Part 1: The Ninth Spring
Chapter 1.7: Fanfare of Revival
Scene 1.7.1:
5月1日, 午前中は今にも雨が降りそうな天気だったが, 正午を境に一変し, 見事な快晴の空の下, 汗ばむ陽気となった. Hanasaka Castleを真ん中に据えたCastle Parkの中のやや東寄りに位置するHanasaka Arenaでは, Fighter Keikoの復帰第一戦になる, Sapphire West対Topaz Southの試合を楽しもうと多くの人が集まり, 観戦席はもちろん満員であった.
“Emerald Angel”という愛称を持ち, Hanasaka Cityの“North”と呼ばれるエリアにあるKassen club, “Emerald North”のBow Fighterであり, この春にSquad Leaderに昇格したばかりである, Chammei Jinは, Hanasaka Cityで働いている様々なロボットの製造や販売をしている“Hanasaka Robotech”という名の会社で機械設計の仕事をしている, いとこのJempinと一緒に, 東側スタンドの特等席に腰を下ろした.
Emerald Angelはその名前が持つイメージどおり, およそFighterとは思えない顔立ちで, 垂れ目で優しくてかわいい癒し系の女の子というタイプであった. しかも入学試験が難しいHanasaka Universityに在籍する学生でもあった. そうなると否が応でも世間の注目を浴び, Kassen communityのアイドルとして人気を集めていたが, 本人としては, アイドルになりたくてFighterになったわけではないと明言している. 彼女のbowの腕は超一流で, その技量をこのHanasakaで生かしたくてKassen clubに入り, Fighterとして戦い続けてきたのであった.
彼女がKassenの世界に入ってきたのは, Fighter Keikoの存在が多分に影響していた. Keikoは, 男女平等の人数配分でも男性の体を持つ者のほうが有利と思われていたKassenの定説を覆し, 互いに連係し協力すれば女性の体を持つFighterも十分に活躍できることを示した. 加えて彼女の場合は単独でもほとんどの男性体のFighterに勝てる戦闘能力を持っていた.
そうした彼女の姿に多くの女性が励まされ, Chammeiもその1人であった. そしてChammei自身も, 勝利に貢献する戦績を重ね, 今や, Emerald NorthのLeaderの1人となって, 多くの女性のあこがれにもなっていた.
“今日はちょっと暑いわね. この暑さ, Keikoさんには有利に働くかな.”
Chammeiは, smart glassesを外して, 特等席の正面に見えるCastle keepとそのバックの真っ青な空をぼんやり見ながら, そう思った. 実際, 彼女はSapphire Westの試合を時間が許せば生で観戦し分析していたため, Keikoが暑さに強いことは分かっていた.
また, このSpring Gamesを振り返ると, Topaz Southは, first roundの3試合を1勝2敗で終わり, second roundの初戦の相手のEmerald Northにも敗れていた. それに対しSapphire Westは, first roundは同じく1勝2敗であったものの, second roundの初戦は, first round 3連勝でfinal gameの切符を手に入れたGarnet Eastを倒している.
スターFighterが帰ってきたSapphireと, 他方, “Three Lightning Spears”のうち1人が不在のTopaz. 今日の勝負は, Fighterたちの気持ちの高ぶりとしてはSapphire側に分がありそうだとChammeiは考えた.
14時, Arenaにファンファーレが鳴り響いた. トランペットなどの金管楽器と打楽器による力強い音色で, 両teamのFighterの入場を告げた.
“生で聞くとゾクゾクするなぁ.”
Jempinは興奮を抑えきれない様子だった. 彼は, 2か月前にHanasaka Cityに移住してきたばかりで, Kassenの試合をライブで観戦するのは初めてだった.
まずは, 南東側のコーナーにある出入口からTopaz Southがfieldに入ってきた. Captainに続いて, Vice-CaptainのAbilioとLeaderのNelioの兄弟が, “mech-horse”と呼ばれる, 人や貨物の運搬に使用される動物の馬に似せたロボットに乗って現れると, 歓声がさらに大きくなった.
補足: 動物に似たロボットについて この物語で出てくる動物型のロボットの種類や詳細は、[[Technologies]]を参照ください。
“TopazのFighterは, 思ったより黒っぽいOutfitsを着ているんだね.”
KassenビギナーのJempinに, Chammeiが, “Topazのclub-colorは黄色だけど, その黄色を目立たせるために, 多くの部分を黒っぽくしているらしいの. 黒い土と, その土から生まれる果物や穀物を象徴する黄色によって, ‘大地のFighter’を表現しているのよ.”と解説した.
Topaz SouthのFighterたちは, 全体的に, 黒に近い濃い灰色を基調としたOutfitsを着けていた.
Torso (torso protector) は, Equipmentの規格によってその形が統一されており, 表面が滑らかな, 外側にやや湾曲した板状の, ガラス繊維など複数の素材から作られた強化プラスティックで作られたパーツを, 前面と背面の2枚, それぞれ肩から太いひもでぶら下げ, 両腰で, 面ファスナー (ヴェルクロウ) でつなぐようになっていた.
かつてこの辺りの島々で使われていたよろいは, 長さ5センチから7センチ程度の縦長の革や鉄でできた, 穴の開いた四角いうろこ状の部品をふんだんに使い, それらに丈夫なひもを通してつなげ, 着る人の体形に合わせて作られていた.
しかしながら, この小さい部品を数多く使うのは制作に時間がかかるため, 戦乱に明け暮れる中世の時代になり, よろいを大量に効率的に作る必要性が出てくると, 胴の部分は, そうした部品を使わず, 幅の広い革や鉄の何枚かの板を組み合わせて作るようになった.
そしてそうした量産型には, 板の表面を滑らかにしているものと, 板の表面にうろこ状の切り込みを入れて, それ以前に使われていたその小さな部品を組み合わせたかのように見せるものが作られるようになったが, KassenのFighterたちが着用するTorsoは, 表面がでこぼこだとWeaponsなどが当たった時に正しく反応しない恐れがあるため, 表面が滑らかなものであった. 他方, UnifierのKasgaが着用するものは, 彼女自身は戦う必要がないため, 見た目が美しい, 細かい切り込みを入れたものになっていた.
また, shoulder protectorやskirtは, 相手方のWeaponsの接触によって減点を発生させる部位ではないため, それらには人工の革や金属の小さな部品を, 太いひもで組み通して作り上げることで柔軟性を持たせてそれぞれのFighterの体のラインに沿うようなものにし, かつ中世の雰囲気を持たせ, 見た目も重視した. Topazの場合, そのひもの色は鮮やかなヤマブキ色であった.
色について付言すると, TorsoとArm-guardは, 相手方のWeaponsの接触によって減点を発生させる部位であることを明確にするために, それぞれのclub-colorに近い一色で塗られていることが求められており, Topazは, やや赤みのある暗めの黄色, いわゆるトパーズ・イエローをメタリックに仕上げた色を使っていた.
そして頭の上には, 黒に近い濃い灰色の, てっぺんが桃の頭のようにとがっているタイプのhelmetをかぶっていた. またRanked Fightersはhelmetの前面に, 薄い金属製の板で作られた“crest”と呼ばれる飾りを付けることを許されており, Abilioは, 稲妻を模したギザギザの金色の棒がX状に交差するものを付けていた. (このhelmetも頭部を守る重要なものであるため, 規則上, 強化プラスティックで作られていた.)
“あの‘馬’が途中で故障して動かなくなったときはどうするの?”
“そのときはそこに置いたままにして盾にでもするわよ. でも, 結構衝撃にも強いし, 動かなくなることはほとんどないけどね. Jempinの会社が作っている‘馬’もKassenで使われているはずだけど.”
彼らが言っている‘馬’は, 動物の馬ではない. 人間たちが予測不能に激しく動き回るKassenの試合の中で動物の馬を使役するのは馬に過度なストレスを与え, 動物愛護の観点から好ましくないと考えられていたからだ. それにそもそもHanasaka Cityでは動物を働かせることを, 原則, 禁止していた. そのためKassenでは, 人間が乗れる四足歩行の, ロバほどの大きさの運搬ロボット“mech-horse” を使っているのである.
補足: mech-horseについて このmech-horseはKassenのために作られたものではなく, 自転車よりも安定性のある乗り物としてHanasakaでは警察官も路上で使うことがあり, 免許があれば一般市民も使うことができる. Hanasakaの中では動物の馬はめったに見ないため, 普通は“馬”と言えばmech-horseを指す.
Kassenの試合において, mech-horseは同時に11機まで使用でき, Captain, Vice-Captain, Squad Leader, そして各teamに5人いるBow Fighterは乗ることができる. またmech-horseは, 乗れない者も含めて, 任意の地点に動かしたり, 並走させたりして, 相手の攻撃から守る盾として使うこともできる.
続いて, Sapphire WestのFighterたちが北東側のコーナーの出入口から入場してきた. 同じく, CaptainとVice-Captainが現れ, そしてSapphire Cometが真っ黒のボディに明るい水色の波模様を施したmech-horseに乗って現れると, この日一番の大きな声援が起こり, 悲鳴に近い歓声も交じってArenaの熱気が一気に上昇した.
Sapphire WestのFighterたちは“海のFighter”をイメージして, やや緑みのある濃い青のマリンブルーを基調色としたOutfitsで, そのTorsoとArm-guardは, やや紫みのある濃い青色, すなわちサファイアブルーをメタリックにした色で塗られていた. そして, shoulder protectorやskirtはセルリアンブルーの太いひもを組み通し, 人の頭の形をした丸いタイプのマリンブルーのhelmetをかぶっていた. そのhelmetに, Keikoは, 船のように寝かせた青みがかった銀の三日月の形をしたcrestを付け, 日の光に照らされて鋭く輝いていた.
“いいなぁ, Keikoさん. かっこいい.”
Chammeiがつぶやくと, Jempinが, “Meiちゃんだって今やスターFighterじゃないか.”と励ました. “Meiちゃん”は, Hanasakaで通用しているChammeiの愛称の1つで, 最もかわいらしい呼び名であった.
“でも, あの凛々しさは私にはない. 私もKeikoさんみたいになりたい.”
入場したTopaz Southは, battle areaのcenter-lineを境にして, その南の半分である“southern-end”に, Sapphire Westは北の半分である“northern-end”に入って陣を展開していった. (いずれも“end”を省略して, 単に“southern”または“northern”ともいうこともある.)
Kassenの試合は, 1回目のTeam Match (T1), 1回目のRepresentative Match (R1), 2回目のTM (T2) までを“first-half”としてくくり, half-timeと呼ばれる休憩を挟んで, 南北の陣を入れ替え, 3回目のTM (T3), 2回目のRM (R2), 4回目のTM (T4) までを“second-half”といい, T4の終了をもって試合終了となる.
“先にsouthernに陣取るTopazが, 日を背にして戦えるfirst-halfでどれぐらい押し込めるかだね.”
Jempinは, northern-endに陣取るSapphire Westは, first-halfは日光が目に入って不利になることを指摘した.
Jempinが言った“押し込む”という行為は, teamとして点数を得るために重要なことであった.
Kassenの試合は, 相手方のFighterのTorsoやArm-guardにWeaponsを接触させて持ち点をゼロまで減らして退場させつつ, 試合開始時に, 後述するcenter-circleとcenter-lineの交点の外側に1個ずつ置かれる, 長さ5.5メートル, 幅0.7メートル, 高さ0.7メートルの“Block”と呼ばれる, 重さ60キログラムの直方体の灰色のポリウレタンの障害物 (表面はポリエステルのカバーで覆われ防水性がある.) を相手方の陣のほうにどこまで押し込めるかを競う.
このBlockを, Fighterが相手方のFighterからの攻撃をかわしながら数人で協力して, center-lineから14メートル先に引かれた“first-line”と呼ばれる線を越えるところまで押し出せばteamに1点与えられる. そしてそこからさらに11メートル先に引かれた“second-line”を越えれば2点, もう11メートル先の“third-line”を越えれば3点追加される. つまりthird-lineを越えるところまで押し出せば計6点得られることになる.
次のTeam Matchに移るたびにBlockはリセットされるが, 合計4回のTeam Matchを通じて得た点の合計で, 勝敗を決する.
“でもほら, Arenaの外の花びらが動き出した. 南側と西側のあの白いハートが上に伸びてきたでしょ. Arenaを包むあの大きな4枚の花びらはそれぞれ上げ下ろしができて, 雨が降ってきた時なんかは4枚とも上に伸びてfieldの真上でくっついて, ドームみたいになるのよ.”
Chammeiは, 両手で花びらが閉じるイメージを作って説明した.
Arenaの外壁となる4枚の“Petal”と呼ばれる遮蔽物は, fieldの中天に向かってそれぞれ自在に伸びることができ, Fighterが直射日光でまぶしくならないように影を作ることができる. また, このPetalは円形のArenaの周りに沿って水平方向にも動くことができ, 太陽の動きを追いかけるように時計回りに動き, 影を継続的に作るようにしている.
“Keikoさんは‘M2-point’についたわ. これは正々堂々, 真っ向勝負ね. ほんと, かっこいい.”
Battle areaの短辺である2本の“end-line”のそれぞれ真ん中を結び, center-lineの真ん中で直角に交わるラインを“middle-line”といい, それとsecond-lineの交点を“M2-point”という.
First-halfとsecond-halfの最初のTeam Match (T1とT3) では, 両teamは, second-lineの位置まで自陣を展開でき, 開始の合図とともにcenter-lineに向かって走り出し, 激突することになる.
M2-pointはその最前線の真ん中であり, そこにteamで最も強いFighterを配置しているということは, Chammeiが言うとおり, 中央突破でかき乱すぞという意思表示といえる. それに加え, Keikoの完全復活を威圧的に宣言しているともいえる. そして当然この位置は, 相手方から激しい攻撃を受けることになるが, 味方に対しては, “心配するな, 私についてこい”と, 士気を高める効果もある.
“どのteamもsquadは3つあるから, center-lineに向かって, 左側, 真ん中, 右側に分けて配置するんだけど, Sapphireは, Keikoさんが率いるsquadを真ん中に置いているでしょ. その真ん中にいるFighterたちから見れば, 前方にあるBlockはcenter-circleの外にあるから, 自分たちの正面にはBlockはない.
“つまり, Keiko-squadはBlockを押すために編成されたんじゃなくて, 突撃して相手を斬りまくって相手の人数を減らすためのsquadといえるの. Keikoさんの左右にいる, Vice-Leaderたちも突破力があって強いし, その後ろに控えているFighterたちも足の速い者をそろえているでしょうから, これはSapphireが得意とする中央突破型の攻撃的な布陣なのよ.”
“Topazのほうは, Abilioが“near-side”, Nelioが“far-side”についたね. 両sideから回り込んでSapphireを叩くつもりなんだろう.”
SapphireのKeikoのポジショニングの意味について解説したChammeiに対し, JempinはTopazのThree Lightning Spearsの2人の配置に基づき自分なりの考えを言ってみたが, ChammeiほどKassenについて詳しいわけでもないため, 短いコメントに終わってしまった.
Jempinが言った“near-side”は, 単に“near”ともいい, middle-lineを境にして城に近いほう, すなわち西側の半分を指す. 反対側の遠いほう, すなわち東側の半分は, “far-side”または単に“far”という. そうであれば, eastern-side, western-sideといってもいいはずだが, Arenaの西側のPetalを低い位置に下ろしている時は, field上に立つFighterたちも城の石垣が見えるため, 概念的な東西でいうより, 城に近いほうか遠いほうかで呼ぶほうが分かりやすいため, そのように称していた.
Scene 1.7.2:
Arenaのfieldの東西南北に設置されてある電光掲示板に, “30”と照らし出された. いよいよ試合開始のカウントダウンである. Spear Fighterはspearを, Bow Fighterはbowを改めて握りなおした. Mech-horseに乗っているKeikoも, 右手に持つspearを少し持ち上げ, 開始の合図とともに前に振り下ろそうとする構えを見せた.
5, 4, 3, 2, 1…
“0”になって, 電光掲示板に備え付けられているスピーカーから一斉に, ピーーッ!と笛を吹く音が発せられた瞬間, 両teamがbattle cryを上げて走り出した. 12分間の最初のTeam Match (T1) の始まりである.
Center-line付近でぶつかった双方は, Blockを押す担当になったFighterたちは, 相手のspearやarrowに当たらないよう体を低くしてBlockを押しにかかり, 攻め担当のFighterたちは, Blockによる隔たりがないところで, spearで突き合うかswordで斬り合っていた.
Northern-endのSapphire Westは, Keikoが, Kassenの規則上, 秒速4メートル, すなわち自転車がややゆっくり走る速さまでしかスピードが出ないよう設定されているmech-horseを最高速度で一気に走らせ, center-lineを少し割ったところで相手方とぶつかり, さらに突破を図ろうと押し続けたが, 左右からの攻撃により次第に守勢に立たされた.
“最初は先頭にいたけど, 少しずつ後退して, いつの間にかcenter-lineより後ろまで下がって味方に囲まれている感じになっているね.”
Jemipinの感想にChammeiも同感だった.
“そうね. もっと強引に突き進むかと思ったけど, Sapphireとしては, Keikoさんが先頭に立って突撃することで味方の士気を上げながら, Keikoさん自身は, 馬上でspearを振り回すぐらいにして, 体力を温存させようとしているんだと思う. Second-halfにAbilioさんとのSingles Matchが待っているからね.”
試合開始から7分が経過した時, far-sideのBlockの付近のSapphireのFighterたちが相次ぎ脱落し, TopazがBlockをグイグイとnorthern-endのfirst-lineに向けて押し始めた. それを見たKeikoはBlockを押すTopazのFighterを蹴散らそうとそちらに近づいた.
“Leader Keikoが馬を下りた.”
“より機動的に動き回るためね. さあ, Keikoさんのspear-move, 来るわよ.”
Keikoが近づいてきたことで, Blockを押していたFighterたちは押すのをやめて, spearを突いたり振り回したりして彼女の接近を妨げようとした.
しかしKeikoは狙いを定めた1人のFighterの隙を見つけて自分のspearが届く位置まで近づき, spearを左手だけで相手のArm-guardに斜めに振り下ろして1点取り, すかさず右手で左腰の“scabbard” (swordのbladeの部分を収納する筒状のもの) からswordを抜きつつ, 相手にさらに近づき, その“Front Torso”をbladeで叩きさらに5点取った. いや, 叩いた瞬間, 右手を震わせコンコンと短くFront Torsoを2回叩いたため, 一気に10点奪い取ることに成功した.
数秒の間に合計11点減. 相手はKeikoに接近された時点ですでに残りのHPが10点だったため, 戦闘不能の赤色灯が点滅した.
“すげーっ! 見事なspearとswordのコンボ・アタックだ.”
“Keikoさんの瞬間必殺技. ほら, 周りのFighterたちはもう腰が引けて, Keikoさんに近寄ることもできない.”
Chammeiは, Kassen Fighterの一員として自慢げに, Keikoの一流ぶりを語った.
“あっ! Leader Nelioが近づいてきた.”
Far-sideを任されていたSquad LeaderのNelioが自らのsquadはそのままにして, 単騎でKeikoに右後方から近づき, 乗っていたmech-horseの上からKeikoの背中側のTorsoを目がけてspearを突いた. だが一瞬早く, Keikoは右に体をねじらせ, ギリギリよけた. それはNelioも想定内だったのか, 素早くmech-horseを飛び下り, Keikoの左前に立った.
“勝負!”
Nelioが2人きりでの相対バトルを求めると, Keikoも, spearを持ったままその右手で, 自分の胸を叩いて, 応じる旨を表明した.
Team Matchの最中に, Ranked Fighterどうしが差しで勝負する状況になった場合, Kassenの規則では特に決められていないが, 周りのFighterたちは横からちょっかいを出したり手助けしたりせず, 2人だけに任せる. こうした, Team Matchの進行過程で自然発生する2者間の対戦を“duel”という.
Douki Peersとして, 久しぶりの対面での再会だったが, あいさつの一言もなく, 2人のSpear Fighterはspear-headを互いに相手の胸のほうに向けてにらみ合い, 相手の出方をうかがった. 少しずつ双方が時計回りに足を運び, 先にNelioが仕掛けて, spearを前に繰り出した. Keikoは両足を地に付けたまま身を後ろにそらしてそれをよけ, 相手がspearを引くと同時に, 自分のspearを前に突き出した.
だがそれぐらいの反撃は想定していたNelioは体を右にひねって, Keikoのspearをわずかに右にかわしながら, すかさずもう一度spearを突き出し, この応酬を3回繰り返したところで, Keikoがやや前に出すぎたのを逃さず, 彼女の胸に目がけて突いた. Special deductionでマイナス5点. Keikoが一本取られた.
Keikoが片手を前に出して“ストップ”と伝えた. このduelはこれで終わりにしようという合図だ.
“一方的に打ち切っていいの?”
あっけない終わり方に疑問を感じたJempinの質問に, Chammeiは, “そうね. あくまでTMだから, いつまでも個人的な戦いを続けていると全体が見えなくなるし, 深手を負いたくもないからね. Keikoさんとしては, この勝負はNelioの勝ちということでいいと伝えたようなものよ.”と解説した.
“でも, ずいぶんあっさりと負けを認めたなぁ.”
“私もそう思う. Nelioさんとしては, 勝った気がしないかもしれないけど, Keikoさん, Abilioさんとの対戦が控えてるから, 手の内をあまり見せたくないんだわ. 今日は慎重ね. 手首のけががまだ完治していないのかな…”
この後, 双方ほぼ互角の状態で進み, first-halfの最初のTeam Match (T1) は, Sapphire Westがfar-sideでBlockをsecond-lineまで押し込んで3点取り, 他方, near-sideではTopaz SouthがBlockをfirst-lineまで押し込み1点を取った.
Scene 1.7.3:
続いて, 5人のBow Fighterたちによる“Shoot-off” (最初のRepresentative Match) がおこなわれた. Bow Fighterたちが出場するShoot-offは, 各teamに1つ用意された的に, northern-endのteam, southern-endのteamの順に1人ずつ射的をして, その自分と相手のペアにおいて相手より的の中心近くに射ることができた回数が, 5回のうち先に3回に達したほうのteamが勝ちとなる.
そしてRepresentative Match (“Shoot-off”または“Singles Match”) で勝った側のteamは, 相手方のBlockを1段階下げさせることができる. 今回のShoot-offではTopaz側が3対2で勝ったため, Topazは, far-sideでSapphireがsecond-lineまで押したBlockをfirst-lineまで戻させた. これによりSapphireは2点減らされ, 1対1となった.
“すみません, Keikoさん.”
5人のBow Fighterのうち, Keiko-squadに所属するBow FighterのBiliusがSapphireの“lounge”に戻ってきた時に, まずは自らのLeaderのKeikoに, 彼女が使う“Moto natives”の言葉で謝った.
KassenのFighterたちがくつろぐことができる“lounge”は, fieldのnear-sideの外側の地下に2か所設置されている. 野球のダグアウトのようにfieldの地面より下って中に入る構造になっているが, fieldに向かってオープンな空間で休むわけではなく, 横に大きく開く自動ドアから中に入ると, 60人ぐらいが入れる空間が広がっている. そこにはテーブルやいす, 水分を補給できるコーナーなどがあり, 野球のように観客から見られることなく休憩できるようになっている.
Biliusは, いすに座って休憩をとっていたKeikoが試合中に顔に着ける“smart goggles”を一時的に外していたため, 彼女の言語の, 自分の知っている簡単な言葉で話しかけたのだ.
基本的に, 使用言語が異なる者どうしで, smart glassesやsmart gogglesを付けずに, 相手が不得意な言語で会話することは失礼だとHanasakaでは考えられていたため, Keikoは慌てて手元に置いてあったsmart gogglesを着けた.
補足: Smart gogglesについて Smart gogglesは, 身体を激しく動かす場合や, 面積がより広い視界でたくさんの情報を得たい場合にsmart glassesの代わりに装着するもので, KassenのFighterたちも試合中に使用している.
“まあ, 気にせんでええから. とにかくfirst-halfは負けんかったらいい. 引き分けで上等や.”
そばでそれを聞いていたVice-LeaderのFalconは, 彼女のその言葉に安心した. Bow Fighterたちの負けを責めなかったからではない. 彼としては, けがで試合に出られずうずうずしていたはずのKeikoが, この試合でたがを外して攻撃的になりすぎないかと心配していた. それは本来のKeikoの戦い方ではないからだ.
相棒として彼女と戦い続け彼女を支えてきたFalconとしては, Keikoが“勝つ”ことよりも“負けない”ことにこだわる姿勢に, 底知れぬ強さを感じて敬意を持っていた.
“負けたくない.”
それはKeikoの口癖だった. 負けは誰だって嫌だしつらい. 勝つことで快感を得るよりも, 負けることで苦痛を受けるほうを避けようとするリーダーの姿勢に, メンバーは強い優しさを感じ, それがエコーのようにメンバーの間で反響し合ってKeiko-squadの仲間全体に心理的安全性を与え, 負けるのを防ぐ策を誰でも提言しやすい雰囲気が作られていた.
そしてそれはsquadを越えてteam全体に広がり, その結果, Sapphire Westは彼女がLeaderではなかった頃に比べて勝率を上げていたのである.
“で, Keikoさんはまだ体力, 温存しますか? けが, まだ完治してないんでしょ.”
Keikoの隣に座っていたFalconが心配した. 彼としては, Keikoが本調子でないならば, 引き続きLeaderの脇を固める形で動こうと思っていた.
“ウチのけがは心配せんでええって. Second-halfはもう少し暴れるつもりやから, T2はまだ‘守り優先’でいきたい.”
Keikoは, 自分があまり積極的に動いていないのは, けがのせいではなく, 計算どおりだからだと説明した.
First-halfとsecond-halfのいずれも, 最初のTeam Match, すなわちT1またはT3が終わった後, 次のT2またはT4が始まるまで, “intermission”と呼ばれる15分間の休憩時間が設けられているが, その間にFighterたちは, まずEquipmentが正常に動作しているかの簡易なチェックをEquipmentのinspectorから受け, HPを20点に戻すリセットをかけてもらう. (これを“Equipment Reset”といい, 略して“ER”ともいう.)
そのうえで, loungeでしばらく体を休めて水分等を補給できるのだが, Representative Match (“Shoot-off”または“Singles Match”) はこの15分の間におこなわれる. 従って, それに出るFighter (Shoot-offは5人) は, Equipment Resetを真っ先に受けてすぐにfieldに出て, それが終わった後にやっと休憩ができるのである.
補足: Equipment Resetについて Singles Matchが終わった後, それに出場したFighterは再びEquipment Resetをしてもらうため, その後のわずかな時間しか休めず, 体力を十分回復できないまま次のTeam Matchに入らざるを得なかった. もっとも, すべてのFighterに対するEquipment Resetが完了しない間は次のTeam Matchは始まらない.
Biliusたちが束の間の貴重な休憩をとった後, first-halfの2回目のTeam Match (T2)が始まった.
T2またはT4の開始に当たっては, FighterのHPも元に戻り, Blockもまた元のcenter-line上に戻されるが, Fighterたちが最初に位置につくスタートラインがT1またはT3と異なる.
前のTeam Matchで相手方の陣にBlockを押し込めたsideでは, 押し込んだ側は, second-lineよりも前方のfirst-lineまで張り出した状態で試合を再開でき, このボーナスを“head-start advantage”という. 従って, center-lineまでの距離が25メートルから14メールに縮まり, ほぼ間違いなくBlockに先に到着し押し出せる点で有利となる.
このT2では, Sapphire Westはfar-sideで, Topaz Southはnear-sideでfirst-lineから開始できる権利を得たため, この状態でFighterたちをどう配置するかでそれぞれのteamの考えが表れる.
Topazは有利なほうのnear-sideに, 攻撃力のあるVice-CaptainのAbilioとともにNelioのsquadを配置した. つまり, 有利なほうにより火力を集めて強気に押すということである.
一方, Sapphireは, 最初のうちは, 不利なほうのnear-sideにKeikoのsquadを置いて守りを固めるように見せたが, その後, Keikoはsquadから離れて, まるでVice-Captainのように遊撃に出て, nearに行ったりfarに行ったりを繰り返してわざと落ち着かない動きを見せ, Topaz側を翻弄した.
ただ, AbilioとNelio-squadが束になって押すパワーは強く, 結局, T2は, near-sideはTopazがBlockをthird-lineまで押して6点を取り, far-sideではSapphireがfirst-lineまで押して1点取り, first-halfは, Sapphire 2 対 Topaz 7で, Topazが大きくリードした.
“Sapphireは, 守り切れなかったということかな?”
Jempinは戦況分析をChammeiに求めた.
“Sapphire側がちょっと苦しいわね. たぶん, near-sideでthird-lineまでBlockを押されなければOKだと考えて守りを固めていたと思うけど, 思った以上にTopazの攻撃力が強かったということね. でも, これぐらいの差があるほうがKeikoさんの本気が見れるから, second-halfが楽しみだわ.”
Chapter 1.8: Sapphire Comet vs. Flash Lightning
Scene 1.8.1:
15分のhalf-timeの後, second-halfの最初のTeam Match (T3) が始まるにあたり, Sapphire WestのCaptainであるSoaは, “ME-point”と呼ばれる, middle-lineとend-lineとの交点に設置されているポール・スタンドに立てられているclubの旗 (Kassenの試合では, 単に“Flag”という.) の前に立って, 出場メンバー全員を周りに集めた.
“2対7でちょっと取られすぎたけど, みんな, 気にしなくていい. このT3と次のR2が一番大事だから. Keikoさん, 体調はどう? 疲れはある?”
Soaは, 左手を腰に当てて, 右手をKeikoのほうに差し向けて尋ねた.
“疲れてません. ばっちりです, Captain.”
Keikoは, 両手でガッツポーズを作って見せて健康優良ぶりをアピールした. Captain Soaは親指を立てつつも, Keikoに, Abilioとの直接対戦のために必要な体力は取っておくよう伝えた.
“我々の分析では, ‘AT’ は最近, 持久力が相当落ちている. おそらくすでにしんどいはず. もちろん, AT独りのせいでteamの力が大きく落ちることはないけど, 士気には影響する. さあ, チャンス到来. ここから牙をむいて襲いかかれ!”
(“AT”とは, ここではAbilioを指している. 試合中は作戦がばれないように, 各team独自の言い換え語を使うことがある.)
Southern-endに陣を移したSapphire WestのFighterたちが前方に散っていった.
Keiko-squadは, 今回は中央ではなくfar-sideについた. そしてKeiko本人は4人の足の速いFighterを周りに配置して, far-sideのfirst-lineに立った.
一方, Topaz SouthはVice-CaptainのAbilioがfar-sideのsecond-lineに立って, Keikoたちを迎え撃とうとしていた.
“Sapphire側は, Abilioさんがfarにいるのに合わせてKeikoさんをfarにつけた感じには見えなかったわ… しかも, さっきと違ってVice-Leaderたちを横に並べず後ろに控えさせて, KeikoさんとFighter 4人だけを前線に置くとは変ね… 思いっきり突撃するつもりはないように見せて, 何か仕掛けてくるのかしら.”
Chammeiは, Sapphireが奇策を講じるのではないかと予想した.
“ウチの読みどおりなら, Abilioさんはそんなに前には出てこないはず. であれば, やられずに前線突破できるかもしれん…”
Keikoは, mech-horseの手綱を左手で握りながら, まっすぐ前を見つめていた.
試合再開の合図とともに, Keikoは, 右手で持っていたspearを放り捨てて右横を伴走しているFighterにキャッチさせ, 手綱以外には両手に何も持たず, mech-horseを最大速度に一気に上げて走らせ, center-line上のBlockの前に着くや, mech-horseを急停止させて, その勢いで自分の体を前に放り出させ, 柔道の前回り受け身でBlockの上に着地し, スクッと立ち上がった.
“おぉ! なんという身の軽さ.”
JempinがKeikoの運動神経の良さに驚いた.
“でもいったい何をしたいんだ?”
Keikoはdaggerだけを左手で抜いて逆手に持ち, すぐさまそこから飛び下りて, 頭を前に少し倒し低姿勢で全速力で前に走り出した.
Fighterたちが持つdaggerは刃渡り25センチのもので, 腕が届くほどの接近戦で使うことはあるが, 基本的にspearやswordを持っている相手にdaggerで臨むのは不利であり, 広いbattle areaの中で走り回りながら使うようなものでもない.
“軽装のまま俊足を生かして突っ込むつもり? いくらKeikoさんでもむちゃじゃない?”
Chammeiの思ったとおり, すぐさまTopaz側のSpear Fighterたちのリーチ内に入り, 3人のSpear FighterからspearがKeikoのTorsoに向けて次々突き出されてきたが, Keikoは, spear-headから自分のTorsoをかばうような体勢をして柔道の前回り受け身で転がり, 1人のFighterの目の前10センチほどの至近距離でスッと立ち上がって, 左手で持っていたdaggerで“Front Torso”を叩きHPを5点減らした.
そしてそのFighterの背後に回って右手でswordを抜き, なんと今攻撃したそのFighterに対して, “動くな!”と, 背中越しに命令した.
対戦相手のLeaderに命じられたそのFighterは訳が分からなくなり動きが止まり, 周りの味方に, “バカ! そいつは相手方だ. 目を覚ませ.”と言われて我に返り, 体の硬直が取れるまでに5秒ほど要した.
そしてそのFighterが自分に魔術をかけた相手を見ようと後ろを振り返るや, Keikoも体を右にクルリと回転させ, まず右手に持っていたswordで, 続けて左手に持っていたdaggerでFront Torsoを叩き, さらに逆手でdaggerを握っている左手をひっくり返してもう一度コツンと当て, 計15点を奪った. これでそのFighterは先の5点と合わせて, 一気に持ち点の全部20点を失い, 戦闘不能を示す赤ランプが点灯した.
鮮やかな回転斬りを見せたKeikoは, 周りのTopazのFighterの度肝を抜き, うっすら笑みを作り, “次はおまえにしようか?”と, 近くにいたFighterを指差した.
ご指名を受けたFighterはビビって後ずさりした. 差し向かいでの戦いだとまるで勝てる気がしないTopazのFighterたちは, “独りじゃ無理だ. 大勢で囲め.”と誰かが言い出したために, Keikoの周りに5人ぐらい集まってきてspearやswordで彼女に斬りかかってきた.
こうなるとさすがのKeikoも太刀打ちできないため, 自分を囲む輪が狭まらないうちに, “こっちまでおいで.”と言いながら前方に走って逃げ出した.
“おい! 戻れ! ‘AK’はおとりだ!”
いつの間にか, Topaz側の言い換え語でKeikoを意味する‘AK’の言いなりになって彼女を無邪気に追いかけていたFighterたちにAbilioは持ち場に戻るよう指示したが, 遅かった. Keikoに注目しすぎて各Fighterが動いたためにTopazのfar-sideの戦線は隙間があちこちにでき, そこに差し込んできたKeiko-squad本体の攻撃にfar-sideは総崩れになった.
Keikoはおとりとしての役割を果たし, 途中でHPをゼロにして退場したが, このTeam Match (T3) で, Sapphireはfar-sideでBlockをthird-lineまで押し, またnear-sideでもfirst-lineまで押し込み, 一気に7点を追加し, Sapphire 9 対 Topaz 7とSapphireが逆転した.
“し, 信じられない. Spear Fighterがspearを全く使わずに戦うなんて… しかも, 相手側ですら自在にコントロールして, まるで一緒に遊んでいるみたい…”
数々のKassenの試合を見てきたChammeiもさすがに驚いた. そして, さっきまでのKeikoさん自慢のウキウキ・モードは消え, 陰うつな顔でうつむいた.
“どうした? 気分が悪いの?”
心配したJempinが声をかけた.
Sapphire Westの次の試合の対戦相手はChammeiがいるEmerald Northである. Hikoneでのけがから完全復活し, しかも以前よりも戦闘レベルが上がっているKeikoをじっくり見てしまったChammeiはつぶやいた.
“Keikoさんはやはり恐ろしい. 勝てる気がしない.”
Scene 1.8.2:
“やはり恐ろしいやつだ. あいつにとってKassenは遊びなのか…?”
もう1人, KeikoのT3での華麗なバトルを見て, Chammeiと同じ感想を持ったのがAbilioだった.
すでに“Mech-giraffe”と呼ばれるロボット1機が次のSingles Matchの組み方と戦い方を説明するために, “center-circle” (center-lineとmiddle-lineの交点を中心にした半径5.5メートルの円) の線上に立っていたが, Abilioはbattle areaの外でまだEquipmentのinspectorからEquipment Resetを受けていた.
Mech-giraffeは, mech-horseより首が長く, 頭の高さがおよそ3メートルある, 監視用ロボットで, Kassenの試合ではumpireを務めている.
Kassenでは人間のumpireはいない. Hanasakaの人たちは, 人間には正確な判断はできないと考えているからだ.
まず, nearとfarの両sideと, northernとsouthernの両endの組み合わせで, battle areaを4つの領域に分け, 4機のmech-giraffeがそれぞれside-lineの外から, Fighterたちが反則行為をしていないか監視している. Mech-giraffeは, 言語を操る機能があり, 人間のFighterたちと会話しながら, 試合を進める.
さらに, battle areaの5メートルほど上空を16機の“mech-dragonfly”と呼ばれる, トンボに似た小型の飛行監視ロボットが上からFighterたちの行動を見張っている.
補足: Mech-dragonflyについて Mech-dragonflyは, 羽ばたいて飛行するタイプのものもあるが, Kassenで使われているのは, 羽の形をしたフレームの先に空気を下に押し出す小さなプロペラがあり, それで揚力を得ているタイプである.
“Representative Match 2. Topaz South, Vice-Captain Abilio. そしてSapphire West, Leader Keiko. Mech-horseなし. 使用するWeapons, spearとsword.”
Arena内に大きな歓声が沸き上がった. いよいよ本日の試合の最大の見どころだ. Ranked FighterによるSingles Matchは, daggerを持たず, spearかsword, あるいはその両方を用いて, 制限時間の5分間に, 相手のHPをより多く減らしたほうが勝ちとなる.
“Flash Lightning”の異名を持ち, すべてのKassen Fighterの中で屈指のSpear FighterであるAbilioは, 思った以上にEquipment Resetに時間がかかったために, 彼の名前を呼ばれた時点ではまだ, Singles Matchの舞台であるcenter-circleに向かっている途中であった. しかし彼は, 金色の稲妻のcrestを輝かせて, その貫録を見せつけるように堂々と歩いて近づいていった.
“いや, あいつはKassenの天才だ. 遊んではいない. 遊んでいるように見せているだけだ. 最も得意とするspearをあえて捨てて身軽に動けるようにしたのは分かるが, それがなくてもあれだけ戦えて, しかも遊んでいるかのようなあの不気味さ… いったいあいつは何なんだ?”
Keikoはすでにcenter-circleに入っていて, 右手で彼女自身のトレードマークでもある“Four Star Spear”を立てて持ち, Abilioを待っていた. そしてそのspearのshaftの上のほうに縦一列に並んで埋め込まれている青色のLEDランプを光らせていた.
“Four Star Spear. Sapphire Westの最強のSpear Fighterが継承するspear. その現在の保有者, Fighter Keiko.”
彼は歩みを速めずに, 落ち着いた様子でサークルの中に入った.
“そうだ. Four Star SpearとFighter Keiko. Spear Fighterにとって, これほどすばらしいと感じる組み合わせはない.”
Abilioは, center-lineを挟んでKeikoと対峙した. そして, 目の前の, 凛々しい顔つきの隆々たるFighterをじっと見つめていた. Arenaに響き渡る声援も聞こえていなかった.
“だからこそ, この日の私の対戦相手として最高なのだ.”
柔道の試合のようにお互いに軽くおじぎをすると, “よろしくお願いします. Abilioさんとの対戦を待っていました.”と, Keikoがspearを立てたままAbilioに丁寧にあいさつをした.
“Keikoさん, 私もこの対戦, 本当に待っていた.”
Keikoの声は少し緊張していたが, Abilioの声は明るかった. 実際, その時の彼の正直な気持ちが現れていた.
開始の笛がfieldに鳴り響いた.
双方, spearを構えて相手をにらみ, 気合を入れた. 相手が動けばそれに合わせて自分も動き常に正対の位置をとった. しかしどちらもじりじり動くのみで仕掛けない. 基本的にKeikoは, 相手が強いほど, 相手が襲いかかってくるのを待っていることが多いが, 今日も同じように慎重な姿勢を維持していた. 2人の額には汗がにじみ出てきた.
“さすが, Abilioさん, 隙がない. Spear-headの向きが正確やから, うかつに出られへん. でも, ここで焦って攻めると, いつもやられてしまう.”
冷静さを感じさせるダーク・グレイのOutfitsに身を包んだAbilioを前にすると, Keikoは毎度のことながら落ち着きがなくなってくる. ここは平常心を保つことが肝要だと, Keikoは念じた.
“どうした? かかって来い!”
Abilioが挑発した. しかしそれに対してKeikoは何も答えず, Abilioに攻めかかろうとはしなかった. 戦っている本人たちとしては真剣だが, こうした動きのない状態は観客にとっては退屈になってくる. それに, “故意に消極的で時間稼ぎのプレイ”とmech-giraffeのumpireが判断し減点される恐れも出てくる. この場合はspecial deductionとなり5点を奪われるので大きい.
観客たちがいくらけしかけても, またumpireに減点される恐れがあっても, Keikoとしてはうかつに動けない事情があった. Hikone Castleで負傷した左手首が痛み出していたのだ.
さっきのT3でspearを持たなかったのは, おとり作戦のためでもあるが, 手首への負担軽減のため, daggerやswordに比べて制御に力を要するspearを持たなかったのである. もちろん単にspearを持たずにswordを振り回すことでも構わないが, それだけだと勘のいいFighterにはKeikoの手首がまだspearを長時間使えるほどには完治していないことがばれてしまう. だから, あの突飛な行動に出て, それを隠していたのだった.
相手に悟られないようにKeikoは気を引き締めていたが, どうやらAbilioは見抜いたようだった.
“今日は弱気だなぁ. 疲れているのか? その手首?”
“やばいっ!”
Keikoがそう思った次の瞬間, Abilioのspearの波状攻撃が始まった. 次々に繰り出される突き. そしてすぐさま引き戻して防御. Keikoは攻め返せずに防戦一方となった. このままだといつもの負けパターンに陥ってしまう.
だがKeikoは辛抱強く待った. 相手も疲れが出てくるはず. 1分…, 2分…, Arm-guardを2回突かれ2点を取られながら攻撃を堪えているうちに, Abilioのspearの引きが緩慢になってきたのをKeikoは見逃さなかった.
そしてAbilioの気が一瞬抜け, 引きがさらに甘くなったところでタイミングに合わせて, 右手だけでspearを持ち, Abilioの顔を目がけて突き出した. いきなり目の前にspear-headが飛び込んできたAbilioが, その体勢を反射的に一旦後ろに反り, 元に戻そうとしたところで, Keikoは右手のspearを急速に引きつつ, 左手だけで瞬時に左腰のswordを逆手でscabbardから抜き, さらにAbilioに体当たりし, その腹にbladeをコツンと当てた.
Abilioはこれで一気に5点失った.
“くっ. 素早い. こいつ, こっちに攻めさせて隙ができるのを待ってたな.”
思わず焦りの表情を見せたAbilioに対しKeikoは何も言わずにんまりと笑みを見せた.
“不気味なスマイル… 何を考えているのか…”
Abilioは, 彼女の底知れぬ強さを垣間見た気持ちがした.
“すべて計算どおりだと言いたいのか?”
Arm-guardを2回打たれたのは, KeikoがAbilioに2分間攻めさせるための織り込み済みの失点だったのだ.
Keikoはswordをscabbardに納め, 再び2人がcenter-lineを挟んでspearを構えて, にらみ合いが始まった. Swordで奇襲されたAbilioに対しては, 先ほどのように仕掛けにくい. 観客が見守る中, smart gogglesのAR viewのトップに表示された残り時間は1分と数秒になっていた.
補足: 試合時間の確認について Umpireであるmech-giraffeが持つ時計の進行は, そのまま同期してArena内の電光掲示板や各FighterのAR viewに映し出されるのでFighterたちも正確な時間が把握できる.
もうあまり時間がなかった. それにこの日は気温が高く, 2人とも体力を消耗しており, 早く決着をつけたいと考えていた.
するとKeikoは右手だけでspearを持ちつつ, 左手でswordをscabbardごと外して投げ捨てた. つまり, spearだけで勝負するという意思表示である.
望むところだと思ったAbilioもswordを放り投げた.
2人は気合の声を発しながらspearを数回突き合っていたが, 勝負が決まらないまま残りあと30秒となり, このまま終わるのではないかと周りが思っていたところ, Keikoは前に突き出していたspearを引き, 右側にspear-headを向けて寝かせ, 野球のバントをするかのように構え直した. しかし彼女は相手の出方を伺いそれ以上は仕掛けない.
Abilioは, Keikoが何をしようとしているのかいぶかったが, KeikoがAbilioにじりじり押されcenter-circleのラインぎわまで下がっているのを見て, 一気にラインから押し出して決着をつけようと考えた.
Ranked FighterどうしのSingles Matchは, center-circleの中で戦うことが求められ, その外に出てしまうとHPを5点減らされることになっているからだ.
そしてAbilioが, Keikoがspearを引いた分, 2人の間に広がった空間を埋めようと, ひじを伸ばしきるぐらいにspearを前に突き出そうとした, その瞬間!
“今や!”
Keikoは, 持てる力をすべて集中させ, 左手首の痛みをこらえ, “やーっ!”と, Abilioのspearを下からすくい上げるようにして思いっ切り, 彼女のFour Star Spearを振り払った.
振られたKeikoのspearのshaftが, Abilioが持つspearのshaftに当たって, Abilioのそれが彼の両手から離れて宙に浮き上がり, 彼の右方向に放られた.
“決まった!”
Umpireが笛の音を口から発し, 首をsouthern-end側に向け, “勝負あり! Sapphire West, Leader Keikoの勝ち!”と宣言した. Ranked FighterのSingles Matchでは, Weaponsをすべて自身から放してしまうとその時点で負けとなるのだ.
観客は驚きのあまりしばし言葉を発せなかったが, やがて歓声が上がり, 拍手が起こり, 口笛が吹かれた.
“へへっ, やった, やっと…, やっとAbilioさんに勝ったんや.”
Keikoは, 息を切らせながらspearをぐっと握り締め, 達成感が湧いてくるのをじっくりと味わおうとしていた.
“お見事. Keikoさん.”
Abilioが近づいてきて彼女の左肩をぽんと叩いた.
“Circle-lineまで下がったのも, spearの持ち方を変えたのも, すべて作戦だったのかな? やられたな. さすが, Keikoさん. これからもがんばって. 期待しているよ.”
Keikoは, 先輩の励ましを受けてほぼ反射的に, “ありがとうございます.”と礼を言って歯を見せて笑った. 2人は握手をして観客から声援を受け, それぞれの陣営に帰っていった.
しかしKeikoは, 100パーセント満足したわけではなかった. やはり, Abilioは調子が悪かったようで, これまでほど強いようには思えなかった. Keikoが強くなったから勝てたというより, Abilioが弱くなったから勝てたのではないかという疑念が残ってしまったのだ.
Chapter 1.9: Keiko’s Regret
Scene 1.9.1:
“ほんまに, あんなに強く振り回してたら何本あっても足りんわ.”
Workshop “Nemophila”の社長Kageroは, 店を訪れた妹のKeikoを応接室に招き入れ, 熱い紅茶とハート型のビスケット4枚を提供しながら, spearをもっと大事に扱うよう求めた.
KageroとKeikoは, 部屋の真ん中に設置されてある丸太のテーブルに90度の角を挟んで座り, Kageroは, 紅茶に入れるミルクを渡すと, Keikoは, カップの中に浸っていたティーバッグを引き上げてたっぷりミルクを注ぎながら, “あぁするしかなかったんや.”と, その注ぎ込まれた水面に生じた白い模様をぼんやり眺めながら無表情に反論した.
Sapphire Comet, Leader Keikoが持つ“Four Star Spear”は, Abilioのspearを思い切り振り払った時に, よほど衝撃が強かったのか, 折れはしなかったものの正常に作動しなくなり, 炭素繊維でできたshaftの部分の, Abilioのspearと接触した部分が塗装も装飾もはげ, 痛んでしまっていた.
Nemophilaの職人たちは, その損傷したspearを分解してshaftの部分だけを取り出し, その外側に付いている装飾を丁寧にはがしてからshaftの本体は廃棄し, 新品をメーカーから取り寄せて, 再び塗装し装飾を施して元の姿に戻した.
Abilioとの戦いから2日後の5月3日の夜, Nemophilaの職人たちが特急でFour Star Spearの修理を完了させたという知らせを受け, Keiko自らが翌日Nemophilaに受け取りに来たのであった.
朝10時に店に着いた彼女は, この後, そのきれいになったFour Star Spearを持って, 正午前にはSapphire Westの練習場であるVictoria Sports Centerに向かうつもりでいたため, clubから支給されたサファイアブルーのスポーツウェアを上下着ていた. その上にダーク・レッドの地味な薄いウィンドブレーカーを羽織っていたが, 部屋に入る時にそれは脱いで壁ぎわに置いてあったハンガーに掛けていた. 化粧はしていなかった.
Kageroは, 自分の妹の姿を見て, 彼女がおしゃれに興味を持っていないわけではないことは分かっていた. 幼いKeikoが着せ替え人形が大好きだったことも知っているし, 大人になったKeikoがファッションに関する記事や動画を時々見ていることも知っていた.
従って今日の彼女の身なりは明らかに, 世間の人がイメージするFighter Keikoを意識したものだった. 強い, 飾り気がない, かっこいい, きびきびしている, そう思われている彼女は, ファッションもがんばっているような姿を世間に見せてはいけないと思っていたのだ.
そうした思い込みは捨てても良いという意見はもちろんあるだろう. 個人の尊厳を重んじ, 性別や出自などでステレオタイプにその人を見ることを良しとしないHanasakaの価値観からすれば, なおのことそうであろう.
しかしKeikoは, 高校を卒業するまで, 体育を除くあらゆる教科の成績が平均より低かったことから, きっと自分はバカであり, これ以上バカだと言われないようにするには, 自分がよく分かっていないことについては他人の判断にゆだねたほうが良いと思っていた. 換言すれば, 戦うこと以外については自己肯定感がかなり低かった.
そのため彼女は, 世間の人の“Fighter Keiko”像から外れる行為には非常に慎重であった. たとえその像が幻にすぎないとしても, それに合わせて振る舞うほうが楽だったのだ.
そうした妹の生き方に対して兄として何か助言ができればいいが, 残念ながら現役時代は同じく, 強くて飾り気がなかった武骨なKageroはどう表現すればいいのか分からず, 結局, いつも会話のネタのほとんどはKassenだった.
ただ今日は, そのKassenの話ですら持ちかけるのをためらった. 久しぶりの試合に出れて, しかも勝てたわけだから, もっと明るい表情をしていてもよさそうなのに, Keikoの口数は少なく, 元気なように振る舞っている感じがした.
5月1日のTopaz SouthとSapphire Westの試合は, second-halfのSingles Match でKeikoが“Four Star Spear”を損傷させながらAbilioに勝ち, どちらのsideも1段階下げさせるべき相手方のBlockがない場合は単に1点追加されることから, Sapphireに1点追加された.
その後のTeam Match (T4)でも, Singles MatchでのKeikoの勝利で大いに士気が高まったSapphireがその気勢にのり, Topazの最後の激しい攻撃から守り切ったため, 結局, Sapphire 10 対 Topaz 7でSapphireが勝った.
その日の試合後のインタビューでは, もちろんKeikoがお立ち台に立ったが, Singles Matchで初めてAbilioに勝ったことの感想を聞かれ, うれしいと言いつつも, “今回はなんとか運よく勝てただけだと思ってます. Abilioさんは強いから, もっとがんばらなあかんと思います.”と答えた.
Keikoとしては謙虚な気持ちを示すつもりでそう答えたのだが, 意識して話していたかどうかは定かではないが, 今回はたまたま勝てたのであって, 本調子のAbilioはもっと強いから, 勝利したとはいえ非常にうれしいというほどではないという意味にとれる回答だった.
ところがKeikoは, そのインタビューの時の自分の発言をすぐに後悔することになった.
5月2日の15時, Castle OfficeのGreen Houseの中の一番大きな会議室にて, Topaz Southは会見を開いた. Spring Gamesでは勝ち星が少ないことから, 監督の辞任会見かと思いきや, Three Lightning Spearsの1人, Vice-Captain Abilioの突然の引退会見であった.
会見では彼本人が出てきて, 急性骨髄性白血病にかかっていることが数日前に分かったため, 明日から入院し治療に専念するものの, いつ完治できるか分からないし, 完治したとしても年齢的に今までのような激しい運動は無理だろうからFighterをやめて今後は後進の指導に当たりたいと引退の理由を述べた.
Abilioの引退をFalconから聞いたKeikoは, 最初はからかってそういう冗談を言っていると思って相手にしなかったが, Captain Soaからも同じことを聞きそれが本当のことだと分かると, 慌てて自分のAR viewで検索し, 会見の画像を映し出して見入った.
20分ほどの会見だったが, 最後のほうでAbilioは最後の対戦相手となったSapphireのKeikoについてどう思うか記者に聞かれた.
“Keikoさんは実にすばらしいFighterです. 今やすべてのKassen Fighterの中で最強だと思います. そんな最強のFighterと最後に対戦できて本当にうれしかったです. 負けはしましたけど私自身としては精一杯の力を出し尽くしましたし, 悔いはありません. 本当に感謝の気持ちでいっぱいです.”
Keikoはこれを聞いて, 自分が恥ずかしくなり, どっと力が抜けてしまい, 両腕も頭もがっくり垂れてしまい, その日は練習もそこそこにして帰宅してしまった.
“それでおまえは, 自分の言うたことまだ気にしてんのか?”
Kageroは, 本当は内気で優しい妹を気遣った.
“あんな生意気なこと, 言わんかったら良かったんや. 勝って素直に喜んでいたら良かったのに, 大先輩に対して, ほんまはもっと強いはずやろ, みたいなこと言うて…, ウチってほんまアホやなぁって… 今すぐにでも謝りたいぐらいなんやけど.”
Keikoは, ほおづえをついて外の景色をぼんやり眺めていた.
“Abilioは心の狭いやつやないから, 大丈夫やって. それにAbilioは, おまえに最高の誉め言葉も言うてたやろ. 記者から, なぜFighter Keikoを最強だと思うのかって聞かれた時に, ‘勝てる気がしないからです’って言うてたやろ.”
“まあ, そうやな…”
Kageroは, Keikoの生返事を聞いて, この言葉の意味をKeikoがまだ理解していないと分かり, “まあ, いずれ分かるわ. これがいかにすごいことか. 最強とは, 単に力が強いとか, 運動神経がいいとか, そうゆうことやないから.”と説明し, それでもKeikoの表情が変わらないことから, “とにかく, あのAbilioがおまえのこと, 最強やって言うてんねんから, 自信持ったらええで.”とフォローした.
“うん.”
Keikoは短く返事して少しばかり笑みを見せた. そして, 丸太のテーブルの上に寝かせていた新品のspearを手に取って, 上から下に, 下から上に, じっくり観察した. そして一列に並ぶ4つのサファイアの瞳が光ることも確認した.
“まぁでも今日, ウチのspear, 自分の手で持ったら, なんかちょっと元気出てきたわ.”
それはKeikoの偽らざる気持ちだった. 根っからのFighterだから, 新しいEquipmentを手に入れると, 次の目標に向かって闘争心が湧いてくるのであった.
KageroはKeikoが前向きになってきていることに安心し, “次はEmeraldとやな. がんばれよ.”と背中を押した. Second roundの最後の組み合わせで, Sapphire Westは, ChammeiのいるEmerald Northと5月5日に対戦する. Keikoにとってもこの戦いは楽しみであった.
Scene 1.9.2:
Chammeiは, Keikoより1年半後の5 E.E.の秋にKassen clubに入った. 当時, KeikoはVice-Leaderに昇格したばかりであったが, すでにKassen communityで成長性ナンバーワンと絶賛される注目のFighterであり, Chammeiは, 自分も彼女のようになりたいと願ってKassen Fighterの道を選んだ.
一方, Keikoは, 女性アイドルに負けないほどかわいく, しかも難関のHanasaka Universityに在籍する学生でもある秀才がEmerald Northに入団した時に, 本心では, あんなかわいくて頭のいい子と友達になれたらなぁと思ったが, 自分のような, 男と間違われるような女で, しかもテストの点数は軒並み極めて控えめだった人間は, 対戦相手にはなれても友達にはなれず, 自分とは別世界の人だと勝手に決めつけていた.
ところが翌年 (6 E.E.) のSpring Gamesが終了した後, Chammeiが, Keikoと2人だけで会って少しだけ話がしたいとSapphire Westのclub-officeに伝え, Victoria Sports Centerに現れた.
驚いたのはKeiko本人だけではなかった. そのほかのFighterもスタッフも, つまりclubの全員が, なぜKassen communityのスーパーアイドルがKeikoに会いに来るのか, しかもなぜ2人だけで話がしたいと言ってきたのか, 大いなる疑問と興味を抱き, Keikoに詰め寄った.
“いや, その, 私に聞かれても困ります. ほんま, 突然やから. どうしたらええんか…”
“え, じゃあ, 会わないんですか? 代わりに私がお会いしてもいいんですけど.”
ある男性Fighterが提案すると, スタッフが, “本人はKeikoさんとだけで会いたいとおっしゃっています.”と言って却下した.
あきらめきれない彼がずるいと文句を言うと, 女性Fighterが, “男は下心があるからダメなのは分かるけど, 女だったら一緒に会ってもいいですよね?”と割り込んだ.
“ダメだ. あくまでKeikoとだけで話がしたいと言っている.”
Sapphire Sharkこと, Kageroが低い声で周りを制した. 彼は, 5 E.E.のAutumn Gamesで重傷を負って悔いが残る形でFighterを引退したが, この日は, 再就職先のworkshopの社長になったあいさつ回りでたまたまSapphire Westのclub-officeを訪れ, Sapphireのスタッフと仕事の話をしていたため, Chammeiの来訪を知るに至ったのだ.
“グズグズするな. ロビーのベンチでさっきから待ってるぞ.”
Kageroは, Keikoに早く行くよう促した. とはいえKeikoとしては不安で仕方なかった. 同じFighterと言っても, まばゆくきらめく聖天使に, いつもの地味な上下スポーツウェアの恰好で会うのは恥ずかしいし失礼ではないかと思えた.
“いいから早く行け. これも戦いだと思え.”
Kageroに戦いだと言われて落ち着きを取り戻したKeikoは, こうなったら, 忙しいのに会ってやったという感じを出すしかないと心に決め, スウェットパンツのポケットに両手を突っ込んで, ゆっくり歩いてロビーに現れた.
“あ, わ, 私, 私の名前は, Chammeiです.”
目の前に現れた無表情なKeikoを見て, Chammeiはカチコチに緊張してあいさつをした.
“知ってんで. 有名やん.”
Keikoは初対面の人には丁寧な言葉を使うが, この時は先輩面してぶっきらぼうに答え, そしてごくわずかな笑みを見せて余裕たっぷりな感じを演出した.
Chammeiはぎこちない照れ笑いをして, 自分に会ってくれたことに対して一言礼を述べ, Inter-Alliance gameへの参加に向けての練習中に邪魔をして申し訳ないと謝ったうえで, 少女マンガで描かれるキラキラの瞳でKeikoを見つめた. そして, “私, Keikoさんみたい, すてきなFighter, なりたい, 思って, Fighter, なりました. でも私, ルーキーです. でも, もし, よかったら, ‘battle friends’, なりたい, 思います. 本当です. 普通のファンでないです.”と, ストレートに自分の気持ちを, 自動翻訳を使わずに, ぎこちないMoto nativesの言葉で語り出した.
Keikoの目が少し鋭くなり, 右腰に手を当てた.
“‘すてきなFighter’って言うてくれたんはうれしいけど, いきなり‘battle friends’って, この展開どうしたらええんやろ…”
唐突な彼女の申し出にKeikoのほうが緊張してきた. “Battle friends”とは, Kassen Fighterの間での友人関係のことだが, 違うclubの人と, battle friendsの契りを結ぶというのは, 数多くの戦いを通して互いに友情を深めた場合に限られ, それほど多くはなかった.
そのため彼女は何か返答しようとしたが, 言葉が出てこず, 相手がさらに何か言いたそうだったためそのまま聞く姿勢をとった.
“でも, 今までちゃんと戦ってない. だから, 言えない, 思いました. 我慢しました. 私の気持ち, Keikoさんから1点取るまで, 言えない, 思いました. でも, 前の試合で…, あの…, えっと…”
“いやぁ, 必死にアピールする姿, めっちゃかわいいなぁ…”
元来, かっこいい男性にはちっともときめかないものの, きれいな女性にはめっぽう弱いKeikoは, これ以上聞いていると全身の力が抜けてきそうに感じた. そのため, “覚えてんで.”と, ビシッとChammeiの言葉を遮って, 彼女の一生懸命な思いをすでに汲んでいるという意思を示した.
“前の試合のTeam Matchで, 確か, T2やったけど, 背中に射られて1点, T3で‘Front Torso’に射られて5点, それからまた背中にswordで斬りつけられて1点, 合計7点も取られたから. まあ, 私もT4でChammeiさんから同じくらい点数取ったと思うし, せやから, お互い十分戦ってるし, battle friendsになれると思うで.”
我ながらかっこいいセリフをひねり出せたとKeikoは満足した. そしてそのイケてるセリフを聞いたChammeiはますますその瞳を輝かせてKeikoを見つめた. 自分の思いをアクセプトしてくれたこともそうだが, 正確にその時の自分の戦果を覚えていることに驚き, それが非常にうれしかったのだ.
“いや, ちょっと, かわいすぎるやぁん… そんな目で見ないで. ウチ, デレデレになるやんかぁ…”
Keikoは内心もうすっかりメロメロになっていたが, 若干, 口元を引きつりながら, 必死になんとか冷静を装っていた.
Chammeiは, 自分のNexus Unitをカバンから取り出してKeikoの前に差し出し, “Keikoさんとつながりたいです.”と言ってぺこりと頭を下げた. これに対してKeikoがスウェットパンツのポケットに入れていた自分のNexus Unitを反射的に素早く取り出し, Chammeiのそれに近づけて, 相互に相手からの接続要求を受諾した. これによっていつでも連絡を取り合える関係になった.
それを確認するや, Chammeiはこれ以上練習の邪魔をしてはいけないと言って, 足早に去っていった.
天空から舞い降り, 軽やかな音楽と華やかな香りで包み込む, 光り輝く天使にすっかり魅せられ, Keikoはしばらくフリーズした状態でその場に立っていた. まさか, 同性であっても見とれるぐらいにかわいいChammeiが自ら友達になってほしいと言ってくるとは思ってもいなかったからだ.
“え, 何これ? ほんまにウチでええんかな. これ, 夢? いやいや夢やない, 現実やで, これ.”
Keikoは平静の装いを解いてガッツポーズをし, “よっしゃぁ!”と, 声に出して小躍りした.
そしてもちろん, ロビーから伸びる廊下で2人の様子をそっとうかがっていたKageroも喜んだ.
Scene 1.9.3:
“お兄ちゃんはMeiちゃんみたいな子が好きなんやろから, Emeraldのほう応援するんやろ.”
“いやいや, ちゃんと両方, 応援すんで. おまえとChammeiの対戦も楽しみや.”
“ウチも楽しみやねん. どういう形でduelに持ち込むか考えるだけでもなんかワクワクしてくるわ.”
Keikoは, Chammeiとつながった後, さらに親交を深めて, 今は大の仲良しになっていた. Kassen communityでは, 等級や年次や年齢などに関わらず, ファーストネームに“さん”を付けて呼ぶことが基本となっているが, 本人どうしが合意していれば, ほかの呼び方をすることもあり, KeikoはプライベートではChammeiのことを“Meiちゃん”と呼ぶようになった.
Keikoは, 自分が知らない世の中のいろんなことを教えてくれるChammeiを手放しで尊敬していたし, もちろん実力のあるFighterとして評価していた.
他方, Chammeiも, 最初はその強さや凛々しさにあこがれてKeikoと付き合い始めたものの, 彼女のまっすぐな優しさに惹かれ, また年下の自分に“私の先生”と言って慕ってくれることがうれしかった. そしてむしろ戦いの場面では, その並外れた運動能力だけでなく, 人間の心理に対する洞察力とそれを踏まえた実行力に驚かされることが多く, ChammeiもKeikoを“私の先生”として敬服していた.
30分ほどきょうだい2人きりで話した後, Keikoは, 復活した“Four Star Spear”を持って席を立った.
“あぁ, お兄ちゃん, 見送りなんかせんでええで.”
車いすのコントローラーを動かそうとした兄の手を制止させ, 背中を向けたまま手を振って部屋を出ようとした.
“今度は壊すなよ. ちょっと特殊なコーティングしたから前より折れにくいやろうけど.”
それを聞いてKeikoは立ち止まって振り返り, “変なことしてへんやろね.”と兄をにらんだ.
“おい, うちを違法業者と一緒にすんなよ. 規格にはちゃんと従ってんで. せやないと…, EISの人に怒られるやろが. そやろ?”
“EIS”の単語を聞いて思わずドキッとしたKeikoは,明らかに動揺していることが分かる表情になっていたものの, これ以上内心を悟られまいと, 慌ててまた背を向けて, “じゃぁいい.”とだけ言って部屋を出て行った.
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