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Part 1: The Ninth Spring

Chapter 1.11: Confusion at the Arena

Scene 1.11.1:

5月5日.  この日, Sapphire WestとEmerald Northとの試合が13時半からおこなわれる予定であったが, Castle Officeは朝からピンチに陥っていた. 

あらかじめCastle Officeのコンピュータ端末かサーバに仕込まれていたのであろうコンピュータ・ウイルスが暴れ出し, 試合のチケットを購入していた観戦予定者のデータを, Arenaの入退場システムがデータベースから呼び出せなくなったのだ. 

この異常に気づいたのが朝の9時を少し過ぎた頃だった.  Arenaを開場する11時まであと2時間弱しかない中, このままだと, 実際にArenaにやってきた観客と, 事前にネット上でチケットを発行した際に登録してもらった観戦予定者のデータとの照合ができず, スタッフ以外は, 誰ひとり入場を許可できない. 

慌てたCastle Officeは保守会社に連絡し, リモートでエンジニアの支援を受けながら異常の解消を図ったが, 11時までに復旧することはできず, 正午を迎えてようやく観客の入場を開始することができた. 

これは, Arenaを運営するCastle Officeとしては経済的損失にもなった.  彼らが試合開始の2時間半前にArenaを開いているのは, 時間に余裕のある観客にはゆっくりArena内に滞留してもらい, お昼時にはそこで昼食をとってもらいたいわけだが, 試合開始まで1時間半足らずしかないとなると, その分, Arena内でお金が落ちる量も減るのである. 

また観客としても, この日はまずArenaに入場するまでに外で待たされたうえに, さらに中に入っても, 昼食をとって観戦に臨もうにも, 一気に人が押し入ったせいでお店に長蛇の列ができてしまい, 二重にフラストレーションを抱えることになった. 

そしてさらに厄介なことが起きた.  Arenaの入退場システムの問題が解決したことを確認した矢先に, 今度はEquipmentを管理するシステムで異常が発生した. 

Fighterたちが使うEquipmentに関するデータは, Castle Officeと各clubが常に最新の状態で共有しているが, Castle OfficeのEquipment管理システムは, その日の試合で使われる予定のEquipmentについて, 試合前に念のために, club側が持っているデータとの突き合わせをおこなう. 

この時に, 一致しないデータが見つかることもたまにある.  Club側でEquipmentのデータを更新した場合, その更新されたデータは普通であれば1分の時間差もなくCastle Office側と共有される.  しかしながら例えば, そのデータの更新が当日のEquipmentの検査の直前だったような場合はまだ反映できていないことがある. 

ところがこの日は, 88件の不一致が見つかったのだ.  これは極めて不自然であり, 明らかに人為的な改ざんによるものといえた.  そして, Sapphire WestとEmerald NorthのEquipmentそれぞれ44件ずつに異常があったため, これはCastle Office側のデータが書き換えられたと考えて良さそうだった. 

もちろんこの場合でも, Equipmentのinspectorが試合当日にすべてのEquipmentを事前に検査する時にその88のEquipmentを現物確認してデータを修正することはできるが, 今回の厄介な異常は, データの修正値を入力できないようにロックがかかっていた.  そうなると, Equipment管理システムとしては, データ上の88のEquipmentが現物と一致しない状態であることをアラームし続け, 試合を開始することができない. 

困ったCastle Officeは, 保守会社のエンジニアに引き続き臨時サポートを求め, このロック解除に当たらせたが, 作業は難航し, 問題解消まで時間がかかることから, 今日の試合の開始時間を2時間延ばし15時半にする旨を, 13時ちょうどにアナウンスした.  もちろん, 何者かにCastle Officeのシステムに侵入されデータを改ざんされ, まだ復旧できていないためという理由も添えて. 

Scene 1.11.2:

その場内アナウンスがあった時, EIS (Equipment Inspection Section) のメンバーは, Arena内の検査室で, 双方のclubから送られてきていたすべてのEquipmentに対する検査を終えたところだった. 

この試合前の事前検査は, 試合中におこなうEquipment Resetのような, 携帯端末による簡易なチェックとは違って, X線装置などいくつかの検査装置を使ってEquipmentの不正や異常がないかを調べるとともに, 現物を見て得られるデータと事前登録されたデータとの照合により, そのEquipmentがデータどおりに実際に存在することを確認し, さらにそれを使うFighterと個々のEquipmentとのひもづけが正確にできているかも確認する. 

そうして検査した結果, 88のEquipmentについて, システム上のデータと実物の不一致を確認できたものの, その修正値をシステムに入力できず, 事務作業用のアプリにとりあえずメモ書きして, 異常なロック状態が解除されるのを待っていた. 

Juliaが, 今のうちに腹ごしらえをしておこうと言って, Arena内のEIS専用の部屋で, メンバーたちが一緒に, 支給された弁当を食べていたところ, “Information System Section”または略して“ISS”と呼ばれる部署のマネージャーのSuyuanが汗を拭きながらやってきた. 

“いやぁ, もう参りました.  JuliaさんもEISの皆さんもすみません.”

“あぁ, いえいえ.  Suyuanさんも, ISSの皆さんも朝早くからお疲れさまです.”

Juliaは, 持っていた割り箸を, それが入っていた紙の包みを折って作った箸置きの上にきちんと乗せ, 軽くおじぎをした. 

Suyuanから, EISのメンバーに対し現状についての簡単な報告があり, それによると, ロック解除のための金銭の要求のようなものは受けてはおらず, 侵入者は単に我々の業務を妨害したかったようであること, そして解除のための方策は分かったものの, 解除に必要なパスコードを特定するのに, あと1時間かかると考えられ, その後の検証作業などを考慮して, 試合開始を2時間遅らせてもらうことにしたことの説明がなされた. 

JuliaがSuyuanに, わざわざ足を運んで報告に来てくれたことに対して礼を述べた後, 彼は, システム制御室にすぐに戻らないといけないからと言って, 汗を何度も拭きながら小走りで去っていった. 

Suyuanが部屋を後にしてからしばらく, EISのメンバーは黙々と弁当を食べていたが, “敵もなかなか巧妙ね.  試合を中止させるほどでもないぐらいの嫌がらせをしてきたわけね.”と, Juliaがつぶやいた. 

“AkioさんやYugoさんからの報告によると, これも市長側からの攻撃でしょうか?”

メンバーのYoenが質問した.  Moglaが焼肉屋でAkioたちに教えてくれたことは, EIS内でのみ共有しても良いという, Moglaが設けた条件を守り, 今朝, その範囲でのみシェアしていた. 

AkioかYugoが答える前に, Resilinが, “Cypasの仕業じゃないですか?  Moglaという人もそのメンバーだから, どこまで信用していいか分かりませんが, 何か意図があって, AkioさんとYugoさんに市長側からの攻撃を示唆したと考えられませんか?”と, 諜報活動もおこなうCypas (Cyber Patrol Section) への疑念を差し込んだ. 

“私は, MoglaさんがAkioさんに伝えた, 市長側からCastle Officeに何を要求したのかが気になります.  Juliaさん, 何か見当がつきますか?”

Matildaの質問に対してJuliaは, “見当つかないわ.”と, ぼそっと無表情に答えた. 

その答えに, あるいは答え方にMatildaは納得がいかなかった. 

彼女は, 大人になってからウイルスによる感染症で聴覚が落ちてしまったため, 補聴機能が付いた特別なsmart glassesを付けて音声を聞き取っているが, それでも口をほとんど開かず小声で話されると正確に拾えない.  幸い, 翻訳技術の向上で, 本人の聴覚では聞こえなくていなくても翻訳アプリが文字起こしをしてくれるが, Matildaは, 聞き取りにくい小さな声で話す相手に対して, 聴覚に支障がある人には分からないようにわざと不明瞭に話して何かを隠そうとしていると疑念を抱いてしまうことがあった. 

そのため少しいら立って, “でも, Juliaさんの上はDirectorじゃないですか.  HarukiさんやどなたかからJuliaさんに伝えられていないのですか?  それとも, 今は私たちには言えないのですか?”と, さらに問うた. 

Castle Officeはフラットな組織であるため, Board of Directorsのメンバーである4人のDirectorがいわゆる経営幹部であり, その下にJuliaやSuyuanのようなSection Managerがいて, その下はもう, Akioたちのような一般の担当者である. 

Matildaは, Castle Officeのようなヒエラルキーがほとんどない組織の良いところは, 情報が広く共有されやすいことにあるのに, なぜこの組織の存亡に関わるかもしれない大事な情報を, ミドルマネージャーであるJuliaが知らない, もしくは教えてくれないのかいぶかった. 

“ごめんなさい.  本当に知らないのよ.”

Juliaは, Matildaがやや神経質になっている理由を察し, 今度はゆっくりとはっきりとメンバーに伝えた. 

EISのメンバーが弁当を食べ終わった時, “みんな, 私にランチボックスください.  リサイクル・ボックスに入れてきます.”とMatildaが言ってみんなから弁当箱を集めつつ, “Akioさん, 手伝って.”とAkioを指名し, その場から彼を連れ出した. 

“これぐらいなら, 独りで, も, 持って行きますよ.”

リサイクル・ボックスが設置されている場所へ向かう途中, Akioとしては親切心で言ったつもりだったが, Matildaはムッとして, “分かっていない…”と小声でつぶやいた.  ボックスのふたを閉めた後, Matildaは, “私は, Juliaさんは何かを隠している気がしますが, どう思いますか?”とAkioに尋ねた. 

それに対してAkioはけげんな顔をして, “いやぁ…, か, 隠したいことがあるようには…, 思えませんけど.”と答えた. 

MatildaはAkioの顔をまじまじと見つめ, “本当にそう思う?”と改めて問うた.  Akioは, 眉をひそめて, Matildaがいったい何をそう強く警戒しているのか分からないという心の中のつぶやきが見える表情で, “し, 心配しすぎじゃないかと…”と述べた. 

“そう…  分かりました.”

およそ隠し事ができない特異体質のAkioとの会話によって, Matildaは自分が疑念にとらわれすぎているのかもしれないと理解し, これ以上は追求しないことにした. 

Scene 1.11.3:

14時半頃, Equipment管理システムが復旧し, 予告どおり15時半から試合を開始できることが確実になった.  とはいえ, だらだらと待たされた観客たちは待ちくたびれていた. 

中途半端に待たされて調子が狂ったFighterたちも同じ気分だった.  彼らは, 試合の開始時間を遅らせるアナウンスが流れた時点ではすでにArena内にいた.  いつもであれば, EISに事前に預けていたEquipmentの返却を受け始める時間だったからだ. 

ところが今日のシステム不正侵入事件により, どちらのteamのFighterたちも, EISがEquipmentを預かったままの状態でさらに2時間もロッカールームで待たされることになった.  一応そこはロッカーがあるだけでなく, 簡易な飲食や休憩ができるようになっているものの, 暇つぶしに練習したくてもできず, Outfitsの下に着るスウェット・シャツとパンツのままで過ごすしかなかった. 

まもなく15時になろうとする頃, 彼らはようやくいつものEquipment装着のプロセスに入った. 

Fighterたちは, 各自, スウェット・シャツとパンツを身に着け, 底が薄く低反発性のシューズをはいた状態で, まずセキュリティ・ゲートに入る.  ここで貴重品やNexus Unitや身の回りの物品をスタッフに預け, 以後は, 許可されたもの以外は何も持てなくなる.  その状態でボディーチェック・ゲートを通過し, そこで, 試合中に使う特別なsmart gogglesとNexus Unitを渡され, 両者をコネクトする.  (いずれもArenaの外と通信ができないよう機能が制約されている.)

次に, 異常に縦に長い, 引き渡し室に移り, まず入口付近に設置されてあるベルト・コンベヤに乗ってhip protectorとshin protectorが出てくるので自分のものを受け取る.  空港のバゲージ・クレームのようなところだが, いつ出てくるのかそばで待つ必要はなく, 何時何分ごろに出てくるか各自に配布されたNexus Unitを通してAR viewであらかじめ知らされる.  またEquipmentには精密な電子デバイスが組み込まれているため慎重に扱われ, クッション性のあるトレイに乗って運ばれてくる. 

Hip protectorとshin protectorは受け取り次第, その場で自分で装着し, hip protectorの腰には小さなポケットがあり, そこにNexus Unitを入れておく.  基本的にOutfitsは面ファスナーで留めるため, 簡単に着脱できる.  Shin protectorの上部にはひざパッドが付いていて, hip protectorとshin protectorの隙間から, けがをしやすいひざが露出しないようになっている. 

それが終わるとその奥にあるコンベヤのほうに向かい, そこでArm-guardとshoulder protectorを受け取り, それらもその場で装着する.  Arm-guardのひじの部分はパッドが付いている. 

その後, さらに奥にあるコンベヤでTorsoとskirtを受け取り, そして最後のコンベヤでhelmetを受け取り, Outfitsをすべて装着し終える.  この4段階のOutfitsの受け取りと装着はテキパキとやらないと, 後ろから次々に入ってくるFighterたちの邪魔になるので, その部屋の各所にCastle Officeのスタッフがいてサポートしている. 

Outfitsの次はWeaponsである.  部屋の一番奥に設置されているカウンターで, Spear Fighterに対してはspearとswordとdaggerを, Bow Fighterには対してはbowとarrow 10本とquiver (arrowを収納する筒状のもの) とswordとdaggerを, EISの担当者が名前を呼んで直接本人に渡す.  Swordとdaggerはscabbardに収められた状態で渡される. 

こうしたWeaponsもコンベヤに乗せて渡しても構わないかもしれないが, 何もかも機械がやってしまうと人間どうしのコミュニケーションが希薄になりすぎるため, Castle Officeとしてはあえて人間に扱わせていたのであった. 

この日, 受け渡しカウンターでSapphireのFighterたちにWeaponsを返却するEISの担当者は, AkioとYugoとYoenであった.  返却を始める時にはすでに3割近くのFighterたちがOutfitsの装着を終えてカウンター前に待っていた. 

“本日はシステム異常の発生により…, み, 皆様を長らく待たせてしまい, 申し訳ございませんでした.  た, ただ今から…, お預かりしていたWeaponsを, 返却いたします.”

マイクを通したAkioの声にKeikoはさっと反応し, Akioのほうにキッと鋭い視線を向けた.  突き刺さるようなまなざしにAkioはドキッとして心臓が止まりそうになった. 

Scene 1.11.4:

Akioは, 大学時代に臨時スタッフとしてCastle Officeで仕事をし始めていたが, その当時はEquipmentの検査に関わる仕事は一切していなかった. 

そして正式にCastle Officeに就職した後, EISに配属され, 2年半前の6 E.E.のAutumn GamesからEquipmentの検査を始めているが, EISの仕事上でKeikoに初めて会ったのは, その少し前の夏であった.  Akioは, Equipmentを扱ういくつかの事業者に, その当時すでにEISのマネージャーであったJuliaと一緒に着任のあいさつも兼ねて定期診断に回っていた. 

EISのメンバーがそうした事業者の職場に立ち入る場合として, “定期診断”と“立入検査”がある.  前者は, Castle Officeが決めた規格に定める要求事項に基づききちんと業務がなされているかを定期的にチェックするものであり, 後者は, その要求事項に違反している可能性がある場合, 例えば不正なEquipmentを作っているという情報を得た場合に, それを確かめるために臨時におこなうものである. 

そしてAkioがJuliaとともにworkshopの“Nemophila”を訪問し玄関の扉を開けた時に, たまたまなのかその作業場にKeikoがいた. 

“こ, このたびEISに着任しましたAkioと申します.”

Akioは, Hanasaka CastleのKeepをモチーフにしたCastle Officeのロゴと, “Four Heart Emblem”と呼ばれるHanasaka Cityの紋章, すなわち4つのハートが四つ葉のクローバーのように組み合わされ, 上から時計回りに, 黄緑色, 桃色, 黄色, 水色に塗られ, 順にそれぞれ春夏秋冬を表すとともに, さわやかな心, 熱い心, 豊かな心, 冷静な心を表すといわれるマークが入った紙の名刺を, 玄関まで出迎えたKagero社長に手渡した. 

ビジネスにおいて, 自分の職と名前を紹介するのに紙のカードをわざわざ作って渡す必要はなく, AR viewの中で電子的なカードを互いに渡せばいいといえるが, Castle Officeは記念品の意味で, 大事なビジネスパートナーに対しては, 旧時代の人のように紙の名刺を手渡していた. 

こうした名刺には一応, ラストネームも書かれていることが多いが, EISに所属する者は, FighterやEquipmentを扱う事業者に対しては, 正確に自分自身を特定させないために, 彼らに対して決して明らかにせず, ファーストネームだけが書かれていた.  (AR view上, ファーストネームは物理的に接近している者には隠すことができないので, 偽名を使うわけにはいかない.)

しかしKageroは, 目の前にいる人物が, 妹の小学校の時の同級生のKAWAI Akimoriであることに気づいた.  玄関から見渡せる作業場の片隅にいた妹本人がAkioの姿を見るや驚きのあまり何か言葉を発しようとして慌てて手で口を覆い, 心の動揺を必死に隠そうとAkioのほうをまともに見ようともせず, 作業場からそそくさと出て奥のほうに隠れてしまったからだ. 

Akioも, 自分がEISにいることがばれてしまったと感じた.  そして, 今後, Equipmentを検査する時にどういうふうにKeikoと顔を合わせれば良いのか, Nemophilaに対する定期診断中, ずっと頭の中で考えていた. 

診断が終わり, JuliaとAkioがworkshopの奥にある応接室を出て玄関のほうに向かっていると, “診断, お疲れ様です.”と, 玄関脇に立っていたKeikoが2人に声をかけてきた. 

“あら, Keikoさん.”

Juliaが明るい声で応じると, Keikoは, “今日は, 私のspearを, 兄のworkshopでちょっと直してもらおうと思って, ここに来てました.”と笑顔で話した. 

“そうですか.  長い時間, お兄さんを拘束してごめんなさいね.”

Akioも, Juliaの後に何か言おうとしたが, “さ, 急いで帰るわよ.”とJuliaに封じられ, “失礼します.”とだけ言って一礼した.  そして頭を上げると, Keikoはほほ笑みながらAkioのほうを見て, “お疲れ様です.”と改めて言葉をかけた. 

その時Akioは, Keikoのほうから, 今後どのように接すれば良いのか答えを示してくれていることに気づいた.  FighterとEISのメンバーは親しげに話すことは禁じられているが, あいさつ程度の会話まで禁じられているわけではない.  また, その程度であれば, 笑顔で言葉を交わしてもおかしくはない.  Akioは, Kassen communityの先輩のありがたい教えを胸にしまいこんでそこを出た. 

その後, Akioは, 試合日にSapphire WestのEquipmentを検査し, 直接, Fighterに渡す際には, Keikoとも数秒間のあいさつ程度の会話をしているが, あくまでその域を出ることはなかった. 

ところがこの日のKeikoの態度は違っていた. 

Akioはこの時, Sapphire Westの中でもまさにKeiko-squadのFighterたちへの返却を担当することになり, 順次, 名前を呼び, Weaponsを手渡していった. 

5人ほどに返した後, Vice-LeaderのCocoricoが呼ばれてspearとswordとdaggerを引き渡された時, 彼は今まで散々待たされたことに不満を持ち, “全く, 待たせすぎですよ.  もうちょっとしっかりしてくださいよ.”とAkioをなじった. 

Akioは組織を代表して素直に, “申し訳ございませんでした.”と頭を下げて, 再び頭を起こすと, Cocoricoのすぐ背後に, 殺意をたっぷり含んだ形相で彼の後頭部をにらみつけているKeikoの姿が目に入った.  そして, どすの利いた声で, “おい, Cocorico, 何言うとんねん.”と, 彼に発言の撤回を脅迫的に求めた. 

Sapphire WestのFighterたちにとって, 平時においてもKeikoを怒らせるということは決してやってはいけない愚かなことであった.  それは自身に悪い結果が及ぶことが明らかな行為だからだ. 

そのため周りのFighterたちは, 冷や汗をかきながら, 目の前の検査員に早く謝れとCocoricoに目で合図した.  もちろんCocoricoも自分が今置かれている状況をすぐに察知したので, 唾をゴクリとのみ込んだうえで, “あぁ, いや, すみません.  実は私, 待つのは嫌いじゃないので何時間でも待てます.  ハハハ, あの, 決して文句を言っているわけじゃないので, 気にしないでください.”と弁明した. 

そして, すぐさま手渡されたものを両手で抱え, “さっ, 次, Leader Keiko様, どうぞ, どうぞ.”と必死の笑顔を作って自分が立っていた場所を彼女に明け渡し, そそくさと部屋から出て行った. 

次に誰にWeaponsを渡すかはCocoricoが決めるわけではなく, Akioの横に並べられているWeaponsが誰のものかによって決まるのだが, たまたま次はKeikoだったので, Akioは, “Keikoさん.”と彼女の名前を呼んだ. 

するとKeikoは瞬時に温和な顔に戻り, “はい.”とかわいらしく返事をしたうえで, “あの, 今回, 私, spearを新調したんですけど, その…, えっと, Equipmentのデータがおかしくなったって聞いたんですけど, それは, その, 私のデータが合っていなかったんでしょうか?”と, いまひとつ何を聞きたいのかよく分からない質問をもじもじしながらAkioに投げかけた.  周りのFighterたちも, うちのLeaderはEISの人に何を聞こうとしているのか首を傾げた. 

“た, 確かに, Keikoさんのデータも改ざんされていましたけど…, でも, Keikoさんがspearを, 新調したこととは, べ, 別に, 何の関係もありませんので…, ご安心ください.”

Akioは, 異常な脈拍の上昇を感じながら, 平静を装って, EISの人らしく冷静に答えた.  それは多くのFighterたちにとっても予想の範囲内での回答であるが, うるんだ目でAkioの顔を時々ちらちら見ながら聞いていたKeikoは, “そ, そうですか.  良かったです.  ありがとうございます.”と言って歯を見せて笑顔を見せた. 

そして, さらに何か質問をしようとしたが, それは思い留まって, spear, sword, daggerの3本セットを受け取って, その場から引き下がった. 

“へへ, Akiくんとちょっと話せた…”

15時30分, 両teamがfieldに入場し, ようやくSapphire West対Emerald Northの試合が始まった.


Chapter 1.12: Sapphire Comet vs. Emerald Angel

Scene 1.12.1:

この日の試合のfirst-halfは, Emerald Northがnorthern-end, Sapphire Westがsouthern-endに着陣し, 双方ともsecond-lineに沿ってSpear Fighterたちが一列に並び, その後ろにVice-Leader以上のRanked FighterやBow Fighterがmech-horseに乗って控える形をとった. 

SapphireのLeader Keikoは, Topaz Southとの試合とは異なり, third-lineとmiddle-lineの交点である“M3-point”にいた.  これは相手方の出方に応じて迎え撃つ, 守りの形であった.  

“なるほど, あれがMeiちゃんの新しいBow Fighterのsquadか.  Near-sideの真ん中へんから, どう出てくるかなぁ.”

Keikoは乗っていたmech-horseの上からEmerald側の陣形を観察していた. 

Emerald NorthのFighterたちのOutfitsは, 濃いセピア色を基調とし, Torso (torso protector) とArm-guardは深くて鮮やかなエメラルド・グリーンをメタリックにした色を塗り, “森のFighter”をイメージしていた.  そして, 基調としている濃いセピア色の, 人の頭の形に似せた丸いタイプのhelmetをかぶっていた. 

Leader ChammeiはEmerald Angelの名にふさわしく, helmet, skirtそしてshoulder protectorにはエメラルド色のハート形の象眼細工があちこちに散りばめられ, helmetのcrestは金色のハートの形をしている.  両耳にもハート形のピンクのイアリングを付けていた.  そのいでたちのきらびやかさは, Kasgaを除けば, Kassen communityの中で一番ではないかと賞賛されているが, 見た目と戦い方は違っていた.  彼女は, fieldで出す声はKeikoと同じくらい大きく, 冷静で, 果敢に攻めてくるタイプだった. 

Kassenの試合でBow Fighterは, 味方と相手方が入り乱れる中で歩きながら, あるいはmech-horseに乗りながら, 相手方のFighterのTorsoやArm-guardを狙ってbow-shotをするため, 飛距離や威力よりも操作性に優れたbowを使う必要があり, かつてこの辺りの島々で使われていた伝統的な長いタイプは使わず, 長さが1メートル余りの短いものを使っていた. 

そしてKassenというスポーツは障害物のない真っ平らなfieldにおける近接戦闘で勝敗を決するものであるが, bowは近接戦闘には向いていないため, 相手がspearでは届かない距離を置いてarrowを放ち, 相手がさらに接近してきた場合はswordに持ち替えて戦うことになる.  ただ, swordに持ち替えようとすれば, それまで持っていたbowはどこに置くのかという問題が生じる. 

それに一度に携帯できるarrowの数には限りがある.  Bow Fighterは, 腰または尻の辺りに装着したquiverからarrowを取り出して射るが, そこには10本までしか入らない.  arrowは次々に放たれる消耗品であるため, 10本ぐらいはすぐになくなる. 

そこでKassenでは, 双方のend-lineの外に, 地面に立て, 10本のarrowをセットできるground quiverを等間隔にそれぞれ15か所まで設置して計150本のarrowをいつでも補充ができるようにした. 

また, Kassenで使うmech-horseには, saddleの後ろにbowを縦に突き刺せる口を設けてそこにbowを押し込むことができるようになっており, それに乗りながら, あるいはその近くにいることで, 持っていたbowからswordやdaggerにいつでも替えれるようにした.  動物の馬ではなく, 機械の馬であるため, 形状のみならず機能や性能も法令の許す範囲で自由にカスタマイズできることを生かしている. 

ただ, arrowが尽きるとend-lineまで戻ってこないといけないという制約があるのがBow Fighterたちの悩みの種であった.  しかしEmerald NorthはChammeiたちの発案により, Bow Fighterの戦い方を進化させた. 

彼らはなんと, end-lineの外のground quiverをすべて取り払い, 150本のarrowを15のquiverに入れ, 5人のBow Fighterにそれぞれ3つ渡し, それらを各自がmech-horseの首にぶら下げ, 自分が装着している分も含めて, 合計40本のarrowを自分の手が届く範囲に配備することを認めてほしいとCastle Officeに提案したのである.  そうすることで12分間のTeam Matchで, end-lineまでいちいち戻って来てarrowを補充する必要がなくなり, ほぼfieldの全域を自由自在に走って戦い続けることができるようにしたかったのだ. 

このやり方は, Bow Fighterに有利すぎるのではないかとファンの間で論じられたが, Castle Officeはさほどの時間を要せずに問題ないと判断し, 規則上, 正式に認められ, 今ではどこのteamもこれを採用している. 

こうしてBow Fighterたちがarrowの補充をあまり意識せずに, mech-horseに乗って自在にfield内を駆け回ることができるようになると, さらなる欲求が芽生えてきた. 

すなわち, 従来, Kassenのteam編成は, CaptainとVice-Captain 2人を除いた48人のFighterを3つに割り, Spear FighterとBow Fighterからなる16人のsquadを作り、 Flagを背に左, 中央, 右の3つの領域に配置していたが, それぞれのsquadにバラバラに所属していたBow Fighterと一部のSquad Leader以上のSpear Fighterを抜き取り, “rider”ともいわれる, mech-horseに乗れる者だけの集団を作りたくなってきた. 

そこでCastle Officeは, そうした従来の編成と異なるものを採用しても良いことにし, 今年 (9 E.E.) のAutumn Gamesから, “Captainは1人, そのCaptainを含むRanked Fighterの数は15人, mech-horseに乗れるのはSquad Leader以上のRanked FighterとBow Fighterのみ, mech-horseは最大11まで”という縛りは維持したうえで, 各teamが自由に編成できるようKassenの規則を改定することを決めた. 

そしてそれに先立ち, 今回のSpring Gamesでは, Vice-LeaderまたはBow Fighterの中から1人だけ, 4人目のSquad Leaderになることができ, その第4のSquad Leaderは, Vice-Leaderを配下に持たずに5人までのFighterを率いることができることとした.  これにより, 既存の各squadから引き抜いたBow Fighterたちだけで別のsquadを作ることも可能になった. 

この規則変更により, 各clubはteamの編成を変更するかいろいろ検討したが, Sapphire WestはKeikoの復帰がsecond roundからになったことを考慮して見送り, Garnet EastとTopaz Southは, 試合に応じて, Vice-Leaderの1人が第4のSquad LeaderとなってBow Fighterを集めて“rider-squad”を作り, 試験的に戦ってみた.  そしてこの改定を待ち望んでいたEmerald Northは, 5人のBow Fighterからなる“Bow Fighter squad”を作り, ChammeiをそのLeaderに任命し, これを常時の編成とした. 

ChammeiのLeader就任は, Kassen communityにおいては画期的なことであった.  入団時からずっとBow Fighterであった者がSquad Leaderにまで昇格したのは初めてだったからだ. 

そもそも近接戦闘に弱いBow Fighterは, Kassenという接近戦のスポーツでは活躍の場があまりなく, Spear Fighterを援護射撃したりFlagのそばで指揮するCaptainを守ったりする日陰の脇役というイメージが強かった.  その割には弓術という特殊なスキルが必要であり, 成り手も比較的少なく, Kassenの規則上, Bow Fighterの数は5人と固定されていた. 

そんな地味で少数のBow Fighterたちにとって, Emerald NorthのChammeiは, Bow Fighterであっても日なたの道の真ん中を歩けるのだと教えてくれた存在であり, 尊敬とあこがれの対象であった. 

Scene 1.12.2:

電光掲示板でのカウントダウンがゼロになった瞬間, 双方がcenter-lineに向かって走り出し, ほどなくぶつかった. 

Chammei率いるEmerald Northの5人のBow Fighterたちは, near-sideの前線より少し後ろで, 前に突っ込んでこようとするSapphire WestのSpear Fighterたちにarrowを放って牽制していた. 

この様子を, M2-point (middle-lineとsecond-lineの交点) までmech-horseを進めたKeikoはちらちらとうかがっていた.  動きがおとなしすぎるからだ.  Bow Fighterとしてのオーソドックスな守りをするために, わざわざBow Fighterのsquadまでこしらえるはずはない.  仕掛けてくるのは時間の問題. 

そして, 時は来た.  試合開始から3分経過後, Chammeiは, Sapphireのnear-sideのsquadがcenter-line沿いに十分引きつけられていることを確認するや, “Go!”と掛け声を発し, 彼女のsquadが1つの塊になってnear-sideの外側から, つまりBlockをside-line側から迂回する形で, Sapphireの陣内に入ってきた. 

Emerald Northが新しく生み出した, Bow Fighter squadを使った戦術は, この5騎が一気に相手方のCaptainに襲いかかるというものだった. 

Captainには, 全体を指揮命令する以外に大事な役割がある.  それは, end-lineとmiddle-lineの交点に置かれた“Flag stand”と呼ばれる三脚ポール台に立て掛けられている自分のclubのFlagを, そのFlag自体やFlag standに触れてはいけないという制約の下で、相手側に引き抜かれたり, arrowを射られて倒されたりしないよう守るのである. 

もしそうしたことを許してしまうと, その時点で試合は一旦止まり, 相手方の陣に押し込んでいたBlockは2つともcenter-lineまで戻され, FighterたちもそのTeam Matchの開始時の位置に戻ることになる.  つまり初期設定に戻すリセットをかけるのである. 

このようにFlagを取り上げるかarrowで倒すことによるBlockのリセットを“Flag Triggered Reset”または略して“FTR”といい, それは, 自分のteamのほうがBlockを押し込まれているときは意味があるが, 押し込んでいるときは意味がない.  従って, 自分たちのほうが押し込まれて不利な状況において, 双方がもみ合って戦っている中から少数の者が抜け出して一気にFlagを奪いにいくという, 相手の隙を狙った形勢逆転の手段であった. 

しかし今まさにEmeraldのBow Fighter squadがやろうとしていることは, そうした目的を持っているわけではなかった.  Flag Triggered Resetのためではなく, Captainを集中的に攻撃してHPをゼロにして退場させようとするものであった. 

Captainがつぶれた後は, それに代わってVice-CaptainがFlagを守ることになるが, そうなればそのVice-Captainを次につぶす. 

要するに, Flagのそばでそれを守る者を何度も襲って倒そうとする姿勢を示され続けると, 相手方にしてみれば, せっかく前線でBlockを押し込んで有利な展開に持っていけても, 自陣の後方が気になって仕方なく, 非常にやりにくい.  そこで, その厄介者の侵入を防ごうとすると, 陣形を縦に伸ばさざるを得なくなるが, そうすると前線に火力が集中しないためBlockの押し合いで負けてしまう恐れがある. 

つまりこれは, 相手方を翻弄して主導権を取らさない作戦である. 

“来たな.”

ChammeiたちのBow Fighter squadがcenter-lineを渡るや, Keikoは自分のsquadのVice-LeaderのFalconに, “バーイ.”と言って, その後の指揮を彼に任せて, Chammei-squadのほうにmech-horseの首を向けた.  同時に, Sapphireのnear-side担当のVice-Captain Shion, far-side担当のVice-Captain Marco, near-side担当のSquad Leader Galpagoも, あらかじめ示し合わせたとおり, 持ち場を離れてKeikoと同じ方向に駆け寄っていった. 

つまり, Sapphire Westは, 従来の編成を維持しつつ, 状況に応じて, mech-horseに乗れるRanked Fighterたちが指揮を下位の者にゆだねて, 即席のrider-squadを作れるようにしたのである. 

“やはり, 来たわね.”                      

Chammeiたちにとっても, Sapphire側のこの動きは想定の範囲内だった. 

そのためChammei-squadは, 彼女を中心に, 斜め前方の左右と, 斜め後方の左右に1騎ずつ合計4騎配置し, 迫ってくる者にarrowを射たりswordを突き出したりしてLeaderのChammeiを守りながら, 中央にいるChammei自身も適宜, arrowを射て, Sapphireが即席で作ったrider-squadの阻止を突破しようとした. 

そしてSapphireのCaptain Soaが射程範囲に入るや, Chammeiは, 恐ろしく正確なショットでそのHPを減らそうと, bowにarrowをかけようとした. 

しかしこの時Chammeiは, 自分から見て左側の視野にいるはずのKeikoが消えたことに気づいた. 

“へへっ, Meiちゃん, もらった!”

Keikoはいつの間にか後方の2騎による攻撃をかわしながら, Chammeiの真後ろについていたのだ.  そして持っていたspearでChammeiのTorsoを背後から1回突き, さらになんとそのspearを放り捨て, 驚異の跳躍でChammeiのmech-horseに飛び移った. 

びっくりする間もなく, Keikoは, Chammeiの体を右腕で背後から絞め, 左手で持っていたdaggerで彼女の“Front Torso”を2回叩いた.  一気にマイナス10点. 

たまらずChammeiは, Keikoをずり落とそうと, 右手で持っていた手綱を強く引いてmech-horseの首と両前足を上げさせてその背を後ろに倒し, さらに, 左手にbowを持ったまま, 無意識に体を少し左に回したところ, 左ひじで背後にいたKeikoの顔を突いてしまった. 

Mech-horseが上体を起こしたために後方へ荷重がかかったたうえ, ひじ突きをくらったKeikoは体勢を崩して地面に落ちた.  そしてその時, Chammeiの持っていたbowの一部がKeikoの顔面に当たったのか, ほおを切って血が噴き出た. 

すると近くにいたnear-southernの領域を担当するumpireが直ちに笛の音を発して試合を中断させて歩み寄ってきた. 

“Emerald North, Leader Chammei, 落馬行為.  減点5.”

Chammeiは反則を告げられた. 

Kassenの規則では, 当然ながらいくつかの反則行為が定められている.  例えば, 相手が人であれmech-horseであれ蹴ったり体当たりをしたりしてはならない. こぶしで殴ったり, 頭やひじで突いたり, 首を絞めたり, 両腕で抱きついたり羽交い絞めにしたりしてはならない. 首から上や股間をWeaponsで故意に攻撃したり, 柔道やレスリングで使うような締め技や投げ技を使ったりしてもならない. また, mech-horseから人を落とすようなこともしてはならないが, 自分のmech-horseに飛び乗ってきた相手をその制御によって振り落とすことは構わない. そのほか, side-lineの外側を通って前に進んだり, battle areaの外側から攻撃をしたりしてもならない. 

これらの行為を故意におこなった者は, 相手の反則行為や危険な行為に対する防衛行為と認められない限り, umpireにより反則と判断され, special deductionとしてHPを5点減らされたうえ, 自分の位置を自陣のend-lineまで戻される.  さらにその行為が悪質もしくは危険と判断された場合はumpireの頭の上の角が赤く点灯して即刻退場を求められ, その試合には出場できなくなる. 

Umpireは, 反則行為を見つけた場合や, 反則ではないが救護が必要なほどFighterが負傷した場合, 笛を吹く音を発すると同時に, 無線でfield中にいるFighter全員のすべてのEquipmentが無反応の状態になる信号を出し, 試合を停止させる.  そして反則の場合は, その反則行為者のもとに駆けつけ, 反則の旨を告げる. 

反則と判断されたFighterは速やかにbattle areaの外に出て, その時点で再びumpireが笛を吹き, 無反応状態を解除する信号を出して, 試合を再開させる.  その再開までの間, つまり試合を停止している間, 各FighterはEquipmentを下ろし, 自分のいるところから動かず, 再開の笛が吹かれるまで止まっていなければならない. 

反則をしたFighterは, battle areaの外を通って自陣のend-lineまで戻り, そこにEquipmentのinspectorが走り寄ってきて, HPの書き込み端末でそのFighterからHPを5点引き抜き, その後, 再びbattle areaの中に戻っていく. 

“Medic!”

Chammeiが, ほおから血をだらだら流しているKeikoを見て, umpireより先に, side-lineの外に控えていた応急手当をするスタッフのほうを指差して叫んだ.  しかし, Keikoが左手でほおを押さえながら右手で待てと合図した.  大したことはないと言いたいのだ. 

“だめよ, Keikoさん.  ちょっと休んで.”

“大丈夫やって.  平気やから…  ごめん.  ウチがむちゃなことしたから.”

Keikoは, Chammeiが反則をとられた結果に対する原因の一部は自分にもあると認めて, Chammeiに謝った. 

Chammeiも, Keikoを振りほどきたいがための突発的な行為であったものの, それによってKeikoがけがをした結果は素直に認め, “いえ, ごめんなさい…”と謝った.  そして, “Medic!  早く!”と再び呼びかけると, Keikoの合図で足を止めていた彼らが慌てて駆けつけた. 

“ありがとう, Meiちゃん.  すぐ戻るから.”

Chammeiは, Medicと呼ばれる応急手当をするスタッフからKeikoがその場でできる簡単な処置を受け始めたのを確認してから, ひじ打ちはわざとではなく, またそれがなくても, mech-horseの制御だけでKeikoはその背から落ちつつあったのではないかとmech-giraffeのumpireに主張したが, それがside-lineの横から見ていた映像と, 上空を飛んでいるmech-dragonflyが見ていた映像と照らし合わせて確認すると, やはりChammeiのひじ打ちが最後の要因となってKeikoがmech-horseから落ちたと考えられ, 判断は覆らなかった. 

Chammeiは, この時すでに相手方の陣の深くまで攻め込んでいたが, 自分のmech-horseに乗ったうえで急いで自陣のend-lineのほうに戻っていった.  また, Keikoも止血のために5分間の待機をmedicから命じられ, side-lineの外に移動して, そこに座ってmedicの付き添いのもとで休むことになった. 

“悔しい…  Bow Fighter squadの攻撃はKeikoさんには通じなかった.  まさか馬に飛び移ってくるなんて思っていなかった.  あの時, 私が反則をとられてむしろ良かったぐらい.  あと10秒ぐらいKeikoさんにしがみつかれてたら, 私はどうすることもできずにやられていただろう.”

Chammeiは, end-lineに戻り, EquipmentのinspectorにHPの書き込み端末をTorsoに当てられ5点を差し引かれた.  そして, mech-horseに乗った彼女は, 再びend-lineをまたいでbattle areaに入った時に, ふと気づいた. 

“あるいは…, 私が手綱を引いた時, Keikoさんの右腕が案外さっと離れた気がする…  もしかしたらここまですべてKeikoさんのシナリオどおりなのかしら.”

試合はすでに再開されていた.  主を失ったEmeraldのBow Fighter squadは深入りせずに一旦, 自陣に戻り, Chammeiと合流した.  その後もChammeiたちのsquadは, 隙あればSapphire側の陣に攻め入ったが, Keikoとのバトルと反則で16点も失い, 残りのHPが4点しかないChammeiは, おのずと慎重な判断と行動をとるようになり, 最初に攻め入ってきた時の迫力を発揮できないまま, first-halfの最初のTeam Match (T1) は両者得点をとれずに終わった. 

“やっぱりそうに違いない…  4点しかないLeaderをわざと生かして, 判断を慎重にさせてteamの足を引っ張らせたんだわ.  すべて計算どおりなら, 恐ろしい.  Keikoさんは本当に恐ろしい…”

一方のSapphire側も, EmeraldによるBow Fighter squadの攻撃に手こずったのは否めなかった.  5人のriderたちが自陣内に深く入られるたびに, 後方を警戒せざるを得ず, 前線でのBlock押しの進行が止まってしまいがちだった.  それゆえT1が得点ゼロで終わったというのは, Fighterたちに, 自分たちのいつもの戦いができないと不安を覚えさせ, 士気を低下させた. 

こうして重苦しい雰囲気でその後におこなわれたShoot-off (R1) ではSapphireが勝って1点取ったにもかかわらず, その後の, first-halfの2回目のTeam Match (T2) では, 両sideでEmeraldがfirst-lineまでBlockを押し込んだため, Sapphire 1対Emerald 2でfirst-halfを終了することとなった. 

“まずいですね.  T1でKeikoさんがChammeiさんの士気をくじいたのに, T2で気を取り戻した感じがします.  このままだとsecond-halfはさらに調子乗って攻められそうですね.”

Loungeでスポーツ飲料を飲み干したFalconは, 自らの分析を隣に座っていたKeikoに伝えた. 

“そうやな.  ウチもそう思う.  T3でMeiちゃんを叩いてみるか…”

“おっと, また飛び乗り芸を披露されるつもりですか?”

“いや, 同じことはせぇへん.  別の方法でやってみよかな.”

“ほう.  でもやけにChammeiさんにこだわりますね.  恨みでもあるんですか?”

Keikoは, 先ほどの負傷でほおに貼った大きなばんそうこうを上から軽く指で押して痛みが感じないかを確認したうえで, Falconの質問に対して鼻で笑って, “何言うてんの?  だってウチ, Meiちゃんのこと大好きやもん.  めっちゃ好きなbattle friendsやねんから, 本気で戦いたくなるやろ?  分かる?  この気持ち.”と, ニコニコしながら問い返した. 

“怖い人だ…  どうか, Keikoさんには好かれも嫌われもしませんように.”

Falconは, 心の中で神様にお祈りした.


Chapter 1.13: The Sparkling Flow of Blue Star

Scene 1.13.1:

Second-halfに入るに伴う陣替えによって, Sapphire Westはnorthern-endに, Emerald Northはsouthern-endに移った.  その最初のTeam Match (T3) の開始にあたり, 各々のポジションについていく中, Chammeiはsquadの仲間とともにnear-sideにmech-horseを歩ませた.  そしてふとSapphire側に目をやって驚いた. 

“Keikoさん, 馬に乗っていない!”

Keikoは, mech-horseから下り, Fighterたちが並んでいる最前線より後ろに控えていた.  これは明らかに何かを仕掛けてくる.  先のTopaz Southとの試合で見せたような奇抜な攻撃をしようとしているのか, あるいは自分の足で動いたほうが小回りが効くのでそうしたいだけなのか, いずれにしても, Keikoがいつもと違うことをしようとするだけで相手は不気味に思い, 思い切った攻撃に出にくくなるのである. 

“へへ, Meiちゃん, こっち見てる.  かわいいなぁ.  ウチのこと, 気になるよねぇ.”

KeikoはうれしくなってChammeiのほうを向いて大きく手を振った. 

“何やってるのかしら, Keikoさん.  試合中なのに.”

Chammeiは当惑して赤面した.  Keikoの周りのFighterたちも, うちのLeaderは何をやっているのだと, 場違いなKeikoの行動に困惑した.  しかし1人だけ冷静な男がいた.  EmeraldのVice-Captain, Aptiだった. 

“気をつけてください.  ヤツの狙いは最初からあなたです.  あれは, 今から行くよと言っているようなものです.  開始と同時に走ってくるでしょう.”

Near-sideを担当していたAptiは, mech-horseに乗ってChammeiのもとに駆け寄ってささやいた. 

“ありがとうございます.”

Chammeiの顔がこわばっているのを見てAptiは, “大丈夫ですよ.  この試合, 我々が勝ちますから.”と言って親指を立てて, 笑顔を見せた.  彼は, Chammeiが有能なFighterであることは十分に分かっていたし信頼していた.  ただ, 精神的なタフネスがまだ足りていないとも感じ, 適宜, 支えが必要だと思っていた. 

Chammeiは深呼吸をして気持ちを落ち着かせた. 

“そう, teamとして試合に勝てばいい.”

T3の開始の笛の合図とともにbattle cryが上がった. 

Keikoは, 最前線のFighterたちのすぐ後ろについてcenter-lineに向かって走り出した. 

と思ったのも束の間, 自慢の足で味方のFighterたちを抜き, 独走状態でspearを中段に構えて相手方の陣に突っ走った. 

Emerald Northの前線のFighterたちは驚きたじろいだ.  普通は, 相手との距離が縮まるとおのずと速力を落とし, spearのリーチ分は空けようとする.  反則である体当たりをしようとしていると, umpireに判定される恐れがあるからだ.  ところがKeikoは, 全く速度を落とさず, 真正面からspear-headをまっすぐ向けて全速力で突進してきた. 

これは反則になるかならないかのギリギリの行為である.  こうなると, たいていの者は逆に, 無意識によけて側面から攻撃しようとする. 

EmeraldのFighterたちも予想どおりに反応した.  しかしそれは単にKeikoに道を開けてあげただけだった.  彼らに攻撃の時間を与える間もなく走り抜き, そしてその先にいたChammeiのもとに駆け寄ろうとしたその瞬間, シュパッとChammeiが放ったarrowがKeikoの“Front Torso”に当たった.  いきなりのマイナス5点. 

ChammeiはKeikoが近づいていることにもちろん気づいていた.  KeikoもMech-horseに乗っているChammeiに前方から近づけばFront Torsoに射られることを警戒してやや前傾姿勢をとって走ってきたが, それでもChammeiは, 正確に当ててきたのである. 

だがそこまで織り込み済みのKeikoはめげずに走り, もう一発撃ちこまれる前に, ついにChammeiのそばに出た.  そして, “勝負!  馬を下りよ!”と, 彼女にduelを求めた. 

Chammeiがそれに応じてmech-horseを下りると, Keikoは, Bow FighterであるChammeiがspearを持っていないことから, “Weapons対等の原則”に従い, 持っていたspearを捨て, swordをscabbardから抜いた.  同じくChammeiもswordを抜いて構えた.  Ranked Fighterどうしのduelであるため, 周りのFighterたちは介入してこない. 

双方ともswordを握ったまま相手がどう出るか観察していた. 

“Meiちゃん, どっからでもかかってきなさい.”

Keikoがswordを上段に構えて挑発すると, Chammeiは思い切って前に踏み込み, Front Torsoに向かってswordを突いてきた.  しかしKeikoは素早く体を右にそらしてこれをかわした.  この瞬間, Keikoは, Chammeiの左のArm-guardにswordを振り下ろせたはずだが, 見送った. 

ChammeiもなぜKeikoが攻撃してこなかったのか理解できず, その大きな目でKeikoを凝視した.  そして2人はbladeの先をカチカチぶつけながらも, 相手の出方を伺っていた. 

“へへ, この感覚, ええなぁ.  でも, Meiちゃん, 真剣すぎて力んでるみたいやな.”

Keikoは, “Meiちゃん, 遠慮はいらんよ.”と改めて挑発し, swordを左手だけで持って, 右手で手招きをして見せた.  それを見ていた観客たちは, 大きな声援と拍手をもって2人の対決に期待を寄せた. 

Keikoは, “さあ, 皆さん, 注目してんで.”と言って, にんまりして見せた.  Keikoだけでなく観客からも大きなプレッシャーを加えられたChammeiは額の汗をぬぐいながら, 自らを落ち着かせようと大きく呼吸した. 

“うまい具合に追い込むな.  残念ながら, もうこの勝負, 見えてきたな.”

Aptiは, Keikoが相手を全く攻撃することなく心理的に圧迫していく様を見て感心した. 

この緊張感から脱したいChammeiは, Keikoに対し積極的にswordを振り回して攻め立てた. 

Keikoは, 素早いフットワークと俊敏な刀裁きでChammeiの攻撃をかわし続けた.  Chammeiの息が荒くなってきた.  Keikoも呼吸が速くなっているが, ほとんど疲れているように見えない. 

“まずい.  このままじゃ, Abilioさんと同じだわ.”

Chammeiは, 先のSapphire対Topazの試合のSingles MatchでKeikoと戦ったAbilioと同様, 自分がKeikoに追い込まれていることに気づいた.  Chammeiはswordの動きを止め, 慎重に相手を観察した. 

“どうしたんや.  もう疲れたんか.”

“Keikoさん, どうして攻めない?”

Chammeiはたまらず問うた.  それに対しKeikoは, “攻めたいんやけど, Meiちゃん, かわいいから, 迷てんねん.”とふざけた感じで答えたため, Chammeiがイラッときて, “ヤーッ!”と叫んで, 大きく前に出てKeikoのFront Torsoを目がけて上から打ち込んできた. 

“きたっ!”

Keikoは, Chammeiが大きな動作で攻めてきたこの瞬間を逃さなかった.  Chammeiがswordを振り下ろそうとするや素早く右斜め前に体を移して彼女の左側に接近し, 同時に左に体を回転させつつ彼女の左のArm-guardにswordを力いっぱい容赦なく叩き下ろした.  次の瞬間, Chammeiの左手首に強烈な痛みが走った.  そして激痛のあまり彼女は握力を失い, 持っていたswordを落とし, “ううっ…”と, うめき声を伴いながらその場にひざから倒れこんだ. 

Chammeiは肉体的な痛みのみならず, それ以上に精神的なダメージも食らった.  自分が望む勝負の形に相手を誘導し, そして叩く.  しかも一撃必殺.  Abilioの時も同じだった. 

“一発で負けた.  強すぎる…”

“大丈夫?  ちょっと強く叩きすぎたかな.”

Keikoはswordを自分のscabbardに戻したうえで, Chammeiの右腕をつかんで起こそうとした. 

Keikoとしては, このような場面であれば, 相手はWeaponsを持つこともできない状態であることから, 腕をつかみ上げてTorsoの前面を開かせ, swordで何度も突いて一気にHPをゼロにすることも可能である.  しかしChammeiがこれ以上まともに戦えないのは分かっているし, 親友に対してそのような追い討ちをかけることは彼女の性格上許されず, Arm-guardへの一撃による減点1だけで満足しswordを収めてしまった. 

ChammeiはKeikoを見上げて, “大丈夫です.”と言ったが, 痛みと悔しさでその大きな目には涙がたまり, それが今にもあふれ出そうであることが, Smart Gogglesを通してでも見えた. 

“Meiちゃん, battle areaでは, 涙は我慢しよ.”

Keikoに優しく声をかけられたChammeiは, 小声で, “ありがとう…”と答えるのが精一杯だった. 

Keikoは, Chammeiが自力で立ち上がれそうにないのを見て, 近くにいたumpireに, “Umpire!  Medic!”と, 手を上げて呼びかけた.  すると直ちに笛が吹かれ, 試合の進行が止まった. 

“ごめんね.  悪く思わんといて.  Meiちゃん本気やったから, ウチも本気で勝負したかっただけやから.”

Keikoは, ちょっとやりすぎたと反省し釈明した.  駆けつけたmedicに肩をかつがれて立ち上がったChammeiは, “いいの.  Keikoさんと, 勝負できてよかった…”と, 痛みをこらえながら涙目で控えめな笑みを見せた. 

Keikoも泣き出しそうな顔になって, もう一度, ごめんねと謝ろうとしたが, Chammeiは手を前に出してそれを封じ, “大丈夫.”と言って, medicとともに場外にとぼとぼ歩いて出て行った.

観客は, 負けたとはいえKeikoを必死に攻め立てたChammeiと, 勝ちながらも彼女の息の根を止めず, 武将としての面目を保たせたKeikoに大きな拍手を送った. 

Scene 1.13.2:

Umpireが再び笛を吹き, 戦いが再開された.  すでにT3の開始から8分が経とうとしていた.  KeikoがChammeiとの対決に集中しすぎてしまっているうちに, field全体を見ると味方のSapphireが劣勢に陥り, near-sideでBlockを押し込まれていた.  Chammeiにとっては悔しい負けではあるが, 価値ある負けといえた.  相手方のLeaderのKeikoを6分近くも釘付けにしていたからだ. 

“乗せられたんはウチのほうか…”

Keikoの表情が一気に厳しくなった.  地面に放り置いたspearを拾って手にしたKeikoは, near-sideでBlockをSapphireの陣に押し込んでいるEmeraldのFighterたちを後ろから襲いかかった.  Spearで背中を突かれたEmeraldのFighterたちが押し込む力を弱め, それに連れてSapphire側の士気も回復し, 結局双方ともBlockを相手陣のfirst-lineを越えるところまでは押せないままT3の終わりの笛が鳴った. 

その後のSingles Match (R2) はKeikoが出場して勝った.  1段階下げさせるべき相手方のBlockがない場合は単に1点追加されるため, SapphireとEmeraldは2対2の同点となった. 

両者拮抗した戦いの最後のTeam Match (T4) は, Chammeiを力ずくの荒業で退場させ, 強い痛みでその日は出場できないほどの傷を負わせた, “Sapphire Beast”と呼ばれるようになった, 憎きFighter Keikoに対する怒りで燃えるEmerald Northが, 猛烈な攻撃を仕掛けてきた.  EmeraldのBow Fighter squadはLeaderが不在のまま, たびたびSapphire Westの陣内に侵入し暴れまくったため, Sapphireの陣は総崩れになり, 両sideともBlockをじわじわと押し込まれ続けた. 

“チッ, うちのLeaderがやりすぎるから, こんなことに…”

開始から5分, far-sideの最前線でがんばっていたCocoricoが早くも戦闘不能にされてbattle areaを後にした. 

Cocoricoに舌打ちされたKeikoも反省していた.  Chammeiを負傷させるつもりはなかったのだ.  この試合の最初のTeam Match (T1) と同様, Chammei-squadのLeaderの士気を下げようとしたかっただけで, one-on-oneで戦って自分のほうがうわてであることを見せつけてビビらせることができればそれで良かった. 

しかしKeikoの野蛮な一撃で, 自分たちのLeaderがdaggerですら握れないほど手首を痛めつけられ, 泣き出しそうになるのをこらえて, Keikoに対して怒りの態度をとるわけでもなくおとなしく退場していった姿を見たEmerald側のFighterたちは, Chammeiの清らかさに心を打たれ, 同時にその分, KeikoやSapphireに対して憎悪の念を倍増させ, 士気が大いに高まったのだ. 

この燃え盛るEmeraldの闘志に押され気味の戦況をなんとか覆そうと, KeikoはFalconとともに相手方の前線を破って背後から攻め, 陣形を大きく崩して, Blockを押す力をそごうとしたが, Emerald側の守りはいつもにも増して固かった.  そこで突破はあきらめて, Keikoはmech-horseを下り, Blockの近くにいるEmeraldのFighterたちを片っ端からspearで攻め, 1人でも多く戦闘不能にして相手方の人数を減らそうとした. 

“野獣を恐れるな.  憎き野獣を倒せ.”

EmeraldのLeaderたちはそう言って仲間の士気を高めた. 

“なんやと.  もっとかわいい名前で呼べや.”

相手方の罵りによってKeikoの戦意も向上し, ウォーッと叫んで近くにいたEmeraldのFighterをspearで思い切り振り払った. 

“身長160センチ程度のあの体で, なぜあれほどのパワーが出るのか不思議だ…  パワーの乗せ方がうまいのか, それとも, 本当に野獣なのか…”

近くで一緒に戦っていたFalconは, Keikoの強力な攻撃を目にして改めて感心した. 

“ひるむな.  野獣を仕留めよ.  野獣に容赦するな.”

“こいつらわざと, 野獣, 野獣って, 言いやがって.”

対戦相手のあちこちから野獣呼ばわりされたKeikoは, さらに怒りを蓄え雄叫びを上げて野獣と化し, Emeraldの戦線を破って背後から叩ける位置まで出ることができた.  しかしそこまで来るのに無理やり暴れたため失点も多く食らっており, KeikoのHPはもはや4点しか残っていなかった. 

“Keikoさん, いつものスマートさが消えている.  力ずくではだめよ.”

Far-sideで奮戦しているKeiko-squadの様子を見ていたCaptain Soaはsmart gogglesのAR viewのトップに表示されている試合時間を一瞥した. 

“残り2分もない.  両sideともsecond-lineを越えてBlockを押されているし, もうあれしかない…”

Soaは, Keikoに対して, “Keiko!  走れ!”と, 相手方のFlagを指差して大声で指示を出した. 

Keikoが声に反応してEmeraldのFlag standのほうを振り返ると, EmeraldのCaptain Nitaiまでの間には, 散り散りになっていたBow Fighterが2人いるだけであることに気づいた.  EmeraldのFighterたちのほとんどはsouthern-endに押し寄せており, Captainを取り巻くべき守りが非常に薄い状態になっていたのだ. 

“やってみるか…”

Keikoはfar-sideのsecond-line辺りにいたため, Soaが指差したEmeraldのME-pointにあるFlag standまでおよそ85メートルあった.  この距離だと, たどり着く前にHPが尽きてしまう可能性が大きかったが, 彼女は覚悟を決めた. 

“Keiko, 行きます!”

Keikoは, 右手でspearを持って相手を牽制しつつ, あまりかっこいいことではないが, 左手だけで左腰付近にある留め具を外してhip protectorをその場で脱ぎ, そしてその持っていたspearも捨てて, northern-endのほうに振り返って一気に全速力で走り出した. 

“おおぉ!  出た!  ‘Sapphire Comet’だ!”

Fieldのnear-sideの外側に並んで設置されていある各teamのloungeに挟まれる位置にあるEIS用の試合中の控え室で観戦していたYugoは目を見張り, 驚きの声を発した.  Arena内の観客も大いに興奮し立ち上がった. 

Fighter Keikoの愛称“Sapphire Comet”は, 彼女が, helmetの三日月のcrestを日の光で青白く光らせながら, 誰も追いつけない猛スピードでfield内の長い距離を走るその姿から来ている. 

しかしその姿はしょっちゅう見られるものではなく, 前回は7 E.E.のAutumn Gamesで見せていたので1年半ぶりであった.  そして, 今回のように直線距離で80メートルを超える長さの走行は初めてであった. 

大歓声を受けてKeikoは走った.  Keikoと対戦していたEmeraldのFighter 4人が必死で追いかけるが全く追いつけない.  M2-point (Middle-lineとsecond-lineの交点) 辺りにいた1人のBow Fighterが彼女に狙いを定めて発射するが, mech-horseに乗りながら, 動いている対象を射るのは難しく, なかなか当たらない. 

“お願い!  当たりませんように!”

Keikoの念力が利いたのか, 彼女は無傷でnorthern-endのsecond-lineを越え, さらにME-pointに向かって突進した.  焦ったEmeraldのCaptain Nitaiは, 緊急事態を認識して集まりつつあったBow Fighterたちにarrowを放ちまくれと怒鳴った.  そしてその時, M2-pointにいたBow Fighterが背後から放ったarrowがKeikoの背中に当たった. 

“あと3点.”

Mech-horseに乗っていたCaptain Nitaiは急いで跳び下りてspearを前に構えた.  Mech-horseに乗ったままだと小回りが利かないため, Keikoが横に回避してFlagを奪う恐れがあるからだ.  そしてCaptainのそばにいた1人のFighterも抜刀しKeikoに襲いかかった.  Keikoもswordでそれを受け流し, ついにCaptain Nitaiの目の前1メートル, Flagまで2メートルの位置までたどり着いた. 

だがその瞬間, Keikoに近づきつつある3人のBow Fighterから次々と射られ, その1本が背中にまた当たった. 

“あと2点.”

しかしそれも気にせず, KeikoはCaptain Nitaiの左側を抜こうとすると見せかけて, 右側に回りこみFlagに手を伸ばした.  あと50センチ.  右側に体をひねったCaptain Nitaiのspear-headがKeikoのTorsoの左横に当たった. 

“あと1点.”

あともう少し.  あと10センチ. 

“ピーッ, ピーッ, ピーーー!”

4機のumpireたちから一斉に試合終了の笛の音が発せられ, 無情にもT4の幕がばっさり下ろされた.  反射的に, 最も近いumpireのほうを振り返ったKeikoは思わず, “うそ…”とつぶやいた.  自分のAR viewに表示されている残り時間も当然ながら0秒であった. 

Fighter Keiko, 力及ばず. 

全身の力が抜け, Flag standのそばで両手と両ひざを地につけてうずくまってしまった. 

Captain Nitaiはひざを折って, “惜しかったな.”とKeikoの肩をぽんと叩き, 相手方の陣から戻ってきた仲間たちのもとに走っていって勝利を喜び合った. 

観客は, もちろん勝ったEmerald Northへ拍手喝采を送りながらも, Sapphire Cometに対しても大きな拍手を送った.  Keikoはその実力を思う存分発揮したし, これほど見事にきらめき流れた彗星をそうめったに見られるものではないからだ. 

彼女は必死に涙をこらえながら再び立ち上がり, 観客に手を振ることもなくゆっくり歩いてbattle areaの外に出た.  しかしそこでまたこらえきれず, 再びしゃがみこんだところをChammeiが現れた.  彼女はKeikoの左脇の下に自分の肩を入れ, Keikoをそっと起き上がらせた. 

Keikoは, smart gogglesを右手で眉の上にずらして, 泣き顔をぬぐいながら, Chammeiに一言, “Meiちゃん, ありがと.”と礼を言った. 

2人は肩を組みながら泣いていた. 

 (End of Part 1.  Continued in Part 2.)  <- Previous | -> Next