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Part 2: The Ninth Summer

Chapter 2.13: A Gift for Keiko

Overview (Spoiler-Free)

Keiko meets Lui Cefiro — a police officer on assignment in Hanasaka, and older half-brother of her EIS colleague Yugo — for dinner at a restaurant outside the city. Their conversation touches on Keiko’s preparations for the coming threat, her brother Kagero’s situation, and a meaningful gift from a close friend. Meanwhile, Mogla and his partner are watching from the shadows — and Keiko surprises everyone.

Detailed Summary Lui Cefiro — a Moto police officer studying Hanasaka's law enforcement model and Yugo's older half-brother — invites Keiko to dinner outside the city, hoping to cultivate her trust for intelligence purposes and dissuade her from confronting the coming attackers. Over dinner, he expresses concern about her plan to obtain a security guard license and fight. Keiko is entirely unperturbed: she is already studying for the qualification and has simply decided the enemy will lose. The chapter also reveals the backstory of Kagero's career-ending accident and how Lui came to advise him on running Workshop Nemophila. Lui gives Keiko a sapphire ring for her upcoming birthday, which she accepts warmly. Keiko shares that her most treasured gift was a calligraphy card from Chammei, inscribed with a line from the Analects — "My way is all along one thread." As the dinner ends, Keiko spots a hidden mech-roach listening device and neutralizes it with a thrown spoon. Mogla and his partner, who had been surveilling Lui and hoping to catch him leaking classified information, watch the whole scene unfold — and come away deeply impressed by Keiko's unshakeable composure and instincts.

Scene 2.13.1:

Castle OfficeのJuliaから, AkioとYugoがまた話を聞きたいと言っているので都合の良いときに会ってもらえないかという旨のメッセージを受け取ったPolice DepartmentのCyber Patrol SectionのMoglaは, AR viewでそれを見ながら車の中でにんまりした.

“何かいいことがあったのですか?”

同乗していた相棒のLemolainに, にやけ顔を見られたMoglaは, “あぁ, Castle Officeの優秀で興味深い若者が私に会いたいと言っているらしい.  この年になると, 若い人から会って話がしたいと言われるというのは, それだけでうれしいことですよ.”と柔和な目で答えた. 

“Castle Officeは, 優秀で個性的な人が多いと聞いています.”

“Equipment Inspection SectionのマネージャーのJuliaさんを知っていますか?  彼女の同僚ですよ.”

“そうですか.  彼女の名前は知っていますよ.  某国からは裏切り者とののしられているでしょうが, 愛想を尽かされたあの国の独裁者と官僚たちがバカなだけです.  穏やかな人柄で, Director Harukiからの信頼も厚い, 切れ者といううわさですが, ずいぶんと地味な部署にいらっしゃるのはMoglaさんの取り計らいなんですよね.”

“さすが, Lemolainさん.  ひと通り調査済みのようですね.”

彼の言葉の最後の音を発声すると同時に, Moglaは人差し指を口に当てた.  MoglaとLemolainはある人物をマークしていた.  その人物がこの夜に訪れるはずのレストランから少し離れたところに車を停めて, その人物が来るのを待っていた. 

Hanasakaではプライベートで自動車を保有することは基本的にできないため, そもそも車の数が少なく, こうやって車を停めているとかえって目立つ可能性があるが, ここはHanasakaのWestの市の境から西に1キロほど外に出たところで, その島国のティピカルな街の風景に溶け込んでいた. 

その人物が乗っていると思われる黒い車が後方から接近してきて, 2人が駐車している位置より10メートルほど後ろで左折し, “Bizen-ya”という名のレストランの裏にある駐車場のほうに入っていった. 

それと同時に, Moglaが車のドアを少し開けて, ゴキブリに似た形をした小型で薄型の探索傍受ロボット “mech-roach”を5機放した.  それらは本物のゴキブリと同様, カサコソと素早い動きで店内に忍び込んでいった. 

音声傍受をするのであれば, 店内のテーブルやコンセントなどにあらかじめマイクを仕込んでおくこともできるが, 用心深い人ならば部屋に入ったときにNexus Unitでまずスキャンをするので見つかってしまう.  そのため, その人がスキャンをして問題がないと判断して警戒を解いた後に, mech-roachをその部屋に接近させて傍受するのである. 

“Moglaさん, よく素手でつかめますね.  私は見た目からしてダメです.”

“ゴキブリは抗菌作用のある物質でコーティングされているから清潔ですよ.  それにmech-roachはロボットじゃないですか.  色も焦げ茶色で塗られていますから本物とは違うでしょう.  これを作ったうちのエンジニアたちは, 昆虫はデザインが実にすばらしいと言います.  特にゴキブリは最高だと言います.  Mech-roachは, 聖なるものを模倣して作ったわけであって, エンジニアの愛が詰まっています.”

Hanasakaで作られる昆虫型のロボットとしては, 人間の頭より5メートルほど上の空中を静かに飛行して監視をするmech-dragonflyや, 狭いところにも入っていって偵察などをするmech-roachのほかに, 制止させたい人や動物に向かって飛行し麻酔剤や毒薬などを撃ちこむ, 攻撃用ロボットのmech-beeや, これら3つの昆虫ほどの性能はないもののそれらが持つ機能を組み合わせて実行できる, 多目的型ロボットのmech-flyなどがあった. 

こうした人工昆虫類は, 見本となった生き物の昆虫と大きさや形は似ているが, 体の外殻と6本の脚や羽は軽い植物繊維でできており, 頭部の中にはHanasaka市民に埋め込まれているものよりも100分の1の大きさと重さの小型のmicro-chipが入っており, その表面には目の形をしたカメラや触覚の形をしたアンテナが付いている.  また胸部には小型の電池, そして腹部にはそれぞれのミッションに必要な液体などが搭載されており, 全体の重さはmech-flyで約0.1グラムである. 

こうした小さなロボットは, この時代には世界中の工場で大量生産されるようになり, mech-flyでは1機当たりの原価は1 XCぐらいで作れるようになっていた. 

“どう言われようと, ゴキブリは人類の敵です.”

“ゴキブリは人類を滅ぼしたりしません.  人類を滅ぼすのは人類ですよ.”

そう言い切った直後にMoglaは再び人差し指を口に当てた.  マークしている人物の今夜の話し相手がやってきた. 

“大物登場です.  でも彼女は, 電車とバスと徒歩でここまで来たようですね.  さすが生粋のHanafolk.”

“彼女の電車好きは有名ですが, 市外のお店なのでタクシーで来るかと思っていました.  まあ, 大きめのマウスマスクをしていますから, あのスターFighterだとは一見分からないですが, 市外でも一般人がたくさんいるところを堂々と歩くというのはさすがというか, 無防備というか…”

電柱を這い上ったmech-roachが高所から撮影し伝送されてきた映像を見ると, もう1人の人物も, 一般客が入る正面の入り口ではなく, 裏の駐車場のほうに回った.  そして 警備員のチェックを受けて裏口から店内に入った.  このレストランは, VIP用の個室があり, 一般客に会わずに利用できるようになっていたのである. 

2年前にTokyoの警察機関からHanasakaのPolice Departmentに派遣され, Experimental Citiesにおける警察機構のあり方を研究しているLui Cefiroは, この日, あるFighterと会うためにこの市外にあるレストランにやって来た. 

ここは隣の国のOkayamaという地域で採れる食材を使った料理を提供するレストランで, 値段は高めだが人気のあるお店だった.  今夜, 会食を共にする相手は, 相応の配慮が必要なため, ほかの人にじろじろ見られないよう個室を用意してもらっていた. 

そのFighterは, 予定どおり19時ちょうどに部屋に入ってきた.  白と青のボーダー柄のTシャツの上から薄い黄緑色のカーディガンを羽織って肌の露出を抑え, ゆったり目のブルー・ジーンズをはいて, 特段着飾った感じでもなく, “Facial Disguise”で顔を変装するようなこともせず, 素顔で登場した. 

“こんばんは, Luiさん.  お久しぶりです.”

“やぁ, Keikoさん, こちらこそご無沙汰しています.  今日はお忙しい中ありがとうございます.”

Sapphire WestのFighter, Keikoが席につき店員が注文を伺いにテーブルに来ると, Luiは, お酒は飲むのか彼女に尋ねた.  彼女は, 明日も仕事があるから今夜は飲めないと答えて遠慮した. 

Keikoは, 酒は飲もうと思えば飲めるほうだが, 多くのHanasakaの人たちは, 翌日の体調を気にする傾向にあり, 仕事がある場合は飲まないか, 飲んでも少量に限る.  まして試合が予定されている場合は, 薬物検査で引っかかりたくないため, 前日の午後からはアルコールはもちろん, 飲食全般に気を配っていた. 

“そうですか, それは残念ですね.  ここはOkayamaのぶどうで作ったワインやいろんな果実酒が飲めるのですが.  でも, 果物たっぷりのデザートがいろいろありますから.”

甘党のKeikoとしては想像するだけで幸せな気分になって, よだれが出てきた. 

“真夏は試合がありませんし, 練習といってもこう暑いと長時間はできないでしょうから, この季節はどういうことをされているのですか?”

飲酒を断られたLuiは, Kassenの試合が全くない真夏と真冬にFighterがどのような仕事をしているのか興味を持ち, Keikoに尋ねてみた. 

“そうですね.  社会福祉活動とか, いろいろあります.  献血を呼びかけたり, 自分も献血したり, 幼稚園に行ったり, 早朝に清掃活動したり, 私は無理ですけど, 頭のいい人は, 学校とか, えっと…, 更生施設とかに行って自分の経験談を話したりとか…  でも今年は少し違います.  結構, 勉強してます.”

“勉強?”

“はい.  警備員の資格を取るための勉強です.  まずは2級を目指しますけど, 2級だと使える武器が限られてるんで, 絶対, 1級取りたいんですけど, 1級の筆記試験はバカでは通らないそうで, そんなことされたらすごく困るんです.  今の私の最大の悩みです.  それで今, Castle GuardiansっていうCastle Officeの関係団体があるんですけど, そこが無料で開催している講習会に通ってるんです.”

Keikoは, 自分のがんばりをLuiが褒めてくれると思いきや, 彼は渋い顔をしていた. 

“そうですか…  Keikoさんも, 敵の迎撃に参加したいのですね?”

“もちろんです.”

Keikoは目を見開いて言い切った.  彼女にとっては至極当然のことで, Luiが残念そうに話す意図が分からなかったが, Captain Soaから, 自分の意図を他人が理解していないようであれば丁寧な説明を心がけるよう普段から言われていたため, “だって, Kasgaさんが, やつらは再び攻撃してくるから, 団結せよとおっしゃいましたし, 敵前に立ち一歩も引かぬと誓って, 髪を切ってみんなと一緒にいるって約束して, ともにKassenの火を守ろうとおっしゃって, 私たちも, ウォーッて叫んで答えたわけですから, 当然じゃないですか.”と, Kasgaの演説を部分的に引用しながら補足した. 

飲み物と前菜が来たため, まずは笑顔で再会を祝して乾杯したうえで, Luiはニコニコしながらも, “Keikoさんのまっすぐなお気持ちは分かりますが, そもそもそういうことができる条例はまだ成立していませんが…”と慎重な姿勢を示した.

“そうですけど, 成立しないなんてあり得ないと思います.  今日, ちょうど投票日ですけど, みんな, 賛成すると思います.  私のようなバカでもそれぐらい分かります.  だって, またあいつら, あんなクソしょうもないこと言ってきたやないですか.  あいつらが襲ってくるまで, あと100日もないんですよ.”

Keikoが“あいつら”と言い捨てたHanasaka市民解放戦線と名乗る正体不明のグループが, 8月1日に“クソしょうもない”声明を再び出したのだ. 

“自由と民主主義を信奉する皆様

残念ながら, 偽善と欺まんにまみれた偏狭な思想を妄信するやつらの本性がますますあらわになった今, 我々は計画を急ぐことにした.  今日8月1日から100日以内にKasga Wisteriaとその城を葬り去る. 

Hanasaka市民解放戦線”

8月1日から数えて100日目は11月9日であり, この日はCastle OfficeがGrand Prixを開催する予定の日でもある.  この日を襲撃の期限として設定したということは, 多くの人たちが楽しみにしているその日に, 城の破壊とKasgaの殺害という全く受け入れがたい悪事を実行する可能性をにじませているといえ, そうした予告をしてくること自体, Hanasaka市民とKassen communityに強い嫌悪感を呼び起こし, そんな悪党どもをなんとか消し去りたいとHanasaka側の団結力を高めることとなった. 

従ってそうした雰囲気の中での条例の不成立は考えられないというKeikoの認識は, Luiとしても合理的に思えたため, “でも, じゃあ仮に成立するとしても, 敵は重装備で攻めてくる可能性もありますから, 心配です.  やはり警察に任せて, Fighterの皆さんは, もちろん普段は警備をなさっていても構いませんが, もし敵が攻めてきたら安全な場所に移っていただきたいと思います.  市民を守るのは我々の責務ですから.”と, 警察官として典型的なまじめな見解を示した. 

その点にKeikoも全く異存はないため, “ありがとうございます.”と礼を述べたうえで, “私たちもがんばります.”と元気よく答えた. 

Scene 2.13.2:

この会話をmech-roachで傍受していたMoglaとLemolainは, KeikoとLuiの会話がまるでかみ合っておらず思わず苦笑した. 

“LuiさんはHanasaka市民じゃないし, 生粋のHanafolkの感覚がまだ分かっていないようですね.”

Hanasakaに来て3年が過ぎ, 市民権も持つLemolainは, 鼻先を少し上に向けて少し肩をすくめた.  彼女から見れば, Luiは旧来の社会の警察から偵察目的で来た古臭い人間にすぎず, 時代遅れの思考回路のままでそう簡単にHanasakaのことが分かるはずはないと思っていた. 

“Luiは若いのに, アンシャン・レジームの思想が濃い.”

この時代においても, 軍隊は外敵から, 警察は犯罪組織から市民を守るための組織であるのは変わらないが, 守られる側の市民の意識が変わってきていた.  例えばサイバー空間では, 軍隊や警察より腕のいいハッカーはいくらでも存在し, 善良なハッカーは民間人として普段から市民たちをサイバー攻撃から守っているため, サイバー空間では市民を守るのは軍隊と警察だけだと思われていない. 

また, Experimental CityであるHanasakaは, 実験の理念に共感し日々実践することを誓約した人たちからなるコミュニティであり, そのコミュニティの安全を守るのは理念を共有しているみんなであって, 一部の人に押し付けて良いものではないと考えられていた. 

Universal Basic Incomeが導入され, 生計を立てるために労働する必要がなくなったのと引き換えに, 可能な範囲での社会貢献が求められているHanasaka市民は, 自分たちの‘Philosophy’を守り, 実験を推進するために, 武装して戦うことが必要であるなら, 軍隊がいようが警察がいようが, 自分たちもそれに参画するのは社会貢献そのものだし, それができて当然だと考える人も少なくなかった. 

ただ, 従来の国家観に基づく旧体制こそが正しいと思う者からすれば, そうした社会貢献は, 聞こえはいいが身勝手で危険に思えた.  各自が独自の価値観で, “Enhancers”で強化した人体で社会のためと称して武力を行使するようになれば社会は混乱し無秩序になり, 戦乱に明け暮れた, 数百年前のような世界に逆行してしまうと恐れた.  それに, 職業としてついているわけではないとすると, 飽きたら簡単にその場を放棄するおそれがあり, かえって迷惑だと主張した. 

他方, Experimental Citiesの市民は, オープンで透明性の高い組織を作れる今とそうした時代はあまりに違うと反論し, 民間人は危険な活動に参画するとしてもあくまでバックアップ的な作業が基本であり, またプロではないからといって無責任な行動をとるとは限らないと説いた.  特にHanasakaのようなExperimental Citiesでは, 銃器や刀剣類を扱う者は警察官であっても誰であっても, 使用中は生体情報を見られ続け, 強度の管理下に置かれることを承諾している必要があるため, 過度の心配は不要と主張した. 

“ところでKeikoさんは, Kassen Liberty Leagueのように, Enhancersを本格的に導入したバトルに自分も参加したいと思いますか?  それとも, Fighterを機械化しておもちゃのように戦わすようなことには反対ですか?”

Luiは少し角度を変えて, やや誘導的な質問をしてみた. 

“自分にもできることやったら, やりますよ.”

Keikoの回答は拍子抜けするほど簡単だった. 

“でも, 武装が強化されるほど, ぶつかり合ったときの衝撃は強くなりますし, 血も出るし, 骨も折れるし, いくら観客が喜んだとしても, 古代ローマのグラディエイターのように命を落とすかもしれません.  それは明らかにHanasakaの‘Philosophy’に反しますよね.  私は, そういうのにKeikoさんが巻き込まれるのは嫌です.”

食事中にそういう血生臭い話をされると, Keikoは, 自分が手にしていたグラスに入ったぶどうジュースが血液に見えてきたが, そのおいしさには勝てず, ゴクッと飲んだうえで, “Luiさん, 心配いただくのはありがたいですけど, 考えすぎですよ.  Hanasakaでそんな殺し合いなんてするはずないじゃないですか.”と言って笑顔を見せた. 

“何事も節度を守る.  Hanasakaではそれが基本ですよね.  せやから安心できるわけじゃないですか.”

Hanasaka歴がより長いKeikoが先輩面をして, 基本中の基本を軽く教示した. 

“おっしゃるとおりです.  でも, 城に攻めてくるようなやつらは節度とか守らないですよね.”

“そうでしょうね.  だからワルモンには本気で戦いますよ.  警察の皆さんに, 頼りないやつやと思われたくないんで.”

“銃とか爆弾とか持って, Enhancersで強化して攻めてきてもですか?”

Luiは太い眉毛を釣り上げてさらに迫った. 

“そうですよね…”

Keikoは眉をひそめて少し考え込んだ. 

“やっぱり私もなんとか1級に合格して, ‘限定武装’で戦えるようにがんばります.  警察の皆さんほどのことはできませんけど, とことんやつらを困らせて, Luiさんや皆さんのお役に立ちたいです.”

彼女の言う“限定武装”とは, 改正される条例で定義された用語で, 1級警備員が使用可能な, 槍, 刀, 弓矢を含む刀剣類と, 致死性の低い銃器, 例えば, テーザー銃を含むスタンガンやビーンバッグ弾を装填したショットガンなどを意味する. 

そうした武器で敵の迎撃に参加することを当然の前提とするKeikoとLuiとは, やはり会話がかみ合っていなかった.  警察官であるLuiとしては, 犯罪者と本気で戦ったことがないFighterたちが独自の哲学に基づく使命感に目覚めて自らも凶悪犯に立ち向かうなど迷惑なことで, 致死性のある武器で襲ってくる犯罪集団をなめてほしくなく, 今までどおりスポーツ・イベントのプレイヤーとしておとなしくその枠内で本分を全うしてほしいのだ. 

特にKeikoとは以前からの知り合いであり, 彼自身としては裏心なく心配し, なんとか彼女の考えを改めさせたいのだが, 取っ掛かりすらつかめなかった.  逆に彼女を励ましただけで, さっきから上機嫌でむしゃむしゃOkayamaの自然の恵みをワイルドに食べているのであった. 

それぞれが注文したパスタが盛られた, 赤茶色のBizen-wareの皿が出てきたところで, Keikoは, Luiが頼んだものもちょっと食べたいから一部を分けてもらえないかと提案し, 彼女が頼んだパスタをそばにあった取り皿に3分の1ほど移してそれをLuiに渡し, 他方, Luiは自分のパスタの半分くらいを取り皿に移してそれをKeikoに渡した. 

交換の結果, 自分のほうが量が多くなったため, Keikoは照れ笑いをしながらも, “そんなに盛っていただかなくてもいいって言おうかなって思いましたけど, おなかすいてるんで, いただいていいですか?”と食欲を隠さなかった. 

“もちろん.  Fighterにとって, たくさん食べることも大事な仕事でしょうから.”

Keikoは, あまりお行儀にはこだわらず, さっさと平らげた. 

“そういえば, Luiさんって弟さん, いましたよね?  Castle OfficeでEquipmentの検査,してません?”

急に話題を変えられたLuiは, “えぇ, まぁ.”とだけぼそっと答えた. 

“やっぱり!  何回か見てるんですけど, 似てるなぁって思ってたんです.”

Keikoは目を見開いてLuiの顔をじっと見据えた. 

“異母兄弟なんですけど似てますかね…”

“えっ, 似てたら嫌なんですか?”

“いや, そうじゃないですけど.”

Keikoは, いまひとつ話に乗ってこないなと思いつつ, “でも, なんで, EISにいるんですか?”と聞いてみた. 

“さぁ…  やつもKassenが大好きですからね.  不思議なやつです.  就職先はCastle Officeしかないって決めていましたから.”

“そうなんですか.  いや, その…, EISの人って, どんな人がなるんやろうって思ったんで…”

Keikoの質問に対してLuiは少し考えたうえで, “そうですね.  基本的にEquipmentのinspectorはまじめで優秀な人間が選ばれます.”と答えた. 

“まず, 地味な仕事ですが確実にやる必要があります.  Equipmentが正しく扱われて正しく動くことはKassenがスポーツとして成り立つ一番肝心なことですので, Castle Officeは, Equipmentの信頼性を確保するのにかなり厳格に運用していますよね.  正直, あそこまで厳しくしなくてもいいんじゃないかって思いますけど…”

“いえ, 大事なお仕事やと思います.  電車が毎日走れんのは, 線路がちゃんと整備されてるからですよね.  それと同じようなことかなって思いますけど.”

“おっしゃるとおり!”

Luiは, Keikoが彼女なりにちゃんと本質を理解していると分かりうれしくなった.  話が全く通じない人ではないのだ. 

“でも, 彼らの仕事は, 残念ながら, 自分の成果をアピールするような場面はありません.  できていて当たり前ですから.  それに業務上の理由で行動も制限されますし, まあ, 窮屈な環境で生きてますよね.  だから, まあ, 忍耐力というか, 何でしょうね, 自分なりの信念みたいなものを持っている人じゃないとできないだろうと思います.  EISに入るのを希望する人は少ないそうですが, 希望しても簡単には入れないそうです.”

“そうですか…”

Keikoは, ナイフとフォークの動きをぴたっと止めて少し考え込んだ.  おいしいのかまずいのか分からない珍味を口に入れたときのような顔をしていたが, やがて, “そうですよね…  すばらしいと思います…”とやや小さな声で言って, 自分なりにとりあえず納得したようだった. 

次に, Okayama名物のサワラをムニエルにし, Okayama産のトマトなどの野菜を添えた料理が来て, Keikoは再び食欲を前面に出して食べ始めた.  Keikoは, 四足動物や鳥類の肉は市外にいても食べないが, 魚介類は時々まだ食べていた. 

“そういえばお兄さんはお元気ですか?”

今度はLuiが話題を変えた.  この点はLuiとして, 彼女に会ったら確認しておきたかったからだ. 

“ええ, まぁ.  皆さんのおかげで, お店のほうもそこそこ繁盛してるようです.  Luiさんにはいろいろお世話になって, ほんまに感謝してます.”

Keikoの兄Kageroは, “Sapphire Shark”と呼ばれて恐れられていたFighterだったが, 4年前の5 E.E.にGarnet EastのCaptain Donとの戦いで, Donの乗るmech-horseに踏まれ蹴られ両足が不随となる大けがをしてしまった.  あれはわざとやったのではないかという疑念をいまだにささやく人もいるが, 公式には不慮の事故であった. (その後, Kassenで使うmech-horseの走行時の最高速度は落とされ, 安全配慮機能も強化されているため, 同じような事故は起きにくくなっていた.)

KageroがFighterを引退した後, 彼は以前から興味があったEquipmentの装飾をやりたいと思い, Equipmentのworkshopの“Nemophila”に就職した.  そして彼自身としては思ってもみなかったが, ちょうどそのときの店のマスターが高齢のため引退したいと思っていたことから, 無責任にもいきなり店のマスターとして経営するようKageroに押しつけた. 

突然, マスターの座を譲られ不安に思っていたところ, Kageroの妻のSawaeの大学時代の先輩にあたるLuiが, Sawaeの依頼を受け, 店の経営に必要な法律や経理などに関するアドバイスをするようになった.  その後, Nemophilaを法人化したときも, Luiは設立にあたって必要な行政上の手続きを手伝った. 

そうしたことからKageroとLuiのつき合いは続いており, KeikoもLuiとは面識があった.  しかし今回のように, 2人きりでこうした形で会うのは初めてであった. 

“そうですか.  お店が順調そうでよかったです.  Hanasakaに赴任してきたものの, いろんな国のExperi-Cityの警察と交流して来いと言われて, ほとんどHanasakaにいなくて, Kagero社長に会いに行く機会がなかったのですが, 近いうちに必ず寄らせていただこうと思っています.  それでお体のほうは, 大丈夫なんですかね?”

Keikoは, “ぼちぼちです.”とだけ答えて, テーブルの真ん中辺りに置かれた, 3種類ほどのパンが入っているかごからロール状のぶどうパンを1つ手で取ってガブリと噛みつき, 口いっぱいにしてもぐもぐ食べ始めた. 

しかしLuiはその答えで十分理解した.  やはりあの衝撃的な事故を精神的に乗り越え, なおかつその後の肉体的な障害を受け入れることは, Sapphire Sharkのような強者であっても, あるいは強者であるからこそ難しいということなのだと察し, 思わずため息をつきそうになった. 

“まあ, ぼちぼちなら良しとしないといけないですね.”

Luiは, 赤ワインの入ったグラスを傾け, 少しうつむき加減で, その液体のよどみ具合を観察した. 

Scene 2.13.3:

“あぁ, あとそれから大事なことが…”

Luiは, 人差し指を立てて, おもむろにポケットから灰色の指輪ケースを取り出した. 

“お誕生日は来月だと分かっていますが, プレゼントです.  受け取っていただけますか?”

Keikoはきょとんとして, “私にですか?”と, 分かりきったことを聞いた.  Luiがもちろんと言うと, Keikoは, そんな高価なものをいただくわけにはいかないと, ケースの中も見ていないのに断ろうとしたため, Luiは, 中を見てから決めても良いのではないかと提案し, テーブルの上の彼女の左手のそばに置いた. 

Keikoがケースをそっと開けると, ブルーサファイアの指輪が入っていた.  思わず彼女は, “めっちゃきれい!”と, 感嘆の声を上げた.  そしてやっぱりほしくなったのか, “ありがとうございます.  大切にします.”と言って受け取り, 左手の中指にはめてみた.  サイズもぴったりだった. 

Luiも, 彼女に受け取ってもらって, しかも無事に指にはまりほっとした.  もちろん, Sapphire Cometぐらいの大物へのプレゼントとなると, 彼としては張り込んだつもりではあったが, 彼女がもっと高価な指輪をスポンサーの企業やお金持ちのファンからもらっていることは十分に考えられるし, 家に帰った後, それらの指輪と比べてみて, 自分が贈ったほうはほかの誰かに譲り渡されるかもしれない. 

しかしそれでも, まずは受け取ってもらったことで今回のミッションはとりあえず達成したと考えるべきだった. 

彼は, Keiko Sacraに指輪を渡したくなるほどの熱烈なファンだったとは言い切れなかった.  Kassen communityに大きな影響力を持ち, Hanasakaの精神的支柱であるKasgaにかわいがられているKeikoから“いい人”だと思われる人物であったほうがHanasakaで内偵活動をおこなううえで都合が良いとも考えていたからだ. 

そして彼女に正しい思想を植え付けて, この都市の常識に懐疑的になってもらい, Kassen communityやKasgaにもその影響を及ぼしてほしいと考え, なんとか彼女のハートに接近しようとしていたのだ.

“あの…, 結構高価なもんやと思いますんで, 一応, clubには報告させてもらいます.”

Castle Officeが定めている, clubやFighterの行動に関する規則では, Fighterが家族や親族以外の者から1000XC以上 (価格がはっきりしない場合は, Fighter自身が1000XC以上の価値があると考えられるものも含む.) の金銭, 物品, もしくはサービスを, 無償または著しく安い価格で提供された場合, clubに報告しなければならないことになっていた. 

これは, “Fighterはすべての市民のために奉仕する”という考えに基づくもので, 特定の個人や組織との過度のつながりを牽制し, また反社会的勢力に引き込まれることを防ぐ意味もあった.  実際には, きちんと報告していないFighterもいるが, Keikoはまじめな性格であるため, そうしたルールの趣旨を理解して守っていた. 

Luiは了解しつつも, 値段も報告しなければならないのか心配になり, その点を聞いた. 

“いえ, そんな, おいくらでしたかなんて聞けませんから.”

それを聞いてLuiはほっとして胸をなでおろし, “まぁでも, 私の給料ではそんなに高いものは残念ながら買えないんで, ほどほどの値段です.”と謙遜した. 

もっとも, Keikoが指輪の値段でその贈り主の人間的価値を判断するような人間ではないことはLuiとしても分かっていた.  そのため, “Keikoさんは, 今までにもらったプレゼントで何か印象に残るようなものはありますか?  私が今お渡ししたものはとりあえず置いといてですが.”と尋ねてみた. 

“そうですね…”

Keikoは3秒ほど考えた後, “おととしの誕生日にMeiちゃんからもらったんですけど, 1枚の色紙をくれました.”と答えた. 

その時点で, Luiは直感的にさすがだなと感心した. 

“Meiちゃんが自分で筆で書いてたんですけど, 自分は1本の道を貫くだけっていう, 中国の昔の人の言葉が漢字で書かれてました.”

“‘孔子’の‘論語’ですかね?”

“さすがLuiさん!  そうだったと思います.  私は全然知りませんでしたけど…  あ, もちろん, その人の名前ぐらいは知ってましたけど…”

Keikoは, 自分が常識知らずだと思われないよう慌てて繕った. 

そして, 証拠写真を自分のAR viewの中で引っ張り出してきて, それを空中で人差し指で触ってLuiのほうに投げ, 彼のAR viewにも共有した. 

色紙には6つの漢字が横に書かれてあり, さらに“Moto natives”のKeikoに分かりやすいように, その下にアルファベットで“Waga michi wa itsu motte kore wo tsuranuku.”と読み方を記した文が添えられていた.  これは, “論語”の第4編である“里仁第四”と呼ばれる部分からの一文である. 

“一本の道をまっすぐ行くってなかなか難しいと思いますけど, Spear Fighterの私にとっては, めっちゃいい言葉やなって感動しました.”

“確かにKeikoさんにぴったりの言葉ですね.  Chammeiさんもうまく的を射てますね.  ちなみにその言葉の後に続く, ‘孔子’自身の道はご存じですか?”

“はい.  Meiちゃんが, それは, 真心をもって他人を思いやることやって教えてくれました.  まぁ私がLuiさんみたいな頭のいい人に説明しても仕方ないんですけど, ええこと言う人やなぁって思いました.  でも, あの時から, Meiちゃんのこと, ほんまに大事な友達やなって思ったんです.  それまでは, めっちゃかわいくて頭のいい子と友達になれて良かったなって思ってたぐらいやったと思うんですけど, その…, Fighterとしては私のほうが先輩なんですけど, Meiちゃんは世の中のいろんなこととか, 偉い人の言葉とか知ってるし, 私にそうやって教えてくれるから, なんか…, なんて言うたらええんか…, すてきな子なんです.”

“そうなんですね.  いいお話じゃないですか.  じゃあ, その色紙も1000XC以上の価値がありますね.”

Luiにそう指摘されてKeikoは, “そうですね!  でも報告するの忘れてました.”と言って笑った. 

“せやけど, Luiさんからきれいな指輪いただいて, ほんまにうれしいです.  私, こういう深い青色, 好きです.  なんか見てるだけで心が落ち着いてきます.  試合中も, いつも落ち着いて戦おうとしてるんですけど…, やっぱり難しいですね.”

“いやぁ, 今回のSpring Games, もちろん見てましたけど, 本当に見事でしたね.  AbilioさんやChammeiさんとの対戦も落ち着いてましたよね.  まるで負ける気がしませんでした.  いや, あ, 失礼.  もちろんKeikoさんを応援してますけど.”

Keikoは, ペコリと頭を下げた. 

“私もFighterになって5年以上経ちましたんで, 全体のことがだいぶん分かってきたんですけど, やっぱり, なんて言うたらええんか…, 勝とうと意識したらあかんって思います.  負けないようにすることが大事です.  負けないようにするには, 嫌なやつやと思われるかもしれませんけど, どうやったら相手に負けてもらうかを考えたりしてるんです.  せやから, Luiさんは優しいからいろいろ心配してくれてるみたいですけど, 大丈夫ですよ.  ワルモンには負けてもらいますから.”

Keikoはサファイアの指輪を見ながら話した.  それに対しLuiは何も言えなかった.  感服して何と言えば良いのか言葉が見つからなかったのだ.  勝負事に臨むにあたって勝つことを意識せず, そしてHanasakaが負けることなど想像すらしていないとは, 目の前の女性はただものではない. 

そう気づくや否や彼女との距離がぐっと広がったかのように感じた.  さっきまで彼女をなんとか冷静にさせて, 戦うことをあきらめてもらおうとしていこと自体, 全く無駄な努力であることが分かった.  どちらかというと冷静なのは彼女のほうなのだ.  最初から何もぶれていないのだ. 

Scene 2.13.4:

Cyber Patrol Sectionの一員であるMoglaとLemolainは, サイバー空間上で犯罪者から市民を守るために日々戦っており, だからこそ“どうやったら相手に負けてもらうか”というKeikoの言葉には共感でき, うれしくなった. 

彼らとしても, “相手に負けてもらう”ために一連の対策を実施していた. 

例えば, Kasgaが演説をした7月8日の翌日, HanasakaのPolice Departmentは隣国“Moto”の警察機関と連携して, 5月11日にHarukiとともに逮捕された, 作業所の所有者とつながっていた凶悪な犯罪集団の“Vaminas”の幹部1人とその手下2人を覚せい剤の密輸に関わった容疑で, Tokyoで逮捕した. 

この犯罪組織は以前から, Rusty-believersの思想を持つ国内外の富豪からの依頼を受けて, その過激派に対して武器を供与していると考えられており, Motoの警察機関が, Hanasakaでの決起集会の翌日というタイミングで, その幹部らをしょっ引くことで, 当面の間, 余計な関与をするなという強い牽制を, 当該組織および彼らとつながりのある他の組織に及ぼすことになった. 

また, HanasakaとMotoの警察機関にとっては予期せぬ幸運も訪れた.  2回目の犯行声明が出された8月1日の翌日に, Motoを中心に活動する宗教団体“Awakeners”で実に奇妙な事件が起こった. 

この団体は, いくつかの国の神話を捻じ曲げて織り交ぜ, 独自の神を崇めていたが, ガチガチのRusty-believersの集まりでもあり, Hanasakaを“サタンの都”とののしっていたため, 今回の犯行声明を出したのもこの集団ではないかと多くの人が疑っていた. 

その政治的思想を持つ宗教団体の創設者が深夜, Tokyoの中心部にある高層マンションの35階のバルコニーから飛び下りて死亡したのだ. 

信者たちの断片的な証言を総合すると, この教祖は数日前, 外出中に突然, 首の後ろに何かが撃ち込まれた衝撃とハチか何かに刺された時のような痛みを覚え, その周辺が腫れ上がった.  そして翌日から, なぜかテントウムシのように高いところに上りたいという強烈な欲求を抑えきれなくなったそうである. 

そしてその不可解な衝動に基づいてその夜, 高層マンションに住む, 愛人といううわさもある知人の部屋を訪れ, 中に入るや窓に向かって突っ切りバルコニーに出て, 柵の上に足をかけて立ち, 両腕を広げて空を飛ぼうとしているかのような恰好をして, 空中に飛び出したとのことである. 

この教祖の怪死は教団内を激しく動揺させた.  “最高覚醒者様”と教団内で呼ばれている絶対的な存在である教祖の死について, 教団の上層部は信徒たちに, 彼は神の意思に基づいて, 堕落した人類の罪を背負って自ら命を投げられたのだと説明したが, 説明している当人たちは, 教団内でできていた複数の派閥の権力争いが下地になって, 教団内部の誰が彼を闇に葬ったのかと疑心暗鬼に陥っていた. 

こうなってくるとAwakenersとしては, サタンの都をつぶすどころではなくなり, 教祖が突然いなくなったことに伴う自組織の立て直しを図ることが最優先となった. 

これはHanasaka側にとってはありがたいことだった.  何者による画策なのかは分からないが, 潜在的な敵が, 即座に回復し得ないほどの傷を負ってくれたからである. 

Police Departmentは, こうした状況を作りながら, あるいは利用しながら, Hanasaka市民解放戦線のメンバーをまだ特定できてはいなかったものの, 彼らに同調しそうな周辺の組織を麻痺させることで, 彼らがそうした組織の支援を受けにくくして間接的に締め上げていった. 

また, 彼らがそれでももがこうとすればその形跡をキャッチできるように, 周りの犯罪組織の動きをじっと観察し, 何か未知の動きをした者がいれば, それを監視し, 解放戦線に結びつきそうな手がかりを探った. 

メイン・ディッシュが終わってあとはデザートのみになったものの, まだ満腹とは言えないKeikoがおかわりでパンを注文し, そのパンが入ったバスケットがテーブルに置かれ, そこに彼女が右手を少し伸ばそうとした時, その手がデザート用のスプーンに触れて, スプーンが床に落ちてしまった. 

それをKeikoが自分で拾おうとしたのでLuiが, “店員に拾ってもらいましょう.”と伝えたが, Keikoは, “いえ, 自分が落としたのに店員さんに拾わせるのは申し訳ないんで自分で拾います.”と言って, いすから腰を少し浮かして右に移動して若干かがんでスプーンを手に取った. 

その時, 前方に見えた観葉植物の幹の下のほうにキラッと光るものを彼女は見逃さなかった. 

“ちなみに私, Spear Fighterなんで, 槍投げも得意なんですよね.”

突然何を言い出すのかとLuiがいぶかっていると, Keikoはかがんだままで, 持っていたスプーンを素早く前方に投げた.  スプーンは見事に何かに当たった.  観葉植物の幹の下には気絶したゴキブリが横たわっていた. 

“これは, mech-roach!”

焦げ茶色の物体を見たLuiは, 自分がマークされ, 今日の会話を傍受されていたことを知った. 

“うちのCaptainが, 最近は本物じゃないゴキブリもいるから, 見つけ次第, 退治したほうがいいって言うてたんで, やっつけときました.”

Keikoは得意げにLuiに作業完了の報告をした. 

傍受がバレてしまったMoglaとLemolainは, 残り4機の仲間たちを直ちに任務から解き, 回収せずにすぐにその場を去った. 

“バレてしまいましたね.  どうしますか, Moglaさん.”

Lemolainは心配そうに, 助手席にいるMoglaの顔をチラ見した.  Moglaは, “いやぁ, さすがはKeikoさん.  見事でしたね.”と言って, 余裕の表情で笑い出した. 

“まあ, 予想外でしたけど, Lemolainさん, ご心配なく.  Luiは, 身内にマークされていたと分かって, これからは行動を自重するでしょうから, それだけでも効果はあります.  おそらく彼は, 誰がこの傍受をしたのか詮索したりはしないでしょう.  そんなことをすれば跡がついてしまって, さらに深みにはまると考えて, じっとしておこうと考えると思います.  まあ, PDの中も, 今の市長に疎まれて閑職についている前市長時代の実力者たちが息を吹き返しつつありますから大丈夫でしょう.”

“そうであれば, いいですけど…  でも結局, 彼は, 秘密情報を漏洩しませんでしたね.”

LuiがKeikoのファンであることを知っていたMoglaとLemolainは, そのKeikoが次の敵襲に備えて警備員になるつもりであることを知り, そしてLuiもそのことを知って彼女がその襲撃に巻き込まれることを避けるために直接会って説得を試みるだろうと考えた. 

そしてその時に彼は, 説得の材料として, 警察内の限られた関係者しか知らない敵の武装のレベルを彼女に伝えるかもしれないと予想し, その証拠を押さえて, Lui自身のみならず, 彼と接点を持つ, “Pro-Mayor Faction”の連中を揺さぶろうとしていたのであった. 

“まあ, 想定どおりにはいきませんでしたね.  Keikoさんが全くぶれませんでしたから, Luiもあきらめてしまいましたね.  でも…, 彼女の芯の強さが改めて分かりましたね.  それも収穫じゃないですか?”

LemolainはMoglaが何を言おうとしているか理解し, “はい, 私もそう思います.”と答えた. 

“KasgaさんやCastle Officeの上層部がKeikoさんに絶大な信頼を置く理由が分かったような気がします.  彼女は…, やっぱりすてきです.  悪者には当然負けてもらう.  その信念を全くぶれずに貫いて, まるで地球が丸いのを疑わないのと同じように疑問の余地がない真実と考えてますよね.  そして不思議なことに, 周りの人たちも彼女の話を聞いているうちにそうだと同感してしまう.  こんな人は初めてです…”

KassenマニアのMoglaとしては, LemolainがKeikoの魅力を完璧に理解してくれたことがうれしく満面の笑みを見せた. 

“今日はとても良い日でした.  普通の警察官にすぎない私にとっては, Keikoさんは手が届かない存在ですが, いつか一緒に悪者と戦えたらいいなと思います.”

Lemolainは, 今日, すなわち8月4日を特別な日として自らの記憶に刻印した.

“そうですか.  Keikoさんと一緒に仕事をする時はきっと来ますよ.  そうしたらその時さらに彼女のすばらしさが分かると思います.  彼女はいろんな意味で天才ですから.”

Note: Regarding the message written on the autograph card Chammei gave to Keiko

The six Kanji written on the autograph card that Chammei gave to Keiko were “吾道一以之貫.”

The sentence “吾道一以之貫”, which is a passage from “Chapter 4: Living in a Good Neighborhood/里仁第四” in the Analects, is read as “吾が道は一以って之を貫く” (Wagamichi wa Itsu Motte Kore wo Tsuranuku.) in Japanese.

The following sentence “夫子之道, 忠恕而已矣” is read as “夫子 (ふうし) の道は忠恕 (ちゅうじょ) のみ” (Huushi no Michi wa Chuujo Nomi.) in Japanese.

“吾道一以之貫” roughly translates to “My way is all along one thread.” in English, and “夫子之道, 忠恕而已矣” translates to “The Master’s way is simply to show consideration to others.” However, there are various translations, so if you are interested, please look into them.


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