Part 2: The Ninth Summer
Chapter 2.11: The Start of the Revenge
Overview (Spoiler-Free)
Kasga returns to Hanasaka and issues a call to assembly for all Fighters — including those from Alliance clubs across the country Moto. On July 8th, a historic gathering fills Hanasaka Arena. The chapter traces Kasga’s relationship with her older sister Haruna, the first Unifier, and builds to an extraordinary speech and ceremony in which Kasga publicly declares her resolve — and transforms the grief and fear of the Kassen community into something entirely different.
Detailed Summary
Returning to Hanasaka on July 4th, Kasga issues a formal summons to all four Hanasaka clubs and, for the first time, all sixteen Alliance clubs — calling every Fighter to assemble at the Arena on July 8th. Over 360 Fighters and 20,000 spectators gather. A flashback reveals that Kasga's older sister Haruna was the first Unifier, a woman of legendary presence who passed the role to Kasga before her death, offering quiet encouragement. The ceremony opens and Kasga then delivers a landmark speech: she openly acknowledges her breakdown, credits "a Fighter" — widely understood to be Keiko — with restoring her resolve, and vows not to abandon her role as Unifier. She reframes Hanasaka's idealism as strength rather than naivety, warns that the enemy's true aim is to provoke retaliatory violence, and urges the community to respond with dignity. She closes by cutting her own hair with a dagger as a public vow, then leads all Fighters in a thunderous battle cry. Director Prisha watches in tears, reflecting that the speech has sharply raised Flora's Combined Combat Power, and silently promises the late Haruna that this time, they will not fail to protect her sister.Scene 2.11.1:
“July 4, 9 E.E.
Club Managers,
7月8日10時, 全Fighterを率いてArenaに参集せよ. 決起集会をおこなう.
May blessings be upon you all and Hanasaka.
Kasga Wisteria, the Unifier”
ついに出た. やっと出た. とうとう出た.
息苦しくなる空気に支配され, 鉛色の暗い気持ちをなんとか払拭させたいHanasakaの人たちにとって, またこの先Kassenはどうなるのか不安で仕方ないKassen関係者やファンにとって, 待ちに待ったKasgaのメッセージがようやく出されたのだ.
彼女がFighter Keikoの喝を受けて復活しHanasaka Cityに戻った7月4日, Castle Officeは12時49分に, Kasgaの名で市内の4つのclubに参集を命じる文書を送付し, 同時にそれを掲示板で公開した.
そしてCastle Officeは今回初めて, 市外に16あるAlliance clubにもKasgaの名で書簡を出した.
“July 4, 9 E.E.
All Alliance Club Managers,
私たちと一緒にKassenを盛り上げている皆様, こんにちは.
私たちの城のKeepが先日燃やされたことに関し, 私たちの意思を明確に示すために7月8日に決起集会をおこないます. 皆様ももしご都合がよろしければ, 午前10時, Hanasaka Arenaにお集まりください. Kassenの仲間として心より歓迎申し上げます.
May blessings be upon you all and your hometowns.
Kasga Wisteria, the Unifier”
これを受け取ったAlliance clubで, 都合が悪いから行かないと表明するところは1つもない. そんなことを言えば, 末代までの笑い者にされるのは明らかだからだ. それに各clubとしては, これは自らの存在と城下町を全世界にアピールできる絶好の機会といえた. さらに言えば, Kassen communityの麗しきUnifierや各clubのスターFighterたちに生で会えるわけで, これはぜひ行きたい.
しかし後にCastle Officeから来た事務連絡では, fieldに入るFighterの数は1 clubで10人までに絞るよう要請があったため, Hanasakaに誰を派遣するかで大もめになるのは必至であった.
補足: Kasgaのメッセージの非代替性について Castle OfficeがKasgaの名で出すデジタルの書簡はすべてブロックチェーン技術を使った“NFT” (非代替性トークン) が付けられている. それによって, そのデータは真正性を担保され, またそれだけで財産的価値がある.
7月8日, 小雨がぱらつく中, HanasakaのclubはKasgaの参集命令に応じて各々の拠点からHanasaka Arenaに向かっていた. また今回は, 市外にある16のAlliance clubにもKasgaの名で参陣の依頼書が出され, もちろんすべてのclubが今こそ我らの名を上げんと快諾し一番乗りを目指せとHanasakaに集まって来ていた.
それだけではない. 当然ながら, この日に決起集会がおこなわれることは全世界の人たちに瞬時に知れ渡っているため, 自分もFighterだと思って自作のKassenのOutfitsを着た者, 怪獣やパンダや異星人の着ぐるみを着た者, カーニバル風の肌を露出した者, 肌に様々なペインティングをした者, そのほか単にこうしたお祭り騒ぎに参加したい普通の人たちや, このスペシャル・イベントでいい絵を撮りたい報道関係者などが世界各国からHanasakaに押し寄せた.
みんな不安だった. 心の中に, あるいは都市の中にどんより滞留している気持ち悪い空気をなんとかしたいのだ.
その心情に突き動かされた5万を超える人たちがCastle Parkを目指そうとしていると, 市の交通管制システム“Vulcan”が計算し, その周辺は大規模な交通規制が敷かれた. Arenaの観戦席は5千人分しかないため, その10倍を超える人が来ても入れず, Park内の3か所に設定されている大型スクリーンで見るか, 配信された映像を自分のAR viewなどで見るしかない.
しかし一般的なHanasaka市民は, それだったらわざわざそこに集まるのはやめてほしいと思ってしまう. そもそも大多数の人が野外に集結したり集結させたりすることをHanasaka市民はあまり好きではなかった. ゴミが出るし, 植物が踏まれたり倒されたりすることもあり, 普段から街をきれいに保つことに神経を使っている市民としては気が気でないのだ.
そうした市民の声もあり警察は, Castle Parkの周囲に三重に封鎖ラインを設け, Parkの方向への人の移動を制限した. そうしてPark内の人の数を2万人に抑えることができたが, 何もしなければ5万もの人が押し寄せて, すし詰め状態になり, 新たな大事故が起きていたかもしれなかった.
こうした措置は, 群集管理のためだけではなく, 殺害予告を受けているKasgaの命を守るためでもあった. 彼女を殺そうとする者が入ってくるのも出ていくのも困難なようにしているのである. また, Arenaの中とその周辺では, アサルト・ライフルを手に持ち, 武装を強化した警察官が警戒に当たっていた.
10時, Hanasaka Arenaに開幕を告げるいつものファンファーレが鳴り響いた.
“皆様, 大変長らくお待たせいたしました. Kassen CommunityのUnifier, Kasga Wisteriaが入場します.”
場内放送が流れた瞬間, Arenaの観客はもちろん, 中に入れなかった多くの人たちが, 大型スクリーンの前であるいは各自のAR view上でそれを見て, “待ってました!”と, 拍手喝采した.
6騎の護衛を前後に3騎ずつ, “<” (less-than sign) と“>” (greater-than sign) の形で囲まれた, mech-horseに乗ったKasgaが, 北東側のコーナーからfieldに入ってきた.
護衛隊は全員, 白を基調に所々に黒と赤のストライプを入れたパトカーをモチーフにしたmech-horseに乗り, crestがない漆黒の丸いタイプのhelmetをかぶり, 黒を基調としたOutfitsを着けていた. そしてFighterたちと違って, 表面にうろこ状の切り込みを入れたタイプのtorso protectorを身にまとい, そのうろこ状のものに穴が開けられそこに紫色の太いひもが組み通され, 気品さと威圧感を醸し出していた. また彼らは背中に, Hanasaka Cityの紋章である“Four Heart Emblem”を描いたvertical flagを差していた.
彼らは, 開会式や閉会式などKasgaが武装をして登場するイベントでは, それに合わせてOutfitsを着ているが, 決してお飾りの存在ではなく, 市内のPolice DepartmentとEmergency Services Departmentに加え, 隣国“Moto”の防衛機関からも派遣された男女同数の者によって構成された, ボディーガードと応急手当てのプロである.
そしてKasgaは, 全身が金色と銀色の鱗をまとったような不思議なまばゆいmech-horseにまたがっていた.
彼女のOutfitsも黒を基調にした, 護衛隊のものと同じタイプであったが, torso protectorとskirtの表面に付けられた穴には赤紫のひもを主に組み通し, さらに金, 萌黄, 紺のひもも所々で通した, 色鮮やかなものであり, shoulder protectorの外側や, hip protectorの大腿部の前面には, Hanasaka Cityの象徴であるFour Heart Emblemの銀箔が蒸着され, 漆黒の桃型のhelmetには金色に輝くFour Heart Emblemのcrestが付けられていた.
それは, Fighterたちとは明らかに趣が異なる佳麗で手の込んだ装いであった. 全体的に, 抑制のきいたきらびやかさとかわいらしさのある, 女性のUnifierのために作られた, 戦うことを想定していない芸術作品のOutfitsといえ, その姿を見る者は思わず感嘆の声を出さずにはいられなかった.
Kasgaたち7騎は左に折れて, far-sideのside-line沿いに進み, Kasgaはmech-horseの上から左右に笑顔で手を振った. 左側にはArenaの東側スタンドを埋める満員の観客たち, 右側には市内の4つのclubと市外の16のAlliance clubのFighterたちがずらっと並び, 熱い歓声と拍手が送られた.
“やっぱり, いつもより人数が多いわね.”
左側の観客たちはいつもと同じであるが, 右側にいるfield上のFighterたちは, 通常の開会式では市内のclubに所属する200人余りであるところ, 今回はAlliance clubが加わっているため360人余りと2倍近くいるため, 彼女が自分のteamの列に近づいてきたときにFighterたちが一斉に発する鬨の声も明らかに大きかった. そして式典の時は, Fighterたちは自分のclubのvertical flagを背に差しているが, それが20種類もあると彩り豊かで美しさを感じる.
“みんな, 本当に来てくれたんだ.”
Kasgaはうれしさのあまり目頭が熱くなった.
Scene 2.11.2:
“本番はね, 左側は満員のお客さん, 右側は200人以上のFighterたちが並んでいて, みんな~, 元気~って感じで笑顔で手を振るの. あんまり激しく振るんじゃなくて, 優雅な感じでね.”
3年前の6 E.E.の4月, Spring Gamesの直前, 先代のUnifier, Haruna Laligurasと2代目になったばかりのKasga WisteriaがHanasaka Arenaで, 数日後に開かれる開会式の予行練習を一緒におこなっていた. Harunaは体調不良を理由に前年の12月にUnifierの役割をKasgaに譲っていたが, season gamesにUnifierとして登場するのはその年の春におこなわれた第11回目のseason gamesが初めてであった.
この日はHarunaの体調が比較的良かったことから, 彼女の希望で姉妹一緒にArenaを訪れていたが, それがこのArenaで2人が時間を共にする最後の日となった.
つばの広い麦わら帽子をかぶり, ピンク色のブラウスに白いデニムのパンツをはいたHarunaは, 久しぶりに妹に会えて一緒にお出かけができたせいか終始陽気だった.
美しさと優雅さを兼ね備えたHarunaは, 今後百年間これ以上は出てこないほどの美女と言われていたが, 病気で体重が落ちているとはいえまだまだ十分美しく, 彼女の笑顔も人々の心を温かくし, 誰も彼女に逆らえなくなる魔力を持っていた. Kasgaと比べてどちらがより美しいかは人の好みにもよるが, Harunaは身長が175センチありKasgaよりやや高く, 肩幅もあり, 声の高さもより低かった.
“どうしたの, Harumi? 浮かない顔ね.”
護衛用のmech-horseに乗って, Kasgaより少し先を進んでいたHarunaが速度を落として, 鱗があることから“Dragon Horse”と呼ばれているUnifier専用のmech-horseに乗った, ビジネスウェア姿のKasgaの左横に並んで声をかけた. 姉妹の間では, Harunaは妹のKasgaをHanasaka市民になる前の名前で呼んでいた.
“お姉ちゃんじゃなくて私がDragon Horseに乗っているのは, やっぱり違和感ある.”
Hanasaka Cityの歴史が始まると同時に始まったKassenにおいて, そのたぐいまれな美しさと存在感から, Haruna=Unifierというイメージが, 妹のKasgaを含め人々の心に強烈に刻み込まれていた.
彼女が長い黒髪を内側から手で優しく払う姿はまるで神話の世界の女性が竪琴を弾いているかのようだと言われ, 彼女が詩を朗読していると鳥や犬猫が寄ってきておとなしく聞いていたという伝説もある, そんな偉大すぎる先代と自分が比べられてしまうことに, Kasgaは強い不安を感じていた.
“Harumiが緊張しているのは分かるけど, でもHarumiは私のコピーじゃないんだし, そのうち自分らしさも出せるようになるわよ. 最初はぎこちなくてもいいし, みんなから, 新しいUnifierはなんだか頼りないなあと思われるぐらいでちょうどいいのよ. 神々しいオーラも要らない.”
“そうだといいけど, そんな頼りない人を見に, みんな, 来てくれるかな?”
Kasgaは, 開会式で自分が入場してくるときに観戦席ががら空きだったらどうしようと, 心配しても仕方ない心配をした.
“大丈夫. 私が保証する. Kasga Wisteriaは有名な歌手なんだし, それにHarumiは私の妹よ.”
“まあそうね…, お姉ちゃんの威光は使わせてもらうわ.”
“うん, Harumiなら問題ない. Harumiの笑顔と声は本当にすてきだから自信もって. それにHarumiはすてきな歌詞を作れるし, 話も上手だと思う. だから, ‘Philosophy’に従って, みんなに明るい未来をお話しすれば, きっとみんな新しいUnifierを受け入れてくれるわよ.”
“うん, 分かった. ありがとう. 私もHanasaka市民だから, Philosophyは理解してるし実践もするわよ.”
“ありがと. 良かった… まあ, 私は, HarumiがUnifierを引き受けてくれただけでうれしいの. 私はね, HarumiはきっとHanasakaの歴史を変える偉大なUnifierになると思っているの.”
Harunaは, 自分で歌詞を作って自分の声で歌うKasgaのほうこそ, Unifierとしての素質を持っていると信じていた.
“ちょっと~, 変なプレッシャーはやめてよね. やっぱり緊張するでしょ.”
Scene 2.11.3:
“お姉ちゃん. 私は間違っていないんだよね…”
Kasgaは, 同じ道をDragon Horseに乗って通った時の姉との会話を回想しながら, fieldの東側から南側に回り, Arenaの南側スタンドのほうにも手を振って, さらに西側に回り, near-sideのside-lineとcenter-lineとの交点の辺りに用意されている演壇のほうに進んでいった. FighterたちはKasgaのいる方向に少しずつ体の向きを変えて拍手や掛け声を送り続けた.
演壇のそばまで来るとKasgaはDragon Horseから下りて, 先にmech-horseから下りていた護衛の1人が彼女のDragon Horseを少し離れたところに引いていった.
演壇は高さが1メートル余り, 一辺が3メートルほどの正方形で, 普段は組み外されて地面の下にある倉庫に格納されている. 壇の南側に付けた3段のステップで彼女が壇上に登ると, Arena全体から大きな歓声が上がった.
“初めての開会式以来かな, この緊張感…”
Fieldにはすでに20のclubのFighterたちが勢ぞろいし, 皆, Kasgaのほうに注目していた. いつもの開会式では, ここでFighterたちのほうに手を振って笑顔を振りまくが, 今回は真剣な表情で全Fighterを見渡すに留めた.
“これより, 私たちを百年以上の長い間見守り続けてくれたCastle Keepの在りし日の勇姿をしのび, 1分間の黙とうをささげます. ご来場の皆様も, 身体に支障のないかたは全員ご起立ください.”
アナウンスが流れると場内が一気に静かになった. Fieldから見るとKeepがあった方向は西北西であるため, Arenaの西側と北側の外壁となる巨大なPetalが完全に下ろされていた. Kasgaは壇上でくるりと反転しその方角に体を向け, helmetの緒をほどいて脱ぐと, 白いひもに束ねられた肩甲骨の下ぐらいまで伸びた黒髪が現れた.
そして護衛の1人が壇上に登ってKasgaからhelmetを受け取り, 壇から下りて小さな台の上に置いた. そうしている間に, 護衛隊やFighterたちもhelmetを脱ぎ自分の手で抱え, もう片方の手は胸に当てた.
そして, “黙とう.”の合図とともに, 全員でCastle Keepのあった西北西の方に向かって目を閉じた. Battle areaのside-lineは正確に南北に沿って引かれているため, KasgaやFighterたち, そして東側スタンドにいる観客たちは, 真西を向いていた体を少し右斜めに向けていた.
この事件では幸いに死者は出なかったが, Castle KeepはHanasaka Cityのシンボルであり精神的支柱であり, その炎上は, 単なる建造物の滅失とは思えず, “殺された”という感覚に近いものだったため, ここで追悼のようなことをしても不自然には思えなかった.
“ご来場の皆様はご着席ください. 続きまして, ‘出陣の儀式’をおこないます.”
Kasgaは体の向きをそのままにし, 彼女が立っている壇の両側に付けられたステップを2人の護衛がそれぞれ上がってきて, 彼女の背後の左右についた.
Kasgaの前には, 壇の四角形に対して西北西のほうにやや斜めに向けられた, 脚の長さが腰の高さほどある四角い木製のテーブルが置かれていた.
そして3人が改めてCastle Keepのほうに向かって一礼し, Kasgaはまず右に控える護衛の1人から, アワビの貝殻と, 乾燥させた栗の実と, 15センチほどの長さに切り取った乾燥させた昆布がそれぞれ4つずつ盛られた, 土でできた平らな器を受け取り, それをテーブルの上に置いた.
続いて左に控えた護衛から杯を受け取り, その者が持つ金属製の小型の入れ物からコメの酒がそこに注がれ, それをそっと持ち運んで, 3種類の自然の恵みを載せた器の隣に置いた. そのうえでひと呼吸おいてまた一礼をした.
これはHanasakaを含む島々の中世の時代になされていた出陣の儀式を参考に宗教色を抜いて簡略化したもので, season gamesの開会式でいつもやっていることだったが, 今回の集会でもおこなった. ここで使われるアルコール飲料は, コメ由来のものに限らず, ビールやワインやジンなど様々で毎回異なっていた.
それが終わると護衛の2人は壇から下り, Kasgaは自分が立つ壇の10メートルほど前方にある, 旗を掲揚するポールのほうを向いた.
“これより‘Four Heart Flag’を掲揚するとともに, ‘Hometown’を斉唱します. ご来場の皆様も, 身体に支障のないかたは全員ご起立ください.”
再び起立を求めるアナウンスが流れ, Arena内のほとんどの人が立ってポールのほうを向いた.
この‘Hometown’という名の歌は, この辺りの島々で百年以上前から歌われていた歌をベースに英語の歌詞を付けたもので, 自然豊かな田舎をイメージさせるものだった.
従って, 機械化が進んだ都市のHanasakaで歌うと若干の違和感は否めなかったが, 出自不問のHanasakaにいても各自が自らの故郷を思う気持ちまで否定されるわけではなく, また逆にその故郷を忘れたい人にとっては今住んでいるHanasakaを故郷だと思っても良く, それぞれ歌を歌いながら思念する意味があった.
歌の前奏が流れ始めると同時に, Hanasaka Cityの紋章であるFour Heart Emblemを描いた“Four Heart Flag”がゆっくりと, 歌声に包まれながら小雨が降る曇天に向けて上がっていった.
これもいつも開会式でやっていることで, Kasgaの声量のある美しい声とFighterたちの様々なタイプの大きな声が調和され, それがこのArena全体に響き渡ると, 聞く人の心を揺さぶり, みんなが一体感を覚えるのであった. ただこの日は, Kasgaはあまり声を張らず, ほかの多くの人たちも控えめな声で歌ったため, いつもと違ってその日の“Hometown”は鎮魂歌のような重さを感じさせた.
1番だけ歌って, Four Heart Flagがポールのてっぺんにたどり着くと, 観客たちは着席し, Fighterたちも胸に当てた手を下ろした.
そしてKasgaがFighterたちのほうにゆっくりと振り返った. いよいよKassen communityの統合の象徴としての演説である.
“さあ, お姉ちゃん! これからよ. どうか見守ってね.”
このときのKasgaはいつもの開会式とは全く違った表情をしていた. ニコリともせず, Fighterたちを突き刺すような眼差しで, 心の底からグツグツ煮え立つ熱い感情を静かに抑えながら, field全体を見回していた. このようなKasgaの顔を見た者は誰もいないため一瞬驚くが, 同時に, 口をぽかんと開けて見とれてしまうほど凛々しく, これもまた彼女の魅力なのかと感じざるを得なかった.
“練習ではうまくいった. だから, どうか, 大きな声が出ますように.”
Kasgaは右手に扇を持ち, 左手を腰に当て, 深呼吸をして, “Fighterたちよ!”と力強い口調で呼びかけた.
Kasgaは腹の底から大きな声を出す歌手なので, もちろんマイクを通しているが, その声はArena全体に響き伝わった.
“出た! いつもどおりに声が出た!”
Kasgaはガッツポーズをしたくなるぐらいにうれしかったが, そのまま表情を変えずに, “今日は, 急な要請にもかかわらず, よくぞ参られた. 感謝する!”と, 通常の優しくて柔らかいKasgaの話し方とは全く違う, 戦う集団のリーダーが戦意を鼓舞するスタイルを今回初めて採った.
そしてKasgaは, 前のほうに並んでいる市内のclubのFighterたちの後ろのほうを扇で差し, 声のトーンを少し和らげて, “そしてAllianceのFighterの皆さん.”と話しかけた.
“遠路はるばるよくぞ参られた. 本当に感謝する. そして心より歓迎する!”
HanasakaのclubのFighterたちとAllianceのclubのFighterたちが, “オーッ!”と力強く声を上げて応じた. 特にAlliance clubのFighterたちにとってKasgaから直々に声をかけられることなどめったにない貴重なことであり, しかも感謝と歓迎の言葉を受けて, 中にはこの時点で早速, 感涙する者もいた.
Kasgaは, さらに声のトーンを和らげ, “会場の皆さん, そしてこの決起大会をご視聴の皆さん.”と東, 北, 南の三方にあるスタンドのほうに体の向きを変えながら両手を広げた.
“今日は本当にありがとうございます. こんなに多くの皆さんとご一緒できて本当にうれしいです. 皆さんは最高です!”
今度は観客たちが, Fighterたちに負けじと, 地鳴りかと思うほどの大きな歓声を上げ拍手や口笛が鳴り響いた. Kasgaはそれを静かに聞きながら, 頭の中でゆっくり10数えた後, 持っていた扇を, 小さな菊の模様が施された絹の腰ひもに差し込み, “Fighterたちよ!”と再び呼びかけ, “少し私の話を聞いてほしい.”と言って落ち着いた調子で語り始めた.
“知ってのとおり, 私はこの5月に体調を崩して声が出なくなって, しばらく海外で療養した. Unifierという仕事が重責だということを言いたいわけではない. 私も普通の人間だから, たまには心の元気がなくなるときもある. そう理解してほしいと思っている.”
多くのFighterたちもその点に異存はなかった. 現にFighterたちはKasgaの発症をきっかけに, Kasgaが抽象的なマスコットではなく, 生身の人間であることを認識し直したのである.
“そして病状が改善してHanasakaに戻れると思った矢先, テロリストに城を燃やされた. 百年以上前に再建されたあのCastle Keepが, まるで火矢を射られて火あぶりの刑に処せられたように思えて, むごくて, つらくて, 私は倒れてしまった…
“どうしてこんなことになったのか, それを考えているうちに私はうつの症状がひどくなった. そしてあのHanasaka市民解放戦線などと名乗るテロリストから殺害予告を受け, やっぱり私がいるからこういうことになったのだと思い悩んで, 私自身を消し去りたいと思うほど, 精神的に崩壊する一歩手前まで落ち込んだ.”
聞いていたFighterたちは, 敬愛の度合いに差はあれど, “どちらかといえば好感が持てる”以上であることは間違いないKasgaから, 自らの心の病やつらさを淡々とストレートに語られたことで, その痛みが心に染みてきて共感した. 彼女がこんなに苦しんでいたのに自分はいったい何をしていたのかと自責の念に捕らわれる者もいた.
“しかしあるFighterが教えてくれた. Unifierは, 愛と勇気を語って人々を守るべきじゃないのかと. その役割を簡単に放棄していいのかと. ひどいことを言われて悔しくはないのかと.”
Sapphire Westに所属する, その“あるFighter”, Keikoは, 今まで神様のお告げを聞くかのように手を組み合わせて, 一言も漏らさず耳から脳に入れたいと全神経を音声受信に集中させていたが, その信号が言語野で処理され国語的に理解すると, “え? ウチのこと?” と思い, キョロキョロと周りを見出した.
KasgaとKeikoが仲良しであることはKassen communityでは公然の秘密であり, その“あるFighter”がKeikoを指していることは, Kassen歴が長いFighterたちは気づいているため, Keikoは自分に視線が集まっているのをなんとなく感じたのだ. しかもその視線には, “何それ? そんな偉そうなことを言ったの?”という多少の非難が混じっていることも感じ取れた.
“私は, そのとおりだと思った. そう, 確かにそう… 私は, 先代のUnifierから, ‘Philosophy’だけはしっかり守るよう教えられた. だから私はそうしてきたつもりだった. でも…, だからといって…, どうしてこんなに自分は邪険に扱われないといけないのか. 女がUnifierだからなのか. 歌が歌えるだけの人間がUnifierだからなのか… でも, そんなのやっぱりひどい… 私だって意志ある人間だし, 悔しい… そう思った.”
ここの一連のセリフは, Hanasaka市民に深く突き刺さるように計算されているといえる. Kasgaが実験の理念をきちんと理解し実践する人であることは誰もが知っており, それは市民の模範といえた. そうした人を殺すと言うようなことは, Experimental City Hanasakaと市民全体の否定であって, Kasgaがどんなに優しい人であっても怒って当然だろうと思えるのだ.
それに, 女だからとか, 芸能人だからというだけでバカにするような態度をとることは, Hanasakaの人たちの感覚からすれば非道徳的である以前に非科学的であって野蛮に思えるため, 敵に対する嫌悪感を増長させるのである.
“だから, 私は愛と勇気を語ってみんなを守る役割を捨てないことにした. 私が捨てたとしても誰かがそれを継ぐことになり, その人がまた殺害の予告を受けることになる. であれば, 私がその役割を実践する. たとえそれがいばらの道でも, 私は, 逃げるのはやめようと思う. 私は, これからもKassen communityのUnifierでありたい. そう思った…”
自然とArena全体から大きな拍手が沸き上がった. もうすでにそこに愛と勇気があるからだ.
白々しい演説だと誰も思わないのは, 彼女の声や話し方によるところもある. やや低い声ではっきりと落ち着いて抑揚をつけて大きな声で話す. これはカリスマ性を持つリーダーには欠かせない要素といえる. ただそれだけであれば政治家や名物経営者もやっていることだろう. しかし彼女の場合はもっと特別であった. Garnet EastのRudraが言うように“日頃の徳性のレベル”が違うために, 演技のようには全く思えないのだ. ありのままに話をしているように思えるのだ.
Kasgaは数回, 軽く頭を下げ, 15秒ほどの間, 拍手を受けた後, 右手を上げると会場が静かになり, 再び話し始めた.
“私が愛とか勇気とかそういうことを言うと, 我々を批判する人たちは, やっぱりHanafolkの頭の中はお花畑だとバカにする. 現実を知らず知ろうともしない薄っぺらい理想主義者だと笑う.
“だがよく考えてほしい. そういう人たちは, 現実という妄想に捕らわれ, 一輪の花も咲いていない自分におかしいと感じないぐらい, どうかしているのだ. Fighterたちよ, 心配する必要はない. 我々はいろんな色の, いろんな種類の, 数えきれないほどの花であふれたお花畑だ. ひとりひとりすばらしいし, みんな集まれば最高にすばらしい.
“本当は, 彼らはうらやましいのだ. だからみんな, どうか平常心を保ってほしい. 普段どおりのお花畑を堂々と見せつけることが, 彼らにとっては最大の脅威になるのだ. 怒りに乗じてテロリストたちと同じようなことをする必要はない. 何も恐れることはない.”
このパートは, Hanasakaが実験の遂行のために必要とする多様性を意識しつつ, Matsudaira首相から強く要請されていたメッセージを自然な流れで入れている. リアルタイムで聞いていた彼も, ここのセリフを聞くや, “よっしゃ.”と言って, こぶしを作り喜びの感情をあらわにした.
“だがFighterたちよ. やつらは再び我々を攻撃してくる.”
普段, “やつら”というやや汚い言葉で他人を指すことはしないKasgaはここで, 腰ひもに差していた扇子を抜き, 再び右手に持った.
“やつらは私の命は今年限りだと言った. しかし私は, やつらにみすみすやられたりしない! やられるわけにはいかない.
“最初は小さなイベントだったKassenがFighterたちの活躍と関係する皆さんの努力によって, 世界中の人に愛される大きな存在になった. これは皆さんの成果だ. 本当に頭が下がる. そして我々を温かい心で支えてくれるファンの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいだ.
“だからこそ, 私がここでテロリストに殺されるなどという血塗られた歴史を作るわけにはいかない. 私がテロリストから逃げたという歴史も作りたくない. まして, こうしたテロを理由に, 私たちが暴力を助長し不吉な存在だからと, Kassenそのものが廃止されることになるのは本当に悲しいし受け入れられない.
“私はKassenを続けたい. Kassenはルールに従って競うスポーツだ. みんなの心をつなぎ, 楽しんでもらうイベントだ. Fighterたちよ, 我々は我々の信念を貫こう. 不安や恐怖に負けずに普段どおりを貫こう.”
Kasgaは左足を一歩引いて少し体を後ろに向け, 背後に掲揚されているFour Heart Flagを左手で鋭く指した.
“Fighterたちよ. 私はあのFour Heart Flagの下で誓おう. 2代目Unifier, Kasga Wisteriaは, 敵前に立ち一歩も引かぬと誓う! そして絶対に殺されないと誓う!”
そう言い終るや否や場内から大きな歓声と感嘆の拍手が起こった. まだ30の齢を重ねたばかりの女性がテロリストたちに数か月以内に殺すと公言されているにもかかわらず, この威風堂々とした態度は何だろう. 2代目Unifierは恐るべき度量のある魂胆を持っているに違いないと皆がそう思った.
しかしKasgaはその声援に応えて手を振るようなこともせず, さっと体を後ろに向けて腰ひもに差していたKasga専用の護身のdaggerを抜いた.
いったい何をしようとするのか, 皆が注視する中, 彼女は, 白いひもで束ねられた長い黒髪を左手でつかんで持ち上げ, 右手に持ったdaggerのbladeを上に向けそのひもの結び目の少し上の辺りに押し当てた. そしてFighterたちに背を向けながら, 左手でその束ねられた髪を力強くつかみ, 右手でdaggerを慎重に押し上げながら髪を切った.
切り取るやKasgaは, その髪の束を先ほどの儀式で使ったお膳の上に静かに置き, 一礼し, ひと呼吸おいたうえで, 皆のほうに振り返り, daggerをscabbardにカチンと納めた. ここで彼女はほんのわずかの笑みを見せた. しかしそれも束の間, Kasgaは両手を腰に当ててこれまでで最も大きな声で言い放った.
“Fighterたちよ! さあ, これからだ! 反撃を始めよう! 力を合わせば, 決して負けることはない! 私はいつも皆とともにいる. この断髪は私の決意の証. 皆との契りの証. 約束する. だから皆も約束してほしい. 誇り高き者たちよ! ともにKassenの火を守ろう! ともに城の魂を守ろう! ここまで築き上げた我らの汗と涙の結晶を, いつまでも, 永遠に, 輝かせよ!”
一気にそう言って握り締めたこぶしを高々と振り上げると, Fighterだけでなく観客も含めて全員から“オーッ”なのか“ワーッ”なのか分からない, 大きな大きな興奮の絶叫と盛大な拍手が沸き起こった.
“Kasgaさーーん! すてきー! どこまでもついていきますー!”
KeikoはKasgaの力強い演説にしびれまくり, 無邪気に何度も飛び跳ねてKasgaに両手を振った.
“抜刀!”
最後にみんなで士気を上げるための叫び声を一斉に上げるために, Kasgaが素早く右手でswordを抜いて高く上げ, Fighterたちに, 持っているswordをscabbardから抜くよう指示した. そして全員が抜刀してその手を上げたことを確認すると, 左手のこぶしを握り締めた.
“皆の者! 団結せよ!”
“オーッ!”
“行動せよ!”
“オーッ!”
“撃退せよ!”
“オーッ!”
そしてKasgaはさらにswordを高く掲げ, “Battle cry!!”と叫ぶと, “オーーーーッ!!”と, Fighterのみならず観客も一緒に皆で一斉に, マイクが壊れるぐらいの大きな声で叫び, そしてそれは各自が息を継ぎながら1分近く続き, Arena全体がKassen史上, 最高に盛り上がり, 汗が噴き出すほどの熱い一体感を生成した.
“ありがとう. 本当にありがとう. ご来場の皆さんも本当にありがとうございます.”
彼女は, swordを下ろしてscabbardに収め, そこで初めていつものように歯を見せ, 万人の心をとろけさせる笑顔を見せながら手を振り, 皆の歓声に優しく応えた.
Director Prishaは, 東側スタンドにあるKassen Representative Councilのメンバー用の席で, 立ち上がって拍手をしながら, 壇上のKasgaを涙目で見つめていた.
“Harunaさん. 天国からご覧になっていますか? あなたの最愛の妹Kasgaさんが, あなたの遺志を見事に受け継ぎ, ついにやりましたよ. 2代目Unifier…, なんてすばらしい. この熱気. この一体感. Harunaさんのおっしゃったとおり, 彼女は偉大なUnifierになるでしょう.
“我々は, あなたを失い, 前市長を殺され, 徐々に追い詰められる中, あなたの遺志を具現化する裏コードを完成させた. そしてやつらがKasgaさんに刃を向けたことが分かるや, ルビコン川を渡り, それを発動させた. もう後戻りはできないことは分かっているものの, 私たちは本当にうまくいくのか不安でいっぱいだった. 今日まではそうだった.
“でも, Kasgaさんの演説で希望の光に照らされた道が目の前に現れた. 多くの人が感動し, 幸せな気持ちでいっぱいになった. これでFloraの‘CCP’は一気に70ほど上がって, 600を超えたでしょう.
*“Harunaさん, 私は…, あなたを守り切れなかったことを今でも悔やんでいます. だから, 次は絶対に失いません. Kasgaさんは我々が必ずお守りします. どうか, Hanasakaの守り神よ, 天国で優しく私たちを見守ってください.”
補足: CCPについて “CCP”は, Castle Officeの人たちが使っていた用語で, Floraの攻撃力と防御力の合計値を意味する. 正式にはCombined Combat Powerという.
Chapter 2.12: Kassen: Transformed
Overview (Spoiler-Free)
In the aftermath of Kasga’s rally speech, Castle Office seizes the momentum to announce sweeping changes to Kassen — including a new outdoor Grand Prix event in which Fighters will battle robots inside Hanasaka Castle’s grounds. The EIS team wrestles with what these changes mean for their work. Meanwhile, Akio notices a troubling connection between a date in his stone-collecting app and the Grand Prix schedule — and asks to speak with Mogla again.
Detailed Summary
Kasga's rally speech reshapes Hanasaka's political landscape almost overnight: the Pro-Mayor Faction collapses and critics fall silent. Castle Office capitalizes on the momentum by announcing major changes to Kassen. Season games will now determine which clubs control Defense Areas around Hanasaka Castle, with the champion club earning the right to guard the Main Keep Area under Kasga's direct command. A new outdoor Grand Prix — held inside the castle grounds, with Fighters battling combat robots — will determine the Apex Fighter, who receives a lethal "Diamond Sword" from Kasga and serves as her personal guard. EIS members are unsettled: the outdoor format disrupts their inspection procedures, and its AR-based scoring suggests their traditional role may eventually become obsolete. Meanwhile, Akio notices that "New Moon in the Dark" reappeared after the Keep attack — but now claims to have only 108 days left to live, pointing to November 9th, the Grand Prix date. The terrorist group's second statement also sets the same deadline. Akio suspects the stone may be predicting an attempt on Kasga's life that day, and quietly asks Julia to arrange another meeting with Mogla.Scene 2.12.1:
7月8日のHanasaka Arenaでの決起集会の状況は, 様々なメディアを通してリアルタイムで, Kasgaの演説も各言語に翻訳されて, 全世界に発信された.
この集会は, あくまでKassenというスポーツ・イベントで最高位の代表者のような役を演じているKasga WisteriaがそのイベントのプレイヤーであるFighterたちにメッセージを伝えるためにおこなったものにすぎない.
しかしながら, 一般の人たちを会場やCastle Park内に大勢集め, さらに全世界にライブで放映する中で, 彼女はその演説に“皆”という言葉を巧みに混ぜ, しかもExperimental Citiesが掲げる理念を脅かそうとする者に立ち向かう姿勢を, 今までに見せたことがない力強い調子で随所に表すことによって, Kassen communityのUnifierにすぎないKasgaがHanasakaという名のExperimental Cityの最高司令官であるかのような印象を全世界に強く持たせることになった.
隣国“Moto”の政府も決起集会の後におこなわれた官房長官による定例の記者会見で, Kasgaの演説は多くの人に勇気を与え実に感動的だったとMatsudaira首相が言っていたことを意図的に紹介し, 今後も政府としてはHanasakaとの良好な協力関係を維持していくと伝えた. 首相が要望していたメッセージをちゃんと入れ込んでKasga自らが発信したわけだから, 彼らとしては満足であった.
また, City Officeを含め, Hanasaka City全体を見渡しても, 圧倒的多数の者がKasgaの演説に強く共感した.
現状を大きく変え得る実験をこれ以上おこなうべきではないと考える慎重派の人たちも, Kassen communityを武装が大好きな人たちの危険な集団ではないかと疑い, Kassenは暴力を助長するから廃止すべきだと言っていた人たちも, Castle Keepを破壊したRusty-believersの仲間もしくは協賛者だと思われたくないため, 大半の者は宗旨替えするか考え方を軟化させ, 残った筋金入りの抵抗者たちも表面上はおとなしく鳴りをひそめ, KassenやCastle Officeに対しても批判的な声はぱったり聞こえなくなった.
Kasgaの演説の破壊力はすさまじく, Goblino市長に同調する, いわゆる“Pro-Mayor Faction”は, 一気にほぼ壊滅に近い状態に陥ったのであった.
そして特にFighterたちには, この日を境に, Kasga WisteriaはもはやKassenの宣伝のためのマスコット的な存在では全くなくなった. いつも穏やかな表情で優しく語りかけて自分たちをねぎらったり励ましたりしてくれるKasgaが, この日はまさに戦う者たちのリーダーとして, Fighterたちの闘志を呼び起こして火をつけ, 皆の魂が燃え上がって熱くなり大勢で共有できたことで, 彼女は, 法律上はCastle Officeから業務委託を受けているにすぎない歌手であったとしても, 自分たちの真の最高司令官となったのであった.
各地方のAlliance clubのFighterたちにとっても大きな効果がもたらされた.
KassenがHanasakaで始まってから8年が経って初めて, 市外のAlliance clubのFighterたちは自らのOutfitsを着て, このHanasaka Arenaに参陣することができたのである. これまでもAlliance clubの中で戦績が優秀なFighterは, 同盟関係にあるHanasakaのclubに出向して, そのclubのFighterとしてこのArenaで試合に参加することはよくあった. しかし自らのclubの旗を掲げて, 自らのclubの名で参加できたことは, このArenaがHanasakaのclubのためだけのものではなく, Alliance clubも含めてKassen community全体のものであると認識できた.
加えてそのcommunityのUnifierという存在も今までよりぐっと近づき, 同盟を結んでいるHanasakaのclubを介さず, 直接, 自分たちのリーダーであることを実感できたのであった. 実際, 各Alliance clubは, 決起集会の後直ちに, 先を争うかのように, Kasgaに対して, 集会に招いてくれたことへの熱い謝意と, 感動的なスピーチに対する手放しの賛辞と, ご指示を承り全力で実行するという固い誓約を伝えた.
また実際にHanasakaに馳せ参じたAlliance clubのFighterたちは, Arenaでbattle cryを上げ, KasgaやスターFighterたちと記念写真を撮っただけだとしても, 地元に戻ってくると歓声をもって迎えられた.
皆, 決起集会での雰囲気を裾分けしてもらいたいかのようであった. そして彼らは, あの演説を生で聞いて涙が出たとか, あの一体感は忘れることができないとか, Kasgaと一瞬, 目が合ってドキドキしたとか, Keikoの“Four Star Spear”を見てかっこよかったとか, Chammeiと握手してもらって失神しそうになったとか, Arenaがギリシア神殿のように美しかったとか, Hanasaka Castleはやっぱりデカくてすごかったとか, Hanasakaの人工培養肉は意外にも結構うまかったとか, タバコは市外に出るまで一切吸えずにつらかったとか, Hanasakaで見たこと, 聞いたこと, 感じたことを地元の人たちに熱く語った.
Scene 2.12.2:
そして, “Kasgaによる力強い演説”という, 今まで隠していた最強の切り札を行使して, 一気に形成を逆転させる作戦のお膳立てをしてきたCastle Officeは, このイケイケの熱気が残存しているうちに, Kassenそのものにも大きな変更を加えることにした.
9年目に入ったCastle OfficeのKassenは, 近年は多少飽きられている状況であり, exoskeletonによって腕力や脚力などの身体能力を強化したFighterたちによるもっと刺激的なKassenをライバルのKassen Liberty Leagueがやっているのと比較すると, 何となく生ぬるく感じ, 真の実力で勝負するなら自由リーグのほうだと思われていた.
Castle OfficeのKassenも, 常に自らを改善し続けなければならず, 伝統芸能のようになってはいけないと自覚しているため, Kassenのルールは毎年少しずつ変わっている.
Season gamesでfirst roundとsecond roundとあるうち, firstのほうは“trial round”とも呼ばれ, ファンから提案されたルールの改定案でCastle Officeとしても実施可能と思えたものを取り込んで実際にやってみる. それでファンやFighterからも高評価であればKassenのルールを正式に書き換え, 次のseason gamesからそのルールでsecond roundも実施する. 一方, first roundのほうはまた次の提案を採り入れるため, firstとsecondは常にルールが違うのである.
例えば, Blockを押して点数を取るというルールも当初はなく, Kassenが生まれた年の次の年 (2 E.E.) の秋にトライアルをして翌春から正式に導入された.
また, 相手のFlagを取り上げると高得点が取れるというトライアルがその翌年 (3 E.E.) の秋におこなわれたが, Fighterたちができるだけ互いにぶつかり合わないように逃げて, ひたすら前に進むことばかり考える試合運びになって, 見ていてつまらないということで正式には採用されなかった.
昨年 (8 E.E.) の秋のトライアルでは, Fighterたちがはいている, つま先が親指とそれ以外で割れているくつ下のような形状のシューズを基に, 跳躍力を強化した“Foot Enhancers”を使うことを許可した. これによりFighterたちのダイナミック・レンジが広がり, 見ている者としては高評価だったが, 使っているFighterたちからは, 従来以上に飛び跳ねると着地のときにひざや腰に来る衝撃も大きくなることから, それに合わせた筋力づくりが必要となるという意見が多く出て, いずれは足, ひざ, 腰の3点セットで強化するEnhancersの導入も検討すべきだという意見もあった.
そのため今年 (9 E.E.) の春は, first roundではFoot Enhancersの利用を認めるも, second roundでは従来の規格に適合したシューズをはいて試合をすることにした. ちなみにこの春のsecond roundでKeikoは超人的な脚力を見せた戦いをしたが, first roundを欠場した彼女が間違ってFoot Enhancersを使っていたのではないかと疑う声もあった.
しかしこうした取り組みは改善とはいえても改革というほどではなく, Castle Officeとしては観客を飽きさせないためにやはりKassenというスポーツ・イベントそのものの大胆なアップグレイドを求められていた. そこで彼らは, Castle Keepが燃やされてHanasakaに人々の目が向いている今がチャンスと, Autumn GamesからKassenのあり方を大きく変更することを, 7月30日に発表した.
初めての大きなアップグレイドにあたり, Castle Officeは, Kassen Liberty Leagueにはまねができないこと, 圧倒的に自分たちに有利なことは何かを考え, それは“Kasga Wisteria”と“Hanasaka Castle”の存在だという結論に至り, これらを使った新しい“Kassenコンテンツ”を作った.
まず, Fighterたちの意識の変化, すなわち自分たちはUnifierのKasgaや城を守るために存在しているという自認識を汲み取り, Hanasakaにおけるseason gamesは, Hanasaka Castleの“Defense Area”を決めるための戦いと意味づけた.
つまり, firstとsecondの両roundの計12試合を通して, まずOuter Moatの外縁の8区画, すなわち, Outer Moatの北東にかかる“Lily Bridge”, 南東にかかる“Iris Bridge”, 南西にかかる“Cosmos Bridge”, 北西にかかる“Magnolia Bridge”の, 4つの橋とその周辺を含む計4つのエリアと, それぞれの橋の間の計4つのエリアを, 1勝するごとに1か所ずつ取っていき, 次にその内側のOuter Defense Zoneを構成する, “Eastern-section”, “Southern-section”, “Western-section”, “Northern-section”の4区画を, 同じように1勝ごとに1か所ずつ取ることとした.
補足: Defense Areaの呼び方について Outer Moatの外縁の4つの橋とその周辺の区画を, 橋の名前の頭文字を取ってそれぞれ, Area-L, Area-I, Area-C, Area-Mと呼ぶ. そしてそれぞれの橋の間については, 北を上に見たときに, 時計の針で, 3時, 6時, 9時, 12時の方向にあることから, Arae-3, Area-6, Area-9, Area-12と呼ぶ. 従ってArea-12から時計回りに, Area-L, Area-3, Area-I, Area-6, Area-C, Area-9, Area-Mの, 8つのDefense Areaがある.
もちろん実際にseason gamesの後, その取得したDefense Areaを次のseason gamesが始まるまでの間, そのclubのFighterたちが警護をになうことにする. ただ実務上は, Castle Guardiansの人間の警備員や, 犬に似た陸上の中型の多目的ロボット“mech-dog”や監視用の飛行ロボット“mech-dragonfly”などが警備業務をおこなうため, Fighterたちは時々, そこに現れて観光客相手のパフォーマンスとして警護をしているっぽいことをするぐらいと考えられていた.
そしてその2つのroundを通して最も勝ち数が多いteamがchampionとなり, そのclubは, さらにMain Keep Areaの警護を, Hanasaka Castleの城主でもあることにしたKasgaから, 閉会式で直接命じられるという名誉を得ることとした.
加えて, second roundの後に, Apex Fighterを決めるために, Hanasakaの4つのclubから選抜されたFighter 40人が参加する“Grand Prix”を1日だけ開催することにした.
このGrand Prixは, 戦いの場をArenaから初めて屋外に移し, Hanasaka CastleのOuter Defense Zoneでおこなうことにした. そして, 人と人とが戦うのではなく, Kassen用に開発されたロボットと人が戦うものに変えた. すなわち, Outer Defense Zoneの4つの各sectionで, それぞれ異なるタイプの俊敏な動きをするロボット1機もしくは数機と, 当日発表されるその時だけの5人からなるグループが協力して難易度の高い対戦をすることにした.
40人のFighterのうち, Spear Fighterは32人でBow Fighterは8人と決められ, 各teamはSpear Fighterを8人, Bow Fighterを2人選抜することになる. 8つのグループはそれぞれ, 各teamから1人ずつ選ばれたSpear Fighter 4人といずれかのteamから1人選ばれたBow Fighter 1人の組み合わせとなる.
他方, ロボットはmech-dogやmech-horseを改造したものを使うことにし, 胴体の左右に腕を付けてspearのようなものを持たせる. またその胴体にはtorso protectorのようなものを巻き付け, WeaponsをOutfitsの特定部位に接触させてHPを減らしていくという戦い方は同じにした.
そのため, ロボットたちから最も多くのHPを奪った者がApex Fighterということになりそうだが, あくまでグループが協力してロボットたちに勝つことが重要と考え, 彼らのバトルの現場で監視するmech-giraffeやmech-dragonflyが撮影した映像を基に機械がリアルタイムでそのバトルの様子を分析して, ロボットからHPを取った者をアシストした者も評価点を加えることとした.
そうした分析を経て最も多くの得点を積み上げた“Apex Fighter”には, Kasgaからその名誉ある称号と“Diamond Sword”という名のリーサルな特別なswordを授与されるとともに, 城のPalaceの中にある大広間で, 今後, Kasgaが賓客と会う時にそのswordを持って彼女のそばで警護するよう直接命じられることとした.
このアップグレイドの知らせを聞いて多くのFighterたちは喜んだ. KassenのFighterは, 実際に戦場に出て戦うわけではなく, あくまでKassenというスポーツ・イベントのプレイヤーにすぎない以上, 市民を楽しませるエンターテイナーという当初からの役割で満足しているFighterもいるものの, “Fighter”というからには何か守るべき対象があって, そのために戦う存在でありたいと願い続けていた者もいて, そうした者にとっては満足できる再定義をようやく手に入れたのだ.
そしてもちろん, Keikoも両手を上げてガッツポーズをし, 腹の底からウォーッと大声を出して歓喜と興奮を表した. 新しいKassenは, Hanasaka Castleの主であるKasgaを最も間近で守ることができるclubとFighterを決めるための選考会という意味を持たせたからだ.
もちろんそれはフィクションであり, 仮にApex Fighterになったとしても実際にKasgaがずっと城のPalaceにいるわけではなく, 彼女のそばで毎日デレデレできるわけでもないものの, Keikoの妄想は止まらなかった. 理屈はともかく, そういうシナリオはよだれが出るほどたまらないのだ.
今までは, Fighter戦績評価システムによって“Apex Fighter”に選ばれたとしても, 賞金や賞品がもらえるわけでもなく, 表彰状すら渡されず, 単に, Castle Officeからその称号を使うことを許されるだけだった.
しかしこのAutumn Gamesからは, まだ完成はしていないPalaceの大広間でKasgaがHanasaka Castleを公式に訪れた要人と会う際に彼女に侍ることができるという分かりやすい特権をCastle Officeが全Fighterの中で1人だけに与えるというのは, Keikoのみならず, 多くのFighterたちの名誉欲を段違いに増大させた.
そして, “Diamond Sword”は, Kasgaから秘密にしておくように言われていた賞品であるのは間違いなく, これを手に入れればKeikoは彼女から頭をナデナデしてもらえるのだ. のみならず, Keikoは, 殺害予告を受けているKasgaの命が危険な状況に陥った時は, Apex Fighterの証でありかつリーサルな武器であるそれを携帯して駆けつけるという, たまらなくかっこいいシーンをしっかりイメージすることができたのであった.
Scene 2.12.3:
一方, このアップグレイドに非常に困惑している人たちもいた. それは, Kassenの運営の最も根幹に関わっているEquipment Inspection Section (EIS) のメンバーだった.
“これってまさか, Directorたちが現場の意見を聞かずにノリで決めたんじゃないでしょうね. 機械じゃなくて, 人間が決めたことなら, 従えないです. 元々このGrand Prixの話って来年の春からやる予定だったのに, いきなり前倒しにされても間に合わないですよ.”
Castle Officeからの重大発表の翌日, 音声のみのオンラインでのセクション内の会議で, Yoenは不満をあらわにした. 彼女のみならず, 典型的なHanafolkの一般的な感覚では, 明らかに無理な要求をしてくるとしたらそれは機械に比べて非合理的な生き物である人間であり, 自分と同じ”人間と称する動物”のわがままであるから, 本気で考える気になれないのである.
EISとしては, first roundとsecond roundの試合 (合わせて“Arena games”という. Gran PrixというArenaの外でおこなう試合ができたことで, そう呼ばれるようになった.) を通してDefense Areaを決めていくこと自体は特に問題視していなかった. あくまでそれはフィクションであって, Fighterたちの戦い方に変更はないからだ. ところがGrand Prixのほうは課題山積であった.
“以前にもお話ししましたが, まず, Arenaの外で戦うことになれば, Equipmentに対する不正な変更への監視が行き届かなくなるのが心配です. 我々は, 試合が始まる直前30分の間にEquipmentをFighterに返却して, その後もArena内に多数設置されている監視カメラで見ることで, あくまで可能性の問題ですが, 不正を抑止しています. でも, Arenaの外は監視カメラがあっても密度が薄いですし, そもそもFighterたちにEquipmentを直前に返却しようとすると, 我々がすべてのEquipmentを彼らがいるところまで運び出す必要があります.”
Yugoが1つ目の課題を挙げると, Matildaが, “Resilinさんは持ち運びが大変なのでは?”と, 右脚のひざから下の部分がないResilinを気遣った.
“ありがとう. 私は大丈夫ですよ. 電動一輪車に乗ってその後ろに荷車を付けて, 自転車ぐらいのスピードで走れますから若い皆さんには負けません. むしろ, 2本の足を使う皆さんはどうしますか? 城内は自動車の乗り入れは原則禁止なので, 自転車か馬で運びますか?”
EISのメンバーの中で最も年長で50歳台のResilinは, “Enhancers”を積極的に取り入れ, 右脚側に“Leg Enhancer”を付けて歩いたり, 長距離の移動時はハンドル付きの電動一輪車に乗っていたりしていた. この電動一輪車は, 足を置く踏み板が, 足がなくても, 使用者の脚の長さや形に合わせて高さや形を調整できるように作られているため, 使用者にくっついて合体するような感じになる.
2本の脚を持っていないがゆえに自分の移動方法をいかようにも変更できることを自慢げに話すResilinの様子を見て, マネージャーのJuliaは, 彼がEnhancersによる自身の補強に関心を持つに至った理由について語ったことを思い出した.
彼は5年前までアフリカ大陸に住んでいたが, そこで自分が運転していた自動車に, スピードを出しすぎていた自動車が横から衝突し, 同乗していた最愛の息子を亡くし, 自分の右脚も一部を失った.
自分の子に先立たれるというのは, どの親も同様, 本当につらいことであった. 不幸に押しつぶされそうだった彼は, 人間が自分の意思で自動車を運転することを認めている国では事故のシーンを思い出してしまって心穏やかに住めないと考え, 人間から自動車を運転する自由を奪っているExperimental Citiesの1つであるHanasakaに, 縁があってやってきた.
そして彼は, 同じような過去を持つ人たちと知り合い, 彼らと会話を重ねるにつれて少しずつ前向きに物事を考えられるようになった. やがて彼は, 脚が1本になっても堂々と生きていくことが, 亡くなった息子に対する責任であると考えるようになり, それゆえに自分の体を機械でしっかりと補強するようになったのであった.
また彼は, 何度倒れてもくじけずに立ち上がることができる精神を持ち続けたいと考えて, “Resilin”と名乗るようになったのである.
そのResilinの質問に対してMatildaは, “そうね. 行ったり来たりが面倒だけど, そうするかな.”と, 半分あきらめかけているかのような返事をしたのに対し, 20歳の若者には珍しく, 決められたルールどおりに動くことを大事にするYoenが, “マニュアルを大幅に変えないといけないじゃないですか. うんざりですよ.”と, なおも頑なな態度をとった.
Yoenがルールやマニュアルにこだわることにも理由があることをJuliaは知っていた. Juliaは, Yoenがそうした姿勢をとるようになった経緯について, 以前, 彼女がJuliaに語ったことを思い出しながら, 彼女の言い分を聞いていた.
彼女は, Hanasakaに隣接する“Moto”で生まれ, 非常に貧しい家庭で, 常に空腹に悩まされながら生きていた. 両親とも子育てに関心がなく, 彼らから疎まれ, さげすまれ, 絶望したYoenは15歳の時についに家出を決意した.
彼女は, 未成年であれば市外から来た困窮者を無条件で保護してくれると言われていた, 子供たちにとっては夢の国であるHanasakaに向かった.
しかし持っていたお金はわずかであり, 彼女の住んでいたところからだと途中までしか電車で行けず, 電車を降りてから120キロメートル以上の距離を数日かけて, 時々休みながらほとんど飲まず食わずで歩いた. そして, MotoとHanasaka Cityの境を越えて市内に入ったところでついに倒れてしまい動けなくなったところを, 駆け寄ってきた救急用のmech-dogやmech-horseに助けられた.
彼女は, 身勝手で無関心な人間たちと違って, 弱り切った人間の子供にしっぽを振って, “わーい, 人間の子供だ.”と言って水とビタミン剤を提供し優しく介助してくれたロボットたちに, ほとんど忘れかけていた笑顔を見せ, 涙を流して感謝した. そしてその時に彼女が持っていた所持金の額が彼女の国の貨幣でたったの4円 (そこの言語で“yoen”と発音する.) だったことから, 彼女は, 無価値だと思っていた自分の命を救ってくれたHanasakaへの恩を忘れないように, “Yoen”と名乗ることにしたのであった.
それ以来Yoenは, 人間たちも規則に従って, ロボットのようにちゃんと動くべきであると強く思うようになり, それゆえ人間たちを動かすプログラムをしっかり書くことに注力するようになったのであった. 実際, 彼女が作ったマニュアルは非常に完成度が高く, ほかのメンバーたちも助かっていた. ただ, 大きな改定はいつも嫌がった.
人間なのに人間の決めたことに文句が多いYoenの意見をひと通り聞いた後, Yugoは, “それに, Arenaのfieldは屋外といっても, 直射日光や風を抑えていて外環境をコントロールしていますが, Angular Ringに設置するバトルスポットは, むき出しの屋外ですから, Equipmentの不調が発生する確率も増えると思いますし, 仮に故障してもArena内の倉庫からすぐにスペアを取り出してFighterに渡すことができないです.”と, 2つ目の課題を挙げた.
それに対しJuliaは, “その点は大丈夫ですよ. 今までのようなWeaponsとOutfitsを実際に接触させるようなことはせずに, Fighterたちがsmart gogglesを付けてAR (拡張現実) の中でWeaponsとOutfitsが一定の至近距離に近づければ接触したとみなすことにする予定です. つまり, ARのソフトがリアルタイムに視覚情報を基に処理しますから, 物理的なEquipmentは, そうね…, Torsoに付いているビーコンと赤色灯が生きていれば個々のFighterの特定と戦闘継続性は識別できるからそれで十分. あとの機能は殺してしまってもいいんです.”と無感情に説明した.
この発言はEISのメンバーにとっては衝撃的だった. HPの減らし合いがすべてソフトウェアで処理され, しかもJuliaが言う, Fighterたちの特定と戦闘継続性もほかの手段で確認できるのであれば, Equipmentが電気的に壊れても, 磁気が異常であっても, 試合の進行には影響はなく, Equipmentは古来からの使い方で使うだけで, EISの仕事はなくなる. もちろんそのソフトウェアが正確に処理するよう改良を重ねていく必要はあるが, それはプログラマーたちの仕事であって, EISの人たちができることではない.
“Juliaさん, いきなりの死刑宣言はやめてくださいよ.”
Resilinが嘆くと, Yoenが, “そうですよ. EISが用済みになるだけじゃなくて, これってKassenが仮想現実のゲームになって, Kassenの雰囲気を変えることになるじゃないですか. 小説とかだったら, 途中でいきなり世界観が変わって, 何この話って思われて本を閉じられるパターンですよ. レビュー欄にも酷評されますよ.”と言って大いに失望した.
“みんな, 心配しないで. あくまで新しく導入されるGrand Prixだけ, そういう新しい方法でやってみるだけです. Arena gamesは従来どおりですから.”
Juliaがメンバーを落ち着かせようとすると, Yugoが, “でも今回はさらに初めてロボット相手の戦いになりますよね? Grand Prixだけだとしても, ちょっと新しすぎて, Yoenさんが言うように, 中世風から近未来風にいきなり世界観が変わりすぎてませんか? それに, そもそもいつの間に戦闘用のロボットができ上がっていたのですか?”とJuliaに質問した.
Yugoは, 協力プレイ用に戦闘ロボットをCastle OfficeがHanasaka Robotechと共同で開発していたのは知っていたが, 実戦に導入できるまで完成度を上げていたとは知らなかった.
“正直, まだ不具合もあるらしいから, Autumn Gamesに間に合うか怪しいですけどね.”
“どうしてそんなに急ぐんでしょう?”
“急ぐ理由があるからでは…”
Yugoの問いにAkioが答えると, Matildaが, “おっと, やっとしゃべった. ぜひ, あの夜, あの場所にいたAkioさんにその理由を聞きたいです. きっと何かを知っていると思います.”と, ちょっと意地悪な態度で質問した.
あの日, AkioはMatildaとCastle Park North Stationまで一緒に帰ったはずなのに, 独りで職場に引き返し, 深夜にPolinaと語らい合っていたという不可解な行動をとったため, Matildaから後日, 事の経緯を根掘り葉掘り聞かれたのだが, 完全には誤解が解けず, いろんな意味で怪しい人というレッテルを貼られてしまったのだ.
“いや, その…, わ, 私は何も知らないです. ただ…, こ, 今回追加するGrand Prixは…, 実践的というか, Fighterをスポーツ選手から, 何て言うか…, 本物の戦闘員みたいなのに変えていくための, トライアルのような気がして…”
Akioのたどたどしい説明を補ったのはResilinであった.
“さすがAkioさん. 私も同じような疑問を持っていました. 人間が武器を持って, 人間だけで戦う時代は終わりました. 戦争であれ, 警察と犯罪組織の戦いであれ, ギャングどうしの争いであれ, まずは‘Enhancers’で自分を強化するのは当たり前で, しかも‘mech-animals’を引き連れて, 人間とmech-animalsがパーティーを組んで戦うのも当たり前になってきました. だから, Fighterの皆さんが, 本気でKasgaさんや城を守りたいと考えているのなら, そういう戦い方ができることが必須です.”
補足: Mech-animalsについて “Mech-animals”とは, mech-horse, mech-dog, mech-hawk, mech-dragonfly等, 鳥や昆虫を含めた動物たちを模して造られたロボットの総称である.
“ちょっと待って, Resilinさん. 現代の戦い方がそうなのは分かりますけど, それは警察の仕事でしょ? なぜ民間人のFighterたちが本気でそんなことをしないといけないのですか? 彼らは, 確かに自分たちが彼女と城を守ると言っていますが, それは単にそういう振る舞いをするだけのことじゃないのですか?”
Matildaの素朴な疑問に対してJuliaが, “そうでもないですね. 今, 警備員の資格をとってCastle Guardiansの警備員を兼業するFighterが増えています. Hanasakaでは, 警備員として働くには市独自の資格を取る必要がありますが, 1級の資格を取れれば, 警察官ほどじゃないけど, 致死性の低い銃器を扱えることになります. あくまで現に攻めてくる者を撃退する場合に限られるけど, 襲撃者の動きを一時的に封じるぐらいはできるようになります.”と平坦なトーンで説明した.
“ちょっと待ってください… 今…, ‘Politis’を見てみます.”
Yoenは自分のタブレット端末から, “Politis”と呼ばれるHanasaka Cityの政策立案システムにアクセスした.
Hanasaka Cityには議会がなく, 市民から寄せられる膨大な要望や意見を, Politisが分析し優先順位をつけ, 市の情報システム群の上で動くプログラムを自動生成する.
条例はそのプログラムのコードを基に人間が読んで理解できるように抄訳したものであり, 市民によるPolitis上での投票で所定の定足数を満たしたうえで過半数の賛成が得られれば発効する.
ただし, 市民の精神的な自由や経済的な利益に重大な影響を及ぼし得ることについては, 市長が拒否権を行使することができるが, これも所定の期間内に行使されなければ, その条例は発効する.
Hanasaka市民は, 人間以上に人間を知り尽くしているFloraの判断とそれと連動している情報システム群による運営を全面的に信用している. そして, たびたび有権者を失望させる人間の議員やたびたび人々を恐怖に陥れる独裁者によって制定される法律や指令など, うさん臭くて従えないというのが彼らの一般的な感覚なのである.
補足: FloraとPolitisなどの情報システムの関係 PolitisなどHanasaka Cityの情報システムで処理される作業のうち, 非定型的な課題が発生したときのその課題に対する判断は, 中枢頭脳であるFloraによっておこなわれる. Floraは, 市の様々な課題を俯瞰し, システム間で矛盾した意思表示がなされないよう調整している.
ちなみに, Hanasaka Cityには人間の裁判官が裁く裁判所も存在しない. “Themis”という裁判システムが対立する両者の意見を踏まえて判決を言い渡す.
一般的な国家は, 市民は, 不服があれば高等裁判所に控訴し, さらには最高裁判所に上告する権利を持つとされているが, Hanasaka市民の99パーセントはそのような制度に何の意義も見出さない.
そもそも自分たちと同じ人間が自分の人生を左右するような大きな決断を下してそれを強制するなど, 全く受け入れがたいし, 判断する人間を替えたところで所詮は人間であり, 同じようなことを何回繰り返しても無駄に思えるからだ. そのためHanasaka市民にとってはThemisによって下される判断が唯一受け入れられるものであった.
“確かに…, Juliaさんが言う, 警備員に関する条例案がありました. 現在, 条例の内容を固める前のパブリック・コメントを求めている段階のようですが, こんな条例, Goblino市長が警戒するのは間違いないでしょうから, 拒否権を行使できる事項だと無理やり言って成立を阻止するのは目に見えているじゃないですか?”
Yoenがなおも慎重な姿勢を維持すると, Juliaは, “そうかもしれないけど, 今回はどうかしら. Kasgaさんの演説の後ですからね. 市長が拒否しても, 市民権を持つ市民の有効投票数の過半数の賛成がPolitisで再び得られれば成立しますから.”と, Kasgaの影響力は侮れないだろうという見解を示した.
“あの…, ちなみに, Grand Prix, いつおこなう予定でしたか?”
Akioは, メンバーたちの話題がGrand PrixそのものよりHanasaka Cityの新条例に移っていたにもかかわらず, 文脈を無視して質問した.
“11月9日です. Juliaさんから連絡が来ていたでしょ.”
話の流れに合っていないばかりか, Castle Officeのスタッフとして当然知っておくべきことについての質問であったため, Matildaから, ぼうっとしてるんじゃないわよ, という口調で冷たく伝達した. すでに新鮮味を失っている情報を受領したAkioは, “す, すみません.”と謝ったが, ふとその情報から別の情報が喚起され, 急に胸騒ぎがした.
“11月9日… 単なる偶然なのか…”
半月あまり前の7月13日に, Akioがプレイしている“Stone Souls”で, あのテロ事件の前日から行方不明になっていた“New Moon in the Dark”が突然復活した. これに対しては, このアプリの提供元であり運営団体である“Stone World”から連絡があり, サーバーの不調により一部のユーザーの一部の石のデータがしばらく読み出せなくなっていたことと, その不具合が修復されたことが知らされた.
そしてそのお詫びとして, 24日と今日, すなわち31日の朝に, Stone Soulsのロゴ入りの缶に入った500ミリリットルのミネラル・ウォーター6本が自宅に送られてきた.
Stone Worldはミネラル・ウォーターも販売しており, その水がとてもおいしいことは一般に知られていたため, Stone Soulsの運営側からお詫びとしてこれが送られてくる自体に不自然さは感じなかった. リワードとしても手に入れられるこの水がほしくてStone Soulsをやっている人も少なくなかったし, ユーザーが離れないようにつなぎとめるアイテムとして有用であった.
思わぬギフトを手に入れたことと, Castle Keepの炎上の前日に突然その石が消えた理由が分かったことは良いのだが, 新たな奇妙さが加わった.
以前は, “見渡す限り全部をがれきにしたい”という信条を持ち, 毒舌家のキャラだったこの石が, 一変して自らの信条を“私は消されたくない”に変更し, 復活後は, 世をはかなむ発言が多く, ギフトが最初に届いた日には, “あと108日の命”とつぶやき, その後も時々, 余命が着実に減っていっていることを嘆き, 今までの攻撃的もしくは積極的な態度と真逆になった.
Akioは, この激変ぶりに戸惑ったが, 不思議とこの石が自分のコレクションに戻ってきたことをうれしく思った.
黒いと一言で言っても, 長い年月により風化した表面はくすんだ黒であり, 他方で外部からの衝撃によって割れて生じた断面は鮮やかな黒で, その対比が鮮やかだった. また, 丸いと言っても, 宇宙空間に漂う微小惑星のような, いびつさと不安定さを備えた不完全な球体であった. 存在しなさそうで存在するものを表す“New Moon in the Dark”という名前も気に入っていたし, 他のユーザーからの評価も高かった.
そしてそれがほかの石とは違い, 寿命を持っていることに驚いたAkioは, “あと108日の命”とつぶやいた日にその108日目を計算したところ, その石の予告どおりなら11月9日に寿命が尽きて消えることになると分かり, カレンダーに印を付けた.
そして, その石に一層の愛着を感じるようになり, なんとか延命させることができないのか, その日以来, ずっと気にかかっていたのであった.
だが, ふと, 別の解釈が頭に浮かんだ.
“そもそも石は死なない. 死ぬのは人間…?”
その11月9日がGrand Prixの開催日であることを認識したAkioは, 余命がわずかだと言っているのは, 実はこの石ではなく, Grand Prixの主人公ではないかと考えた.
その主人公は誰か? 考えられるのは2人. まず, Grand Prixによって選ばれたApex Fighter. そして, そのApex Fighterにその証として“Diamond Sword”を授ける, 城の主でもあるKasga.
だがその2人のうち, すでに殺害予告を受けているKasgaがこの日に殺されることを予言していると考えたほうが自然のように思えた.
Moglaの言っていた解釈に従うと, 城が燃えて崩れ落ちたその次に, “spring sun”が沈む, すなわちKasgaの命が敵に消される日が11月9日であることをこの石は予言しているのではないかと思い至ったAkioは, “Juliaさん, あの…, も, もう一度, Moglaさんとお話をしたいのですが, よろしいでしょうか… なんだか…, その…, 危ない方向に, 向かってる気がして…”と, 願い出てみた.
Akioは, 石集めのアプリのお告げに基づけばKasgaが11月9日に殺害されることになるとはさすがにバカバカしすぎて言えなかったため, 争いのない平和な都市のはずのHanasakaが, いきなりきな臭い展開にずるずると引きずり込まれて, 結果どうなろうとしているのか知りたい旨を, たどたどしくも懸命に伝えた.
彼の申し出にJuliaは3秒ほど沈黙したが, “分かりました. じゃあ, 私からMoglaさんに問い合わせてみるけど, あのかたも忙しいから, 今回はすぐにアポイントメントがとれないと思います. それでも良ければ, お願いはしてみるわ. Yugoさんと一緒でもいいわよ.”