのか興味を持ち, Keikoに尋ねてみた. 

“そうですね.  社会福祉活動とか, いろいろあります.  献血を呼びかけたり, 自分も献血したり, 幼稚園に行ったり, 早朝に清掃活動したり, 私は無理ですけど, 頭のいい人は, 学校とか, えっと…, 更生施設とかに行って自分の経験談を話したりとか…  でも今年は少し違います.  結構, 勉強してます.”

“勉強?”

“はい.  警備員の資格を取るための勉強です.  まずは2級を目指しますけど, 2級だと使える武器が限られてるんで, 絶対, 1級取りたいんですけど, 1級の筆記試験はバカでは通らないそうで, そんなことされたらすごく困るんです.  今の私の最大の悩みです.  それで今, Castle GuardiansっていうCastle Officeの関係団体があるんですけど, そこが無料で開催している講習会に通ってるんです.”

Keikoは, 自分のがんばりをLuiが褒めてくれると思いきや, 彼は渋い顔をしていた. 

“そうですか…  Keikoさんも, 敵の迎撃に参加したいのですね?”

“もちろんです.”

Keikoは目を見開いて言い切った.  彼女にとっては至極当然のことで, Luiが残念そうに話す意図が分からなかったが, Captain Soaから, 自分の意図を他人が理解していないようであれば丁寧な説明を心がけるよう普段から言われていたため, “だって, Kasgaさんが, やつらは再び攻撃してくるから, 団結せよとおっしゃいましたし, 敵前に立ち一歩も引かぬと誓って, 髪を切ってみんなと一緒にいるって約束して, ともにKassenの火を守ろうとおっしゃって, 私たちも, ウォーッて叫んで答えたわけですから, 当然じゃないですか.”と, Kasgaの演説を部分的に引用しながら補足した. 

飲み物と前菜が来たため, まずは笑顔で再会を祝して乾杯したうえで, Luiはニコニコしながらも, “Keikoさんのまっすぐなお気持ちは分かりますが, そもそもそういうことができる条例はまだ成立していませんが…”と慎重な姿勢を示した.

“そうですけど, 成立しないなんてあり得ないと思います.  今日, ちょうど投票日ですけど, みんな, 賛成すると思います.  私のようなバカでもそれぐらい分かります.  だって, またあいつら, あんなクソしょうもないこと言ってきたやないですか.  あいつらが襲ってくるまで, あと100日もないんですよ.”

Keikoが“あいつら”と言い捨てたHanasaka市民解放戦線と名乗る正体不明のグループが, 8月1日に“クソしょうもない”声明を再び出したのだ. 

“自由と民主主義を信奉する皆様

残念ながら, 偽善と欺まんにまみれた偏狭な思想を妄信するやつらの本性がますますあらわになった今, 我々は計画を急ぐことにした.  今日8月1日から100日以内にKasga Wisteriaとその城を葬り去る. 

Hanasaka市民解放戦線”

8月1日から数えて100日目は11月9日であり, この日はCastle OfficeがGrand Prixを開催する予定の日でもある.  この日を襲撃の期限として設定したということは, 多くの人たちが楽しみにしているその日に, 城の破壊とKasgaの殺害という全く受け入れがたい悪事を実行する可能性をにじませているといえ, そうした予告をしてくること自体, Hanasaka市民とKassen communityに強い嫌悪感を呼び起こし, そんな悪党どもをなんとか消し去りたいとHanasaka側の団結力を高めることとなった. 

従ってそうした雰囲気の中での条例の不成立は考えられないというKeikoの認識は, Luiとしても合理的に思えたため, “でも, じゃあ仮に成立するとしても, 敵は重装備で攻めてくる可能性もありますから, 心配です.  やはり警察に任せて, Fighterの皆さんは, もちろん普段は警備をなさっていても構いませんが, もし敵が攻めてきたら安全な場所に移っていただきたいと思います.  市民を守るのは我々の責務ですから.”と, 警察官として典型的なまじめな見解を示した. 

その点にKeikoも全く異存はないため, “ありがとうございます.”と礼を述べたうえで, “私たちもがんばります.”と元気よく答えた. 

Scene 2.13.2:

この会話をmech-roachで傍受していたMoglaとLemolainは, KeikoとLuiの会話がまるでかみ合っておらず思わず苦笑した. 

“LuiさんはHanasaka市民じゃないし, 生粋のHanafolkの感覚がまだ分かっていないようですね.”

Hanasakaに来て3年が過ぎ, 市民権も持つLemolainは, 鼻先を少し上に向けて少し肩をすくめた.  彼女から見れば, Luiは旧来の社会の警察から偵察目的で来た古臭い人間にすぎず, 時代遅れの思考回路のままでそう簡単にHanasakaのことが分かるはずはないと思っていた. 

“Luiは若いのに, アンシャン・レジームの思想が濃い.”

この時代においても, 軍隊は外敵から, 警察は犯罪組織から市民を守るための組織であるのは変わらないが, 守られる側の市民の意識が変わってきていた.  例えばサイバー空間では, 軍隊や警察より腕のいいハッカーはいくらでも存在し, 善良なハッカーは民間人として普段から市民たちをサイバー攻撃から守っているため, サイバー空間では市民を守るのは軍隊と警察だけだと思われていない. 

また, Experimental CityであるHanasakaは, 実験の理念に共感し日々実践することを誓約した人たちからなるコミュニティであり, そのコミュニティの安全を守るのは理念を共有しているみんなであって, 一部の人に押し付けて良いものではないと考えられていた. 

Universal Basic Incomeが導入され, 生計を立てるために労働する必要がなくなったのと引き換えに, 可能な範囲での社会貢献が求められているHanasaka市民は, 自分たちの‘Philosophy’を守り, 実験を推進するために, 武装して戦うことが必要であるなら, 軍隊がいようが警察がいようが, 自分たちもそれに参画するのは社会貢献そのものだし, それができて当然だと考える人も少なくなかった. 

ただ, 従来の国家観に基づく旧体制こそが正しいと思う者からすれば, そうした社会貢献は, 聞こえはいいが身勝手で危険に思えた.  各自が独自の価値観で, “Enhancers”で強化した人体で社会のためと称して武力を行使するようになれば社会は混乱し無秩序になり, 戦乱に明け暮れた, 数百年前のような世界に逆行してしまうと恐れた.  それに, 職業としてついているわけではないとすると, 飽きたら簡単にその場を放棄するおそれがあり, かえって迷惑だと主張した. 

他方, Experimental Citiesの市民は, オープンで透明性の高い組織を作れる今とそうした時代はあまりに違うと反論し, 民間人は危険な活動に参画するとしてもあくまでバックアップ的な作業が基本であり, またプロではないからといって無責任な行動をとるとは限らないと説いた.  特にHanasakaのようなExperimental Citiesでは, 銃器や刀剣類を扱う者は警察官であっても誰であっても, 使用中は生体情報を見られ続け, 強度の管理下に置かれることを承諾している必要があるため, 過度の心配は不要と主張した. 

“ところでKeikoさんは, Kassen Liberty Leagueのように, Enhancersを本格的に導入したバトルに自分も参加したいと思いますか?  それとも, Fighterを機械化しておもちゃのように戦わすようなことには反対ですか?”

Luiは少し角度を変えて, やや誘導的な質問をしてみた. 

“自分にもできることやったら, やりますよ.”

Keikoの回答は拍子抜けするほど簡単だった. 

“でも, 武装が強化されるほど, ぶつかり合ったときの衝撃は強くなりますし, 血も出るし, 骨も折れるし, いくら観客が喜んだとしても, 古代ローマのグラディエイターのように命を落とすかもしれません.  それは明らかにHanasakaの‘Philosophy’に反しますよね.  私は, そういうのにKeikoさんが巻き込まれるのは嫌です.”

食事中にそういう血生臭い話をされると, Keikoは, 自分が手にしていたグラスに入ったぶどうジュースが血液に見えてきたが, そのおいしさには勝てず, ゴクッと飲んだうえで, “Luiさん, 心配いただくのはありがたいですけど, 考えすぎですよ.  Hanasakaでそんな殺し合いなんてするはずないじゃないですか.”と言って笑顔を見せた. 

“何事も節度を守る.  Hanasakaではそれが基本ですよね.  せやから安心できるわけじゃないですか.”

Hanasaka歴がより長いKeikoが先輩面をして, 基本中の基本を軽く教示した. 

“おっしゃるとおりです.  でも, 城に攻めてくるようなやつらは節度とか守らないですよね.”

“そうでしょうね.  だからワルモンには本気で戦いますよ.  警察の皆さんに, 頼りないやつやと思われたくないんで.”

“銃とか爆弾とか持って, Enhancersで強化して攻めてきてもですか?”

Luiは太い眉毛を釣り上げてさらに迫った. 

“そうですよね…”

Keikoは眉をひそめて少し考え込んだ. 

“やっぱり私もなんとか1級に合格して, ‘限定武装’で戦えるようにがんばります.  警察の皆さんほどのことはできませんけど, とことんやつらを困らせて, Luiさんや皆さんのお役に立ちたいです.”

彼女の言う“限定武装”とは, 改正される条例で定義された用語で, 1級警備員が使用可能な, 槍, 刀, 弓矢を含む刀剣類と, 致死性の低い銃器, 例えば, テーザー銃を含むスタンガンやビーンバッグ弾を装填したショットガンなどを意味する. 

そうした武器で敵の迎撃に参加することを当然の前提とするKeikoとLuiとは, やはり会話がかみ合っていなかった.  警察官であるLuiとしては, 犯罪者と本気で戦ったことがないFighterたちが独自の哲学に基づく使命感に目覚めて自らも凶悪犯に立ち向かうなど迷惑なことで, 致死性のある武器で襲ってくる犯罪集団をなめてほしくなく, 今までどおりスポーツ・イベントのプレイヤーとしておとなしくその枠内で本分を全うしてほしいのだ. 

特にKeikoとは以前からの知り合いであり, 彼自身としては裏心なく心配し, なんとか彼女の考えを改めさせたいのだが, 取っ掛かりすらつかめなかった.  逆に彼女を励ましただけで, さっきから上機嫌でむしゃむしゃOkayamaの自然の恵みをワイルドに食べているのであった. 

それぞれが注文したパスタが盛られた, 赤茶色のBizen-wareの皿が出てきたところで, Keikoは, Luiが頼んだものもちょっと食べたいから一部を分けてもらえないかと提案し, 彼女が頼んだパスタをそばにあった取り皿に3分の1ほど移してそれをLuiに渡し, 他方, Luiは自分のパスタの半分くらいを取り皿に移してそれをKeikoに渡した. 

交換の結果, 自分のほうが量が多くなったため, Keikoは照れ笑いをしながらも, “そんなに盛っていただかなくてもいいって言おうかなって思いましたけど, おなかすいてるんで, いただいていいですか?”と食欲を隠さなかった. 

“もちろん.  Fighterにとって, たくさん食べることも大事な仕事でしょうから.”

Keikoは, あまりお行儀にはこだわらず, さっさと平らげた. 

“そういえば, Luiさんって弟さん, いましたよね?  Castle OfficeでEquipmentの検査,してません?”

急に話題を変えられたLuiは, “えぇ, まぁ.”とだけぼそっと答えた. 

“やっぱり!  何回か見てるんですけど, 似てるなぁって思ってたんです.”

Keikoは目を見開いてLuiの顔をじっと見据えた. 

“異母兄弟なんですけど似てますかね…”

“えっ, 似てたら嫌なんですか?”

“いや, そうじゃないですけど.”

Keikoは, いまひとつ話に乗ってこないなと思いつつ, “でも, なんで, EISにいるんですか?”と聞いてみた. 

“さぁ…  やつもKassenが大好きですからね.  不思議なやつです.  就職先はCastle Officeしかないって決めていましたから.”

“そうなんですか.  いや, その…, EISの人って, どんな人がなるんやろうって思ったんで…”

Keikoの質問に対してLuiは少し考えたうえで, “そうですね.  基本的にEquipmentのinspectorはまじめで優秀な人間が選ばれます.”と答えた. 

“まず, 地味な仕事ですが確実にやる必要があります.  Equipmentが正しく扱われて正しく動くことはKassenがスポーツとして成り立つ一番肝心なことですので, Castle Officeは, Equipmentの信頼性を確保するのにかなり厳格に運用していますよね.  正直, あそこまで厳しくしなくてもいいんじゃないかって思いますけど…”

“いえ, 大事なお仕事やと思います.  電車が毎日走れんのは, 線路がちゃんと整備されてるからですよね.  それと同じようなことかなって思いますけど.”

“おっしゃるとおり!”

Luiは, Keikoが彼女なりにちゃんと本質を理解していると分かりうれしくなった.  話が全く通じない人ではないのだ. 

“でも, 彼らの仕事は, 残念ながら, 自分の成果をアピールするような場面はありません.  できていて当たり前ですから.  それに業務上の理由で行動も制限されますし, まあ, 窮屈な環境で生きてますよね.  だから, まあ, 忍耐力というか, 何でしょうね, 自分なりの信念みたいなものを持っている人じゃないとできないだろうと思います.  EISに入るのを希望する人は少ないそうですが, 希望しても簡単には入れないそうです.”

“そうですか…”

Keikoは, ナイフとフォークの動きをぴたっと止めて少し考え込んだ.  おいしいのかまずいのか分からない珍味を口に入れたときのような顔をしていたが, やがて, “そうですよね…  すばらしいと思います…”とやや小さな声で言って, 自分なりにとりあえず納得したようだった. 

次に, Okayama名物のサワラをムニエルにし, Okayama産のトマトなどの野菜を添えた料理が来て, Keikoは再び食欲を前面に出して食べ始めた.  Keikoは, 四足動物や鳥類の肉は市外にいても食べないが, 魚介類は時々まだ食べていた. 

“そういえばお兄さんはお元気ですか?”

今度はLuiが話題を変えた.  この点はLuiとして, 彼女に会ったら確認しておきたかったからだ. 

“ええ, まぁ.  皆さんのおかげで, お店のほうもそこそこ繁盛してるようです.  Luiさんにはいろいろお世話になって, ほんまに感謝してます.”

Keikoの兄Kageroは, “Sapphire Shark”と呼ばれて恐れられていたFighterだったが, 4年前の5 E.E.にGarnet EastのCaptain Donとの戦いで, Donの乗るmech-horseに踏まれ蹴られ両足が不随となる大けがをしてしまった.  あれはわざとやったのではないかという疑念をいまだにささやく人もいるが, 公式には不慮の事故であった. (その後, Kassenで使うmech-horseの走行時の最高速度は落とされ, 安全配慮機能も強化されているため, 同じような事故は起きにくくなっていた.)

KageroがFighterを引退した後, 彼は以前から興味があったEquipmentの装飾をやりたいと思い, Equipmentのworkshopの“Nemophila”に就職した.  そして彼自身としては思ってもみなかったが, ちょうどそのときの店のマスターが高齢のため引退したいと思っていたことから, 無責任にもいきなり店のマスターとして経営するようKageroに押しつけた. 

突然, マスターの座を譲られ不安に思っていたところ, Kageroの妻のSawaeの大学時代の先輩にあたるLuiが, Sawaeの依頼を受け, 店の経営に必要な法律や経理などに関するアドバイスをするようになった.  その後, Nemophilaを法人化したときも, Luiは設立にあたっていろんな書類作りを手伝ったり, 弁護士や税理士等も紹介してくれたりしていた. 

そうしたことからKageroとLuiのつき合いは続いており, KeikoもLuiとは面識があった.  しかし今回のように, 2人きりでこうした形で会うのは初めてであった. 

“そうですか.  お店が順調そうでよかったです.  Hanasakaに赴任してきたものの, いろんな国のExperi-Cityの警察と交流して来いと言われて, ほとんどHanasakaにいなくて, Kagero社長に会いに行く機会がなかったのですが, 近いうちに必ず寄らせていただこうと思っています.  それでお体のほうは, 大丈夫なんですかね?”

Keikoは, “ぼちぼちです.”とだけ答えて, テーブルの真ん中辺りに置かれた, 3種類ほどのパンが入っているかごからロール状のぶどうパンを1つ手で取ってガブリと噛みつき, 口いっぱいにしてもぐもぐ食べ始めた. 

しかしLuiはその答えで十分理解した.  やはりあの衝撃的な事故を精神的に乗り越え, なおかつその後の肉体的な障害を受け入れることは, Sapphire Sharkのような強者であっても, あるいは強者であるからこそ難しいということなのだと察し, 思わずため息をつきそうになった. 

“まあ, ぼちぼちなら良しとしないといけないですね.”

Luiは, 赤ワインの入ったグラスを傾け, 少しうつむき加減で, その液体のよどみ具合を観察した. 

Scene 2.13.3:

“あぁ, あとそれから大事なことが…”

Luiは, 人差し指を立てて, おもむろにポケットから灰色の指輪ケースを取り出した. 

“お誕生日は来月だと分かっていますが, プレゼントです.  受け取っていただけますか?”

Keikoはきょとんとして, “私にですか?”と, 分かりきったことを聞いた.  Luiがもちろんと言うと, Keikoは, そんな高価なものをいただくわけにはいかないと, ケースの中も見ていないのに断ろうとしたため, Luiは, 中を見てから決めても良いのではないかと提案し, テーブルの上の彼女の左手のそばに置いた. 

Keikoがケースをそっと開けると, ブルーサファイアの指輪が入っていた.  思わず彼女は, “めっちゃきれい!”と, 感嘆の声を上げた.  そしてやっぱりほしくなったのか, “ありがとうございます.  大切にします.”と言って受け取り, 左手の中指にはめてみた.  サイズもぴったりだった. 

Luiも, 彼女に受け取ってもらって, しかも無事に指にはまりほっとした.  もちろん, Sapphire Cometぐらいの大物へのプレゼントとなると, 彼としては張り込んだつもりではあったが, 彼女がもっと高価な指輪をスポンサーの企業やお金持ちのファンからもらっていることは十分に考えられるし, 家に帰った後, それらの指輪と比べてみて, 自分が贈ったほうはほかの誰かに譲り渡されるかもしれない. 

しかしそれでも, まずは受け取ってもらったことで今回のミッションはとりあえず達成したと考えるべきだった. 

彼は, Keiko Sacraに指輪を渡したくなるほどの熱烈なファンだったとは言い切れなかった.  Kassen communityに大きな影響力を持ち, Hanasakaの精神的支柱であるKasgaにかわいがられているKeikoから“いい人”だと思われる人物であったほうがHanasakaで内偵活動をおこなううえで都合が良いとも考えていたからだ. 

そして彼女に正しい思想を植え付けて, この都市の常識に懐疑的になってもらい, Kassen communityやKasgaにもその影響を及ぼしてほしいと考え, なんとか彼女のハートに接近しようとしていたのだ.

“あの…, 結構高価なもんやと思いますんで, 一応, clubには報告させてもらいます.”

Castle Officeが定めている, clubやFighterの行動に関する規則では, Fighterが家族や親族以外の者から1000XC以上 (価格がはっきりしない場合は, Fighter自身が1000XC以上の価値があると考えられるものも含む.) の金銭, 物品, もしくはサービスを, 無償または著しく安い価格で提供された場合, clubに報告しなければならないことになっていた. 

これは, “Fighterはすべての市民のために奉仕する”という考えに基づくもので, 特定の個人や組織との過度のつながりを牽制し, また反社会的勢力に引き込まれることを防ぐ意味もあった.  実際には, きちんと報告していないFighterもいるが, Keikoはまじめな性格であるため, そうしたルールの趣旨を理解して守っていた. 

Luiは了解しつつも, 値段も報告しなければならないのか心配になり, その点を聞いた. 

“いえ, そんな, おいくらでしたかなんて聞けませんから.”

それを聞いてLuiはほっとして胸をなでおろし, “まぁでも, 私の給料ではそんなに高いものは残念ながら買えないんで, ほどほどの値段です.”と謙遜した. 

もっとも, Keikoが指輪の値段でその贈り主の人間的価値を判断するような人間ではないことはLuiとしても分かっていた.  そのため, “Keikoさんは, 今までにもらったプレゼントで何か印象に残るようなものはありますか?  私が今お渡ししたものはとりあえず置いといてですが.”と尋ねてみた. 

“そうですね…”

Keikoは3秒ほど考えた後, “おととしの誕生日にMeiちゃんからもらったんですけど, 1枚の色紙をくれました.”と答えた. 

その時点で, Luiは直感的にさすがだなと感心した. 

“Meiちゃんが自分で筆で書いてたんですけど, 自分は1本の道を貫くだけっていう, 中国の昔の人の言葉が漢字で書かれてました.”

“‘孔子’の‘論語’ですかね?”

“さすがLuiさん!  そうだったと思います.  私は全然知りませんでしたけど…  あ, もちろん, その人の名前ぐらいは知ってましたけど…”

Keikoは, 自分が常識知らずだと思われないよう慌てて繕った. 

そして, 証拠写真を自分のAR viewの中で引っ張り出してきて, それを空中で人差し指で触ってLuiのほうに投げ, 彼のAR viewにも共有した. 

色紙には6つの漢字が横に書かれてあり, さらに“Moto natives”のKeikoに分かりやすいように, その下にアルファベットで“Waga michi wa itsu motte kore wo tsuranuku.”と読み方を記した文が添えられていた.  これは, “論語”の第4編である“里仁第四”と呼ばれる部分からの一文である. 

“一本の道をまっすぐ行くってなかなか難しいと思いますけど, Spear Fighterの私にとっては, めっちゃいい言葉やなって感動しました.”

“確かにKeikoさんにぴったりの言葉ですね.  Chammeiさんもうまく的を射てますね.  ちなみにその言葉の後に続く, ‘孔子’自身の道はご存じですか?”

“はい.  Meiちゃんが, それは, 真心をもって他人を思いやることやって教えてくれました.  まぁ私がLuiさんみたいな頭のいい人に説明しても仕方ないんですけど, ええこと言う人やなぁって思いました.  でも, あの時から, Meiちゃんのこと, ほんまに大事な友達やなって思ったんです.  それまでは, めっちゃかわいくて頭のいい子と友達になれて良かったなって思ってたぐらいやったと思うんですけど, その…, Fighterとしては私のほうが先輩なんですけど, Meiちゃんは世の中のいろんなこととか, 偉い人の言葉とか知ってるし, 私にそうやって教えてくれるから, なんか…, なんて言うたらええんか…, すてきな子なんです.”

“そうなんですね.  いいお話じゃないですか.  じゃあ, その色紙も1000XC以上の価値がありますね.”

Luiにそう指摘されてKeikoは, “そうですね!  でも報告するの忘れてました.”と言って笑った. 

“せやけど, Luiさんからきれいな指輪いただいて, ほんまにうれしいです.  私, こういう深い青色, 好きです.  なんか見てるだけで心が落ち着いてきます.  試合中も, いつも落ち着いて戦おうとしてるんですけど…, やっぱり難しいですね.”

“いやぁ, 今回のSpring Games, もちろん見てましたけど, 本当に見事でしたね.  AbilioさんやChammeiさんとの対戦も落ち着いてましたよね.  まるで負ける気がしませんでした.  いや, あ, 失礼.  もちろんKeikoさんを応援してますけど.”

Keikoは, ペコリと頭を下げた. 

“私もFighterになって5年以上経ちましたんで, 全体のことがだいぶん分かってきたんですけど, やっぱり, なんて言うたらええんか…, 勝とうと意識したらあかんって思います.  負けないようにすることが大事です.  負けないようにするには, 嫌なやつやと思われるかもしれませんけど, どうやったら相手に負けてもらうかを考えたりしてるんです.  せやから, Luiさんは優しいからいろいろ心配してくれてるみたいですけど, 大丈夫ですよ.  ワルモンには負けてもらいますから.”

Keikoはサファイアの指輪を見ながら話した.  それに対しLuiは何も言えなかった.  感服して何と言えば良いのか言葉が見つからなかったのだ.  勝負事に臨むにあたって勝つことを意識せず, そしてHanasakaが負けることなど想像すらしていないとは, 目の前の女性はただものではない. 

そう気づくや否や彼女との距離がぐっと広がったかのように感じた.  さっきまで彼女をなんとか冷静にさせて, 戦うことをあきらめてもらおうとしていこと自体, 全く無駄な努力であることが分かった.  どちらかというと冷静なのは彼女のほうなのだ.  最初から何もぶれていないのだ. 

Scene 2.13.4:

Cyber Patrol Sectionの一員であるMoglaとLemolainは, サイバー空間上で犯罪者から市民を守るために日々戦っており, だからこそ“どうやったら相手に負けてもらうか”というKeikoの言葉には共感でき, うれしくなった. 

彼らとしても, “相手に負けてもらう”ために一連の対策を実施していた. 

例えば, Kasgaが演説をした7月8日の翌日, HanasakaのPolice Departmentは隣国“Moto”の警察機関と連携して, 5月11日にHarukiとともに逮捕された, 作業所の所有者とつながっていた凶悪な犯罪集団の“Vaminas”の幹部1人とその手下2人を覚せい剤の密輸に関わった容疑で, Tokyoで逮捕した. 

この犯罪組織は以前から, Rusty-believersの思想を持つ国内外の富豪からの依頼を受けて, その過激派に対して武器を供与していると考えられており, Motoの警察機関が, Hanasakaでの決起集会の翌日というタイミングで, その幹部らをしょっ引くことで, 当面の間, 余計な関与をするなという強い牽制を, 当該組織および彼らとつながりのある他の組織に及ぼすことになった. 

また, HanasakaとMotoの警察機関にとっては予期せぬ幸運も訪れた.  2回目の犯行声明が出された8月1日の翌日に, Motoを中心に活動する宗教団体“Awakeners”で実に奇妙な事件が起こった. 

この団体は, いくつかの国の神話を捻じ曲げて織り交ぜ, 独自の神を崇めていたが, ガチガチのRusty-believersの集まりでもあり, Hanasakaを“サタンの都”とののしっていたため, 今回の犯行声明を出したのもこの集団ではないかと多くの人が疑っていた. 

その政治的思想を持つ宗教団体の創設者が深夜, Tokyoの中心部にある高層マンションの35階のバルコニーから飛び下りて死亡したのだ. 

信者たちの断片的な証言を総合すると, この教祖は数日前, 外出中に突然, 首の後ろに何かが撃ち込まれた衝撃とハチか何かに刺された時のような痛みを覚え, その周辺が腫れ上がった.  そして翌日から, なぜかテントウムシのように高いところに上りたいという強烈な欲求を抑えきれなくなったそうである. 

そしてその不可解な衝動に基づいてその夜, 高層マンションに住む, 愛人といううわさもある知人の部屋を訪れ, 中に入るや窓に向かって突っ切りバルコニーに出て, 柵の上に足をかけて立ち, 両腕を広げて空を飛ぼうとしているかのような恰好をして, 空中に飛び出したとのことである. 

この教祖の怪死は教団内を激しく動揺させた.  “最高覚醒者様”と教団内で呼ばれている絶対的な存在である教祖の死について, 教団の上層部は信徒たちに, 彼は神の意思に基づいて, 堕落した人類の罪を背負って自ら命を投げられたのだと説明したが, 説明している当人たちは, 教団内でできていた複数の派閥の権力争いが下地になって, 教団内部の誰が彼を闇に葬ったのかと疑心暗鬼に陥っていた. 

こうなってくるとAwakenersとしては, サタンの都をつぶすどころではなくなり, 教祖が突然いなくなったことに伴う自組織の立て直しを図ることが最優先となった. 

これはHanasaka側にとってはありがたいことだった.  何者による画策なのかは分からないが, 潜在的な敵が, 即座に回復し得ないほどの傷を負ってくれたからである. 

Police Departmentは, こうした状況を作りながら, あるいは利用しながら, Hanasaka市民解放戦線のメンバーをまだ特定できてはいなかったものの, 彼らに同調しそうな周辺の組織を麻痺させることで, 彼らがそうした組織の支援を受けにくくして間接的に締め上げていった. 

また, 彼らがそれでももがこうとすればその形跡をキャッチできるように, 周りの犯罪組織の動きをじっと観察し, 何か未知の動きをした者がいれば, それを監視し, 解放戦線に結びつきそうな手がかりを探った. 

メイン・ディッシュが終わってあとはデザートのみになったものの, まだ満腹とは言えないKeikoがおかわりでパンを注文し, そのパンが入ったバスケットがテーブルに置かれ, そこに彼女が右手を少し伸ばそうとした時, その手がデザート用のスプーンに触れて, スプーンが床に落ちてしまった. 

それをKeikoが自分で拾おうとしたのでLuiが, “店員に拾ってもらいましょう.”と伝えたが, Keikoは, “いえ, 自分が落としたのに店員さんに拾わせるのは申し訳ないんで自分で拾います.”と言って, いすから腰を少し浮かして右に移動して若干かがんでスプーンを手に取った. 

その時, 前方に見えた観葉植物の幹の下のほうにキラッと光るものを彼女は見逃さなかった. 

“ちなみに私, Spear Fighterなんで, 槍投げも得意なんですよね.”

突然何を言い出すのかとLuiがいぶかっていると, Keikoはかがんだままで, 持っていたスプーンを素早く前方に投げた.  スプーンは見事に何かに当たった.  観葉植物の幹の下には気絶したゴキブリが横たわっていた. 

“これは, mech-roach!”

焦げ茶色の物体を見たLuiは, 自分がマークされ, 今日の会話を傍受されていたことを知った. 

“うちのCaptainが, 最近は本物じゃないゴキブリもいるから, 見つけ次第, 退治したほうがいいって言うてたんで, やっつけときました.”

Keikoは得意げにLuiに作業完了の報告をした. 

傍受がバレてしまったMoglaとLemolainは, 残り4機の仲間たちを直ちに任務から解き, 回収せずにすぐにその場を去った. 

“バレてしまいましたね.  どうしますか, Moglaさん.”

Lemolainは心配そうに, 助手席にいるMoglaの顔をチラ見した.  Moglaは, “いやぁ, さすがはKeikoさん.  見事でしたね.”と言って, 余裕の表情で笑い出した. 

“まあ, 予想外でしたけど, Lemolainさん, ご心配なく.  Luiは, 身内にマークされていたと分かって, これからは行動を自重するでしょうから, それだけでも効果はあります.  おそらく彼は, 誰がこの傍受をしたのか詮索したりはしないでしょう.  そんなことをすれば跡がついてしまって, さらに深みにはまると考えて, じっとしておこうと考えると思います.  まあ, PDの中も, 今の市長に疎まれて閑職についている前市長時代の実力者たちが息を吹き返しつつありますから大丈夫でしょう.”

“そうであれば, いいですけど…  でも結局, 彼は, 秘密情報を漏洩しませんでしたね.”

LuiがKeikoのファンであることを知っていたMoglaとLemolainは, そのKeikoが次の敵襲に備えて警備員になるつもりであることを知り, そしてLuiもそのことを知って彼女がその襲撃に巻き込まれることを避けるために直接会って説得を試みるだろうと考えた. 

そしてその時に彼は, 説得の材料として, 警察内の限られた関係者しか知らない敵の武装のレベルを彼女に伝えるかもしれないと予想し, その証拠を押さえて, Lui自身のみならず, 彼と接点を持つ, “Pro-Mayor Faction”の連中を揺さぶろうとしていたのであった. 

“まあ, 想定どおりにはいきませんでしたね.  Keikoさんが全くぶれませんでしたから, Luiもあきらめてしまいましたね.  でも…, 彼女の芯の強さが改めて分かりましたね.  それも収穫じゃないですか?”

LemolainはMoglaが何を言おうとしているか理解し, “はい, 私もそう思います.”と答えた. 

“KasgaさんやCastle Officeの上層部がKeikoさんに絶大な信頼を置く理由が分かったような気がします.  彼女は…, やっぱりすてきです.  悪者には当然負けてもらう.  その信念を全くぶれずに貫いて, まるで地球が丸いのを疑わないのと同じように疑問の余地がない真実と考えてますよね.  そして不思議なことに, 周りの人たちも彼女の話を聞いているうちにそうだと同感してしまう.  こんな人は初めてです…”

KassenマニアのMoglaとしては, LemolainがKeikoの魅力を完璧に理解してくれたことがうれしく満面の笑みを見せた. 

“今日はとても良い日でした.  普通の警察官にすぎない私にとっては, Keikoさんは手が届かない存在ですが, いつか一緒に悪者と戦えたらいいなと思います.”

Lemolainは, 今日, すなわち8月4日を特別な日として自らの記憶に刻印した。

“そうですか.  Keikoさんと一緒に仕事をする時はきっと来ますよ.  そうしたらその時さらに彼女のすばらしさが分かると思います.  彼女はいろんな意味で天才ですから.”

補足: ChammeiがKeikoに渡した色紙に書かれていた言葉について

The six kanji written on the autograph board that Chammei gave to Keiko were “吾道一以之貫.”

The sentence “吾道一以之貫”, which is a passage from “Chapter 4: Living in a Good Neighborhood/里仁第四” in the Analects, is read as “吾が道は一以って之を貫く” in Japanese.

The following sentence “夫子之道, 忠恕而已矣” is read as “夫子 (ふうし) の道は忠恕 (ちゅうじょ) のみ” in Japanese.

“吾道一以之貫” roughly translates to “My way is all along one thread.” in English, and “夫子之道, 忠恕而已矣” translates to “The Master’s way is simply to show consideration to others.” However, there are various translations, so if you are interested, please look into them.

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