Part 3: The Ninth Autumn
Chapter 3.3: The Honored Eight
Scene 3.3.1:
“Kasgaさんと城を命がけで守る, 栄誉ある8人のFighter. いったい誰が選ばれるのか?”
Chammeiは, NorthのAndromedaにある射撃練習場の中の休憩室で, 持参した水筒に入れたレモンティーを飲みながら, ぼんやりと思いを巡らせていた. 彼女は第1級警備員の資格を取るや, ほぼ毎日ここに通い, 本物の銃を使った射撃スキルの向上のためのプログラムに参加して, 1時間ほど汗を流していた. Facial Disguiseを付けて素顔が分からないようにしているため, あのEmerald Angelがそこにいるとは, この日も誰も気づいていなかった.
Bow Fighterである彼女が銃を使った射撃に熱をあげていることに関して, 周りの人たちからは, 彼女がbowから銃に転向したのではないかとささやく声が聞こえたが, それはナンセンスであった.
まず, Kassenでは鉄砲は使わないし, Castle Officeは, 基本的に飛び道具は危ないと考えているため, 今後も鉄砲がKassenに導入される可能性は低い. 従って転向ではなく, 銃も使えるようになりたいだけである. もちろんそれは警備員の仕事の中で使うことを想定しているので, 彼女が実際に使うとすれば致死性の低い銃器に限られるが, 学習意欲の高い彼女は, スポーツとしてリーサルな銃器も特別に使うことができるこの施設で, それを使ってスキルの鍛錬を積んでいた.
“Keikoさんも1級警備員の資格を持って, Castle Guardiansの警備員として登録されたって言っていたから‘栄誉ある8人’を目指すでしょうし, その一員になるのは間違いない. Kasgaさんを命がけで守るのは自分だと思っているKeikoさんとしては, それは絶対あきらめられない目標だから.”
Chammeiは, KeikoがKasgaにゾッコンほれていてそのすべてを受け入れているのは分かっていたが, 単に感情だけで慕っているのか, あるいは何か理屈の上でも共感できるからなのかを知りたいと思い, 以前, “Philosophyの伝導者”の側面を持つKasgaをどう思っているのかをKeikoに聞いてみたことがあった.
“そうやなぁ, ウチは難しいことは分からへんけど, Kasgaさんが, ‘Hanasakaのみんなの夢を守るのがKeiちゃんと私のお仕事なのよ’って言ってくれて, ‘でもそう簡単じゃないから, すぐにあきらめてはいけないの’って言われたから, ウチも, 根性入れてその仕事, 一緒にやるねん.”
Keikoの答えに, なるほど, シンプルで明確な理屈だとChammeiは思った. また, 相手の理解度に応じて, 伝えるべき核心を外さずに話すKasgaの話術にも感心せざるを得なかった.
そうすると次に, Keikoはみんなの夢を守るために具体的に何をするのか?という疑問が出てくるが, それについては本人に聞かなくても, 彼女の場合は, みんなの夢を壊す悪者を退治することに尽きる.
ただ, 夢の壊し方は一様ではない. 夢の破壊者は必ずしも悪者の顔をしていない. 善良な市民に思える人であっても, 多かれ少なかれ他人の気持ちを傷つけたことはあるだろうし, さらに言えば, 他人の悪に対して傍観するだけだった人はもっと多いと言え, そういう人たちもひっくるめて根こそぎ退治するつもりなのかが気になった.
“世の中には積極的な悪者と消極的な悪者がいることを, どう言えばKeikoさんに通じるかな?”
正直なところ, 深い思想を持っているとは思えないKeikoにそのようなことを問うても, まともな答えが返ってくる可能性は低く, 気にする価値はないことに思えるが, Chammeiはそのようなことでも気になってしまう性格なのである.
“どうしたん? Meiちゃん. 元気ないの?”
先のKeikoの回答に対してChammeiの沈黙時間が長すぎたため, Keikoが心配して聞いてきた. そこでChammeiは, Keikoに対しては, こちらの真意を隠しながら装飾した言葉で語っても通じないと考え, 正直に自分の思いを伝えてみた.
“Keikoさん. 私は, Keikoさんと違って, みんなの夢を守れる自信がないです… たぶん, 逃げたくなるから…”
Chammeiのおぼろげな不安に対しKeikoは, “そんなん, ウチも自信ないよ.”と, 自信たっぷりに答えた.
“その…, 私の場合…, あまり詳しくは言えないけど…”
Chammeiは, ためらいがちにKeikoに昔話をし始めた.
“私の父は母国の地方都市で要職についていたんだけど, ある施策を中央から言われてやったことで, たくさんの人を怒らせて, 死傷者も出て, それで, その…, いろいろあって…, 私も父のおかげで何不自由ない暮らしをしていたから, ずいぶん, ひどいことを言われた.
確かに父のやった施策はひどかったし, 中央に認めてもらいたくて無理して強行したのも全く賛成できないし, 本当に申し訳ないと思う. 全財産をはたいて被害を補償しろと言われたら, そうすべきかもしれない.”
Chammeiの出身国では, 10年前に政権の中核の一部が軍の一部と結託してクーデターを起こそうとした. 結局それは失敗に終わったが, その国の威信は傷ついた. 激怒した指導者は, その後, 国家転覆を図った反逆者たちとその関係者に対し, 様々な嫌疑をかけて粛清を始めた.
Chammeiの父は, 中央政府からの指示により, 首謀者の1人の地盤である都市に赴いた. 彼女が言った“ある施策”とは, 端的に言えば, 首謀者の親族や何らかの協働関係があったとされる者からあらゆるものを没収することであった.
ところがChammeiの父は, 想像以上の反抗に遭った. 後になって分かったのが, その都市の抵抗者たちは, 犯罪生成AIの“Stone Cold”の前身の“Stone Dance”の支援を受けていたのだ.
彼らとそのAIは, その国の指導者の忠臣がクーデターを起こそうとしているという偽の情報をまき散らし, 中央政府側は再び大混乱に陥った. このままでは本当に政権を転覆されかねないと考えた彼らはChammeiの父にすべての罪をかぶせて更迭することで, 抵抗者たちと和解したのであった.
ただ, こうした一連の出来事は, 一般には報じられていないし, もちろんKeikoも知らない. それはChammeiの胸の内に留めておくべきことであった.
“でも…, 思い出すとつらいから言えないけど…, その後, 家族はバラバラになって, 私は, この国で生きていくのはつらいと思って…, 結局私は, 被害を受けた人のために何ひとつ償うこともせず, 自分の家族のためにも何ひとつ役立つこともせず, 人生のやり直しができるExperi-CityのHanasakaに逃げてきたの. 私は単にそれだけの人間なの…”
ChammeiはKeikoと視線を合わせるのが怖くてうつむいていた. しかしKeikoはChammeiを正視していた.
“そっか…, Meiちゃん, いろいろつらいことがあったんやね. ウチを信用してくれてありがとう.”
出自不問の原則が徹底されているHanasakaにおいては, 他人には隠しておきたい過去の経緯を告白されたときには, まずは礼を伝えることが求められていたため, Keikoもそれに倣った.
“でも, いろいろ大変やったと思うけど, MeiちゃんがHanasakaに来てくれてへんかったら, 友達になれへんかったやろうし, ウチはMeiちゃんがHanasakaに来てくれて良かったと思ってる. 頭の悪いウチにいろいろ教えてくれるから尊敬してるし, ウチから見たら, KasgaさんもMeiちゃんもあこがれの存在やから…, せやから, 自分のことを‘それだけの人間’とか言わんといて. ウチはどこまでもついていくつもりやから.”
悪い言い方をすれば, あなたの過去などどうでも良く, 自分さえ良ければそれで良いと言っているかのように聞こえるが, 不思議と不快感は全く生じなかった. それにあくまで個人の感想を述べただけであるため, 否定するわけにもいかなかった.
そして, Keikoの理屈によると, ChammeiはKeikoに慕われどこまでもついてこられるわけだから, 自分がみんなを守る自信がないと言って逃げても, 逃げられない. 要するに, つべこべ言わずに, みんなを守る仕事を一緒にしようと言われているに等しい. 実際にKeikoがそこまで計算して発言しているとは思えないが, 言葉は受け取る側の解釈によって意味を持つ.
“Keikoさん, ありがとう. でも私…”
“Meiちゃんが自分のこと, 悪く言うのはやめて.”
Keikoは, またChammeiがネガティヴなことを言い出そうとしてると察して, いつもより強い口調で機先を制した.
“ごめんなさい…”
Keikoがこんな頼りない自分でも評価してくれていることを確認できたのは, 素直にうれしいことだったが, それに対してどう応えたらいいのだろうと思い, “私はどうしたらいいのかな…?”と, 助言を求めた.
それに対しKeikoは笑いながら, “どうしたらって言われても, battle friendsやねんから, 一緒にいてくれたらそれでええのに.”と快活に答えた.
“Keikoさん. あなたの気持ちはとてもうれしい. もちろん私もあなたと一緒にいたい. でも, 真のbattle friendsになるには, 戦いの場でもあなたに頼りにされる存在にならなければならない. だから私も, ‘栄誉ある8人のFighter’の一員になることは絶対あきらめない.
“そもそも, 私からKeikoさんにbattle friendsになりたいって言い出したのも, 強い自分になりたかったからなんだけど…, でも…, そんな偉そうなことを言っておきながら, この前のSpring Gamesでは, 思い切り叩きのめされたから, どう考えたって私はKeikoさんにとって戦場で頼りになる存在ではない… 特に近接戦闘は, Fighterとして中ぐらいの実力しかない. それが悔しい… でも残念だけど, 私が得意なbowは21世紀の実戦ではあまり使われない.
“だから, 同じ遠隔攻撃手段である銃をうまく使えるようになって, 実際に城を守る時に役立って, Keikoさんに認められたい.”
“Meiさん, そろそろ練習に戻りましょうか? もう少し休まれたいのでしたら, それでも構いませんが.”
Chammeiが射撃場になかなか戻ってこないので, 彼女の担当トレーナーが様子を見に来たのであった. そのトレーナーには, 守秘義務を負ってもらったうえで自分の正体を告げているが, 自分の名前を“Mei”と呼んでもらっていた.
“ごめんなさい. ぼんやりしていました. 大丈夫です.”
Chammeiが水筒を急いで手提げバッグに入れて立ち上がると, トレーナーが彼女の耳元で, “内緒の話ですが, アンダーカバーの警察官がMeiさんの射撃を先ほどからひそかに見学されています. もちろん我々は何の情報も開示していませんが, どこかでMeiさんがここに通われていることを知ったんでしょう. でも, 彼らもMeiさんの腕前には驚いたでしょうね. いやぁ, 私も, 短期間でここまで上達した人はMeiさん以外には見たことがありませんから.”と小声で告げた.
“いえ, Nobiさんの教え方が上手だからです.”
Chammeiは自分の実力ではなく, トレーナーの実力によるものだと謙遜した.
“いえいえ, Meiさんは素質があります. まるで乾いた大地に垂らした水滴のように即座に吸収されます.”
弓と銃は同じ“発射する”行為をしていても, 的に当てたい物体を送り出す方法は全く異なる. しかし, 弓で狙いをつける間, 押し手と引き手の力のバランスをキープしながら微妙な力加減をかけ続けることをしょっちゅうやっているため, 左右の腕や肩には必要な筋力がついており, 多少重たいライフル銃でもしっかり構えて狙撃することができた.
ただ, 発射の瞬間の利き手の指がスッと放すのかカチッと引くのかで動作に大きな違いがあり, その点は弓に慣れていることがかえって災いし, 慣れるのに少し時間を要した. しかし基本的にChammeiは不器用ではないため, 飲み込みは早く, トレーナーも驚くほどの上達ぶりで, 手振れが少ないライフル銃であれば素人とは思えないレベルに達していた.
“警察にとっては, 私が実戦で使える存在に映るのかもしれないけど…, でも, 選ぶのはあくまでClub Managerたちだから, このAutumn Gamesで実際に世間が納得する戦績を残せないと, たとえスターFighterでも選ばれないはず… ‘栄誉ある8人’になりたいFighterにとっては, みんな必死. 今回のArena games自体がGrand Prixみたいなものね.”
Scene 3.3.2:
10月14日, “Autumn Kassen Games, 9 E.E.”が始まった. 通算18回目となる今回のseason gamesは, 警察官やCastle Guardiansの警備員が, ArenaのみならずCastle Park全体の随所に配置され警戒に当たった.
観客たちは, Arenaに入る時には, IDの確認はもちろんだが, 身体と荷物の検査も念入りにおこなわれ, Facial Disguiseを着用して顔を変装している者の入場は禁じられた. またseason gamesの期間中, 業務上必要のある者以外は, 城のOuter Moatより内側, すなわちMain Keep AreaとOuter Defense Zoneへの立ち入りも禁止された.
Castle Parkの上空には, 羽を広げると2メートルほどあるmech-hawkが10機ほど悠々と飛行し, さらに40機ほどのmech-dragonflyがArenaやその周辺をジグザグに移動しながら, 地上を監視していた.
補足: 飛行監視ロボットについて Mech-hawkやmech-dragonflyなどの飛行監視ロボットは, 本来の監視や追跡の役割のみならず, 無線の中継局となってほかのロボットたちとの通信を助けたり, 逆に妨害波を出して通信を混乱させたり, 敵対者に対する物理的に攻撃することもできる.
こうした厳戒態勢を敷きながらも, Arenaやスクリーン観戦会場では陽気な音楽や人々の談笑などが聞こえ, いつもどおり盛り上がっていた. Kassenを見にここまで来るのは, テロリストが来るかもしれませんと警告されたところで全く動じない種類の人たちだからである.
そして開会式では, 緊急集会でMonicaが説明したとおり, Kasgaは安全上の理由から, 武装した姿で演壇上に立体映像として現れた. 録画したものではなく, どこかにいる本人がリアルタイムで動作していた. その時におこなわれる“出陣の儀式”も, Four Heart Flagの掲揚も, “Hometown”の斉唱も, もちろんKasgaによる開会の宣言とあいさつも, 実際にその場に本人がいるかのようなリアリティを見せて, 彼女の不在感の払しょくに努めた.
出陣の儀式をおこなうにあたりKasgaがhelmetを脱いだ時は, 決起集会の演説時に切って短くなった黒髪がやや長くなって現れ, 彼女の持っている清楚さと快活さが, 非物理的な映像であっても改めて感じ取ることができ, Fighterや観客たちから思わずのどの奥からうなり声を漏れさせていた.
Kasgaは, “デューデイト”まで残り26日に迫っていたが, 決起集会とは全く違い, 終始, リラックスした表情で, Fighterや観客たちににこやかに笑顔を見せ, 手を振っていた. こういうときこそUnifierの役割を持つ者は平静を保つ必要があることを彼女自身がよく心得ていた.
開会式は特に何事もなく終わり, 最初の試合が始まった.
初戦は, 前回のSpring GamesでchampionになったEmerald Northが登場した. 相手はGarnet East. いきなりの前回のfinal gameと同じ組み合わせでの戦いである.
Emerald NorthのFighterたちが入場してくると, 観客席から大きな声援が沸き起こった. その中でやはりきわ立って注目を集めたのは, Emerald AngelのLeader Chammei.
先のSpring Gamesで, Sapphire WestのKeikoにはやられてしまったが, 常にいろいろ作戦を人一倍考え, 自分でやって見せて, 失敗をしてもいら立ったり他人のせいにしたりせず, 冷静な態度でteamの優勝に貢献し, Squad Leaderとして合格だと誰もが考えていた.
SapphireのKeiko-squadのFighterたちもChammeiを高く評価していた. 怒らないし, イライラしないし, ふてくされないし, 落ち着いて冷静だし, 一転, 勝負をかける時は猛者になるその急変ぶりがすてきで, 彼女と一緒にいるEmeraldのFighterがうらやましいと, 自らのLeaderに申し上げたところ, “何が言いたいんやー!”と, spearを持って追いかけられた. もし, “それにやっぱり, かわいいし…”などと, 余計なことまで言っていると, そのFighterは命を失う危険性があったであろう.
一皮むけて成長したChammeiは, 整形をしたわけでもないのに自然に顔が引き締まり眼光が鋭くなり, まさに彼女が望んでいたように, その容姿はかわいさだけでなく力強さを感じさせた. そしてそのオーラを振りまきながら彼女は, battle areaを縦横無尽に駆け, 射て, 切り, そして倒した.
Emerald Northは, Chammeiらの“Bow Fighter squad”が相手方の陣に入り込み, CaptainやVice-CaptainなどのFlagのそばでそれを守る者に襲いかかるという戦法をSpring Gamesで採用し大きな成果を得たが, このAutumn Gamesでは, すべてのteamがBow Fighterを中心にした, 攻撃に特化したsquadを作った.
これは, Emeraldのスタイルをまねしたからというより, Kassenの規則がBow Fighterをより重視する方向に変更されたからであった. すなわち, まず, 両roundを通して, “Captainは1人. そのCaptainを含むRanked Fighterの数は15人. Mech-horseに乗れるのはSquad Leader以上の者とBow Fighterのみ. Mech-horseは最大11機まで.”という縛りは維持したうえで, 各teamが自由にsquadを編成できるようになった.
それに加え, 相手方の陣の最も奥にある, 三脚ポール台に突き刺してある相手方のFlagをBow Fighterがarrowで倒すと, 一旦試合の流れを止めたうえで, これまでとは違い, どちらかのsideのBlockを前方に10メートル押して試合を再開できるようにした. これを“Flag Triggered Advance”または略して“FTA”という. (Blockの移動後の再開時には, それぞれのsideのBlockのある位置より前方にいたFighterは, 自陣側に戻っておかなければならない.)
これによりBow Fighterたちは, もはやdefenderではなく, Blockを一気に10メートル前進させるFlag Triggered Advanceを得ることができ, かつ, 時にはSpear Fighterと同様, 手で取り上げて, Blockを2つとも初期設定のcenter-lineまで戻す“Flag Triggered Reset”をすることもできる, Spear Fighterにはない選択しを持つ者となった. そうなると, Bow Fighterたちをいかにしてまとめて相手方のFlag付近に運ぶことができるかが非常に重要となり, 各teamは今までのsquadのあり方を根本的に見直した.
従来は, Flagを背に, 左方, 中央, 右方と3つの縦の領域ごとにsquadを置き, それぞれのsquadには, Blockを押す“pusher”と, そのpusherを含め味方を相手の攻撃から守る“defender”, そして相手陣地に攻め込む“attacker”がいて, 人数配分は違っていても, これら3つの役割を持つFighterから構成されるマルチ機能集団だった. Bow Fighterもdefenderの中の一員と位置づけられていた.
しかしこのAutumn Gamesからは, Bow Fighter全員を取り込み, 相手方の陣のFlagに攻め込む, 一般的には“FAS”と呼ばれる, Flag-attacker squadと, 自陣のFlag付近で相手方のFASから防衛する, “FDS”と呼ばれる, Flag-defender squadと, nearとfarの各sideのBlockを相手に負けずに押し込む, “BPS”と呼ばれる, Block-pusher squadと, 合計4つのsquadを作るのが定石となった.
ChammeiらのBow Fighter squadは, 今回, 5人のBow Fighterに7人のSpear Fighterを加えてFlag-attacker squadとなり, ChammeiはそのLeaderとなった.
そして, 先のSpring Gamesで他のteamより一足先に相手方の陣深くのFlag付近でBow Fighterが戦う経験をしている分, 手慣れていたため, このGarnet Eastとの好カードは, Emerald Northが前回championとしての矜持を見せて堂々と戦うことができ, first-halfは4対0でEmeraldがリードして折り返した. 自信を深めたChammeiは, second-halfもこのまま押し切れるだろうと考えていた.
ところがsecond-halfの最初のTeam Match (T3) で彼女は思わぬ苦杯を喫することになった. Garnet Eastの新人FighterであるFeiが彼女の前に立ちはだかった.
GarnetはEmeraldのFASの実力を謙虚に恐れていたため, Blockのプッシュをあえてほどほどにして, 自陣全体をあまり前に張り出さず, BPSのすぐ後ろに控えていたFighterたちがいつでも自陣のFlagのあるほうに戻ってこれるよう用心していた.
その上で, Chammeiを倒すことがキーになると考え, BPSの中で守備を務めながら機を見て彼女だけを倒すための刺客を何人か控え置いた. Feiは普通のFighterの身分ゆえmech-horseには乗れなかったが, 足が速く動きが機敏であるため, この特別な刺客グループの1人に選ばれていた.
Garnetは, FDSが隙を見せずに守りを固めていたため, ChammeiたちEmeraldのFASは動きを縛られ攻めあぐねていた. そしてChammeiだけが仲間たちより後ろにはみ出る形で後退せざるを得なくなった状況をFeiは見逃さなかった. 彼は素早く彼女のmech-horseに後方から駆け寄り, spearでその背の上に乗った彼女を突いた.
“馬を下りろ.”
Spearで背中を突かれて振り返ったChammeiに, Feiが大きな声で彼女の母国語と同じ言語で呼びかけた. 普通のFighterがmech-horseに乗っているRanked Fighterに下馬を求めるのは失礼だと考えられており, 仮に求められたとしても応じる必要はなかった.
しかしChammeiは, 彼女と同じ国の出身と思える者から偉そうに呼ばれたため, ムカッとしてむしろこれに応じてしまった. Feiはにんまり笑みを浮かべた. Chammeiがswordを抜くと, 武器対等の原則により, Feiもspearからswordに持ち替え, duelとなった.
結果は, FeiがChammeiから一気に10点も奪って勝った. Keikoほどではないものの彼の動きの早さに彼女は翻弄され, “Front Torso”に連続で2回, 突きを入れられた. そしてFeiは, さらに攻撃の手を緩めずに追い込むこともできたはずだが, あえてそれはせずにストップの合図をして, “私の名前はFeiです. お見知り置きを.”と, 全くくせのない, Hanasakaに多くいる“Moto natives”の言葉で自己紹介し, その場を去っていった.
このduelがこの日の勝敗を決めた. すっかり意気消沈したChammeiは, その後は動きに機敏さが見られず, このT3では途中にHPをゼロにされて退場してしまった. 次のTeam Match (T4) でも再びHPをすべて失ってしまい, 試合の流れもGarnet側に完全に移り, 4対6で逆転負けしてしまった.
Chammeiの弱点は, 相手とのone-one-oneでの対戦で大きく負けてしまうと一気にプレイに積極性を失うことであった. Spring GamesでのSapphire Westとの試合でも, Keikoにmech-horseに飛び乗ってこられて一気に16点も失った時は, その後, 慎重な動きに終始してしまい, teamの勢いを減じてしまった.
ただその時は, Kassenの天才であるKeikoに恐怖心を覚えることはあったが, 腹が立つということはなかった. しかし今回は無性に怒りの感情が込み上げてきた. 相手は新人のFighterである. それなのに瞬間的に10点も取られ, Squad Leaderとして面目なく恥ずかしさも感じた.
それに, 母国語が同じ者に対して, 自分のほうがHanasakaの多数の者が用いる言語を流暢に話せることをわざわざ披露してきたいやらしさに, 彼女の神経は大いに逆なでされた.
試合の後, Chammeiは珍しく気が荒れて, 彼女のロッカーは何度も蹴られ, 水筒は床に叩きつけられ, くつは踏みにじられた.
このヒステリックな心の動揺は思った以上に長く引きずってしまい, 次のTopaz Southとの試合でも彼女はすっかり慎重になり, つまり悪く言えば消極的な受け身的な姿勢で戦いに臨んだ. そしてteamとしては善戦したがTopazに惜敗した.
さらにその次のSapphire Westとの試合では, Chammeiとしてはおおよそいつもの精神状態に戻ってきていたが, 最も自分を認めてほしいKeikoに対して, 自分の良いところを全く見せることができず, また直接の対戦もしてもらえずに終わり, teamとしてもSapphireの気迫に押されて負けた. つまりfirst roundは0勝3敗という, 前回championになったteamとは思えない見事な負けっぷりを披露してしまったのだ.
Emerald Angel, Squad Leader Chammeiのプライドは砕け散った.
Hanasakaに来て以来, 最も激しく彼女は泣いた.
Scene 3.3.3:
そのfirst roundが終わった日の翌日, Emerald NorthのClub Managerも, Captainも, 同僚のFighterたちも, Chammeiには容易に近づけない雰囲気が漂っていたが, この後のsecond roundが始まる前にteamの立て直しを図るうえで, Emerald Angelの折れた翼を修復することが急務であった.
このような状況下で採り得る選択肢は事実上限られ, Emerald Northで最も頼りになる男, Vice-Captain Aptiに, 彼女の復活を託された.
Aptiは, Chammeiと話をする前に, 世間の批評を一応チェックした. 自らを弱き者の味方というものの敗者には冷たいメディアの人たちや冷笑的な批判者は, “ChammeiはアイドルFighterで終わるのか”と厳しい意見が目立ったが, Kassenについて精通している者であればあるほど, 新人のFighterにやられてしばらくその精神的ショックを引きずったとしても, それで終わるようなFighterであれば, そもそもここまで勝ち上がっては来ていないと反論していた.
AptiとChammeiは, 21時頃に, Nexus Unitを使って音声のみで通話 (つまりは電話) をし始めた. この時間帯だと彼女も自宅にいてくつろいでいることが多いこともあるが, 親しい間柄でなければ基本的には顔を出さずに話をするのがエチケットと言える時間帯であるほうが良いだろうと判断し, その時をあえて選んだ. 彼女自身の精神状況からすると, 職場の同僚であるAptiと顔を見せて話をするのはしんどいだろうと考えたからだ.
“こんな時間にすみませんね. Chammeiさんはがんばり屋さんだから, 大学の勉強をしている時間かもしれないと思って, ためらったのですが…”
“いえ, 大学のほうはしばらくお休みを取りましたので, 勉強はあまりしていません.”
Chammeiは落ち着いた声で答えた.
“そうですか. それなら良かった. Kassen, 射撃, 勉強と3つもやらないといけないことがあると, 体が持たないと思いました.”
“ご心配ありがとうございます.”
ChammeiはAptiが何のために電話をかけてきたのかは感づいているので, “Second roundはいつもの状態に戻してがんばります. 嫌な感情は次の試合までには必ず消しておきます.”と, Aptiがほしかった言葉を早々に提供した.
Aptiは, この電話の目的をすでに見透かされていることを認識させられ, 軽く笑ったうえで, “ありがとう. でも焦ることはないですよ. それはChammeiさんらしくないから.”と, 力みすぎないよう求めた. そして, “心配しなくても, KeikoさんはChammeiさんを見限ったりはしないですよ.”と, 唐突にKeikoの名前を出した.
“わ, 私は, Keikoさんを…, もちろん尊敬はしています. いつまでも友達でいてほしいと思っています. でも, それだけです.”
“それに加えて今回は, ‘栄誉ある8人’にKeikoさんと一緒に選ばれたいんでしょう?”
図星を指されてChammeiは, “え, まあ…”と言葉を詰まらせた.
“きっと選ばれますよ. 慰めのつもりでそう言っているのではなくて, 論理的にそう考えられるからです. Chammeiさんは, 今回のAutumn Gamesで思ったような戦績を上げられていないから, このままではそもそも選ばれないか, 選ばれたとしてもKeikoさんと対等のポジションでコンビを組んで戦えないのではないかと恐れているのかもしれませんが, それは誤解です.”
Aptiはひと呼吸入れて, その理由を述べた.
“Kassenでは, 各teamのFighterが戦い合いますが, 敵襲のときは, Grand Prixと同様に, 協力プレイになります. つまり, team mateの関係になります. そうすると, もしKeikoさんと一緒に戦うのであれば, 彼女が最も信頼を置いているFighterは誰なのかという観点で考える必要があります. 強いかどうかじゃないですよ. 信頼できるかどうかです.
“信頼できるというのは, 3つ意味があります. 1つ目は, お互いに考えていることが読めるということです. どう考えて, どう行動に出るか, それは普段から十分にコミュニケーションをしていないと分からないです. 彼女にとっては, ほかのclubから選ばれるであろうFighterの中では, やっぱりChammeiさんとの付き合いが一番深いですよね.
“2つ目は, お互いに足りない部分を補う関係にあるということです. 他人と組む以上, 単に人数が増えることによる安心感を得たいわけじゃなくて, 自分が得意ではないことについてカバーしてほしいと考えるのが普通です. Keikoさんだってそうです. 彼女は, 近接戦闘は得意ですが, 遠隔戦闘はChammeiさんのほうが得意ですよね. それにKeikoさんは, 自分が大好きな人を守りたいという思いが非常に強いです. つまり, 大好きな人がそばにいれば, 彼女の戦闘力は何倍にも増強されるのです.
“3つ目は, 自分を最後まで信じてくれるだろうと思える人であること, つまり, どのような状況でも裏切ったり途中で見捨てて逃げたりしないだろうと思えることです. 自分のteam以外で, そう思えるFighterはそう多くはないはずです.
“Club ManagerたちがFighterを選抜するときは, 当然, ほかのマネージャーと話し合いながら決めます. 命がけの戦いになりますから, お互いに信頼関係が薄い8人を選ぶことは絶対ありません. その意味で, ChammeiさんとKeikoさんのペアは最初から当選確実と思います. つまり, 極端な話, Chammeiさんがsecond roundをすべて休んでも大丈夫です. 一番大事なのはけがをしないことです.”
Aptiが一方的に話している間, Chammeiはじっと聞いていた.
“Aptiさんの言うことは理解しました. でも, 仮にそうだとしても, Keikoさんは, この間での試合で何となく私を避けていましたから, 私のことを本当にそう思っているかは分かりません…”
まだ彼女の不安を完全に取り除けていないと思ったAptiは, “その点も心配ありませんよ.”と言ってさわやかに笑った.
“なぜかと言うと, Keikoさんも調子が悪いからです.”
Chammeiはにわかには信じられず, “でも, あまりの強さに, ‘Sapphire Beast’という名前のほうが定着してきているじゃないですか?”と問うた.
Keikoは筋トレを強化し, 対戦相手をにらみつけたうえで, spearが折れるのではないかと思えるぐらいに叩きつけ思い切り相手をねじ伏せる戦い方を見せるようになり, “Sapphire Comet”というより“Sapphire Beast”と改名したほうがより正確なのではないかと言われるようになっていたのだ.
“それこそ, 本調子でない証拠ですよ. Keikoさんの長所は機敏さですよね. 力強さではない. 相手の動きを常に見て先読みして, また時には相手を挑発し, 相手が攻め込んできた瞬間に思いっきり叩く. 一撃必殺で仕留める. 彼女のバトルを見ていると, すごくいい動きをしているときは, クラッシック音楽に合わせて動いているようにも感じます. ところが今回は全く感じませんでした.”
そう言われてみるとChammeiも, Keikoのバトルには音楽の種類はさておき, メロディーとリズムがあるように思えたが, “それは, 機敏さに力強さを加えて, より強くなったということじゃないのですか?”と, 最もあり得る可能性を示した.
“残念ながら, そうなっていません. 無理に力押しして機敏さを失っています. でも彼女より力が強いFighterはいくらでもいますから, まともに力で勝負すれば, そのうちけがをするでしょう. Keikoさんなら余裕で選出されるでしょうから, そんなに力まなくていいはずなんですが, 何か理由があるんでしょうね… 彼女なりに大きなプレッシャーがあるんだと思います.”
“じゃあ, Keikoさんが私を避けていたのはなぜですか? 私に対するプレッシャーはないと思いますが.”
“これは私の憶測ですが, Keikoさんも本能的には自分がいつもより調子が良くないと感じているのでしょう. だから, 決戦の日に一緒に戦いたいChammeiさんには悟られたくなかったんだと思います. 頭のいいChammeiさんには鋭く気づかれてしまうおそれがあるから, 近寄ることすらしなかったんだと思います. 彼女も悩んでいるのですよ.”
ChammeiはAptiが話してくれたことを理解した. そしてそれは合理的で正しいであろうと思えた.
“ありがとうございます. Aptiさんはお話が上手ですね. 私の気持ちも楽になりました…”
“それなら良かった.”
“もし, 命がけの戦いに出るために, 私が自分のteamのFighterで1人選ぶとすれば…, 私が苦しんでいる時にいつも助けてくれるAptiさんを選びます.”
“ハハッ. そう言ってくれるとうれしいよ. なぜなら私も, その8人に選ばれたいと思っていましたから.”
Chapter 3.4: Rising from Resentment
Scene 3.4.1:
Autumn Gamesのfirst roundが終わった時点での各clubの勝ち数としては, 安定的な強さを発揮しているGarnet Eastが3勝, それに続くSapphire Westが2勝, Topaz Southが1勝, そして前回優勝の輝きを感じないEmerald Northが0勝という結果を残していた.
そして今回から, その勝利ごとに, Hanasaka Castleの12の区域を自らが警護の責任を持つ“Defense Area”として指定することができるようになった.
そのため, Garnet Eastは, Outer Moatの外縁の北東部にあるLily Bridgeとその周辺の“Area-L”と, 南東部のIris Bridge周辺の“Area-I”と, その両者の間を占める“Area-3”を赤色に塗った. Sapphire Westは, 外縁の南西部のCosmos Bridge周辺の“Area-C”とその北隣にある“Area-9”を青色に, Topaz Southは, 外縁の北西部のMagnolia Bridge周辺の“Area-M”を黄色に塗り, 自らの成果が視覚的に分かりやすくなり, Fighterたちもやりがいをより感じるようになった.
また, 今回のAutumn Gamesでは, 勝敗数にリセットをかけずにsecond roundに突入しそのまま積み重ねることになった.
そのため, Keikoが所属するSapphire Westがchampionを目指すには, second roundでは最低2勝するぐらいの勢いで追いかける必要があるが, teamの雰囲気がいまひとつ活気づかず, その原因の1つとなっているのがKeikoであった.
一見, Keikoは前回以上に元気だった. Spearの突きや払いもスピードと重さが増し, 相手方のFighterにもしっかりダメージを負わせていた. しかしいつも以上に力を消費し続けたため, Keikoには身体的疲労がたまり, それに伴ってKeikoの本来のキレのある動きが緩慢になってきてプレイに精彩を欠くようにもなってきていた.
これは本人のみならず, team mateも気づいており, clubのヘルスケア・マネージャーからKeikoに対して, 試合のない日にはあまりトレーニングをせず, 体を休ませるよう指示が出た. それに対していつものKeikoなら, ほっといてくれと煙たがって指示を受け付けないことも多かったが, 今回は, 素直に従ったところからして, club内でもKeikoは本当に調子が悪いのではないかと心配する声が広がった.
Victoria Sports Centerから歩いて5分ほどのところにあるVictoria Parkの中央に, 白い大理石の勝利の女神“Nike”が翼を広げ, ひじを軽く曲げて両腕も広げ, やや斜め上の西の空を向いて立っていた. その立ち姿は清楚さと落ち着きがあり, 見る者の気分を高揚させるどころか, むしろ冷静にさせた.
Keikoは, 頭の中でぐるぐると思い悩むことがあるときは, 独りでこの公園に来て, この女神像の前にあるベンチに腰かけて気持ちの整理をしようとしていた. 彼女にとっては, ここがFighter Keikoとしての心の原点であり, ビデオゲームで言えば最初にスポーンするポイントに思え, この女神Nikeの下にくると, 帰ってきたという感覚を持つのであった.
Second roundの第1試合, Topaz Southとの戦いを明日に控えた夕方, Keikoはぼーっと女神の顔のほうを眺めていた. 有名人でありながらも普段あまりFacial Disguiseを使わないが, この日は, 本当に誰にも邪魔されたくなかったために珍しくそれを付けて, 顔を変えていた.
“Captainに言われんでも, 力押しは良うないって分かってるんやけどな…”
“Moto natives”の平均的な女性の身長と体格を持つKeikoが, 世界中からやって来る屈強で大きな, しかも男性のFighterと, まともにWeaponsや体をぶつけ合って戦っても勝ち目はない. だからこそ, 持ち前の運動神経の良さですばしっこく動き回り, 相手を徐々に負けざるを得ない状態に追い込み, 今こそという打撃の瞬間だけ思い切り力を出して相手を倒すバトルをし続け, それによって数々の戦績を重ねてこれたのである.
しかしそれでは勝てない場合もある. 例えば, 狭い空間で戦う場合は, 俊敏性を発揮しようにも物理的に限界がある. また, 多数の相手が一斉に押し寄せ, かつ退路を断たれていると苦しい.
戦いの場は, 自分の能力をきちんと出せる条件が常に整っているとは限らない. Arenaのfieldは, スポーツをする場であるため, 広い空間が用意され, 不確実性が最初から抑えられており, おおよそいつでも理想的に戦える場所と言える. しかし実際に城郭の中で戦う場合は, fieldの上とは比べ物にならないほど, 複雑な構造であり様々な要素が加味され, その多くが自分にとって不利に働くと思ってもいい.
“狭い通路のようなとこで正面からたくさん来て, 逃げ場がなかったら, 力ずくで正面突破するしかない. いくら器用によけながら突破しようとしても, どこかでまともにぶつかったり捕まったりして, 力で勝負せなあかん場合も絶対ある. そんなときは, 単純な話, 力が弱ければ負ける…”
1級警備員の資格を取り, 来るべき決戦の時にKasgaを守るための戦いに参加する気持ちに揺らぎはないが, 実際に戦う想定で真剣に考えているがゆえに, 彼女は自分が不利な状況に置かれた場合のことも考慮しながら, いろんなバトルをシミュレートしていたのだ.
“あの時もそうやった… 狭いとこに4人… 雨が降って足元が滑りやすかった… しまいに防戦一方になってもうて, とうとう, 男4人に体と両腕と両足を押さえつけられ, あの時初めて, けんかで恐怖を感じた. こんな恰好じゃ好きなようにやられる… あいつらの1人が, 女のくせに調子に乗るなと言ってウチの顔を踏みつけた. そしてもう1人が, ブサイクだからいいだろうと言ってウチの顔を1発殴った. 鼻血が出てこのままやとマジで危ないと思った…
“でもその時…, Akiくんが助けに来てくれた. あいつらがAkiくんのほうを向いて力が抜けた瞬間にウチは体をねじって逃げ出せた… でも, Akiくんは何発も殴られた. 屈辱やった… 自分はともかく, Akiくんを深く傷つけてしもた最低最悪の負けやった… せやから…, ウチは誓った. もう二度とこんなふうに負けたりはせえへんと…”
Keiko Sacraにとってはその瞬間から“Fighter Keiko”の歴史が始まったといえた. この男子生徒たちとのケンカに勝っていても, あるいは友人の助けが来ずに負けていても, 10年後にHanasakaに, 人々の歓呼の声で迎えられる“Sapphire Comet”は現れなかったと言える. 心底悔しくてつらくて, ずっと引きずって消えない痛み. それこそが彼女をスーパースターへと押し上げていった原動力だったのだ.
そしてその彼女が, Hanasakaにいよいよ危機が迫る中, 次の高みを目指すのは当然だった.
“決戦の日, 男たちに押し倒されても, Akiくんが助けに来なくても, ウチは負けたりせえへん.”
Scene 3.4.2:
“今日も, 彼が来なかったのが, Keikoさんが良くない原因かな…”
Second roundの初戦, Sapphire WestとTopaz Southとの試合は, 2対2の引き分けでfirst-halfを終えていた. そしてfirst-halfとsecond-halfの間のhalf-timeが終わる5分前, Fighterたちが休憩しているloungeにいたSapphire WestのSquad Leader Keikoの配下のVice-Leader Falconは, 同じsquadのVice-Leader Makenaを, fieldと反対側の出入口から廊下に連れ出し, 小声で話しかけた.
“そう言われれば, そうね.”
Makenaは, Falconほど意識していなかったが, 思い返してみるとFalconの言うとおり, 試合開始30分前のEquipmentの装着エリアで, あの男がSapphire側のWeaponsの受け渡しカウンターに現れなかったことを認めた.
FalconとMakenaは, Cocoricoと合わせてこれまでLeader Keikoを補佐し, squadの一員としてKeikoとともに行動している時間が長いこともあり, Equipmentのinspectorの中のある男がWeaponsの返却時にSapphire側を担当するかどうかで, 自分たちのLeaderの機嫌が違うという法則に気づき始めていた.
EIS (Equipment Inspection Section) のメンバーがFighterたちから検査のために預かっていたEquipmentを返却する時は, Juliaを除いた6人を半分に割ってどちらかのteamを担当するが, どちらに行くかは不正防止の観点から, 直前にくじ引きで決めることになっている. 従って, あるinspectorがSapphire West側に来るかどうかの確率は長期的に見れば2分の1だが, 短い期間で見れば, 連続して来ないこともあり得る.
“確か, Akioとかいう名前ですよね…”
Makenaが確認を求めるとFalconはうなずいた. そのAkioという男が来なかったときは, Keikoは試合中あまり笑顔を見せず, FalconやMakenaとの会話もそっけない. しかしなぜそうなるのか分からなかった. 別にその男がかっこいいわけでもなく, ややどもりながら話し, どちらかと言うと気の弱そうな感じで, 自分の仕事はきっちりやりそうだが, それ以上でもなさそうなのに, その男がSapphire側を担当することになってWeaponsの返却に現れるときは, Keikoがそれを受け取る時の目の輝き方がどうも違うように思えた.
“今日で3回連続来てないせいか, だんだんKeikoさんが無口になってきてるし, ベンチに座っている様子を見ても, 体力を使いまくって疲れ果ててる感じだよなぁ. 機嫌のいい時は, 自分が疲れていても我々を気遣ってくれるんだけど…”
Falconが心配顔でMakenaに話しているといきなり背後から, “Falcon.”と, Keikoが自分を呼ぶ声が聞こえた. 決して威圧的ではなかったものの, 彼は条件反射的に姿勢を正して直立し, “はい.”と返事して振り返ると, Keikoがややうつむき加減で, “あ, Makenaさんもいるからちょうどええわ. さっきBiliusには言うたんやけど, ウチ, 次のT3は体力温存させたいから, みんなにがんばってほしい思て…”と, 遠慮気味に伝えた.
2人はニコッと笑って快諾し, 代表してFalconが, “分かりました. 次のSingles Matchは, Emilioとの対決ですからね. もちろんですよ.”と答えた. “Elegant Lightning”の異名を持つEmilioと大事なSingles Matchを控えて, 素直に体力の消費を抑えたいと言ってきたKeikoの言動には, いつものような冷静さを感じ取れ, むしろ安心した.
Keikoが2人に軽く礼を言ってその場を立ち去ると, Makenaは再びFalconのほうを向き, “この重たい雰囲気を消し飛ばすには, KeikoさんにはEmilioに勝ってもらわないとね. そう思わない?”と, 自らの願望に対する同意を求めてきた.
“そうだな. まあ, いずれにしても, Keikoさんを泣かすようなことは絶対NOだから.”
Sapphire WestのKeiko-squadでは, “Three Commitments to our Leader Keiko”というものがメンバーの間で共有されている.
“1_Leaderを怒らせてはならない. 2_Leaderを泣かせてはならない. 3_Leaderが女であることを忘れてはならない.”
第1条は分かりやすいが, Keikoを怒らせてしまい, かつその怒りが自らに向けられると, 危険極まりないことになるぞという警告である.
第2条は, 試合に負けるなどしてKeikoが泣いてしまうと, team全体がどんよりした雰囲気に沈むうえ, 気落ちしたKeikoは気難しく, 周りの者は腫れ物に触らぬよう気を遣わなければならなくなり厄介なので注意せよという意味である.
第3条については, ある出来事からの反省に基づき規定されたものである.
Keikoは, 男たちから見ると女がいるという気配を感じさせないようで, 男性Fighterたちが周りに異性はいないと思って彼女が近くにいるのにうっかり猥談をしてしまうことが時々あった. Keikoも咳払いをするなどして自分の存在を気づかせていたが, どうしてもその過失的セクハラが発生してしまい, ある時, Keikoが深いため息をつき, “もうええねん. どうせウチは女のなり損ないやから.”とぽつりとつぶやき部屋を出て行った.
その時彼女が見ていたタブレットの画面をsmart glasses越しに見てみると, お人形のような女性モデルたちが立体に浮かび上がり, 様々な夏服を選び出して仮想空間上で着せてみて楽しむものであったため, 男性FighterたちはKeikoも普通の若い女性であることに気づかされ猛省し, この条項を追加した. そして以後, 男性Fighterたちは猥談を実施する前にKeikoが近くにいないことをきっちり指を差して確認するよう徹底していた.
Half-timeを終えて両teamは陣を入れ替え, Sapphire Westはsouthern-endのほうに移った.
そして, “middle area”, すなわち, Battle areaを, Flagを背にして縦に左方, 中央, 右方に分けたときに, middle-lineをまたぐ中央の領域には, Leader Keikoが率いるFAS (Flag-attacker squad), near-sideにはLeader GalpagoのBPS (Block Pusher Squad), far-sideにはLeader DariaのBPS, そして後方でFlagを守るためにVice-Captain MarcoがLeaderを兼ねているFDS (Flag Defender Squad) が配置された.
人数配分としては, KeikoのFAS以外はLeader 1人, Vice-Leader 2人, Fighter 8人の計11人とし, FASだけはLeader 1人, Vice-Leader 3人, Fighter 12人の計16人とし, 攻撃重視の陣形を採った.
Kassenの規則の変更に伴う全面的なteam編成の変更によって生まれ変わった, KeikoのFlag-attacker squadは, Vice-LeaderのFalconとMakenaと彼らの配下につくことが多かったFighter 8人をそのまま引き継ぎ, 他方, Cocoricoや4人のFighterは手放し, 代わりに各squadに散在していた5人のBow Fighterたちを集めて取り込んだ. そのBow Fighterたちを束ねることになったのが, この秋にVice-LeaderになったばかりのBiliusだった.
従来もKeikoのsquadは, 攻撃重視であり, また, 相手方と対峙して陣を崩しにかかりながら, near-sideやfar-sideのBlockを両にらみし, 味方が苦戦していたらそちらに人を割いてサポートすることが求められ, 状況に応じてどうとでも動く人たちの集まりであったため, FASに衣替えしても, Flagを攻撃するだけではなく, battle areaの前方でより広範囲に遊撃する点では同じだった. そのため, Keikoの性格と敏捷な行動力に照らし合わせると, FASをKeikoが引き受けることは, 誰もが納得できるものであった.
一方, Topaz Southのほうは, Sapphire Westとは逆に, FASを11人, FDSを16人にして, 防衛重視の布陣を敷いた. これは, Keiko-squadを自陣に引っ張り込んでつぶすためである.
そのFDSのLeaderは, Vice-Captain Emilioが兼ねた. 彼は, “Three Lightning Spears”の1人であり, 滑らかな動作でspearをさばき, 隙なく無駄なく攻める強者であるため, 守備よりも攻撃要員として使うほうが良いと考えられているが, このSapphireとの試合では, Sapphireの攻撃力を見くびることなく, Keikoを待ち受けて倒すことを旨とし, 守備の要に自ら立候補したのだ.
Scene 3.4.3:
Second-halfの最初のTeam Match (T3) の開始の合図からまもなく, 両teamはcenter-lineを挟んでぶつかり合い, middle areaでは, 数に勝るSapphire WestのFAS (Flag-attacker squad) が徐々にTopaz SouthのFASを押し込んだ. もっともこれはTopazの作戦どおりであり, 自陣深くにSapphireのFASをおびき寄せて, 両sideから包囲してつぶしたいのである.
他方のSapphireのFASは, その手に乗らず, northern-endのfirst-line辺りまで押し出すや, そこで前進を止めてやや後退し, 両sideのTopazのBPSを横から突き始めた. それに対してTopazのFASは, その側面攻撃をやめさせようと前に張り出してきたが, SapphireのFASはこれを適当にあしらいながら, BPS崩しのほうを優先した.
Sapphireとしては, TopazのBPSのパワーを減らしてBlockを両sideでしっかり押して, Topazの陣地を狭くしたうえで, Topazより5人多いFASを突入させようと考えていた. 密集して戦う状況では, 数が多いほうがゴリ押しできるからだ.
そしてその時, SapphireのFASのLeader Keikoは, center-circleの中心辺りで味方に周りを守られながら, メンバーに指示を出していた.
“フフッ. 奥まったところで体力を温存させようとしても, そうはさせないぜ.”
この時, 3本の稲妻が上に向かって放射状に伸びる形のcrestを付けたhelmetをかぶり, 濃い灰色のshoulder protectorに黄色のヒガンバナの紋を大きく描いたEmilioが, 4人のSpear Fighterたちを左右に従えて, SapphireのFighterたちを押しのけながら, Keiko目がけてfar-sideから徐々に寄せてきた.
“Leader Keiko. 勝負されよ!”
Emilioが低くて甘い声優のような声を張り上げてduelを求めてきた. それに対してKeikoは右手を前に出してにべもなく, “断る!”と, まさかの拒絶を突きつけ, さらに, “押し返せ!”と, 何の礼儀もわきまえずに周りに指示した.
Duelを求められたRanked Fighterは, それを受けることがteamの作戦を実行するうえで不利になると思えても, 基本的には応じる. 後でKassenファンから, 弱虫とか卑怯者と叩かれたり, エンターテイナーとして盛り上げようとしないつまらないやつだとあきれられたりするし, 逃げ腰なRanked Fighterは周りのteammateからの評価も落ちるからである. もちろん自分が負傷していたり疲れ果てていたりするときや, まもなく試合時間が終わりそうなときは, 断っても何も問題はない.
ところが今のKeikoはいずれでもない. 普通に考えれば, 受けて当然と誰もが思っていた. しかし彼女は自分が被る精神的損害を分かったうえで拒否した. 強敵を前にしても逃げずに戦う, さわやかでかっこいいFighterのイメージに照らし合わせると見損なったと言われてもおかしくないが, 彼女は今, 体力を温存させたいのである. それはこの試合に負けないためには必須のことだったのだ.
“このおれをバカにしやがって!”
Emilioは狼狽が入り混じった怒りを覚え, やや悲しい気持ちにすらなった. 美声で美男でおまけに強いFighterである彼は, 声をかけた相手から即座に拒否されて逃げられるようなことは, 異性でも同性でもないに等しかった. おまけに手下の者を使って追い払おうとする無礼な態度をとられることなど初めてだった.
これが悪者や卑劣な者からそういう仕打ちを受けるなら別に気にすることはない. しかしKeikoは, 多くの人から愛されているスターFighterで, しかもKasgaから絶大な信頼を置かれているという点では嫉妬を感じるほどの者であり, そのような者からひどいあしらいを受けることは, ナルシストのEmilioには耐えられないことであった.
そして彼は, 8年前の思い出したくない出来事を脳裏に浮かべてしまった.
“Three Lightning Spears”と呼ばれる3人のTunde兄弟は, ユーラシア大陸の奥深くの国に住んでいた. 長兄のEmilioは, その身体的美点を生かして俳優になり, 多くの特に女性から人気を得て, 実際に恋愛関係のゴシップも絶えなかった. そしてただ単にかっこいいだけではなく, 演技力もあったため, 彼の国の歴史上のヒーローを題材にした映画を作ることになった時に主演男優にノミネートされた.
ところが彼には1つ, 自分の努力ではどうしようもない問題があった. それは, その国における支配階級の構成員である多数派の民族であるOrga族ではなかったことであった.
彼が, 少数民族であり, かつ古くからその地にいたわけではなく近世になって南方から移住してきたEbiga族の出身であったことから, 政府の文化・教育担当の大臣が, Emilioが国の偉大なヒーローを演じることに断固として反対し, その意向に逆らえない映画制作会社はEmilioを選定しないことを明言した.
EmilioとしてはEbiga族の自分がOrga族のヒーローを演じることは民族間の融和に資するという高尚な思いもあり強く抗議したが, 所詮, 社会的に影響力のない少数民族の一員が吠えたところで, 何も変わらない.
映画制作会社の社長に直接会って話をしたいと会社の受付でしつこく申し込んだが, そこに現れたOrga族の大柄の社員が彼の要求に対して, 何らの理由も付けずに“断る”と言い, 周りにいた警備員たちに対して“追い返せ”と告げた.
そしてその警備員たちは, 車に彼を乗せて近所にあった物置小屋に連行し, その薄暗い小屋の中で彼に暴行を加え, あおむけに倒れて足腰が立たなくなるまで傷ついたEmilioに対して容赦なく殴り, 蹴りつけたのであった.
次兄のAbilioは, そんな民族差別主義が平然とのさばっている母国にさっさと見切りをつけ, ユーラシア大陸の東の沖合いにある島国から分離して誕生したExperimental Cityで始まった“Kassen”というスポーツ・イベントを知るや, それに深く魅了され, Hanasakaに移住してFighterになっていた.
失意の底にあるEmilioを救い出すために, Abilioは, 末弟のNelioとともに, 地球上の全民族に門戸を開くHanasakaに来るよう強く求めた. EmilioのアシスタントをしていたNelioはEmilioの姿を見て, この国での生きづらさをひしひしと感じていたため, Abilioの提案にすぐさま賛成したが, Emilioはそれでもこの国のために自分ができることを模索しようとしていた.
しかしながら, Orga族の支配者たちは, Emilioが素直に自分たちの要請に応じなかったことが生意気に思えたため, ネガティヴな情報をフェイクも交えて意図的に拡散し, その影響もあって彼はその時に付き合っていた, 2番目の多数派であるEga族の女性とも別れることになった. 彼らは, Ebiga族の者はEga族から見ても仲良くできる相手ではないという印象を国民に持たせたかったのである.
将来の伴侶と考えていた人との破局を迎えるに至り, ようやくEmilioは国を離れることを決意し, NelioとともにHanasakaにやってきた. そして, Abilioと同じく運動神経には自信があったため, NelioとともにFighterになり, “Three Lightning Spears”と名乗るようになったのであった.
Emilioの怒気はTopaz SouthのFighterたちに以心伝心で広がり, Sapphire Westに猛烈な攻撃を仕掛けた. もちろんそれに対してSapphire側も必死に抵抗した.
そのため, Block押しよりも相手の数を減らすことに双方が専念し, HPをゼロにされたFighterが両teamから次々に出る荒れた試合になり, 開始から9分後には, 生き残っている者が, Sapphire側が8人, Topaz側が12人にまで減ってしまい, 4機のumpireがT3の終了の笛を同時に吹いた.
Battle areaに残っているFighterがあまりに少ない状態だとゲームとしておもしろくなくなるため, Kassenの規則上, どちらか一方のteamの戦闘可能なFighterの数が8人以下になった時点で, そのTeam Matchは終了となる. (これを“Forced Termination”という.)
そしてその時点でのBlockの位置に応じて両teamsに得点が入り, かつ, より多くのFighterが残っている側のteam (“survival winner”ともいう) にボーナスとして2点が加算される.
このT3では, 結局, SapphireもTopazもBlockを相手方の陣地のfirst-lineまでも押せなかったため, Block押しによる得点はどちらにも入らず, survival winnerであるTopazにボーナスとして2点が追加されて, SapphireとTopazのスコアは, 2対4となった.
Forced Terminationの宣言時にfieldに残っていたCaptain SoaがSapphireのloungeのほうにmech-horseに乗って戻ってくると, 先にHPを使い果たして退場しloungeにいたKeikoがfieldに出て来てSoaに駆け寄り, “すみませんでした.”と頭を下げた.
Soaとしてはもちろんこの結果に満足しているわけではなかった. そして自分の部下がやった無礼な言動に対して後でいろんな方面に謝らなければならないだろうとも考えていた. Keikoとしても自分のボスがそう考えているだろうと想像できたため, 厳しく叱られるのは覚悟していた. だが意外にもSoaは, “Keikoさんが謝る必要はないわよ.”と落ち着いた声で返答した.
驚いたKeikoが言葉を詰まらせていると, Soaはさらに意外な提案をしてきた.
“Keikoさん. 次のSingles Matchはspear 1本で戦ってみなさい. Emilioさんは超一流のSpear Fighterだから, spearだけで戦うのは相当きついはず. でもあえて自分を追い込んでみて, あなたの信念をあなたのspearで貫いてみなさい.”
Chapter 3.5: Sapphire Comet vs. Elegant Lightning
Scene 3.5.1:
“ウチのspearで信念を貫くのか… SoaさんもMeiちゃんも同じようなこと言うんやなぁ.”
Singles Matchに出場するKeikoは, 対戦相手のEmilioよりも先にcenter-circleに入っていた. そして, こちらに近づいてくるEmilioには目もくれず, 左手に持つ“Four Star Spear”の青い目玉をピカピカ光らせながら, 先ほどCaptainに言われた言葉を反芻していた.
“そうやな, ウチはSpear Fighterやもんな. Spearでとことん戦ってみるか…”
Spear Fighterはspearとswordとdaggerを持って戦うが, Singles Matchではdaggerは使わない. 今回のEmilioとの戦いもspearとswordの組み合わせが選択されていたが, Keikoはswordをscabbardから出さずにspearだけで戦うと決めていた.
先にcenter-circleにいたKeikoが相棒であるFour Star Spearを, “いい子, いい子.”とつぶやきながらなでていると, Emilioがその対決の場に現れた.
Emilioは, 先のTeam Match (T3) でKeikoにduelを拒否され, 沸点を突破した自分の感情を, 休憩時間中に少しは抑えたものの, 自分がこのcenter-circleに近づいてくるのを全く意に介さずさっきから自分のspearに語りかけているKeikoを見て, 再び沸点に到達しそうなほど怒りが沸々と湧いてきた.
“やっぱ, 怒ってはるわぁ…”
KeikoはEmilioの険しい表情を横目で見て, やばい雰囲気であることを理解し, 前を向いて, “先ほどは大変失礼しました.”と, 低い声で何の感情も込めずに言って頭を下げた.
まずは詫びを申し入れたKeikoに, Emilioは即座にいつもの優男の表情に変わり, “いや, いいよ.”と歯を見せて笑顔を見せた. そして, “そんなにいらいらして, 彼氏にでもふられのかな?”と, 早速揺さぶりをかけた. Kassenの規則上, 禁止されている“著しく不快感を与える言動”とまではいえないが, Keikoは返事もしたくなかったので黙っていた.
“黙っているってことは図星かな?”
この種の話は, 自分はもしかして女のなり損ないかもしれないと, 世間一般の同性に劣等感を持っているKeikoをいら立たせるには効果的であった.
“それともその歳になってまだいないのかな?”
うっとうしいやつだと思いながら, Keikoは心の動静を悟られないようにそれにも答えなかったが, gripを握る手に自然と力が入った.
“かわいそうに. 今まで彼氏がいなかったのか.”
こういう会話をネチネチといつまでも続けたくないKeikoが舌打ちをした時, Singles Matchの開始の笛が鳴った. と同時に前へ踏み込みspearを真正面から突いたが, EmilioはKeikoの動きを読んでいて, 一瞬早く左によけて, Keikoの右のArm-guardに目がけて上からspearで叩いた. Keikoはいきなり1点失った.
しかしKeikoはさっと後ろに下がったうえで, spearを振り上げながら1, 2, 3のリズムでジャンプし, Emilioの右肩に思い切り振り下ろした.
Keikoは陸上選手並みに遠くにそして高く跳べるが, 今回のAutumn Gamesからいずれのroundでも, 跳躍力を強化した“Foot Enhancers”を使うことが認められていた. そのため, Keikoはいつも以上に高く跳び, そして地球の重力によって落下してくる速度を使いつつ体をしならせながらspearを握る両手に力を乗せて強烈に叩いた.
それに対しEmilioは, とっさにspearを持つ両手を上げたことで, KeikoのFour Star Spearが自分のshoulder protectorに直接食い込むのを直前でなんとか阻止することはできた.
しかしKeikoの激しい一打によって, shoulder protectorの上に乗せたEmilioのspearは折れてしまい, Emilio自身も, 直撃を免れたものの右の鎖骨に痛みを伴う残響によって, 思わず左手で右肩を押さえるほどだった.
Keikoとしても, Chammeiの左のArm-guardに打ち下ろした時の2倍ぐらいのパワーが発揮できたと見積もれたぐらいの破壊力だったので, Chammeiより厚い筋肉をつけているEmilioも, さすがに苦痛のうめき声が漏れた.
Emilioのspearが折れたことでumpireが時間を止めて, Emilioが新しいもの取り換えるか, 双方がspearを捨ててswordだけで戦うことにするか, EmilioとKeikoに尋ねた. するとすかさずKeikoが, “Emilioさんのspearを取り換えてください. お互いSpear Fighterですからspearで戦いたいです.”と, やや強めの語気で無表情に答えた.
“同意見だ.”
Emilioも不愛想に答えた. Umpireも了解して, Topaz側のEquipmentのinspectorに新しいspearを持って来させ, またSapphire側のinspectorに, 一応Keikoのspearにも異常がないかを簡易的に調べるために来させた.
“こいつ, 叩いても何の得点にもならない肩をわざと叩いたな… 規則上, グレーなことをやりやがって…”
Kassenは素手で相手と組み合って戦うことは想定しておらず, 規則上, 体当たりをしたり, こぶしで殴ったり, 首を絞めてたり, 頭やひじで突いたり, 投げ技や締め技をすることは禁じられており, また首から上や股間をWeaponsで故意に攻撃してはならない.
しかし, Weaponsを使って, 急所を除いた胴体や腕や脚をわざと攻撃することは禁じられてはいないため, KeikoがWeaponsで相手の肩を叩いても問題はなさそうだが, HPを下げることができない箇所をわざと狙って攻撃することは, 単に相手を痛めつけるだけの行為であることからHanasakaのKassenでは控えるべきだと考えられ, 規則上, 明確に禁止すべきだと主張する者もいた.
Umpireのmech-giraffeも, Keikoの打撃が強烈だったことからEmilioと同じように考え, “Keikoさん, 念のため聞きますが, Emilioさんに対する右肩への攻撃は痛めつけるためですか?”と尋ねた.
Keikoは首を下ろして尋ねてきたumpireのみならずEmilioとも視線を合わせず, 斜め上のほうを向いて, “いいえ.”とだけ答えた.
“うそだろう? 手が滑ったとでも言うのか? いったい何の恨みがあっておれにケンカを売ってくる?”
Emilioが即座に抗議するとKeikoは, “私はspearに任せただけです. Spearに聞いてください.”とはぐらかした.
“ごちゃごちゃ言うなってことか. おもしろい. いい度胸をしている. 久しぶりにおれを本気にさせたな.”
Keikoのふてぶてしい態度はEmilioの闘志に火をつけた.
そこに, Emilioのために, fieldの西側にあるEISのメンバーが控えている部屋から1人のinspectorが新しいspearを持ってきた.
“Akiくん…”
Keikoは一瞬目を大きく見開いたが, 表情を悟られまいとうつむいた.
“Emilioさん. 新しいspearです. 壊れたものをお渡しください.”
そのinspectorは事務的な態度でEmilioとの間でspearを授受してすぐに立ち去った.
一方, Keikoの“Four Star Spear”については, 今日のSapphire側の検査を担当していたMatildaが来て簡易的なチェックをし, その結果, 異常は見つからなかったため, Keikoはそのまま使うことになった. 彼女の使い方が荒すぎて折れまくるため, workshop “Nemophila”の職人たちが軽くて丈夫な繊維でshaftを巻いて保護していたのだ.
“声, 聞けた…”
Keikoはうつむいたままの状態でにんまりと笑みを浮かべた. そしてそれはEmilioには不気味な挑発の笑みに思えた.
“おれを甘く見るなよ.”
両者の戦いが再開した. Emilioの動きは基本的に無駄がない. Spearの動きを止めるべきポイントではピタッと止める. 払うときも必要以上に振り回さない. 足の運びも体の回転も, まるで舞をしているかのように見える. だから“Elegant Lightning”と呼ばれる.
一方のKeikoは, 華麗な舞を踊るようには見えないが, 素早い動きと間合いの詰め方のうまさに定評がある. しかし今日は, いつもと違ってEmilioのダンスに付き合っているかのように動き, 押しと引きをシンクロさせて, これ以上失点しないように立ち回った.
そうして3分ほど経過してくるとEmilioはなんだか楽しくなってきた.
“何なんだ? この心地よさは… まるで恋人どうしでロンドを踊っているような… こいつはケンカを売っていたんじゃなかったのか?”
EmilioがKeikoとなんとなく円を描きながら美しく舞い, 幻想的なうっとりとした気分に彼が浸り始めたその瞬間, 自分の腹にKeikoの強烈な突きが入った.
“なぬ!”
しかもEmilioはいつの間にかcenter-circleの縁の近くまで体が移っていたところで強烈なストレートパンチを受けたため, 体が後ろによろけてcenter-circleのラインをまたいでしまった.
これで“Front Torso”への突きで5点, center-circleからのはみ出しで5点, 計10点を一気に失った. Keikoとの甘い夢は彼女の無情な一突きによって木っ端みじんに破壊された. KeikoはEmilioが気を許す瞬間を虎視眈々と狙いながら一緒に踊っていたのだ.
“見事な変身ぶりね, Keikoさん… どうやらあの男の子があなたのスーパー・ブースターなのは本当のようね…”
Loungeに設置されている大型スクリーンでKeikoとEmilioの戦いの様子を見ていたCaptain Soaは, Topaz側のEISの担当者がEmilioに新しいspearを渡しに行った後から, Keikoの戦い方がレベルアップしたように見えた.
“Keikoさんがなぜあの男の子を意識しているのか知らないけど, 今日の試合を通じて, 今の3分間が最も気持ちが乗っている. 無駄に力を使わず, 一瞬の隙に全力をぶつける彼女本来の戦い方だ. Keikoさん, もしかしてあの男の子を… いやいやそれは考えすぎだ… 彼女がそこまで考えられるとは思えない.”
Singles Matchの終了まであと1分余りしかない中でのHPのマイナス10点はEmilioに対してほぼ致命的だった. EmilioとKeikoが再びcenter-lineを挟んで対峙し試合が再開されたが, Keikoは残り時間を積極的に攻めにいかずに守りに徹し, 消極プレイととられない限りで時間を費やして, この戦いを終わらせるはずだった.
しかしここからEmilioは脅威の粘りを見せた. 兄弟の中で最速の連続突きで猛烈にKeikoを攻め立てた. KeikoはFront Torsoに突かれてspecial deductionを取られるのだけは避けたいと左右に体の向きをよじらせながらなんとかEmilioの攻撃をかわそうとしたが, あまりの速さについていけず, わずか40秒の間に, Front Torsoに1回, 左右の腰付近に合計3回突かれて8点も失った.
そしてEmilioのspear-headをかわしながら後ずさりしていく中で体をひねりすぎて体勢が崩れ, あおむけに倒れてしまった.
“しまった. やられるっ!”
腹を見せて体を寝かせている状態は非常に危険である. Front Torsoを突かれるおそれがあるのはもちろんだが, 寝転んだ状態で自分より力が強くしかも自分を攻撃している者がすぐそばに立っているというのは, 次の瞬間, 身体に重大なダメージを食らう恐れがあり, 動物の本能として恐怖を覚える.
自分を見下ろしとどめの一撃を刺そうとしているEmilioと視線が合った瞬間, Keikoの脳裏にあの時のシーンが一瞬フラッシュ・バックされ, 目を閉じて観念したが, Emilioは, “フッ. おれは, そんな無防備な恰好のヤツに攻撃するようなクソヤローじゃないぜ.”と言って, spearを突き下ろすのをやめた.
そしてその瞬間, 制限時間が来てumpireが笛を鳴らした. Emilioが奪われたHPは10点. それに対してKeikoは9点だったため, 1点差でKeikoの勝ちとなった.
Emilioが差し出した右手を捕まえて, Keikoは立ち上がった.
“武士の情け, ありがとうございます.”
Keikoは, 最後にFront Torsoにとどめを刺して逆転勝ちができたにもかかわらずそれをせず, しかもそのためにSingles Matchの勝ちを放棄したEmilioに素直に謝意を伝えた.
Emilioは鼻で笑って, “まあ, Kassenはスポーツだから, これでいい. プレイの中に美しさを求めることは自分の強さにもつながる.”と自分の信条を述べ, “だからおれにとっては, 朝食の後に歯を磨くのと同じぐらい, 当然だ.”と, ややよく分からない比喩を付け加えて, 自分のプレイの清潔ぶりをアピールした.
“勉強になります.”
“いいバトルだったぜ. 負けたのは悔しいけど, Keikoさんとのspearのダンスは楽しかった. ま, その気持ちよさが油断になって, やられたわけだけどさ.”
このSingles Matchが始まる時の険悪な雰囲気は2人の間にはもうなかった. Keikoは, 自分のspearを左肩の上に置いてニヤリと笑って, “負けても楽しかったやなんて, 変なことを言いますね?”と本意を尋ねた.
“やれやれ, もうちょっと楽しくいこうよ, Keikoさん. もちろん負けるのは嫌だけどね. でも, Keikoさんとドキドキ興奮できるプレイができて, いやぁ~, 良かったよ. Keikoさんも, 意外とかわいいじゃない.”
Emilioは, 甘ったるい声でそうささやいてKeikoの顔にさらに近づこうとしたが, その瞬間, いきなり左ほおに平手打ちを食らった.
この時代の翻訳アプリは聞き手が話し手をどう思っているかをAIのほうが推測して, 意味を変えない範囲で表現をそのイメージに合わせてくる. KeikoはEmilioを普段からキザなヤツだと思っているのでそれに応じた言い回しになり, 余計に腹が立つ.
もちろんそうした先入観をAIが助長してコミュニケーションを悪化させるのを防ぐために, そのような推測をかけないモードにして, どんなに親しくても普通の丁寧な言葉で通すよう設定することもできるが, Keikoはそうしていなかったため, せっかくの和解の雰囲気をぶち壊した.
そして, “‘意外’は余計です.”と, 捨てぜりふをはいてcenter-circleを後にした.
その平手打ちシーンを目撃したスタンドの観客たちも大いに驚いたが, Emilioが肩をすぼめて, 振られてしまったと言いたそうなポーズをとったため, 色男のEmilioがKeikoに言い寄ったんだなと解釈して, 悪意のない笑い声が沸き上がった.
彼はHanasakaに来ても, 常にいろんな女性に言い寄る習性を改めることはできなかった. Kassen communityのアイドルであるChammeiにももちろんアタックをかけ, 彼女がEmilioに対して友達の1人にすぎないと公言していてもあきらめない根性も持っていた.
そうした彼のキャラクターをHanasaka市民は受け入れていたし, 彼自身もそのように見られていることを悪く思っておらず, 元俳優でありエンターテイナーであるEmilioにとって, 女性に平手打ちを食らって笑いを取ることは, 自分のプライドを傷つけるものではなく, “Sapphire Cometに引っぱたかれた男”という名誉ある称号を得ることができたので, それはそれで満足できた.
Singles MatchでKeikoが勝ったことでSapphire Westに1点追加され, Sapphire WestとTopaz Southのスコアは, 3対4となった.
なお, このAutumn Gamesから, Representative Match (Bow Fighterによる“Shoot-off”またはRanked Fighterによる“Singles Match”) で勝利したteamに与えられるボーナスについて, 負けた側のBlockを1段階下げさせるか, 下げさせるBlockがない場合は1点追加されるという従来のルールが変更され, 相手方が押し込んだBlockは変動させず, 1点の追加とともに, 次のTeam MatchでFighterたちが最初に位置につくスタートラインを, far-sideではfirst-lineまで張り出すことができる“head-start advantage”を得られることとなった.
この変更は, せっかくTeam MatchでBlockを大きく前進させてもRepresentative Matchという特定のFighterによる戦いで負けたことによってBlockを後退させられ, team全体の士気が大きく下がるという問題を改善するためであった.
これにより, その後おこなわれた最後のTeam Match (T4) では, Sapphireはfar-sideでのBlock押しは有利であったにもかかわらず, 結局は, 両者それぞれ片方のBlockをsecond-lineを越えるところまで押したところでゲームセットとなり, 双方3点が追加され, この試合はTopazが1点リードのまま逃げ切った. Topazの守りがSingles MatchでのSapphireの勝利のアドバンテージを消してしまうぐらいに強かったのである.
Scene 3.5.2:
試合終了後, Sapphire WestのFighterたちは彼らの拠点であるVictoria Sports Centerにclubのバスで戻り, いつものように反省のミーティングをおこなった.
出場したFighterだけでも全部で50人以上もいる中で雑多に話し合っても, いい反省ができないため, まずはsquad内で5人ほどがグループを組んで試合を振り返り良かった点と改善を要する点を挙げ, 次にsquadとしてLeaderとVice-Leaderたちも含めて話し合ってsquadとしての意見をまとめ, 最後にteam全体でCaptainやVice-Captainも交えて各Leaderが自分のsquadの意見を述べながらみんなで自由に議論をする.
この話し合いには2つの決まりがある. 1つは, 特定の個人を攻撃しないこと. もう1つは, チームにとって建設的な議論につながらない発言をしないこと. あくまでチーム全体の実力を向上させるために, みんながその日の試合を振り返り, 悩みを共有し, 改善策を提案し, みんなが良いと思ったことを実行するためにおこなうものだからだ.
会議が始まって30分が経ち, 最初の2ステップは終わり, いよいよ最後の全体での話し合いに移るにあたり, 議事進行を務めるVice-Captain Shionが, “では, 各Leaderからお話しください.”と発言を促した. この会議では, 通常はSquad Leaderになってからの期間が短い者から順に話すが, この日はチーム内で最年長のLeader Galpagoが立ち上がり, “すみません. 今日は私から発言してもよろしいでしょうか?”とShionに尋ねた.
Shionは一瞬驚いたが, “ええ, もちろんです.”と許可した. 会場が少しざわついた. Sapphire Westが誕生したときから今まで現役でFighterを続けているGalpagoは, チームの知恵袋であり, 良きメンターであり, FighterのみならずCaptain Soaからも一目置かれた存在で, 彼の語る話には皆が耳を傾けた.
そのGalpagoは, 普段は自分より若い者が年配者に遠慮せずに意見が言えるように, 聞き役に回り, 周りの者の話を聞いてから自分の意見を述べることが多かったが, 今日はその慣例を破って, 最初に自分が話をしたいと申し出たため, これは何かよほど重大なことが提議されるのだろうと皆が思った.
“最古老の私から発言することをどうかお許しください. 私は, Keikoさんに, いくつかお考えを聞かせていただきたいと思います.”
多くの者が, やっぱりそうなのかと思い, 再び辺りがざわめいた. Keikoは, きっとこの場で叱られるのだろうと覚悟して, “はい. 何でしょうか?”と, うつむいたままぼそっと返答した.
“ありがとうございます. 誤解のないよう申し上げておくと, 私はKeikoさんに何か意見を述べたいわけではありません. ただKeikoさんの本心を教えてほしいのです.”
Galpagoはまず自分はKeikoを攻撃する意思がないことを冒頭に述べた.
“まず, T3でEmilioさんがKeikoさんに勝負を求めてきたときに, Keikoさんはそれを断り, さらに追い返せと指示をされました. これはKeikoさん自身の評価を落とす, かなりリスキーなことです. それに, Emilioさんとしてもショックだっただろうと思います. これが, 素行の悪いFighterに断られたのであれば, 彼は何とも思わないでしょう. しかし, その逆. 多くの人から愛されるFighterからぞんざいに扱われるというのは彼にとってもTopazのFighterたちにとっても悲しいことだったでしょうし, 現にその後は, Topazとは険悪な雰囲気になってT3は時間前に終わってしまいました.
“Keikoさんもそうなることは予想できたはずですが, それでも勝負を断ったのは, Keikoさんとしては, そうでもしないと体力が持たなかったからなんでしょうか?”
Keikoは3秒ほど黙っていたが, “はい. そうです.”と, まずは肯定した.
“私は…, その…, 今…, その…”
Keikoが言いにくそうにしていたためCaptain Soaが, “Keikoさん. 言いたくないことなら, 言いたくありませんと返事していいのよ.”と, 助け船を出した.
“あ, はい. いや, その…, 私は, 正直, その…, ほんとは, 体が…, ボロボロなんです. すみません. 足腰に結構きてるんです.”
仲間たちから強くて頼りになるLeaderと思われたいKeikoとしては, これは言いたくなかったことだった.
このAutumn Gamesでは“Foot Enhancers”によって跳躍力を強化したシューズをはけるようになり, より高くより遠くにジャンプできるようになったが, 着地の時により強くかかる衝撃を毎回うまく吸収できるとは限らず, 足腰に負担がかかっていた. これはどのFighterにも言えることで, それゆえFighterたちは, より少ない力で, 今まで飛んでいた高さと距離のジャンプをするという使い方をしていた. ところがKeikoは力を抜かずに, Fighterとしてのさらなる高みを目指してジャンプしていたのだ.
“Keikoさん, 正直におっしゃっていただきありがとうございます.”
Galpagoも, Keikoの性格上, この告白はきつかっただろうと推し量れたため, 感謝の念を伝えた.
“でも, Keikoさん. EmilioとのSingles Matchでは, Keikoさんは体力がない中でフルパワーで, HPを取れない肩に強打を与えましたよね. あれは, 単に相手を必要以上に痛めつける行為だと言われて, これもKeikoさんの評価を落とす危険性があったと思いますが, それを覚悟でそうされたのは, よほどの事情があったんだと思いましたが, いかがでしょうか?”
Keikoは再び黙り込んだ. そしてその沈黙時間は10秒に及んだ.
“まさか, Keikoさん. Emilioさんのspearを破壊したのは, EISのあの男の子を呼ぶためだったの? もしそんなことがバレたら, Fighterとしてのキャリアに致命傷となるのよ…”
Captain Soaは, 試合中は一旦否定した考えを再び呼び起こした.
“Keikoさん. 言いたくないことなら, 言わなくていいわよ.”
Captain Soaは, 今度はどちらかというと言ってくれるなという思いで, Keikoに手を差し伸べた.
“あ, はい. すみません, 黙ってて. その…, ついカッとなってそうしたって言うか…, Emilioさんは, 私が勝負を断ったから腹立って, 私には彼氏なんかいないとか, 彼氏を作ったこともないんやろって言うてきて…, Chammeiさんには付き合ってくれって言い寄ってるくせに, 私にはそんなこと言うのって…, それは私がブサイクやからなんやと思って…, せやけど, ウチかって, その, えっと…, 男の人を好きになることもあるのに…, せやから, なんか…, クソッて思うて…
“でも, Galpagoさんが言うように, Emilioさんに最初にひどいことしたんは私やし…, 悪いと思ってます… 私は, 自分勝手やし…, 反感買うこともするし…, 腹立ったらしばき倒すんです. それに…, 今の自分は弱いんです…”
Keikoのほおに涙が静かにつたっていた. そしてトレーニングウェアの袖で鼻水を拭いて,言葉を続けた.
“でも…, それでも, 私は, 最強のFighterになって, Kasgaさんをお守りしたいんです. こんなわがままな私で, ほんまにすみません.”
鼻をすすりながら詫びるKeikoの姿をGalpagoは, 最大限の敬愛をもって見つめた.
“偉大なるFighterよ. よくぞおっしゃっていただきました. Keikoさんは何も悪くはないですよ. 私のほうこそ失礼な質問をして申し訳ありませんでした.”
Teamで最年長のFighter Galpagoは, Keikoに頭を下げたうえで, やや唐突ながら昔話をし始めた.
“覚えていらっしゃいますか? あなたのお兄さん, Kageroさんが使っていた‘Four Star Spear’をあなたに引き渡したのは私でした. あなたがLeaderになられた時です.
ご存じのとおり, あれは私たちの中で最強のSpear Fighterに継承されるものですから, Sapphire Sharkに匹敵するほどの強さを持つ者が選ばれます.
では, 強い者からも強いと認められるほどの強さとは何でしょうか? Fighterの力の源は, 怒りや悲しみといった負の感情です. 夢とか希望とかそういったものだけでは, 本当に強いFighterにはなれません. そしてFighterは欲が深いものです. そうでないと敵にやられて命を落としかねないですから. 結局のところ, 強い信念を持っていないFighterは, どうがんばっても最強のFighterにはなれません.
Keikoさん, 私はあなたに強い負の感情と深い我欲に基づく頑なな信念を感じ取っていました. そしてそれはあなたのお兄さんよりもずっと激しいと思っていました. だからあのspearの継承者の選定を任された私は, あなたを選んだのです.
Four Star Spearの継承者よ. あのspearを使える者は今でもあなた以外にいない. 私は今日, 改めてそう確信しました. どうかSapphire Westのために, そのspearを持って, Apex Fighterになって, Kasgaさんをお守りいただきたい.”
Galpagoの優しい眼差しによる力強い励ましに, 部屋中, 温かい拍手が鳴り響いた. Captain Soaは, Keikoがいつもは見せたがらない弱さや私情を語り, それに対してGalpagoが彼女の私情を肯定し, 同時に彼女の弱さを否定し, Fighterとしての真の強さを説明したことで, ここにいる多くの者が, 彼女が望む道を歩んでいけるように応援したいという思いを持つようになってくれただろうと期待した.
“さすがGalpagoさん, ありがとうございます. 今のKeikoさんにとても効果的なアドバイスだと思います. それに, ここしばらくみんなが持っていたモヤモヤした違和感もこれで解消できるでしょう.
“そして, Keikoさんもありがとう. よくぞ自分の気持ちをさらけ出してくれた. 自分の弱さを素直に受け入れている人ほど周りはついてくる. 周りがついてくる人ほどその人が持つ光の輝きは強くなる. そしてそれが戦う相手を圧倒させ, 絶対に負けない存在にさせるのよ.”
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