Part 3: The Ninth Autumn
Chapter 3.12: Sapphire West’s Counterattack
Overview (Spoiler-Free)
As the Autumn Games final match resumes after half-time, an emergency power reduction notice interrupts the arena — Hanasaka’s policy AI Politis is under cyberattack. Despite the tension, the match continues. Near the entrance to the lounge, a careful exchange between EIS inspectors Yugo and Yoen, and an injured Falcon, reveals something about Keiko’s state of mind. In second-half Team Match T3, Sapphire executes a brilliant coordinated play that turns the tide decisively.
Detailed Summary
A city-wide emergency power reduction takes effect during half-time, as Politis faces an unprecedented data-tampering attack. The match continues with reduced arena lighting. Yugo and Yoen — two of only four EIS inspectors present — are asked by Falcon about the reduced staffing. Yugo and Yoen deflect with a gentle half-truth, telling him the absent members have minor colds and will surely be watching. The remark reaches Keiko; her expression softens visibly, and she seems to shed the emotional weight she has carried all match. In second-half Team Match T3, Captain Soa and Keiko execute a coordinated attack on Don, exploiting a bond that runs deeper than Kassen: years earlier, Soa and Don fought side by side in a brutal warzone, where Don's unit rescued a gravely wounded Soa from an attack she had predicted. That history makes Don instinctively reluctant to raise a weapon against her — a hesitation Soa calculates on deliberately. The combined assault fractures Garnet's defensive line, allowing Sapphire to push both Blocks past the first line. T3 ends with Garnet 2, Sapphire 4.Scene 3.12.1:
“皆さん, こちらはHanasaka City Energy Control Agencyです. 現在, Hanasakaの政策立案システム‘Politis’がこれまでにない大規模な記録の改ざん攻撃を受けており, 目下, 抗戦中です. ‘Politis’は中枢頭脳Floraに守られ非常に堅牢であり, 破壊されることはありませんが, 戦闘の継続に必要な電力をまかなうために, ただ今から市内全域で, エッセンシャルなインフラを除き, 緊急電力調整介入措置をおこないます. 皆さんにはご迷惑をおかけしますが, ご理解とご協力をお願いします.”
Half-timeに入って3分経った時に, 突然, Arenaの場内放送で電力の使用制限についての緊急通知が流れた. 市民はもちろん, そうでない人たちも, smart glassesを付けていれば, 同じ内容の通知文が否応なく割り込んで表示され, 骨伝導イヤホンを通じて音声でも伝えられた.
そして, 2回, 同じ内容で放送が繰り返された後, Arena内の半分ぐらいの照明が自動で消灯した. 幸いその日は曇り空で, 空に向かってArenaのPetalが開かれていたため, スタンドやfieldには雲を通過したまぶしすぎない日の光が採り入れられ, 外の空気に触れている人にとってはそれほどの照度の低下は感じられなかった.
また, Hanasakaでは, 住居や事務所など電気を使うすべての施設の使用責任者に対し1年間に使用できる電力量が決められ (その施設を複数の家族や団体が共同で使用している場合は, 使用責任者がそれらに上限をそれぞれ設定する.), 上限を越えそうなときはその施設で強制的に節電を実施することがあるため, 観客たちのうち少なくともHanasakaの住民は, Politisが攻撃されていることは驚くべき有事だが, Energy Control Agencyが強制的に電力使用量の調整をすること自体は冷静に受け止めることができた.
しかしながら, 照明の間引き消灯ぐらいであれば良いが, Kassenの試合自体がそもそもエッセンシャルとはいえないため, Floraとそれに率いられた情報システム群が苦戦するようであれば, 試合そのものの中止を命じられるのではないかという不安が芽生えて観客たちが騒ぎ始めた.
“皆様, Castle Officeよりお知らせいたします. 現在, Energy Control Agencyによる緊急電力調整介入措置により, Arena内の電力使用量が25%低下しておりますが, 試合の実施に必要な設備へ優先的に電力を振り向けておりますので, このまま試合を継続いたします.”
Arenaの運営や試合の実施を担当しているGAMS (Games and Arena Management Section) から試合続行のアナウンスがなされると, Arena中から安堵の歓声と拍手が上がった.
“とはいっても, 正直, Castle Officeとしても, のんきに試合をやっている余裕はないんだろうな… Moglaさんの話じゃ, ‘Stone Cold’がFloraのラビリンスを抜け出すのは11月9日のはずなのに, なんで今, こんな攻撃を受けてんだ? Stone Coldとの戦いでパワーを使い続けているHanasakaのFloraを, 今がチャンスと狙っているほかの敵対的なAIがいるのか… 見栄を張って予定どおりに試合を実施するなんて, 警察もCastle Officeもどうかしてるぜ.”
1週間前から期間限定の警備員として雇われている絵描きのJascaは, Arenaの南スタンドを巡回しながら上を向くと, Petalによって視界が遮られていない, 限られた空域をだけでも2機のmech-hawkがArenaの上を飛んでいるのが見えた. そしてさらに城のほうに目を向けるとその10倍ほどが監視飛行をしていた.
“いや, のんきにやっているわけじゃないな… 実際に働いているみんなは一生懸命だ. 特にEIS. Akioさんは病院で安静中. Altanさんは詳細不明の特別任務を実施中. Juliaさんは‘Shining Sword’の総合試験を監督中. 残りは, Resilin, Yoen, Matilda, Yugoの4人か. かわいそうに, きついだろうな…”
今日の試合では, ResilinとMatildaはGarnet Eastを, YoenとYugoはSapphire Westを受け持ち, いずれも2人で, 担当のteamの仕事をさばかなければならないきつさに不満を述べることなく, half-timeを迎えてbattle areaからloungeのほうに戻ってきたFighterたちを待ち受けて, ひとりひとりにEquipment Resetを淡々とやっていた.
Scene 3.12.2:
2日前, Juliaは, EISのメンバー全員に対してオンライン会議で, Akioの身に起こったことを知らせた.
Yugoをはじめ何人かは最近のAkioは心が読めなくなっていると感じて, その理由が分からずもやもやしていたが, 悪意あるnano-machinesを注入されたとは思いもよらず, 驚きとともにその実行者に対して強い怒りを皆が共有した. そしてさらに, いずれ自分もその注入の対象になるのではないかと不安を覚えた.
そのためJuliaは, 当面の間, 念のために, 飲食する前には検知装置を使ってnano-machinesが混入されていないか調べるよう勧めたが, Julia自身とAltan以外は誰もそのような検知装置を持っていないことが分かったため, Castle Officeの経費でできるだけ早く買って, 皆に配布すると伝えた.
しかしなぜAkioが狙われたのか, Resilin, Yoen, Matilda, Yugoの4人は当然ながら疑問を抱かざるを得なかった.
Yugoは, Akioが持っているあの黒い石のせいではないかと述べたが, それに対して, Akioからその石について話を聞いたことがあるMatildaが, “Akioさんは, 自分を守ってくれる石だと警察から説明されたと言ってましたけど.”と言ってYugoの説を退け, “きっとPolinaさんと何か城に関する怪しい秘密を知っているからじゃないの?”と, 自説を述べた.
彼女は, あの夜, Akioが自分とPolinaを天秤にかけて最終的にPolinaのほうを選択したかのように思える行動をとったことにいまだに不満を持っていたのだ.
“それだと, Castle OfficeがAkioさんを殺そうとしたってことにならないですか?”
Resilinは, 一般市民に知られたくないHanasaka Castleの秘密があるとしたら, それを持っているのはCastle Officeだろうから, Matildaの説は, 自分が所属する組織を疑うことになるのではないかと指摘した.
そして, “あまりこういうことは言いたくないですが, Akioさんは何かの犯罪に利用されていたとは考えられませんか?”と前置きしたうえで, “つまり, 最近の犯罪者は, 人間が無意識にやってしまうちょっとした動作をスイッチのように利用して, 全く予想不能に, しかも誰も犯罪の意思がないまま, 有害作用を発生させるようなことをすると聞いたことがあります. それで, Akioさんは, 言葉がすぐに出てこなかったり音を繰り返してしまったりすることがあるじゃないですか. それを利用して何か悪だくみをするやつがいるのを誰かが気づいて, そいつがそれを阻止するために, Akioさんを何もしゃべれない状態にしようとしたんじゃないですか?”と, 最近の犯罪のトレンドに基づいた推理を披露した.
“ちょっと待ってください. それだったらそれも, Castle OfficeかCity OfficeがAkioさんを殺そうとしたってことになりませんか? だって, そんな卑怯な手を使うのはHanasakaに攻めてこようとしているやつらですよね. それを阻止したいのは我々じゃないですか?”
Yoenの突っ込みにResilinは, “そうですね.”と言って, 自分の理屈のおかしさに笑った.
“私は, その…, 非常に言いにくいのですが…, 今までずっと言えなくて隠していたんですが, その…”
“Yoenさんが遠慮するなんて珍しいわね. 言いたいことがあったら, 言っていいのよ.”
Juliaは, 言いにくそうにしているYoenの背中をさすってのどにつかえるものを吐き出させようとしているかのように, 優しく発言を促した.
“じゃあ, 思い切って言いますけど…, AkioさんとSapphireのKeikoさんはたぶん知り合いだったんだろうと思いますが, 私, 気づいていたんです. Akioさんはどうか分からないですが, 彼女はAkioさんのことを好きなんだって.”
Matildaは失笑し, 腹を抱えた.
“Yoenさん. いきなり何を言い出すの? あのスーパースターがAkioさんを好きになるって, そんなバカみたいなこと, あるわけないでしょ.”
“わ, 私もそう思ったけど, なんでか分かんないけど, そうなのよ. 今年の春, うちのシステムがダウンした日, 私はAkioさんと一緒にSapphire側を担当したんですが, あの時, 彼女はAkioさんによく分からないことを話されたんですけど, その時の彼女は目をウルウルさせて彼の顔を見ていました. あれは, 好きな人と話ができてうれしくてうれしくてたまらないときの目です.”
“Yoenさんも気づいていたのか…”
Yugoは, このことがEISの外に漏れたら非常にまずいことになると考え, “あの, それって…”と, 慌ててその推論を否定しようとしたが, Resilinが, “ちょっと待ってください.”と言って割り込み, “もしそれが本当だったら, それはCastle Officeにとって秘密にしたいことですよね. それがバレないようにAkioさんを消そうとしたって言いたいんですか? それだったら, Castle OfficeがAkioさんを殺そうとしたってことになるじゃないですか?”と, Yoenに突っ込み返して笑い出した.
Yoenも, 今まで隠していたことを, 勇気をもってさらけ出したわりには笑いを取っただけだったことにおかしさを感じて, クスッと笑った. Matildaはやっと笑いが止まりそうだったのに, 再び笑い出した.
“あぁ, もう, みんないい加減にして. そんなに自分の組織が信じられないの? みんな, 本当にCastle Officeのスタッフなの?”
Juliaも肩をすくめて, この場の雰囲気をさらに和ませた. そして, “まあ, 犯罪事件として警察も調べているから, 何か連絡が来たら皆さんにもお伝えするわね.”と言って,彼らの中でこの話がこれ以上盛り上がらないように暗に釘を刺した.
“Akioさんは残念ながら11月4日の最終試合には出られそうにないけど, 回復してきているのは確かよ. 一日でも早く職場に戻ってきてほしいと思っています. Akioさんは我々のかけがえのないメンバーです. 私の責任で, 元に戻ったAkioさんに皆さんがすぐに会えるようにします. Kasgaさんは, 力を合わせば決して負けることはないとおっしゃいました. だから我々もくじけずにがんばりましょう.”
4人ともJuliaの力強い約束を信じていた. そして最終試合を翌日に控えた日に, Juliaは急用ができ, Altanも体調を崩して当日Arenaに来れなくなったという追い打ちをかけることをHarukiから言われても, ここでくじけたり, 自分たちがちゃんと仕事ができなかったりすれば, それは敵の思うつぼになってしまうと考え, へこたれてやるものかと気合いを入れていた.
とはいえ4人とも, ふと気が抜けたときにはAkioのことを考えていた. 心の内がきれいに見えてしまう異常体質の彼に早く会いたいと思っていた.
Matildaは, 今日を含めてここ数日間, 毎日, 胸を広く開けたトップスを着ていた. あの日, “もう見ません”と言っていた彼が, 次に会った時に同じような表情を見せるかどうか気になって仕方なかったからだ.
YugoももちろんAkioが早く退院して職場に戻ってきてほしいとは思っていたが, 先読みをする彼は, KeikoがAkioを思っていることにYoenが気づいていたと語ったことについてJuliaがそのままうやむやにはしないだろうと考えていた. そのため, Akioはほかのセクションに異動し, もうEISには戻ってこないのではないかと心配し, 残念な気持ちになった.
Scene 3.12.3:
“Akioさんと一緒に, この大事な一戦をこのfieldで見たかったなぁ.”
Half-timeに入った時に実施したEquipment Resetの結果, 先のTeam Match (T2) が激しい戦いだったため, 5人のFighterのEquipmentに故障が見つかったことから, Yugoは, Yoenとともにその交換品を渡しにSapphireのloungeに来ていた.
それぞれのFighterに渡し終わり, そこからfieldのほうに出たYugoは, あと2分ほどでT3が始まり, 多くのFighterたちがまた熱い戦いを見せてくれるbattle areaを眺めて, 思わず寂しさがにじんだため息を漏らした.
その時, 彼は鋭い視線を背後に感じて振り返ると, loungeの入口辺りでKeikoが後ろで手を組んで立って, こちらを見つめていた. Yugoの左に立っていたYoenも同じように感じ, Keikoのほうに顔を向けた. Keikoは, 何かを言いたそうにしているが, 言い出していいのかためらっているようであった.
Yugoは, KeikoのEquipmentに問題が残っていたのかと思って彼女に, “どうかされましたか?”と声をかけようとしたところで, Falconがアイシングしている右脇腹を手で押さえながら現れ, “あの, すみません.”と, 逆に話しかけられた.
T2でCaptain Donに右の脇腹を強打され担架で運ばれた後, Arenaの医務室で診断を受けたFalconは, 鍛え抜かれた肉体のおかげか, 幸いにも骨が折れたり筋肉が断たれたりしたわけではなかった. 医師は痛み止めの処置をし, 患者に対して医務室で安静にすることを勧めたが, その患者は大事な試合だからloungeで見たいと強く希望し, 医師もそれを認めたのであった.
Yugoが, “はい.”と返事するや, Falconは, “あ, いや, 今日は, Sapphire側もGarnet側も, EISさん, 2人だけのようで, たいへんじゃないかなと思って…”と, YugoとYoenに気遣いの言葉をやや唐突に発した.
これに対しYoenは, 人数不足でEquipmentのinspectorとしてのサービスが行き届いていないことを遠回しに伝えているのかと思い, “申し訳ございません. こんなことは初めてなんで, 皆さんにご迷惑をおかけしています.”と謝った.
Falconは, 謝罪を求めていたわけでは全くなかったので慌てて, “いえいえ, 不満があるわけじゃなくて.”と, 左手を少し上げて敵意のないことを示したうえで, “ただ…, その… EISさんの中で風邪でもはやっているのかなと思って…”と, Keikoが聞きたい情報を聞き出せないか探りを入れた.
YugoもYoenも, 先ほどからじっとこちらを見て我々の会話を一言も漏らさずに聞こうとしているKeikoの代わりに, Falconが彼女の知りたいことを尋ねていると直感的に気づいたため, どう答えようか2人はそれぞれ一瞬ためらった. そして, ここは先輩のYoenが答えた.
“ご心配いただきありがとうございます. うちのマネージャーは急用ができてしまって, それにあいにく残りの2人が体調を崩して, 今日は4人だけなんです. 2人とも, まあ, 風邪をひいた程度ですので, 大丈夫です.”
Akioは風邪とはとても言えない状態であり, Altanもどのぐらい深刻な病状なのか全く知らなかったが, Yoenは心配ないと言い切った.
“そうですか. お大事になさってください.”
Falconは, 病気の2人のスタッフを気遣ったうえで, さらにFighterとEquipmentのinspectorとの間で越えてはいけないラインを意識しながら, “そのおふたりが少しでも元気になれるよう, いい試合をしたいと思います.”と言って, さわやかな笑顔を見せた.
これに対しYugoは, “ありがとうございます. 我々はみんなKassenが大好きなんで, 病気の時でもきっと試合を見ていると思います.”と, 社交辞令として返答した. もちろん, この会話の中にKeikoが我々から聞きたかったことを感じ取れるであろうと考えての発言だった.
Akioは, 体内に入ったnano-machinesを外部から操られないように, 病院の中の, 電磁シールドがかかった隔離病室にいて, 人工的な病原と戦っている最中であり, 試合の実況をリアルタイムで見れる状態ではない可能性のほうが高いとYugoもYoenも分かっていた.
しかしここで真実をFalconに伝えるわけにはいかないし, それよりも彼の背後にいるKeikoから悲しみがにじみ出ている眼差しでずっと見つめられ, うそと分かっていても, そうとでも言わないといけない感覚にYugoもYoenも捕らわれていた. 凍てついたバラのトゲがまとわりついた彼女の視線を浴び続けることに耐えられなかったのだ.
Yugoの言葉を聞いたKeikoの瞳から冷たい寂しさがフッと抜け, 若干, ほおが赤くなり, 口元が緩んで笑みを浮かべたのをYoenは見逃さなかった.
“やっぱり彼女は, Akioさんのことを思っている…”
YugoもKeikoの表情のちょっとした変化に気づいた. 今日は緊張のせいか見せていなかった, 明るくて強くて爽快感があるいつもの彼女に戻りつつあった. そして自分の発言がKeikoおよびSapphire側に有利に働いてしまったことを認めざるを得なかった. しかし彼は自分に落ち度があったとは思っていなかった. Keikoのそばで誰よりも彼女をしっかりと支えているFalconの話術が巧みだっただけである.
Scene 3.12.4:
Half-timeが終わり, northern-endにはSapphire West, southern-endにはGarnet Eastが陣を展開していった.
電力の使用制限についての緊急通知が流れた時は曇り空でも明るかったが, それからほんの10分程度しか経っていないのに, Arena上空の雲はその厚みを増し, 今にも雨が降りそうになっていた. Fieldの上に立つFighterたちにとってはやや暗いと感じるものの, プレイをするのに支障はなさそうであった.
問題は雨が降ってきたときである. 通常であればArenaのPetalが天頂に向けてせり出してfieldを完全に覆ってしまうので, Fighterたちは雨に濡れずに戦えるが, 電力の使用を制限し照明の明るさを落としている状態でPetalを閉じてしまうわけにはいかず, 雨水を浴びながら戦うことをどこまで許容するかCasstle Officeとしては悩むところであった.
Second-halfの最初のTeam Match (T3) は, Garnet 2対Sapphire 2のスコアで開始された.
双方とも, first-halfの2回目のTeam Match (T2) とは真逆に, Block押しに注力し, 確実に点数を取りに行こうとした. 先のT2のようにbreak-offにしても2点しか取れないが, Blockをthird-lineを越えるところまで押し出せば6点取れるので, 試合に勝ちたければ基本はBlock押しが大事である.
特にこのT3で相手より3点以上の差をつけることができれば, 次のSingles Match (R2) やその後のTeam Match (T4) で相手方に心理的に優位に立てる. つまり, もし3点の差があれば, Singles Matchで相手に負けたとしても2点差でT4を開始でき, またその負けによってfar-sideでhead-start advantageを取られることにより, Blockをfirst-lineまで押されることは覚悟するとしても, そこまでで持ちこたえれば1点を取られるだけで済み, 1点差で逃げ切れる, という算段が立つからだ.
そのためSapphireのKeiko-squadもGarnetのHarimou-squadも, FAS (Flag Attacker Squad)であるのに, Flag Triggered ResetやFlag Triggered Advanceを積極的に狙いに行かず, 両sideのBPS (Block Pusher Squad) を守ることを優先し, BPSの全員がBlock押しに集中できるよう敵をなぎ払うことに努めた.
双方のFASがそうした動きを見せたことで, FDS (Flag Defender Squad) も, 相手方のFASが自陣のFlagを目がけて果敢に襲ってくる可能性は低いと見て, 自らが守るべきFlagから離れて少しずつ前方に進出した.
そしてKassenの試合では珍しく, 双方のCaptainが“central area” (Center-lineを挟んで一方のfirst-lineから他方のfirst-lineまでの28メートルの幅) までmech-horseを進めた.
この時, 双方のFASやFDSが両sideのBPSを支援しようと左右に戦力を分けていたため, 自陣のFlag standからそのまままっすぐmech-horseを歩ませてきた両teamのCaptainが, それぞれの陣の“M1-point” (Middle-lineとfirst-lineの交点) で, 前を遮るFighterが数人しかいない状態で対面するという異例なことが起きた.
“これは何かの罠か?”
マリンブルーのOutfitsをまとい, helmetにはカモメが羽を広げた姿の金色のcrestを施したSapphire WestのCaptain Soaを正面に見据えたDonは, 目を見開き警戒した.
“Donさん. これは罠よ. まともに戦えない私が, あなたと真っ向勝負するはずはないでしょ.”
朱色のOutfitsをまとい, helmetには2つの炎が燃え盛る形の金色のcrestを施したGarnet EastのCaptain Donを同じく正面に見据えたSoaは, 不気味な笑みを見せていた.
Scene 3.12.5:
Soaは, Hanasakaに来るまでは, ある国の軍隊の一員であった. ユーラシア大陸の東方で起きた戦争での最前線で, 彼女は, ある丘陵を守る小隊を率いる“Captain” (士官の等級の1つ) を務めていた.
その戦争は双方とも大国の支援を受けておこなわれ2年以上の膠着状態が続き, 世界からは関心が薄れ, 前線の兵士の士気は下がる一方だった.
そんな中, ある雨降りの真夜中に, 敵がSoaの部隊を急襲した. まず敵のドローン10機が爆薬を積んで突っ込み, それに合わせて, 丘のふもと近くまでひそかに忍び寄っていた戦闘員50人ほどが丘の上に徐々に攻め上がってきた.
Soaの部隊はそう簡単にやられる弱さはなかったが, 丘の上の拠点で火災が発生している状態でこのまま戦闘が継続すれば軽視できないほどの犠牲者が出る可能性があった.
そこでSoaたちがいる位置から東に4キロ離れた町に布陣する, より大規模な味方の部隊は, ピンチに陥ったSoaたちを助けるために2つの小隊を向かわせようとしたが, Soaはそれを断った. これは罠だと気づいたからだ.
その町に陣取る味方の部隊は鉄壁さで有名であった. そのため敵は, そこから戦力が分散したのを確認してから, 本命であるその手薄になった部隊を襲おうとしていると考えられたのだ. Soaは自分の小隊の戦力が激しく削られたとしても, 敵の作戦自体を失敗させることを優先させたかった.
しかし結局, その町の部隊は救援のために戦力を分けて, その3分の1をSoaがいる丘のほうに進めさせた. それぐらいの戦力があればSoaたちを急襲してきた敵兵たちを蹴散らしてすぐに戻ってこれると考えたからだ.
案の定, 敵はそれを待っていた. 救援の小隊がSoaのいる丘に十分に近づいてきた時点でドローン100機による突撃を皮切りに敵の本体がその町に襲いかかった.
戦いは悲惨なものになった. 結果的に敵の作戦は失敗に終わったが, その一帯の味方は大きな損害を受けた.
Soaは敵兵から放たれたロケット弾が近くで爆発し, その爆風によって左腕のひじから先を失い, ヘルメット越しであったが飛び散った破片の1つが左の耳付近の頭部に当たり, その衝撃が原因で聴力が大幅に低下した.
気絶して倒れていたSoaを助け出したのは, 救援に駆けつけた小隊の一員だったDonだった. 彼の所属する小隊はこの時点で半分以上が死傷し, 最初に丘の上までたどり着けたのは彼だった.
Donの話しかけによって意識を取り戻したSoaは, “来るなと言ったのに…”と, 弱々しく抗議した. Soaにとっては, これは死ぬかもしれないが負けない戦いなのは分かっていたのだ.
それに対してDonは, “何をおっしゃっているのですか. Captainがこの丘を守ってくださっているから我々は鉄壁なんですよ. あなたあっての我々です.”と反論した. つまり, Captain Soaが近くにいるからこそ, Donのいた部隊は鉄壁なのであり, Soaの存在は自分たちが生き残るうえで不可欠で, 何としてでも守らなければいけないものであった.
Soaは, Castle Officeから特別に許可されて, 試合中も左の“Arm Enhancer”を付けていた. しかしそれはバトルに使ってはいけないという制約を課せられていた. 通常の人間よりも強い腕力や握力を使われるのを封じるためである.
従って彼女は, 右手だけでWeaponsを扱っており, 普通に考えるとそうした人をbattle areaに入れるメンバーに加えることは不利であった.
しかし, Sapphire WestはそれでもSoaをCaptainに据えていた. なぜならbattle areaにいる残りの50人が彼女の存在を必要としていたからである. Captain SoaがFlagを守っているからこそ自分たちは安心して戦えると皆が思っていたからであり, そう思わせる不思議な威厳を彼女は持っていたのである.
そして実際, Donは, これまでSoaだけは直接対戦しようとしなかった. 身を挺してDonたちのいた本隊を守ってくれた“Captain Soa”に対して, 偽物のbladeを持つWeaponsであっても, それを彼女に突きつけることはどうしてもできなかったのも, その一因だ.
ただそれだけでもなかった. やはりSapphire Westの“Captain Soa”は今でも彼にとって不死身に思える存在なのだ. そのため, あと数メートルお互いに接近すれば, Captainどうしのduelが発生し得る状態で, なおかつ明らかにDonが勝ってしまうだろうと思えるのに, Donはためらった.
そのためらいを計算に入れていたSoaは, 近くにいた3人のBow Fighterに合図を送り, Donにarrowを一斉に放たせた.
Donにひるむ隙を与えないほどに惜しみなくarrowが次々と発射される中, さらにfar-sideから俊足を生かして一気にKeikoが走って攻め寄ってきた. Keikoは, Falconの二の舞を避けるべく, Donのspearのリーチに入らないように注意しながら背後に回り, mech-horseに乗ったDonにspearを突き出し, HPを1点減らした.
KeikoのDonへの急襲を見たGarnet側は, 左右のBPSを支援していたFASの中の4人がKeikoに向かって走り出した.
“そいつはおとりだ! 戦力を分散させるな!”
Donは, SapphireがKeikoをおとりにして, 左右のBlockからGarnetのFighterの何人かを引き離し, Garnet側のBlock押しの力を弱める作戦であることを見抜いていた.
4人のFighterたちがDonの指示に従って自分に近づくのをやめたのを見たKeikoは, ニヤリとしてひたすらDonの背後に回り続けて, spearを突き出し続けた. KeikoはDonがそう考えるであろうことも想定していたのだ.
Keikoに後ろを取られないようmech-horseの首をひたすら回転させ続けたDonは, たまらずKeikoに, “待て.”と言って, 攻撃の一時停止を求めてmech-horseから下り, Keikoと真っ向勝負に出ようとした.
だが, 彼がそこから下りてKeikoと対峙したその時, 彼の背後からガツッとspearを突いた者がいた. 振り返ると, mech-horseの上から無表情にDonを見下ろすSoaがいた. しかし次の瞬間, Soaは手綱を持つ左手を引いてmech-horseの首を左に向けてその場を急いで立ち去った. Donが振り返りざまにspearを振り回して打ち払われるおそれがあるからだ.
再びDonが自分の顔を正面に戻すと, そこにはKeikoはいかなった. Captain Donのピンチと見たGarnetのFighterたちが集まってきたから逃げ出したのだ.
“さすがCaptain Soa. やはり罠だったか… それに, Leader Keiko. First-halfより気持ちが乗っているようだ.”
Donは見事に翻弄されたことを素直に認めた. 彼は, KeikoとSoaの一連の攻撃により4点を失っていた.
SoaとKeikoの連係プレイによってGarnetの戦力の一部を中央へ誘い込めたのを機にBlock押しの均衡状態が崩れて, Sapphireの両sideのBPSが優勢となりGarnetの陣にBlockを徐々に押し出し, どちらもfirst-lineを越えた.
Garnet側は劣勢を挽回しようとDonもnear-sideのBlock押しに加勢した. 彼自身, 体格も良く力が強いのでBPSにとっては非常に頼もしく, near-sideではSapphireの押し出しが止まった.
一方, SapphireのSoaは, Garnet側によるFlag Triggered Resetを警戒して, Flag standに戻り, 守りを固めた. また, Keikoのsquadのうち, 比較的体重が重い者はBlock押しの支援をし, Keikoを含め, 体重の軽い者とBow Fighterは, Blockを前方に10メートル進められるFlag Triggered Advanceを狙いにいった.
しかしGarnet側も体重が軽い者をBlockから離してsecond-lineの辺りで守備を固め, Keikoたちの侵入を拒み, そのまま両者の力が拮抗したまま時間が経過し, 結局, T3は, Sapphire側が両sideでBlockをfirst-lineまで押し上げて2点を取得し, Garnet 2対Sapphire 4で終わった.
Scene 3.12.6:
“本当に, KeikoさんがDonさんに勝つのかね…”
“勝ちますよ. Keikoさんなら.”
Autumn Gamesの最終試合を東側のスタンドから固唾をのんで観戦していた超有名人が2人いた. Topaz Southの“Elegant Lightning”ことEmilioと, Emerald Northの“Emerald Angel”ことChammeiであった.
Season gamesの期間中は, 他のclubのFighterとのコミュニケーションは原則として禁じられているため, 2人はスタンド内の離れた場所にそれぞれ座っていたが, T3とR2 (Singles Match) の間のインターミッションに入って, Nexus Unitを使ってひそかに話し始めた. もちろん周りに聞こえるぐらいの声を出して話をするわけにはいかないので, 片手で口を軽く覆ってマイクの感度を上げてささやき声で通話した.
“相変わらず, Keikoさんびいきだねぇ. 彼女に対する気持ちの半分でもいいから, ぼくのほうに向けてほしいよ.”
“Emilioさんとは友達の関係だけです.”
機会があれば男女のお付き合いに格上げしたいと常に望んでいるEmilioに対し, Chammeiは, 駅やエスカレーターでよく流れている注意喚起のアナウンスのように機械的に互いの立ち位置を再確認させた.
“やれやれ… それで, 次のSingles Match, どうしてKeikoさんが勝つと思うんだい?”
“T3のKeikoさん, なんとなく力みが取れて, 本来の軽やかさが戻ったような気がします.”
Emilioは, Chammeiほど注意深くKeikoを見ていたわけではなかったので, “そうかな?”と言って, 彼女の分析をもう少し詳しく聞き出そうとした.
“なんとなくですけど…”
Chammeiの回答はあいまいで満足できないものであったためEmilioは, “Keikoさんは, 今日は最初からいいプレイをしていると思う. 時々, 曲芸のようなこともしながら, team全体のために他人と連係しながらちゃんと仕事をしていると思う. でも, だからと言ってDonさんに勝てるほどのすごみは感じないけどなぁ…”と, 彼の分析を披露した.
ChammeiもEmilioの考えに異存はなかった. しかしT3が終わってFighterたちがbattle areaの西側にあるloungeに戻りつつある時, Keikoは東側のスタンドのほうに振り向いて, 少し歯を見せて軽く手を振った. First-halfのTeam Matchではうつむきながらとぼとぼと戻っていったのとは対照的だったことから, Chammeiは, second-halfに入って何かが吹っ切れたのではないかと考えた.
“Emilioさん, いつも言っているでしょ. Kassenは楽しんでやるものだと.”
“あぁ, そうだね.”
“Keikoさん, first-halfは暗い表情で楽しんでいないようでした. でも, このT3は笑顔を時々見せていたんですよね… 戦いの場で見せる彼女の笑顔は, 最も恐ろしいです.”
Chapter 3.13: Sapphire Comet vs. the King of Flame
Overview (Spoiler-Free)
The Autumn Games’ most anticipated moment arrives: Keiko faces Captain Don in a Singles Match that will determine Hanasaka’s strongest Fighter. Watched by teammates, rivals, and a hidden Kasga herself, Keiko enters the rain-soaked arena battered and determined. Don shows no mercy, and the gap in raw power between them is undeniable — yet Keiko refuses to yield, and the match delivers one of the most unforgettable duels in Kassen history.
Detailed Summary
As rain falls on the open arena, Keiko and Don face off in a Singles Match both have prepared their entire season for. Don fights without restraint, landing crushing blows to Keiko's left side that leave her barely able to stand. When the umpire tries to stop the match on safety grounds, Keiko refuses, drawing her spear one-handed and pressing on. With fifteen seconds left and the score against her, Keiko feigns total helplessness — stumbling, flailing — until Don lowers his guard and steps closer. In the final second, she drives a full-speed spear thrust into his unprotected Front Torso, securing a win by three points. After the match, as Keiko is stretchered off and treated for multiple injuries, Don sits beside her and admits she is the strongest Fighter he has faced. He also addresses a long-standing wound: Kagero's career-ending accident was unintentional, and he has never stopped feeling responsible. Keiko accepts his words with composure, and extends her right hand toward him. Don takes it quietly and holds it with a gentle smile.Scene 3.13.1:
“Representative Match 2. Garnet East, Captain Don. そしてSapphire West, Leader Keiko. Mech-horseなし. 使用するWeapons, spearとsword.”
Kassenの”Apex Fighter”の称号を持つ者と, その称号を受け継ごうと挑戦する者がcenter-circleの中で対峙するのを前にして, umpireのmech-giraffeが高らかに両者の名前と対戦方法を告知した. 制限時間は5分. このAutumn Gamesで最も注目すべき時間がいよいよ始まる.
Second-halfの最初のTeam Match (T3) とその後におこなわれる予定のSingles Match (R2) の間のインターミッションに入った時から, それほど強くはないが, 雨がパラパラと降り出した.
いつもであればこういう場合はためらいなくArenaのPetalを閉じてしまって雨粒の侵入を防ぐが, 今日は電力の使用制限のために照明が暗く, しかも当初の想定では甘かったのか, 25%どころか50%近く照度を落としていたため, 雨天であっても外の明るさを求めて, 解放されたままだった. そのため, Hanasakaでの試合では非常に珍しいが, 2人は雨粒が落ちる中で戦うこととなった.
DonとKeikoは軽くおじぎをしたものの, あいさつの言葉はかけなかった. Donのほうは何かを言おうと口を開いたが, Keikoは何度か深く呼吸をして精神を集中させようとしていたため, お互いに無言のままでumpireが笛を吹くのを待っていた.
Teamの仲間もloungeでベンチに座りながら見ている者はなく, 皆, fieldに出て, battle areaの真ん中を見つめていた. スタンドの観客も, 一瞬でも見逃すまいと前のめりになって, 2人のFighterに声援を送っていた.
“Keikoさん. がんばって.”
Chammeiは, 何とか話を長く引っ張ろうとするEmilioとの密談を一方的に終えて, 髪の毛がこれ以上濡れないように帽子をカバンから取り出してかぶり, 胸の前で手を合わせた.
“Keiko. 負けんなよ.”
Kageroは, “Nemophila”の店内で従業員のみんなと一緒に, 壁に設置された大型スクリーンに試合の実況放送を映して応援していた.
“Keikoさん. Half-timeでEISの人から何を聞いたか知らないけど, どうやらそれでブーストがかかったようね.”
Captain Soaは, half-time中にFalconとEISのスタッフ2人が話をしているところにKeikoもいたのをloungeから見えていた. そしてT3では, Keikoの表情から硬さが取れて, 不気味さを誘う笑みを見せるようになったのも認識していた. それゆえ, フフッとほくそ笑んだ. ついにKeikoがDonを倒す瞬間がやってくる予感がしたのだ.
“いける. Keikoさん. 勝利の女神’Nike’はあなたにほほ笑む.”
“Keiちゃん. 私に最強のFighterだと認めてもらうために戦う必要なんてほんとはないのよ. 私にとっては, Keiちゃんはすでに最強なのよ. 絶対一生私を守るって言ってくれたでしょ. その優しさで十分. だから今日は, Keiちゃん自身のために戦ってほしい.”
Hanasaka Castleの地下深くのシェルターで身を隠しているKasgaは独り, 薄暗い部屋の中でsmart gogglesを装着して, Arenaの東側スタンドの特等席に自分がいる場合に, 自分の頭の向きに応じて得られる視覚情報をリアルタイムにAR viewに出して見ていた. ゆっくり落ち着いていすに座って見てられず, 立ち上がって画面を凝視していた.
Kasgaは, KeikoがKasgaを守るためにはApex Fighterになることが前提だと考えて, 身体を痛めながら戦っていることを知っていたし, 心配していた. そのため, 自分の身を守ってくれるFighterを選ぶとすれば, Apex Fighterの称号を持っていることよりも, 彼女を守るためにApex Fighterでありたいと思う意志を持っていることを重視しているとKeikoに言いたかった.
しかし, すべてのFighterたちを見守るべき立場にあるKasgaがKeikoに対し, Apex Fighterを目指す必要はないとは言えない. そこが彼女の苦しいところであった.
Scene 3.13.2:
“雨か… うっとうしいなぁ.”
“Four Star Spear”を両手で握りしめて中段の構えをとったKeikoは, smart gogglesにポツポツと雨粒が当たるのを感じながら, しばらく物思いにふけっていた. 目の前には, 自分より30センチ以上高く, 40キロ以上重たく, 倍以上の筋肉を持つであろう, がたいのいい大男が, 同じくspearを中段に構えて, こちらをにらんでいるのが見えた.
“そうや… ウチは, Akiくんに見てほしかったんや.”
Keikoの脳裏に, あの日のケンカが浮かび上がった. 小雨が降る, 小学校の校舎の裏. 4人の意地悪な男子生徒. 対するは, 毅然とファイティング・ポーズをとるKeiko独り.
“あの時みたいにウチは負けたりせぇへんし, Akiくんにあんなひどいことするやつらをウチはボコボコにできるってことを, 見せたかったんや.”
Captain Donは, 弱い者いじめをするような卑怯者では決してなく, 良き指導者として尊敬されている人物だった.
しかし, Keikoがまだ勝ったことがない強者であった. つまり, 負けたことしかない対戦相手であった. 従って, 悔しい思いしかないという意味では, あのときのケンカの相手と同じであった. そう思い至ったKeikoは, 体の中から闘志が湧いてきて体が熱くなってきたのを感じた.
“Donさんには悪いけど, ウチは, ここで恨みを晴らす!”
Umpireが笛を鳴らし, 2人のSpear Fighterが互いに正対の位置をとってにらみ合いが始まった.
“いつでもかかって来い.”
Donが挑発したが, Keikoは何も返事せず, 構えたspear-headを正確に相手の“Front Torso”に向けたまま, 左に行ったり右に行ったり, 素早く動き続けて, 相手に隙が生じるのを待ち, 早くそっちからかかって来いよと言いたげな態度をとった.
“生意気なやつだ.”
Keikoの無言のリクエストに応えて, Donがspearを手早く次々と突き出した. Keikoはフットワーク軽くそれをよけつつ, 相手との間合いが狭くなった一瞬を逃がさず, “今や!” と思った時に一突きを入れようとした. しかしDonも想像以上に機敏で, かすりさえしない.
“早すぎる.”
焦ったKeikoは, 今度は積極的に攻める側に転じたが, DonはKeikoのspear運びを予想しているかのように素早くよけ, 振り払っていった. そしてKeikoの突いたspearがDonの左に思ったより大きくそれてしまった時を捉えて, Donは, 先ほどのFalconと同じく手加減なしにKeikoの左腰に水平打ちをぶちかました. Keikoは右のほうに吹っ飛んで地面に倒れこんでしまった.
皆, 息をのんだ. 勝負あったか… 実際, Keikoの体は強烈なダメージを食らってしまった. おまけに, Torsoの側面よりやや前方にspearのbladeが当たったためspecial deductionとして5点取られた.
Umpireが笛を吹き時間を止め, Keikoに近寄った. しかし彼女は, 近づくなと手で合図し, 歯を食いしばって立ち上がった.
“悪く思うなよ. Fieldにいる以上, 女だからといって容赦はせんからな.”
“遠慮なんか要りません.”
実際, 彼女は女だからと手加減されるのが嫌いであった. だから, Donが容赦なく攻めてくるのはむしろうれしいことであり, 彼女の闘争心をますますかき立てた.
とはいえ, 今のKeikoは, 男であっても担架で運ばれておかしくないぐらいの痛みを抱えているはずであった. Singles Matchの開始から1分半しか経っていない時点で, この強い痛みを我慢しながら戦うのは, 明らかに不利であった.
“打たれる直前にKeikoさんはわずかに体の向きを変えて衝撃を緩和させていた. それ自体も信じられない芸当だけど, 吹っ飛ばされるぐらいだからかなり痛いはずだ. それでもまだ戦えるなんて, 人間とは思えない…”
隣の国の防衛機関から期間限定でSapphire Westに転籍してきたFalconは, 決してやわな男ではなく, 鍛え抜かれた体はためらいなく自慢できる.
しかしどのような世界でも上には上がいる. 紛争の前線で戦ったことのある者が世界中からたくさん集まってきている, このKassen communityで強そうなFighterと知り合いになって様々なことを学ぼうと思ってHanasakaにやってきたFalconにとって, 今, fieldの上で戦っている, 自分より小柄で筋肉量も少ない女性は, teammateになって2年経ってもいまだに驚かされることの多い師匠であった.
Umpireが再び笛を吹き, 対戦が再開された.
“力で押しても無駄だぞ!”
Keikoも分かっていた. このAutumn Gamesでは今までよりも段違いでパワーを使って戦ってきたが, 体がボロボロになってしまった. そのため最終試合だけは, いつものバトル・スタイルに戻すことにして, 試合前も無理な練習をせず, 筋肉の修復に努め, 今日も, 力でゴリ押しするようなことは控えていた.
それに, Donのパワーが相変わらず健在で, 到底, 力勝負ではかなわないのは明らかだった. そうであれば, Keikoの持ち味であるすばしっこさで動き回り一撃必殺でいくしかない. だが, 先ほどのDonの強打で, 体全体に本来の力が入らないだけでなく, 自分の思う速さで体が動いてくれない状態に陥っていた.
“やばい… スピードで勝負やって思うたけど…”
Keikoはspearを捨ててswordを抜いた. 接近戦に持っていって勝負をつける端緒を見つけようとしたからだ. Donも応じてspearを投げ捨てswordを手にし, 両者, swordを構えたまま出方を探り合い, にらみ合いが続いた. 外面上はswordを持って立っているだけに見えるが, Keikoは, これまでのDonの動きを頭の中で再生し, 冷静に分析していた.
この試合中, SapphireのRanked Fighterの何人かは, Donに対してmech-horseから下りてduelするよう求め, HPをすべて失う覚悟で挑んだことで, 貴重なデータをKeikoに提供していた. それは, Donが力を込めて動作をしたときに, その動きが大きすぎて体勢がよろける場面があるということだった.
Keiko自身もこの2分余りの間で, それを認識した時が何回かあった. DonもFoot Enhancersを使って戦っていたが, 力がありすぎるがゆえに自分のフットワークを制御しきれていないのだ.
“ラインぎわでやってみるか…”
Keikoは先ほどの一撃による左脇腹の痛みで, swordを握る左手に力がしっかり入っていなかった. そしてKeikoがswordを持つ手の位置を少し下げたところ, Donはそれを見逃さず, swordを振ったり突いたりしながら攻めかかってきた.
Keikoはそれをかわしながらcenter-circleの縁のぎりぎりのところで足を止めた. Donが, さらに踏み込んでswordを振り下ろしてきたところで, Keikoは, Donの右足のすぐ右横の地面に向かって飛び込み, 前転して受け身をとってさっと起き上がり, 背後からswordを握る右手に左手を添えて両手で彼の腰を突き押した.
これはギリギリ反則ではない行為である. Kassenの規則では体当たりをすることは禁じられているが, Weaponsを持つ手が相手の体に当たることは許されている. Donは, 危ないと思って体を反転させようとしたが, 前へ進もうとする力を抑えきれずにcenter-circleの外に足を出てしまった.
これでDonも5点の減点を取られた. Singles Matchでは, center-circle内で戦わなければならず, 外に出てしまうと反則となりHPを5点引かれる. これで双方の持ち点は15点となった. スタンドからは, Keikoらしい軽やかで鮮やかなプレイに拍手が沸き起こった.
“計算していたな.”
King of Flameの闘志に火がついた. 再び, 両者がcenter-lineを挟んで立って戦いが再開されるや否や, Donは今まで以上にKeikoを攻め立てた. Keikoは体をひねってDonの勢いを外側にそらそうとするが, あまりの強さと速さで体がついていけず, 右のArm-guardを軽く叩かれた後, 左肩を強烈に打たれ, その衝撃で足元がふらつき, 後ろに倒れてしまった.
左肩への一撃は幸いTorsoには当たっておらず, その前のArm-guardによる1点の減点で, Keikoの持ち点は14点となった.
“今のは, かなり痛かったはずだ. Donさん, よくやるなぁ…”
Keikoに右肩を思いっ切り叩かれて痛い目に遭ったことのあるTopazのEmilioは, 自分が仮にDonと同じぐらいの力があったとしても, 自分より力が弱いのは明らかな相手に対して, スポーツだからといっても, ここまで明確に力の行使ができるのか考えてしまった.
“やっぱり, Donさんには勝てないかな…”
このSingles Matchは, Chammeiが期待したほどの戦果なく, このままKeikoが負けてしまう可能性が高いとEmilioは思い始めていた. しかし, そう断じるのは早計かもしれないとも考えていた. 少なくとも彼女はまだ負けを認めてはいなかったからだ.
“どうした, Kageroの妹. 兄貴には到底及ばんな.”
Keikoが左肩に手を当てたままじっとして苦痛に耐えている様子を見てumpireが笛を吹いて時間を止めようとしたが, Keikoは, umpireをにらみつけてそれを阻止し, swordを右手で握り, 息を切らしながら立ち上がった.
“Kageroの妹って言わんといてください. 私も1人のFighterです.”
“ならば, Leader Keiko. 覚悟しろ!”
Donの猛攻が再開された. 体全体が自分の意思と力でしっかり制御できない状態に陥っているKeikoはそれでもなんとか防戦した. しかし, 必死の思いで30秒ほど耐えたところで, 彼のswordが左のArm-guardに思いっ切り振り下ろされ, とどめの破壊的なダメージを加えられてしまった. Spring GamesのEmerald Northとの試合でChammeiに加えた一撃を今度は自分が味わうことになった.
Keikoは痛さのあまり, まず左ひざを地につけ, 次に体の左側面から地面にどさっと倒れこんだ.
“Keikoさん!”
思わずChammeiは声を上げた.
“ダメよ. これ以上の戦闘は無理よ. もうやめて…”
誰の目で見ても, Keikoの体はいよいよ限界に来ていると思われた. ここで彼女がswordを手から離してギヴアップを宣言しても, 誰も文句は言わないだろうし, よくぞここまで戦ったとみんながたたえるだろうと思われた.
しかしChammeiは, Fighter Keikoの恐ろしさも理解していた.
ここでkeikoが負けを認めても彼女に対する評価は全く傷つかないにもかかわらず, しかもこのままではKeikoは割に合わないほどの身体的ダメージを被ることになるにもかかわらず, それでも彼女の体から, 見えない闘志のオーラがまだ出ているのをChammeiは感じ取れた.
“Keikoさん, まだ終わりじゃないのね…”
Keikoが肉体的にバトルの継続が困難な状況になっているのは, 機械の目で見ても明らかであったため, さすがに今度はumpireが笛を吹いて時間を止め, “Keikoさん. これ以上は危険です. Umpireの権限で中止を命じます.”と訴えた.
しかし彼女はまだswordを手から離していなかった. そして, 中止などされてたまるかと, 苦しく呼吸をしながらよろよろ立ち上がり, 右手でswordを持ち上げ, ファイティング・ポーズをとった.
観客から大きな拍手が起こり, 彼女の意思を尊重するようumpireに求める声が上がった. こうなるとumpireも中止を宣言するのをためらい, 再開の笛を鳴らしてしまった.
虚勢は張ったがKeikoは, もはや左手はswordのgripをつかむ握力がほとんどなく, 左腰と左肩にも痛みを抱え, 立っているのもやっとの状態であった.
ただ, Donは情け容赦なく打ち込んできたが, それは体の左半分に偏っていた. Keikoの利き手である右手と体の右半分は使える状態にして, 完全にバトルが不可能な状態に至らないように配慮はしていたのだ.
残りあと1分. KeikoはこのSingles Matchの開始から7点減らしているが, Donは5点だけである. このままにらみ合いを続けて時間切れになれば, 減点の多いKeikoが負ける.
“このまま負けたら, あの時と同じや… それは…, それだけは嫌…”
がんばったけど力負けしたという結果を, 彼女は絶対受け入れるつもりはなかった.
Donは, Keikoの自分に対するにらみがますます強烈になっているのにたじろいだ.
“こいつ, あきらめるどころか, 今からおまえを殺すぞっていう目をしてやがる.”
Keikoは, 足元に捨て置かれていたspearを拾い上げて右手で持ち, swordはscabbardに収めた. 左手を添えずに右手だけでspearのgripを握っているので, どうしてもspear-headはふらつき, 明らかに頼りない構えである. Donとしては, こんな状態で自分にspear-headを向けられても, swordで簡単に払い落とせるため, このままswordで戦うことにした.
両者はしばらくにらみ合った. さすがのKing of FlameもそんなボロボロのFighterにさらに攻撃を加えにくかった. まるで一方的にいじめているかのように見えるからだ.
それに, 戦わずに時間を経過させることは, “故意に消極的で時間稼ぎのプレイ”とみなされない限り, Donに有利に働く. 一方のKeikoは, そもそも体がほとんど動かない.
残り時間30秒になり, 周りからカウントダウンの声が聞こえた.
“へへっ.”
この時点でKeikoは, 目をギラギラさせてあの必殺の不気味なスマイルを見せた. 一番驚いたのは対戦相手のDonだった. なぜ笑っているのか, 全く理解できないからだ. この期に及んでまだ勝利を確信しているからなのか, 勝負を越えてバトルを楽しんでいるからなのか, 彼女の心が読めなかった.
Keikoは, 足元がふらつきながら, 右手だけで持ったspearを弱々しく突いたり払ったりして, Donに攻めかかった. といってもそれは全く無力な攻撃だった. フラフラとぶざまな舞をしているといったほうが正しかった. そのためDonは, swordで受けたり払ったりする必要もなく, 落ち着いて足の動きと体の向きを変えながら, 簡単によけ続けた.
いつものような切れや軽やかさはかけらもなく, Abilioに最強のFighterと称賛されたFighterとは思えないような, 見ているのがつらくなるぐらいの彼女の最後の抵抗に, 観客たちは不安と興奮が交錯する複雑な感情を抱いた.
最後の瞬間まであきらめない姿勢を見せ, 周りから大きな声援を受けたKeikoは, よろけながらspearを振り続けたが, 残り15秒の時点で, 力尽きたのか, spearを握ったまま前に転倒した.
だがすぐに顔を起こし, 何とか右脚を立てて, 再び立ち上がろうとしたが, それ以上に体を起こす力がもはや残っていなかったのか, 彼女は息を切らせながらうつむいたままそこで固まってしまった.
“動けない…”
Keikoは, か弱くつぶやいた.
残り5秒. 勝負は決まったと思って, DonがKeikoのもとに近づいてきた.
“大丈夫か?”
Donがそう言い終わるのを待たずして, Keikoは右手に持っていたspearを, 先ほどの動きとはまるで違って, 目にも止まらぬ速さで, 油断して無防備になっているDonのTorsoの前面に突き出した.
タイム・アップ.
“卑怯ですみません.”
Spearを引き戻したKeikoは, 顔を上げずにDonに謝った.
Donは何が起こったのか即座に理解できなかったが, 彼は残り時間1秒の時点で, KeikoにFront Torsoを突かれてspecial deductionをくらった. そのためこのSingles Matchは, KeikoのHPが13点であるのに対し, Donは10点となり, Keikoが勝ったのだ.
Keikoは, 最後まで戦う姿を見せて人々を感動させたかったわけではなかった. 時間切れになるギリギリのタイミングで“一撃必殺”をするつもりでいた. そのために, 手に持つものをswordからリーチの長いspearに切り替えた. そして, そのspearで戦える力はもはや残っていないと思わせる演技をしていたのだ.
“油断したおれの負けだ. 謝る必要はない. おれを倒せて良かったな.”
Donは腰を下ろして, Keikoの右肩を軽くたたき, 彼女の勝利を認めた.
駆けつけたmedicのスタッフによって, 立ち上がることができないKeikoが担架に乗せられ, その場で, helmet, Torso, shoulder protectorそしてArm-guardを外され, Donに打たれた左肩, 左腰, 左手首にアイシングの応急手当てを受けている間, Donは, 自分がボコボコにした相手がcenter-circleから運び出されるまでは自分もそばにいて声をかけ続けようと思い, helmetを脱いで, “悪かったな.”と, Keikoに力を行使しすぎたことを謝った.
“Donさんこそ, 謝らなんといてください. 思う存分, 戦えて良かったです.”
Keikoとしては, 力では明らかに彼より劣る自分に対して, 本気になって戦ってくれたことを感謝したいぐらいだった.
“そうか… おれも, おまえほど強いやつはいないと分かって良かった.”
“ありがとうございます.”
いつか倒すべき相手として目標としてきた最強のFighterのDonにそう言ってもらえて, Keikoは素直に喜び, 白い歯を見せた.
Donもお世辞で褒めたわけではなかった. 相手を欺いたり意表を突いたりするのは, 戦いにおいては, 自分の被害を抑えたり相手の被害を拡大させたりするためには当然おこなうべきことであり, Keikoはその点では高く評価すべき巧者だと認めていた. それをこのSingles MatchでDonは改めて確認でき, 実際, それによって自分は負けてしまったのであり, それは彼から見れば“強いやつ”なのだ.
“でも, さっき, おまえのことを, Kageroの妹って言ったことは謝っておく.”
“気にせんといてください. 事実ですから.”
“そうだな.”
Donは, そう言って腰に手を当てて軽く笑った.
“それなら1つだけ伝えておきたいんだが, あの時…, Kageroがおれの馬に踏まれた時, あいつは仲間のために捨て身になっておれの行く手を防ごうとした. しかしそれは馬にとっては想定外の動きだった. おれの不注意だと言う人たちも少なくなかったけど, あれは不慮の事故だ. そのことだけは信じてほしい. だからといって開き直ってるわけじゃない. あぁいう結果になってKageroにはほんとに申し訳ないと思っているし, おまえにもいろいろ迷惑をかけただろうから, すまないと思っている.”
Keikoは, こんなところでそんな重い話をされるとは思っていなかったが, 決して, 悪い気持ちはしなかった. ある意味, こういう非日常的なシチュエーションだからこそ聞けたのかもしれないと彼女は思った.
“ありがとうございます. Kassenに事故は付き物ですから.”
Keikoは口元を少し緩めて落ち着いて答えた.
“そう言ってくれるとおれも助かる. あいつはおれのことをどう思ってるか知らんが, あいつとは名勝負をたくさんしてきたから, 今でも‘battle friend’だと思っている. その思いをおまえに伝えておきたかった.”
“分かりました. 兄も喜ぶと思います.”
Keikoはそう言って担架に横になった姿勢のままで右手を上に差し伸べた. Donは, その手をさっとつかみ取り, がっちり握った. その時のDonは珍しく静かに優しく笑っていた.